【法務部から先回り解説】2028年の雇用保険適用拡大に備える|週10時間基準が採用・契約・更新実務に与える影響
2028年10月1日から、雇用保険の被保険者要件のうち、週所定労働時間の基準が「20時間以上」から「10時間以上」へ引き下げられます。2024年に公布された雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)による改正で、施行日は2028年10月1日と法律上確定しています。
対象拡大のインパクトは大きく、厚生労働省が示した2023年の労働力調査ベースの資料では、週10時間以上20時間未満で働く雇用者は約506万人とされています。ただし、これは約506万人全員がそのまま雇用保険に加入するという意味ではありません。31日以上の雇用見込みや学生等の適用除外など、他の要件も個別に確認する必要があります。
また、2028年を待たず、短時間労働者をめぐる制度は先に動きます。社会保険(健康保険・厚生年金保険)では、現在の「月額8.8万円以上」という賃金要件について、厚生労働省が2026年10月に撤廃予定と案内しており、2027年10月からは企業規模要件も51人以上から36人以上へ拡大されます。
つまり、人事・法務が見るべきなのは「2028年の雇用保険」だけではありません。2026年の社会保険の賃金要件、2027年の社会保険の企業規模要件、2028年の雇用保険の週10時間基準を、別制度として区別しながら連続した短時間労働者管理の見直しとして捉える必要があります。
2026年9月10日時点の重要な注意
社会保険の月額8.8万円以上という賃金要件について、2025年年金制度改正法は、公布日である2025年6月20日から3年以内の政令で定める日に撤廃する仕組みとしています。厚生労働省の最新公式案内は「2026年10月に撤廃予定」としていますが、本記事の更新基準日である2026年9月10日時点では、公式案内上なお「予定」と表示されています。そのため、本記事では「2026年10月撤廃予定」と記載し、「2026年10月1日施行」とは断定していません。
▼ 短時間労働者をめぐる制度改正タイムライン
(予定)
※社会保険の企業規模要件について、厚生労働省資料の「35人超」は「36人以上」、「20人超」は「21人以上」、「10人超」は「11人以上」と同義です。本記事では実務上分かりやすい「○人以上」に表記を統一しています。企業規模の「従業員数」は単純な全従業員数ではなく、原則として厚生年金保険の被保険者数を基準に判定します。任意特定適用事業所等の例外もあります。
この記事のポイント
- 雇用保険の週所定労働時間要件は、2028年10月1日に20時間以上から10時間以上へ引き下げられる
- 雇用保険は週10時間だけで決まらず、31日以上の雇用見込みや学生等の適用除外も確認する
- 昼間学生は原則として雇用保険の適用除外であり、「学生アルバイトの多くが一律に加入する」という理解は正しくない
- 社会保険では月額8.8万円以上という賃金要件が2026年10月に撤廃予定だが、具体的な日付は本記事基準日では確定扱いにしない
- 「106万円の壁」は年収106万円そのものが法定要件なのではなく、月額8.8万円×12か月=約105.6万円に由来する通称
- 社会保険では賃金要件撤廃後も、週20時間、学生区分、雇用期間、企業規模等の確認が必要
- 法務・人事は2026年対応と2028年対応を分け、契約・シフト・求人票・FAQ・加入判定システムを段階的に改修する
まず整理したい「確定事項」と「予定事項」
短時間労働者をめぐる改正では、成立済みの法律、施行日まで確定した事項、政令に委任された事項、厚生労働省が「予定」と案内している事項が混在しています。社内説明では、ここを混ぜないことが重要です。
なぜ法務部が今、この改正を見ておくべきなのか
雇用保険の適用拡大は、表面的には「加入対象者が増える」という話に見えます。しかし法務部にとって本質的なのは、短時間就労者の契約設計・説明責任・記録管理の前提が変わることです。
現在は、パート・アルバイトについても、原則として「31日以上の雇用見込み」と「週所定労働時間20時間以上」を満たせば、本人や会社の希望にかかわらず雇用保険の加入対象となります。2028年10月1日以降、この労働時間基準が10時間以上に下がるため、週10時間以上20時間未満の非学生パート・アルバイト等について新たな判定が必要になります。
法務部が早い段階から見るべき理由は、大きく3つあります。
1. 契約書の「週所定労働時間」の重要性が高まる
