生成AI前夜の思い出

実務×直感×誤字脱字──生成AI前夜の三種の神器

実務×直感×誤字脱字──生成AI前夜の三種の神器

実務に「正解」はなかった

法務の仕事に就いて間もない頃、私はずっと探していました。
「どこかに正解があるんじゃないか」と。

でも、実際の契約実務はそんな甘いものじゃありませんでした。
条文の書き方に“公式”なんてない。先輩の過去資料を見ても、案件によって文体も構成もバラバラ。言い回しは、「なんとなく」で受け継がれているようなものばかり。

やがて私は気づきました。
この世界で必要なのは、実務感覚・直感・そして誤字脱字との闘い──つまり、三種の神器です。

【神器①】実務経験:過去案件の蓄積がすべて

まずは「実務」。
前例があるかどうか、それが最大の指針でした。

契約書フォルダの中を、似た案件を探して何度も何度も開き直す。タイトルは似てるのに中身がまるで違ったり、逆に全然違うタイトルの中に使えそうな条文が眠っていたり。

上司からの一言、「それ、前の○○案件のやつ、流用できるよ」で救われたこと、何度あったかわかりません。

【神器②】直感:条文を“手触り”で判断していた

次に「直感」。
いわゆる“違和感センサー”のことです。

「この言い回し、なんか変だな」「ここの“なお”いらないかも?」
論理じゃない、でも経験が染みついた人にはわかる微妙な文脈のズレ。

ChatGPTのように言語パターンを解析してくれる存在がいなかった当時、条文の意味や力加減は「読んでみてどう感じるか」に頼るしかありませんでした。

【神器③】誤字脱字:敵は油断した夜にやってくる

そして最後が「誤字脱字」。
押印前に何度も見直したはずなのに、なぜか出てくるんです。

“契約期間:2023年4月1日から2024年3月31日” → 相手の会社名のスペルだけ間違ってる。
“本契約に基づく義務を遂行すること” → 「義務」が「議務」になっている。

押印してから気づいたときの、あの血の気が引く感覚は今でも忘れません。
その夜、私はコンビニでアイスを買って帰りました。自分を慰めるために。

それでも、なんとかやってきた

今なら、条文の言い回しも、抜け漏れチェックも、AIが一瞬でやってくれます。
でも当時は、自分の目と勘がすべてでした。

だからこそ、AIを使いこなす今の自分には、「何がわからなかったのかがわかる」という強みがあるのかもしれません。

締め

三種の神器に支えられていた、あの頃の契約実務。
必ずしもスマートではなかったけれど、だからこそ生き残る力が身についた気がしています。

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