契約実務

【実務担当者必読】外為法の投資規制を分かりやすく解説 – 知らないでは済まされない事前届出の基礎知識

【実務担当者必読】外為法の投資規制を分かりやすく解説 – 知らないでは済まされない事前届出の基礎知識

【実務担当者必読】外為法の投資規制を分かりやすく解説 – 知らないでは済まされない事前届出の基礎知識

はじめに – なぜ今、外為法が重要なのか

「外為法」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。正式には「外国為替及び外国貿易法」といい、国の安全保障と経済の円滑な運営を守るための重要な法律です。近年、経済安全保障への関心が世界的に高まる中、日本においてもこの法律に基づく投資規制が一層厳格化されています。特に2020年の法改正以降、外国投資家による投資に対する審査体制が強化され、企業の実務担当者にとって無視できない課題となっています。

「うちは純粋な日本企業だから関係ない」と思われるかもしれません。しかし、外国法人の日本子会社も外国投資家として規制を受けるため、実は多くの企業が対象となり得るのです。しかも、違反した場合の影響は深刻です。監督官庁による是正命令や取得株式の処分、事業制限などの行政措置が課され得ます。故意または重大な違反については刑事罰(罰金や懲役等)に問われる可能性もありますが、罰則の内容・程度は違反類型により異なります。具体的な罰則趣旨や適用可能性については法令本文(罰則規定)および事案の事実関係に基づき判断すべきであり、個別案件は専門家にご相談ください。さらに、会社の信用が著しく損なわれることは避けられません。

実際に、社内での情報共有が不十分だったために手続き漏れが発生し、監督官庁から法令違反の指摘を受けた企業も存在します。「知らなかった」「担当部署が違うと思っていた」では済まされないのが外為法の怖さです。だからこそ、実務担当者一人ひとりが基本的な知識を持ち、適切な対応を取ることが求められているのです。

クイックチェック – こんなケースは要注意

まずは、以下のような投資案件に関わる可能性がある場合、外為法の規制対象となる可能性があります。該当する場合は必ず法務部門に相談してください。

ケース 事前届出の必要性 備考
非上場会社の株式取得(投資先が指定業種) 原則として事前届出が必要 1株でも対象。実行後45日以内に実行報告も必要
上場会社の議決権1%以上取得(指定業種) 事前届出が必要 2020年改正で閾値が10%→1%に変更
役員選任への同意 原則として事前届出が必要 例外規定あり(事前届出済で50%超保有の場合等)
金銭貸付(1億円超・負債50%超・1年超) 事前届出が必要な場合あり 親子間融資でも該当する場合あり
指定業種に属さない会社への投資 多くは事後報告または不要 ただし6か月以内に指定業種を営む予定がある場合は事前届出が必要

※詳細は財務省・日本銀行の公式資料をご確認ください

社内での早期判定チェック(案件発生時の確認事項)

投資案件が発生した際に、以下の項目を順に確認してください。一つでも該当する場合は、法務部門に相談が必要です。

1. 投資主体の確認

  • 投資主体は外国法人・非居住者か(日本子会社を含む)? → Yes / No
  • Yesの場合は次へ進む

2. 投資先の業種確認

  • 投資先は指定業種(または直近6か月以内に指定業種を営む予定)か? → Yes / No
  • 指定業種か不明な場合は、法務部門または外部弁護士に照会

3. 投資行為の該当性確認(下記のいずれかに該当するか)

  • 非上場会社の株式・持分取得(1株でも対象) → Yes / No
  • 上場会社で議決権1%以上の取得 → Yes / No
  • 役員選任同意、事業目的変更同意、事業譲渡同意 → Yes / No
  • 金銭貸付(貸付後残高>1億円 AND 負債比率50%超 AND 期間>1年) → Yes / No

4. 法務レビューの実施

  • 「届出必要」と判断された場合:立案段階(早期)→ 契約前(最終)の二段階で法務レビューを実施

5. 期限管理

  • 届出が受理された場合:受理日から原則30日間は実行禁止
  • 実行後は45日以内に実行報告を提出(期限管理必須)
手続きの基本的な流れ 案件発生 ↓ 立案段階で法務部門に相談(第1回目) ↓ 契約書起草前に法務部門に確認(第2回目) ↓ 事前届出の要否判断 ↓ 【届出必要な場合】 投資実行の6か月前から届出可能 ↓ 届出受理(日本銀行経由) ↓ 禁止期間(原則30日、実務上短縮されることが多い) ↓ 審査完了・承認通知 ↓ 投資実行(受理日から6か月以内) ↓ 実行報告(実行日から45日以内)

