📋 取適法実務シリーズ|第5話
Legal Practice Note — Payment Terms

取適法の支払条件・手形払い禁止
60日ルールと支払手段の実務対応

2026年1月1日施行の中小受託取引適正化法(取適法)では、支払期日・支払方法に関するルールが根本から見直されました。 製造委託等代金における手形払いの原則禁止、60日ルールの厳格化——これは法務だけでなく、経理・購買・財務まで横断した対応が不可欠な改正です。

📅 2026年4月28日
⏱ 約18分で読める
🏷 取適法 / 支払条件 / 経理対応
前回(第4話)では、一方的な価格据え置きを禁止する「価格協議ルール」を整理しました。 今回は取適法の「支払条件・支払手段」に焦点を当てます。

取適法(中小受託取引適正化法)では、支払期日は受領日から60日以内かつできる限り短い期間とすることが義務付けられ(支払期日に関する規定)、製造委託等に関して手形払いが原則として禁止されました(支払遅延・不適切支払手段に関する禁止規定)。 電子記録債権(でんさい)やファクタリングも、支払期日までに満額の現金を得られない場合は違反となります。

本記事は、法務・購買・経理・財務が共有できる実務保存版として、60日ルールの正確な理解から、社内対応フロー・文例まで一気通貫でまとめています。
補足: 法務部や総務部の作業は、 この無料ツールを使うと便利に処理できます (一次整理・マスキング・論点整理など)

まず結論|支払条件は法務だけでなく経理対応が必要

📌 この記事の要点(取適法 支払条件)
  1. 支払期日は「受領日から60日以内」かつ「できる限り短い期間」——月末締め翌々月末払いは60日を超えるリスクがあり、修正対象となる(取適法上の支払期日規定)
  2. 製造委託等代金の手形払いは原則禁止——たとえ取引先の同意があっても、少なくとも支払期日までに満額の現金を受領できない手段の使用は違反。旧下請法の「割引困難な手形」基準より格段に厳しくなった(支払遅延・不適切支払手段に関する禁止規定)
  3. でんさい・一括決済方式も条件付き——支払期日に満額の現金が自動受領できなければ違反。手数料を受託事業者に負担させると問題
  4. ファクタリングも同様——手数料を中小受託事業者が負担する形は、実質的な支払遅延とみなされる
  5. 経理・購買・法務の三部門連携が必須——支払マスタ変更・発注書改訂・既存契約修正を並行で進める必要がある
60日以内
受領日から支払期日までの法定上限(取適法上の支払期日規定)
全面禁止
製造委託等代金の手形払い——旧下請法より大幅厳格化(支払遅延・不適切支払手段に関する禁止規定)
14.6%
支払遅延時の法定遅延利息(年率・受領日から60日経過後)

取適法で支払条件が重要になる理由

取適法(中小受託取引適正化法)は、旧下請代金支払遅延等防止法(下請法)を全面改正し、2026年1月1日から施行されています。 通称「取適法」と呼ばれ、中小受託取引適正化法として広く認知されています(正式な法律名称は公正取引委員会・中小企業庁の一次情報を参照ください)。

取適法改正の核心的な動機の一つが「支払条件の適正化」です。旧下請法でも60日以内の支払期日設定は義務でしたが、手形払いが実務上広く使われており、手形サイトを加算すると実質120日以上かかるケースも珍しくありませんでした。 中小受託事業者は、手形が現金化されるまでの期間について、自ら割引料を負担するか、資金繰りのリスクを抱え続けるしかありませんでした。

⚠️ 旧下請法との違い——なぜ今回の改正は大きいのか
  • 旧下請法:60日以内の支払期日義務あり。ただし手形払い自体は原則容認(割引困難な手形のみ禁止)
  • 旧下請法(2024年11月以降):指導基準強化により「手形サイト60日超」を割引困難とみなす方向へ移行
  • 取適法(2026年1月~):製造委託等代金の手形払いは原則禁止。でんさい・一括決済方式も支払期日に満額受領できないものは禁止

この改正により、「手形サイトを含めて最大120日のサイクルを維持してきた」慣行が完全に終わりを迎えます。 委託事業者(発注側)にとっては実質的な支払サイトの大幅短縮であり、経理・財務部門の資金計画に直接影響します。 だからこそ、法務部門だけで対応を完結させることは不可能です。

