生成AIと個人情報・営業秘密|入力してよい情報、ダメな情報の線引き
本稿は、2026年9月30日時点の法令(e-Gov法令検索掲載の現行法)および個人情報保護委員会・経済産業省・総務省・文化庁の公表資料に基づいて記載しています。個別案件の判断にあたっては、最新の法令・ガイドライン・契約条項をご確認ください。
はじめに:「これ、ChatGPTに入れていいですか?」という相談に、どう答えるか
事業部門から法務に最も多く寄せられる生成AI関連の相談は、「これ、ChatGPTに入れていいですか?」です。提案資料の下書き、契約書のドラフト、顧客からの問い合わせメール、議事録、Excelデータ──。日常業務のあらゆる場面で、生成AIへの入力可否の判断を求められます。
このとき、「個人情報や営業秘密はダメです」という一般論で返しても、相談者は次の判断ができません。逆に「全部ダメ」と答えれば、生成AIによる業務効率化は止まります。また、「法人契約版だから大丈夫」「学習に使われない設定だから大丈夫」という答え方も、取引先から受領した秘密情報やNDA対象の契約書については不十分です。法務に求められているのは、「入力してよい情報」「慎重に扱う情報」「入力すべきでない情報」を実務上の区分で示し、その理由を法令・契約・利用条件ごとに説明することです。
本稿では、個人情報(個人情報保護法)、営業秘密(不正競争防止法)、NDA上の秘密情報(契約)、AIサービスの利用条件(規約・契約・設定)の四つを分けて判断するフレームを整理します。社内相談の回答例、判断フロー、チェックリスト、AI利用条項の設計例もセットで用意しているため、生成AIと個人情報・営業秘密・社外秘情報の取扱いに関する法務相談対応にそのまま使える内容です。
2026年9月30日時点の個人情報保護法:現行法と「成立済み・未施行」の改正法を区別する
「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」は、2026年7月10日に国会で可決・成立し、同年7月17日に公布されました。個人情報保護委員会の公表によれば、改正法は一部を除き、公布日から起算して2年以内で政令で定める日から施行され、政令・委員会規則・ガイドライン等は現在検討中です。
改正法には、統計作成等(統計作成等と整理できるAI開発等を含む)に限った同意規制の特例、データ処理等の委託を受けた事業者に関する規律の見直し、課徴金制度の導入などが含まれていますが、これらの主要部分は2026年9月30日時点では施行されていません。個人情報保護委員会では、同年7月31日、8月26日、9月9日、9月16日と、政令・委員会規則・ガイドライン等の整備に向けた検討を進めています。本稿では、生成AIへの入力可否の判断は現行法(e-Gov法令検索掲載の施行中の条文)を基準に記載し、改正法の内容は「今後の動向」として区別して紹介します。
大前提:利用環境の違いは「前提条件」であって「許可条件」ではない
同じ情報でも、どの環境で生成AIを使うかによってリスクの性質は大きく変わります。
- 個人向けアカウント(無料版・個人契約):入力データの学習利用・保持の扱いがサービスごと・設定ごとに異なり、企業としてデータ処理条件を個別合意したり、組織的な監査・削除管理を行ったりすることが難しい場合があります。業務上の個人データや秘密情報を扱う用途では、会社の承認した環境を用いることが前提です。
- 法人契約版(Enterprise/Team/API等):入力データをモデル学習・改善に利用しないことを規約・契約で定めるサービスもありますが、保持期間、不正利用監視のための保存・確認、サブプロセッサー(再委託先)、データの保存国、削除の方法などはサービス・プラン・設定ごとに個別確認が必要です。
- 閉域環境・社内設置型:データを社外事業者に渡さない構成を取りやすく、機密性の高い情報を扱う際の選択肢になります。ただし、構成次第でクラウド事業者等が関与するため、「閉域」の実態確認が必要です。
ここで重要なのは、「法人契約版」「Enterprise」「API」「学習利用オフ」であることは、秘密情報を入力してよいことを意味しないという点です。とくに取引先から受領したNDA対象情報は、AIサービスのプランより先に、NDAの条項(秘密情報の定義、利用目的、目的外使用禁止、第三者開示禁止、複製制限、再委託、外部サービス利用、生成AI・機械学習の利用制限)を確認する必要があります。利用環境の確認は、契約上・法令上の制約を満たしたうえで初めて意味を持つ「前提条件」です。
生成AIへの入力が問題になる理由:四つの軸を分けて考える
生成AIへの入力リスクは、「漏えい」だけの問題ではありません。実務上は、次の四つの観点が重なる複合的なリスクです。それぞれ根拠も判断基準も異なるため、最初に切り分けることが重要です。
1. AIサービスの利用条件(規約・契約・設定)上のリスク
外部の生成AIサービスでは、通常、入力データ(プロンプト、添付ファイル)がベンダー側のシステムに送信・処理されます。入力・出力の保持の有無や期間は、サービス・プラン・設定によって異なります。確認すべき典型的な項目は次のとおりです。
- 入力・出力データをモデルの学習・改善に利用するか(デフォルト設定とオプトアウトの可否)
- 保持期間、不正利用監視等のための保存や人による確認の有無
- サブプロセッサー(再委託先)の範囲と変更時の通知
- データの保存場所(国・地域)と適用される法制度
- 削除請求・契約終了時の削除の方法と期限
- 秘密保持義務・セキュリティ認証・インシデント時の通知
