取適法は、「価格協議に応じない一方的な値決め」や「手形払い」を禁止し、
資本金だけでなく従業員数も基準にして、中小受託事業者を守るための法律です。
調達・購買、法務、経理が連携して対応しないと、2026年1月以降に違反リスクが高まります。
「取適法って何?」「改正下請法が来るらしいけど、うちの会社は関係ある?」
このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
2026年1月1日、従来の下請法が大規模に改正され、「中小受託取引適正化法」(通称:取適法)として施行されます。
この改正、正直言ってかなり大変です。
本記事では、改正下請法(取適法)の概要から改正のポイント、自社への影響、そして実際にどれくらいの対応負担がかかるのかまで、包み隠さずお伝えします。
- 取適法(中小受託取引適正化法)とは何か
- 改正の4つの柱と実務への影響
- 自社が適用対象かどうかの判断基準
- 禁止行為11項目の概要
- 対応に必要な作業量と工数の現実
取適法(中小受託取引適正化法)とは?旧下請法との違い
取適法(とりてきほう)は、正式名称を「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」といい、略称は「中小受託取引適正化法」です。
従来の「下請法」を全面改正した法律で、2026年(令和8年)1月1日に施行されます。
施行日は2026年1月1日。今すぐ動き出さないと間に合いません。
なぜ改正されたのか?
改正の背景には、中小企業が長年苦しんできた構造的な問題がありました。
- 原材料費・エネルギー費の高騰を価格に転嫁できない
- 「昔からこの価格だから」と協議すら拒否される
- 手形払いで資金繰りが常に苦しい
- 資本金は小さくても実態は大企業並みの会社が規制を逃れている
政府はこれらの問題に本腰を入れて対応するため、規制の強化と適用範囲の拡大に踏み切りました。
用語も変わります
取適法では、従来の用語も一新されています。社内文書・契約書の表記もすべて見直しが必要です。
| 旧法(下請法) | 新法(取適法) |
|---|---|
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 3条書面 | 第4条明示(発注書) |
| 5条書類 | 第7条書類(取引記録) |
取適法の改正ポイント4つ【価格協議義務・手形払い禁止など】
取適法の改正ポイントは、大きく4つの柱に整理できます。それぞれ、実務にどのような影響があるかを見ていきましょう。
① 価格協議義務の明文化【第5条第2項第4号】
これまで「努力義務」的な扱いだった価格協議について、「協議に応じないまま一方的に代金を決める行為」が、第5条第2項第4号で明確な禁止行為として規定されました。
- 「値上げの話は聞けない」と協議自体を拒否する
- 協議はするが、一方的に「この価格で」と決定する
- 形式的に話は聞くが、実質的な検討を行わない
- 「他社はこの価格で受けている」と根拠なく押し付ける
これは非常に大きな変化です。なぜなら、値上げ・値下げ交渉の「やり方自体」が違反リスクになるからです。
「うちは昔からこのやり方でやっている」という会社ほど、根本的なプロセス見直しが必要になります。
② 手形払いの禁止【第5条第1項第2号】
従来の下請法では「手形サイト120日超」が問題視されていましたが、取適法では支払手段としての手形払い等が禁止されます。
- 約束手形、為替手形による支払い → 禁止
- 電子記録債権 → 原則として受領日から60日以内の支払期日、かつ中小受託事業者が手数料等も含めた満額を得られること
- 現金払い → 受領日から60日以内が上限
💡 電子記録債権を利用する場合は、上記の条件を満たしたうえで、中小受託事業者側の明確な同意を取って運用するのが実務上は安全です。
現在、手形払いを前提とした取引関係がある場合、施行日前に代替手段を協議し、合意を得ておく必要があります。これだけでも相当な交渉工数がかかります。
③ 適用範囲の拡大【第2条第8項・第9項】
従来は資本金基準のみで適用判定を行っていましたが、取適法では従業員基準が追加されました。
| 取引類型 | 委託事業者の基準 |
|---|---|
