労務の現場で使える!就業規則改定チェックリスト(社内合意〜運用まで)

2025年は育児・介護休業法(第16条の2等)や高年齢者雇用安定法の改正が施行される年です。育児・介護休業法は段階施行(2025年4月・10月)、高年齢者雇用安定法の経過措置は2025年3月31日で終了するなど、多くの法改正が連続して施行されています。特に育児・介護休業法は就業規則の大幅な見直しや新たな制度の構築などやるべきことがたくさんあり、多くの企業で緊急対応が求められています。しかし、法令への対応だけでは不十分です。改正内容を正確に理解し、社内合意を得て、適切に運用まで持っていくことが真の成功です。

参考:2025年の改正カレンダーや施行スケジュール、社内展開の実務ポイントは、当サイトのまとめページで整理しています(改正の全体像を確認する際に便利です)。 2025年改正の総覧・施行スケジュール

🎯 就業規則改定の全体フレームワーク:5つのフェーズ

就業規則の改定は、以下の5つのフェーズで構成されます。各フェーズでの漏れが、後々のトラブルや法令違反につながるため、段階的なアプローチが重要です。

  1. Phase 1:改正内容の把握・影響分析
  2. Phase 2:改定案の作成・法的妥当性確認
  3. Phase 3:社内合意形成・意見聴取
  4. Phase 4:労働基準監督署への届出
  5. Phase 5:運用開始・定着化

Phase 1:改正内容の把握・影響分析

📋 改正内容把握チェックリスト

□ 法改正の全体像把握

  • 施行日の確認(複数回に分かれる場合は各段階を整理)
  • 対象企業規模の確認(従業員数、売上高等の条件)
  • 義務規定・努力義務規定の区別
  • 罰則の有無・内容の確認

□ 自社への影響度評価

  • 現行就業規則との差分分析
  • 関連する社内制度(人事制度、評価制度等)への波及効果
  • 必要な予算・リソースの概算
  • 対応期限の設定

□ 優先度判定

  • 法的リスク:高・中・低
  • 実務への影響度:大・中・小
  • 対応緊急度:即座・1ヶ月以内・3ヶ月以内

🔍 2025年重点改正事項の確認ポイント

育児・介護休業法(4月・10月段階施行)

4月施行分の確認事項:

  • 子の看護等休暇(名称変更):対象が「小学校第3学年修了時まで」に拡大
  • 取得理由に「感染症に伴う学級閉鎖等や入園(入学)式、卒園式」を追加
  • 労使協定に基づく「勤続6か月未満の除外」が廃止され、従来除外されていた者も対象に
  • 所定外労働の制限(請求に基づく所定外労働免除)の対象:3歳未満から「小学校就学前の子を養育する労働者」に拡大
  • 育児休業取得状況の公表義務:従業員数300人超企業への拡大(該当企業は公表準備が必要)

10月施行分の確認事項:

  • 3歳以上小学校就学前の子どもを養育する労働者を対象とした「柔軟な働き方措置の選択・周知・意向確認が事業主に義務化」
  • 事業主が複数の選択肢(始業時刻変更、テレワーク、短時間勤務、養育休暇付与等)を用意し、労働者に提示・個別意向確認を実施

高年齢者雇用安定法(3月経過措置終了)

  • 65歳までの雇用確保措置の経過措置終了
  • 継続雇用制度の対象者を限定していた企業は、希望者全員を対象とする必要

実務での「規程間の影響範囲分析」や、改定を段階的に落とし込む手法は下記の解説が実務的です: 規程改正の影響範囲分析と段階的導入手法

Phase 2:改定案の作成・法的妥当性確認

📝 改定案作成チェックリスト

□ 条文案の作成

  • 法令の条文を就業規則の表現に適切に変換
  • 社内用語・役職名との統一性確認
  • 既存条文との整合性確認(矛盾・重複の排除)
  • 関連規程(賃金規程、育児介護休業規程等)との連携確認

□ 法的妥当性の確認

  • 労働基準法など労働関連の法令よりも従業員に不利な内容でないことの確認
  • 労働協約との矛盾がないことの確認(労働協約>就業規則の優先順位)
  • 最低賃金法等の関連法令への適合性確認
  • 顧問弁護士・社労士による内容確認(推奨)

□ 不利益変更の検討

  • 従業員にとって不利益に変更される内容がないか確認
  • 不利益変更がある場合の合理性検討(労働契約法第10条)
    • 労働者の受ける不利益の程度
    • 労働条件変更の必要性
    • 変更後の内容の相当性
    • 労働組合等との交渉状況

🔍 実務で揉めやすいポイントと対策

子の看護等休暇の運用注意点

  • 年次付与日数は改正で変わらない(現行は年5日/子2人以上で10日等)が、事業主独自の付与拡大は可能
  • 申請様式・勤怠入力ルールの明確化
  • 勤続6か月未満の労働者への対応:採用直後の短期契約者にも対応が必要

