新規事業を始める前に法務が調べること|GO・NO-GO判断の進め方
新規事業を始める前に法務が調べること|GO・NO-GO判断の進め方
「この新規事業を来月から始めたい」。経営者や事業部からそう相談されたとき、手元には事業の概要資料はあっても、誰が誰と契約し、お金がどう動き、誰がどの責任を負うのかまでは決まっていないことがほとんどです。担当者は「どの法律から調べればよいのか」と迷い、思いつく法律を一つずつ調べても、結局その事業を始めてよいのか(GO)止めるべきなのか(NO-GO)の判断にはつながりません。
結論から言えば、新規事業の法務調査では、法律を先に探すのではなく、まず事業の仕組みを「事実」として整理することから始めます。同じ名前のサービスでも、お金・データ・契約・責任の流れが違えば、適用される法令も必要な対応も変わります。新規事業の法務とは、リスクを理由に事業を止める作業ではなく、事業を実行できる形に整えるための作業です。本記事は、その全体像と進め方を、法律の前提知識がない方にも分かるように解説する総論記事です。
この記事の要点
- 最初に、事業モデルを1枚の図に整理する
- 人・物・金・情報・契約の5つの流れを確認する
- 事業を止める可能性がある論点から優先して調べる
- 調査結果をGO・条件付きGO・HOLD・NO-GOの4段階に分類する
- 法務は結論だけでなく、実行条件・期限・代替案・残存リスクを示す
読んだだけで終わると、次の案件でまたゼロから考えることになります。
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新規事業の法務調査は何のために行うのか
新規事業に関する法務調査は、「違法か適法かを一言で答えること」だけが目的ではありません。経営判断のために、次のような状態をつくることが目的です。
- その新規事業が、法的に実行できるのかを確認する
- 開始前に解決しておくべき法的条件を洗い出す
- 開始後に発生し得る責任や損失をあらかじめ把握する
- 経営者が、利益機会と法的リスクを並べて比較できる状態にする
- 開始後の手戻り・システム改修・契約修正・行政対応をできるだけ減らす
つまり、法務調査のゴールは「やめましょう」でも「問題ありません」でもなく、「この条件を満たせば、いつから、いくらの追加コストで実行できる」という判断材料を経営者に渡すことです。
※ 表は横にスクロールできます
| 調査項目 | 経営判断に与える影響 | 典型的な対応 |
|---|---|---|
| 許認可 | 開始時期、参入の可否 | 許可・登録・届出の取得、事業モデルの変更 |
| 禁止・制限行為 | 事業そのものの実行可能性 | 中止、提供範囲の縮小、別方式への変更 |
| 契約 | 収益、責任分担、解約のしやすさ | 契約条件・利用規約の設計 |
| 個人情報 | システム設計、データ活用の範囲 | 利用目的の特定、同意取得、安全管理措置 |
| 知的財産 | 独占性、差止めを受けるリスク | 出願、先行調査、利用許諾の取得 |
| 販売・広告 | 集客方法、表示できる内容 | 表示の修正、販売・勧誘方法の見直し |
| 決済 | 資金の流れ、登録・届出の要否 | 決済代行の利用、資金の流れの再設計 |
| 人材 | 運営体制、労務上の責任 | 雇用・派遣・業務委託の選択 |
| 事故・不具合 | 損害賠償、事業継続 | 安全対策、保険、契約での責任配分 |
| 撤退 | 終了費用、契約の拘束期間 | 解約権の設計、返金、データの処理 |
法律を検索する前に取引構造を整理すべき理由
新規事業の法的リスクを調べる際、事業の取引構造を整理しないまま法令名だけで検索すると、判断を誤りやすくなります。理由は、適用される法律が「サービスの名前」ではなく「取引の中身」で決まるからです。
- 同じ名称のサービスでも、金銭・データ・契約・責任の流れが違えば、適用法令も変わる
