フリーランス新法で業務委託契約が激変!
必須対応事項まとめ
はじめに:2024年11月1日、ビジネスが変わった
2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス保護新法)により、業務委託契約の実務は根本的に変化しました。
本記事の結論を先に:
- 口約束やメッセージだけの発注は不可、書面(電磁的方法含む)での明示必須
- 支払期日は「給付受領日から60日以内でできる限り短く」の運用が必須
- 違反時は行政勧告・企業名公表・罰金(上限50万円)等のリスクあり
- 実務上は「2025年8月までに既存契約の順次見直し」を目安とする運用が推奨
第1章:フリーランス新法の全体像
1-1. 法律の基本構造
法は主に「取引の適正化」と「就業環境整備」の2柱で構成され、書面明示・支払期日・禁止行為・就業配慮等を規定します。
【柱1】取引の適正化(公正取引委員会・中小企業庁)
- 書面による取引条件明示義務
- 報酬支払期日の設定(60日ルール)
- 7つの禁止行為の明文化
【柱2】就業環境整備(厚生労働省)
- 育児・介護との両立配慮義務(6か月以上)
- ハラスメント対策の体制整備
- 中途解除時の事前予告・理由開示
1-2. 適用対象の明確化
✅ 対象となる「フリーランス」
- 従業員を使用しない個人事業主
- 代表者のみの一人法人(従業員なし)等
⚠️ 境界事例
- 実質的に指揮命令下にある場合は労働法の適用が検討される
第2章:必須対応事項の詳細解説
【参考】期間要件別・適用義務一覧表
委託期間 | 適用義務 | 法的根拠 |
---|---|---|
すべての期間 | 書面による取引条件明示 | 第3条 |
報酬支払期日設定・期日内支払い | 第4条 | |
ハラスメント対策 | 第25条 | |
募集情報の的確表示 | 第24条 | |
1か月以上 | 7つの禁止行為 | 第5条 |
6か月以上 | 育児・介護配慮義務 | 第26条 |
中途解除の事前予告・理由開示 | 第27条 |
2-1. 【最重要】書面による取引条件明示義務
法的根拠: 第3条第1項
発注の際、直ちに以下の9項目を「書面または電磁的方法」で明示する義務があります。
📋 必須明示事項(9項目)
- 給付の具体的内容(仕様・範囲)
- 報酬の額(総額・税込/税抜の明記)
- 支払期日
- 事業者/フリーランスの名称
- 業務委託をした日
- 役務提供を受ける日/給付受領日
- 給付受領場所/役務提供場所
- (検査がある場合)検査完了日
- (現金以外支払の場合)支払方法
実務上の注意:
- 口頭のみの明示は無効。メールやSNSも電磁的方法として有効だが、9項目が完全に含まれていることを確認すること。
- 発注後に後付けで追加する運用はリスクがあるため避ける。
2-2. 報酬支払期日の設定(60日ルール)
法的根拠: 第4条
基本ルール:
- 給付受領日から60日以内で、できる限り短い期間を支払期日として設定
- 一度決めた期日は確実に守ることが必要
起算点の注意:
- 給付受領日=実際に成果物を受け取った日(検収日とは異なる場合あり)
- 継続的役務提供は各月の役務提供完了日ごとに起算
2-3. 7つの禁止行為
法的根拠: 第5条
⚠️ 重要: 7つの禁止行為規定は、**1か月以上の委託**に適用されます。
① 受領拒否
- フリーランス責めに帰さない納品の受領拒否は不可
② 報酬の減額
- 事後的な一方的減額は禁止(振込手数料等の事後控除にも注意)
③ 返品
- 理由なく返品を求めることはできない
④ 買いたたき
- 市場価格に比して著しく低い報酬の一方的決定はNG
⑤ 購入・利用強制
- 業務と無関係な商品購入等の強制は禁止
⑥ 不当な経済上の利益提供要請
- 委託範囲外の無償労働の強要は不可
⑦ 不当な給付内容変更・やり直し
- 無償での大幅な仕様変更ややり直しの要求は禁止
2-4. 就業環境整備義務
A. 育児・介護配慮義務(第26条)
