FIT(固定価格買取制度)の時代が終わり、再エネは「自立化」の名のもとにNon-FIT制度へと大きく舵を切りました。
法務としてこの変化を見つめていると、ある違和感が拭えません。
制度は自由になった。けれど、現場の自由は減っている。
FIT時代の“安心感”と法務の役割
FIT制度下では、以下のような前提がありました:
- 20年間の固定価格での売電保証
- 経産省認定と電力会社の接続契約がセットで進行
- 買取先は常に「地域の一般送配電事業者」
つまり、法務としては「制度の中でどう安全に組むか」を考えればよかったのです。行政のガイドラインを読み、認定条件に合致するスキームを設計し、定型的な契約書を整備する──ある意味、読みと対応力で乗り切れる時代でした。
Non-FIT移行がもたらす複雑さ
Non-FITでは、電力の出口は市場連動のFIP、相対契約、自己託送など多様化。制度は柔軟になりましたが、その分、以下のような新たな法務的負担が生じています:
- FIP制度の複雑な価格補填ロジックの理解(ベースライン、基準価格、取引市場の指定など)
- 需要家との長期契約(PPA)の個別交渉と契約書リスク
- 非化石証書(トラッキング付き)など環境価値取引の知識と契約管理
- 制度変更の頻度増加に伴う契約書見直しと社内周知
FIT時代では考えられなかった「スキーム設計から出口交渉まで」すべてに、法務が関与する必要が出てきたのです。
Non-FIT時代における法務の“新しい役割”
もはや契約書のひな形修正だけでは済みません。
Non-FITの法務には、次のような対応力が求められます:
- 制度趣旨と運用のギャップを翻訳し、社内に伝える
- 相対契約の交渉と、信用リスク・履行リスクの見極め
- 契約・環境価値・補助金など複数制度の“立体的整合性”を保つ
- 制度変更を前提とした可変型スキームの構築
たとえば、「契約開始時点ではFIP、将来的に相対契約に切り替えることを想定した売電契約」や「証書制度の変更にも対応可能な環境価値付加条項」など、制度の揺らぎを織り込んだリーガルデザインが求められています。
結局、自由とは自己責任ということ
Non-FIT制度は、再エネ事業者にとって“選択の自由”を与えたように見えて、その実、リスクを見極めて引き受ける力がなければ、制度の波に呑まれるだけです。
自由の代償は、自己責任。そしてその責任を事前に織り込むのが、今の法務の仕事です。
制度は日々変わります。でも、変わらないのは「法務が事業の防波堤であるべき」という立ち位置。
今日もまた、新しい通知を読み込みながら、どこまで制度に委ね、どこから自己防衛するか──その境界線を探っています。