対象となる委託類型と適用条件

委託類型 支払条件ルール適用 備考
製造委託 適用あり 60日ルール・手形禁止ともに適用
修理委託 適用あり 同上
情報成果物作成委託 適用あり 同上
役務提供委託 一部適用 60日ルール適用。手形交付の明示禁止規定は役務提供委託には直接適用されないが、手形払いにより支払期日までに満額現金を受領できない場合は「支払遅延」として問題になりうる。実務上は製造委託等と同様に現金払いへの移行が安全
特定運送委託 一部適用 取適法改正で新設。役務提供委託と同様の扱い
📖 取適法 条文ポイント(支払条件関連)
  • 支払期日に関する規定:支払期日は「給付を受領した日から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において」定めなければならない(条番号は公正取引委員会の一次資料を確認ください)
  • 支払遅延・不適切支払手段の禁止規定:製造委託等代金を支払期日経過後なお支払わないこと(手形の交付、および支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難な支払手段の使用を含む)は禁止(条番号は公正取引委員会の一次資料を確認ください)

60日ルールの基本

起算日は「受領日」——検収完了日ではない

取適法における60日ルールの起算点は、中小受託事業者が給付(物品・情報成果物等)を提供した日、すなわち「受領日」です。 委託事業者の検査・検収が完了した日ではありません。これは実務上、最もよくある誤解の一つです。

❌ よくある誤解
  • 「検収完了後60日以内に支払えばよい」——誤り。社内検査・検収に要する期間も60日に含まれる(中小受託取引適正化法テキスト62頁参照)
  • 「請求書を受け取ってから60日」——誤り。請求書の遅延は支払遅延の正当化理由にならない

役務提供委託の場合の起算点

役務提供委託(清掃、警備、研修、ITサービス等)では、「役務提供日」が受領日となります。 継続的な役務提供の場合は、月次精算であれば各月の役務提供完了日が起算点です。 実務上は「当月末日に提供完了→翌月末払い(約30日以内)」といった設定が現実的です。

支払期日計算例

受領日 支払条件 支払日 60日ルール 判定
1月10日 月末締め・翌月末払い 2月28日(19日後) 3月11日が上限 OK
1月1日 月末締め・翌月末払い 2月28日(58日後) 3月2日が上限 ギリギリ(2月が28日なら58日でOK)
12月31日 月末締め・翌々月末払い 2月28日(59日後) 3月1日が上限 2月28日なら59日でOK(うるう年注意)
11月1日 月末締め・翌々月末払い 1月31日(91日後) 1月1日が上限 違反(91日超)
1月1日(大の月起算) 月末締め・翌月末払い 3月31日(89日後) 3月2日が上限 違反(翌々月末は60日超)
⚠️ 「月末締め翌々月末払い」は原則アウト
月末に物品を受領した場合、翌々月末払いは必ず60日を超えます(例:1月31日受領→3月31日払い=59日でOK ただし閏年・大の月等で超過リスク)。 受領日が月初だと翌々月末払いは確実に60日超となります。「月末締め翌月末払い」も、大の月が絡む場合は61日になるリスクがあります。 安全に運用するには「翌月20日払い」「翌月25日払い」への短縮が有効です。
⚠️ 【プロの視点】「31日の月が連続する時期」に要注意
月末締め翌月末払いでも、7月1日受領→8月31日払いは「61日」で違反となります(7月は31日あるため、受領日の翌日から起算して8月30日が60日目)。同様に12月1日受領→1月31日払いも61日です。

経理システムの支払マスタを「月末」固定で設定している場合、大の月(31日ある月)が含まれるとシステムが自動的に違反を起こすリスクがあります。システム設定は「60日後の日付」ではなく、バッファを持たせた「55日」前後の期間で設定するか、月末固定をやめて「25日払い」等の固定日払いに移行することが実務上の鉄則です。
💡 「60日以内かつできる限り短い期間」——60日ギリギリはリスク
取適法は「60日以内」だけでなく「かつ、できる限り短い期間内」での支払を義務付けています。これは、従来のサイトをそのまま維持すること自体が、状況によっては「できる限り短い期間ではない」として問題視されうることを意味します。例えば、従来から「月末締め翌月末払い」を運用してきた企業が、取適法施行後も同一条件を維持し続けている場合、短縮努力をしていないとして指導対象になるリスクがあります。「60日以内であれば常にセーフ」という考え方は誤りです。

支払期日を定めなかった場合

発注書や基本取引契約に支払期日の記載がない場合、受領日から60日を経過した日が自動的に支払期日となります(支払期日に関する規定)。 この場合でも受領日から法定遅延利息が起算されるリスクがあるため、支払期日の明記は必須です。
※遅延利息率については取適法所定の基準(公正取引委員会公表資料)を参照。一般的に年14.6%とされていますが、制度改正時は要確認です。

