2026年3月時点|中間試案たたき台対応

会社法改正の実務影響まとめ
【株主総会・株式報酬・企業統治】
2026年3月版

法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会で審議が進む会社法改正について、2026年2月25日の第11回会議で提示された「中間試案のたたき台」を踏まえ、バーチャルオンリー株主総会、使用人等への株式無償交付、株主提案権、実質株主確認制度などの主要論点を、「現行法」「審議中の有力案」「企業が今やるべきこと」に分けて整理します。

補足: 法務部や総務部の作業は、 この無料ツールを使うと便利に処理できます (一次整理・マスキング・論点整理など)

【結論】2026年3月時点で企業法務が優先監視すべき4論点

2025年2月に法務大臣から法制審議会に諮問(第127号)が行われ、同年4月から部会での審議が開始されました。2026年2月25日の第11回会議では「中間試案のたたき台」(部会資料11)が審議され、中間試案の取りまとめ・パブリックコメント募集が間近の段階です。規制改革実施計画(2025年6月閣議決定)に基づき、2026年度内を目途に結論を得る方針とされています。

① バーチャルオンリー株主総会の本体化 産競法特例を会社法本体に位置づけ、非上場会社にも対象を拡大する方向で検討が進行中。通信障害時の決議取消しの特則が実務上の焦点。
② 使用人等への株式無償交付 従業員・子会社役職員への株式無償交付を制度化。既存株主の利益保護、有利発行規制、労基法上の賃金該当性が重要論点。
③ 株主提案権・書面決議の見直し 議決権数基準(300個)と保有比率(1%以上)の組み合わせ方、総会前採決の容認が議論中。書面決議の全員同意要件緩和も検討。
④ 実質株主確認制度 名義株主と実質株主の乖離に対処する制度を新設する方向。機関投資家との対話・アクティビスト対応に直結する論点。

※ 本記事の前提:記載内容は2026年3月19日時点の法制審議会部会資料・議事内容に基づいており、改正法の最終内容・施行時期は未確定です。「検討中」「審議中」と明記した事項は今後の審議により変更される可能性があります。最新の審議状況は法務省・部会ページでご確認ください。


1. 改正の背景と全体像

1-1. なぜ今、会社法改正なのか

会社法の前回改正(2019年)から約6年が経過し、企業を取り巻く環境は大きく変わりました。今回の改正は、大きく3つの軸で整理できます。

  • デジタル化対応:バーチャルオンリー株主総会の本体化、社債権者集会のバーチャル化、総会前採決制度の導入検討など
  • 資本政策・人材確保:使用人等への株式無償交付制度の創設、株式交付制度の適用範囲拡大、現物出資規制の緩和
  • エンゲージメント・統治強化:実質株主確認制度の整備、株主提案権の見直し、指名委員会等設置会社制度の見直し、有価証券報告書の総会前開示を踏まえた規律の整備

政府の「規制改革実施計画」(2025年6月閣議決定)では、会社法改正について令和8年度(2026年度)内を目途にできるだけ早期に結論を得る方針が示されており、結論を得次第速やかに法案を国会に提出することとされています。部会審議の進捗次第では、2026年度中の要綱案取りまとめ・法務大臣への答申が視野に入りますが、正式な答申時期は今後の審議日程に左右されます。

2025年2月 諮問 2025年4月 第1回会議 2025年8~12月 各論点の二読 2026年2月 中間試案たたき台 2026年春以降 中間試案公表 諮問第127号 部会新設 第5回~第9回 第11回(部会資料11) パブコメ予定 ◀ 現在地

1-2. 審議スケジュール(2026年3月時点)

時期内容
2025年2月10日法務大臣から法制審議会に諮問(諮問第127号)
2025年4月23日会社法制(株式・株主総会等関係)部会 第1回会議
2025年5月~8月第2回~第5回:各論点の一読(株式発行・株主総会・企業統治)
2025年10月~12月第6回~第9回:各論点の二読(株主総会デジタル化、株主提案権等)
2026年1月28日第10回:企業統治・実質株主確認制度・有報の総会前開示等を検討
2026年2月25日第11回:「中間試案のたたき台」(部会資料11)を審議
2026年春以降(見込み)中間試案公表・パブリックコメント募集
2027年3月まで(政府目標)要綱案取りまとめ・法務大臣への答申(※審議日程により変動)