雇用保険の労働時間要件は、単純な月間実働時間ではなく、原則として就業規則、労働条件通知書、雇用契約書等から確認される「週所定労働時間」を基準に判定します。
したがって、「週9時間」と契約に書けば足りるという話ではありません。実際の労働条件変更が契約書に反映されていない、シフト制で所定時間の設定自体が曖昧、店舗ごとに契約書とシフト設計が異なる、といった状態を放置すると、資格取得・喪失の判断が不安定になります。
一方で、一時的な残業や欠員補充によって実働が10時間を超えただけで、当然に週所定労働時間が10時間以上になるわけでもありません。「所定労働時間」と「実労働時間」を混同しないことも重要です。今後公表される2028年施行対応の業務取扱要領等も含めて、判定ルールを確認する必要があります。
2. 採用時・更新時の説明が複雑になる
短時間労働者は、雇用保険、社会保険、配偶者等の扶養、手取り額を一括して「保険の壁」と捉えがちです。しかし、雇用保険の週10時間基準、社会保険の週20時間基準、「106万円の壁」、「130万円の壁」はそれぞれ別の制度上の論点です。
現場担当者が「週10時間を超えると全部の保険に入ります」「106万円未満なら社会保険には入りません」と説明すると、今後は誤説明になる可能性が高くなります。採用担当者・店長等がどこまで説明し、個別の扶養認定などをどこから専門部署へエスカレーションするかを標準化すべきです。
3. 2026年と2028年で対象者抽出ロジックが変わる
2026年には社会保険の月額8.8万円要件の撤廃が予定され、2028年には雇用保険の週10時間基準が施行されます。給与・勤怠・社会保険判定システムに「月8.8万円」「週20時間」といった固定条件が組み込まれている会社では、法改正に合わせて判定ロジックを段階的に変更する必要があります。
なお、こうした法改正を社内に効率的に伝達する手法については、以下の記事も参考になります。
👉 2025年下半期法改正ラッシュ対応記〜ChatGPTで乗り切る実践レポート〜
2028年の雇用保険適用拡大──週20時間基準から週10時間基準へ
2028年の雇用保険適用拡大の中心は明快です。雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)により、被保険者の適用除外となる週所定労働時間の基準が見直され、2028年10月1日から週所定労働時間10時間以上の労働者まで適用対象が広がります。
厚生労働省の雇用保険制度研究会や労働政策審議会雇用保険部会でも、働き方や生計維持の在り方の多様化を踏まえ、週20時間未満の労働者に雇用のセーフティネットを広げることが検討されてきました。
▼ 改正前後の比較表
※基本手当、育児休業給付、教育訓練給付等は、雇用保険の被保険者になっただけで当然に支給されるものではありません。それぞれの給付について被保険者期間、離職・休業等の個別の支給要件を満たす必要があります。
出典:厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」等をもとに整理。
「約506万人」は全員が新規加入するという意味ではない
厚生労働省の資料では、2023年の労働力調査を基礎として、週10時間以上20時間未満の雇用者を約506万人と示しています。ただし、この数字には、雇用保険法上の学生等の適用除外その他の要件を反映した「実際の新規被保険者数」とは異なる側面があります。
したがって、社内資料で「2028年に約506万人が必ず雇用保険に加入する」と説明するのは避け、「週10〜19時間層は約506万人規模であり、そのうち雇用見込み・学生区分など他の適用要件を満たす者が対象となる」と整理するのが正確です。
学生アルバイトはどうなる?昼間学生は原則として雇用保険の適用除外
2028年の雇用保険適用拡大で、特に注意すべきなのが学生アルバイトです。
「週10時間になれば、大学生のアルバイトも大量に雇用保険へ加入する」と考えるのは正確ではありません。雇用保険法上、学校教育法上の一定の学校の学生・生徒については適用除外があり、厚生労働省・ハローワークの現行実務では、いわゆる昼間学生は原則として被保険者になりません。2024年改正は週所定労働時間基準を引き下げる改正であって、この学生適用除外を一律に撤廃する改正ではありません。
学生区分の実務整理
| 昼間学生 | 原則として雇用保険の適用除外。夜間にアルバイトしているだけでは通常この結論は変わりません。 |
