法改正

【施行まで11ヶ月】【2026年12月1日施行決定】改正公益通報者保護法── 体制整備の再点検と実効性向上への準備

⚡ 施行まで11ヶ月 2026年12月1日施行決定

改正公益通報者保護法
── 体制整備の再点検と実効性向上への準備

刑事罰3,000万円・推定規定導入・探索行為禁止──
「形式的な制度整備」から「実効性のある制度運用」への転換が求められる

はじめに──施行日が正式決定

2025年12月10日、「公益通報者保護法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(令和7年政令第408号)が公布され、改正公益通報者保護法の施行日が2026年12月1日と正式に決定した。

本改正法は、2025年6月11日に公布された「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和7年法律第62号)に基づくものであり、公布から1年6月以内の施行とされていたところ、予定どおり2026年12月1日からの施行となる。

施行まで残り約11ヶ月。企業法務・コンプライアンス担当者にとっては、現行の内部通報制度が改正法の要件を満たしているか、早急な確認と対応が求められる局面である。本稿では、改正法の概要を整理したうえで、実務上の対応ポイントと、経営層への説明に使える想定Q&Aを解説する。

改正の背景──2022年改正後も残った課題

2020年(令和2年)の改正により、2022年6月から従業員301人以上の事業者に対する体制整備義務(公益通報対応業務従事者の指定義務を含む)が施行された。しかし、その後の運用状況を見ると、以下のような課題が依然として存在していた。

(1)通報制度の形骸化

消費者庁の調査によれば、内部通報窓口の年間受付件数が「0件」と回答した事業者が30.0%に上り、制度が十分に機能していない実態が明らかとなった(公益通報者保護制度検討会報告書5頁)。

(2)通報者への報復的取扱い

有益な通報を行った者に対する不利益取扱いや、通報者を特定しようとする「探索行為」が依然として行われており、通報をためらわせる構造的問題が根強く存在していた。

(3)国際的な要請

OECD贈賄作業部会の第4期対日審査報告書や、国連ビジネスと人権作業部会の訪日調査報告書において、通報者保護の強化が求められていた。

こうした状況を受け、消費者庁は2024年5月から12月にかけて「公益通報者保護制度検討会」を9回開催し、同年12月27日に「公益通報者保護制度検討会報告書」を取りまとめた。本報告書の提言を反映したのが今般の改正法である。

改正法の概要──4つの柱

1. 体制整備の徹底と実効性の向上

(1)従事者指定義務違反に対する行政措置権限の強化

現行法では、従事者指定義務(法11条1項)に違反する事業者に対し、内閣総理大臣(実務上は消費者庁が所管)は「助言・指導」「勧告」「公表」の権限を有するにとどまっていた。

改正法では、従事者指定義務(法11条1項)を中心に、行政の執行権限が段階的に強化される。具体的には、勧告に従わない場合の命令、公表、さらに命令違反等に対する刑事罰が整備され、形式的な体制整備にとどまらない実効性確保が図られている。

他方、体制整備・周知(法11条2項)についても勧告・公表等の枠組みの下で監督が及び得るため、企業は「従事者指定」「制度設計・周知」「記録化」を一体として点検する必要がある。

権限 根拠条文(改正後) 法定刑
命令権 法15条の2第2項 勧告に従わない場合に発動
立入検査権 法16条1項 報告徴収に加え、立入検査を含む実効的な調査権限が整備
刑事罰(命令違反) 法21条2項 個人:30万円以下罰金/法人:30万円以下罰金(両罰)
刑事罰(検査拒否等) 法21条2項 個人:30万円以下罰金/法人:30万円以下罰金(両罰)

※対象は常時使用する労働者の数が300人を超える(=301人以上)事業者

(2)周知義務の法律上の明文化

現行法では、従業員に対する内部通報制度の周知は法定指針(告示)において規定されていたが、改正法では法律上の義務として明文化される(改正後法11条2項)。

(3)通報対象法令の射程拡張

改正後の法2条3項2号により、公益通報の対象法令の射程が「別表」から「この法律及び別表」へ拡張される。これにより、体制整備義務違反等も通報・情報提供の俎上に上がりやすくなる。

💡 法務の独り言:別表から「この法律」への拡張の意味

改正法2条3項2号により、体制整備義務違反(従事者の未指定など)自体が通報対象になる。これは、「会社が法律を守っていないことを、労働者が消費者庁に直接チクる権利」を強力に裏付けるもの。つまり、法務担当者が「うちはまだ準備できていません」と放置すること自体が、内部通報の火種になるという「逃げ場のない構造」になったと言える。