1-3. 諮問事項の全体構造

諮問第127号(3分野) 第1部:株式の発行の在り方 使用人等への株式無償交付 株式交付制度の見直し 現物出資規制の見直し 第2部:株主総会の在り方 バーチャルオンリー株主総会 株主提案権・書面決議の見直し 実質株主確認制度 「会議体」としての総会規律の見直し 第3部:企業統治の在り方等 指名委員会等設置会社の見直し 有報の総会前開示に伴う規律 社債権者集会のバーチャル化

2. バーチャルオンリー株主総会の会社法本体への位置づけ

2-1. 現行法の運用と産競法特例

現行実務では、株主総会の招集に当たり、会社法298条1項1号に基づき開催場所を定める運用が前提とされてきました。このため、物理的会場を設けないバーチャルオンリー株主総会は、会社法単独では困難であり、現在は産業競争力強化法の特例により上場会社に限って実現されています。

産業競争力強化法による特例(2021年~):上場会社に限り、経済産業大臣・法務大臣の確認を受け、定款に規定を設け、一定の省令要件(書面投票の採用・通信手段の確保等)を満たせば、バーチャルオンリー株主総会の開催が認められています(産競法66条)。

2-2. 改正の検討方向

今回の会社法改正では、産競法の特例を会社法本体に組み込むことを前提に、対象会社・手続・通信障害時の規律をどう設計するかが審議の中心となっています。第11回会議の中間試案たたき台では、第2部「株主総会の在り方に関する規律の見直し」の中でこの論点が取り上げられています。

検討されている主な論点

  • 対象会社の拡大:上場会社限定から、非上場会社も含めた利用を可能とする方向で検討
  • 行政手続の要否:現在の大臣確認手続の簡素化・廃止も論点に。手続設計は審議中
  • 通信障害時の決議取消し:故意・重過失による障害に限り取消事由とする等の特則が検討されている
  • 「会議体」としての株主総会規律:事前投票で決議成立が確定している場合の総会当日の位置づけの見直し

【実務上の留意点】通信障害の帰責判断:「故意・重過失による通信障害」のみを取消事由とする案が有力ですが、プロバイダー側の広域障害やクラウドサービスのダウンがどちらに分類されるかは、今後の裁判例の蓄積を待つ必要があります。企業は「自社の帰責事由ではない」ことを事後的に証明できるよう、通信ログ・障害対応記録の保存規程を整備しておくことが重要です。

2-3. 実務への影響と準備事項

企業実務としては、「導入するか否か」の段階を超え、「導入した場合にどのガバナンス設計が必要か」を先行検討すべき段階に入っています。

法改正確定前に着手できる準備事項
  • 取締役会でバーチャルオンリー株主総会の導入方針を議題に上げる
  • バーチャル株主総会システムベンダーのリサーチ(機能・費用・セキュリティ)
  • 通信障害時の代替手段(バックアップ回線・電話会議併用・継続総会)の検討
  • 改正法施行後に必要となる定款変更案のドラフト作成
  • 運営マニュアル案の作成(議事進行・質問受付・議決権行使の方法)

3. 使用人等への株式無償交付制度

3-1. 現行法の状況

2019年改正により、上場会社の取締役・執行役に対する株式の無償交付が認められています(会社法202条の2)。一方、従業員や子会社の役職員については明文規定がなく、実務では金銭債権を会社に現物出資させる形で株式を交付する「現物出資構成」が採られてきました。この方法は事務負担が大きく、技巧的であるとの指摘が長くなされてきました。

3-2. 改正の検討方向

使用人等への株式無償交付を正面から認める制度の創設が検討されています。中間試案たたき台では第1部「株式の発行の在り方に関する規律の見直し」で取り扱われています。

主要な検討論点

  • 既存株主の利益保護:無償交付による株式の希釈化への対処として、有利発行規制の適用の有無、株主総会決議の要否が議論されている
  • 対象者の範囲:子会社の役職員を含めるか、完全子会社に限るかが論点
  • 対象会社:上場会社のみならず非上場会社にも認めるかが検討対象
  • 開示・会計処理:事業報告での開示要件、資本金・資本準備金の計上ルールの整備