手形払い禁止の実務影響

取適法の支払遅延・不適切支払手段に関する禁止規定は、「手形を交付すること」を支払遅延の一態様として明示的に規定しています。 旧下請法の「割引困難な手形の禁止」から、少なくとも支払期日までに満額の現金を受領できない支払手段(手形を含む)を原則として禁止する規定へと根本的に強化されました。

🚫 手形払いが禁止されると何が変わるか
  • 取適法対象取引では、中小受託事業者の同意があっても手形交付は違反
  • 手形サイト(交付日から満期日まで)が60日以内でも、手形払い自体が禁止
  • 旧下請法時代の「サイト90日・120日の手形」はもちろん完全アウト
  • 2024年11月から既に「サイト60日超」を割引困難とする指導基準強化が適用済み。それをさらに超える改正
  • 支払手段として「銀行振込による現金払い」が原則となる

手形払い禁止の実務影響範囲

影響部門 具体的に必要な対応
経理・財務 支払マスタで「手形」支払区分を取適法対象取引から削除。代替手段(振込)に切り替え。資金繰り計画の見直し
購買・調達 取引先(中小受託事業者)への支払条件変更通知の送付。新発注書への反映
法務 基本取引契約・発注書ひな形の手形払い条項削除。契約相手方が中小受託事業者か否かの確認
経営・CFO 資金調達計画・キャッシュフロー計画の見直し。手形期間分の資金調達(つなぎ融資等)の要否検討

特に経理・財務部門にとっては、手形を利用していた期間分(従来の手形サイトが60〜120日だった場合)だけキャッシュアウトのタイミングが前倒しになります。 この影響は、取引規模によっては数千万〜数億円単位の資金繰り変動となる場合もあります。 早期に財務部門と連携し、影響試算と対応策の検討を進めることが重要です。

電子記録債権・一括決済方式・ファクタリングの扱い

「手形がダメならでんさいに切り替えればよい」という理解は、半分しか正しくありません。 取適法では、電子記録債権・一括決済方式・ファクタリングについても、支払期日までに代金相当額の満額(手数料等を含む)を現金で受領できないものはすべて禁止されます(支払遅延・不適切支払手段に関する禁止規定)。

支払手段 取適法上の扱い 条件
銀行振込(現金) 問題なし 60日以内の支払期日に全額振込
電子記録債権(でんさい等) 条件付き 支払期日に満額が自動着金される仕組みであればOK。支払期日超の満期設定はNG。手数料を受託者負担にするとNG
一括決済方式(ファームバンキング等) 条件付き 支払期日に満額受領できる設定であればOK。受領日から60日超の満期設定はNG
ファクタリング 条件付き 委託事業者が手数料を全額負担し、受託事業者が支払期日に満額受領できる形ならOK。受託者がファクタリング手数料を負担する形はNG
手形 原則禁止 サイト・同意の有無を問わず禁止

「でんさい」使用時の実務チェックポイント

❌ NGパターン
  • でんさい満期日を支払期日より後に設定(受領日から60日超)
  • 受託事業者に割引手数料・発生記録手数料を負担させる
  • 満期日前に支払不能等が発生した場合に、現金化できないリスクを受託事業者に転嫁
  • 受託事業者の同意があるからといって上記を維持
✅ OKパターン
  • 支払期日(受領日から60日以内)に満額が自動着金される設定
  • 発生記録手数料・受取手数料等のすべてを委託事業者(発注側)が負担
  • 受託事業者が手数料なしで支払期日に現金受領できる仕組み

ファクタリング使用時の注意点

委託事業者が独自に導入したファクタリングサービス(売掛先である受託事業者への早期現金化手段)を利用させる場合、 ファクタリング手数料を受託事業者に負担させる形は実質的な支払遅延と判断されます。 委託事業者がファクタリング手数料を全額負担し、受託事業者が支払期日に代金の満額を受け取れる構造でなければなりません。 実務上は、このようなファクタリング活用スキームを継続するかどうか、財務・法務が連携して見直す必要があります。

💡 実務上の推奨:銀行振込への一本化
でんさいや一括決済方式の管理は複雑であり、条件を誤ると取適法上の支払遅延リスクが残ります。 取適法対象取引については、「支払期日に銀行振込による現金払い」に一本化する方針を検討するのが、最もシンプルでリスクが低い対応です。 資金繰りへの影響は財務部門と協議しつつ、でんさい等を維持する場合は法務・財務・経理が合同でスキームを確認してください。

