NDAチェックリスト完全版|秘密情報の定義・返還廃棄・裁判管轄まで表で比較

NDAチェックリスト完全版|秘密情報の定義・返還廃棄・裁判管轄まで表で比較

不正競争防止法・個人情報保護法・生成AIリスクを踏まえた実務レビュー10項目

最終更新:2026年3月17日
個人情報保護委員会「制度改正方針」(2026年1月9日公表/今後の法案化が見込まれる)、経済産業省「営業秘密管理指針」(2025年3月改訂版)、「AI事業者ガイドライン第1.1版」の内容を反映。
補足: 法務部や総務部の作業は、 この無料ツールを使うと便利に処理できます (一次整理・マスキング・論点整理など)

この記事のポイント

NDAレビューでまず確認すべきなのは、①秘密情報の定義が曖昧でないか、②除外事由と利用目的が過不足なく設計されているか、③契約終了後の残存義務・返還廃棄・差止めが実効的かの3点です。個人データを含む案件では個人情報保護法第23条(安全管理措置)・第26条(漏えい報告)・第28条(越境移転)との整合も不可欠であり、生成AIの利用が想定される場合は入力制限やログ管理も契約または関連規程で明確にしておく必要があります。本記事では、最新の法令・ガイドラインに基づく10の必須チェックポイントを、条項例・英日対訳・交渉上の着眼点とともに解説します。

序章:NDAの環境変化と対応の必要性

企業を取り巻く秘密情報管理の環境は急速に変化しています。個人情報保護委員会は、2024年12月25日の「3年ごと見直しに関する検討会報告書」を経て、2026年1月9日に「制度改正方針」を公表しました。ここでは課徴金制度の導入、委託先規律の強化、同意規制の見直し等12項目の改正方針が示されており、今後の法案化・国会審議が見込まれます(2026年3月時点で法案は未成立)。

また、経済産業省「営業秘密管理指針」は2025年3月に改訂版が公表され、生成AI時代の情報管理の考え方も整理されています。従来のテンプレート型NDAでは対応できない新たな課題が生まれている中、本記事では、現行法の正確な理解と、見直し動向を踏まえた実務対応の両面からNDAの設計を解説します。

関連記事:令和7年営業秘密管理指針の改訂ポイントと法務実務対応の完全ガイド


【表で比較】NDA10項目の実務選択肢

項目選択肢A選択肢B推奨適用場面
1. 秘密情報の定義 包括型(「本契約に関連して開示された情報」) 特定型(「顧客リスト、技術仕様書」等を列挙) 包括型:初期協議、業務提携
特定型:M&A、限定的取引
2. 除外事由 4項目標準型(公知、独自開発、適法取得、法令開示) 5項目強化型(標準4項目+既保有情報) 標準型:一般取引
強化型:技術情報の開示
3. 開示範囲 役職員限定(「自社の役職員に限る」) 関係者含む(「役職員、アドバイザー、関連会社」) 役職員限定:機密性高い情報
関係者含む:M&A、監査対応
4. 利用目的 限定型(「●●プロジェクトの検討に限る」) 包括型(「取引関係の検討」) 限定型:単発プロジェクト
包括型:継続的取引関係
5. 残存義務期間 3年 5年(営業秘密は公知まで) 3年:一般営業情報
5年:技術情報、ノウハウ
6. 返還・廃棄 原本のみ(「有形媒体の返還」) 全データ(「複製物、電磁的記録含む」) 原本のみ:物理媒体中心
全データ:デジタル取引
7. 損害賠償 実損害型(「現実に生じた損害」) 違約金型(「金●万円」) 実損害型:立証可能な場合
違約金型:予防的抑止
8. 個人情報対応 簡易型(「個人情報保護法を遵守」) 詳細型(委託先監督、漏えい報告フロー明記) 簡易型:個人データ含まない
詳細型:個人データ含む
9. 準拠法・管轄 日本法・日本裁判所 相手国法・仲裁 日本法:日本企業が開示者
仲裁:国際交渉で妥協点
10. 生成AI制限 全面禁止型(「AI入力を一切禁止」) 条件付許容型(プライベートモデル+ログ管理) 全面禁止:高機密案件
条件付許容:AI活用前提の協業