実務上の追加論点(税務・労基法):

  • 税務:従業員への株式無償交付は、原則として給与所得として課税される可能性が高い。交付時の時価相当額に対する源泉徴収義務の発生、現金収入がない状態での納税資金確保が課題
  • 労基法:株式が「賃金」(労基法11条)に該当するか、また通貨払い原則(同法24条)との関係をどう整理するかは実務上の重要論点です。部会審議でも制度趣旨との整合が意識されており、実質的な賃金代替と評価されない制度設計が必要とされています

報酬制度・就業規則・株式交付規程を一体で設計する必要があり、法務・人事・経理の横断対応が求められます。

有利発行規制との関係:取締役の報酬等としての無償交付は、職務執行の対価として交付されるため有利発行に該当しにくいとの整理がなされていますが、使用人への無償交付については、業績連動指標(KPI)の設定が恣意的と評価される場合に、既存株主から不当な希釈化として争われるリスクが残ります。濫用防止と機動性のバランスが制度設計上の課題です。

3-3. 株式交付制度の拡充(検討中)

2019年改正で創設された株式交付制度(会社法774条の2以下)について、子会社株式の追加取得、外国会社の子会社化等への適用範囲拡大や、反対株主の株式買取請求権・債権者保護手続の簡素化が検討されています。


4. 株主総会に関するその他の検討事項

4-1. 株主提案権の見直し(検討中)

現行法の要件:総議決権の1%以上または議決権300個以上を6か月以上継続して保有する株主は株主提案が可能です(会社法303条2項等)。

改正の検討方向:議決権数基準(300個)と保有比率(1%以上)の組み合わせ方について見直しが議論されています。濫用的な株主提案の抑制が背景にあり、議決権数基準要件の廃止や引上げなどが論点の一つとして取り上げられています。ただし、最終的な閾値設計は審議中であり、少数株主保護とのバランスが制度設計の核心です。

※ 注意:株主提案権の要件変更は確定していません。現時点では、現行法の下でも招集通知・議案整理・株主対応フローの標準化を進めておくことが実務上の最善策です。

4-2. 書面決議(みなし決議)の要件緩和(検討中)

現行法では、株主総会の書面決議には株主全員の同意が必要です(会社法319条1項)。改正の検討では、一定割合(例:総議決権の90%以上)の株主の同意で足りるとする案などが議論されています。

もっとも、書面決議要件の緩和は、機動的な意思決定を可能にする反面、少数株主の関与機会を縮減するリスクがあります。対象会社の範囲、議案の種類、異議申述の機会など、少数株主保護との調整が制度設計上の中核論点です。

4-3. 実質株主確認制度(検討中)

株主名簿に記載された名義株主と実際の株式保有者(実質株主)が異なる場合があり、企業が適切なエンゲージメントを行うことが困難な状況があります。証券保管振替機構(ほふり)や信託銀行を通じた実質株主情報の取得を制度化する方向で検討が進んでいます。

実務上の重要性(2026年時点):実質株主確認制度は、単なる株主名簿管理の問題にとどまりません。機関投資家との対話の実質化、アクティビスト対応、議決権行使の合理化に直結する論点として、法務・IR・総務の接点で重要度が上がっています。

制度の限界にも注意:もっとも、海外のカストディアン(保管銀行)を経由する多層構造の場合、最終的な受益者をどこまで強制的に特定できるかは制度設計上の課題です。制度が創設されても「アクティビストを完全に捕捉できる」わけではなく、多層構造における情報取得の限界を踏まえた運用設計が求められます。


5. 企業統治に関する検討事項

5-1. 指名委員会等設置会社制度の見直し(検討中)

指名委員会等設置会社において、指名委員会のみが取締役の選任議案の内容を決定する権限を有する現行規律について、取締役の過半数が社外取締役である場合との均衡の観点から見直しが検討されています。

5-2. 有価証券報告書の総会前開示を踏まえた規律

有報の総会前開示の進展に伴い、事業報告と有報の一体開示・一本化も含めた規律の整備が検討されています。第5回・第10回会議で議題に上がっており、開示実務への影響も注視が必要です。

【実務の死角】決算・開示スケジュールへの波及:有報の総会前開示は、単なる「書類の早期作成」を意味しません。監査法人の監査完了時期の交渉、招集通知への記載内容との整合性チェックなど、3月決算・6月総会を前提としてきた決算スケジュール全体の前倒しが必要になります。法務・経理・IR部門は、改正動向を踏まえた「5月の業務過密化」への対応策を今から検討すべきです。


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よくある質問(FAQ)

バーチャルオンリー株主総会で通信障害が発生した場合、決議は無効になりますか?