⚠️ 対象:6か月以上の委託(未満は努力義務)
- 妊婦健診の時間配慮、リモート業務容認、短時間勤務の配慮等
B. ハラスメント対策(第25条)
対象:すべての業務委託
- 相談窓口の設置、研修、迅速な事実確認体制等が求められる
C. 中途解除の事前予告(第27条)
- 6か月以上の場合、30日前予告(書面等)および理由開示義務が発生
D. 募集情報の的確表示(第24条)
- 虚偽や誤解を生む表示は禁止。募集情報の正確性を維持すること。
第3章:下請法との決定的違い
3-1. 適用範囲の比較
項目 | フリーランス新法 | 下請法 |
---|---|---|
発注者の要件 | 資本金制限なし | 資本金1,000万円超が対象 |
受注者の要件 | 従業員なしの個人・一人法人等 | 受注側にも資本金等の要件あり |
適用取引 | 業務委託全般 | 製造等の特定4類型等 |
実務的要点: 両法が同時に適用される場合は、より厳しい側の要件を採るのが安全策です。
第4章:契約書改定の実務対応
4-1. 契約書への必須追加条項
A. 明示事項条項
実務テンプレや条文例は、契約改定の際に即使える雛形を参照すると効率化できます(例:業務委託契約の雛形記事)。
B. 禁止行為対応条項
C. 配慮義務条項
※ 契約雛形をそのまま運用する前に、社内の経理・業務担当とフロー整備(発注→検収→請求→振込)を合わせて更新してください。
第5章:リスク管理と違反時の影響
5-1. 違反時のペナルティ
行政による調査・勧告・命令・企業名公表、命令違反時の罰金(50万円以下)など段階的制裁措置が規定されています。
段階的制裁:
- 調査・指導助言
- 勧告
- 命令・企業名公表
- 罰金(50万円以下)
5-2. 実務上のリスク事例
- 口頭発注をメールで後追い(9項目未記載)
- 振込手数料を事後控除して減額扱いにするケース
- 「ついでに」追加作業を無償で依頼する運用
第6章:実践的対応スケジュール
Phase 1:現状把握(即時)
- 既存フリーランス契約の洗い出し
- 支払期日の60日ルール適合確認
- 発注書/請求書の必須項目確認
Phase 2:契約改定(〜2025年8月目標)
- 契約書ひな形の全面改定
- 発注プロセスの標準化(電磁的方法の記録ルール)
- 社内研修の実施
第7章:業界別対応のポイント
7-1. IT・システム開発
- 仕様変更や検収遅延により「やり直し」や「受領拒否」のリスクが高まる
- 変更管理プロセスと追加費用の合意メカニズムを必須にする
7-2. 広告・クリエイティブ
- 「イメージ違い」を理由とした返品や無償やり直し指示に注意
第8章:ChatGPT等AI活用による効率化
8-1. 契約書チェックでの活用
効果的なプロンプト例(社内での運用)
AI活用の参考記事(契約書レビューの多段階アプローチ)はこちら:
第9章:よくある質問と実務対応
Q1. 既存契約は全て作り直しが必要?
法的には更新時に対応可能ですが、優先順位を設けて速やかにリスクの高い契約から見直すことを推奨します。
Q2. メールでの発注は有効?
電磁的方法として有効です。ただし9項目が完全に明記され、保存されていることが必須です。
Q3. フリーランス本人が書面不要と言った場合は?
法的義務なので当事者の合意で免除はできません。
Q4. 60日ルールは暦日で計算するか?
暦日計算です。金融機関休業日の支払いは翌営業日扱いの運用が実務的です。
まとめ:新時代の業務委託マネジメント
1. 優秀な人材の獲得・定着
- 明確な取引条件は信頼構築に直結します
2. トラブルリスクの削減
- 書面明示・期日管理・ハラスメント対応で紛争予防
3. 業務効率化
- 契約テンプレ+AIで管理コストを低減
本記事は2024年11月施行の法令に基づき作成しています。運用指針の細部や最新ガイドラインは公正取引委員会・厚生労働省の公式情報をご確認ください。
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