| 製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、倉庫保管、情報処理)・特定運送委託 | 資本金3億円超 または 従業員300人超 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託(その他) | 資本金5千万円超 または 従業員100人超 |
「資本金 OR 従業員」という論理関係がポイントです。
💡 「従業員数」は、労働基準法上の労働者数(正社員+パート・アルバイト等)を基準とするのが一般的です。詳細は公取委のガイドライン等をご確認ください。
資本金が1億円でも、従業員が300人を超えていれば適用対象になります。従業員数ベースで再チェックしてください。これまで規制対象外だった企業が、一気に対象になる可能性があります。
また、特定運送委託が新たに取引類型として追加されました。物流業界は要注意です。
④ 面的執行の強化【第8条】
事業所管省庁(国土交通省、経済産業省等)による指導・助言権限が追加されました。
- トラックGメン・物流Gメン等との連携執行
- 報復措置の申告先が拡大(各省庁へ申告可能に)
- 業界全体への「面的」な監視強化
これまで公正取引委員会のみだった執行体制が、各省庁との連携により大幅に強化されます。「見つからなければ大丈夫」という時代は終わりました。
取適法の禁止行為11項目【一覧表】
取適法では、11項目の禁止行為が定められています。従来の10項目に、新たに1項目が追加されました。
第5条第1項(7類型)
| No. | 禁止行為 |
|---|---|
| 1 | 受領拒否の禁止【第1号】 |
| 2 | 代金の支払遅延の禁止【第2号】手形払い禁止を含む |
| 3 | 代金の減額の禁止【第3号】 |
| 4 | 返品の禁止【第4号】 |
| 5 | 買いたたきの禁止【第5号】 |
| 6 | 購入・利用強制の禁止【第6号】 |
| 7 | 報復措置の禁止【第7号】 |
第5条第2項(4類型)
| No. | 禁止行為 |
|---|---|
| 8 | 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止【第1号】 |
| 9 | 不当な経済上の利益の提供要請の禁止【第2号】 |
| 10 | 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止【第3号】 |
| 11 | 新設 協議に応じない一方的な代金決定の禁止【第4号】 |
委託事業者の義務4項目
禁止行為に加えて、委託事業者には4つの義務が課されています。
第4条
第3条
第6条
第7条
自社は取適法の適用対象?資本金・従業員数・取引内容のチェックポイント
以下のフローで、自社が適用対象かどうかを確認できます。
- 取引類型の確認
製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託のいずれかに該当するか? - 自社の規模確認
資本金または従業員数が基準を超えているか?(※パート・アルバイト含む労働者数) - 取引先の規模確認
取引先が「中小受託事業者」に該当するか?
↓ すべてYesなら適用対象 ↓
取適法対応に必要な作業量の現実
さて、ここからが本題です。
「取適法対応って、実際どれくらい大変なの?」
正直に言います。かなり大変です。
一般的な中堅企業が取適法に対応するために必要な作業を洗い出すと、以下のようになります。
法改正の内容理解・社内説明資料の作成
条文の読み込み、新旧対照表の作成、経営層向け・現場向けの説明資料を複数パターン作成
契約書・発注書テンプレートの改訂
既存テンプレートの総点検、用語の置き換え、新規定の追加、法務チェック、承認プロセス
既存取引の洗い出し・適用判定
全取引先の資本金・従業員数の確認、取引類型の分類、適用対象取引のリスト化
コンプライアンスチェック体制の構築
チェックリストの作成、承認フローの設計、違反リスクの可視化、監査プロセスの整備
価格協議プロセスの設計・準備
協議ルールの策定、記録様式の作成、交渉マニュアルの整備、担当者トレーニング
社内研修の企画・実施
研修資料の作成、eラーニングコンテンツ制作、部門別研修の実施、理解度テストの作成
170〜330時間
これは専任担当者が1人いたとしても、1〜2ヶ月はかかる作業量です。他の業務と並行しながらでは、3〜6ヶ月かかっても不思議ではありません。
なぜこんなに大変なのか?
