【速報】フリーランス法違反で放送・広告業界128事業者に行政指導
——施行1年で勧告6件・指導計441件
公正取引委員会は12月10日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)に違反、または違反のおそれがあるとして、放送業・広告業の128事業者に是正を求める指導を行ったと発表しました。
「うちは大丈夫」と思っていませんか?
2024年11月にフリーランス法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されてから約1年。公正取引委員会の調査により、テレビ局、ラジオ局、広告代理店、制作会社など多くの企業が違反(又は違反のおそれ)として指導・勧告の対象となっています。
この記事では、実際に何が問題だったのか、どうすれば違反を防げたのかを具体的に解説します。発注企業の法務担当者はもちろん、フリーランスとして働く方も「自分の取引は大丈夫か」を確認するためにぜひ最後までお読みください。
※本記事では「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」を便宜上「フリーランス法」と呼びます。
フリーランス法違反の実態——施行1年で441件の指導
まず、公正取引委員会が発表した数字を見てみましょう。
| 項目 | 件数 |
|---|---|
| 勧告(企業名公表を伴う) | 6件 |
| 指導(企業名公表なし) | 441件(令和7年9月まで) |
| 今回の放送・広告業界への指導 | 128事業者 |
勧告を受けた6件には出版大手や結婚相談所大手などが含まれ、企業名が公表されています。一方、今回の128事業者については企業名は公表されていませんが、いずれも是正を求める「指導書」が送付されています。
⚠️ 注意:「指導」でも社内対応は必要
企業名が公表されない「指導」であっても、公正取引委員会からの正式な行政指導です。是正が不十分な場合、勧告(場合により公表)や、命令等の対象となり得ます。命令違反には50万円以下の罰金が科され得ます。
今回の128事業者で何が問題だったのか?——3つの違反類型
公正取引委員会の発表によると、今回の違反は大きく3つのパターンに分類されます。
違反類型①:取引条件の明示義務違反
フリーランス法では、業務委託をする際に以下の事項を書面またはメール等で明示することが義務付けられています。口頭のみの発注は認められません。
公正取引委員会の発表では、以下のような事例が指導対象となりました。
- ラジオ局が番組の制作・出演を委託する際、取引条件を明示した書面を交付していなかった
- 広告会社がウェブサイト制作を委託する際、成果物の受領場所や検査完了日を明示していなかった
- 動画の撮影・編集を委託する際、必要経費を含む報酬総額を明示していなかった
違反類型②:報酬の支払い遅延
フリーランス法では、給付の受領日(成果物を受け取った日や役務提供を受けた日)から60日以内に報酬を支払う義務があります(60日ルール)。
以下のような事例が問題となりました。
- テレビ番組制作会社が撮影・映像編集の報酬を期日より後に支払っていた
- 広告会社が「フリーランスからの請求書提出が遅れた」ことを理由に期日後に支払っていた
- 報酬の具体的な支払期日を設定せず、曖昧なまま取引していた
💡 「請求書提出日基準」「検査合格日基準」は要注意
公正取引委員会の指導事例では、「請求書提出日基準」や「検査合格日基準」で支払期日を組む運用が問題視されています。起算点は「給付の受領日」であることを再確認してください。
違反類型③:禁止行為(買いたたき等)
一定の要件を満たす継続的な業務委託では、受領拒否・減額等の禁止行為(いわゆる”7類型”)が問題になり得ます。今回の調査でも複数の事業者で禁止行為が確認されました。
- テレビ局がコスト上昇にもかかわらず、一方的に報酬額を決定していた(買いたたきのおそれ)
- 広告会社がフリーランスからの報酬引き上げ要請を無視し、従来額に据え置いた(買いたたきのおそれ)
- テレビ局が番組情報誌の原稿作成を依頼した相手に金銭を要求した(不当な経済上の利益提供要請のおそれ)
- ラジオ局が追加作業を行わせたが、費用負担を確認していなかった(不当なやり直しのおそれ)
公取委が公表した「留意点」——これも違反になるおそれ
今回の発表に合わせて、公正取引委員会は発注事業者が守るべき留意点も公表しました。以下の行為も違反に該当するおそれがあります。
| 行為 | 該当するおそれのある禁止行為 |
|---|---|
| 発注後に業務をキャンセルし、準備費用や報酬相当額を支払わない | 不当な給付内容の変更 |
| 銀行振込の手数料をフリーランス側に負担させる | 報酬の減額 |
| 発注前にさかのぼって単価を引き下げる | 報酬の減額 |
⚠️ 振込手数料の負担は「減額」に該当するおそれ
「振込手数料は先方負担」という商慣習がある業界も多いですが、フリーランス法ではこれが「報酬の減額」に該当するおそれがあります。
※現時点で明確な日付ルールはありませんが、下請法(取適法)との整合や実質判断の強化を踏まえると、将来的に振込手数料のフリーランス負担が原則否定される方向へ運用が整理される可能性も否定できません。
なぜ違反が相次ぐのか?——3つの根本原因
原因①:法律の認知度不足
2024年11月施行とはいえ、まだ「フリーランス法」の存在自体を知らない担当者が少なくありません。特に現場レベルでは「いつも通りの発注」が続いているケースが多く見られます。
原因②:「従来の商慣習」への依存
「電話一本で発注」「月末締め・翌々月末払い」「振込手数料は先方負担」——こうした従来の商慣習が、法律施行後も改められていないケースが目立ちます。
原因③:契約書・発注書テンプレートの未整備
法律で求められる明示事項をすべて網羅した契約書・発注書のテンプレートが整備されていないため、現場が「何を書けばいいかわからない」状態になっています。
違反を防ぐために今すぐやるべき5つのこと
📝 企業向けチェックリスト
- フリーランスとの取引があるか洗い出す
- 契約書・発注書テンプレートを法律に適合させる
- 支払いサイトが60日以内か経理部門と確認する(給付受領日起算)
- 「口頭発注」を禁止し、必ず書面化するルールを徹底する
- 担当者向けにフリーランス法の研修を実施する
📝 フリーランス向けチェックリスト
- 発注時に業務内容・報酬額・支払期日が書面で明示されているか確認
- 報酬が60日以内に支払われているか記録をつける
- 一方的な報酬減額や追加作業の要求があれば記録を残す
- 違反のおそれがあれば公正取引委員会やフリーランス・トラブル110番に相談
まとめ:「知らなかった」では済まされない時代に
今回の公正取引委員会の発表は、フリーランス法が「絵に描いた餅」ではなく、実際に運用され、違反(又は違反のおそれ)がある企業には是正を求める行政指導が行われていることを示しています。
施行からわずか1年で441件の指導、6件の勧告(企業名公表)。今後、調査対象は放送・広告業界だけでなく、IT、デザイン、ライティング、コンサルティングなど、フリーランスとの取引が多いあらゆる業界に広がっていくでしょう。
「うちは大丈夫」と思っていても、口頭発注、支払い遅延、振込手数料の負担など、無意識のうちに違反しているおそれは十分にあります。今のうちに取引フローを見直し、法令遵守体制を整えることが、企業の信頼を守る最善の方法です。
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