| 夜間学部・定時制 | 昼間学生としての適用除外の対象とはされず、2028年10月以降は週所定労働時間10時間以上、31日以上の雇用見込み等を満たせば被保険者となり得ます。 |
| 通信制 | 学業形態・出席要件等を踏まえ、昼間学生の適用除外から外れる取扱いとなる場合があります。実務では学校・課程の確認が必要です。 |
| 卒業予定者 | 卒業予定で、卒業前から就職し、卒業後も引き続き同一事業に雇用される予定であるなどの要件を満たす場合は、昼間学生でも被保険者となり得ます。 |
| 休学中 | 休学の事実を確認できる場合など、例外的に被保険者となり得ます。 |
| 社会人大学院生等 | 雇用関係を継続した上で、事業主の命令・承認を受けて大学院等に在学する場合など、例外的に被保険者となる取扱いがあります。 |
したがって、2028年に向けた人事データの棚卸しでは、「学生/非学生」の1項目だけでは不十分です。少なくとも、昼間、夜間、定時制、通信制、休学、卒業予定で継続雇用予定といった区分を、必要な範囲で確認できる設計にする必要があります。
2028年に影響を受けやすいのはどの層か
中心になるのは、これまで週20時間未満で雇用保険の対象外だった非学生の短時間労働者です。例えば次のようなケースが考えられます。
- 週2日×5時間で働くパート
- 週3日×4時間で働く非学生アルバイト
- 夜間・定時制・通信制等で学びながら短時間就労する者で、学生適用除外に該当しない者
- 複数の勤務先で短時間勤務する者
- 介護・育児等との両立のため週10〜19時間で働く者
- シフト制で週所定労働時間の定義が不明確な短時間労働者
逆に、典型的な昼間の大学生・高校生のアルバイトを、週10時間を超えたという理由だけで加入対象として扱うのは誤りです。
給付面では現行被保険者と同じ体系を基本とする
厚生労働省の制度設計では、週10時間基準によって新たに加入する短時間労働者について、かつての「短時間労働被保険者」のような別枠の給付体系を設けるのではなく、原則として現行被保険者と同じ給付体系とする考え方が採用されています。
そのため、個別の支給要件を満たせば、基本手当、教育訓練給付、育児休業給付等の対象となり得ます。会社側では、資格取得だけでなく、退職時の離職証明書、休業時の給付手続など、これまで雇用保険対象外だった短時間層について新しい事務が発生することを見込む必要があります。
法務が警戒すべき3つの実務リスク
リスク①:「10時間未満にしておけばよい」という形式的な契約設計
適用拡大を見越して「雇用保険に入れないために契約上9.5時間にする」といった発想が現場から出る可能性があります。しかし、業務上本当に必要な勤務時間と契約内容が一致しない設計は、労働条件の明示、シフト運営、更新時説明など別の場面で問題を生みます。
雇用保険では原則として週所定労働時間が基準となるため、一時的な残業時間を単純に足すものではありません。しかし、勤務実態が恒常的に契約と異なり、実質的に労働条件が変更されているのであれば、契約書の記載自体を見直す必要があります。
リスク②:募集時・採用時の誤説明
求人票に「週20時間未満は雇用保険なし」と固定的に記載している場合、2028年10月以降は使用できません。また「学生は全員対象外」も正確ではありません。昼間学生は原則適用除外ですが、夜間・定時制等や一定の例外があります。
採用現場では、「雇用保険」「健康保険・厚生年金保険」「被扶養者認定」を別々に説明する必要があります。
リスク③:更新・勤務時間変更の理由が残っていない
制度施行前後に勤務時間を引き下げれば、従業員から「雇用保険への加入を避けるためではないか」と疑問を持たれる可能性があります。業務量減少、本人希望、営業時間変更、配員変更など合理的理由に基づく勤務時間の変更自体が直ちに違法となるわけではありません。
しかし、その理由が残っていなければ、後から説明することが困難になります。勤務時間変更の理由・本人との協議・本人希望の有無を簡潔に記録する運用が有効です。
関連リスク:雇止めと離職理由の記録
適用対象者が増えれば、離職票や離職理由をめぐる実務も増えます。有期契約労働者について、本人は更新を希望していたのか、会社が更新しなかった理由は何か、更新上限や更新判断基準をどのように説明していたかといった記録は、雇用保険実務だけでなく、労働契約法19条の雇止め法理との関係でも重要です。
雇用保険と社会保険を混同しない──2026年・2027年・2028年を分けて考える
2028年の雇用保険週10時間基準を理解する際に、最も重要なのが雇用保険の適用拡大と、健康保険・厚生年金保険の社会保険適用拡大は別制度だということです。
