勤務間インターバルを就業規則にどう書く?条文例(11時間/9時間)とNG例まで
この記事は「勤務間インターバル制度の解説」でも「法改正ニュースのまとめ」でもありません。
「上司から『そろそろ整備しろ』と言われた法務・人事担当者が、就業規則をどう書き換えるか」──その一点に絞った実務記事です。
📑 この記事の目次
⚠ 法改正動向の前提(2026年2月時点)
厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」の報告書等において、原則11時間の休息確保を含む勤務間インターバル義務化の方向性が議論されてきました。当初は2026年通常国会への改正法案提出が見込まれていましたが、2025年12月、労働時間規制の緩和検討との調整がつかず、法案提出は見送りとなっています(毎日新聞 2025年12月26日、日本経済新聞 同日)。
ただし改正が白紙になったわけではなく、休息時間確保の方向性自体は維持されています。今は「企業に自主的な取組みが求められる段階」であり、法務・人事にとっては先手を打つための猶予期間です。
1.「努力義務」でも就業規則への規定がほぼ必須な3つの理由
勤務間インターバル制度は、2019年4月の労働時間等設定改善法(働き方改革関連法)の改正により、事業主の努力義務として位置づけられました(厚生労働省:勤務間インターバル制度)。「努力義務なら書かなくてもいい」──そう考える企業は少なくありません。
しかし実務上は、就業規則に書いておかなければ守れない場面が確実に存在します。理由は以下の3つです。
(1)安全配慮義務との関係
実務的に最も重要なのがこのポイントです。勤務間インターバルは「労働時間規制」ではなく、あくまで健康確保措置の文脈に位置づけられます。
労働契約法5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。
電通事件最高裁判決(最判平成12年3月24日)は、使用者が「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と明言しました(厚生労働省:過重労働裁判例)。
つまり、長時間労働や深夜連続勤務が恒常的に発生している企業において、勤務間インターバルを一切制度化していないことは、事後的に安全配慮義務違反の評価要素になり得るのです。制度を導入しないこと自体が直ちに違法ではないものの、「なぜ何もしなかったのか」と問われるリスクは確実に高まります。
(2)行政指導・是正指導実務との関係
労基署の是正勧告や働き方改革関連の調査において、インターバル確保の取組状況を聞かれるケースはすでに増えています。
このとき、「運用でやっている」「口頭ルールにしている」では弱い。就業規則に制度として明文化してあるかどうかが明確な差になります。令和6年就労条件総合調査によれば、勤務間インターバル制度の導入率はわずか約6%──つまり、規程化しているだけで他社との差別化になるのが現状です(令和6年就労条件総合調査:導入率5.7%)。
(3)社内統制(説明責任)の観点
勤務間インターバルは、人事制度・労務管理・健康管理の交差点にある制度です。万が一、事故や体調不良者が出た場合に「なぜ会社はインターバルを確保しなかったのか」と問われたとき──
「制度がない会社」と「制度はあるが例外適用した会社」では、説明責任の構造がまったく違います。規程が存在すること自体が、企業が健康配慮に取り組んでいたことの証跡になるのです。
2. 就業規則に入れるべき条文の5ブロック構造
モデル条文を示す前に、まず構造を押さえてください。「条文例をコピペして終わり」ではなく、5つのブロックが揃っているかを確認することが重要です。
| ブロック | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ❶ 原則規定 | 終業~始業の休息時間の原則を定める | 原則時間・対象労働者・適用範囲を明記 |
| ❷ 例外規定 | 災害・緊急・トラブル対応等の例外 | 「誰の判断で」「どのレベルの事由で」「どの手続きで」を明記 |
| ❸ 申請・報告手続 | インターバル未確保時の事後報告 | 事後報告→上長承認→人事部門共有の流れ |