2. 公益通報者の範囲拡大

(1)フリーランスの追加

改正法では、公益通報者の範囲にフリーランスが追加される(改正後法2条1項3号)。具体的には、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス新法)第2条第2項に規定する「特定受託業務従事者」が対象となる。

フリーランスが公益通報を行った場合、事業者は公益通報を理由として以下の行為を行うことが禁止される(改正後法5条)。

  • 業務委託契約の解除
  • 取引数量の削減
  • 取引停止
  • 報酬の減額
  • その他不利益な取扱い

(2)退職後フリーランスの保護

業務委託関係が終了してから1年以内のフリーランスについても、公益通報者として保護の対象となる(改正後法2条1項3号ロ)。

3. 公益通報を阻害する要因への対処

(1)通報妨害行為の禁止

改正法では、事業者が労働者等に対し、正当な理由なく以下の行為を行うことが禁止される(改正後法11条の2第1項)。

  • 公益通報をしない旨の合意をすることを求める行為
  • 公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げる行為
  • その他公益通報を妨げる行為

これに違反してなされた合意等の法律行為は無効とされる(同条2項)。

(2)通報者探索行為の禁止

改正法では、事業者が正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的とする行為(いわゆる「探索行為」)を行うことが禁止される(改正後法11条の3)。

「正当な理由」については、通報者がどの部署に所属し、どのような局面で不正を認識したか等を特定しなければ、通報内容の信憑性や具体性に疑義があり必要性の高い調査が実施できない場合に、従事者が通報者に詳細情報を問う行為等が考えられるとされている(検討会報告書12頁参照)。

⚠️ 実務上の注意:守秘義務違反との「ダブルパンチ」リスク

探索行為が禁止されるのは「事業者(組織)」だが、一方で「従事者(法務担当者など)」には現行法から引き続き刑事罰付きの守秘義務がある。一般社員や管理職による探索を禁じるだけでなく、従事者がうっかり漏らしてしまうことが「守秘義務違反(刑事罰)」と「探索行為の誘発」のダブルパンチになる点に注意。

4. 不利益取扱いの抑止・救済の強化

本改正の最大の特徴は、不利益取扱いに対する刑事罰の導入推定規定の導入(立証負担の大幅軽減)である。

(1)推定規定の導入

現行法では、労働者が「不利益取扱いが公益通報を理由として行われた」ことを立証する責任を負っており、この立証負担の重さが通報をためらわせる要因の一つとされていた。

改正法では、通報後1年以内の解雇または懲戒について、公益通報を理由としてなされたものと推定する規定が設けられる(改正後法3条3項)。

この推定規定により、通報後1年以内に解雇・懲戒がなされた場合、事業者側が「公益通報以外の正当な理由」を反証しない限り、当該処分は公益通報を理由とするものと推定されることになる。

※本規定はあくまで「推定」であり、会社側が正当な理由の存在(抗弁)を立証すれば覆せる。

(2)刑事罰の新設

対象行為 法定刑(個人) 法定刑(法人) 根拠条文
公益通報を理由とする解雇・懲戒 6月以下の拘禁刑
または30万円以下の罰金
3,000万円以下の罰金 法21条1項
法23条1項1号
公務員に対する不利益取扱い 6月以下の拘禁刑
または30万円以下の罰金
法21条1項

📌 条文別の法人罰金額に注意
・法21条1項(解雇・懲戒)の法人罰=3,000万円
・法21条2項(命令違反・検査拒否等)の法人罰=30万円
条文により法定刑が大きく異なるため、社内説明資料作成時は混同に注意。

※刑事罰の対象外でも民事・行政措置の対象に
刑事罰は解雇・懲戒に限定されているが、「降格、減給、出勤停止、配置転換、退職勧奨」などの不利益取扱いは、引き続き民事上無効(不法行為)となり、行政処分(勧告・公表)の対象となる点に変わりはない。

改正法が抱える「4つのジレンマ」──批判的検討

改正法の理念は通報者保護の強化という点で評価されるが、実務に落とし込むと以下のような懸念も指摘されている。法務担当者としては、これらの「副作用」も理解したうえで体制整備を進める必要がある。

⚖️ ジレンマ1:「推定規定(1年ルール)」の悪用リスク

懸念点:能力不足や規律違反で以前から問題があった従業員が、「解雇・懲戒を逃れるための盾」として、あえてこの時期に通報を行う「戦略的通報」が増える可能性がある。

実務の壁:企業は「通報とは無関係であること」の反証を求められるが、「100%無関係」を証明するのは悪魔の証明に近い。解雇・懲戒のハードルが実質的にさらに上がることになる。

