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【実務解説】つながらない権利とは?勤務時間外の連絡が「残業」になる境界線と就業規則の作り方

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【実務解説】「つながらない権利」──勤務時間外の連絡リスクと就業規則・運用ルールの作り方|Legal GPT
実務解説

「つながらない権利」と企業の実務対応
──勤務時間外の連絡リスクと就業規則・運用ルールの作り方

夜21時、上司からSlackで「明日の会議資料、今見れる?」。返信は5分で済んでも、これが常態化すると未払残業代・安全配慮義務・ハラスメントのリスクが一気に立ち上がります。
「つながらない権利」は福利厚生の話ではなく、労働時間管理とマネジメント設計の問題です。

最終更新:2026年2月 Legal GPT|法務×AI実務ポータル

1. 「つながらない権利」とは何か──30秒で掴む全体像

「つながらない権利(Right to Disconnect)」とは、勤務時間外において業務上のメール・電話・チャット等への対応を拒否できる権利です。フランスが2017年に法制化して以降、イタリアやオーストラリア(2024年から段階的に導入)など各国で法整備が進んでいます。

日本では2025年1月、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」報告書でガイドライン策定が提言されました。ただし2025年12月、上野厚生労働大臣が閣議後会見で労基法改正案の通常国会への提出見送りを表明しています。施行時期は不透明ですが、改正議論そのものは消滅しておらず、現行法上の企業リスクは法改正の有無と無関係に存在しています。

⚠ 法務実務上の重要ポイント
法案提出見送り=企業リスクの消滅ではありません。未払残業代・安全配慮義務違反・パワハラ認定のリスクは、いずれも現行法の下で既に存在しています。「法制化の延期=何もしなくて良い」ではなく、今のうちに自社に合ったルールを定着させる猶予期間と捉えるべきです。

2. 現場で起きがちな5パターン(この瞬間にリスクが立つ)

法的リスクの話に入る前に、「うちの会社で実際に起きていないか?」を確認しましょう。以下の5パターンのうち1つでも心当たりがあれば、本記事の対応策が役立ちます。

5つのパターンを見る
① 「今見れる?」の一言
22時、上司がSlackで「明日の資料、今見れる?」。既読マークが付き、心理的に無視できない。返信は5分でも、それは「指揮命令下」の5分間。
② 「確認だけ」でタスク発生
「確認だけしておいて」──見たら修正点を発見。結局30分作業。”確認”の名のもとに業務が発生する典型例。
③ 夜に投下→翌朝”片付いている前提”
上司が夜中にタスクを投げ、翌朝9時の打合せで「もう終わってるよね?」。明示的な指示がなくとも、黙示の業務命令と評価され得るパターン。
④ 休日にグループチャットで業務が進む
日曜のグループチャットで来週の方針が決まり、月曜朝には「もう決まったこと」に。参加しなかった社員は意思決定から排除される。
⑤ 何でも「緊急」になる問題
緊急の定義がないため、「念のため」「早めに共有」がすべて”緊急連絡”扱いに。結果、通知オフのハードルが上がる。

これらに共通するのは、「送信者の意図」と「受信者の負担感」にギャップがある点です。送信者は「返信不要のつもり」でも、受信者は「既読なのに無視していいのか」と心理的に拘束されます。このギャップが、次章で解説する法的リスクの起点になります。なお、これらのリスク評価は個別事案ごとの事情(連絡の頻度・返信期待の強度・実作業の有無等)によって異なる点にご留意ください。

3. 勤務時間外のSlack・LINEは労働時間になる?──現行法の包囲網

日本に「つながらない権利」を明文化した法律はまだありません。しかし、以下の現行法が組み合わさることで、実質的な規制の包囲網がすでに形成されています。

(1)労働基準法32条・37条──未払残業代リスク

労働時間の該当性は、使用者の指揮命令下に置かれているか否かで判断されます(三菱重工長崎造船所事件・最判平12年3月9日)。勤務時間外のメッセージに返信した場合、その時間は指揮命令下にあったと評価され得ます。返信を事実上義務付ける運用は、労働時間該当性を高め、結果として未払残業代リスクを顕在化させ得ると考えられます。

