2026年1月1日、取適法(中小受託取引適正化法)が施行されました。
「まだ社内調整中で……」という言い訳は、公正取引委員会の調査が入った瞬間、「法令遵守体制を構築する意思がない」と評価され、少なくとも重大な過失と判断されるリスクがあります。
本記事では、施行後に慌てている法務担当者のために、今日から四半期先まで、生存のためにこなすべきタスクを時間軸で整理しました。
この記事の対象読者
- 取適法対応が後回しになっていた企業の法務担当者
- 「うちは下請法の対象外だった」と思っていたら対象になった企業
- 一人法務で何から手をつけていいかわからない方
- 製造業だけでなく、物流を委託している「荷主」企業の担当者
取適法とは何か——30秒でわかる改正の本質
従来の下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」として生まれ変わりました。
主な変更点は以下の4つです。
❶ 適用対象の拡大:資本金基準に加え、従業員基準(300人/100人)が追加
❷ 手形払いの原則禁止:施行日以降、約束手形・為替手形は原則として違法
❸ 協議拒否の禁止:価格協議に応じない一方的な代金決定が明確に違法化
❹ 特定運送委託の新設:荷主から運送事業者への直接委託も規制対象に
これまで下請法の対象外だった企業も、従業員数次第で規制対象になる可能性があります。
🚨【今日すべきこと】「サイレント違法状態」の特定
まずは、自社がこの瞬間に法律を破っていないかを確認してください。
チェック1:御社は「委託事業者」に該当するか?
取適法の適用は、原則として「資本金基準」で判定し、資本金基準が適用されない場合に「従業員基準」で判定します。
| 取引類型 | 資本金基準 | 従業員基準 |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託 | 3億円超 または 1千万円超3億円以下 | 300人超 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム等以外) | 5千万円超 または 1千万円超5千万円以下 | 100人超 |
⚠️ 重要:従業員数のカウント
「常時使用する従業員」には、パート・アルバイト等も含まれ得ます。また、期間を定めて雇用される者であっても、実態として継続的に雇用されている場合はカウント対象となる可能性があります。
→ 自社の集計基準を人事・労務部門と突合してください。
✅ 今日のアクション:
- 正社員+パート・アルバイト+継続雇用の契約社員の従業員数を再カウント(人事部門と連携)
- 製造委託等の取引先リストを洗い出し
- 自社が「荷主」として運送を委託している取引の棚卸し
チェック2:手形を発行していないか?
施行日(2026年1月1日)以降に発行される手形は、原則として取適法第5条違反です。
経理部門が「例年通り」手形を切ろうとしていたら、今すぐ止めてください。
⚠️ 電子記録債権・ファクタリングの落とし穴
電子記録債権(電サい)や一括決済方式は、以下の両方を満たさなければ違法となります。
- 支払期日を60日以内に設定する
- 中小受託事業者が支払期日までに代金相当額「満額」を得られる
「60日以内ならOK」ではありません。割引料や手数料を中小側に負担させる場合、満額受領できないため違反となるリスクがあります。
✅ 今日のアクション:
- 経理部門に手形発行の即時停止を指示
- 電子記録債権・ファクタリングの条件を確認(60日以内+満額受領の両方を充足しているか)
チェック3:御社は「荷主」ではないか?(特定運送委託)
今回の改正で、「特定運送委託」が新設されました。これは物流2024年問題への対応として、極めて強い政治的意図をもって追加された規定です。
特定運送委託とは:
- 発荷主(メーカー、卸売業者など)が、自らが販売・製造する物品を届けるために、運送事業者に運送業務を委託する取引
製造業だけでなく、物流を外部委託している全企業が規制対象になる可能性があります。
🚨 要注意:荷待ち・付帯業務の無償強制
例えば、荷待ち・荷役等の負担を無償で押し付ける(負担転嫁する)ような実態があると、「不当な経済上の利益の提供要請」として勧告対象になるリスクがあります。
「付帯業務(棚入れやラベル貼りなど)を無償でさせること」も同様に該当する可能性があります。現場の「当たり前」がいかに危険か、物流部門に突きつけてください。
⚠️【来週までにすべきこと】発注書類の緊急差し替え
当局が最初に見るのは「発注書(第4条明示)」の形式です。
用語・条文番号の更新
旧下請法の「3条書面」は、取適法では「第4条明示」に変わりました。条文番号がズレたままの発注書を出し続けることは、「法改正を知りながら無視している」という悪質な証拠になりかねません。
| 旧(下請法) | 新(取適法) |
|---|---|
| 3条書面 | 第4条明示 |
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
明示すべき項目(第4条)
発注時に以下の事項を書面または電磁的方法(メール等)で明示する義務があります。
- 給付の内容(委託する業務の具体的内容)
- 代金の額
- 支払期日
- 支払方法
- 委託事業者・中小受託事業者の名称
- 委託をした日
- 給付を受領する日(役務の場合は提供を受ける日)
- 給付を受領する場所
- 検査を行う場合は検査完了日
💡 電磁的方法の要件に注意
EDIシステムやメールでの明示も「第4条明示」として認められますが、「受託側が書面として出力・保存できる状態」である必要があります。
「画面上でしか見られない」「ダウンロードできない」状態だと、厳密には義務違反になる可能性があります。システム部門への確認が必須です。
📅【来月までにすべきこと】「協議プロセス」のログ構築
取適法の最大の改正ポイントは、「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止です(第5条第2項第4号)。