🔍 ジレンマ2:「探索行為の禁止」による調査の萎縮

懸念点:不正の全容解明には、「誰が、いつ、どこで見たか」の詳細が不可欠。しかし、調査の過程で「あの部署の人間しか知り得ない情報」を精査するだけで、「探索行為だ」と通報者から訴えられるリスクが生じる。

実務の壁:調査担当者が通報者からの訴訟リスクを恐れ、調査が及び腰(形骸化)になるという逆転現象が起きかねない。

🤝 ジレンマ3:「フリーランス」への対応コストと紛争リスク

懸念点:従業員であれば就業規則や社内教育でコントロール可能だが、外部のフリーランスに対し、どこまで「内部通報窓口の周知」や「教育」を徹底すべきか、そのコスト対効果が疑問視される。

実務の壁:取引終了(契約満了・更新拒否)を、「通報を理由とした不利益な取扱い」と主張されるケースが増えることが予想され、業務委託契約の更新判断が非常にセンシティブになる。

⚠️ ジレンマ4:「刑事罰」の限定的な適用範囲

懸念点:実際の現場で行われる陰湿な報復は、「仕事を与えない」「重要な会議から外す」「昇進を遅らせる」といった、刑事罰の対象外となる「グレーな不利益取扱い」が主流である。

実務の壁:「一番きつい報復は刑事罰にならない」という事実は、通報者にとっては依然として不安要素であり、改正法が本当に通報を促進する「実効性」を持つのかについては、批判的な見方も残っている。

💼 実務上のヒント:戦略的通報への備え

改正法により、通報後1年以内の処分には「報復の推定」が働く。これを逆手に取った「処分逃れの通報」から会社を守るためには、通報の有無にかかわらず、日頃からのパフォーマンス評価や指導記録を「いつ、誰が、どう指導したか」というレベルで客観的な証拠として積み上げておくことが、これまで以上に法務・人事の最重要課題となる。

経営層への説明用:想定Q&A

一人法務の担当者にとって、法改正対応で最も高いハードルは「経営層への説明と理解(リソース確保)」である。以下に、経営層からの典型的な質問に対する回答案を示す。

Q1. 「通報後1年以内は解雇できない」というのは本当か?問題社員が「盾」として通報を悪用したらどうするんだ。

「解雇できない」わけではありませんが、ハードルが劇的に上がったのは事実です。改正法では「通報後1年以内の解雇・懲戒は、通報が理由である」と法律上推定されます。これを覆すには、会社側が「通報とは無関係な、客観的で正当な理由」を証明しなければなりません。

今後は、通報が起きてから慌てて証拠を探すのではなく、日頃からの人事評価や指導記録を「いつ、誰が、どう指導したか」というレベルで厳格に文書化しておくことが、最大のリスクヘッジになります。

Q2. 刑事罰(罰金3,000万円)なんて、よっぽど悪質なケースだけだろう?うちには関係ないのでは?

そう言い切れないのが今回の改正の怖いところです。これまでは行政からの「勧告」止まりでしたが、今後は「解雇・懲戒」が報復とみなされれば、いきなり刑事罰の対象になります。

特に「3,000万円」という法人罰金は、他の労働法規と比べても極めて高額です。万が一起訴されれば、「法令遵守ができていない企業」として社会的信用は失墜します。「うちは大丈夫」という過信が、経営上の最大のリスクになり得ます。

Q3. 「通報者を捜すな」と言われては、まともな内部調査ができないのではないか?

確かに、調査には「誰が情報源か」の特定が必要な場面もあります。しかし、改正法が禁じているのは「報復や嫌がらせを目的とした探索行為」です。

「正当な理由」があれば調査は可能ですが、その線引きは非常にシビアです。今後は、法務や外部弁護士といった「従事者」のみが厳格に情報を管理する体制を徹底し、一般の管理職が勝手に犯人捜しをしないよう、社内教育をゼロからやり直す必要があります。

Q4. フリーランスまで窓口で受け付ける必要があるのか?手間が増えるだけではないか。

はい、法律上の義務になります。最近はフリーランス保護の機運が高まっており(フリーランス新法など)、外部の協力者からの通報を無視することはできません。

むしろ、外部の視点からの通報は「社内の人間が忖度して隠している不正」を早期発見するチャンスでもあります。窓口を広げることは、将来的な不祥事による巨額賠償リスクを数万円のコスト(体制整備)で抑えるための、「経営上の保険」だとお考えください。

実務上の対応ポイント

ポイント1:従事者指定の再点検

改正法施行後は、行政による立入検査や報告徴収が実施される可能性が高まる。以下の観点から従事者指定の状況を再点検すべきである。

  • 従事者として指定すべき者が漏れなく指定されているか
  • 従事者への指定通知が書面等で適切に行われているか(指定の証跡を残すことが重要)
  • 案件ごとに必要な従事者(社外取締役、監査役、顧問弁護士等)が適切に指定されているか
  • 従事者指定に関する記録が適切に保管されているか