【でんさい継続利用時の追加実務注意点】
「支払期日に満額着金」を実現するためには、銀行の処理日数(でんさいの発生記録受付・決済処理)を逆算したデッドラインを経理フローに組み込む必要があります。支払期日の当日や前日に発生記録を行っても間に合わない場合があります。金融機関に処理スケジュールを確認し、経理の社内締め切りを設定してください。

支払条件でよくあるNG例

NGパターン 問題点 修正方向
NG 月末締め翌々月末払い 月初受領の場合、支払まで最大90日超になる。60日ルール違反 翌月20日払い・翌月末払い等に短縮
NG 「検収完了後60日以内」という契約条項 起算点が「受領日」ではなく「検収完了日」になっており、検査期間が長ければ実質60日超となる 「受領日から60日以内」に修正
NG 手形払いを継続 取適法上の支払遅延・不適切支払手段禁止規定に違反(製造委託等代金の手形払いは原則禁止) 銀行振込に切り替え
NG でんさいなら必ずOKと思っている 満期日が支払期日(60日)を超える設定や手数料受託者負担はNG 満期日・手数料負担の再確認
NG ファクタリング手数料を受託側負担 実質的な支払遅延とみなされ取適法違反 委託者(発注側)負担に変更
NG 発注書に支払期日未記載 取適法上の4条書面(発注書)に係る規定の必要的記載事項不備。支払条件の不透明化 支払期日を必ず発注書に明記
NG 子会社・グループ会社だけ旧条件のまま グループ内取引でも取適法の適用対象になる場合がある。統一対応が必要 グループ横断で支払条件を棚卸し・統一
NG 経理システムの支払マスタが古いまま 旧条件(手形払いや60日超サイト)がシステムに残ったまま誤発注・誤支払が起きるリスク 支払マスタを速やかに更新

契約書・発注書で見直すべき条項

基本取引契約書での見直しポイント

❌ 修正前(旧条項例)
第○条(代金の支払)
甲は、乙の請求書を受領後、検収完了日を起算日として60日以内に、乙の指定する銀行口座に振り込むか、または手形を交付することにより支払うものとする。
✅ 修正後(取適法対応例)
第○条(代金の支払)
甲は、乙から給付を受領した日(以下「受領日」という。)から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内において支払期日を定め、当該支払期日までに、乙の指定する銀行口座への銀行振込により製造委託等代金を支払うものとする。なお、手形その他支払期日までに代金の満額を現金で受領することが困難な支払手段は使用しない。

発注書(4条書面)での見直しポイント

📋 発注書に必ず明記すべき支払条件関連事項
  • 支払期日:「受領日から○日以内」または「○月○日」と具体的に記載(「翌々月末」等の曖昧な表現を避ける)
  • 支払方法:「銀行振込」と明記(「手形または振込」等の記載は削除)
  • 受領日の定義:受領日を明確にする(「納品日」「検収完了日」と混同しないよう注意)
  • 支払先口座:振込先を確認・記載

修正が必要な条項チェックリスト

  • 支払期日条項:「受領日から60日以内かつできる限り短い期間内」に修正されているか
  • 起算日条項:「検収完了日」でなく「受領日(納品日)」を起算点としているか
  • 支払方法条項:手形に関する記載を削除し、「銀行振込」のみにしているか
  • 電子記録債権条項:でんさい等を利用する場合、支払期日に満額着金される旨と手数料負担者を明確にしているか
  • 遅延利息条項:取適法に基づく法定遅延利息(一般的に年14.6%とされるが、公正取引委員会の公表基準を要確認)の適用関係を確認しているか
  • 支払条件変更通知条項:変更時の通知義務・通知方法が明確になっているか
  • 発注書への支払期日明記:個別発注書にも支払期日が記載されているか
  • グループ会社・子会社の基本取引契約も含め横断的に修正しているか
  • 相殺・控除条項:振込手数料の差し引きや原材料費の相殺により、支払期日に「満額」が支払われない状態になっていないか(取適法上の代金減額禁止規定に該当するリスクあり)

