カスハラ対応の判断基準と
対応終了のタイミング
厚労省指針に基づく、現場で使える実践ガイド
「この要求、断っていいのか?」「いつ電話を切っていいのか?」
カスタマーハラスメント(カスハラ)対応で、現場が最も困るのは「判断」です。
本記事では、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月)と労災認定基準をもとに、実務で使える判断基準を整理します。
👤 人事・お客様相談室・店舗責任者向けこの記事の内容
カスハラ判定の基本原則──「要求内容」ではなく「手段・態様」
カスハラかどうかを判断する際、多くの担当者が「要求が過大かどうか」で判断しようとします。しかし、厚労省の基準では、判定の主軸は「手段・態様」です。
判定の基本ルール
要求内容が過大でも、手段・態様が社会通念上相当であれば「カスハラ」とは限りません。
逆に、要求内容が正当でも、暴言・脅迫・長時間拘束を伴えば「カスハラ」に該当します。
返金条件について強く主張するが、終始丁寧な口調で話す顧客
→ 要求は強いが、手段・態様は相当の範囲内
商品の軽微な不具合について、30分以上怒鳴り続け「土下座しろ」と要求する顧客
→ 要求内容に一定の正当性があっても、手段・態様が不当
この「要求内容」と「手段・態様」を分離して考えることが、判断の出発点になります。
厚労省が示す5つの類型
厚労省マニュアルでは、カスハラを以下の5類型に分類しています。複数に該当する場合は、より深刻な類型として対応します。
| 類型 | 具体例 |
|---|---|
| ①暴行・脅迫・ひどい暴言 | 殴る、物を投げる、「殺すぞ」「家に行くぞ」、人格否定の罵倒 |
| ②著しく不当な要求 | 法的義務のない金銭要求、土下座の強要、従業員の解雇要求 |
| ③長時間の拘束・執拗な要求 | 30分以上の電話・対面拘束、同一要求の3回以上の繰り返し |
| ④SNS晒し・風評被害の脅し | 「ネットに書くぞ」「炎上させてやる」、個人情報の公開示唆 |
| ⑤性的言動・不適切接触 | 容姿への言及、プライベートな質問、身体への接触 |
複合型への注意
実際の事案では、複数の類型が重なることが多くあります(例:暴言+長時間拘束+SNS脅し)。複合型の場合、リスクレベルは単独型より高く評価します。
対応を終了できる6つの基準
「いつ電話を切っていいのか」「いつ対応を打ち切っていいのか」──これが現場で最も判断に迷うポイントです。以下のいずれかに該当した場合、対応を終了することが正当化されます。
- 暴言・人格否定的発言が3回以上続いた
- 対応時間が30分を超えた
- 具体的な脅迫があった(「殺す」「家に行く」「ネットに書く」等)
- 同一内容の要求を3回以上繰り返された
- 従業員が身体症状(震え、動悸、涙等)を訴えた
- 金銭や土下座等、法的義務のない行為を要求された
対応終了時の伝え方
対応を終了する際は、以下のような定型文を使うことで、担当者の心理的負担を軽減できます。
「恐れ入りますが、これ以上のご対応は致しかねます。今後のご連絡は書面にてお願いいたします。それでは失礼いたします。」
「お客様のご要望については承りましたが、当社としてはこれ以上の対応は致しかねます。恐れ入りますが、ご退店をお願いいたします。」
ポイント
理由を詳細に説明しないこと。説明すればするほど反論の材料を与え、対応が長引きます。
初動1時間以内にやるべきこと
カスハラ発生から最初の1時間は「ゴールデンタイム」です。この間に以下を実行することで、証拠保全と従業員保護の両方を確保できます。
- 従業員の安全確保(その場を離れさせる、別の担当者に交代)
- 簡易な事実記録(5W1H:いつ、どこで、誰が、何を、どのように)
- 上司への第一報
- 証拠保全の指示(録音データ、防犯カメラ映像、メール等)
注意
初動の遅れは証拠隠滅・従業員への二次被害リスクを高めます。特に防犯カメラ映像は上書きされる前に保全してください。
記録に残すべき項目
「記録は残したけど、これで足りているのか?」という不安を解消するため、記録すべき項目を整理します。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 日時 | 年月日、開始時刻〜終了時刻 |
| 場所 | 店舗名、電話、メール等 |
| 顧客情報 | 氏名(不明なら特徴)、会員番号等 |
| 対応者 | 氏名、所属 |
| 同席者・目撃者 | 氏名、所属(いれば) |
| 顧客の発言(原文) | 「」で括って正確に記録。特に暴言・脅迫は一字一句 |
| 要求内容 | 何を求められたか |
| 対応内容 | こちらがどう返答したか |
| 従業員の状態 | 身体症状があれば記録(震え、涙、動悸等) |
| 証拠 | 録音、映像、メール、写真等の有無と保管場所 |
最重要ポイント
顧客の発言は「要約」ではなく「原文」で記録してください。「暴言を吐かれた」ではなく「『お前みたいなバカは辞めろ』と言われた」と記録することで、後の法的評価が可能になります。
刑法に抵触しうるケース
カスハラの中には、刑法上の犯罪に該当しうるものがあります。以下に該当する場合は、警察への相談を検討してください。
| 罪名 | 該当しうる言動 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 脅迫罪(刑法222条) | 「殺すぞ」「家族に危害を加える」等の害悪の告知 | 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
| 強要罪(刑法223条) | 脅迫を用いて土下座等の義務のない行為を強制 | 3年以下の懲役 |
| 威力業務妨害罪(刑法234条) | 大声で怒鳴り続けて業務を妨害 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
| 侮辱罪(刑法231条) | 公然と「バカ」「無能」等の侮辱的発言 | 1年以下の懲役等 |
| 不退去罪(刑法130条) | 退去を求めても居座り続ける | 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金 |
警察相談のタイミング
「被害届を出すかどうか」を決める前に、まず警察の相談窓口(#9110)に相談することをお勧めします。相談記録が残ることで、後の対応がスムーズになります。
重要
上記のような行為は、もはや「カスハラ対応マニュアル」で完結させるべき領域ではありません。従業員の安全確保の観点から、早い段階で警察・弁護士と連携することを前提にしてください。
よくある質問(FAQ)
📝まとめ:判断基準を持つことで、現場は守られる
カスハラ対応で最も消耗するのは、「判断できない」状態です。
「これはカスハラなのか?」「断っていいのか?」「電話を切っていいのか?」──この迷いが、対応を長引かせ、従業員の心を削ります。
本記事で紹介した判断基準があれば、少なくとも「根拠を持って判断できる」状態になれます。そして、根拠があれば、上司への報告も、法務への相談も、警察への相談も、すべてがスムーズになります。
📌 まずは本記事の「対応終了の判断基準」と「記録に残すべき項目」を、自社のカスハラ対応マニュアルや研修資料に組み込めるか、上司や法務と共有してみてください。
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現場で「今すぐ使える」ツールを、まとめてお届けします。
人事・お客様相談室・店舗責任者・コンタクトセンターなど、
カスハラ対応の一次窓口となる担当者向けに設計されています。
※本プロンプト集は法的助言の代替ではありません。重大な事案は弁護士にご相談ください。

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