コーポレート法務 実務FAQシリーズ 第6話

取締役会議事録はどこまで書くべきか
残すべき内容と避けたい記載を整理

「決議結果を書けばいい」と思っていたら不十分。「詳しく書くほど安全」と思っていたら書きすぎの罠が待っている。取締役会議事録の適切な粒度をどこに設定するかは、法務・総務担当者が反復的に悩む問いだ。株主総会・役員任期・登記と並んで、取締役会議事録はコーポレートガバナンスの基礎インフラであり、管理部門が整備すべき最重要文書の一つに位置する。本記事では、会社法上の必要記載事項を整理したうえで、実務上「残すべきこと」「残してはいけないこと」のバランス感を、具体例を交えて示す。

最終更新:2026年4月|執筆:Legal GPT 編集部

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取締役会議事録はどこまで書くべきか

取締役会議事録をめぐっては、「どこまで詳しく書けばいいのか」という疑問が繰り返し浮上する。答えは単純ではないが、整理の出発点は明確だ。

会社法は「どういう内容を書け」とは定めているが、「何文字書け」「どの発言を何行で記録せよ」とは定めていない。記録すべき実質的な情報量の下限を法令が定め、上限は実務上の判断に委ねられている。その判断の幅の中で、多くの担当者が迷う。

迷いが生じる背景には、議事録が担う機能の多様性がある。議事録は①取締役の意思決定の記録、②異議を述べない取締役への賛成推定の根拠(会社法369条4項)、③商業登記申請の添付書類、④株主や債権者の閲覧対象(同371条)、⑤紛争時の証拠、という複数の機能を同時に担う。それぞれの機能が求めるディテールの水準は必ずしも一致しない。

本記事のスタンス
法令上の最低要件を「守れて当然の基準」と位置づけ、実務上は「意思決定のプロセスの合理性を後から証明できる水準」を目標とする。その中間に答えがある。一律のテンプレートで全案件を処理するのではなく、議案の性質と重要度に応じて記載粒度を変えることが出発点となる。

法令上の必要記載事項

取締役会議事録の作成は、会社法第369条第3項で義務付けられており、記載事項の詳細は会社法施行規則第101条第3項が定める。

会社法第369条第3項(抜粋)

取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

会社法第369条第4項(推定規定)

取締役会の決議に参加した取締役であって第一項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。

施行規則101条3項が定める記載事項は以下のとおりだ。

項目 法令上の要否 実務重要度 記載のポイント
開催日時・場所 必須 場所は会議室名まで特定する。オンライン出席者がいる場合はその出席方法(Zoom等)も記載(施行規則101条3項1号かっこ書)。リモート参加者の自宅住所の記載は不要。
出席取締役・監査役の氏名・議長氏名 必須 欠席者は明示するか、出席者のみ列挙する。議長の氏名も記載する(施行規則101条3項6号)。議事録作成に係る取締役の氏名も必須(同7号)。
議事の経過の要領および結果 必須 「経過の要領」=審議の主要論点の要約。「結果」=可決・否決・継続審議のいずれか。逐語記録は不要。なぜその結論に至ったかがわかる程度の審議内容を残す。
決議に参加した取締役のうち異議を述べた者 必須(該当がある場合) 異議を述べた者がいる場合はその旨を記載(施行規則101条3項4号)。記載がなければ決議参加者全員が賛成したと推定される(369条4項)。
特別利害関係人の退席・不参加 必須(該当がある場合) 退席の事実に加え、特別利害関係人が審議および決議の場に居合わせなかった旨を明記する。退席後の決議参加者数と結果も必須。
取締役・監査役等の陳述・意見 必須(該当がある場合) 監査役が意見を述べた場合はその要旨を記録する(施行規則101条3項5号参照)。出席して意見を述べなかった場合は「出席した」旨で足りる。
招集手続が省略された旨 必須(省略した場合) 取締役全員の同意により招集手続を省略した場合(会社法368条2項)はその旨を記載する(施行規則101条3項3号)。通常の招集手続を経た場合は省略可。
報告事項の概要 任意(実務上推奨) 中〜高 「報告事項」も取締役会の議事として扱われた以上、議事の経過の要領の一部として概要を記録しておくのが実務上望ましい。取締役の監視義務(362条2項2号)の履行証跡となる。質疑があれば主な論点の要旨も残す。
書面決議(みなし決議)の場合の特記 必須(370条の場合) 会社法370条のみなし決議の場合は、決議があったとみなされた日・提案内容・同意した全取締役を記録する。書面決議では「議事の経過」が存在しないため、提案に至る経緯を別途記録に残す実務も検討に値する。