| ❹ 代替措置規定 | 未確保時の始業繰下げ・代替休息等 | 健康確保措置としての実効性を担保 |
| ❺ 労使協定との整理 | 36協定・変形労働時間制・フレックスとの関係 | 各制度との優先順位・調整関係を明記 |
特に❸の申請・報告手続がない会社が非常に多いです。ここが欠けていると、インターバルを確保できなかった場合の記録が残らず、後から安全配慮義務の履行を立証できなくなります。
3. モデル条文(11時間パターン/9時間パターン)
以下に、実務上使いやすい2パターンのモデル条文を掲載します。EU労働時間指令や厚生労働省の勤務間インターバル制度導入・運用マニュアルを参考に、原則時間を11時間と9時間の2段階で設計しています。
条文設計の基本姿勢:これは「法令上の努力義務を守るため」の条文ではありません。万が一、過労による健康被害や事故が発生した場合に、企業の民事賠償リスク(安全配慮義務違反)を最小化するための防衛策です。「制度があった」「例外も管理していた」「記録も残していた」──この3点を立証できる条文設計を目指してください。
📝 パターンA:原則11時間(EU基準・厚労省推奨水準)
(勤務間インターバル)
第○条 会社は、従業員の健康確保のため、終業時刻から翌日の始業時刻までの間に、原則として11時間以上の継続した休息時間(以下「勤務間インターバル」という。)を確保するものとする。
2 前項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当し、所属長が事前に承認した場合(緊急時は事後速やかに報告した場合を含む。)に限り、インターバル時間を短縮することができる。
(1)災害その他避けることのできない事由により臨時の必要がある場合
(2)顧客等の重大なトラブルに対する緊急対応が必要で、当日中の対応が不可欠な場合
(3)前各号に準ずる緊急性があり、かつ所属長が理由を記録した場合
3 前項の適用を受けた従業員の所属長は、短縮理由、当該日の終業時刻及び翌日の始業時刻並びに講じた代替措置の内容を記録し、翌営業日までに人事部門に報告しなければならない。
4 第2項の場合、会社は、当該従業員に対し、始業時刻の繰下げ、当該月内の代替休息の付与その他の健康確保措置を講ずるものとする。
5 勤務間インターバルと36協定、変形労働時間制その他の労働時間制度との調整については、別途定めるところによる。
📝 パターンB:原則9時間(現実的最低ライン)
(勤務間インターバル)
第○条 会社は、従業員の健康確保のため、終業時刻から翌日の始業時刻までの間に、原則として9時間以上の継続した休息時間(以下「勤務間インターバル」という。)を確保するものとする。
2 前項の規定にかかわらず、災害その他避けることのできない事由により臨時の必要がある場合であって、所属長が承認したときは、インターバル時間を短縮することができる。この場合、所属長は、短縮理由、終業時刻、始業時刻及び代替措置の内容を記録し、速やかに人事部門に報告しなければならない。
3 インターバル時間を確保できなかった場合、会社は始業時刻の繰下げ、当該月内の代替休息の付与その他の措置により、休息時間を確保するものとする。
4 同一の従業員について、1か月に3回以上前項の短縮が生じた場合、所属長は当該従業員の業務量の見直しその他の改善措置を検討し、人事部門に報告しなければならない。
※上記は簡易モデルです。実際には、例外事由の設計、手続フロー、既存規程との整合チェックが最も時間を要します。当サイトでは、AIを活用した就業規則チェック用のプロンプトを公開しています(後述)。
4. やりがちなNG条文パターン3選
規程を作る際、以下のパターンに陥りがちです。いずれも「書いてあるのに機能しない」条文であり、かえって企業のリスクを高めます。
NG① 「業務の都合により適用しないことがある」
例外が無制限です。裁判になった場合、例外規定が実質的に原則を空文化していると評価される可能性があります。例外事由は限定列挙にしてください。
NG② 「会社が必要と認めた場合は除外する」
判断主体は書いてあるものの、判断基準がゼロです。「何を基準に」「どの程度の事由で」判断するかを具体的に示さなければ、恣意的な運用と評価されます。
NG③ 例外時の代替措置規定がない