ポイント2:内部通報規程の改訂

以下の事項について、社内規程の改訂が必要となる可能性がある。

  • 通報者の範囲:フリーランスを通報者の範囲に追加する規定の整備
  • 禁止行為の明文化:通報妨害行為の禁止、通報者探索行為の禁止、上記違反に対する懲戒処分規定
  • 推定規定への対応:解雇・懲戒の起案時点で「通報との非関連」を立証できる記録設計(証拠化)を必須化
  • フリーランス契約の更新判断基準:更新・満了の判断基準を事前に文書化

ポイント3:周知・研修の実施

改正法では周知義務が法律上明文化されることから、以下の対応が求められる。

  • 内部通報制度の存在・利用方法に関する全従業員への周知
  • 管理職向けの研修(通報者への報復禁止、探索行為禁止等)
  • フリーランス等外部取引先への通報窓口の周知

【フリーランス向け周知の媒体例】

  • 発注書・業務委託契約書の別紙
  • 検収・請求フローに乗るポータルサイト
  • NDAや業務ルール案内ページ

ポイント4:記録体制の整備

立入検査等への対応を見据え、以下の記録を整備・保管しておくことが重要である。

  • 従事者指定に関する書類
  • 通報受付から調査・是正措置までの対応記録
  • 通報者に対する人事上の措置(異動、評価等)の理由・経緯に関する記録

ポイント5:予算確保(新年度対応)

4月からの新年度予算に間に合わせるためには、1月・2月中に「これだけのリスクがあるから、外部窓口のフリーランス対応版へのアップグレード費用が必要だ」と決裁を取る必要がある。

施行までの11ヶ月ロードマップ(例)

時期 対応事項
0〜2ヶ月目
(2026年1〜2月)
現行規程・窓口・従事者指定の棚卸し(証跡確認)
法定指針改訂の動向確認
改修費用の予算確保(システム導入や外部窓口の契約更新)
3〜6ヶ月目
(2026年3〜6月)
規程改訂(妨害/探索禁止・フリーランス対応・記録保存義務の明文化)
外部弁護士との連携体制構築
6〜9ヶ月目
(2026年6〜9月)
研修実施(管理職/窓口担当/人事)
周知活動(全従業員・フリーランス等外部)
9〜11ヶ月目
(2026年9〜11月)
模擬通報→調査→是正→記録の通し稽古
監査・取締役会への報告、最終チェック

法定指針・逐条解説の改訂に注視

改正法の施行に向けて、消費者庁では以下の対応が予定されている。

  • 法定指針(告示)の改訂
  • 逐条解説の改訂
  • Q&Aの作成・公表
  • 各種周知活動(動画、リーフレット、広告等)

特に法定指針の改訂については、現行指針の規定事項の一部が法律事項に格上げされたことに伴う技術的修正にとどまるのか、体制整備義務の内容が拡充されるのかについて、今後の動向を注視する必要がある。

おわりに──「形式的な制度整備」から「実効性のある制度運用」へ

2026年12月1日の施行まで約11ヶ月。改正法は、従事者指定義務に関する行政措置権限の強化、不利益取扱いに対する刑事罰・推定規定の導入など、企業のコンプライアンス体制に大きな影響を与える内容となっている。

本稿で見たとおり、改正法には「光」だけでなく「影」もある。推定規定の悪用リスク、探索行為禁止による調査萎縮、フリーランス対応のコスト──これらの課題を認識したうえで、バランスの取れた体制整備を進めることが求められる。

施行日までに十分な準備期間を確保するためにも、早期に現行制度の点検を開始し、改正法への対応方針を検討することが肝要である。

📣 一人法務の皆様へ:経営層に「NO」と言わせない伝え方

「法律が変わったので対応が必要です」だけでは、経営層は動きません。「今のままでは、問題社員を正当に処分できなくなるリスクがある」「不適切な調査ひとつで、会社に3,000万円の罰金が科される可能性がある」といった、経営への実害を具体的に提示することが、スムーズな体制整備の第一歩です。

通報者が安心して通報でき、通報を契機に不正の早期発見・是正が図られる──そうした内部通報制度の本来の目的を改めて認識し、体制整備に取り組んでいただきたい。

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参考資料

執筆:Legal GPT 編集部
※本記事は2026年1月6日時点の情報に基づいています。
法定指針の改訂等、最新の情報は消費者庁のウェブサイト等でご確認ください。

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