新規事業で事故・不具合が起きたら誰が責任を負うか
新しいIoT機器を自社ブランドで販売するとします。製造はOEM先へ委託し、主要部品は海外メーカーから調達、アプリとクラウドを組み合わせ、AIが異常を検知して自動制御する——。ある日、誤作動で利用者が負傷し、周辺の家財にも損害が生じました。OEM先は「部品メーカーの責任だ」、部品メーカーは「仕様どおり製造した」と主張。利用規約には「一切責任を負わない」とあります。しかし製造を委託すれば責任を負わない/全面免責を書けば責任は消える/原因確定まで行政報告は不要/保険に入っていれば任せればよいという思い込みはいずれも危険で、事故・不具合の責任はこうした一文では決まりません。
事故責任は「誰が悪いか」を抽象的に決める作業ではありません。被害者に対する責任、契約相手に対する責任、行政上の報告・回収義務、関係会社・委託先間の最終負担(求償)、保険による補填、再発防止と事業継続の六つを分けて整理するのが出発点です。本記事は、訴訟論だけでなく、事故・不具合が生じても被害拡大を防ぎ対応できる事業構造を開始前に設計することを目的に、製品・サービス・AI・ソフトウェア・施設・委託先を横断して整理します。
この記事の要点
- 契約責任(民法415条等)、製造物責任(製造物責任法3条)、不法行為責任(民法709条等)を区別する
- 被害者に対する「外部責任」と、関係企業間で最終的に誰が負担するかという「内部求償」を分ける
- 重大製品事故は「知った日を含めて10日以内」の報告期限を管理し、原因確定前でも安全措置を検討する
- リコールは全面回収だけではなく、停止・注意喚起・点検・修理・交換等を被害拡大防止の観点で比較する
- 責任制限条項・保険・製造委託だけに依存せず、トレーサビリティ・事故記録・事故対応体制を開始前に整える。事故発生時は安全確保・証拠保全・報告期限管理を最優先に動く
本記事のGO・条件付きGO・HOLD・NO-GOは、法令上の正式な分類ではありません。新規事業を始めてよいか、条件付きで進めるか、いったん保留か、見送るかという社内判断を整理するための区分です。最終的な適法性や事故責任は、事実・契約・個別法令・行政機関の見解により判断されます。
読んだだけで終わると、次の案件でまたゼロから考えることになります。
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事故・不具合の種類を分類する
「事故」と一口に言っても、原因物と被害、関係する法令・規制は大きく異なります。まず自社の新規事業で起こり得る事故・不具合を類型に分けると、確認すべき責任根拠と担当部署が見えてきます。
事故・不具合は原因物と被害で確認すべき責任根拠が変わります。製品の物理的事故(発火・破損・転倒・誤作動。製造物責任・契約責任・製品安全法令・重大製品事故報告)、健康被害(食品・化学物質等。個別業法・製造物責任)、サービスの不履行(停止・遅延・処理誤り。契約責任・SLA)、ソフト・アプリ/AIの不具合(契約責任・不法行為、組込み時は機器の欠陥評価に影響)、情報・サイバー事故(個人情報保護法・別の報告制度)、施設・設備の事故(工作物責任)、委託・設置・配送中の事故(自社従業員等なら使用者責任。独立した委託先の行為は委託先自身の責任に加え、自社の選任・指示・監督上の過失や契約上の履行責任を確認する。独立した請負人がその仕事について第三者へ加えた損害は、注文者は原則として責任を負わないが、注文・指図に過失があれば責任を負い得る——民法716条。使用者責任と注文者責任は区別する)、誤使用が関係する事故(予見可能な誤使用は欠陥評価で考慮)に大別され、担当は品質保証・技術・開発・法務等にまたがります。
ただし、食品・医薬品・医療機器・車両・建築・労働災害・個人情報漏えい等には、それぞれ食品衛生法、医薬品医療機器等法、道路運送車両法、建築基準法、労働安全衛生法、個人情報保護法などの個別法令と固有の報告・回収制度があります。本記事だけで完結せず、該当する個別法を別途確認してください。
責任を判断する基本フロー
事故が起きると「誰の責任か」を先に決めたくなりますが、実務は逆です。最初に責任者を決めてから証拠を集めるのではなく、まず事故事実と損害を固定し、原因物、契約関係、各事業者の役割、民事責任、行政義務、保険、内部求償の順に確認します。一つの根拠に絞り込まず、契約責任・製造物責任・不法行為責任・行政上の義務を並行して評価するのが要点です。
ステップ1 事故が起きた対象と損害を特定する
責任を論じる前に、何について・誰に・いつ・どのような損害が生じたかを事実として固定します。とくに損害の種類は、適用される責任根拠を左右します。次の表に整理します(自社で記入してください)。
※ 自社記入用(事故事実・証拠保全表)。表は横にスクロールできます。
| 確認項目 | 内容(事実) | 証拠・保全状況 |
|---|---|---|
| 対象製品・型式・バージョン・ロット | 記入 | 記入 |
| 利用者・発生日・認知日 | 記入 | 記入 |
| 被害内容(人身/財産/製品自体) | 記入 | 記入 |
| 利用方法(通常/誤使用) | 記入 | 記入 |
| 事故現物・破損部品・写真 | 記入 | 記入 |
