契約書の保管期間|税法・会社法で異なる保存義務を整理
【2025年8月版】法務担当者必読!最新法令に基づく完全ガイド
はじめに:保管期間違反のリスクと重要性
企業にとって契約書は事業活動の証拠であり、法的紛争時の重要な証明書類です。しかし、適切な保管期間を理解せずに破棄してしまった場合、税務調査での否認や法的責任の立証困難といった深刻なリスクに直面します。
本記事では、税法と会社法で異なる契約書の保存義務を最新の条文に基づいて詳しく解説し、実務上の注意点も含めて体系的に整理します。
法的根拠:なぜ契約書の保管が義務なのか?
📋 主要な法的根拠
法律 | 条文 | 保存期間 | 対象書類 |
---|---|---|---|
法人税法 | 126条・施行規則59条・67条の2 | 7年(欠損金ある場合10年) | 契約書・帳簿書類 |
会社法 | 432条・435条・施行規則98条 | 10年 | 会計帳簿・事業に関する重要資料・計算書類・事業報告書 |
電子帳簿保存法 | 4条・7条・8条 | 法人税法に準拠(7年・例外10年) | 電子取引データ・電子契約書 |
⚖️ 税法における保管義務の詳細
法人税法施行規則第59条(青色申告法人)
青色申告法人は、契約書を含む取引関係書類を、確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する義務があります。
重要ポイント:
- 青色申告書を提出した事業年度で欠損金額(青色繰越欠損金)が生じた場合は、10年間の保存が必要
- 起算日は「確定申告書の提出期限の翌日」から計算
法人税法施行規則第67条の2(普通法人等)
普通法人等は、契約書、注文書、送り状、領収書、見積書といった帳簿書類を7年間保存する必要があります。
🏢 会社法における保管義務の詳細
会社法第432条第2項(会計帳簿)
株式会社は、会計帳簿を会計帳簿の閉鎖の時から10年間保存しなければなりません。
会社法第435条第4項(計算書類等)
株式会社は、計算書類を作成した時から10年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存する義務があります。なお、事業報告書についても会社法施行規則第98条により同様の保存義務が課されています。
契約書の位置づけ:
契約書は「事業に関する重要な資料」に該当するため、会社法上10年間の保管が必要とされています。
実務上の重要判断:7年 vs 10年問題
🤔 どちらの期間を適用すべきか?
同一の契約書について、法人税法では7年、会社法では10年と異なる保存期間が定められています。この場合の実務的な対応方針は以下の通りです。
✅ 推奨アプローチ:10年間で統一
法人税法と会社法で保存期間が異なる場合、より長い期間である10年間で統一して保存するのが、コンプライアンス遵守の観点からも、管理の手間を考えても最も安全で効率的です。
📊 リスク分析表
保存期間 | メリット | デメリット | リスク |
---|---|---|---|
7年 | 保管コスト削減 | 会社法違反の可能性 | 🔴 高リスク |
10年 | 法的リスク回避 | 保管コスト増加 | 🟢 低リスク |
契約書種類別保管期間一覧
📄 一般的な契約書の保管期間
契約書の種類 | 法的根拠 | 保管期間 | 実務上の注意点 |
---|---|---|---|
業務委託契約書 | 法人税法・会社法 | 10年 | 成果物に関する責任期間も考慮 |
売買契約書 | 法人税法・会社法 | 10年 | 製造物責任法の時効(10年)との関連 |
賃貸借契約書 | 法人税法・会社法 | 10年 | 敷金返還請求権の時効に注意 |
雇用契約書 | 労働基準法 | 5年 | 雇入れ・解雇・災害補償などに関する書類は5年間の保存義務 |
秘密保持契約書 | 法人税法・会社法 | 10年 | 秘密情報の性質により個別判断も必要 |
ライセンス契約書 | 法人税法・会社法 | 10年 | 知的財産権の存続期間との関係 |
🏗️ 業界特有の長期保存義務
建設業関連
- 建設工事請負契約書:建設業法施行規則第17条の2により工事完成から10年
- 設計図書:建築士法により15年(一定規模以上)
製造業関連
- 製造委託契約書:製造物責任法により製造から10年
- 品質保証契約書:製造物責任法の時効に合わせて10年
起算日の正確な計算方法
📅 法人税法における起算日
原則: 確定申告書の提出期限の翌日から計算
具体例:
- 決算日:2024年3月31日