これらはサービスやプラン、契約時期によって変わるため、「このサービスなら大丈夫」と一般化せず、実際の契約書・規約・管理画面の設定を確認してください。
2. 個人情報保護法上のリスク
入力した情報に個人情報・個人データが含まれる場合、現行の個人情報保護法の次の規律との関係を検討します。
- 利用目的の特定(17条1項)と、利用目的の達成に必要な範囲を超える取扱いの制限(18条1項)
- 取得時の利用目的の通知・公表(21条1項)、利用目的変更時の通知・公表(21条3項)
- 要配慮個人情報の取得に係る本人同意(20条2項)
- 個人データに該当する場合の安全管理措置(23条)、従業者の監督(24条)、委託先の監督(25条)
- 第三者提供の制限(27条1項)と、委託に伴う提供の例外(27条5項1号)
- 外国にある第三者への提供の制限(28条)
個人情報保護委員会は、2023年6月2日付け「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」において、個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること、また、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合には個人情報保護法に違反する可能性があるため、サービス提供事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認することを求めています。
つまり、「プロンプトに個人情報を入力する行為自体が、特定された利用目的の範囲内か」と、「入力した個人データがベンダー側で出力以外の目的に使われないか」の二点は、社内相談で必ず押さえる論点です。
3. 営業秘密(不正競争防止法)上のリスク
不正競争防止法上の営業秘密は、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいいます(不正競争防止法2条6項)。いわゆる秘密管理性・有用性・非公知性の3要件です。
経済産業省「営業秘密管理指針」(2025年3月31日最終改訂)は、生成AIとの関係について次のような整理を示しています。
- ある管理単位で秘密管理されている情報を生成AIに利用し、その生成AIから当該情報が出力されることがあっても、その一事をもって秘密管理性が否定されることはないと考えられる。
- ただし、当該情報が企業外の第三者(例えば生成AI提供事業者等)に提供される場合は、秘密管理性が否定される場合もあり得る。
- 外部のクラウドを利用して営業秘密を保管・管理する場合も、秘密として管理されていれば秘密管理性が失われるわけではない。
したがって、「外部の生成AIに入力した瞬間に営業秘密でなくなる」と断定するのは適切ではありませんが、社外の生成AI提供事業者に、秘密管理の手当て(契約上の秘密保持・利用制限、アクセス制御等)なく営業秘密を渡すことは、秘密管理性を争われる材料になり得ると整理しておくべきです。社内ルールで入力可能な情報・環境を明確にし、従業員が秘密管理意思を認識できる状態を維持することが、営業秘密としての保護を守るうえでも重要です。
4. NDA・契約上の義務違反リスク
取引先とのNDA、業務委託契約、共同開発契約等では、秘密情報の利用目的、目的外使用の禁止、第三者への開示・漏えいの禁止、複製の制限、再委託の制限などが定められているのが一般的です。近年は、クラウドサービスや生成AI・機械学習への入力を明示的に制限・禁止する条項も見られます。
生成AIへの入力がこれらに抵触するかは、契約条項の解釈問題として個別に判断が必要です。たとえば、ベンダーのサーバーへの送信・保存が「第三者への開示」や「複製」に当たると解釈される余地があり、また、契約で定めた目的(例:本件取引の検討)以外の目的での利用と評価される場合もあります。学習利用されない設定であっても、NDA上の制限が解消されるわけではありません。
まず整理すべき情報類型:個人情報・営業秘密・NDA上の秘密情報・社外秘
生成AIへの入力可否を判断する前に、社内で「個人情報」「個人データ」「要配慮個人情報」「営業秘密」「NDA上の秘密情報」「社外秘情報」を混同しないことが極めて重要です。これらは法的根拠と保護範囲が異なり、入力可否の判断基準も変わります。
情報類型の整理表
| 情報類型 | 定義・根拠 | 具体例 | 入力可否の判断軸 |
|---|---|---|---|
| 個人情報 | 生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できるもの(他の情報と容易に照合でき、それにより特定の個人を識別できるものを含む)または個人識別符号が含まれるもの(個人情報保護法2条1項)。 | 名刺データ、応募者の履歴書、問い合わせメール、議事録中の発言者名 | 利用目的の特定・範囲(17条1項・18条1項)、通知・公表(21条)。さらに「個人データ」に該当する場合は、安全管理措置(23条)、委託先監督(25条)、第三者提供(27条)等も確認 |
| 要配慮個人情報 | 人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実等が含まれる個人情報(同法2条3項)。取得には原則として本人同意が必要(20条2項)。 | 健康診断結果、休職理由、ハラスメント調査記録中の病歴、前科情報 | 原則として外部生成AIへの入力対象から外す。取得・第三者提供の各規律を個別に確認 |