- 「プラットフォーム」「サブスクリプション」「マッチング」「コンサルティング」といった呼び名だけでは、適法性は判断できない
- ウェブサイトの説明文ではなく、実際に「誰が・何を・どの順番で」行うのかを確認する必要がある
- 事業部の説明と、契約書・利用規約・システム仕様が一致しているとは限らない
- 料金を誰が受け取り、誰に渡すのかによって、決済に関する規制(資金決済法など)の論点が変わり得る
- 法令上は適法でも、決済代行会社やクレジットカード国際ブランドの加盟店審査(高リスク業種、解約トラブルが多い業種など)に通らず、決済を実装できずに事実上の中止に至ることがある
- データを誰が取得し、誰が利用し、誰に提供するのかによって、個人情報に関する論点が変わり得る
※ 表は横にスクロールできます
| 観点 | サービス名だけを見た調査 | 取引構造を確認した調査 |
|---|---|---|
| 出発点 | 「○○サービスに必要な法律」を検索 | 誰が・何を・どの順で行うかを図に整理 |
| 金銭 | 「決済がある」とだけ把握 | 料金の受取先・分配先・預かりの有無を確認 |
| データ | 「個人情報を扱う」とだけ把握 | 取得者・利用目的・第三者提供・委託先を確認 |
| 結論 | 一般論にとどまり、可否を判断できない | 適用法令の見当がつき、対応策まで描ける |
| リスク | 実態とずれた法令を調べてしまう | 実態に即した論点を漏れなく拾える |
法令の検索は「事業の事実を整理した後」に行います。順番を逆にすると、実態と合わない法律を調べて安心したり、本来必要な許認可を見落としたりする原因になります。
ステップ1 新規事業の事実関係を1枚に整理する
法務調査を始める前に、事業部から最低限の情報を聞き取り、1枚の資料にまとめます。重要なのは、項目を並べるだけでなく、「なぜ法務がそれを確認するのか」を意識することです。
※ 表は横にスクロールできます(新規事業ヒアリングシート)
| 確認項目 | なぜ法務が確認するのか |
|---|---|
| 事業の目的 | 規制の趣旨と事業内容が衝突しないかを見るため |
| 提供する商品・サービス | 業法・許認可・安全規制の対象かを判断するため |
| 顧客 | 保護される対象(特に消費者)かを把握するため |
| 顧客が法人か個人か | BtoBとBtoCで適用される消費者保護規制が変わるため |
| 未成年者が利用する可能性 | 同意取得や取消しなど特別な配慮が必要になるため |
| 提供地域・海外利用の有無 | 自治体条例や外国法令の適用を確認するため |
| 料金・支払先・分配先 | 決済や資金の預かりに関する規制を確認するため |
| 契約当事者 | 誰と誰の契約か、責任を負うのは誰かを特定するため |
| 商品・サービスの提供者 | 提供主体と契約主体が一致しているかを見るため |
| 外部委託先・提携先 | 責任分担と委託先管理の論点を確認するため |
| 取得するデータ・利用目的 | 個人情報の取得・利用が適切に設計されているか |
| 第三者提供の有無 | 提供先への移転に必要な手当てを確認するため |
| 使用する名称・技術・コンテンツ | 他社の知的財産を侵害しないかを確認するため |
| 必要な人材 | 雇用・派遣・業務委託の区分を確認するため |
| 事故・不具合時の対応 | 事故時の損害賠償責任や安全上の義務を確認するため。商品を扱う事業では製造物責任も問題になり得る |
| 契約期間と解約方法 | 収益の安定性と顧客トラブルの予防のため |
| 撤退時に残る義務 | やめたいときにやめられるかを確認するため |
| 希望するサービス開始日 | 必要な法的対応が開始日に間に合うかを見るため |
5つの流れを図にする
聞き取った情報は、次の5つの流れに分けて図にすると、論点が見えやすくなります。
ステップ2 法的論点を分野別に洗い出す