表の活用法

案件の性質(機密性、取引期間、国際性等)に応じて各条項の適切な選択肢を判断できます。詳細は各セクションで解説します。


1. 秘密情報の定義|不正競争防止法との整合性

不正競争防止法上の営業秘密要件

不正競争防止法第2条第6項は、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています。ここには①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3要件が含まれており、NDAの秘密情報定義もこれらと整合させることが重要です。

参照条文
• 不正競争防止法第2条第6項
経済産業省「営業秘密管理指針」(2025年3月改訂版)

包括型vs特定型の戦略的選択

【悪例】曖昧な定義

第●条(秘密情報) 本契約における「秘密情報」とは、当事者が開示する情報をいう。

→ 問題点:「開示する情報」が何を指すのか不明確で、秘密管理性の立証が困難。

【修正例】包括型(初期協議・業務提携向け)

第●条(秘密情報の定義) 1. 本契約において「秘密情報」とは、開示者が受領者に対し、本契約に関連して開示する一切の情報(書面、口頭、電磁的記録その他の媒体の如何を問わない)のうち、以下のいずれかに該当するものをいう。 (1) 開示時に「秘密」「Confidential」等の表示がなされた情報 (2) 開示時に口頭で秘密である旨が告げられ、開示後14日以内に書面で特定された情報 (3) その性質上、秘密情報であることが客観的に明らかな情報

【修正例】特定型(M&A・限定的取引向け)

第●条(秘密情報の定義) 1. 本契約において「秘密情報」とは、開示者が受領者に対して開示する以下の情報をいう。 (1) 顧客リスト(氏名、連絡先、取引履歴を含む) (2) 技術仕様書、設計図面、製造プロセスに関する情報 (3) 財務情報(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書) (4) 事業計画、マーケティング戦略に関する情報 (5) その他、開示時に書面で「秘密情報」として指定された情報

英日対訳条項例

[EN] “Confidential Information” means all information disclosed by the Disclosing Party to the Receiving Party in connection with this Agreement, whether in written, oral, electronic or any other form, that is marked as “Confidential” or that should reasonably be understood to be confidential given the nature of the information and the circumstances of disclosure.

[JA] 「秘密情報」とは、開示者が受領者に対し、本契約に関連して開示する一切の情報(書面、口頭、電磁的記録その他の形式を問わない)であって、「秘密」と表示されたもの、または情報の性質および開示の状況から秘密であることが合理的に理解されるべきものをいう。

交渉時の着眼点
  • 開示範囲が不明確な初期段階では包括型を採用し、後に情報範囲が特定できた段階で特定型に移行する段階的アプローチも有効
  • 「秘密」表示の方法(マーキング、メール件名への記載等)を具体的に定める
  • 口頭開示の場合の書面化期限(通常14日以内)を明記

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2. 除外事由の設計|4つ+αの基準

除外事由の基本4項目と追加要素

NDAの除外事由は、受領者が秘密保持義務を負わない情報を明確にするものです。実務上、以下の4項目が標準的に採用されますが、技術情報の開示が多い案件では「受領時点で既に保有していた情報」を追加する5項目強化型が推奨されます。

【条項例】除外事由(5項目強化型)

第●条(秘密情報の例外) 前条の規定にかかわらず、以下のいずれかに該当する情報は秘密情報に含まないものとする。 (1) 開示時点で既に公知であった情報、または受領者の責めに帰すべき事由によらず公知となった情報 (2) 開示時点で受領者が既に正当に保有していたことを書面により証明できる情報 (3) 受領者が秘密情報に依拠することなく独自に開発したことを書面により証明できる情報 (4) 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に取得した情報 (5) 法令、規則または裁判所もしくは行政機関の命令に基づき開示が義務づけられた情報(ただし、開示前に合理的に可能な範囲で開示者に通知し、開示範囲を最小限にするよう合理的努力を行うものとする)
交渉時の着眼点
  • (2)の既保有情報は、受領時に書面で証明できることを要件としないと、後日の立証が困難になる
  • (5)の法令開示は、開示者への事前通知義務開示範囲の最小化努力義務をセットで設計する
  • 開示者側からは除外事由をできるだけ狭く、受領者側からはできるだけ広くしたい利害対立がある