| 設計・製造・試験・変更の記録 | 記入 | 記入 |
| ソフト・AI・クラウドのバージョン・ログ | 記入 | 記入 |
| 販売数量・影響範囲・回収対象者・初動 | 記入 | 記入 |
この「事故事実・証拠保全表」はステップ8の証拠確保でも用います。生命・身体への損害、他の財産への損害、欠陥製品そのものに生じた損害、営業損失・データ損失・信用毀損は、それぞれ扱いが異なります。とくに損害が欠陥製品そのものにだけ生じた場合は、製造物責任法3条の対象外です(同条ただし書)。ただしその場合でも、契約不適合責任や債務不履行責任などの契約責任は残り得ます。
ステップ2 契約責任・製造物責任・不法行為責任を区別する
同じ事故でも、誰が誰に対して、どの根拠で責任を負うかは複数あり、しばしば重なります。次の表で主な責任根拠を整理します。一つに絞り込むのではなく、当てはまり得る根拠を並行して確認するのが実務です。
※ 表は横にスクロールできます。
| 責任根拠 | 主な対象 | 請求者との契約関係 | 主な成立要件 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 債務不履行責任(民法415条) | 契約上の義務違反 | 必要(契約当事者) | 債務不履行・損害・因果関係(帰責事由) | 損害賠償の範囲・解除・追完等 |
| 契約不適合責任 | 売買等の目的物の不適合 | 必要 | 種類・品質・数量の契約不適合 | 追完・代金減額・解除・損害賠償・期間制限 |
| 製造物責任(製造物責任法3条) | 製造物の欠陥 | 不要(被害者一般) | 製造物・欠陥・損害・因果関係・製造業者等該当 | 過失の立証は不要。製品自体のみの損害は対象外 |
| 一般不法行為(民法709条) | 故意・過失による権利侵害 | 不要 | 故意・過失・権利侵害・損害・因果関係 | 契約関係のない被害者にも責任が及び得る |
| 使用者責任(民法715条) | 従業員等の行為 | 不要 | 被用者の不法行為・事業執行性 | 設置・配送・保守作業中の事故等 |
| 工作物責任(民法717条) | 土地工作物の設置・保存の瑕疵 | 不要 | 瑕疵・損害・因果関係 | 店舗・設備等。占有者・所有者の責任 |
| 個別業法上の責任・措置 | 製品安全法令等 | 行政との関係 | 各法の対象・基準 | 報告・回収・命令等の行政上の義務 |
製造物責任法は、製造業者等の過失ではなく製造物の欠陥を責任要件とする民法709条の特則です。被害者は過失を立証する必要はありませんが、欠陥・損害・因果関係や相手が製造業者等に該当することは確認が必要です。「事故が起きれば必ず責任を負う」わけではありません。
ステップ3 製造物責任法の「製造物」「欠陥」「製造業者等」を確認する
製造物責任を検討するときは、(1)そもそも製造物に当たるか、(2)安全性を欠く「欠陥」があるか、(3)誰が製造業者等に当たるか、の三つを分けて考えます。
(1)製造物 「製造物」は製造または加工された動産が出発点です。未加工の農林水産物・不動産・役務そのものは当然には製造物とせず、ソフト・AI・データ・クラウドだけを独立して当然に製造物と断定もしません。ただし組込み・制御ソフトの不具合が機器全体の安全性を欠く原因となる場合は、機器という製造物の欠陥評価に影響し得ます。対象外でも契約責任・不法行為責任・業法上の責任がなくなるわけではありません。
(2)欠陥 欠陥とは、その製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、製造物の特性、通常予見される使用形態、引き渡した時期その他の事情を考慮して判断します。
実務上は次の三つに整理されます(条文がこの3類型を定義しているわけではありません)。製造上の欠陥は設計どおり製造されず安全性を欠くもの(部品混入・組付け不良等。製造記録・検査記録で確認、工程管理・検査で予防)、設計上の欠陥は設計自体に安全性の問題があるもの(過熱・転倒対策の不足等。設計図・試験結果で確認、安全設計・フェイルセーフで予防)、指示・警告上の欠陥は必要な指示・警告が不十分なもの(取説・警告表示の不足。対象年齢・注意事項で確認、適切な警告・誤使用想定で予防)です。
この3分類は実務上の整理であり、法律の条文がこの3類型を定義しているわけではありません。警告表示を書けば設計上の危険がすべて許容されるわけではなく、利用者が予見可能な範囲で誤使用することも考慮します。発売後に判明した危険については、注意喚起・改修等が必要になる場合があります。著しく異常な使用と通常予見される誤使用は区別します。また、出荷後にソフト・ファーム・AIモデルを更新する製品では、更新が安全性に影響する場合に欠陥や引渡しの評価へ影響し得るとの考え方があり、更新前にも出荷時同様の検証を行うことが望まれます。
(3)製造業者等 「製造業者等」には、製造・加工した者/輸入した者/表示製造業者が含まれます。表示製造業者は、自社ブランド等の表示により製造業者と誤認される場合、又は設計・構造・デザイン等への関与から実質的な製造業者と認められる表示をした場合に責任を負い得る者で、単にブランドを付しただけで常に該当するとは限りません。単なる販売者も当然には該当しませんが、契約責任・不法行為責任・事故情報の通知・リコール協力・販売規制等が問題となり得ます。表示・関与・契約・個別法令で判断し、一律の断定は避けます。