▼ 雇用保険と社会保険の比較
社会保険料について「本人負担は一律○%」と説明するのは適切ではありません。厚生年金保険には法定の保険料率がありますが、健康保険料率は加入する保険者や都道府県等により異なり、40歳以上65歳未満では介護保険料の有無も関係します。人件費試算では、対象者ごとに加入制度・標準報酬月額等を確認する必要があります。
「106万円の壁」は何が撤廃されるのか
「106万円の壁」という言葉は広く使われていますが、法令上「年収106万円以上なら社会保険加入」という年間収入要件が直接定められているわけではありません。
現行の短時間労働者の社会保険適用要件の一つに、「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件があります。8.8万円を単純に12か月換算すると105.6万円となるため、一般に「年収約106万円の壁」と呼ばれています。
106万円という年間金額そのものが法定要件ではない
現行制度の判定対象は「所定内賃金月額8.8万円以上」です。時間外労働に対する賃金、賞与、一定の通勤手当等は、この8.8万円要件の判定では除外される取扱いがあります。「年間の給与総額が106万円を超えたか」だけで加入判定を行う制度ではありません。
2025年年金制度改正法により、この月額8.8万円以上という賃金要件自体が撤廃されることになりました。厚生労働省は2026年9月10日時点で「2026年10月に撤廃予定」と案内しています。
ただし、ここが重要です。賃金要件がなくなるからといって、すべてのパート・アルバイトが社会保険に加入するわけではありません。
4分の3基準に満たない短時間労働者については、賃金要件撤廃後も、少なくとも次の項目を確認する必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上であるか
- 学生ではないことという短時間労働者の要件を満たすか(一定の例外あり)
- 2か月を超えて使用される見込みがあるか
- その時点の企業規模要件を満たす特定適用事業所か
- 任意特定適用事業所等の別の適用関係がないか
- そもそも通常の労働者の所定労働時間・所定労働日数の4分の3以上として別ルートで被保険者となる者ではないか
したがって、社内FAQでは「106万円の壁がなくなる」という表現だけで終わらせず、「短時間労働者に係る月額8.8万円の賃金要件が撤廃される」と説明した方が正確です。
「106万円の壁」と「130万円の壁」は別制度
「106万円の壁」と「130万円の壁」も混同されやすいポイントです。
なお、130万円の被扶養者認定については、2026年4月1日以降、一定の場合に労働条件通知書等の労働契約内容から見込まれる年間収入による判定が導入されています。年齢等によって150万円・180万円の基準が用いられる場合もあるため、個別の扶養認定は最新の日本年金機構・保険者の取扱いを確認する必要があります。
社内で必ず否定しておきたい3つの誤解
誤解1:「週10時間以上なら全部の保険に加入する」
誤りです。2028年10月1日の週10時間基準は雇用保険の改正です。社会保険の短時間労働者に係る週20時間基準まで10時間へ下がるわけではありません。
誤解2:「週20時間以上なら必ず社会保険に加入する」
これも誤りです。4分の3未満の短時間労働者については、週20時間だけでなく、学生区分、雇用期間、企業規模等の要件を確認する必要があります。一方、4分の3基準に該当する場合は、短時間労働者の適用拡大とは別に被保険者となります。
誤解3:「106万円未満なら社会保険の対象外」
正確ではありません。そもそも106万円は月額8.8万円を年換算した通称です。また、4分の3基準に該当すれば賃金要件とは別に加入対象となり得ます。さらに月額8.8万円要件そのものが2026年10月に撤廃予定です。
▼ 週所定労働時間と制度適用の関係(2028年10月以降の基本イメージ)
※「時間だけを見た基本イメージ」です。実際の資格判定は各制度の全要件に基づいて行ってください。
ケース別に見る2026年・2028年の加入判定
ケース1:非学生・週15時間・6か月契約のパート
2028年10月1日以降は雇用保険の対象候補です。週15時間は新しい10時間基準を満たし、6か月契約であれば通常31日以上の雇用見込みも満たします。他の適用除外がなければ雇用保険加入を検討します。
一方、社会保険の短時間労働者に係る週20時間基準は満たさないため、週15時間という事実だけで健康保険・厚生年金保険の短時間労働者適用対象になるわけではありません。