| 個人データ | 個人情報データベース等を構成する個人情報(同法16条3項)。 | 顧客マスタ、従業員名簿、会員データベースから抽出したデータ | 第三者提供の制限(27条)、委託先の監督(25条)、外国にある第三者への提供(28条) |
| 営業秘密 | 秘密管理性・有用性・非公知性を満たす技術上・営業上の情報(不正競争防止法2条6項)。 | 製造ノウハウ、顧客名簿、原価・取引価格情報、未公表の研究データ、失敗した実験データ | 秘密管理性を損なわない取扱いか。社外事業者への提供時の秘密管理の手当て |
| NDA上の秘密情報 | NDAや業務委託契約等で「秘密情報」として定義された情報。範囲は契約ごとに異なり、営業秘密より広いことが多い。 | 取引先から開示された資料、契約書ドラフト、共同開発の中間成果物、未公表の取引条件 | 定義・利用目的・目的外使用禁止・第三者開示禁止・複製制限・再委託・外部サービス利用・AI利用制限の各条項 |
| 社外秘情報 | 社内規程上の情報区分。法令や契約による定義ではない。 | 社内会議資料、人事評価情報、未公表の経営判断 | 社内の情報管理規程・生成AI利用規程上の取扱基準 |
- 「個人情報」は広い概念で、データベース化されているかは問いません。第三者提供規制(27条)や委託先監督(25条)、法23条の安全管理措置が直接問題となる中心は「個人データ」です。他方、個人情報一般についても利用目的の制限(18条)が問題となるため、生成AIへの入力目的が特定・公表済みの利用目的の範囲内かを確認する必要があります。
- 氏名を記号に置き換えても、社内に対応表が残っていれば、社内では他の情報と容易に照合できる状態にあり、個人情報に該当し得ます。「記号化したから個人情報ではない」とは限りません。
- 「NDA上の秘密情報」と「営業秘密」は別物です(次項参照)。
- 「社外秘」は社内ラベルにすぎず、不正競争防止法やNDAの保護とは独立に検討が必要です。
NDA上の秘密情報と不正競争防止法の営業秘密を区別する
NDAで「秘密情報」と定義された情報が、不正競争防止法2条6項の営業秘密に当たるとは限りません。逆に、NDAを結んでいなくても、自社で要件を満たす管理をしていれば営業秘密に当たり得ます。両者の違いは次のとおりです。
| 観点 | NDA上の秘密情報 | 営業秘密(不正競争防止法2条6項) |
|---|---|---|
| 根拠 | 当事者間の契約 | 法律 |
| 範囲 | 契約の定義次第(「開示された一切の情報」等、広く定められることが多い) | 秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を満たす情報に限られる |
| 効力が及ぶ相手 | 原則として契約当事者 | 不正取得・不正使用・不正開示等を行った者(第三者を含む) |
| 生成AI入力との関係 | 入力(送信・保存)が目的外使用・第三者開示・複製制限・外部サービス利用制限等に抵触しないかという契約解釈の問題 | 自社の営業秘密を入力する場合は秘密管理性の維持が問題。受領した他社の営業秘密については、図利加害目的等の要件のもとで不正競争(2条1項7号等)が問題となる |
| 主な帰結 | 契約違反(損害賠償、契約解除、取引関係への影響) | 差止め・損害賠償、一定の場合の刑事罰 |
営業秘密管理指針は、別法人に営業秘密を開示する際には、営業秘密を特定したNDAの締結が秘密管理意思を明らかにする典型的な方法であると整理しています。受領側の法務としては、「不正競争防止法上の問題になるか」よりも前に、「NDAに違反しないか」が実務上の主戦場になる場面が多いと考えておくのが現実的です。
「委託」か「第三者提供」か:生成AIサービスへの個人データ入力
個人データを外部の生成AIサービスに入力する場合、次のいずれに当たるかを整理します。
- 「提供」に当たらない場合:個人情報保護委員会のQ&A(Q7-53)は、クラウドサービスの利用が第三者提供・委託に該当するかは、クラウドサービス事業者において個人データを取り扱うこととなっているかどうかが判断基準であり、契約条項で事業者が個人データを取り扱わない旨が定められ、適切にアクセス制御が行われている場合等は「提供」に当たらないとしています。この場合も、利用する事業者は自らの安全管理措置として適切な措置を講じる必要があります(Q7-54)。
- 委託(27条5項1号)に当たる場合:利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いを委託する場合は、第三者提供の本人同意は不要ですが、委託先の監督義務(25条)が生じます。
- 第三者提供に当たり得る場合:ベンダーが入力データを自社モデルの学習など、委託元の利用目的を超えて利用する場合は、委託の範囲を超え、本人同意のない第三者提供等の問題が生じ得ます。前述の個人情報保護委員会の注意喚起も、この点を指摘しています。
生成AIサービスの多くは、応答生成のためにベンダー側で入力データを処理するため、クラウドストレージのように「取り扱わない」と整理できるとは限りません。どの類型に当たるかは、契約・規約・設定の内容によって個別に判断してください。また、ベンダーやデータの保存先が外国にある場合は、外国にある第三者への提供(28条)や、安全管理措置としての外的環境の把握(Q&A Q10-25等)も確認が必要です。
取引先から受領した情報は「AIのプラン確認」より先にNDAを読む