事業の事実を整理したら、確認すべき法務分野を一覧で把握します。各分野の詳しい調べ方は第2話以降で解説するため、ここでは「なぜ開始前に確認するのか」を中心に、全体像をつかんでください。
※ 表は横にスクロールできます(新規事業の法務チェックマップ)
| 分野 | 主な確認事項 | 判断を誤った場合の影響 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 許認可 | 許可・認可・登録・届出の要否 | 開始できない、行政処分 | 第2話 |
| 業法・禁止行為 | 事業モデル自体の適法性 | 事業中止、構造変更 | 第3話 |
| 実施主体 | 本体・子会社・JVの選択 | 責任・許認可・撤退に影響 | 第4話 |
| 社内決裁 | 取締役会・経営会議・稟議 | 決裁不備、責任問題 | 第5話 |
| 業務提携 | 役割・費用・知財・終了条件 | 紛争、事業停止 | 第6話 |
| 知財の保護 | 特許・商標・著作権・営業秘密 | 模倣、権利の喪失 | 第7話 |
| 知財侵害 | 他社権利の事前調査 | 差止め、損害賠償 | 第8話 |
| 個人情報 | 取得・利用・共有・安全管理 | 行政対応、信用低下 | 第9話 |
| 契約・利用規約 | 料金・責任・解約・返金 | 回収不能、紛争 | 第10話 |
| 販売・広告 | 表示・勧誘・申込・解約 | 措置命令、契約の取消し | 第11話 |
| 決済 | 前払金・ポイント・送金・預かり | 登録・届出の問題 | 第12話 |
| 人材 | 雇用・派遣・業務委託 | 労務問題、偽装請負 | 第13話 |
| 安全・事故責任 | 安全規制・PL・損害賠償 | 事故、回収、賠償 | 第14話 |
| 撤退 | 解約・返金・従業員・データ | 撤退不能、追加費用 | 第15話 |
分野が多く見えますが、すべてを同じ重さで調べる必要はありません。次のステップで、優先順位を付けます。
ステップ3 事業を止める論点から優先して調べる
限られた時間で調査する以上、優先順位が必要です。原則は、「調べやすい法律から」ではなく「事業の可否を左右する論点から」調べることです。次の順番を基本にします。
- その事業は、法律上禁止されていないか
- 必要な許認可(許可・登録・届出など)を取得できるか
- 事業開始日までに、必要な対応が間に合うか
- 事業モデルを変更すれば、実行できるか
- 契約・利用規約・社内ルールで管理できる問題か
- 開始後のモニタリングで対応できる問題か
※ 表は横にスクロールできます(優先順位の例)
| 優先度 | 論点 | 例 | 対応の方向性 |
|---|---|---|---|
| 最優先 | 事業の禁止・許認可 | 無許可では実施できない事業 | 開始延期、事業構造の変更 |
| 高 | 顧客の生命・身体、顧客資金 | 事故のおそれ、顧客資金の預かり | 安全設計、仕組みの変更 |
| 中 | 契約・表示・個人情報 | 規約や画面の修正で対応できる事項 | 条件を整えてから開始 |
| 継続管理 | 法改正・運用・委託先 | 開始後も状況が変化する事項 | 開始後のモニタリング |
ステップ4 調査結果をGO・条件付きGO・HOLD・NO-GOに分類する
本記事でもっとも重要な部分です。法務調査の結果は、長い解説のままではなく、経営者が判断しやすい4段階に整理します。
※ 表は横にスクロールできます(4段階の判断区分)
| 判断 | 意味 | 典型例 | 経営者への報告 |
|---|---|---|---|
| GO | 重大な法的障害がなく、通常の契約・運用整備で実行できる | 標準的な契約・利用規約の整備で対応できる | 残存リスクと開始後の管理事項を報告 |
| 条件付きGO | 条件を満たせば実行できる | 許認可の取得、規約修正、システム変更 | 条件・担当・期限・費用を報告 |
| HOLD | 情報不足、または行政確認が必要 | 適用法令が不明、事実関係が未確定 | 未確定事項と確認手順を報告 |