これは「結果」ではなく「プロセス」を問う規定であり、価格協議の記録がなければ即座に違反と判定されるリスクがあります。
禁止される行為の具体例
- 中小受託事業者からの価格協議の求めを無視する
- 協議を先延ばしにして、実質的に協議を拒否する
- 「うちは例年この価格だから」と一方的に価格を決める
- 原材料費や労務費の上昇について、必要な説明を行わない
- 協議の申入れに対し、回答期限を示さない(誠実な協議の欠如)
🔥 最重要ポイント:「放置」が最大の悪手
中小側からの価格改定の申し出に対し、「放置する(レスポンスをしない)」こと自体が、誠実な協議を拒否したとみなされる有力な証拠になります。
忙しくても、「○月○日までに回答します」と期限を示すことが最低限必要です。
価格協議記録(ログ)の必須項目
「協議はした」という口約束は通用しません。以下の項目を記録してください。
- 協議日時:いつ協議を行ったか
- 参加者:誰が出席したか(双方の担当者名)
- 協議内容:どのような根拠で話し合ったか
- 価格決定の理由:なぜその価格で妥結したか
- 合意内容:最終的にどのような条件で合意したか
- 回答期限:協議申入れに対し、いつまでに回答したか
📝 「据え置き」の場合も理由の言語化が必要
「今回は据え置き」と結論づける場合でも、その根拠(他社比較、原材料指数の推移など)を相手が納得できるように説明した記録が必要です。
「方針だから」「例年通り」は、もはや説明として認められません。
📋【今月中にすべきこと】全社向け緊急コンプライアンス研修
現場の「知らなかった」は、会社の連帯責任です。
研修で必ず伝えるべき3つのポイント
1. 「今のやり方」は違法になった可能性がある
「例年通り」「前任者がそうしていた」という理由で続けていた慣行が、施行日以降は違法行為になっている可能性があります。
2. 制裁の本質は「レピュテーションリスク」
罰金額(50万円以下)よりも、「勧告・企業名公表」によるレピュテーションリスクが最大の制裁です。取引先・株主・消費者からの信用失墜は、罰金の何百倍もの損害になります。
3. 公取委だけを警戒する時代は終わった(面的執行)
改正により、各事業所管省庁(経産省、国交省など)が直接、指導・助言ができるようになりました。
現場の不満は、価格転嫁Gメンや各省庁の通報窓口へダイレクトに届きます。
研修の対象部門
- 購買・調達部門:発注実務の最前線
- 経理部門:支払手段(手形廃止)の理解
- 物流部門:特定運送委託への対応
- 法務部門:全体の統括と質問対応
- 経営層・役員:責任の所在と経営判断
🛡️【四半期までにすべきこと】「構造的欠陥」の修正
3ヶ月以内に、会社全体の評価制度とシステムを作り直します。
購買部門のKPI改定
「コスト削減額」だけで評価されている購買担当者は、法を犯してでも安く買おうとするインセンティブを持っています。
この評価制度自体が「違法行為の教唆」とみなされるリスクがあります。
改定の方向性:
- コスト削減額だけでなく、「適正取引の実施率」を評価指標に追加
- 価格協議記録の作成率をKPIに組み込む
- 中小受託事業者からのクレーム件数を減点要素に
EDI・発注システムのアップデート
「システム上、単価変更に時間がかかる」は言い訳になりません。法改正に対応できないシステムを使い続けること自体が、経営層の「不作為の責任」を問われる事態を招きます。
💡【よくある誤解】「契約書があるから大丈夫」ではない
取適法は「契約書があるか」ではなく、発注時の明示内容・価格決定プロセス・支払実態を見ます。
契約書が完璧でも、以下の状態であれば違反認定は普通にあり得ます。
- 発注書が旧3条書面のまま
- 価格協議の記録がゼロ
- 支払手段が手形のまま
- EDIシステムが出力不可
書面の「形式」ではなく、取引の「実態」が問われます。
🚨【補足】公取委から連絡が来たときの初動
万が一、公正取引委員会や事業所管省庁から連絡があった場合の初動対応です。
- 現場に勝手に回答させない
- 必ず法務部門を経由させる
- 「確認して折り返します」で時間を確保
- 証拠書類を即時確保
- 価格協議ログ
- 発注書(第4条明示)
- 支払記録
- 「過去の慣行」を正当化しない
- 「昔からこうしていた」は弁解にならない
- 是正の意思と具体的計画を示す
- 弁護士への相談を検討
- 勧告前であれば是正で済む可能性がある
- 初動を誤ると公表リスクが高まる
🔄【逆転の発想】中小受託事業者としての「攻め」の使い方
読者の中には、自社が「委託事業者」でありながら、同時に他社からは「中小受託事業者」として扱われる中堅企業も多いはずです。
もし御社が中小受託事業者の立場なら、この法律を武器に堂々と価格交渉を申し入れてください。
相手が協議を拒否すれば、それは相手の違反です。
「原材料費・労務費の上昇を踏まえた価格改定のご相談」という書面を送付し、相手の対応を記録に残すことで、御社の立場を守れます。
まとめ:実務担当者へのメッセージ
取適法対応を「無料のネット情報」や「片手間の調査」で済ませる時期は、2025年末で終わりました。
今、あなたがすべきは以下の3つです。
❶ 今日:自社が「委託事業者」に該当するか確認し、手形発行を即時停止
❷ 来週まで:発注書フォーマットを改訂し、現場に周知
❸ 来月まで:価格協議記録の仕組みを構築し、全社研修を実施
会社を守れるのは、経営層に「NO」を突きつけられる、実務を知り尽くしたあなたしかいません。
🎯 取適法対応を「最短距離」で終わらせたい方へ
契約書チェック、発注書作成、価格協議記録、社内研修——
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📎 公式情報源
📞 下請取引適正化相談窓口
0120-060-110(10:00〜17:00、土日祝除く)
この記事は2026年1月時点の情報に基づいています。最新の情報は公正取引委員会の公式サイトでご確認ください。
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