「ChatGPT 契約書」「AI 契約書 入力」といった相談で多いのが、取引先から受領した契約書ドラフトや技術資料を生成AIでレビュー・要約したいというケースです。このとき、最初に確認すべきはAIサービスのプランではなく、その情報を受領した根拠となるNDA・契約の条項です。
NDAで確認すべき8項目
| 確認項目 | 見るべきポイント | 生成AI入力との関係 |
|---|---|---|
| 秘密情報の定義 | 「開示された一切の情報」型か、秘密表示のあるものに限る型か。口頭開示の扱い | 入力予定の情報が秘密情報に含まれるかの出発点 |
| 利用目的 | 「本件取引の検討」「本件業務の遂行」等、目的の書き方 | 生成AIでの要約・レビューが目的の範囲内の利用と言えるか |
| 目的外使用禁止 | 目的外の使用を一切禁じているか | ベンダー側での学習・改善利用が生じる設定は目的外使用と評価されるおそれ |
| 第三者開示禁止 | 開示可能な者の範囲(役員・従業員・専門家等)、事前承諾の要否 | AIベンダーやその再委託先が「第三者」に当たると解釈される余地 |
| 複製制限 | 複製の禁止・必要最小限の範囲での許容・事前承諾 | 外部サーバーへの送信・保存が複製に当たると解釈される余地 |
| 再委託 | 秘密情報の取扱いを伴う業務の再委託制限 | AIベンダーへの処理委託が再委託制限に触れるか |
| クラウド・外部サービス利用 | 外部サービスへの保存・処理を制限する条項の有無 | 生成AIサービスは典型的な外部サービス |
| 生成AI・機械学習利用制限 | 生成AIへの入力禁止、学習利用禁止、事前承諾制など | 明文がある場合はその条件に直接従う |
これらのいずれかで制約がある場合、社内で承認済みの法人契約版であっても、原文の入力は原則として避け、取引先の事前承諾を得るか、後述する要約・抽象質問など、秘密情報を外部に出さない方法に切り替えます。条項が曖昧な場合は、「規定がないから自由」と即断せず、保守的に解釈するか、取引先に確認するのが安全です。
入力してよい情報・慎重に扱う情報・入力すべきでない情報
実務では、白黒二択ではなく、三段階の区分で整理するのが現実的です。ただし、区分はあくまで目安であり、個別のNDA・契約条件や社内規程がより厳しい場合はそちらが優先します。
三区分の判断表
| 区分 | 該当する情報の例 | 判断の根拠・条件 |
|---|---|---|
| ① 入力してよい情報 |
|
個人情報・営業秘密・NDA上の秘密情報のいずれにも該当しない、または既に公知の情報。会社が認めたサービスで利用することが前提。第三者の著作物の扱いは別途確認(後述)。 |
| ② 慎重に扱う情報(条件付き入力可) |
|
加工(要約・抽象化・マスキング)と、会社が承認した利用環境・設定の両方が前提。NDA・顧客契約の制限がないことを確認済みであること。 |
| ③ 入力すべきでない情報 |
|
加工によってもリスクを十分に下げられない、または法令・契約違反のリスクが大きい情報。外部生成AIへの入力ではなく、人による処理、社内・閉域環境での処理、取引先の承諾取得等を検討する領域。 |
補足:他社契約書ひな形・解説記事の入力と著作権
「①入力してよい情報」に法令・公開ガイドラインを含めていますが、他社が作成した契約書ひな形や、専門家による解説記事・書籍を入力して処理させる場合は、情報の秘匿性とは別に、著作権と利用規約・利用許諾の論点があります。文化庁は「AIと著作権に関する考え方について」等で、AI利用時の著作物の入力・利用について、著作権法30条の4が適用され得る場合と、著作物の創作的表現を出力・享受する目的が併存するなど同条の適用が認められない場合とを区別して整理しています。したがって、「AIに入力しただけで常に著作権侵害」でも「公開されている資料なら自由に全文入力・リライトできる」でもありません。自社が必要な権利を有する文書か、第三者著作物であれば利用目的・利用態様が権利制限規定の範囲に入るか、契約・利用規約上の制限がないかを個別に確認してください。
匿名化・マスキング・要約入力の実務(AI マスキングの限界)
「②慎重に扱う情報」を入力可能な水準に近づけるための代表的な加工手法が、匿名化・マスキング・要約入力です。それぞれ前提と限界が異なるため、相談に応じて使い分けます。
1. 匿名化(個人識別性の低減)
氏名・住所・電話番号・社員番号などを削除・置換し、個人識別性を下げる手法です。個人情報保護法上の「匿名加工情報」(2条6項)や「仮名加工情報」(2条5項)は、法令・規則で定める加工基準等を満たして初めて該当する制度上の概念です。実務で行う「匿名化」は、多くの場合これらの制度とは別の、リスク低減のための加工であり、加工後も個人情報に該当し得ることを前提に扱うのが安全です。
2. マスキング:「会社名・個人名を消せば安全」ではない
固有名詞・数字・契約条件などを「A社」「X案件」「○○○」のように記号化し、構造だけを残す手法で、契約書レビューなどで広く使われます。ただし、固有名詞を削除しても、次のような情報から案件・当事者・秘密情報が推定できる場合があります。
- 未公表の価格・料率・値引条件
- 技術条件・製品仕様・型番の一部・性能値
- 案件の時期(契約締結日、納期、発表予定日)
- 取引数量・発注量・拠点数
- 業界内で特徴的な条項(独自の違約金算定式、特殊な責任分担など)
- 上記の複数情報の組合せ(「○○業界の上場会社」「2026年秋」「数量○万台」が揃えば特定可能、など)
