公務員「副業許可制」柔軟化で何が変わる?会社員が押さえるべき5つのポイント
2025年6月、総務省が地方公務員の兼業に関する自治体向けの通知を公表しました。任命権者(市長・知事等)の許可があれば、これまで原則禁止とされてきた「営利企業での兼業」も柔軟に認められる可能性が示されたことが大きなポイントです。ただし、これは全面解禁ではなく「許可制の柔軟化」です。
本稿では、公務員側の今回の動きが民間企業や一般サラリーマンにどのような影響を及ぼすかを、法律の枠組みと現実的な運用面から分かりやすく整理します。
今回の総務省通知の要点
2025年6月11日付「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する留意事項について」の主なポイント:
- ✅ 営利企業の従業員との兼業も許可可能:地方の実情に応じて任命権者の判断で認められる
- ✅ 許可基準の明確化・公表を促進:透明性と予測可能性を確保
- ✅ 報酬額は社会通念上相当な範囲:一律の具体額ではなく個別判断
- ✅ 兼業時間数の上限設定:週8時間・月30時間等の目安を参考
- ✅ 自営兼業も可能:職員のスキルや地域実情を踏まえて判断
重要な注意点:これは技術的助言であり、直接的な法的拘束力はありません。実際の運用は各自治体の判断に委ねられています。
法的枠組み:地方公務員法第38条のポイント
基本的な規律
地方公務員法第38条は、職員が営利企業に従事する場合に任命権者の許可を必要とします。今回の総務省通知は、この許可運用をより明確にし、任命権者の裁量に基づく許可が営利企業への従事を含めて検討され得ることを自治体に示したものです(全面的な自由化ではありません)。
許可の判断基準(3つの原則)
- 公務能率の確保:職務遂行上、能率の低下を来すおそれがないこと
- 職務の公正の確保:相反する利害関係を生じるおそれがないこと
- 職員の品位の保持:職員及び職務の品位を損ねるおそれがないこと
比較表:地方公務員 vs 国家公務員 vs 民間社員
項目 | 地方公務員 | 国家公務員 | 民間企業の社員 |
---|---|---|---|
法的根拠 | 地方公務員法第38条(任命権者の許可が前提)。総務省通知により許可基準の明確化を助言 | 国家公務員法(第103条ほか)。営利企業での兼業は原則禁止。例外は厳格 | 法律ではなく就業規則・契約が原則。厚労省ガイドラインにより企業は原則として副業を認める方向が推奨 |
許可主体 | 任命権者(市長・知事等) | 所管大臣等(国家側の承認手続き) | 会社(就業規則・許可制・届出制など) |
主な検討事項 | 職務能率、利害関係、品位保持、勤務時間 | 公務の信用・職務専念義務・利害排除 | 労働時間通算、機密情報、競業避止、健康管理 |
現在の運用 | 許可制の柔軟化(通知は許可基準の明確化を促す)— 全面解禁ではない | 依然厳格。例外は限定的 | 企業次第。ガイドライン準拠で制度整備が進む |
民間企業の現状:厚生労働省ガイドラインの要点
原則は「副業・兼業を認める方向」
2018年に厚生労働省が発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、以下の場合を除き、原則として副業・兼業を認める方向が適当とされています:
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為がある場合
重要な管理事項
労働時間の通算:本業と副業の労働時間を合計して、法定労働時間(週40時間)の上限を管理する必要があります。
健康管理:過重労働による健康障害を防止するため、適切な健康管理体制が必要です。
公務員の許可制柔軟化が民間に与える5つの影響
1. 労働市場の流動化加速
地方公務員の専門知識やネットワークが民間市場に流入することで、特に地域活性化や行政関連業務での人材競争が活発化します。
具体例:
- 市役所の地域PR担当職員が、観光関連企業のコンサルタントを兼業
- 自治体のIT担当職員が、地元企業のDX支援を有償で実施
2. 副業に対する社会的認知の向上
「公務員ですら副業をする時代」という認識の広がりにより、民間企業においても副業に対する否定的な見方が薄れることが予想されます。
3. 企業の人材戦略の変化
公務員との人材競争が発生することで、民間企業はより魅力的な働き方を提供する必要が生じます。副業許可は人材獲得・定着戦略の重要な要素となります。
4. 副業マッチングサービスの拡大
公務員という新たな供給源の参入により、副業マッチングプラットフォームの市場が拡大し、サービスの多様化が進むでしょう。
5. 制度整備の必要性拡大
公務員の副業参入により、労働時間管理や社会保険の通算処理など、制度面でのインフラ整備の必要性が高まります。
一般サラリーマン向けチェックリスト:副業を始める前の5つの確認事項
✅ 1. 就業規則の確認
- 副業は禁止か、許可制か、届出制か
- 許可申請の手続きと必要書類
- 違反した場合のペナルティ
✅ 2. 労働時間の通算管理
- 本業+副業で週40時間を超えないか
- 残業代の計算方法(割増賃金の責任分担)
- 過労防止のための時間管理
✅ 3. 競業・機密情報の確認
- 副業先が本業と競合関係にないか
- 本業で知った機密情報を使用しないか
- 顧客情報等の持ち出し禁止の遵守
✅ 4. 社会保険・税務の整理
- 給与所得と雑所得の区分
- 年末調整と確定申告の必要性
- 健康保険の被扶養者への影響(配偶者がいる場合)
✅ 5. 契約関係の整備
- 副業先との業務委託契約書の作成
- 秘密保持契約(NDA)の締結
- 責任の所在と損害賠償の範囲
企業が準備すべき対応策
就業規則の見直し
現状が副業禁止の企業は、以下の観点から見直しを検討してください:
- 全面禁止から許可制への移行
- 許可基準の明確化(時間制限、業種制限、報告義務等)
- 違反時のペナルティの適正化
労務管理体制の強化
労働時間管理システムの導入・改修、健康管理体制の強化(定期面談、健康診断の充実)、情報セキュリティ規程の見直しが挙げられます。
人材戦略の多様化
副業人材の受け入れ体制整備、正社員の副業を通じたスキル向上支援、フレキシブルな働き方の制度化などが効果的です。
今後の展望:2026年以降に予想される変化
制度面の整備
- 労働時間管理の簡素化:複数就業先の時間通算システム標準化
- 社会保険制度の見直し:複数就業への対応強化
- 税務手続きの簡略化:副業所得の申告手続き改善
市場の変化
- 副業マッチングサービスのさらなる拡大
- 企業間の人材シェア制度の普及
- スキルベース採用の加速
まとめ:多様な働き方への転換期
2025年の地方公務員の兼業許可制柔軟化は、日本の労働環境における重要な転換点となりました。この変化は民間企業の一般サラリーマンにも必ず波及し、副業がより身近で現実的な選択肢となる時代が到来するでしょう。
企業経営者は、人材戦略の一環として副業許可制の導入を前向きに検討し、適切な労務管理体制を整備する必要があります。
働く側も、副業を通じたキャリア形成やリスク分散について真剣に考え、必要な準備を進める時期に来ています。
多様な働き方を認める社会への変化は不可逆的です。今こそ、企業も個人も新しい働き方に対応する準備を始めるべき時なのです。
