年に一度あるかないかの法務部インターン。
ようやく来てくれたと思った矢先、飲みの約束はバックレられ──。
「これはAIにできない仕事だな」と思いつつ、
今日も静かな法務部で、書類を見つめています。
法務部にインターンが来た日
うちの会社は、社員数で言えば中堅クラス。
大企業というわけでもないが、決して零細というわけでもない。
ただし、法務部は日陰部署の代表格である。
インターンシップ生が来るとしても、営業や人事、総務あたりがメインで、
法務部に配属されることなど、まずない。
この5年でインターンが配属された記憶はないし、年に一度あるかどうかのレベルだ。
そんな中、今年は珍しく法務部にもインターンがやってきた。
なんとも誠実そうな学生で、話し方もしっかりしている。
ちょっと緊張してるのか、こちらの目をあまり見てこない感じもまた、今どきだ。
正直、少し嬉しかった。
仕事は「リーガルチェックごっこ」から
何をお願いしようかと考えたが、
まずは簡単な契約書レビューをお願いすることにした。
実際に社内で使っている契約書を、一部加工して、
「この契約、どこに注意点がある?」と確認してもらう。
いわゆるリーガルチェックごっこ。
でも、これは僕にとっては“新人教育の入り口”として定番のアプローチだ。
とはいえ、ふと思う。
これってもう、AIでできる仕事になってしまったな……と。
AIによる「新人の代替」
ChatGPTのような生成AIが出てからというもの、
簡単な契約書レビューなら、AIが一定の精度でこなせてしまう時代だ。
もちろん、最終的には人間の判断が必要だけれど、
「不自然な条文をあぶり出す」「抜け漏れを確認する」程度なら、
かなりの部分が自動化できてしまう。
新人の頃に学んだ「目の付け所」や「条文の読み方」も、
今はAIの方が、疲れ知らずに淡々と指摘してくる。
そんなことを思いながら、
彼のレビューコメントに目を通す。
素直で丁寧な書きぶりだ。
悪くない。いや、むしろ好印象だった。
飲みの誘い → 快諾 → そして……
数日が経ち、少しずつ打ち解けてきた頃。
ふと、こう声をかけてみた。
「せっかくだし、仕事終わりに軽く飲みにでも行こうか」
返ってきたのは明るい返事。
「行きます!ぜひお願いします!」
おお、なんと素直な……と内心ほくそ笑みながら、
その週の金曜日。
頭の中では“焼き鳥にビール”のイメージができあがっていた。
予約はしていなかったけれど、
駅前に目をつけていた小さな店があった。
カウンターに座って、「学生の視点」を聞きながら一杯やるのもいいな、なんて。
……が、当日。
来なかった。
会社にすら、来なかった。
朝9時。姿が見えない。
「寝坊かな?」と思いつつ待っても、連絡はない。
10時、11時、12時──。
SlackもTeamsも未読。電話も出ない。
午後になっても音沙汰なし。
「今日の飲み、どうなったっけ?」なんて思い出す頃には、
すでにオチは見えていた。
完全にバックレ。
焼き鳥は幻に
その日の夕方、ふと、いつもの駅前の店の前を通った。
目をつけていた焼き鳥屋。
暖簾の向こうに、カウンターの席が見える。
でも、足は止まらなかった。
一人で入るにはちょっと狭くて、
なにより“会話の相手がいない”という事実が、
やけに冷静にのしかかってくる。
帰り道のコンビニで、缶ビールとレトルトのおでんを買って、
静かに帰宅した。