営業秘密管理指針も、公知情報の組合せであっても、その組合せ自体に価値がある場合は非公知性が認められ得ると整理しています。裏返せば、マスキング後に残った断片の組合せ自体が、秘密情報としての価値を持ち続けることがあります。また、外部のツールでマスキング処理を行う場合は、マスキング前の原文をそのツールに送信すること自体が外部提供になる点にも注意が必要です。マスキングは社内環境で行い、手順を社内ルール化して、誰が行っても同じ水準になるようにしておく必要があります。
3. 要約入力・抽象質問
原文を入力せず、相談者自身の言葉で論点だけを伝える手法です。たとえば、契約書全文を入力する代わりに、「業務委託契約の損害賠償条項について、上限額の定めがない場合の交渉ポイントを整理したい」とだけ入力します。
要約入力・抽象質問は残存リスクが最も小さい反面、回答は一般論にとどまりやすくなります。具体的な当てはめは、抽象質問で得た論点整理をもとに、社内で人が行う二段構えが現実的です。
情報量を段階的に落とす:原文→マスキング→要約→抽象質問
実務では、「どこまで情報量を落とせば目的を達成できるか」を下から順に試すのが効果的です。
| 段階 | 入力する内容 | 残存リスク | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| レベル0:原文 | 契約書・資料をそのまま | 最大。NDA・個人情報・営業秘密の全論点が生じる | 原則として避ける。閉域環境かつ契約上許容される場合に限る |
| レベル1:マスキング済み原文 | 固有名詞・数値を記号化した全文 | 大〜中。条項の特徴・組合せによる推定、NDA上の派生情報の問題が残る | 自社作成文書の条文修正、表現の調整 |
| レベル2:要約 | 必要な条項・論点だけを自分の言葉で要約 | 中〜小。要約に具体的数値や特徴的条件を残すと上がる | 論点の洗い出し、交渉方針の整理 |
| レベル3:抽象質問 | 案件を離れた一般的な問い | 最小 | 条項の一般的な意味、典型的なリスク、確認観点の把握 |
相談を受けたら、まずレベル3で足りないかを検討し、足りない場合に限ってレベル2、1へと上げていく──という順序で考えると、必要以上の情報を外部に出さずに済みます。
必要最小限の情報処理を優先する実務設計
生成AI活用の目的は、多くの場合「原文をAIに読ませること」そのものではなく、「要点を把握する」「論点を洗い出す」「文章を整える」ことです。その目的を、外部AIへの原文送信以外の方法で達成できるなら、そちらを優先するのが合理的です。
| 優先順位 | 方法 | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 入力せずに済ませる | 社内の既存ひな形・チェックリスト・過去の検討メモで足りるか確認 |
| 2 | 抽象質問 | 「秘密保持契約の残存条項で一般的に確認すべき点は?」 |
| 3 | 要約入力 | 必要な論点だけを担当者が要約して質問 |
| 4 | 社内・閉域環境での処理 | データを社外事業者に渡さない構成の環境で原文を扱う |
| 5 | 人による処理 | 高機密・少量の文書は、担当者・法務が直接読む |
| 6 | 承認済み外部サービスへのマスキング済み入力 | 契約・社内規程上許容されることを確認したうえで実施 |
AI事業者ガイドライン(第1.2版、2026年3月31日、総務省・経済産業省)も、AI利用者が留意すべき事項として、AIシステム・サービスへの個人情報の不適切な入力や、機密情報等の不適切な入力に注意を払うことを挙げています。「入力しない・減らす」を先に検討する設計は、こうした公的な整理とも整合的です。
社内生成AI利用規程と個別NDA・顧客契約の関係
社内の生成AI利用規程で「法人契約版であれば社外秘情報まで入力可」と定めている会社は少なくありません。しかし、社内規程は会社内部のルールであり、取引先との個別NDAや顧客契約で合意した義務を緩める効力はありません。社内ルール上は利用可能であっても、個別の契約条件がより厳しい場合は、その契約条件に従う必要があります。
| 判断の階層 | 内容 | 考え方 |
|---|---|---|
| 法令 | 個人情報保護法、不正競争防止法、業法上の守秘義務等 | 社内規程・契約で排除できない最低ライン |
| 個別契約 | NDA、業務委託契約、顧客との契約、共同開発契約 | 社内規程より厳しい場合は契約条件が優先 |
| 社内規程 | 情報管理規程、生成AI利用規程、情報区分ルール | 法令・契約の範囲内で、社内の許容範囲を定める |
| AIサービスの利用条件 | 規約、データ処理契約、管理画面の設定 | 上記を満たしたうえで、技術的・契約的に担保されているかを確認 |
社内規程には、「個別の契約・NDAに別段の定めがある場合は、その定めを優先する」「取引先から受領した情報の入力は、当該契約の確認を要する」旨を明記しておくと、現場の誤解を防げます。
NDA・業務委託契約におけるAI利用条項の設計例
自社が情報を開示する側・受領する側のいずれであっても、生成AIの扱いを契約で明確にしておくと、後の解釈争いを避けられます。ただし、どの条項が適切かは、情報の性質・取引の目的・当事者の体制によって異なり、法律上唯一の必須条項があるわけではありません。一律全面禁止だけでなく、条件付きで利用を許容する設計も選択肢になります。
| 類型 | 向いている場面 | 留意点 |
|---|---|---|
