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2025年AI新法施行|法務部が今すぐ対応すべき3つのチェックポイント+リスクベース活用法

2025年AI新法施行|法務部が今すぐ対応すべき3つのチェックポイント+リスクベース活用法

2025年AI新法施行|法務部が今すぐ対応すべき3つのチェックポイント+リスクベース活用法

2025年6月施行のAI新法(促進法)の概要と、法務部門が即実行すべき3つの緊急対応策を、リスクベース・アプローチの導入例とともに解説します。契約書ひな型・社内ガイドライン見直しの具体例付き。

📖 本記事で学べること

  • AI新法の「促進法」としての特徴と法務実務への影響
  • 法務部が今月中に実施すべき3つの緊急対応策
  • リスクベース・アプローチによる効率的なAI管理手法

1. AI新法がもたらす法務実務への影響

2025年6月4日、AIの研究開発・利活用を適正に推進するAI新法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が公布されました。

🔍 AI新法の3つの特徴

従来の予想 実際の内容
❌ 規制強化法 促進法として制定
❌ 禁止・罰則中心 協力・指導ベース
❌ 企業活動の制約 イノベーション推進

📊 リスクベース・アプローチとは

政府が策定するAI基本計画では、リスクベース・アプローチが基本方針として採用されています。

🔴
高リスク → 厳格管理
個人情報、機密情報の取扱い
🟡
中リスク → 注意管理
社内資料作成、翻訳業務
🟢
低リスク → 柔軟運用
一般的情報検索、学習目的
法務部門の役割変化:「使って大丈夫か?」→「どう適切に使うか?」

2. チェックポイント①:社内AI利用実態の緊急把握と体制整備

⚠️ なぜ緊急対応が必要?

AI新法第16条により、政府は「国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析」を行い、事業者に「指導、助言、情報の提供」を実施することが明記されました。

📋 緊急調査チェックリスト

【全部門ヒアリング項目】

  • 使用中の生成AIツール(ChatGPT、Claude、Gemini等)
  • 主な利用目的(文書作成、データ分析、顧客対応等)
  • 入力情報の機密レベル(個人情報、営業秘密、公開情報)
  • 現在のルール有無(部門独自ルール、口頭指示等)
  • 生成物の利用範囲(社内資料、顧客向け文書、外部公表物)

【ケーススタディ:営業部門での対応例】

Before(リスク発見前)

営業担当者A:顧客企業の売上データをChatGPTに入力
→ 競合分析レポートを自動生成
→ そのまま提案書として顧客に提出

After(リスクベース管理導入後)

Step1:データの機密レベル確認 → 🔴高リスク判定
Step2:代替手段の検討 → 公開情報のみ使用に変更
Step3:生成物の確認 → 法務部による事前チェック
Step4:顧客提出 → 「AI支援により作成」の明記

🏢 協力義務への対応体制

AI新法第7条:事業者の協力義務

役割 責任者 具体的業務
統括責任者 法務部長/CLO 政府対応の統括・方針決定
部門担当者 各部門1名以上 日常的な利用監督・報告
技術管理者 IT部門長 システム・ログ保存管理

3. チェックポイント②:AI利用ガイドラインの抜本的見直し

🔄 方針転換:「禁止」→「適切利用促進」

項目 Before(禁止型) After(促進型)
基本方針 ChatGPT使用禁止 リスクベース管理による適切利用
利用目的 原則として使用不可 業務効率化での積極活用を推奨
管理方法 全面的な利用制限 リスクレベル別の段階的管理
教育体制 注意喚起のみ 段階的スキルアップ研修

📖 総務省ガイドラインとの整合性

総務省「AI事業者ガイドライン第1.1版」(2025年3月28日公表)との連携を重視:

  • 人間中心のAI社会原則の遵守
  • 適正利用・リスク対応のバランス
  • 透明性・説明可能性の確保

⚖️ AI生成物の著作権対応

【重要な実務ポイント】

社内での取扱い指針

  • AI生成物には原則として著作権が発生しないものと整理
  • 重要な生成物は人間による創作的修正を加える
  • 外部利用時は「AI支援により作成」等の表示を検討

具体例:

【契約書条項案】

第○条(AI生成物の表示)
本業務においてAI技術を使用して作成した成果物については、
「本資料は生成AIの支援により作成されています」との表示を行うものとする。