ケース2:昼間の大学生・週15時間・1年契約のアルバイト
週10時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあっても、昼間学生であれば雇用保険は原則として適用除外です。
したがって、「週10時間以上だから2028年から雇用保険加入」と機械的に判定してはいけません。卒業予定で卒業後も継続雇用する場合、休学中などの例外に該当しないかも確認します。
ケース3:夜間・定時制等の学生・週12時間・1年契約
昼間学生の適用除外に該当しない学生であれば、2028年10月1日以降、週12時間と31日以上の雇用見込み等を満たすことで雇用保険の対象となり得ます。
「学生」という人事マスタの1項目だけではケース2との区別ができないため、学生区分の確認方法を整える必要があります。
ケース4:非学生・週20時間・月額所定内賃金8.8万円未満
2026年9月10日現在、4分の3未満の短時間労働者については月額8.8万円以上という賃金要件があります。しかし、この賃金要件は厚生労働省の案内上、2026年10月に撤廃予定です。
したがって、現在「週20時間以上だが月8.8万円未満」であるため短時間労働者として社会保険に加入していない者は、2026年対応で最優先に抽出すべき対象者です。ただし、実際の資格取得日は賃金要件撤廃の正式な施行日を確認して判断します。
ケース5:36人規模の会社・非学生・週20時間・6か月契約
企業規模要件との関係では、一般的な特定適用事業所の判定上、36〜50人規模の企業は2027年10月1日から新たな対象範囲に入ります。週20時間、雇用期間その他の要件を満たす短時間労働者について社会保険加入判定が必要になります。
なお、企業規模基準未満でも任意特定適用事業所となっている場合や、4分の3基準を満たす場合などは別途加入対象となり得るため、単純に会社人数だけで判断しないことが重要です。
採用・契約・更新実務で見直すべき文書
制度改正への対応は、資格取得届だけを準備すれば終わりではありません。募集から退職までの一連の文書・データを同じルールで管理できるかを確認します。
👉 【2026年版】就業規則の改定手順チェックリスト|成果物・届出・周知を5工程で整理
2026年10月の社会保険対応──人事が今すぐ確認するチェックリスト
2028年より先に対応期限が来るのが、社会保険の月額8.8万円賃金要件の撤廃予定です。正式な施行日を確認しつつ、事前に対象者とシステムへの影響を洗い出します。
2026年対応チェックリスト
- □ 週20時間以上・月額8.8万円未満の短時間労働者を抽出したか
- □ 契約上の所定労働時間と実労働時間のズレを確認したか
- □ 学生区分と例外該当性を確認できるか
- □ 2か月を超えて使用される見込みを確認できるか
- □ 自社の企業規模要件を正しい被保険者数で判定しているか
- □ 社会保険加入判定システムから月8.8万円条件を正式施行日に外せるか
- □ 求人票の「社会保険加入条件」を点検したか
- □ 採用面接・オファー時の説明文を更新したか
- □ 雇用契約書・労働条件通知書の労働時間・契約期間の記載を確認したか
- □ 社員向けFAQで「106万円要件撤廃=全員加入ではない」と説明したか
- □ 正式な賃金要件撤廃の政令・施行日を確認する担当者を決めたか
特に重要なのは、判定システムの変更日を「2026年10月1日」と先に固定しないことです。厚生労働省の公式情報で具体的施行日が確認できた時点で、本番設定へ反映する運用が安全です。
2028年10月の雇用保険対応──週10〜19時間層をどう管理するか
2028年対応チェックリスト
- □ 週所定労働時間10時間以上20時間未満の従業員を抽出できるか
- □ 昼間学生等の適用除外を区別できるか
- □ 夜間・定時制・通信制、休学、卒業予定者等の例外を確認するフローがあるか
- □ 31日以上の雇用見込みを契約データから確認できるか
- □ 新規対象者の雇用保険被保険者資格取得手続を一括処理できるか
- □ 労働条件通知書・雇用契約書の週所定労働時間が明確か
- □ シフトシステム上、所定時間と実勤務時間を区別できるか
- □ 雇用保険料の追加的な会社負担・本人負担を人件費予算へ反映したか
- □ 2028年度の実際の保険料率を施行時点で再確認する仕組みがあるか
- □ 新たな対象者へ雇用保険加入・給与控除・給付制度を説明する資料を準備したか
- □ 離職証明書、育児休業給付等の事務件数増加を見込んだ人員・システム設計をしたか