3. 開示範囲の限定|Need to Know原則の実装

開示先の明確化と管理責任

秘密情報の開示先を「Need to Know(知る必要のある者に限る)」原則で限定することは、営業秘密管理指針でも秘密管理性を立証するための重要な要素として位置づけられています。NDAでは、開示可能な範囲を具体的に規定し、開示先への義務の波及を明確にします。

【条項例】開示範囲(関係者含む型)

第●条(秘密情報の開示範囲) 1. 受領者は、秘密情報を以下の者(以下「許可対象者」という)にのみ開示できるものとする。 (1) 受領者の役員および利用目的に関連する業務に従事する従業員 (2) 受領者が起用する弁護士、公認会計士、税理士その他法律上守秘義務を負う専門家 (3) 開示者が書面で事前に承諾した第三者(関連会社、アドバイザー等) 2. 受領者は、許可対象者に対し、本契約と同等以上の秘密保持義務を課すものとし、許可対象者の行為について開示者に対し責任を負うものとする。
交渉時の着眼点
  • M&Aでは買主側のアドバイザー(FA、弁護士、会計士)への開示が不可欠であり、(3)の事前承諾制が実務上の論点になる
  • 関連会社への開示を認める場合は、「関連会社」の定義(会社法第2条第3号・第4号、or 議決権基準)を明確にする
  • 開示先リストの提出義務(名簿管理)を求められるケースもある

4. 利用目的の明確化|目的外利用の悪例と修正例

利用目的の曖昧性がもたらすリスク

個人情報保護法は個人情報について利用目的の特定を求めています(第17条第1項)。NDAでもこれと同様の発想で、秘密情報の利用目的を具体化しておかないと、目的外利用の有無が不明確になり、紛争時の立証が難しくなります。

【悪例】曖昧な利用目的

第●条(利用目的) 受領者は、秘密情報を本契約の目的のために利用することができる。

→ 問題点:「本契約の目的」が何を指すのか不明確で、目的外利用の判断基準がない。

【修正例】限定型(単発プロジェクト向け)

第●条(利用目的) 1. 受領者は、秘密情報を以下の目的にのみ使用するものとし、その他の目的で使用してはならない。 (1) ●●プロジェクトに係る業務提携の可否の検討 (2) 前号の検討に必要な社内稟議手続の実施 2. 受領者は、前項の目的以外で秘密情報を使用する場合、事前に開示者の書面による承諾を得なければならない。

関連記事:NDAの目的限定と残存義務:悪例→良例の条項修正カタログ

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5. 契約期間と残存義務|終了後の義務継続期間の設計

残存義務条項の考え方

NDA上の秘密保持義務の存続期間は当事者の合意で設計されます。一方、不正競争防止法上の営業秘密に該当する情報については、契約条項とは別に法的保護が問題となります。したがって、実務上は「通常の秘密情報は3年又は5年」「営業秘密に該当する情報は公知となるまで」と二層で設計する書き方が使いやすいです。

なお、不正競争防止法第15条第1項は、差止請求権の消滅時効を「行為があった事実と行為者を知った時から3年」と規定しています。

参照条文
• 不正競争防止法第15条第1項(差止請求権の消滅時効)
営業秘密管理指針(2025年3月改訂版)

残存期間の設定基準

情報の種類推奨残存期間理由
一般営業情報3年差止請求権消滅時効との整合
技術情報・ノウハウ5年技術的優位性の維持期間を考慮
営業秘密該当情報公知となるまで不正競争防止法上の保護が継続
個人データ利用目的達成まで個人情報保護法上、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めることが求められる