💾 プロンプト管理の実務運用

部門 管理範囲 具体的業務
IT部門 技術的管理 システム・ログ保存、セキュリティ
法務部門 法的管理 コンプライアンス確認、リスク評価
各事業部門 業務的管理 日常的な利用監督、品質確認

保存期間:3年間(個人情報保護法の保存期間に準拠)
記録項目:利用者・日時・目的・プロンプト概要・生成物概要・リスク評価結果

4. チェックポイント③:契約書・規程類の整備と将来対応

📄 契約条項の実用的見直し

【NDA・秘密保持契約書】

第○条(AI利用に関する制限)

1. 秘密情報は、生成AI等に入力してはならない。

2. 前項にかかわらず、以下の場合はこの限りでない:
(1) 事前の書面同意がある場合
(2) 公知情報のみ使用し、秘密情報の推定が不可能な場合

3. AI利用時は、プロンプト履歴・生成物の記録保管を行う。

【業務委託契約書】

第○条(人工知能の利用)

1. AI技術利用時は事前承諾を得て、以下措置を講じる:
(1) 機密情報の入力禁止
(2) 生成物の著作権侵害リスク確認
(3) 利用記録の保存・提出

2. AI利用による第三者権利侵害は受託者が責任を負う。

📚 段階的社内教育プログラム

Phase 対象 内容 期間 形式
Phase 1 全社員 AI新法の基本・社内ガイドライン 1ヶ月 eラーニング + 説明会
Phase 2 AI利用者 プロンプト設計・リスク評価 2ヶ月 ワークショップ + OJT
Phase 3 管理職・専門職 部門別活用戦略・インシデント対応 継続的 外部講師 + ケーススタディ

【ヒヤリハット共有制度】

  • 月次報告会:各部門の小さなトラブル事例を共有
  • 匿名事例共有:心理的安全性を確保した情報収集
  • ベストプラクティス横展開:成功事例の全社活用

🔮 将来の法制度変化への備え

【想定される法改正タイムライン】

2025年下半期~2026年
├─ 個人情報保護法改正(生成AI対応)
├─ 著作権法見直し(AI生成物の扱い)
└─ 知的財産法制整備
2026年~2027年
├─ AI特定目的利用規制法の制定可能性
├─ 業界別ガイドラインの法制化
└─ 国際的規制調和の進展

【将来対応条項の例】

第○条(将来の法改正への対応)
AI関連法令の改正時は、当事者が誠実に協議し、
必要に応じて契約条項を改正法令に適合するよう修正する。

5. 緊急アクションプラン:今月中の実行ロードマップ

📅 タイムライン別実行計画

期限 実施内容 責任者 成果物 確認方法
今週中 社内AI利用実態緊急調査 法務部 利用状況報告書 部門別ヒアリング
10日以内 AI統括責任者・担当者指名 経営陣・法務部 体制図・連絡先一覧 組織図更新
2週間以内 ガイドライン素案作成 法務部・IT部門 ガイドライン草案 関係部門レビュー
3週間以内 契約書ひな型見直し完了 法務部 改訂契約書ひな型 外部弁護士確認
今月中 全社説明会・周知完了 法務部・人事部 説明資料・議事録 参加率・理解度測定

🎯 成功指標(KPI)

100%
利用実態把握率
(全部門からの回答)
80%以上
ガイドライン理解度
(説明会後アンケート)
月1件以下
インシデント発生率
(ヒヤリハット含む)
48時間以内
政府要請への回答時間

6. まとめ:AI新法時代の法務部門3つの役割転換

✅ チェックポイント再確認

①社内AI利用実態の緊急把握

  • リスクベース・アプローチによる3段階管理
  • 政府協力義務への対応体制構築

②ガイドライン抜本的見直し

  • 「禁止型」から「促進型」への方針転換
  • 総務省ガイドラインとの整合性確保

③契約書・規程類の整備

  • AI対応条項の実用的見直し
  • 将来の法制度変化への対応準備

🚀 法務部門の新たな価値創造

AI新法の施行により、法務部門は「AI利用の制約者」から「適切利用の推進者」へと役割転換が求められます。

競争優位性の源泉:

  • リスク管理と価値創造の両立
  • 国際標準への適合
  • 継続的な制度対応力
  • 組織的な学習・成長体制

今こそ、「変化への対応力」を武器に、攻めの法務戦略を展開する時です。

本記事は2025年7月25日時点の情報に基づいて作成されています。最新の法令解釈や運用指針については、各省庁の公式発表および専門家への相談をご確認ください。
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