資格取得届の具体的な提出方法・様式・システム仕様については、施行までに厚生労働省・ハローワークから更新情報が公表される可能性があります。2026年時点の手続をそのまま2028年の最終仕様と決め打ちせず、施行直前に再確認する工程をプロジェクト計画へ入れておくべきです。
業種別に起きやすい運用ズレ
複数就業者への注意
週10〜19時間で働く層では、複数企業で勤務するケースも少なくありません。雇用保険には65歳以上を対象とするマルチジョブホルダー制度などもあり、単純に「他社で雇用保険に入っているから自社では何もしなくてよい」と判断することはできません。
2028年の週10時間基準により、複数就業者に関する適用場面も増えることが想定されています。厚生労働省の制度設計資料でも、複数の雇用主との関係で被保険者要件を満たすケースが増えることを踏まえ、判断基準の明確化が論点とされています。施行前の最新Q&A・業務取扱要領を必ず確認すべき分野です。
👉 【実務解説】つながらない権利とは?勤務時間外の連絡が「残業」になる境界線と就業規則の作り方
2028年までに法務・人事が主導したい社内棚卸し
賃金要件撤廃時に新たな社会保険対象となり得る層を把握し、正式施行日が確認でき次第処理できる状態にします。
自社・グループ各社について正しい企業規模判定を行い、2027年10月1日の対象拡大に備えます。
部門・店舗・職種別に対象候補人数を把握し、学生区分、雇用期間、契約形態を付加します。
雇用契約書、シフト原案、勤怠実績を照合し、契約内容が実際の働き方を適切に反映しているか確認します。
求人票だけ更新して契約書やFAQが旧制度のまま、といった不一致をなくします。
対象者抽出、資格取得、給与控除、従業員通知までのテストを行い、施行日当日の大量処理を避けます。
人事=資格判定、人事給与=届出・控除、現場=勤務時間管理、法務=文書整合性・説明基準・紛争予防、といった役割分担を明文化します。
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よくある質問(Q&A)
Q1. 2028年10月から週10時間働けば、必ず雇用保険に加入しますか?
いいえ。週所定労働時間10時間以上は重要な要件ですが、31日以上の雇用見込み、学生等の適用除外その他の要件を確認する必要があります。
Q2. 昼間の大学生が週15時間アルバイトしている場合、2028年から雇用保険に加入しますか?
昼間学生に該当する場合は原則として適用除外です。ただし、卒業予定で卒業後も継続雇用される場合、休学中など、例外的に被保険者となるケースがあります。
Q3. 夜間学生・定時制・通信制の学生はどうなりますか?
昼間学生と同じ取扱いになるとは限りません。夜間・定時制等は昼間学生としての適用除外から外れ、他の要件を満たせば被保険者となり得ます。通信制についても課程や就学実態を踏まえた確認が必要です。
Q4. 社会保険の「106万円の壁」は2026年10月1日に確実になくなりますか?
2026年9月10日時点では、「2026年10月に撤廃予定」までは厚生労働省が公式に案内していますが、本記事では10月1日とは断定していません。2025年年金制度改正法上、具体的な施行日は公布から3年以内の政令で定める日とされています。正式な施行日を最新の政令・厚生労働省情報で確認してください。
Q5. 106万円の壁がなくなると、全パートが社会保険に加入しますか?
いいえ。撤廃されるのは短時間労働者に係る月額8.8万円以上という賃金要件です。週20時間、学生区分、2か月を超える雇用見込み、企業規模等は別途確認が必要です。また、4分の3基準による適用も別に存在します。
Q6. 106万円未満なら、2026年9月現在も必ず社会保険対象外ですか?
必ずしもそうではありません。106万円は法定の年収基準ではなく、月額8.8万円を年換算した通称です。また、通常の労働者の所定労働時間・所定労働日数の4分の3以上であれば、短時間労働者向けの月額8.8万円要件とは別に被保険者となります。
Q7. 「106万円の壁」と「130万円の壁」は同じですか?
別です。106万円は短時間労働者の社会保険適用に係る月額8.8万円要件に由来する呼称です。130万円は主として健康保険上の被扶養者認定等で問題になる年間収入基準です。106万円側の賃金要件が撤廃されても、130万円に関する制度が自動的になくなるわけではありません。
Q8. 契約書は週9時間ですが、実際には毎週12時間働いています。2028年から自動的に加入ですか?