外為法の投資規制とは – 基本を押さえる

外国投資家の定義 – 意外と広い対象範囲

外為法における「外国投資家」の定義は、一般的なイメージよりもはるかに広範です(外為法第26条第1項)。もちろん、外国法令に基づいて設立された法人(例えば海外の親会社など)や外国に居住する個人が含まれることは想像がつくでしょう。しかし、ここで重要なのは、その日本国内の子会社や孫会社も「外国投資家」として扱われるという点です(同項第3号)。つまり、外国法人の日本子会社が日本国内で別の会社に投資する場合でも、外為法の規制対象となるのです。

また、外国投資家が議決権の50%以上を保有する組合も外国投資家に該当します。この定義の広さを理解していないと、「自社は日本企業だから関係ない」という誤解を生み、手続き漏れにつながる危険性があります。

規制される投資行為 – どんな取引が対象になるのか

外為法が規制する「投資等」の範囲も非常に広範です(外為法第26条第2項、対内直接投資等に関する政令第2条)。まず非上場会社に対する投資の場合、株式や持分の取得は1株であっても規制対象となります。増資への参加や日本法人の新規設立も当然含まれます。さらに、株式の取得だけでなく、役員選任への同意、事業目的の変更への同意、事業譲渡等への同意といった議決権行使も投資等に含まれるため注意が必要です。

上場会社については、指定業種を営む場合に議決権の1%以上を取得する行為が規制対象となります(外為法第27条第1項、対内直接投資等に関する政令第3条)。これは2020年の法改正で従来の10%から大幅に引き下げられたものです。

意外と見落とされがちなのが金銭の貸付です(外為法第26条第2項第9号、対内直接投資等に関する政令第2条第2項第9号)。貸付後の残高が1億円に相当する額を超え、かつ貸付後の残高と外国投資家が所有する当該法人発行の社債の残高の合計が当該法人の負債の額の50%に相当する額を超える、期間1年超の金銭貸付は、事前届出義務が生じます。親会社から日本子会社への融資を行う際には、この点を十分に確認する必要があります。

指定業種とコア業種 – インフラ関連業種は要注意

すべての投資が事前届出の対象になるわけではありません。外為法では、国の安全、公の秩序、公衆の安全、経済の円滑な運営に関わる特定の業種を「指定業種」として定めており、これらの業種を営む企業への投資について事前届出義務を課しています。指定業種は告示で定められており(告示は改訂される場合があるため、最新版は財務省のリストを参照)、インフラ関連(電力業、ガス業、通信業、上水道、鉄道業など)、サイバーセキュリティ関連、武器・航空機関連、原子力関連、感染症医薬品製造業などが含まれます(財務省「対内直接投資等に関する命令第三条第三項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」参照)。

さらに、指定業種の中でも特に安全保障上重要な業種は「コア業種」として別途指定されています(財務省「対内直接投資等に関する命令第三条の二第三項の規定に基づき、財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」参照)。コア業種には、武器、航空機、宇宙、原子力、軍事転用可能な汎用品に関わる全企業のほか、サイバーセキュリティー、電力、ガス、通信、上水道、鉄道、石油の各分野における一部企業が含まれます。コア業種に対する投資は、より厳格な審査と追加的な基準が適用されるため、特に注意が必要です。

インフラ関連業種の多くは指定業種であると同時にコア業種にも該当する場合が多いため、これらの業種を営む非上場会社への投資は、ほぼすべてのケースで事前届出義務が生じると考えてよいでしょう。

事前届出が必要なケース – 具体例で理解する

理論だけでは分かりにくい外為法の規制も、具体的なケースで見ていくと理解が深まります。実務でよく遭遇するパターンを見ていきましょう。

親会社による日本子会社への投資

最も典型的なのが、外国の親会社が日本子会社に増資するケースです。例えば、海外の親会社が通信事業を営む日本子会社に対して増資を行う場合、親会社は外国投資家であり、日本子会社は指定業種(通信業)を営んでいるため、非上場会社の株式取得として事前届出義務が生じます。このケースは比較的分かりやすいため、手続き漏れは少ないでしょう。

日本子会社による孫会社の設立

見落とされがちなのが、日本子会社自身が新会社を設立したり、他社に投資したりするケースです。日本子会社であっても外国投資家に該当するため、新たに半導体製造事業を行う孫会社を設立する場合には事前届出義務が生じます。「日本企業同士の取引だから大丈夫」という思い込みが危険なのです。

役員選任への同意 – 例外規定の理解が重要

親会社が日本子会社の取締役選任議案に同意する場合も、原則として事前届出義務が生じます。ただし、この点については例外規定があり、過去に事前届出を経て実質保有等議決権ベースで50%以上の議決権を取得済みの場合や、持分会社(合同会社など)の場合は手続不要とされています。