| NO-GO | 現状の事業モデルでは実行が難しい | 禁止行為、許可取得が困難 | 理由と代替案を報告 |
分類するときの注意点は次のとおりです。
- NO-GOは「事業を永久に断念する」とは限りません。現行の事業構造では実行できなくても、契約主体・金銭の流れ・提供方法を変えれば実行できる場合があります。
- 条件付きGOでは、条件だけでなく、期限・責任部署・未対応のときの影響まで明確にします。
- HOLDは「あいまいな先送り」にしないことが大切です。追加で調べる事項、所管官庁への照会、外部専門家への相談事項を具体的に特定します。
※ 以下は架空の管理例です。実際の期限・提出方法・完了の証跡は、許認可・届出の制度ごとに異なります。「届出」と異なり「許可」や「登録」では、行政庁の処分が完了するまで事業を開始できない場合があります。
| 条件 | 必要な対応 | 担当部署 | 期限 | 未対応の場合 | 完了確認 |
|---|---|---|---|---|---|
| 必要な届出の提出 | 届出書の作成・提出 | 法務・事業部 | 制度上の期限・所要期間を踏まえて設定 | 開始延期 | 提出控え・受付記録等を制度に応じて保管 |
| 利用規約の整備 | 解約・返金条項の追加 | 法務 | 開始1か月前 | 顧客トラブルの増加 | 最終版の社内承認 |
| 委託先との契約 | 個人データ取扱いの取り決め | 法務・情シス | 開始3週間前 | 委託の適正管理に支障 | 契約締結の確認 |
法令の適用が分からないときはどうするか
「この事業に、この法律が適用されるのか分からない」というとき、社内だけで推測を重ねる必要はありません。次のような相談先・公的な確認手段があります。ただし、制度ごとに対象や利用条件が異なり、「問い合わせれば必ず正式な回答が得られる」とは限らない点に注意してください。
- 所管官庁・自治体への事前相談:窓口で一般的な相談に応じてもらえる場合があります。
- 法令適用事前確認手続(ノーアクションレター制度):これから行おうとする具体的な行為が、特定の法令の規定の適用対象となるかを、所管する行政機関にあらかじめ確認できる制度です。対象法令や手続の詳細は各府省が定めています。
- グレーゾーン解消制度:産業競争力強化法に基づき、現行規制の適用範囲が不明確な場合に、具体的な事業計画に即して規制の適用の有無を事前に確認できる制度です。規制が複数省庁にまたがる新事業活動の確認に向いています。
- 新事業特例制度:同法に基づき、安全性等を確保する代替措置を前提に、企業単位で規制の特例措置の適用を受けられる制度です。
- 規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度):同法に基づき、期間や参加者を限定して新技術・新事業の実証を行い、その結果を踏まえて規制の見直しにつなげる制度です。
- 弁護士・弁理士・行政書士・税理士などへの相談:論点や事案の性質に応じて、適切な専門家に相談します。
- 業界団体や許認可窓口への確認:業界固有の運用やローカルルールを把握できる場合があります。
これらの制度は、対象・要件・回答に要する期間がそれぞれ異なります。一般的な相談で得られる回答と、制度に基づく正式な回答(公表を伴うもの)とでは性質が違うため、利用前に各制度の最新の公式説明を確認してください。グレーゾーン解消制度・新事業特例制度・規制のサンドボックス制度については、経済産業省の公式ページが一次情報です。
これらの制度の利用は、それ自体が事業開始時期に対する強いHOLD要因になり得ます。グレーゾーン解消制度の回答は産業競争力強化法上「原則1か月以内」とされていますが、事前相談や照会内容の補正、サンドボックスの実証期間などを含めると、実際には数か月単位の延期になることがあります。「来月開始したい」案件でこれらの制度を使う場合、ローンチ時期を数か月単位で見直す前提で計画する必要があります。