署名・記名押印と電磁的記録

議事録が書面の場合、出席した取締役および監査役の全員が署名または記名押印しなければならない(会社法369条3項)。電磁的記録として作成する場合は、署名・押印に代わる措置として電子署名が必要だ(同条4項、施行規則225条1項6号)。

電子署名については、社内保存用と商業登記申請用では求められる要件が異なる点に注意が必要だ。商業登記のオンライン申請に添付する電子議事録には、商業登記規則・商業登記電子証明書等の取扱い規則に基づく指定の電子証明書が必要であり、一般的なクラウドサービスの電子署名で代替できないケースがある。電子議事録の導入前に、利用する署名サービスの登記対応可否を確認することを推奨する。

保存期間

取締役会議事録は、取締役会の日から10年間、本店に備え置く必要がある(会社法371条1項・2項)。株主・債権者・親会社の株主は、一定の要件のもと閲覧または謄写を請求できる(同条2項〜5項)。

実務上どこまで残すべきか

法令が求める「議事の経過の要領」という表現は、実務担当者にとって曖昧だ。「経過の要領」とは逐語記録ではないが、「結果のみ」でも不足する。この幅の中で、どこに着地するかが実務判断の核心となる。

議事録の本当の目的——経営判断原則との接続

「議事の経過の要領」を記録する真の目的は、単なる事実の記録ではない。取締役の善管注意義務(会社法330条、民法644条)違反が問われる場面で、裁判所が重視するのは「決定プロセスの合理性」だ。これを実務上「経営判断原則(Business Judgment Rule)」という。

経営判断原則とは、取締役が適切な情報収集と合理的な検討プロセスを経て下した経営判断については、結果的に損失が生じた場合でも、裁判所は容易に任務懈怠を認定しないという考え方だ。日本の裁判例においても、最高裁はこの考え方に基づき、取締役の責任を判断するうえで「決定当時の情報収集の状況」と「検討プロセスの合理性」を重視している。

議事録が取締役を守る「盾」になる
議事録に「十分な情報を収集し、適切な検討プロセスを経て判断した」という事実が記録されていれば、後の株主代表訴訟や監査において、取締役の判断の合理性を示す直接の証拠となる。「何を決めたか」だけでなく「どのように決めたか」を残すことが、経営判断原則の盾としての議事録の機能だ。

残すべき三要素

実務上は、以下の三要素を「最低限かつ十分な情報」として押さえることを起点にするとよい。

残すべき三要素
①議案の背景・目的——なぜその議案を取締役会に付議したか。「何を決めたか」の前に「なぜ決める必要があったか」が理解できる程度の記述。

②審議における主要論点の要旨——討議の中で浮上した主な観点・懸念・確認事項。「議論なし、満場一致で可決」という記述は、後から実質審議の欠如を示す証拠になりうる。

③決議結果と表決状況——可決・否決・継続審議の区別に加え、全員一致か否か。異議があれば誰が述べたかと、案件の重要性に応じてその要旨も記録する。

添付資料との関係——「本文簡略化」の落とし穴

実務上よく見られる「詳細は別添資料のとおり」という記述スタイルには注意が必要だ。資料に審議の詳細を委ねること自体は問題ないが、添付資料だけでは後日の閲覧請求や紛争時に文脈が失われるリスクがある。

添付資料との関係を整理する
推奨するハイブリッドな手法:
資料を参照する際は、①当日配付された資料の表題・版数を明記し、②その資料のどの論点について、どのような質疑応答が行われたかを本文に最小限残す。これにより、資料が後日散逸した場合でも議事録単独で審議の経緯がわかる状態を維持できる。