雇用保険の基本的な基準は週所定労働時間です。一時的な残業をそのまま足して判断するものではありません。ただし、毎週12時間勤務が恒常化し、実質的に労働条件自体が変更されているのに契約書だけ9時間のままという状態は適切ではありません。契約内容と実際の所定勤務の関係を整理し、2028年施行時の最新の業務取扱要領・Q&Aも確認してください。
Q9. 社会保険では契約が週20時間未満なら、実際に20時間を超えても対象になりませんか?
社会保険では、厚生労働省の現行Q&A上、契約上の週所定労働時間が20時間未満でも、実際の労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、その状態が引き続き続くと見込まれる場合、3か月目から加入対象となる取扱いがあります。雇用保険と社会保険で運用を混同しないことが重要です。
Q10. 保険料コストは今の雇用保険料率で2028年分まで試算してよいですか?
概算のシナリオ分析には利用できますが、2028年度の正式な負担額として固定すべきではありません。雇用保険料率は年度・事業区分等によって変わり得ます。社会保険についても健康保険者、都道府県、介護保険該当の有無、標準報酬月額等により負担額が異なります。施行時点の料率を使って最終試算してください。
一次資料・公的資料
本記事は、2026年9月10日時点で確認できる以下の法令・厚生労働省・ハローワーク・日本年金機構の資料を中心に確認しています。
- 厚生労働省法令等データベース「雇用保険法」
- 厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」
- 厚生労働省「第6回雇用保険制度研究会 議事録」
- 厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領(令和8年8月1日以降)」
- 東京ハローワーク「被保険者に関するQ&A」
- 厚生労働省法令等データベース「健康保険法」
- 厚生労働省法令等データベース「厚生年金保険法」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」―令和7年法律第74号
- 厚生労働省「『年収の壁』への対応」
- 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」
- 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第9 被用者保険の適用拡大」
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
- 日本年金機構「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」
まとめ──2028年の「週10時間」だけを見ない
2028年10月1日の雇用保険 適用拡大 2028では、雇用保険の週所定労働時間基準が20時間以上から週10時間以上へ引き下げられます。施行日は令和6年法律第26号に基づき確定しています。
ただし、週10時間以上という条件だけで加入が決まるわけではありません。31日以上の雇用見込み等を確認し、特に昼間学生は原則として適用除外である点を見落とさないことが重要です。夜間・定時制・通信制、卒業予定者、休学中などについては、それぞれの取扱いを確認する必要があります。
一方、社会保険 適用拡大では、2026年10月に「106万円の壁」の由来となっている月額8.8万円以上の賃金要件が撤廃予定です。ただし、これは「年収106万円」という法定基準を削除するという意味ではなく、もともと法令上の要件である月額8.8万円要件を撤廃するものです。
さらに、賃金要件撤廃後も、短時間労働者については週20時間、学生区分、2か月を超える雇用見込み、企業規模等の要件が残ります。2027年10月1日から企業規模要件は36人以上、2029年10月1日から21人以上、2032年10月1日から11人以上となり、2035年10月1日に企業規模要件が撤廃されます。
「106万円の壁」と「130万円の壁」も別制度です。2026年に短時間労働者の月額8.8万円要件がなくなっても、健康保険上の被扶養者認定等に関係する130万円基準まで同時になくなるわけではありません。
したがって、法務・人事に求められるのは、2028年直前に雇用保険の資格取得届だけ準備することではありません。
制度施行前に対象者と運用を可視化し、正しい説明ができる状態を作っておくこと。これが、2028年の雇用保険週10時間基準に向けて法務部が今から先回りできる最も重要な対応です。
👉 【2027年施行見込み】労働基準法40年ぶり大改正|企業が今から準備すべき7つのチェックポイント
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※本記事は2026年9月10日時点の雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)、2025年年金制度改正法(令和7年法律第74号)、厚生労働省・ハローワーク・日本年金機構の公表資料に基づいています。
※社会保険の月額8.8万円以上という賃金要件については、厚生労働省が2026年10月撤廃予定と案内していますが、2026年9月10日時点の公式案内が「予定」としていること、法律上の具体的施行日が政令に委任されていることから、本記事では「2026年10月1日施行」とは断定していません。
※2028年の雇用保険適用拡大について、週所定労働時間10時間以上への変更と2028年10月1日の施行日は法律上確定していますが、施行に伴う具体的な様式・システム・業務取扱要領等は今後更新される可能性があります。
※社会保険・雇用保険の具体的な資格判定は、事業所の適用関係、労働条件、学生区分、雇用期間その他の事情により異なります。個別案件では最新の法令・通達・行政実務を確認してください。
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