社内対応フローの作り方

取適法の支払条件対応は、法務・購買・経理・財務が連携する横断プロジェクトです。 以下のフローを参考に、担当者を明確にして進めてください。

1
【法務】取適法対象取引の棚卸し

現在の取引先リストを確認し、取適法の適用対象(中小受託事業者への製造委託等)に該当するものを抽出。基本取引契約・発注書ひな形を収集

2
【経理・購買】現状の支払条件・支払手段の棚卸し

経理システムの支払マスタを確認。現在の支払サイト・支払方法(手形・でんさい・振込等)を一覧化。60日ルール違反リスクのある取引先を特定

3
【財務・CFO】資金繰り影響の試算

手形廃止・支払サイト短縮による資金繰り変動を試算。必要であれば金融機関との融資枠拡大・つなぎ融資等を検討

4
【法務】契約書・発注書ひな形の修正

支払期日条項・支払方法条項の修正。手形払い条項の削除。受領日の定義明確化。グループ会社分も含め横断的に対応

5
【購買・法務】取引先への通知・新条件の合意

支払条件変更通知を取引先に送付。必要に応じて基本取引契約の変更合意書・覚書を締結。取引先からの問い合わせ窓口を設置

6
【経理】経理システム・支払マスタの更新

手形払いの支払区分を取適法対象取引から削除。新しい支払サイト・振込払いに支払マスタを更新。支払期日アラートの設定

7
【法務・内部監査】運用チェック・証跡保存

支払実績を定期的にモニタリング。60日ルール遵守状況の確認。発注書・支払記録・通知文書の証跡保存体制を整備

部門別 対応分担表

対応事項 主担当 連携部門 完了目安
対象取引の棚卸し 法務 購買 速やかに
現状支払条件の洗い出し 経理 購買・財務 速やかに
資金繰り影響試算 財務 CFO・経理 速やかに
契約書ひな形修正 法務 購買 修正版確定後
取引先通知送付 購買 法務 契約修正後順次
経理システム更新 経理 IT・財務 切替前までに完了
グループ会社横断対応 法務(グループ統括) 各子会社法務・経理 グループ方針策定後

文例|経理部門向け依頼・取引先向け通知

文例①:経理部門向け依頼文(支払条件・手段の棚卸し依頼)

📧 社内メール文例:法務→経理部門
宛先
経理部 ご担当者様
CC
購買部 ご担当者様
件名
【依頼】取適法対応|支払条件・支払手段の棚卸しについて
経理部 ご担当者様 いつもお世話になっております。法務部の〇〇です。 表題の件について、取適法(中小受託取引適正化法、2026年1月1日施行)への対応として、現在の支払条件・支払手段の状況を確認させてください。 【確認をお願いしたい事項】 ①取適法対象取引(中小受託事業者への製造委託等)の支払サイト一覧  → 受領日から実際の振込日(または手形交付日)までの日数を取引先ごとに整理してください。  → 受領日から60日を超えているものがあれば、その旨を明示してください。 ②現在の支払手段の種類別集計  → 手形払い / 電子記録債権(でんさい等)/ 銀行振込 / 一括決済方式 / ファクタリング  → 取適法対象取引のうち「手形払い」または「でんさい等で満期日が支払期日を超えるもの」を特定してください。 ③経理システム(支払マスタ)の設定内容  → 現在登録されている取引先ごとの支払条件・支払方法をエクスポートいただけますか。 取適法により、2026年1月1日以降の発注に係る製造委託等については手形払いが原則として認められなくなり、でんさい等も支払期日に満額着金できない設定は違反となります。 いただいた情報をもとに、法務・購買・財務で対応方針を協議させていただきます。 恐れ入りますが、〇月〇日(〇)までにご共有いただけますと幸いです。 ご不明な点がございましたら、法務部〇〇(内線〇〇〇〇)までご連絡ください。 よろしくお願いいたします。 法務部 〇〇〇〇

文例②:取引先向け通知文(支払方法変更・手形廃止通知)

📄 取引先向け通知文例
宛先
○○株式会社 御中
件名
支払条件の変更に関するご通知
○○株式会社 御中 平素より格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 株式会社〇〇(以下「当社」といいます。)の〇〇部 〇〇でございます。 このたびは、2026年1月1日に施行されました「中小受託取引適正化法(取適法)」への対応として、当社の支払条件を下記のとおり変更させていただきますこと、謹んでご通知申し上げます。 なお、本変更は、取適法の規定を遵守するための措置であり、貴社との継続的な取引関係を維持する観点からご対応をお願いするものでございます。 【変更内容】 ■ 支払期日 (変更前)貴社への物品等の受領後、検収完了日を起算として60日以内 (変更後)受領日(納品日)から起算して〇日以内(具体的な支払期日は、別途発注書に明記いたします) ■ 支払方法 (変更前)銀行振込または約束手形の交付 (変更後)銀行振込(当社指定口座への全額現金振込)のみ      ※取適法の施行により、手形による支払は行えなくなりました。 ■ 適用開始  本変更は、〇〇〇〇年〇月〇日以降にご発注させていただく取引から適用いたします。 本変更に関してご不明な点がございましたら、下記担当者までお気軽にお問い合わせください。 お取引先様にはご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。 担当:株式会社〇〇 購買部 〇〇〇〇 TEL:〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇 Email:〇〇〇〇@example.co.jp