「別添資料のとおり説明があり、質疑応答の後、全員一致で可決した」という記述は、添付資料が揃っている間は機能するが、閲覧請求時・訴訟時・M&A時のDD時に資料が見当たらなければ議事録が空洞化する。

「閲覧されることを前提とした」記述スキル

会社法371条の閲覧謄写請求に対し、監査役設置会社等では株主は裁判所の許可が必要とされる(371条3項)。しかし実務上、裁判所は「会社の利益を害するおそれ」が認められない限り閲覧を許可する傾向がある。「後から黒塗り(マスキング)すればよい」という考え方は、主要な事実の記録そのものを省けるわけではなく、根本的な解決にはならない。

より有効なアプローチは、「最初から閲覧されることを前提として書く」という意識だ。営業秘密そのものを記録するのではなく、「検討した事実とその合理性」を記録する。具体的な取引条件の数字よりも、「市場水準との比較検討を経た」「外部専門家の意見を踏まえた」という事実を書くことで、公開可能な形で意思決定プロセスを記録できる。

363条2項の定期報告——形骸化防止

代表取締役その他の業務執行取締役は、3か月に1回以上、自己の職務執行状況を取締役会に報告しなければならない(会社法363条2項)。実務上この定期報告は形骸化しやすく、「代表取締役より業務執行状況につき報告があった」の一行で済まされているケースが多い。

しかし近年のガバナンス重視の傾向では、この記述では取締役会の監視機能の実質的な行使を証明しにくくなっている。少なくとも「どの範囲の、どのような主要KPIについて報告があったか」を明記することが、取締役相互間の監視義務履行の証跡として不可欠だ。

書きすぎるリスクと短すぎるリスク

議事録の品質を下げる失敗には、「短すぎる」ものと「書きすぎる」ものの両方がある。

短すぎるリスク

短すぎる議事録の具体的リスク
・経営判断プロセスが証明できない——「第1号議案 ○○について、全会一致で可決した」だけでは、情報収集・検討プロセスの合理性が示せず、任務懈怠責任の主張に反証できない。

・審議の実態を疑われる——M&AのDD・株主代表訴訟・行政調査等の場面で、「取締役会が機能していたか」を問われた際に立場が苦しくなる。

・登記申請で差し戻される——代表取締役の選定決議が内容不足だと、法務局から補正を求められることがある。

・特別利害関係の処理が不明確——利益相反案件で退席・不参加の事実が記録されていないと、決議の効力が後から問題になりうる。

書きすぎるリスク

書きすぎる議事録の具体的リスク
・反対意見・懸念の詳細な記録が紛争材料になる——「○○取締役は、当該案件に重大な問題があると強く発言した」などの記述は、任務懈怠責任の主張に使われうる。

・個人情報・秘密情報の意図せぬ記録——取引条件・未公表情報・個人名が詳細に記録されると、閲覧請求の対象として機能する。

・感情的表現・私的見解の記録——語気や感情を記録することは議事録として不適切であり、後の紛争を複雑にする。

・逐語記録による工数の増大——法的機能を果たさない詳細記録は担当者負担を増やすだけだ。

「適切な粒度」の考え方

実務上の目安は、「取締役会に出席しなかった取締役・監査役が読んで、どういう審議を経てその決定に至ったかを合理的に理解できるか」だ。この基準に照らして、プロセスの合理性を示すに足る情報量があるかを確認し、個人の感情や秘密性の高い詳細は削る。

典型場面ごとの書き方

① 代表取締役の選定

登記申請の添付書類となるため、記載内容の正確性が特に重要だ。「選定の方法」(互選か取締役会決議か)、「選定された者の氏名」、「当該者が就任を承諾した旨」(別途就任承諾書がある場合は省略可)を明記する。互選の場合は互選の方法(無記名投票か口頭確認か等)も確認したうえで記録する。

② 利益相反取引の承認

会社法356条・365条に基づく承認決議は、手続瑕疵が後の取引の効力に影響しうる。特別利害関係人(取引当事者となる取締役)については、単に「退席した」と記録するだけでなく、「特別利害関係人が審議および決議の場に居合わせなかったこと」を明示する。居合わせること自体が心理的圧迫・影響力行使として問題視されるリスクを排除するための記録だ。