(2)労働契約法5条──安全配慮義務違反

使用者は労働者の生命・身体の安全を確保するよう配慮する義務を負います。恒常的な時間外連絡がメンタルヘルス不調の一因となった場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。「返信しなくてもいいが通知は来る」状態であっても、個別の事情次第では心理的負荷の評価要素になり得る点に留意が必要です。

(3)パワハラ防止法(労推法30条の2)

上司が深夜に繰り返しメッセージを送り即レスを暗黙に求める行為は、優越的な関係を背景とした精神的な攻撃や過大な要求に該当し得ます。返信遅延に対する不利益評価が加われば、ハラスメントリスクはさらに高まります。

(4)勤務間インターバル制度──義務化の検討が継続中

終業から次の始業までに一定の休息時間(原則11時間が議論の軸)を確保する制度は、現在努力義務にとどまりますが、義務化が検討されています。義務化が実現すれば、深夜の連絡で部下を稼働させた場合、翌朝の始業を遅らせる義務が生じ得るなど、業務運営への影響は甚大です。

【図表】現行法上の企業リスク全体像
リスク類型根拠法令顕在化シナリオ想定されるインパクト
未払残業代請求 労基法32条・37条 時間外のメール対応が労働時間と認定 遡及3年(将来5年へ延長議論あり)の支払リスク
安全配慮義務違反 労契法5条 恒常的な時間外連絡によるメンタル不調 損害賠償+企業イメージ毀損
パワハラ認定 労推法30条の2 上司からの深夜連絡+即レス圧力 行政指導・社名公表リスク
労災認定 労災保険法 過重な心理的負荷による精神障害 労災保険料率上昇+民事訴訟

4. 連絡の種類別リスク判定表──「アウト」と「セーフ」の境界線

現場の管理職が最も知りたいのは「この連絡はアウトか、セーフか」の判断基準です。以下の表は法的な評価を断定するものではありませんが、社内ルール設計時の目安としてご活用ください。

連絡の内容返信期待実作業リスク評価推奨運用+添え書き例
情報共有のみ(FYI) 低〜中 予約送信に切替。「翌営業日確認でOK」を明記「返信不要です。明日でOK」
「確認して」「見ておいて」 有の場合あり 中〜高 「対応は勤務時間内に」の固定文言を添付「対応は明日でOK。緊急なら電話します」
「今日中に」「至急」 時間外指示の承認フローを必須化※部門長承認済の場合のみ送信可
障害対応・災害等 高(ただし必要性あり) 緊急定義リスト+待機手当+代休付与「緊急対応依頼(定義A該当)。代休手配済」
グループチャットでの議論 不明確 参加の有無で差 業務チャンネルの投稿時間帯を制限「※業務チャンネルへの投稿は9:00-19:00」
✅ 判断のコツ
リスク評価のポイントは「返信期待の強度」と「実作業の発生有無」の掛け算です。「情報共有のつもりでも、事実上の指示になっていないか」を送信前に確認する習慣が、リスクを大幅に下げます。上記の添え書き例を自社用にカスタマイズし、送信ルールとして定着させることを推奨します。

5. つながらない権利に備える就業規則の改定ポイント(条文の考え方)