| 全面禁止型 | 技術ノウハウ・未公表製品情報など機密性が極めて高い情報 | 受領側の業務効率を大きく制約する。社内の閉域環境まで禁止するか否かを明確に |
| 条件付許容型 | 一般的な取引検討、契約交渉、業務委託の実務 | 条件(学習利用禁止、秘密保持、安全管理、保存期間、再委託先、削除)を具体的に |
| 事前承諾型 | 情報の機密性に幅がある、利用場面が予測しにくい | 承諾の方式(書面・電子メール)、承諾の範囲(サービス名・用途)を特定 |
条項例(条件付許容型)
第○条(生成AI等の利用)
1. 受領者は、本目的の達成に必要な範囲に限り、次の各号の条件をすべて満たす生成AIその他の外部情報処理サービス(以下「AIサービス」という。)に秘密情報を入力することができる。
(1) AIサービスの提供者が、入力された情報および出力を機械学習その他のモデルの学習・改善に利用しないことが、契約または利用条件により定められていること。
(2) AIサービスの提供者が、入力された情報について本契約と同等以上の秘密保持義務を負っていること。
(3) AIサービスについて、アクセス制御その他合理的な安全管理措置が講じられていること。
(4) 入力された情報の保存期間が定められ、受領者の求めまたは契約終了時に削除できること。
(5) AIサービスの提供者が秘密情報の処理を第三者に再委託する場合、当該第三者についても前各号と同等の義務が課されていること。
2. 前項にかかわらず、開示者が書面により指定した秘密情報については、開示者の事前の書面による承諾なく、AIサービスに入力してはならない。
3. 受領者は、開示者の求めがあった場合、秘密情報を入力したAIサービスの名称および利用態様を開示者に通知する。
条項例(事前承諾型)
第○条(生成AI等の利用)
受領者は、開示者の事前の書面(電子メールを含む。)による承諾を得た場合を除き、秘密情報を、受領者の管理下にない生成AIその他の外部情報処理サービスに入力し、または当該サービスで処理させてはならない。承諾にあたり、開示者は、利用するサービス、用途、保存期間その他の条件を付すことができる。
上記はあくまで検討の出発点としての例です。実際の契約では、秘密情報の定義、残存期間、返還・廃棄条項、再委託条項、個人データの取扱いに関する条項との整合を確認し、案件に応じて調整してください。
社内相談での回答例
事業部から実際に寄せられがちな相談に対し、法務として返すべき回答の型を示します。「やるな」「やっていい」だけで終わらせず、判断軸と代替案をセットで示すのが、相談対応の質を分けるポイントです。
相談例1:「お客様からの問い合わせメールを生成AIで要約していいですか?」
回答例:原文のまま入力するのは避けてください。まず、カスタマーサポート目的で取得した個人情報を、会社が承認した生成AIサービスで要約処理することが、公表している利用目的の範囲内かを確認します。そのうえで、お客様の氏名・連絡先・契約番号など特定につながる情報を社内で除去し、「お客様から〇〇という趣旨の問い合わせがあり、回答の論点を整理したい」という形に加工してから入力してください。要配慮個人情報(健康状態など)が含まれる場合や、お客様との契約で守秘の特約がある場合は、加工しても入力しないでください。利用するサービスは、入力データを学習に利用しない契約・設定であることを確認済みのものに限ります。
相談例2:「取引先から受領した契約書ドラフトをChatGPTでレビューしたい」
回答例:AIサービスのプランを確認する前に、その取引先とのNDA(または基本契約の秘密保持条項)を確認してください。秘密情報の定義にドラフトが含まれるか、利用目的、目的外使用禁止、第三者開示禁止、複製制限、再委託、外部サービス利用、生成AI利用の制限を確認します。いずれかで制限がある場合は、法人契約版であっても原文やマスキング済みの全文は入力せず、「業務委託契約の損害賠償条項で上限額の定めがない場合の交渉ポイントは?」のような要約・抽象質問に切り替えてください。原文でのレビューが必要な場合は、法務が直接読むか、取引先の承諾を得る方法を検討します。
相談例3:「採用面接の議事録を整理してほしい」
回答例:応募者の氏名・経歴・連絡先は個人情報です。採用選考目的で取得した情報を社内承認済みの生成AIで整理すること自体は利用目的の範囲内と整理できる場合がありますが、応募者A・応募者Bのように仮名化し、特徴的な経歴(前職の社名、珍しい資格、具体的な年月)も一般化してから入力してください。健康状態や家族の事情など、要配慮個人情報やそれに近い情報は入力対象から外します。社内で仮名と実名の対応表を持っている以上、仮名化後も個人情報として扱う前提で、利用後のデータ削除まで管理してください。
相談例4:「未公表の新製品スペックをマーケ用にコピーライティングしてほしい」
回答例:原則として外部の生成AIには入力すべきでない領域です。未公表のスペックは営業秘密として管理されている可能性が高く、営業秘密管理指針も、生成AI提供事業者等の第三者に提供される場合は秘密管理性が否定される場合もあり得るとしています。社内・閉域環境での処理を検討するか、外部サービスを使う場合も、製品名・型番・数値スペックを含めず、「想定ターゲット層」「訴求ポイントの抽象的な特徴」だけを伝える抽象質問に切り替えてください。発表後に公知となった情報は、その時点で改めて入力可否を判断します。
相談例5:「会社が法人版を契約したので、顧客のNDA資料も入れていいですよね?」
