企業間取引において、特に親事業者側に求められる法令遵守のひとつが「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」です。重大な違反となれば、公正取引委員会による勧告や社名公表といったリスクも。法務部としても契約・発注の場面でしっかりとリーガルチェックを行う必要があります。
2025年5月16日に下請法の大幅な改正法が成立し、2026年1月1日から施行予定です。主な変更点:
- 用語変更:「親事業者」→「委託事業者」、「下請事業者」→「中小受託事業者」
- 手形払いの全面禁止
- 価格交渉拒否の明文禁止
- 運送委託の対象追加
- 従業員基準の新設(300人/100人区分)
法務部門では改正法への対応準備が急務です。
📌チェック①:そもそも下請法の適用対象か?
現行の資本金基準
親事業者と下請事業者の「資本金区分の組み合わせ」により、取引類型ごとの適用が決まります。
【具体例】製造委託・修理委託・プログラム作成委託・運送等役務提供委託の場合
- 親事業者(資本金3億円超)→ 下請事業者(資本金3億円以下)
- 親事業者(資本金1,000万円超3億円以下)→ 下請事業者(資本金1,000万円以下)
【具体例】その他の情報成果物作成委託・役務提供委託の場合
- 親事業者(資本金5,000万円超)→ 下請事業者(資本金5,000万円以下)
- 親事業者(資本金1,000万円超5,000万円以下)→ 下請事業者(資本金1,000万円以下)
2026年からの新基準
従来の資本金基準に加えて、従業員数基準も追加されます:
【製造委託・修理委託・プログラム作成委託・運送等役務提供委託】
- 従業員数300人以上 → 300人以下への委託
【その他の情報成果物作成委託・役務提供委託】
- 従業員数100人以上 → 100人以下への委託
資本金要件を満たさない場合でも、従業員数要件により下請法が適用される可能性があります。
📌チェック②:契約書の不備が違反の温床
書面交付義務の徹底
- 書面交付義務(契約条件・支払期限・成果物内容などの明示)がある
- メールや発注書だけで済ませるとリスクが高い
- ひな形契約書に下請法対応条項が含まれているか要確認
必要記載事項(主要なもの)
- 親事業者・下請事業者の名称(2026年1月以降は「委託事業者・中小受託事業者」に変更)
- 委託日
- 給付の内容・数量・規格・品質・性能等
- 下請代金の額
- 支払期日・支払方法
📌チェック③:支払条件の設定
60日ルールの厳守
- 支払期限は納品から60日以内が原則
- 検収期間も含めて60日以内に設定する必要がある
- 検収基準を曖昧にしない(”随時検収”などはリスク)
2026年からの新規制
- 手形払いが全面禁止
- 電子記録債権やファクタリングも、支払期日までに代金相当額を得ることが困難なものは禁止
- より迅速な現金払いが求められる
📌チェック④:価格交渉の適正化
現在も禁止されている行為
- 不当に一方的な値引き・返品・支払遅延
- 仕様変更に伴うやり直しを無償で求めること
- 「相見積もりで安いから下げて」と一方的に要求すること
2026年からの強化内容
価格交渉拒否の明文禁止が追加されます:
- 代金に関する協議に応じないこと
- 協議において必要な説明・情報提供をしないこと
- これらによる一方的な代金額決定が明確に禁止
コスト上昇への対応
労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあることが運用基準で明確化されています。
📌チェック⑤:運送委託への対応準備
2026年改正では、物流問題への対応として運送委託が下請法の対象に追加されます:
- 製造・販売等の目的物の引渡しに必要な運送の委託
- 物流業界での下請法適用が本格化
- 運送業者との契約も下請法チェックが必要に
🤖ChatGPTを活用した”実務”チェック例
ChatGPTは契約書レビューにおいて、下請法違反のリスクを事前に確認するパートナー的な活用が可能です。
✅使用例①:契約ドラフトのチェック
「以下の契約書案をチェックしてください。 – 下請法に基づく記載事項(支払期日、返品条件、価格交渉条項など) – 2026年施行の新規制(手形払いの禁止、交渉拒否の禁止など)も考慮してください。」
✅使用例②:交渉内容の事前確認
「次のような値引き交渉は、下請法上の”買いたたき”に該当する可能性がありますか?」
✅使用例③:ひな型契約の適法性診断
「この業務委託契約書のテンプレートは、従業員数基準が導入された2026年の改正下請法に適合していますか?」
💡活用ポイント:人間とAIの補完関係
- ChatGPTは「条文ベースの抜け漏れチェック」に強みあり
- 最終判断や実務適用は人間の法務担当者によるレビューが不可欠
- 特に改正点の認識漏れを防ぐため、チェックの”初期段階”で活用するのが有効
✅法務部門としての対応まとめ
現在すぐに対応すべき事項
- そもそも下請法の適用関係を把握する
- 発注書だけでなく契約書の交付を徹底
- 60日以内の支払い条件を明示
- 返品ややり直しの規定は公正か確認
- 不当な値下げ交渉になっていないか確認
- コスト上昇時の価格交渉を適切に実施
2026年改正への準備事項
- 手形払い廃止への対応(支払方法の見直し)
- 価格交渉プロセスの文書化(協議記録の保存)
- 運送委託契約の下請法チェック体制構築
- 従業員数基準による適用対象の再確認
- 社内研修の実施(用語変更・新規制の周知)
⚖️違反時のリスク
下請法違反には以下のリスクがあります:
- 公正取引委員会による勧告
- 企業名・違反内容の公表
- 遅延利息の支払い(年14.6%の割合による遅延損害金)
- 刑事罰(50万円以下の罰金)
- 企業の信用失墜
下請法は「うっかり違反」が多い領域でもあります。発注・契約の場面で、ルールを理解した上での慎重な運用と、法務部による事前のチェックが重要です。
特に2026年の大幅改正を控え、今から準備を始めることで、スムーズな移行と確実な法令遵守を実現できます。法務部門には、社内への情報共有と体制整備の主導的役割が期待されています。