A: 中間試案たたき台では、通信障害時の決議取消しについて、故意・重過失に限定する特則が検討されています。ただし制度の最終設計は審議中であり、「プロバイダー側の広域障害」や「クラウドサービスのダウン」の帰責判断は今後の解釈に委ねられます。実務対応としては、バックアップ回線の確保、サイバーセキュリティ対策の実施、通信障害時の代替手段の整備に加え、自社の帰責事由ではないことを事後的に証明するための通信ログ・障害対応記録の保存規程を整備してください。

中小企業でもバーチャルオンリー株主総会を導入すべきですか?

A: 株主が遠隔地に居住している場合や会場費用を削減したい場合にはメリットがあります。一方、少人数の株主で全員が近隣に居住しているケースでは、システム導入コストに見合わない場合もあります。改正法施行後に導入要件を確認の上、自社に合った選択をするのが合理的です。

使用人等への株式無償交付制度を導入する場合の税務・労務上の注意点は?

A: 税務面では、交付時の時価相当額が給与所得として課税される可能性が高く、源泉徴収義務が発生します。現金収入がない状態での納税資金確保が従業員側の課題です。労務面では、無償交付される株式の賃金該当性(労基法11条)と通貨払い原則(同法24条)の関係が論点になります。制度設計にあたっては、報酬制度・就業規則・株式交付規程の一体的な検討が必要です。

改正法施行前に準備を始めるべきことは?

A: 改正法の最終内容は未確定ですが、以下の準備は今から着手できます。(1) 法制審議会の議事録・部会資料のモニタリング体制構築、(2) 社内関係部署(取締役会・法務・総務・IT・経理)への情報共有と横断チームの設置、(3) システムベンダーのリサーチ、(4) 外部専門家(法律事務所・税理士)との連携体制の確保。

株主提案権の要件変更で実務にどのような影響がありますか?

A: 制度設計は未確定ですが、議決権数要件・保有比率要件の組み合わせが見直されると、株主提案の母数、総会準備負荷、少数株主保護のバランスに影響が生じる可能性があります。法改正の帰趨を待つだけでなく、現行法の下でも招集通知・議案整理・株主対応フローの標準化を先行して進めておくことが実務上有効です。

参考資料・関連リンク

一次資料(法務省・経産省・会計基準等)

法律事務所・実務解説

関連記事(legal-gpt.com)

まとめ:中間試案を見据えた実務対応を

2025年4月に開始された法制審議会の審議は、約10か月で中間試案のたたき台に到達しました。バーチャルオンリー株主総会の会社法本体化、使用人等への株式無償交付、株主提案権の見直し、実質株主確認制度――いずれも企業法務に大きな実務影響を与える論点です。

中間試案の公表・パブリックコメント募集が間近に控えている今、企業法務がやるべきことは明確です。法制審議会の部会資料をモニタリングしつつ、改正の方向性に基づいた社内体制の整備を先行的に進めてください。法改正は「負担」ではなく、コーポレート・ガバナンスの見直しと競争力強化の契機として捉えることが重要です。

【免責事項】

本記事は2026年3月19日時点の法制審議会の審議状況に基づいて作成しており、最終的な改正内容・施行時期を保証するものではありません。「検討中」「審議中」と明記した事項は、今後の審議により変更される可能性があります。実際の法改正内容については、法務省等の公式発表をご確認ください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法的助言を構成するものではありません。個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。

【最終更新日】 2026年3月19日

【次回更新予定】 中間試案の正式公表後に内容を更新します

【更新履歴】

  • 2026年3月19日:2026年3月版に全面改稿(第11回会議・中間試案たたき台を反映、4論点に再編、参考資料を一次資料中心に整理)
  • 2025年10月24日:初版公開(法制審議会第1回会議の議論を反映)
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