インターバルを確保できなかった事実だけが残り、「で、会社は何をしたのか?」に答えられません。代替措置(始業繰下げ・代替休息等)を必ず併記してください。
5. どの規程に書くべきか問題
「就業規則のどこに書けばいいのか?」は、実務で非常によく聞かれる質問です。以下のように整理できます。
| 会社の状況 | 原則の置き場所 |
|---|---|
| 全社一律運用 | 就業規則本則(服務規律章 or 労働時間章) |
| 事業場単位で運用が異なる | 事業場就業規則 |
| 職種限定で適用 | 付属規程(勤務間インターバル規程等) |
現実的には、本則に「制度の存在」を1条だけ置き、詳細を付属規程に定める二層構造が管理しやすい企業が多いでしょう。付属規程であれば取締役会決議なしで改訂できるケースもあり、法改正への機動的な対応が可能です。
就業規則の改定手続き全般については、こちらの記事でチェックリストを公開しています。
6. 法務が必ずチェックすべき5つの論点
人事部門だけでは設計しきれない、法務ならではの視点を5つ挙げます。
✅ チェック①:長時間労働部署への適用設計
全社一律で導入すると、恒常的に残業が発生している部署で「ルール違反が常態化」する事態になりかねません。段階的導入か、部署別の原則時間設定を検討してください。
✅ チェック②:裁量労働制・管理監督者への適用
裁量労働制の対象者や管理監督者(労基法41条2号)にインターバル規定を適用するかは、別途検討が必要です。労基法改正の研究会報告書では、管理監督者の労働時間把握義務化も提言されており、将来的には適用拡大の方向です。
✅ チェック③:在宅勤務・フレックスタイム制との整合(起算点の定義)
テレワーク時の始業・終業が曖昧な場合、インターバルの起算点が不明確になります。特に重要なのは、「終業時刻」を何で定義するかです。勤怠打刻なのか、PCログオフなのか、最終メール送信なのか──会社としての定義を規程またはガイドラインで明示しておく必要があります。テレワーク規程やフレックスタイム制の協定書との整合も必ず確認してください。
✅ チェック④:健康管理情報との連携
インターバル未確保が月3回以上など一定回数を超えた場合に産業医面談につなげる仕組みを設けておくと、安全配慮義務の履行を制度的に担保できます。労働安全衛生法に基づく面接指導の枠組みと整合させ、健康管理部門との連携フローを設計しましょう。
✅ チェック⑤:客観的記録による実効性の担保
インターバル制度の形骸化は、ほぼ例外なく「自己申告による打刻後のサービス残業」から始まります。PCログ、メール送信履歴、入退館記録等の客観的データと勤怠打刻に乖離がある場合の是正プロセスを、運用ルールとして明文化しておくことを推奨します。客観的記録がないと、制度が存在しても実効性を証明できず、安全配慮義務の履行証拠としての価値が大きく低下します。
7. まとめ──法案見送りの今こそ「先手」を打つ
2026年通常国会への改正法案提出は見送りとなりましたが、勤務間インターバル義務化の方向性そのものが消えたわけではありません。改正内容が再検討される「調整期間」を、企業が無理なく制度整備を進めるための猶予と捉えるべきです。
今回紹介した5ブロック構造を基に、自社の就業規則にインターバル条項を入れておけば、いざ義務化されたときの対応負荷は格段に小さくなります。
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| 11h | 研究会報告書で方向性が示された原則の休息時間。義務化を見据えた設計が合理的 |
| 1億円 | 過労死・過労自殺の安全配慮義務違反による損害賠償の目安。「対策しないリスク」を経営に伝える |
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※本記事は2026年2月時点の情報に基づく一般的な情報提供です。法案未成立のため、最終的な制度内容は今後の国会審議により変更される可能性があります。個別案件の判断については、必ず弁護士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。
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