退席後の決議に参加した取締役の数と議決結果を明示し、当該取締役が開示すべき情報(施行規則101条3項5号参照)——取引の内容・条件・会社にとっての利益不利益等——を説明した旨とその要旨を残す。

利益相反取引承認の記載例(要旨)
「第1号議案 代表取締役○○との不動産賃貸借取引承認の件
議長は、○○取締役(以下「当該取締役」)が取引の相手方となるため特別利害関係人に当たる旨を告げ、審議および決議の場への参加を求めないことを確認した。当該取締役は取引条件(物件所在地・月額賃料○万円・期間○年・市場水準との比較)を説明し、退席した。
出席取締役5名のうち当該取締役1名は退席し、以後の審議および決議に参加しなかった。残取締役4名の全員一致により本議案を承認した。」

③ 重要契約の締結承認

金額・相手方・契約の概要を記録するとともに、審議の過程でリスクについての説明が行われた場合はその要旨を残す。「別添資料に基づき説明があった」とする場合は、資料の表題と、どの論点について質疑が行われたかを本文に最小限記録する。すべての契約条件の転記は不要だ。

④ 反対意見・留保意見があった場合

取締役が反対した場合は「○○取締役は反対した」と事実を記録する。反対理由については、軽微な案件では「懸念を示した」程度の記述でよいが、重要な案件では反対理由の要旨を感情的表現を避けつつ記載することが、後の説明責任に役立つ場合がある。「財務上の懸念から」「市場見通しについて異なる判断から」といった形で要旨を残す水準が実務上のバランスだ。

なお、異議を述べた取締役が署名を拒否する事態に至った場合は、法的な対応方法(議事録への付記等)を含めて専門家に確認することが望ましい。

良い例・悪い例

場面 悪い例 良い例 コメント
通常の重要契約承認 「第1号議案 業務委託契約締結の件。全会一致で可決。」 「第1号議案 A社との業務委託契約締結の件。議長より契約概要(委託内容・契約金額・期間・主なリスク)について説明があった。配付資料「A社契約概要v2」の主要リスク項目につき質疑の後、取締役5名全員一致で承認した。」 審議の実態と資料参照の事実を最小限残す。プロセスの合理性が記録される。
利益相反取引 「○○取締役と会社との不動産賃貸借契約について承認した。」 「○○取締役は特別利害関係人として退席し、以後の審議および決議に参加しなかった。残取締役4名全員一致で承認した。退席前に○○取締役より取引条件の適正性(市場価格比較)について説明があった。」 「居合わせなかった」という事実の記録が心理的圧迫リスクを排除する。
重要案件・反対意見あり 「○○取締役は強く反対し問題があると激しく主張した。それでも可決した。」 「○○取締役は当該投資の将来収益の実現可能性について異なる見解から反対した。賛成4名、反対1名の多数決により可決した。」 感情的記述は排除。重要案件では反対理由の要旨を残すことで後の説明責任に備える。
定期報告(363条2項) 「代表取締役より業務執行状況につき報告があった。」 「代表取締役より、第1四半期の売上・利益・主要KPI(受注件数・稼働率)について報告があった。○○取締役より来期見通しについて質問があり、回答があった。」 報告の実質を示すことが取締役会の監視機能の証拠になる。一行記録は形骸化リスクがある。
代表取締役選定 「代表取締役に○○を選定した。」 「互選の結果、○○氏を代表取締役に選定した。○○氏はその場で就任を承諾した。」 選定方法(互選か決議か)と就任承諾の記録は登記申請に不可欠。