回答例:いいえ、法人版の契約は社内ルール上の利用条件を満たしただけで、顧客とのNDAの制限を解除するものではありません。学習利用されない設定であっても、外部サービスでは通常、データがベンダー側のシステムに送信・処理され、サービス・設定によっては保持やサブプロセッサーの関与もあり得るため、NDAの第三者開示禁止・複製制限・外部サービス利用制限等に抵触するおそれは残ります。顧客のNDAを確認し、許容されていない場合は要約・抽象質問に切り替えるか、顧客の事前承諾を得てください。
相談を受けたときの判断フロー
| ステップ | 確認事項 | 分岐 |
|---|---|---|
| STEP 1 | 入力予定の情報は何か、目的は何か | 情報類型(個人情報/要配慮個人情報/営業秘密/NDA上の秘密情報/社外秘)と、AIで達成したい目的を特定 |
| STEP 2 | 入力せずに目的を達成できないか | 抽象質問・要約・人による処理で足りるなら、それを優先 |
| STEP 3 | 取引先・顧客から受領した情報か | 該当する場合:NDA・契約の8項目を確認。制限があれば原則として入力不可(承諾取得または抽象質問へ) |
| STEP 4 | 個人情報・要配慮個人情報を含むか | 含む場合:利用目的の範囲内か、委託・提供の整理、外国事業者か。要配慮個人情報は原則除外 |
| STEP 5 | 自社の営業秘密を含むか | 含む場合:社内規程上の取扱区分を確認。外部サービスへの提供は原則避け、閉域環境等を検討 |
| STEP 6 | 加工で必要十分な水準まで情報量を落とせるか | 原文→マスキング→要約→抽象質問のうち、目的を満たす最小の段階を選ぶ。組合せによる推定可能性を確認 |
| STEP 7 | 利用するサービスの利用条件・設定は適切か | 学習利用、保持期間、サブプロセッサー、保存国、削除、秘密保持を確認 |
| STEP 8 | 社内規程上の承認手続が必要か | 必要な場合は所定の承認ルートを通し、記録を残す |
チェックリスト
AI入力前チェックリスト(事業部・利用者向け)
- 入力予定の情報と、AIで達成したい目的を言語化できているか
- 入力しなくても(抽象質問・要約・既存資料で)目的を達成できないか
- 個人情報(氏名・連絡先・社員ID・顧客番号等)が含まれていないか
- 要配慮個人情報(病歴・犯罪歴・信条等)やマイナンバーが含まれていないか
- 取引先・顧客から受領した情報が含まれていないか。含む場合、NDA・契約の制限を確認したか
- NDAの目的外使用禁止・第三者開示禁止・複製制限・外部サービス利用制限・AI利用制限に抵触しないか
- 自社の営業秘密(ノウハウ・原価・未公表製品情報等)が含まれていないか
- 未公表のM&A・人事・訴訟・不祥事・新製品情報が含まれていないか
- 固有名詞を消しても、価格・仕様・時期・数量・特徴的条項の組合せで特定されないか
- マスキングは社内環境で行ったか(外部ツールに原文を送っていないか)
- 他社の契約書ひな形・解説記事等を加工目的で入力していないか(著作権・利用規約)
- 会社が承認したサービス・アカウントを使っているか(個人アカウントではないか)
- 学習利用・保持期間等の設定が社内規程どおりになっているか
- 社内規程上の承認が必要な利用に当たらないか
- 判断に迷う場合、法務・情報管理部門に相談したか
社内相談時の確認質問リスト(法務担当者向け)
- 具体的に何を入力する予定か(文書名・データ種別・分量)
- AIで何をしたいのか。抽象質問・要約・人による処理で代替できないか
- その情報の中に個人情報・個人データ・要配慮個人情報は含まれるか
- 個人情報の入力が、特定・公表している利用目的の範囲内か(17条1項・18条1項)
- ベンダーでの取扱いは、提供に当たらない/委託/第三者提供のいずれと整理できるか(25条・27条)
- ベンダーやデータ保存先は外国か。28条や安全管理措置(外的環境の把握)の対応は済んでいるか
- 取引先から受領した情報か。NDAの定義・利用目的・目的外使用・第三者開示・複製・再委託・外部サービス・AI利用の各条項はどうなっているか
- 社内規程で許容されていても、個別NDA・顧客契約がより厳しくないか
- 自社の営業秘密として管理されている情報か。外部提供により秘密管理性が争われるおそれはないか
- マスキング後も、価格・仕様・時期・数量・条項の組合せで案件や当事者が推定されないか
- 第三者の著作物(市販ひな形・解説記事等)を加工目的で入力していないか
- 利用するサービスの学習利用、保持期間、サブプロセッサー、削除、秘密保持の条件は確認済みか
- 社内の生成AI利用規程上、承認・記録が必要な利用に当たるか
よくある質問(FAQ)
- Q1. 生成AIに個人情報を入力すること自体が、個人情報保護法違反になりますか?
- 直ちに違反になるわけではありません。まず、個人情報の入力・利用が特定した利用目的の達成に必要な範囲内か(17条・18条)を確認します。その情報が「個人データ」に当たる場合は、さらにベンダー側の取扱いが提供に当たらないのか、委託なのか、第三者提供なのか(25条・27条)、外国にある第三者との関係(28条)、安全管理措置(23条)等を個別に確認する必要があります。個人情報保護委員会の2023年6月2日付け注意喚起も、利用目的の範囲内であることの確認と、本人同意なく個人データを入力する場合に当該個人データが機械学習に利用されないこと等の確認を求めています。
- Q2. 法人契約版(Enterprise・API)で学習利用オフなら、NDA対象の契約書を入力してもよいですか?