就業規則改定は、制度の実効性を担保する法的基盤です。以下の4つの条項を整備することで、ガイドライン策定や将来の法制化にも先行対応できます。

① 勤務時間外連絡の原則禁止・返信義務の不存在・通知オフ推奨

条文イメージ
第○条(勤務時間外の業務連絡)
1. 従業員は、所定労働時間外において、業務に関する電子的連絡(メール、チャット、電話等)の送信を原則として控えるものとする。会社は、勤務時間外における通知停止(通知オフ)の設定を推奨する。
2. 所定労働時間外に業務連絡を受信した場合であっても、従業員は翌営業日の所定労働時間内に対応すれば足りるものとし、即時の返信義務は負わない。
3. 前項の規定にかかわらず、やむを得ず所定労働時間外に業務対応を行った場合は、従業員はその時間を速やかに自己申告するものとし、会社は相応の賃金を支払うか、または翌営業日の始業時間を繰り下げる措置を講ずるものとする。
4. 第2項の規定に基づき返信を行わなかったことを理由として、人事評価その他の処遇において不利益な取扱いをしてはならない。
💡 第3項のポイント
「やむを得ず対応した場合」の処理を明記することで、未払残業代リスクを封じ込めつつ、勤務間インターバルの趣旨(休息時間の実質的確保)にも整合します。自己申告+始業繰下げの選択肢を用意しておくことが実務上のカギです。

② 緊急連絡の定義と承認フロー

完全遮断は非現実的です。「緊急」を限定列挙し、所定の手続を経た場合のみ例外とします。

📋 緊急連絡の定義例(限定列挙)
A. システム障害

基幹システム・顧客向けサービスの全面停止

B. 災害・事故

地震・火災等の物理的災害、人命に関わる事態

C. 法令上の緊急期限

翌営業日では法令違反が確実となる届出・報告

D. 重大コンプライアンス事案

情報漏洩、重大事故の発生等

※「念のため」「早めに共有」は上記に該当しません。判断に迷う場合は翌営業日扱いとします。

③ 時間外指示の事前承認制

緊急定義に該当する場合であっても、所定の承認者(部門長等)の事前承認を経ることをルール化します。これにより「なんでも緊急」の範囲膨張を防止します。

④ 評価制度との明確な切断

「即レス=やる気がある」という評価軸が残っていると制度は形骸化します。「時間内に業務を完結させる能力」を正の評価指標とし、「時間外に部下に連絡を回すマネジメント」をマイナス要素として明示することが重要です。

関連記事
【2025年最新版】就業規則改定チェックリスト完全ガイド|法改正対応から運用まで5段階で徹底解説
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6. 勤務時間外連絡を減らす5ステップ──人事・法務・情シス・現場の分担

【図】導入フロー全体像
1
実態の可視化
ログ解析+
従業員アンケート
2
緊急連絡の
定義策定
限定列挙+
労使合意
3
ITインフラ
設定変更
通知制御+
予約送信
4
規程改定+
社外周知
就業規則届出+
取引先通知
5
運用開始+
モニタリング
KPI測定+
定期見直し

ステップ1:実態の可視化(担当:人事+情シス)

まず自社における勤務時間外の連絡実態をデータで把握します。勤怠システムとチャットツール(Slack / Teams等)のログを突き合わせ、深夜・休日にどの程度の投稿・返信が行われているか抽出します。「上司→部下」だけでなく、「部下→上司(承認依頼)」や「同僚間」の連絡実態も把握することが重要です。併せて従業員アンケート(ストレス度調査)を実施し、定量+定性の両面で現状を捉えます。

ステップ2:緊急連絡の定義策定(担当:法務+現場部門)

前章で示した「緊急の限定列挙」を、職種・部門ごとにカスタマイズします。IT部門は「システム障害」の具体的閾値を、営業部門は「顧客対応」の範囲を、それぞれ労使で協議して合意します。

⚠ よくある失敗:「法令期限」の範囲膨張
「法令上の期限」を緊急に含める場合、範囲が際限なく広がりがちです。条件は「翌営業日では法令違反が確実」に厳格に限定し、「早めに出したい」「念のため確認」は明確に除外してください。

ステップ3:ITインフラの設定変更(担当:情シス)

意識改革には時間がかかります。システムで制限をかけるのが最も即効性があります。

  • Slack / Teamsの「おやすみモード」の自動スケジュール設定を全社的に推奨または義務化
  • Outlookの「配信タイミング」機能による予約送信の徹底(研修実施)
  • 時間外に送信しようとすると「相手は勤務時間外です」と警告表示される機能の有効化
  • 業務チャンネルへの投稿時間帯制限の設定(Bot活用)