個別周知・意向確認での法的留意点

  • 利用を控えさせるような誘導は行政監督の対象となるため、周知文面と面談記録を残す
  • 面談記録様式の準備(面談日・参加者・回答・配慮事項の記録化)

段階的施行への対応
育児・介護休業法のように4月施行と10月施行の2回分が必要な場合、就業規則の変更も2回必要となります。ただし、10月施行分を4月に前倒しして対応するのも可能です。

理事会等の承認が必要な組織での工夫
保育園・こども園等では就業規則の変更について理事会を通す必要があるなど事務負担が大きいため、早めの準備と前倒し対応を検討しましょう。

Phase 3:社内合意形成・意見聴取

🤝 労働者代表からの意見聴取

□ 労働者代表の選定

  • 労働者の過半数で組織する労働組合の有無確認
  • 労働組合がない場合:労働者の過半数を代表する者の民主的な選出
  • 過半数代表者は管理監督者を除く者から、挙手や話し合い等の民主的な方法で選出
  • 「就業規則について意見を聴くため」と目的を明確化

□ 意見聴取の実施

  • 改定案の十分な説明時間の確保
  • 質疑応答・意見交換の機会設定
  • 意見が反対であったとしても就業規則の効力に影響しないことの理解促進
  • 意見書への署名または記名押印の取得

□ 意見書の作成

  • 労働者代表の氏名・選出方法の記載
  • 意見内容の正確な記録
  • 賛成意見でも反対意見でも労働者代表の署名または記名押印があること
  • 日付・押印等の形式面の確認

📢 全社員への事前周知

  • 改正の背景・目的の説明
  • 従業員への具体的影響の明示
  • 施行日・経過措置の周知
  • 質問受付窓口の設定

Phase 4:労働基準監督署への届出

📋 届出書類準備チェックリスト

□ 必要書類の準備

  • 就業規則(変更)届:2部
  • 変更後の就業規則:2部
  • 労働者代表の意見書:2部
  • 変更箇所が分かる新旧対照表(任意だが推奨)

□ 届出先・方法の確認

  • 事業場を管轄する労働基準監督署の確認
  • 複数事業場がある場合:それぞれの事業場の管轄監督署に個別届出
  • 電子申請 or 書面申請の選択
  • 2025年1月から労働安全衛生関係の一部手続きで電子申請が原則義務化されていることの確認

□ 届出タイミング

  • 就業規則の施行日までに速やかに届出
  • 施行日前であっても完成していれば届出可能
  • 定期的な改定を行う企業では1年や半年に1回などの運用ルール策定

⚖️ 法的リスクの回避

  • 届出義務の確認:常時10人以上の事業場は作成・変更時に所轄労働基準監督署へ届出が必要(労働基準法第89条)
  • 規模拡大により常時10人以上となった場合の遅滞ない届出

□ 罰則規定の理解

  • 就業規則の作成・届出不備は労働基準法違反として30万円以下の罰金(同法第120条)
  • 行政指導・是正勧告のリスク

Phase 5:運用開始・定着化

📢 従業員への周知義務

  • 職場の見やすい場所への掲示
  • 各職場への備え付け
  • 電子媒体での記録・常時モニター画面で確認可能な状態
  • 従業員全員が閲覧できる共通フォルダへのデータ保管

📢 実効性のある周知

  • 管理職向け説明会の実施
  • 一般従業員向け説明会・勉強会の開催
  • 社内報・イントラネットでの継続的な情報発信
  • FAQ作成・質問対応体制の整備

社内周知・FAQ の自動生成やパターン別展開の参考: 法改正を社内に伝えるパターン別ガイド(FAQ/社内展開)

🔄 運用定着化の取り組み

  • 運用開始後1ヶ月での初期課題の洗い出し
  • 3ヶ月後の運用状況レビュー
  • 年1回の制度見直し・改善検討
  • 労働基準監督署の調査対応準備

□ 関連システム・手続きの整備

  • 人事システムの設定変更
  • 申請書類・様式の更新
  • 給与計算システムの設定変更
  • 勤怠管理システムの設定変更

💼 運用品質向上のポイント

  • 継続的な法改正キャッチアップ体制
    • 法改正情報の定期収集(厚生労働省、労働局等)
    • 顧問弁護士・社労士との定期相談体制
    • 業界団体・人事労務系セミナーへの参加
  • 属人化防止・ナレッジ共有
    • 就業規則改定手順書の整備
    • 過去の改定履歴・判断根拠の記録保存
    • 複数名での改定業務体制の構築

📚 参考・出典

厚生労働省関連資料

※本記事は2025年9月時点の法令に基づいて作成されています。最新の法令改正については、厚生労働省や管轄労働局の情報を必ずご確認ください。また、個別の事案については顧問弁護士や社労士にご相談することをお勧めします。