法務とAIのリスク

社内ルールと生成AIの法務リスク

― 個人情報の扱いは“絶対NG”の視点から ―

生成AI、特にChatGPTのような対話型AIの登場により、法務やバックオフィス業務でも効率化の可能性が広がっています。

しかしその一方で、社内ルールの逸脱や情報漏洩のリスクが見過ごされがちです。

今回は、法務の立場から生成AI利用に関わる社内規則と法的リスクについて、特に「個人情報の取り扱い」を中心に整理します。


社内規則に利用制限がある場合は「その範囲内」で

まず前提として、社内で生成AIの利用が制限されている場合には、明確に定められたルールの範囲内でのみ使用する必要があります。

たとえば以下のような規定がある企業も増えています。

  • 「ChatGPT等の外部AIサービスの業務利用を禁止」
  • 「個人情報・機密情報を含む内容の入力を禁止」
  • 「業務利用には情報セキュリティ部門の事前承認を要する」

これらのルールに違反してAIを使用した場合、懲戒処分や事故時の責任追及を受ける可能性もあります。

“便利そうだから使った”では済まされません。
社内規定を無視したAI利用は、明確なリスク行為です。


個人情報の入力は“別格のリスク”

特に注意すべきは個人情報の入力です。
これは、通常の機密情報よりもはるかに重大な法的リスクを含んでいます。

◼️ 個人情報保護法違反の可能性

生成AIに社名や顧客名、担当者の氏名などを入力する行為は、
本人の同意なく第三者提供(しかも国外含む)に該当するおそれがあります。

たとえAIが内容を記憶しない仕様であっても、送信自体が違法となる可能性があるため、
「どうせ消えるから」「社内でしか見ないから」は通用しません。

◼️ 再識別リスクにも要注意

たとえば、「○○部の△△課長」「横浜拠点のA社案件に関与」など、
単独では個人を特定できない情報も、組み合わせによって個人が特定されるリスクがあります。

これも広義の個人情報に含まれ、扱いに細心の注意が必要です。

◼️ 社内処分・行政対応のリスクも

個人情報を誤ってAIに入力し、それが問題になった場合には、

  • 就業規則に基づく懲戒処分
  • 個人情報保護委員会への事故報告義務
  • 社会的信用の失墜とレピュテーションリスク

といった影響も避けられません。


AI出力内容の誤用にも注意

生成AIが出力した情報は、事実と異なる場合があります。
特に以下のようなケースでは慎重さが求められます。

  • 契約書の条文案が実務的・法的に不適切である
  • 古い法制度や誤訳に基づいた誤情報が含まれている
  • 条件や背景事情に合致しない汎用的アドバイス

このような出力をそのまま社内文書や対外資料に転用する行為は、
重大なトラブルや責任問題につながりかねません。


法務部門に求められる対応

生成AIの社内利用が広がるなかで、法務が果たすべき役割は以下のとおりです。

  • AI利用ガイドラインの策定(利用範囲・禁止事項・承認フロー)
  • 研修・周知活動の実施(具体例を交えた啓発)
  • 個別の業務でのレビューと助言

とくに重要なのは、「禁止するだけではなく、どう使えばよいか」を併せて示すこと。
現場との対話を通じて、安全かつ実用的な運用ルールを構築することが求められます。


まとめ:法務は“AI活用の交通整理役”として

生成AIの利用は、法務を敵視するものではありません
むしろ、適切なルールのもとで活用すれば、法務自身の業務にも恩恵があります。

しかし、「どこまでが許容範囲なのか」「何を絶対にやってはいけないのか」については、
社内で明文化され、定期的に更新されていくべき課題です。

特に、個人情報の入力は絶対にNGという点だけは、例外なく共通認識として根付かせる必要があります。

法務部門は“ブレーキ役”であると同時に、“ナビゲーター”でもあります。
リスクを正しく理解し、安全にAIを使い倒すための環境づくりが求められています。

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