ステップ4:規程改定+社外周知(担当:法務+人事+広報)

就業規則への明文化(前章参照)に加え、社外への周知も不可欠です。担当者レベルでは取引先に「返信できません」と言いにくいため、会社としてのメッセージを出すことが重要です。主要取引先への文書送付、メール署名への定型文導入、ウェブサイトでの公式ポリシー掲載を同時に進めます。

ステップ5:運用開始+モニタリング(担当:人事+各部門長)

本運用開始後は、以下のKPIを定期的に測定し、PDCAを回します。

KPI測定方法目標値(参考)
時間外送信率20時以降の投稿数 / 全投稿数5%以下
時間外返信率20時以降の返信数 / 20時以降の受信数10%以下(緊急除く)
従業員ストレス度半年ごとのアンケート(5段階)前回比改善
管理職の時間外送信件数管理職別の個別集計月10件以下

7. 担当者別チェックリスト──誰が何をやるか

👤 人事・労務
  • 勤務時間外連絡の実態調査(ログ+アンケート)の実施
  • 就業規則に「勤務時間外連絡規定」を新設し、届出
  • 評価制度から「即レス」指標を除外し、「時間内完結力」を追加
  • 管理職向け「つながらない権利」研修の企画・実施
  • 勤務間インターバル制度の導入準備(将来の義務化に備え)
⚖ 法務
  • 現行法上のリスク整理(未払残業代・安全配慮義務・パワハラ)
  • 就業規則改定条文のドラフト+労働法弁護士との確認
  • 緊急連絡の定義リスト策定+労使協議の支援
  • 取引先向け「レスポンスポリシー」の文言作成
  • 法改正動向のモニタリング+経営層への報告
🖥 情報システム
  • チャットツールの「おやすみモード」自動設定の全社展開
  • Outlookの予約送信機能の研修資料作成+配信
  • 時間外送信時の警告表示機能の有効化
  • 業務チャンネルへの投稿時間帯制限Bot(必要に応じ)
  • 時間外送信率の月次レポート自動生成
📋 現場部門長・管理職
  • 部門内の「緊急連絡」定義の具体化(IT障害の閾値、顧客対応の範囲等)
  • 当番・待機の設計(待機手当・代休の整理を含む)
  • 自身の送信前チェック習慣の定着(後述テンプレ活用)
  • 部下のチャット返信パターンの確認(同調圧力の兆候チェック)
  • チーム内での運用ルールの合意形成

8. すぐ使えるテンプレート集

以下のテンプレートは、自社の状況に合わせて修正のうえそのままご利用いただけます。

メール署名テンプレート

コピペ用
──────────────────
【勤務時間外の連絡について】
当社では従業員の健康確保と生産性維持のため、
19:00以降および休日の連絡への回答は
翌営業日とさせていただいております。
お急ぎの場合は緊急連絡窓口 (XXX-XXXX) へお問合せください。
──────────────────

Slack / Teams 自動返信テンプレート

コピペ用
🔕 勤務時間外のため、対応は翌営業日となります。
緊急の場合は「緊急連絡定義」に該当するか確認のうえ、
所定の緊急連絡フロー(社内Wiki: [URL])に従ってください。
ご理解のほどよろしくお願いいたします。

管理職向け「送信前チェック」3問

📱 送信前に3秒で確認
① これは「緊急連絡の定義」に該当するか?
→ 該当しない場合、予約送信に切り替える。

② 今送らないと、会社・顧客に具体的な損害が発生するか?
→ 「念のため」「早めに」は損害発生に該当しない。

③ 明日朝の優先順位づけで足りないか?
→ 足りるなら、下書き保存して翌朝送信する。

取引先向け公式アナウンス文

コピペ用
平素より格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。

弊社では、従業員の安全配慮および業務品質の維持向上を目的として、
勤務時間外(平日19:00〜翌8:30および休日)における
業務連絡への即時対応を控えさせていただいております。