記述レベルの対比:審議経過

NG例:短すぎる(経営判断プロセスが空洞)
第2号議案 新規事業への投資承認の件
審議の結果、全会一致で承認した。
NG例:書きすぎ(感情・語気・不要な詳細)
第2号議案 新規事業への投資承認の件
CFOより説明があった。○○取締役は「これは絶対に失敗する」と激しく批判し、担当役員と30分にわたって言い合いになった。代表取締役が強引に多数決を取り、賛成4名・反対1名で可決した。
良い例:プロセスの合理性が記録された適切な粒度
第2号議案 新規事業への投資承認の件
担当役員より事業概要・投資額(○億円)・収益計画・主要リスクについて説明があった(配付資料「新規事業投資計画v3」参照)。○○取締役より将来収益の実現可能性について質問があり、市場調査データに基づく回答があった。○○取締役は市場見通しについて異なる判断から反対した。賛成4名・反対1名の多数決により本議案を承認した。

AI議事録作成ツールを使う場合の注意点

近年、Web会議の文字起こし・AI要約ツールを使って議事録の下書きを作成する実務が広がっている。これ自体は効率化として有効だが、AIが生成する逐語録を「そのまま議事録として使う」ことには慎重であるべきだ。

AI議事録の法務チェックポイント
①「逐語録」から「経過の要領」への圧縮が必要——AIが生成するのは発言の記録であり、法令上の「経過の要領」ではない。発言を要約・抽象化して「審議の主要論点とその帰結」として書き直すプロセスが不可欠だ。

②感情的表現・不適切な記述の排除——文字起こしには語気・感情・場の空気が含まれる。法務担当者が最終レビューし、議事録として不適切な記述を除去する必要がある。

③閲覧請求耐性の確認——AIが「詳しく書いてしまった」内容が、後の閲覧請求・訴訟で意図しない証拠として機能しないか確認する。

④特別利害関係・異議留保の明示——AIは議事の文脈から「この取締役が特別利害関係人だ」と自動判断できない。法的に重要な論点は人間が判断・追記する必要がある。

よくある誤解

誤解①「決議結果だけ書けば十分」
法令は「議事の経過の要領」の記載を求めており、決議結果だけでは不足する。経営判断原則の観点からも、プロセスの合理性を示す情報が不可欠だ。

誤解②「詳しく書くほど安全」
過剰な記述は逆効果になりうる。感情的な発言・個人批判・秘密性の高い取引条件の詳細記録は、閲覧請求リスクや紛争上のリスクを高める。「必要十分」が目標だ。

誤解③「生々しいやり取りも全部残すべき」
議事録は速記録でも実況中継でもない。発言の内容ではなく、審議の論点と結論を記録することが目的だ。語気や感情を記録する必要はなく、むしろ避けるべきだ。

誤解④「テンプレを使えばどの案件でも同じでよい」
テンプレートは出発点だ。重要案件・利益相反案件・反対意見がある案件・登記添付が必要な案件では、追加情報の記載が求められる。

誤解⑤「電子保存は法律上認められていない」
電磁的記録による作成は会社法369条3項・4項および施行規則101条2項で明確に認められている。ただし登記申請添付に使う場合の電子署名要件を事前に確認することが必要だ。

誤解⑥「後から黒塗りすれば問題ない」
株主の閲覧請求(371条)において、裁判所は「会社の利益を害するおそれ」がない限り閲覧を許可する傾向がある。黒塗りで対処できる情報には限界がある。最初から「閲覧されても問題のない形」で書くことが根本的な対策だ。

実務チェックリスト

取締役会議事録 作成チェックリスト
  • 開催日時・場所を正確に記載したか(オンライン出席者の出席方法を含む)
  • 出席した全取締役・監査役の氏名、議長氏名、議事録作成担当取締役の氏名を記載したか
  • 招集手続を省略した場合、その旨を記載したか
  • 各議案について「背景・目的」「審議の主要論点の要旨(経営判断プロセスがわかる程度)」「決議結果と表決状況」を記載したか
  • 添付資料がある場合、資料名と本文での参照箇所・質疑の要旨を本文に最小限残したか
  • 特別利害関係人がいる場合、退席の事実・審議および決議に居合わせなかった旨・退席後の参加者数と結果を記載したか
  • 反対意見・留保意見を述べた取締役がいる場合、事実とその要旨(重要案件は理由の要旨も)を記載したか
  • 363条2項の定期報告がある場合、報告の範囲・主要KPI・質疑の要旨を記録したか
  • 書面決議(370条)の場合、みなされた日・提案内容・同意した全取締役を記録したか
  • 感情的表現・語気・個人批判・不必要な秘密情報が含まれていないか確認したか
  • 出席した取締役・監査役全員の署名または記名押印(電磁的記録の場合は所定の電子署名)を取得したか
  • 保存方法(書面または電磁的記録)と10年間の保存体制を確認したか

FAQ

決議結果だけで足りますか?