新規事業の法務調査はどの部署と進めるのか
新規事業の法務は、法務部だけで完結しません。法務が整理する「法的条件」と、事業部が決める「事業の中身」、経営者が下す「最終判断」を、混同しないことが大切です。
※ 表は横にスクロールできます(部署別の役割)
| 部署 | 主な役割 |
|---|---|
| 経営者・役員 | 利益機会・コスト・残存リスクを踏まえ、最終判断を下す |
| 新規事業部門 | 事業モデル・顧客・料金・提供方法を具体化する |
| 法務 | 許認可・禁止規定などの法的条件を整理し、対応策を示す |
| 経理・財務 | 料金の流れ、税務・会計上の論点を確認する |
| 情報システム・セキュリティ | システム要件と安全管理措置を設計する |
| 個人情報保護担当 | 個人データの取得・利用・委託・提供を整理する |
| 人事・労務 | 雇用・派遣・業務委託の区分と労務責任を確認する |
| 知財担当 | 自社権利の保護と他社権利の侵害回避を検討する |
| 品質保証・安全管理 | 製品・サービスの安全性と事故対応を確認する |
| 内部監査 | 決裁手続やルール遵守の状況を確認する |
法務は「許認可や禁止規定などの法的条件」を整理します。事業部は「事業モデル・顧客・料金・提供方法」を具体化します。経営者は「利益機会・コスト・残存リスク」を踏まえて最終判断を行います。法務が経営判断そのものを代行するわけではありません。
具体例で見る新規事業の法務調査
架空の新規事業を例に、調査の進め方を見てみます。
既存企業が、一般消費者向けの月額制オンラインサービスを始める。申込みと決済はWeb上で行い、サービス提供の一部を外部事業者へ委託する。顧客の利用履歴を分析して、おすすめ情報を表示する。
この段階では、まだ事実が確定していません。したがって、「適法」「違法」と結論を出すのではなく、確認すべき事項を洗い出すことが法務の役割です。例えば次のような点を確認します。
- 顧客との契約主体は誰か(本体か、別会社か)
- 月額料金は誰が受け取り、委託先への支払いはどう行うか
- 自動更新・解約・返金をどう設計するか
- 広告や申込画面に、何を、どのように表示するか
- どの個人情報を取得するか
- 利用履歴を、何の目的で分析するか
- 委託先には、どのデータを、どの範囲で渡すか
- サービス名称やコンテンツが、他社の権利を侵害しないか
- 障害や誤った情報により顧客に損害が生じた場合、誰が責任を負うか
- サービス終了時に、顧客・委託先・データをどう処理するか
下表は、この事例が一般的な情報提供型のオンラインサービスであり、医療・金融・職業紹介その他の規制業種には該当しないと仮定した場合の、暫定的な整理です。実際の評価は、サービス内容と取引構造が確定した後に行います。前提が変われば、別の業法が問題になる可能性があります。
※ 表は横にスクロールできます(事例の暫定整理)
| 論点 | 暫定評価 | 追加確認 | 必要な対応 |
|---|---|---|---|
| 決済・料金の流れ | HOLD | 料金の受取・分配・預かりの有無 | 資金の流れの確定後に再評価 |
| 個人情報・利用履歴の分析 | HOLD | 利用目的・第三者提供・委託の範囲 | 範囲の確定後、利用目的の特定や規約・委託契約の整備により条件付きGOへ移行し得る |
| 広告・申込・解約表示 | HOLD | 表示内容と申込・解約の画面設計 | 画面・規約の確定後、表示の見直しにより条件付きGOへ移行し得る |
| 名称・コンテンツの権利 | HOLD | 商標・著作権・ビジネスモデル特許の先行調査 | 公表前に調査を実施 |
このように、事実が固まっていない段階では、安易に結論を出さず、確認事項と次の一手を示すことが、実務的で正確な対応です。
新規事業の法務調査でよくある失敗
※ 表は横にスクロールできます
| よくある失敗 | なぜ問題か | 改善方法 |