上記時間帯にいただいたご連絡につきましては、
翌営業日の午前中を目途に回答いたします。
緊急のご用件がございましたら、下記窓口までご連絡ください。

緊急連絡窓口:XXX-XXXX(24時間対応)

何卒ご理解ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
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9. 導入スケジュール──法改正を見据えた実務ロードマップ

法案提出は見送られましたが、改正議論は労働政策審議会で継続中です。今後の検討次第で施行時期は前後し得ますが、議論の射程としては数年内が視野に入ります。この「猶予期間」を活かし、段階的に準備を進めることが重要です。

Phase 1 ── 分析・現状調査
深夜・休日連絡のログ解析+従業員アンケート
勤怠データとチャットログの突合せによる定量分析。部署別・職位別の傾向を可視化し、経営層への報告資料を作成。
Phase 2 ── ルール策定
労使協議の開始+職種別「緊急連絡定義」の策定
法務・人事・現場管理職の三者で連絡ルールを策定。IT部門・営業部門等、部門ごとの緊急定義のカスタマイズ。
Phase 3 ── 試行運用(PoC)
特定部署での「時間外連絡制限」のテスト導入
パイロット部署で3ヶ月間運用し、課題を抽出。業務への支障、従業員の満足度、KPIの推移を記録。
Phase 4 ── 規定整備・周知
就業規則改定届出+社外アナウンス+管理職研修
PoCの結果を踏まえた最終版規程の策定。取引先への一斉通知。全管理職向けの集合研修またはeラーニング。
Phase 5 ── 全社本運用
全社導入+KPIモニタリング開始
時間外送信率・返信率の月次レポート開始。四半期ごとの振り返りと改善サイクルの定着。法改正動向との整合性チェック。

※法改正の動向(通常国会における法案提出・審議の状況)により、上記スケジュールは前後する可能性があります。厚生労働省の最新の公表資料を定期的にご確認ください。

10. 勤務間インターバル制度・カスハラ対策との接続

「つながらない権利」は単独の論点ではなく、2つの隣接制度と不可分の関係にあります。この接続を理解しておくと、社内での説明力が格段に上がります。

勤務間インターバル制度との関係──「中断」問題

現在の改正議論の主眼は「勤務間インターバル(原則11時間の休息確保)」の義務化にあります。ここで実務上の難問が生じます。インターバル中に連絡をして返信させた場合、その時点でインターバルがリセット(中断)されるのか?という問題です。

仮にリセットされると解釈される場合、深夜1時に5分返信しただけで、翌朝の始業が正午まで後ろ倒しになり得ます。つまり、「つながらない権利」の連絡制限は、インターバルの中断を防ぐための不可欠な前提条件という位置づけになります。インターバル制度を「導入しただけ」では実効性は確保できず、時間外の連絡制限とセットで制度設計する必要がある点は、経営層への説明において極めて重要です。

カスハラ防止措置義務化(2025年成立)との関係──「社外からの連絡」問題

カスタマーハラスメント防止に関する法的措置が具体化される中、顧客からの時間外連絡をどう扱うかは、つながらない権利とカスハラ対策の交差点に位置する論点です。

「お客様第一」を理由に、深夜・休日の顧客対応を個人の担当者に押し付ける運用は、安全配慮義務違反のリスクに加え、カスハラ対策の観点からも問題があり得ます。「勤務時間外の顧客連絡を制限することは、従業員をカスハラから守る会社の姿勢の表れでもある」──この文脈で整理すると、社外向けアナウンス(前章テンプレート参照)の必要性がより明確になります。

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11. 経営リスクとしての位置づけ──法務部から経営層に伝えるべきこと

「つながらない権利」の議論を「福利厚生の話」として矮小化すべきではありません。法務部が経営層に説明する際は、以下の3つの軸で「経営の問題」として位置づけることが有効です。