【条項例】残存義務条項

第●条(契約期間および残存条項) 1. 本契約の有効期間は、本契約締結日から●年間とする。ただし、期間満了の30日前までに当事者いずれからも書面による解約の意思表示がない場合、本契約は同一条件で1年間自動更新されるものとし、以後も同様とする。 2. 前項の規定にかかわらず、以下の条項は本契約終了後も●年間有効に存続する。 (1) 第●条(秘密保持義務) (2) 第●条(秘密情報の返還・廃棄) (3) 第●条(損害賠償) (4) 第●条(準拠法および管轄) 3. 前項に定める期間経過後も、不正競争防止法第2条第6項に定める営業秘密に該当する情報については、当該情報が公知となるまでの間、第●条(秘密保持義務)が適用されるものとする。 4. 個人情報保護法に定める個人データについては、本契約終了後速やかに返還・廃棄するものとする。

英日対訳条項例(残存義務)

[EN] Survival of Obligations. Notwithstanding the termination or expiration of this Agreement, the obligations set forth in Articles ● (Confidentiality), ● (Return and Destruction), and ● (Damages) shall survive for a period of five (5) years. Provided, however, that confidentiality obligations with respect to information constituting trade secrets under the Unfair Competition Prevention Act shall survive until such information becomes publicly known.

[JA] 義務の存続。本契約の終了にかかわらず、第●条(秘密保持義務)、第●条(返還・廃棄)、第●条(損害賠償)に定める義務は5年間存続する。ただし、不正競争防止法上の営業秘密に該当する情報に関する秘密保持義務は、当該情報が公知となるまで存続する。


6. 返還・廃棄条項|デジタルデータの実装課題

デジタル時代の返還・廃棄の難しさ

クラウドストレージ、バックアップ、メールアーカイブ等、デジタルデータは物理的な返還が困難な場面が多く、「返還または廃棄」だけでは実効性が不十分です。バックアップ媒体に残る秘密情報の扱いや、廃棄証明の方法を具体的に定めておく必要があります。

【条項例】返還・廃棄(デジタル対応型)

第●条(秘密情報の返還・廃棄) 1. 受領者は、開示者から請求があった場合、または本契約が終了した場合、開示者の指示に従い、秘密情報およびその複製物(電磁的記録を含む)を速やかに返還または廃棄するものとする。 2. 受領者は、前項に基づき秘密情報を廃棄した場合、廃棄した秘密情報の範囲、方法および日時を記載した廃棄証明書を開示者に提出するものとする。 3. 前2項の規定にかかわらず、以下の場合には秘密情報の保持を継続できるものとする。ただし、当該保持情報に対する秘密保持義務は引き続き適用される。 (1) 法令または規制当局の要求により保存が義務づけられている場合 (2) 自動バックアップシステムにより技術的に即時削除が困難な場合(受領者は合理的に可能な範囲で速やかに削除するよう努めるものとする)
交渉時の着眼点
  • 開示者としては「廃棄証明書の提出」を必須とし、後日の争いに備える
  • 受領者としては自動バックアップの技術的制約を考慮した例外規定を確保する
  • クラウドサービス上のデータは、サービス提供者のデータ保持ポリシーとの整合も確認が必要

関連記事:生成AI時代の契約書管理|2026年はこうなる未来予測


7. 損害賠償・救済措置|差止請求権の実効性確保

実損害型vs違約金型の選択

NDA違反時の損害賠償は、「現実に生じた損害の賠償」とする実損害型が一般的ですが、秘密情報の漏えいによる損害額の立証は困難な場合が多いため、損害賠償の予定(違約金)を定める方式も検討されます。民法第420条第1項は、当事者が損害賠償の予定額を定めることを認めています。