足りません。施行規則101条3項2号は「議事の経過の要領及びその結果」の記載を求めており、経過の要旨は不可欠です。また経営判断原則の観点から、取締役の善管注意義務違反が問われる場面では「どのようなプロセスで決定したか」の記録が取締役を守る証拠になります。「全会一致で可決」だけの議事録は、この機能を果たしません。

誰が署名押印しますか?

出席した取締役および監査役の全員です(369条3項)。議長または作成担当取締役のみでは足りません。電磁的記録の場合は電子署名が必要であり(同条4項、施行規則225条1項6号)、社内保存用と商業登記申請用では求められる電子署名の要件が異なる場合があるため、事前に確認が必要です。

反対意見は必ず書かなければなりませんか?

反対(異議)があった場合は、その旨の記載が施行規則101条3項4号で求められています。記載がなければ決議参加者全員が賛成したと推定されます(369条4項)。反対の事実は必須の記載事項です。

反対理由については、軽微な案件では「懸念を示した」程度でよいですが、重要案件では反対理由の要旨を感情的表現を避けつつ記載することが、後の説明責任に役立ちます。「財務上の懸念から」「市場見通しについて異なる判断から」程度の表現が実務上のバランスです。

電子保存でよいですか?

会社法は書面または電磁的記録のいずれでも認めています(369条3項・4項、施行規則101条2項)。ただし電磁的記録として作成した議事録には、出席した取締役・監査役全員の電子署名が必要です。商業登記申請の添付書類として使用する場合は、商業登記規則に基づく特定の電子証明書が必要となるケースがあるため、利用するサービスの登記対応可否を事前に確認してください。

保存期間は何年ですか?

取締役会の日から10年間、本店に備え置く義務があります(会社法371条1項)。社内規程で期間を短縮しても法的効力はありません。議事録本体だけでなく、当日配付した添付資料も議事録とセットで管理し、紐付けを維持することが実務上重要です。散逸すると後の閲覧請求・訴訟・DDで議事録が空洞化するリスクがあります。

まとめ

本記事のポイント
  • 取締役会議事録の核心は「意思決定プロセスの合理性の証明」——経営判断原則の盾として機能させる記録を目標とする。
  • 「議事の経過の要領」として残すべきは、議案の背景・主要論点の要旨・決議結果と表決状況の三点。逐語記録は不要。
  • 添付資料を参照する場合、資料名と質疑の要旨を本文に最小限残しておく。資料散逸に備える。
  • 議事録は閲覧されることを前提として書く。営業秘密そのものではなく「検討した事実と合理性」を記録する。
  • 363条2項の定期報告は形骸化させず、報告範囲・主要KPI・質疑の要旨を記録する。
  • 利益相反取引では、特別利害関係人が審議・決議の場に「居合わせなかった」旨を明示する。
  • 反対意見は事実を必ず記録。重要案件では感情的表現を避けつつ反対理由の要旨も残す。
  • AI議事録ツールを使う場合、逐語録から「経過の要領」への圧縮・法務チェックを人間が行う。
  • 電子署名は社内保存用と商業登記申請用で要件が異なる。事前確認が必要。
  • 保存義務は10年間。議事録と添付資料を紐付けて管理する。

取締役会議事録は「会議録を残す事務作業」ではなく、「取締役の意思決定プロセスの正当性を後から証明するための法的文書」だ。株主総会・役員任期・登記と並ぶコーポレートガバナンスの基礎インフラとして、自社の議事録ひな型と運用ルールを定期的に見直すことを推奨する。

社内決裁と法務審査の連携体制契約締結権限の設計とあわせて整備することで、コーポレートガバナンスの基盤がより強固になる。

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