|---|---|---|
| サービス名だけで適用法令を判断する | 実態とずれた調査になる | 取引構造を図にしてから調べる |
| 開始直前に法務へ相談する | 事業モデルの修正が間に合わない | 構想段階で論点を共有する |
| 許認可だけ確認して安心する | 契約・表示・データの論点を見落とす | 分野横断で論点を洗い出す |
| 画面や利用規約を確認しない | 表示や申込フローに問題が残る | 実際の画面・規約案を見て確認する |
| 金銭とデータの流れを確認しない | 決済・個人情報の論点を見逃す | 5つの流れの図で可視化する |
| 口頭説明だけで調査する | 説明と実装がずれる | 資料・仕様・契約案で裏取りする |
| 契約書は最後に作ればよいと考える | 責任・解約・返金の設計が後手に回る | 事業設計と同時に契約条件を検討する |
| 知財調査を公表後に行う | 名称変更ややり直しが発生する | 名称決定・公表の前に調査する |
| 他社知財の調査を「商標(名前)」だけで終える | サービスの仕組み(ビジネスモデル特許)で差止めを受け、事業の作り直しや廃止に追い込まれる | ネーミングだけでなく、コア機能の特許侵害リスクも調査する |
| 外部委託すれば責任がなくなると考える | 委託元の責任は残り得る | 委託先の管理・責任分担を契約で定める |
| 撤退条件を決めずに長期契約を結ぶ | やめたいときに抜けられない | 解約権・終了条件を開始前に設計する |
| 撤退時に「何が残るか」を契約で決めていない | 開発したコードや蓄積データを別事業に流用できず、死蔵化する | 共同開発・外注の契約時に、撤退後の成果物・データの利用権限と帰属を確保する |
| 調査結果を「リスクあり」で終える | 経営者が判断できない | 条件・期限・代替案まで示す |
| 開始後の法改正を確認しない | 制度変更に対応できない | 関係法令を継続的にモニタリングする |
経営者へ提出する法務調査報告書のまとめ方
経営者が求めているのは、長い法律解説ではなく、判断に必要な情報を、判断しやすい順で並べたものです。大量の調査結果をそのまま渡すのではなく、次の構成に編集します。
- 結論
- 判断の前提となった事実・仮定
- 現在の判断区分(GO・条件付きGO・HOLD・NO-GO)
- 事業を止める可能性がある論点
- 条件付きGOの条件
- 必要な許認可・届出
- 事業モデルの修正案
- 開始までに必要な対応
- 費用・期間への影響
- 残存リスク
- 開始後のモニタリング事項
- 経営者に判断してもらう事項
※ 表は横にスクロールできます(経営者向け1ページサマリー)
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 事業概要 | 誰に、何を、どのように提供するか |
| 判断の前提 | 顧客・提供地域・資金やデータの流れなど、評価の基礎とした事実 |
| 判断 | GO・条件付きGO・HOLD・NO-GO |
| 重要論点 | 経営判断に影響する上位3〜5件 |
| 開始条件 | 許認可・契約・システムなど |
| 開始可能時期 | 法的対応を踏まえた見込み |
| 追加コスト | 外部相談・システム・保険など |
| 残存リスク | 対応後も残るリスク |
| 代替案 | 現行案が難しい場合の修正案 |
| 決裁事項 | 経営者に判断を求める事項 |
設計段階で考えるべき2つの視点(データと知財)
データを使う事業は「設計段階」からプライバシーを組み込む
顧客データを活用する新規事業では、サービス完成後にプライバシーポリシーを作るのではなく、事業やシステムの設計段階から個人の権利利益の保護を組み込む考え方(プライバシー・バイ・デザイン)が重視されています。個人情報保護委員会は、その実践手法の一つとして、データの取扱いがプライバシーに与える影響を事前に評価するPIA(個人情報保護評価)の意義や手順を示しています。