【条項例】損害賠償・差止め

第●条(損害賠償) 1. 当事者が本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合、違反当事者は相手方に対し、現実に生じた損害(合理的な弁護士費用を含む)を賠償するものとする。 2. 前項に定める損害賠償は、相手方が差止めその他の法的救済を求めることを妨げない。 第●条(差止め) 各当事者は、秘密情報の不正使用または不正開示が回復不能な損害を生じさせ得ることを認め、違反または違反のおそれがある場合には、相手方が差止命令その他の衡平法上の救済を裁判所に求めることに同意する。

差止めの実効性

不正競争防止法第3条は、営業秘密の侵害に対する差止請求権を定めています。NDA上で差止めの合意を明記しておくことで、裁判所での保全処分(仮処分)申立てにおいて契約上の根拠を示すことができます。


8. 個人情報保護法対応|制度改正方針と実務

制度改正方針(2026年1月9日公表)の概要

個人情報保護委員会は、2024年12月の検討会報告書を経て、2026年1月9日に「制度改正方針」を公表しました。政府方針等を踏まえると今後の法案化・国会審議が見込まれます(2026年3月時点で法案は未成立)。主な改正方針は以下のとおりです。

改正方針概要NDAへの影響
課徴金制度の導入 違反行為に対する経済的制裁の導入 NDA違反が個人情報保護法違反にも該当する場合のリスク増大
委託先規律の強化 委託の実態に応じた責任の所在の整理。一定の条件下で委託先の義務適用範囲を調整 NDAの委託先監督条項の見直しが必要
同意規制の見直し 本人の権利利益への影響が少ない場合の同意不要化 統計処理目的の個人データ利用に関するNDA条項の設計に影響
漏えい等報告の合理化 本人通知義務の一部緩和(権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合) NDAの漏えい報告フローの設計に反映
参照情報
個人情報保護委員会「3年ごと見直しについて」(制度改正方針・検討会報告書等)
• 個人情報保護法第23条(安全管理措置)、第26条(漏えい等の報告等)、第28条(外国にある第三者への提供の制限)

現行法の主要義務

安全管理措置(第23条):個人情報取扱事業者は、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません。NDAでは委託先(受領者)に具体的な安全管理措置を求める条項を設けることが重要です。

漏えい等の報告(第26条):要配慮個人情報の漏えい、財産的被害のおそれ、不正アクセス、1,000人超の漏えい等は、個人情報保護委員会への報告および本人への通知が義務付けられています。

越境移転(第28条):外国にある第三者への個人データ提供は、原則として本人の同意が必要です。ただし十分性認定国(EU、英国等)への提供や、基準適合体制を整備した事業者への提供は例外となります。

【条項例】個人情報保護対応(詳細型)

第●条(個人情報の取扱い) 1. 受領者は、秘密情報に個人データが含まれる場合、個人情報保護法その他関連法令を遵守し、以下の義務を負うものとする。 (1) 個人データを、開示者が指定した利用目的の範囲内でのみ取り扱うこと (2) 個人データについて、個人情報保護法第23条に定める安全管理措置を講じること (3) 個人データを第三者に提供しないこと(開示者の書面承諾または法令に基づく場合を除く) (4) 外国にある第三者に提供する場合、同法第28条に従い必要な措置を講じること 2. 受領者は、個人データの漏えい等が発生しまたはそのおそれがある場合、直ちに開示者に報告するものとする。 3. 受領者は、個人データの安全管理措置の具体的内容を書面で開示者に報告し、開示者の求めに応じ年1回の書面報告および必要に応じた実地監査を受け入れるものとする。 4. 受領者は、個人データの処理を再委託する場合、事前に開示者の書面承諾を得るものとする。 5. 受領者は、本契約終了後、個人データを速やかに開示者に返還しまたは開示者の指示に従い廃棄するものとする。

制度改正方針への備え

制度改正方針で委託先規律の強化が示されています。法案成立後は速やかにNDAテンプレートを更新できるよう、現時点から安全管理措置の具体化(暗号化、アクセス制御、従業者教育等)、定期監査権、再委託の事前承諾制を明記しておくことが推奨されます。

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関連記事:個人情報保護法の実務完全ガイド|2024年施行規則改正+制度改正方針を整理個人情報保護法×生成AI時代の委託・再委託チェックリスト