- 申告期限:2024年5月31日
- 保存期間満了:2031年5月31日(7年後)または2034年5月31日(10年後)
📅 会社法における起算日
会計帳簿(会社法432条)
帳簿の閉鎖の時(事業年度の最終日)から10年間
計算書類(会社法435条)
計算書類を作成した時から10年間
実務上のポイント:
決算日=帳簿閉鎖日=計算書類作成日として統一管理するのが効率的です。
電子契約・電子取引データの特殊事情
💻 電子帳簿保存法の完全施行(2024年1月~)
2024年1月1日以降、電子取引による電子データは定められたルールに従って電子保存することが完全義務化されています。なお、電子帳簿保存法は法人税法・消費税法における帳簿書類の電子保存方法を定めた技術法規であり、保存期間は法人税法に準拠して決定されます。
主要な保存要件
真実性の確保:
- タイムスタンプの付与
- 履歴が残るシステムでの保存
- 不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程の整備
可視性の確保:
- システムの概要等の備付け
- ディスプレイ・プリンターの備付け
- 検索機能の確保(日付・金額・取引先での検索)
📱 スキャナ保存の活用
契約書や領収書などの重要書類のスキャナ保存については、相互関連性の確保要件が緩和され、導入しやすくなりました。
保存期間違反のペナルティ
⚠️ 税務上のリスク
主なペナルティ:
- 青色申告の取消し:継続的な保存義務違反により青色申告承認取消のリスク
- 推定課税:帳簿書類の保存不備により、税務署が推定で課税
- 経費否認:保管期間内に廃棄した証憑により、経費計上が認められず追加税金を支払う可能性
⚖️ 会社法上のリスク
主なペナルティ:
- 過料(100万円以下):会社法976条による過料
- 取締役の任務懈怠責任:適切な内部統制構築義務違反
実務的な保管方法とベストプラクティス
📂 効率的な保管体制の構築
1. 分類・整理の統一基準
【推奨分類方法】
2. 保存期間管理表の作成
書類名 | 作成日 | 保存期間 | 廃棄予定日 | 法的根拠 | 担当者 |
---|---|---|---|---|---|
A社業務委託契約書 | 2024/4/1 | 10年 | 2034/3/31 | 会社法435条 | 法務部 |
3. デジタル化の推進
メリット:
- 物理的保管スペースの削減
- 検索・閲覧の効率化
- バックアップによる紛失リスク軽減
注意点:
- 電子帳簿保存法の要件遵守
- 電子署名・タイムスタンプの適切な管理
- システム障害時の復旧体制整備
2025年以降の法改正動向
🔍 注目すべき法改正予定
電子帳簿保存法の運用緩和
国税庁では、中小企業の負担軽減を目的とした運用緩和を検討中です。
デジタル・ガバナンス・コードの影響
上場企業における書類の電子化促進により、保存方法の見直しが加速する見込みです。
📈 実務への影響予測
- 電子契約の更なる普及:紙契約から電子契約への移行加速
- AIを活用した文書管理:契約書の自動分類・期限管理システムの導入
- クラウドストレージの標準化:セキュリティ要件を満たしたクラウド保存の一般化
まとめ:実務担当者への提言
✅ 今すぐ実行すべき5つのアクション
- 保存期間の統一:迷ったら10年で統一管理
- 起算日の明確化:各書類の起算日ルールを社内で統一
- 電子化推進:電子帳簿保存法要件を満たすシステム導入検討
- 定期的な見直し:年1回の保存書類棚卸しを実施
- 部門間連携強化:法務部だけでなく、経理部門や情報システム部との連携により保存体制を構築
🎯 長期的な戦略
デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進
- 契約書管理システム(CLM)の導入
- AI-OCRによる紙契約書のデジタル化
- ブロックチェーン技術を活用した改ざん防止
リスクマネジメントの強化
- 法改正情報の継続的収集体制
- 外部専門家との定期的な相談体制
- 内部監査における文書保存状況チェック
【免責事項】
本記事は2025年8月時点の法令に基づいて作成しており、法的アドバイスを提供するものではありません。個別具体的な案件については、必ず法律専門家にご相談ください。また、法改正により内容が変更される可能性があるため、最新の法令を必ずご確認ください。


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