取適法対応が大変な理由は、単なる「書類の修正」では済まないからです。
理由1:法律の構造自体が変わった
用語、条文番号、適用基準など、法律の根本構造が変わっています。既存のマニュアルや契約書を「ちょっと直す」レベルでは対応できません。
理由2:複数部門にまたがる
取適法対応は、法務だけの問題ではありません。
- 法務:契約書・規程類の整備
- 購買・調達:発注書・価格交渉プロセス
- 経理・財務:支払条件・手形の見直し
- 営業:取引先への説明・交渉
- 人事:研修の企画・実施
全社横断のプロジェクトとして進める必要があります。
理由3:取引先との調整が必要
自社の書類を直すだけでは終わりません。取引先への説明、合意形成、場合によっては契約の再締結が必要です。
理由4:AIに聞いても正確な情報が出てこない
「ChatGPTに聞けばいいじゃん」と思うかもしれません。
しかし、生成AIに「取適法について教えて」と聞いても、旧法(下請法)の情報で回答されるリスクがあります。2026年施行の改正法情報は、AIの学習データに十分に含まれていません。
下請法の適用基準は以下の通りです:
・親事業者:資本金1,000万円超 → 正しくは3億円超または従業員300人超
・3条書面の交付義務 → 正しくは「第4条明示」
・支払期日は60日以内(手形の場合は120日以内) → 手形払いは禁止に
条文番号を間違えたまま社内資料を作成し、それが社内に広まってしまったら——。
考えただけでゾッとしますよね。
準備すべきスケジュール感
施行日(2026年1月1日)から逆算すると、以下のスケジュールで動く必要がありました。
- 自社の適用対象取引の洗い出し
- 既存契約書・発注書の総点検
- 支払条件(サイト・手形)の現状確認
- 法改正の社内周知開始
- 契約書・発注書テンプレートの改訂
- 価格協議のプロセス整備
- コンプライアンスチェック体制の構築
- 社内研修の実施
- 取引先への説明・合意形成
- 新制度での運用テスト
- 施行日以降のモニタリング体制構築
現時点で「現状把握フェーズ」が終わっていない場合、スケジュール的にはかなり厳しい状況です。今すぐ着手する必要があります。
違反した場合のリスク
「まあ、なんとかなるだろう」と思っていませんか?
取適法に違反した場合、以下のリスクがあります。
- 公正取引委員会からの勧告:是正措置を求められ、対応に追われる
- 企業名の公表:「あの会社は取適法違反で勧告を受けた」というレッテル
- 取引先からの損害賠償請求:遅延利息(年14.6%)を遡って請求される
- 取引関係の悪化:「コンプライアンス意識が低い会社」として取引停止も
特に企業名の公表は、レピュテーションへのダメージが甚大です。一度ついたイメージを払拭するのは容易ではありません。
取適法は強行法規です。「知らなかった」「悪意はなかった」という弁解は通用しません。早期に対応準備を始めることが、最大のリスクヘッジです。
対応を効率化する方法
ここまで読んで、「うわ、大変そう…」と思った方も多いでしょう。
実際、大変です。
ただ、効率化する方法はあります。
それが、生成AI(ChatGPT、Claude等)の活用です。
生成AIを使えば、説明資料の作成、契約書のたたき台作成、研修コンテンツの骨子作りなど、多くの作業を効率化できます。
ただし、前述の通り、単に「取適法について教えて」と聞いても正確な情報は得られません。
生成AIを取適法対応に活用するには——
- 取適法の正確な条文番号・用語を「前提知識」として与える
- 目的に応じた適切なプロンプト(指示文)を使う
- 出力結果を人間がチェックする体制を整える
これらが必要になります。
改正下請法(取適法)2026対応
AIプロンプト集
法改正の理解から契約書作成・コンプライアンスチェック・価格交渉・社内研修まで、全50本のプロンプトを収録。170〜330時間かかる作業を、大幅に効率化できます。
よくある質問(FAQ)
まとめ
取適法(改正下請法)のポイントを改めて整理します。
- 価格協議義務の明文化:協議に応じない一方的な代金決定が禁止行為に
- 手形払いの禁止:現金または条件を満たす電子記録債権のみ
- 適用範囲の拡大:従業員基準の追加で対象企業が増加
- 面的執行の強化:各省庁との連携で監視体制が強化
対応が遅れると、違反リスクだけでなく、取引先からの信用失墜にもつながります。
施行まであと約1年。今すぐ準備を始めましょう。
📎 参考リンク:公正取引委員会「取適法リーフレット」 / 中小企業庁「取引適正化」
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。個別の法的判断については、弁護士等の専門家にご相談ください。

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