9. 準拠法・裁判管轄|国際取引での条項設計

準拠法・管轄条項の法的根拠

民事訴訟法第11条により当事者間で管轄裁判所を合意でき、法の適用に関する通則法第7条により準拠法を選択できます。国際取引では、紛争発生時にどの国の法律・裁判所で解決するかを明確にしておくことが不可欠です。

取引パターン推奨準拠法推奨管轄留意点
日本企業が開示者日本法東京地裁等営業秘密保護を確保
米国企業から開示交渉次第交渉次第米国各州法の保護水準を確認
EU企業との取引日本法 or EU法日本 or EUGDPR越境移転要件。日本は十分性認定あり
中国企業との取引日本法 or 中国法仲裁推奨中国PIPL・データ安全法の域外適用

【条項例】準拠法・管轄

第●条(準拠法) 本契約は、日本法に準拠し、日本法に従って解釈されるものとする。 第●条(管轄裁判所) 本契約に関する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

英日対訳条項例(準拠法・管轄)

[EN] Governing Law and Jurisdiction. This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan, without regard to its conflict of laws principles. Any dispute arising out of or in connection with this Agreement shall be subject to the exclusive jurisdiction of the Tokyo District Court.

[JA] 準拠法および管轄。本契約は、抵触法の原則を除き、日本法に準拠し解釈される。本契約に関する一切の紛争は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

GDPR・中国個人情報保護法への対応

EU域内の個人データを日本に移転する場合、GDPR第44条以降の越境移転要件を満たす必要があります。日本は2019年にEUから十分性認定を受けており、原則として追加手続きなく移転可能ですが、案件によっては受領者の体制確認や社内手続が必要です。NDAだけで完結させず、DPA(データ処理契約)や社内越境移転手続と合わせて運用設計するのが安全です。

中国個人情報保護法(2021年11月施行)は、中国国内の個人に商品・サービスを提供する場合等に域外適用されます。重要データの国外移転には安全評価が求められる場合があります。

交渉時の着眼点
  • 日本企業が開示者の場合、可能な限り日本法・日本裁判所を確保する
  • 仲裁条項(ICC、JCAA等)で国際的な執行可能性を高める選択肢も検討
  • 紛争解決前の協議条項(60日間の誠実協議等)で訴訟コスト削減

関連記事:英文契約書の基本|これだけは知っておきたい頻出条項15選個人情報保護法の3年ごと見直しで企業が今から準備すべきこと


10. 生成AI利用制限条項|入力統制の明文化

なぜNDAでAI利用を制限する必要があるのか

生成AIへの秘密情報入力は、学習データ化や出力での再現性の観点でリスクが存在します。入力内容がモデルの学習データに組み込まれる場合やログとして保管される場合、秘密管理性の維持が困難になり、営業秘密としての法的保護を失う可能性があります。経済産業省「AI事業者ガイドライン第1.1版」も、学習データとしての機密情報管理について整理しており、NDAまたは関連ポリシーで明確にしておくことが実務上望まれます。

【条項例】生成AI利用制限

第●条(生成AIの利用制限) 1. 受領者は、秘密情報を生成AI(大規模言語モデルを含む。以下同じ)の学習用データとして入力、アップロード、または提供してはならない。 2. 前項の規定にかかわらず、以下の要件をすべて満たし、かつ開示者が書面で事前に承諾した場合は、秘密情報を生成AIに入力することができる。 (1) 入力データが外部に共有されず、モデルの学習に利用されない環境(プライベートモデル、API利用でオプトアウト済み等)での利用であること (2) 入力データおよび出力データのログを記録・保管し、開示者の求めに応じて提供できること (3) 利用目的、利用期間、アクセス権限者を特定し、開示者に事前に通知すること 3. 受領者は、自社の役職員および許可対象者に対し、前2項の義務を周知し遵守させるものとする。

以下は、高機密案件で採用しやすい生成AI利用制限条項の英日対訳例です。実際には、利用環境、委託先統制、ログ保存体制に応じて調整してください。

英日対訳条項例(AI利用制限)

[EN] AI Use Restriction. The Receiving Party shall not input, upload, or otherwise provide Confidential Information as training data or input to any generative AI system (including large language models). Notwithstanding the foregoing, the Receiving Party may use Confidential Information with a generative AI system only if (i) the environment prevents external sharing and model training, (ii) input/output logs are recorded and available upon request, and (iii) the Disclosing Party has given prior written consent.

