訴訟対応における生成AI活用の最前線

想定問答作成・主張整理・証拠洗い出しなど、訴訟対応の「準備段階」で生成AIを安全に使うための実務ポイントを整理しました。

生成AIは訴訟対応の現場で「考えるための叩き台」や「視点の補完」として有効です。ただし、事実確認や最終的な法的判断は必ず人間(弁護士・法務)が担う必要があります。本記事では、実務で使える場面、注意点、限界と法務部のスタンスを整理します。

1. 実務で役立つAI活用シーン

訴訟準備の“初動”において、生成AIは次のような用途で役立ちます。

  • 想定問答(反論・裁判所の想定着眼点)の作成
  • 主張・反論の骨子整理(事案の時系列→論点アウトライン化)
  • 証拠リストの初期案出し(契約・メール・メモのどれを使うかの候補抽出)
  • 初期調査としての裁判例・論点サマリ作成

実務ヒント:AIには「期待する出力の型」を明示(例:「反論点を3つ、根拠条文を示して」)すると実務性が高まります。

参考:訴訟向けの多段階プロンプト設計や実務テンプレについては、より実践的なノウハウ記事(想定問答・6ステップ等)が存在します(関連記事参照)。

詳しい多段階プロンプト設計は、こちらの実践記事を参照してください:企業紛争向けの多段階プロンプト設計(実務手順)

2. 利用上の注意点

訴訟は企業リスクの中でも重大な領域です。AI活用時は以下に注意してください。

• ファクトの正確性:AIの出力は「それっぽく見える」だけで事実確認が必要です。時系列や証拠の照合は人が必ず行うこと。
• 守秘義務の配慮:機密・社外秘・個人情報は入力せず、要約や抽象化してAIに与えるのが必須です。
注意:AIに重要書面そのままを投入する行為はモデル外流出(学習に取り込まれる等)のリスクがあるため、ガイドラインに沿った入力ルールを設けるべきです。

AIと法的リスク(たとえば契約レビューにおける非弁行為の論点など)については、関連の解説記事でも要点整理されています:AI契約レビューと弁護士法論点の整理

3. 訴訟対応におけるAI活用の「限界」

AIは過去データに基づく言語生成ツールであり、以下の点で限界があります。

  • 新奇の事案や専ら事実認定に依存する判断は不得手
  • 裁判官の個別傾向や現場の微妙なニュアンスを読み取る力は限定的
  • 「想像的」だが誤った補助意見(ハルシネーション)を出すことがある

したがって、AIは「補助的なブレインストーミング相手」として割り切り、最終的判断は必ず専門家(弁護士/法務)のレビューを経ること。

4. 法務部として押さえておきたい3つのスタンス

  1. 調査・構想フェーズで積極活用:想定問答や論点整理はAIで効率化。
  2. 草案・社内資料作成で効率化:準備書面や稟議用ドラフトの素案作成に有効。
  3. 最終成果物は人が責任を負う:提出書面や外部提出前の最終チェックは必須。

5. 弁護士との「共通言語」を持つ相棒として

生成AIを使うことで、弁護士への相談前に論点を整理し、会話を効率化できます。例えば準備書面の要点抽出や反論ポイントの洗い出しをAIで先に行えば、弁護士とのやり取りがスムーズになります。

実務TIP:AIに「要点を箇条書きで」「反論されやすいポイントを3つ示して」など、出力形式を指定すると弁護士との共通言語が作りやすくなります。

まとめ:生成AIは訴訟対応で「第二のブレスト相手」として有効。ただし事実確認・最終判断は人の責任で行うことを原則としてください。