ここで注意すべきは、設立時の事前届出を怠っていた場合、後から増資時に事前届出を行ったとしても、この例外規定が適用されない可能性があるという点です。当初から適切な手続きを踏んでおくことの重要性が分かります。

金銭貸付 – 数字の基準を正確に

親会社が日本子会社に対して金銭を貸し付ける場合、以下の要件をすべて満たす場合には事前届出義務が生じます。

  1. 貸付後の残高が1億円に相当する額を超えること
  2. 貸付後の残高と社債残高の合計が、相手企業の負債総額の50%に相当する額を超えること
  3. 貸付期間が1年を超えること

この場合、事前届出だけでなく、実際に貸し付けた日と返済を受けた日から45日以内に実行報告も必要になる点を忘れてはいけません(外為法第55条の5)。

社内での対応体制 – 効果的な管理フローの構築

外為法違反を防ぐためには、法律の知識だけでなく、社内での適切な対応体制を整備することが不可欠です。ここでは、実際に外為法遵守体制を整備している企業の事例を参考にしながら、効果的な管理フローの構築方法をご紹介します。あくまで一つの参考例ですが、これから体制を整備される企業や、既存の体制を見直される企業にとって、ヒントになれば幸いです。

早期段階での法務確認 – 二段階チェックの重要性

外為法対応で最も重要なのは、投資案件の早期段階から法務部門を巻き込むことです。ある企業では、対象となる投資等について、立案段階で法務部門に報告・相談するという体制を整えています。「まだ検討段階だから」と遠慮する必要はなく、むしろ早い段階で相談することで、後から「実は事前届出が必要だった」という事態を避けることができます。

さらに興味深いのは、契約書の文書を起草する前の段階でも、改めて外為法に基づく手続の要否を確認するという二段階のチェック体制を敷いている企業があることです。この二段階チェックには明確な理由があります。立案段階での確認により、そもそも事前届出が必要な案件かどうかを早期に把握できます。一方、契約書起草前の確認は、案件の具体的な条件が固まった段階で、最終的な判断を行うための機会となります。条件が変われば外為法上の評価も変わる可能性があるため、この二重のチェックは非常に合理的です。

もちろん、すべての企業がこのような二段階チェックを導入する必要があるわけではありません。企業の規模や投資案件の頻度、組織体制などに応じて、最適な仕組みを構築することが重要です。ただし、少なくとも「早めに法務に相談する」という文化を根付かせることは、どの企業にとっても有益でしょう。

ポイント:ここで紹介した事例は、あくまで一つの参考例です。企業の規模、事業内容、組織体制、投資案件の頻度などによって、最適な体制は異なります。重要なのは、自社の実情に合った実効性のある仕組みを構築し、継続的に改善していくことです。

事前届出手続きの流れと期間

事前届出が必要と判断された場合、実際にどのような手続きが必要になるのでしょうか。手続きの流れと所要期間を理解しておくことは、投資計画を立てる上で極めて重要です。

届出から投資実行までのスケジュール

事前届出は、投資を実行する日の6か月前から可能です(外為法第27条第1項)。届出受理日から原則として30日間は当該届出に係る投資等の実行が禁止されます(同条第2項)。これを「禁止期間」と呼びます。ただし、審査の運用により短縮が認められる場合もあり、実務上は条件により短縮されることがあります。グリーンフィールド投資(完全子会社の新規設立)などの特定の案件については、より短期間で審査が完了するケースもあります。

とはいえ、案件の内容によっては審査に時間を要することもあり、最長で5か月まで審査期間が延長される可能性があります(同条第3項から第6項)。したがって、余裕を持ったスケジュール設定が不可欠です。特に年末年始や大型連休前、株主総会が集中する時期の前などは届出が集中する傾向にあるため、さらに余裕を持って準備を進める必要があります。詳しくは日本銀行「外為法Q&A(対内直接投資・特定取得編)」を参照してください。

審査が完了すると、日本銀行国際局長名で「本届出に係る行為は●年●月●日から行うことができる」と記載された書類が交付されます。この日付以降、届出受理日から6か月以内であれば投資を実行することができます。逆に言えば、6か月を超えると再度届出が必要になるため、この期間にも注意が必要です。

実行報告の義務

投資を実行した後も手続きは終わりません。株式や持分の取得、金銭の貸付などを実際に行った場合、その行為を行った日から45日以内に日本銀行を経由して財務大臣及び事業所管大臣に実行報告書を提出する必要があります(外為法第55条の5第1項、対内直接投資等に関する命令第6条)。

ここで見落とされがちなのが、事前届出を出して取得した株式を第三者へ譲渡する場合にも実行報告義務が生じるという点です。投資の入口だけでなく、出口においても報告義務があることを忘れないようにしましょう。