[JA] 生成AI利用制限。受領者は、秘密情報を生成AI(大規模言語モデルを含む)の学習用データまたは入力として提供してはならない。ただし、(i)外部共有・モデル学習が行われない環境での利用であり、(ii)入出力ログが記録・提供可能であり、(iii)開示者の書面による事前承諾を得た場合はこの限りでない。

社内ガバナンスとの連携

NDA上の生成AI制限条項は、自社の「生成AI利用ガイドライン」と整合させることが重要です。社内ルールで許容されている利用方法であっても、相手方のNDAで制限されている場合があります。

関連記事:生成AI時代のNDA改訂チェック(AI新法と実務対応)生成AIガバナンスの作り方|法務のAI利用ルール・契約チェックリスト


【補論】反社会的勢力排除条項

反社会的勢力排除条項は、NDA固有の論点というよりも契約一般で確認すべき事項ですが、特に上場企業や金融機関との取引では必須です。政府指針(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」平成19年6月19日)に基づき、暴力団等8類型に加え、実質的支配関係にある者を含む拡張型が推奨されます。NDAが単独で締結される場合(基本契約に先行するケースなど)は、この条項の盛り込みを忘れないようにしましょう。


よくある質問(FAQ)

Q1. NDAの秘密情報はどのように定義すべきですか?
不正競争防止法第2条第6項の営業秘密要件(秘密管理性・有用性・非公知性)を満たすよう、開示目的に応じて包括型または特定型を選択します。包括型は「本契約に関連して開示された情報」と広く定義し除外事由で絞り込む方式、特定型は「顧客リスト、技術仕様書」など具体的に列挙する方式です。開示範囲が不明確な初期段階では包括型、M&Aなど開示対象が明確な場合は特定型が適しています。
Q2. NDAの契約期間終了後も秘密保持義務は残りますか?
はい、残存義務条項により契約終了後も一定期間(通常3〜5年)秘密保持義務が継続します。NDA上の存続期間は当事者の合意で設計されますが、不正競争防止法上の営業秘密に該当する情報は、契約条項とは別に当該情報が公知となるまで法的保護が問題となります。個人情報保護法上の個人データについては、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めることが求められるため、返還・廃棄条項との整合性に注意が必要です。
Q3. NDAで個人情報保護法の対応はどう盛り込むべきですか?
個人情報保護委員会は2026年1月9日に「制度改正方針」を公表し、課徴金制度の導入、委託先規律の強化、同意規制の見直し等12項目の改正方針を明確化しました(今後の法案化・国会審議が見込まれます)。現行法では、個人データの越境移転時の本人同意取得等(第28条)、漏えい等発生時の報告義務(第26条)が規定されています。NDAでは、個人データの取扱目的・方法の明確化、委託先の安全管理措置(第23条)の確認、漏えい時の報告フローを具体的に定めることが重要です。
Q4. 国際取引でNDAの準拠法・裁判管轄はどう定めるべきですか?
日本企業が開示者の場合、日本法を準拠法とし日本の裁判所を専属的合意管轄裁判所とするのが一般的です(民事訴訟法第11条)。GDPR適用国の受領者に個人データを移転する場合はGDPR第44条以降の越境移転要件を満たす必要があります。日本は2019年にEUから十分性認定を受けていますが、特別な種類の個人データ等については追加措置が必要な場合があります。中国企業との取引では中国個人情報保護法・データ安全法の域外適用条項に注意が必要です。
Q5. NDAに生成AI利用制限条項は必要ですか?
はい、生成AIへの秘密情報入力は学習データ化や再現性の観点でリスクが存在するため、NDAまたは関連ポリシーで明確にしておくことが実務上望まれます。原則禁止とし、例外としてプライベートモデル利用やログ取得等の要件を満たす場合の利用を許容する場合は、その旨を明文化することが重要です。経済産業省「AI事業者ガイドライン第1.1版」も参照しつつ条項を設計してください。