PIAは、現状では事業者の自主的な取組として促進されているものであり、すべての民間事業者に一律に法律上義務付けられているものではありません。データ利用の具体的な設計や個人情報の論点は第9話で解説します。
知財は「事業開始後」ではなく「事業設計と同時に」検討する
知的財産は、事業が動き出してから考えるものではなく、事業設計と同時に検討するものです。最低限、次の点を意識してください。
- サービス名を公表する前に、商標調査を検討する
- 技術やデザインを公表する前に、権利化(出願)の要否を検討する
- 他社の特許・商標・著作権などを侵害しないか確認する(商標は名称変更で対応できることもあるが、サービスのコア機能が他社のビジネスモデル特許等を侵害すると、提供差止めや作り直しを迫られ、致命的になり得る)
- 共同開発や外注では、成果物と知的財産の帰属をあらかじめ決める
- ノウハウは、営業秘密として管理できる状態を整える
自社の権利の守り方は第7話、他社権利の侵害を避ける調査は第8話で解説します。
法的問題が経営判断に与える影響
本記事は法務の記事であり、市場規模や売上予測そのものは扱いません。ただし、法的な論点は、次のように経営判断と直結します。
- サービス開始時期:許認可の取得までにかかる期間は、開始時期を左右します。
- 追加費用:外部相談・システム改修・保険などのコストが発生し得ます。
- 収益モデル:解約条項の設計は、収益の安定性と顧客トラブルに影響します。
- 取引条件:委託先との責任分担は、想定外の損失の有無を左右します。
- 事業継続可能性:データ利用の制限は、予定していた分析や広告のモデルに影響します。
- 撤退費用:終了条件を決めていないと、撤退時に追加費用が発生します。
新規事業開始前の法務チェックリスト
保存して使える実務チェックリストです。新規事業の法務チェックリストとして、社内での確認にご活用ください。
事業モデル
- 顧客・提供者・契約主体が明確になっている
- 商品・サービスの内容が具体化されている
- 金銭の流れが図示されている
- データの流れが図示されている
- 外部委託先・提携先が特定されている
法規制
- 必要な許認可・登録・届出を調査した
- 業法上の禁止・制限行為を確認した
- 自治体条例や業界固有のルールも確認した
- 海外提供がある場合は対象国の規制を確認した
- 法令の適用が不明な事項を特定した
契約・権利
- 顧客との契約条件を整理した
- 提携先・委託先との責任分担を整理した
- 商標・特許・著作権などを確認した
- 他社の知的財産権を調査した
- 秘密情報の管理方法を決めた
データ・システム
- 取得する個人情報と利用目的を整理した
- 委託・第三者提供・外国への移転を確認した
- セキュリティ要件を決めた
- 事故・漏えい時の対応を決めた
- サービス終了時のデータ処理を決めた
運営・撤退
- 雇用・派遣・業務委託の区分を確認した
- 事故や不具合時の責任を確認した
- 保険加入の要否を検討した
- 解約・返金・サービス終了の条件を決めた
- 撤退時の契約・従業員・顧客対応を確認した
- 撤退後に、開発した成果物(コード)や蓄積データを自社で利用できるか、帰属と利用権限を契約で確保した
- 事業モデル・料金・提供地域・データ利用を変更した場合の法務再確認の手続を決めた
- 開始後の法改正のモニタリング方法を決めた
無料ツール
LegalOS 法改正アラート
新規事業は、開始時点で適法でも、その後の法改正・ガイドライン変更・制度変更によって対応が必要になることがあります。チェックリストの確認を終えたら、開始後に向けて、関係する法令を継続的に確認する体制も整えておきましょう。法改正情報の初動確認を支援する無料ツールをご用意しています。
このツールは、法改正情報の初動確認を支援するものであり、許認可の要否や個別事業の適法性を自動的に確定するものではありません。重要な判断にあたっては、公式情報や専門家への確認が必要です。