軸①:隠れ残業の財務リスク

勤務時間外の連絡対応が「隠れ残業」として蓄積されれば、遡及的な未払残業代請求のリスクが経営を直撃します。消滅時効の5年への延長議論もあり、最大インパクトは年々拡大しています。

軸②:法改正への先行対応=コスト削減

法案提出は見送られましたが、研究会報告書の提言は否定されていません。施行直前に対応を迫られるよりも、今この猶予期間に段階的に体制を整備する方が、コストもリスクも低いのは明らかです。

軸③:採用ブランディング

「つながらない権利」を尊重する企業姿勢の対外発信は、採用ブランディングの強化に直結します。ウェルビーイングへの取組みは、特に若手人材の獲得競争において有力な差別化要因です。

💡 経営層向けサマリ(1枚ペーパー用)
「つながらない権利の確保は、単なる福利厚生ではありません。隠れ残業を可視化し、将来の労基法改正(勤務間インターバル義務化等)への適合を前倒しで進めるための、経営戦略的なリスクマネジメントです。法制化が見送られた今こそ、他社に先んじてルールを整備し、採用ブランディングへ転化するチャンスです。」
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12. FAQ(よくある質問)

Q1. 勤務時間外のLINEは残業になりますか?

使用者の指揮命令下にあると評価されれば、労働時間に該当し得ます。上司からの業務連絡に返信した場合はもちろん、「確認だけ」の指示であっても実質的に即時対応を求めるものであれば、労働時間と認定されるリスクがあります。重要なのは「形式的な返信義務の有無」ではなく「事実上の拘束の強度」であり、個別の事情(連絡の頻度・内容・上司の期待度等)により評価が異なります。

Q2. 管理職でも「つながらない権利」の対象になりますか?

労基法41条2号の「管理監督者」に該当する場合、労働時間規制の適用は除外されます。しかし、安全配慮義務やパワハラ防止法の適用は管理監督者にも及びます。今回の改正議論でも管理監督者への健康確保措置の強化が検討されており、「管理職だから無関係」とは言えません。

Q3. 返信しなかったことで人事評価が下がるリスクは?

「つながらない権利」の核心は、権利行使によって不利益を受けないことにあります。現行法上も、合理的理由のない不利益評価は人事権の濫用として違法と評価される可能性があります。就業規則で「不利益取扱いの禁止」を明文化しておくことが重要です。

Q4. 法制化されたら「禁止」型になるのか?

研究会報告書ではガイドライン策定による労使の自主的なルール検討促進が提言されており、フランス型の「協議義務」に近い方向性と考えられます。一律禁止ではなく、企業の実情に応じた柔軟な制度設計が求められる見通しです。

Q5. IT障害対応で待機が必要な部門はどうすればいい?

待機時間の扱いは労働時間か否かの判断が分かれる論点です。「場所的拘束があるか」「頻度・対応の即時性が高いか」等で評価が異なります。待機手当の支給、代休の付与、当番制の設計を組み合わせ、就業規則に明記しておくことが実務上の対応策です。

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13. まとめ

「つながらない権利」は、単なる「休み中の連絡禁止」ではありません。労働時間管理、安全配慮義務、ハラスメント防止、評価制度、勤務間インターバル、カスハラ対策──企業経営の根幹に関わる横断的な論点です。

法案提出は見送られましたが、現行法上のリスクはすでに存在しています。法制化されてから慌てて対応するのではなく、今この準備期間を活かして、実態の把握→ルール策定→ITによる仕組み化→規程改定→運用定着の5ステップを段階的に進めることが、リスク低減と企業価値向上の両面で最善の戦略です。

本記事が貴社の実務対応の一助となれば幸いです。

※本記事は2026年2月時点の情報に基づいています。法改正の動向は流動的であるため、最新の情報は厚生労働省の公表資料をご確認ください。

参考:厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」(2025年1月)/厚生労働省労働基準局「労働時間法制の具体的課題について」(2025年10月)/日本労働組合総連合会「”つながらない権利”に関する調査2023」

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