まとめ:NDA実務のアップデートポイント

NDAは「定型契約」ではなく、案件ごとの最適化が求められる「戦略的リスク管理ツール」です。本記事で整理した10項目のポイントを振り返ります。

  1. 法令との整合性:不正競争防止法の営業秘密要件と整合した秘密情報定義、個人情報保護法第23条・第26条・第28条への対応
  2. 残存義務の二層設計:通常の秘密情報は3〜5年、営業秘密は公知まで。個人データは利用不要時に消去努力
  3. 生成AI入力統制:NDAまたは関連ポリシーで明確化。例外を許容する場合はプライベートモデル・ログ取得要件を明文化
  4. 国際取引対応:GDPR・中国PIPLの域外適用を踏まえた準拠法・管轄設計。DPAとの併用
  5. 制度改正への備え:個人情報保護法の制度改正方針(2026年1月)を注視し、法案成立時に速やかにテンプレート更新

NDAレビューから個人情報対応まで、法務AI活用を一気に始めませんか?

契約レビュー・営業秘密管理・個人情報対応・コンプライアンス──実務で「そのまま使える」プロンプトを100本収録 →
法務AIプロンプト集100選

テーマ別:契約書AIレビュー(10STEP)営業秘密管理(令和7年改訂対応)個人情報保護法(42本)

最終更新:2026年3月17日

※本記事は2026年3月時点の法令・実務動向に基づいて作成されています。個人情報保護法の制度改正方針(2026年1月9日公表)は今後の国会審議により内容が変更される可能性があります。最新情報は個人情報保護委員会ウェブサイトでご確認ください。実際のNDA作成・レビューに際しては、最新の法令改正状況を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

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コピペで使える実務プロンプト

機密保持条項の強化案
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既存のNDAや契約書の機密保持条項を30〜90分で徹底強化。技術情報漏洩リスク、M&A、デューデリジェンスなど、厳格な秘密保持が求められる場面で即活用できる、3段階レベル別の強化案をAIが自動生成します。

機密保持条項の強化案

秘密情報の定義の曖昧さ、技術的保護措置の欠如、違反時ペナルティの不十分さなど、現行条項の弱点を8つの観点から分析。業界標準〜高リスク取引向けまで、3段階の強化レベルで実務に即した改善案を提示します。

📝 このPDFの収録内容

  • 秘密情報の定義の明確化手法 – 書面・口頭・視覚による開示の扱い、公知情報の例外規定など
  • Need to Know原則の導入方法 – 知る必要のある者のみに限定する具体的条項例
  • 技術的保護措置の義務付け条項 – アクセス制限・暗号化・従業員教育の規定テンプレート
  • 違反時のペナルティ設定 – 損害賠償・差止請求・違約金の実務的な規定方法
  • 監査権・資料返還義務の規定例 – 受領者の秘密保持状況確認、電子データを含む廃棄義務
  • 3段階の強化レベル別提案 – 業界標準・推奨レベル・高リスク取引向けの段階的強化案
⏱️ 時間短縮
30〜90分
📊 難易度
★★☆ 中程度
📄 ページ数
全14ページ
🤖 対応AI
GPT-5 / Claude Sonnet 4.5 / Gemini 2.5

💡 使い方のヒント: PDFのプロンプトをコピーしてAIに貼り付けるだけ。既存の機密保持条項を入力すれば、レベル1(業界標準)〜レベル3(高リスク取引向け)まで、3段階の強化案が自動生成されます。M&A、技術情報開示、共同開発など、取引の性質に応じて最適なレベルを選択できます。

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