- それだけでは判断できません。学習利用されないことと、外部ベンダーへの送信・処理が生じないことは別です。保持の有無・期間やサブプロセッサーの関与もサービス・設定によって異なります。NDAの第三者開示禁止、複製制限、外部サービス利用制限、生成AI利用制限等に抵触しないかを先に確認し、制限がある場合は取引先の承諾を得るか、要約・抽象質問に切り替えてください。
- Q3. 会社名と個人名を消せば、ChatGPTに入力しても安全ですか?
- 安全とは限りません。未公表の価格、技術条件、製品仕様、案件時期、取引数量、特徴的な条項や、それらの組合せから、案件・当事者・秘密情報が推定できる場合があります。また、社内に対応表がある場合、記号化したデータも社内では個人情報に該当し得ます。
- Q4. 外部の生成AIに入力したら、営業秘密ではなくなりますか?
- 入力の一事で直ちに営業秘密性が失われるとは限りません。ただし、経済産業省の営業秘密管理指針(2025年3月改訂)は、生成AI提供事業者等の第三者に提供される場合は秘密管理性が否定される場合もあり得るとしています。営業秘密は外部の生成AIに入力しない運用を原則とし、例外的に扱う場合は契約上の秘密保持・利用制限や社内ルールによる秘密管理の手当てを確認してください。
- Q5. 2026年に成立した個人情報保護法の改正は、生成AIの利用にどう影響しますか?
- 改正法は2026年7月17日に公布されましたが、一部を除き公布日から2年以内の政令で定める日から施行され、2026年9月30日時点で統計作成等の特例や委託先の義務の明文化などは施行されていません。現時点の入力可否は現行法で判断し、改正法については今後公表される政令・委員会規則・ガイドラインの内容を踏まえて社内規程を見直すことが必要です。
- Q6. 社内の生成AI利用規程で「法人版なら社外秘まで入力可」としていれば、取引先の資料も入力できますか?
- できるとは限りません。社内規程は取引先との契約上の義務を緩める効力を持たないため、個別NDA・顧客契約がより厳しい場合はその条件に従う必要があります。社内規程に「個別契約に別段の定めがある場合はその定めを優先する」旨を明記しておくことを推奨します。
- Q7. AI事業者ガイドラインの最新版はどれですか?
- 2026年9月30日時点では、総務省・経済産業省が2026年3月31日に取りまとめた「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」が最新版として経済産業省のWebサイトに掲載されています。AI利用者が留意すべき事項として、個人情報や機密情報等の不適切な入力への注意が挙げられています。
- Q8. NDAに生成AIの条項を入れるなら、全面禁止にすべきですか?
- 一律に全面禁止とする必要はなく、情報の性質や取引の目的に応じて選択します。学習利用禁止、秘密保持義務、安全管理措置、保存期間、サブプロセッサーの管理、削除、事前承諾などを条件に利用を許容する設計も選択肢です。法律上、特定の条項が唯一の必須条項として定められているわけではありません。
参考資料(公的機関)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」
- e-Gov法令検索「不正競争防止法」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)」
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
- 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」(Q7-53、Q7-54、Q10-25等)
- 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の公布について(令和8年7月17日)」
- 個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」
- 経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(総務省・経済産業省、2026年3月31日)
- 経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」
- 経済産業省「営業秘密管理指針(最終改訂:令和7年3月31日)」(PDF)
- 経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック(2024年2月改訂)」(PDF)
- 文化庁「AIと著作権について」
個人情報・営業秘密入力可否チェックプロンプト
生成AIへ入力してよいか迷う情報を、実務上の観点から素早く整理したい方向け。
個人情報保護法・営業秘密管理・NDA実務の三つの軸から、入力可否を判断するためのチェックプロンプトを収録した「個人情報保護法AIプロンプト集」をご活用ください。事業部からの相談に、その場で線引きを示せる状態を目指せます。
営業秘密管理を中心に整備したい方は、営業秘密管理AIプロンプト集(令和7年改訂対応)もあわせてご覧ください。
まとめ
生成AIへの入力可否は、「個人情報保護法」「営業秘密(不正競争防止法)」「NDA上の秘密情報(契約)」「AIサービスの利用条件」という四つの軸の複合判断です。法務として最初にやるべきは、これらを混同せず、個別に切り分けて評価することです。
とくに、取引先から受領したNDA対象情報については、「法人契約版」「学習利用オフ」であることより先に、NDAの定義・利用目的・目的外使用禁止・第三者開示禁止・複製制限・再委託・外部サービス利用・AI利用制限を確認してください。学習利用されないことと、第三者への送信・提供が生じないことは同じではなく、社内規程で許容されていても個別契約がより厳しければその条件が優先します。
そのうえで、「入力してよい情報」「慎重に扱う情報(条件付き入力可)」「入力すべきでない情報」の三段階で整理し、原文→マスキング→要約→抽象質問と情報量を段階的に落として、目的を達成できる最小の情報処理を選びます。会社名・個人名を消しただけでは、価格・仕様・時期・数量・条項の組合せから特定される場合がある点にも注意が必要です。個人情報保護法の2026年改正は成立・公布済みですが主要部分は未施行のため、現時点では現行法に基づいて判断し、今後の政令・規則・ガイドラインの公表に合わせて社内ルールを見直してください。
事業部からの相談に対しては、白黒の結論ではなく、判断軸と代替案をセットで返すことが、生成AIの実務活用と法務リスク管理の両立につながります。本稿のチェックリストと判断フローを、社内ルール整備や個別相談対応にお役立てください。
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