無料の法改正アラートを見る関連プロンプト集
法務AIプロンプト集100選
新規事業の法務調査では、事業部へのヒアリング、論点の洗い出し、調査結果の整理、経営者向け報告など、毎回似た作業が発生します。こうした作業の指示文(プロンプト)を毎回ゼロから作る手間を減らしたい方に向けて、実務で使えるプロンプト集をまとめています。新規事業の法的論点を整理したい、事業部への確認事項を洗い出したい、調査結果を経営者向けにまとめたい、といった場面でご活用ください。
生成AIの出力は、法的な結論そのものではありません。事実関係と一次情報を確認し、重要な判断では専門家の確認を行ってください。
法務AIプロンプト集100選を見るまとめ|新規事業の法務は「止める」ためではなく「整える」ために行う
新規事業の法務調査の進め方を、改めて整理します。
- 法律を調べる前に、事業の事実関係を整理する
- 人・物・金・情報・契約の流れを可視化する
- 事業の可否を左右する論点から、優先して調べる
- 結果はGO・条件付きGO・HOLD・NO-GOに分ける
- 法務は、条件・期限・代替案・残存リスクを示す
- 開始後のモニタリングと撤退条件も、開始前に考えておく
新規事業の法務調査は、リスクを理由に事業を止めるための作業ではありません。実行できる形に事業を整え、経営者が自信を持って判断できる状態をつくるための作業です。次回の第2話では、その出発点となる「許認可は必要か」を詳しく解説します。
よくある質問(FAQ)
新規事業はどの段階で法務に相談すべきですか
できるだけ早い構想段階での相談をおすすめします。事業モデルが固まる前であれば、法的な制約に合わせて設計を調整しやすく、後からのやり直しを減らせるためです。詳細が決まっていなくても、論点の洗い出しは始められます。
まだ事業内容が固まっていなくても法務調査はできますか
できます。事実が確定していない段階では、結論を出すのではなく「何を確認すべきか」を洗い出すのが法務の役割です。確認すべき事項が整理されること自体が、事業設計を前に進める材料になります。
許認可が不要なら法務調査は終わりですか
終わりではありません。許認可が不要でも、契約・利用規約、表示・広告、個人情報、決済、知財、人材、事故時の責任、撤退条件など、確認すべき論点は数多くあります。許認可は入口の一つに過ぎません。
弁護士に相談する前に社内で何を整理すべきですか
事業の事実関係(誰が・何を・どの順番で行うか)と、人・物・金・情報・契約の5つの流れを整理しておくと、相談がスムーズになります。事実が整理されているほど、的確な助言を得やすくなります。
法務がNO-GOと判断した場合、事業を諦める必要がありますか
必ずしも諦める必要はありません。NO-GOは「現状の事業モデルでは実行が難しい」という意味であることが多く、契約主体・金銭の流れ・提供方法などを変えれば実行できる場合があります。法務は、可能であれば代替案も示します。
新規事業の開始後も法務確認は必要ですか
必要です。開始時点で適法でも、その後の法改正やガイドライン変更、運用の変化によって、追加の対応が必要になることがあります。関係する法令を継続的に確認する体制を、開始前に決めておくことをおすすめします。
本記事は、2026年6月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・ガイドライン・制度は改正されることがあり、許認可の要否や規制の適用は、所管官庁・自治体・業種・契約構造などの具体的な事実によって異なります。実際の判断にあたっては、最新の公式情報を確認し、必要に応じて弁護士・弁理士・税理士などの専門家にご相談ください。税務・会計・技術・セキュリティに関する事項についても、各分野の専門家への確認が必要となる場合があります。
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