事後報告制度 – 見落としがちな落とし穴

事前届出が不要な投資であっても、多くの場合、事後報告が必要になります。この事後報告制度は実務上見落とされがちですが、報告を怠ると外為法違反となるため、十分な注意が必要です。

事後報告が必要となるケース

事前届出の必要な業種を営まない会社への投資であっても、非上場会社の株式取得、上場会社の議決権1%以上の取得、金銭の貸付などを行った場合には、投資等を行った日から45日以内の事後報告が求められます(外為法第55条の5第2項、対内直接投資等に関する命令第6条第2項)。詳細は日本銀行「外為法Q&A」をご参照ください。

ここで重要なのは、投資実行時点では事前届出の必要な業種を営んでいなかった企業が、後から指定業種を営むことになった場合の取扱いです。例えば、指定業種を営まない非上場会社の株式を取得し、事後報告を行ったとします。その後、その会社が通信事業等の指定業種を営むことになる場合、たとえ定款変更が行われなくても、「事業目的の実質的な変更」があったものとして、改めて事前届出義務が生じます。

さらに注意が必要なのは、株式取得から6か月以内に指定業種を営むことを予定している場合です。この場合、当初の株式取得の時点で事前届出義務が生じます。投資実行時点だけでなく、将来の事業展開も見据えた判断が求められるのです。

実務担当者が押さえるべき重要ポイント

外為法対応を確実に行うために、実務担当者が特に注意すべきポイントをまとめます。

早期相談の徹底

外為法対応で最も重要なのは、案件の早期段階から法務部門を巻き込むことです。「このくらいなら大丈夫だろう」という自己判断は危険です。外国法人による日本企業への投資はもちろん、自社が外国投資家に該当する場合の日本企業への投資、新会社の設立、子会社の役員選任への同意、事業目的変更への同意、事業譲渡等への同意、一定額以上の金銭貸付、支店等の設置、M&A案件の検討開始、既存投資先が新たに指定業種を営むことになる場合など、少しでも外為法に関係しそうな案件については、必ず法務部門に相談することが鉄則です。

全社的な意識の共有

外為法対応は特定の部門だけの問題ではありません。投資案件に関わる可能性のあるすべての部門、すべての従業員が基本的な知識を持ち、疑問がある場合には法務部門に報告・相談する文化を醸成することが重要です。「誰かがやっているだろう」という思い込みが最も危険であり、複数の目でチェックする体制を整えることが違反防止の鍵となります。

最新動向 – 2025年の規制強化に向けて

外為法を巡る規制環境は常に変化しています。2025年1月、財務省は外為法に新たな制度を導入する方針を示しました。外国政府と情報提供の契約を結ぶ企業や個人を「特定外国投資家」に指定し、日本の指定業種への投資について事前届出を例外なく義務化する案が関税・外国為替等審議会で示されたのです。

この改正は、経済安全保障への意識の高まりを背景としたものです。現行制度でも、コア業種への投資には原則として事前届出が必要ですが、一定の基準を満たせば免除される仕組みになっています。しかし、外国政府に情報を提供する契約を結んでいる企業については、この免除規定を適用せず、すべての案件について審査を行うことで、情報流出などのリスクを未然に防ぐことを目指しています。

おわりに – 継続的な学習と対応の必要性

外為法の投資規制は、国の安全保障と経済の健全な発展を支える重要な制度です。その一方で、規制の内容は複雑であり、常に変化しています。実務担当者に求められるのは、法令の基本的な理解を持ちつつ、個別の案件については必ず専門家に相談するという姿勢です。

改めて、外為法対応で最も重要なポイントを整理すると、まず自社が外国投資家に該当するかどうかを正しく認識することが出発点となります。外国法人の日本子会社であれば、その会社自体が外国投資家として規制を受けます。次に、インフラ関連業種のような指定業種(特にコア業種)を営む企業への投資は、ほぼすべてのケースで事前届出義務が生じることを理解する必要があります。

外為法の投資規制は、正しい手続きを踏めば必要以上に恐れる必要はありません。しかし、「知らなかった」では済まされない厳しい制度でもあります。この記事が、皆様の実務の一助となり、適切な外為法対応の実現につながれば幸いです。疑問や不明な点がある場合は、躊躇せず法務部門または外部の専門家に相談してください。

参考情報・公式資料

本記事の作成にあたっては、以下の公式資料を参照しています。最新の情報や詳細については、必ず以下の公式サイトをご確認ください。

本記事の内容は2025年10月時点の情報に基づいています。外為法は頻繁に改正が行われるため、実際の手続きにあたっては、必ず最新の法令や公式発表をご確認ください。また、個別具体的な案件については、必ず法務部門や外部の専門家にご相談ください。

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