よくある質問

Q
60日ルールの起算日(起算点)はいつですか?
A
起算日は、中小受託事業者が給付(物品・情報成果物等)を提供した日、すなわち「受領日」です(取適法上の支払期日規定)。委託事業者の社内検査・検収の完了日ではありません。請求書の受領日でもありません。検査に何日かかっても、物品を受け取った日から60日以内に支払期日を設定しなければなりません。
Q
「検収完了日から60日以内」という契約条項では違反になりますか?
A
検収に時間がかかる場合は違反になるリスクがあります。検収期間が長ければ、その分だけ受領日から支払日までの実質日数が60日を超えてしまいます。取適法では社内検査期間も含めて60日が上限です(中小受託取引適正化法テキスト62頁)。契約条項は「受領日(納品日)から60日以内」に修正することを推奨します。
Q
手形払いは完全に禁止ですか?取引先の同意があれば使えますか?
A
取適法対象の製造委託等取引では、取引先の同意があっても手形払いは原則として認められません(支払遅延・不適切支払手段に関する禁止規定)。手形の交付それ自体が支払遅延の一態様として明文で規定されています。2026年1月1日以降に発注した取適法対象取引については、速やかに銀行振込に切り替える必要があります。
Q
電子記録債権(でんさい)なら使えますか?
A
「でんさいなら必ずOK」ではありません。支払期日(受領日から60日以内)に中小受託事業者が満額の現金を受領できる設定であれば利用可能です。ただし、満期日を支払期日より後に設定したり、手数料を受託事業者負担にしたりすると違反となります(支払遅延・不適切支払手段に関する禁止規定)。でんさいを継続利用する場合は、満期日と手数料負担の設定を必ず確認してください。
Q
月末締め翌々月末払いは違反ですか?
A
月初に受領した場合は違反になります(例:1月1日受領→3月31日払い=89日後)。月末受領の場合でも、大の月が絡めば60日を超えるリスクがあります。取適法対応としては、「翌月20日払い」「翌月末払い(ただし受領日が月初でも60日以内となるよう確認)」への短縮を検討してください。
Q
取適法施行前に締結した既存契約も修正が必要ですか?
A
2026年1月1日以降に発注した取引から取適法が適用されます。施行日以降の新規発注に旧条件を適用すると違反となるため、既存の基本取引契約に旧条件が残っている場合は修正が必要です。取引先との間で、施行日以降の発注分について新条件を適用する旨の覚書・変更合意書を締結することをお勧めします。

まとめ

📝 この記事のポイントまとめ
  • 取適法(中小受託取引適正化法)の支払期日ルール:受領日から60日以内かつできる限り短い期間内(取適法上の支払期日規定)
  • 起算点は「受領日」——検収完了日・請求書受領日ではない
  • 月末締め翌々月末払いは、受領日によって60日を超えるリスクがあり修正対象
  • 製造委託等代金の手形払いは原則禁止——少なくとも支払期日までに満額の現金を受領できない手段の使用は違反(支払遅延・不適切支払手段に関する禁止規定)
  • でんさい・一括決済方式・ファクタリングも、支払期日に満額現金受領できない設定は禁止
  • 違反時の法定遅延利息は一般的に年14.6%とされる(受領日から60日経過後から起算。公正取引委員会の公表基準を要確認)
  • 対応は法務・購買・経理・財務の横断プロジェクトとして推進することが不可欠
  • 基本取引契約・発注書の条項修正・経理システム更新・取引先通知を並行で進める

次回・第6話では、取適法対応の「契約書・条項修正の実務」を解説します。 基本取引契約の全面見直しポイント、条項ごとの修正例、覚書・変更合意書の作成実務まで、実際の契約書作業に使える内容を予定しています。

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本記事は、中小受託取引適正化法(取適法)および関連公表資料(公正取引委員会・中小企業庁)をもとに作成しています。個別の取引への適用については、具体的な事実関係をもとに法律の専門家にご相談ください。本記事は2026年4月28日時点の情報に基づきます。