ステップ4 製品安全法令・技術基準・表示を確認する
製品を販売する前に、固有の安全法令があるかを確認します。約500品目の対象製品には技術基準適合とPSマーク表示が義務付けられ、マークがなければ販売できません。自社が製造・輸入・販売のどの立場かで義務が変わります。次の表で整理します(自社で記入してください)。
※ 自社記入用。表は横にスクロールできます。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品・用途・利用者 | 記入 |
| 適用候補法令・PSマーク・必要な届出・表示 | 記入 |
| 製造者・輸入者・試験検査・技術基準適合 | 記入 |
| 子供用特定製品の該当性 | 記入 |
| 未対応事項・開始判断 | 記入 |
製品安全4法(消費生活用製品安全法・電気用品安全法・ガス事業法・液化石油ガス法)の改正法が2025年12月25日に施行されています。主な内容は、(1)国内の輸入事業者を介さず日本の消費者へ対象製品を直接販売する一定の海外事業者を「特定輸入事業者」として規制対象とし国内管理人の選任・届出等を求めること、(2)危険な製品について取引デジタルプラットフォーム提供者へ出品削除要請等を行い得る制度、(3)違反者の公表、(4)乳幼児用玩具・乳幼児用ベッド等を「子供用特定製品」とし技術基準・対象年齢・使用上の注意の表示・子供PSCマークの確認を求めること、です。2026年6月17日時点では子供用特定製品は乳幼児用ベッド・乳幼児用玩具です。さらに乳幼児用ベッドガード及びベビーカーを子供用特定製品・特定製品へ追加指定する政令は公布済みで、規制は2026年7月8日施行予定です(子供PSCマークなしの販売はベッドガードが2027年7月7日、ベビーカーが2028年7月7日まで可とする経過措置あり)。「モール運営者は出品製品の事故について常に製造者と同じ責任を負う」とは限りません。適用法令は製品ごとに異なります。
ステップ5 OEM・輸入・販売・委託先との責任分担を確認する
新規事業では、企画・仕様決定者、設計者、部品メーカー、完成品メーカー、OEM・ODM先、輸入者、ブランド表示者、卸売・販売者、設置・保守事業者、ソフト開発会社、クラウド・AIサービス提供者、物流会社、プラットフォーム運営者など多くの関係者が関わります。誰がどの工程を担い、どこまで支配・確認できるかを棚卸しします。次の表に整理します(自社で記入してください)。
※ 自社記入用。表は横にスクロールできます。
| 関係者 | 担当工程 | 支配・確認できる範囲 | 外部責任(顧客・被害者) | 内部負担(契約) | 必要な証拠・保険 |
|---|---|---|---|---|---|
| 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 |
| 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 |
ここで最も重要なのは外部責任と内部求償の区別です。「委託先がすべての責任を負う」と契約で定めても、被害者からの自社への請求や行政上の義務がその条項だけで消えるわけではありません。自社が仕様を詳細に指定した場合、委託先だけに原因を帰属させられないこともあります。委託先の補償義務は、通知・調査協力・防御・和解・代替品・回収費用・第三者請求・責任上限と組み合わせ、委託先の資力・保険・海外所在・証拠保存体制まで確認します。海外から完成品を輸入する場合、輸入者は製造業者等として被害者へ直接責任を負い得る一方、海外メーカーへの求償は国際訴訟・資力の問題で実効性が限られることがあるため、海外ベンダーのPL保険加入証明等を発売前に確認します。
ステップ6 事故報告・販売停止・リコールの要否を確認する
消費生活用製品の製造事業者または輸入事業者は、重大製品事故が生じたことを知った日を含めて10日以内に、消費者庁(内閣総理大臣)へ報告する義務があります(消費生活用製品安全法35条)。対象は、死亡、一定の重傷病、後遺障害、一酸化炭素中毒、火災等の重大な被害です。販売事業者等には、重大製品事故を知ったとき製造・輸入事業者へ通知するよう努め、自主回収等に協力するよう努める努力義務があります(消費生活用製品安全法34条3項・38条2項)。報告義務者と販売事業者等の協力責務は区別します。なお「知った日を含めて10日以内」には土日祝も含まれますが、10日目が行政機関の休日なら翌開庁日が期限です。次の流れで判断します。
事故原因が欠陥か確定するまで報告しなくてよい、とは限りません。製品の欠陥によるものでないことが明らかな場合を除き報告対象になり得ます。要否が不明でも、認知日・被害・製品名・型式・製造/輸入/販売数量・ロット・事故状況を直ちに整理します。一方で、事実確認の前に責任を全面的に認めたり原因を特定企業へ断定したりすることも避けます。重大製品事故報告・自主リコール判断・民事責任は別問題として検討しつつ連携させます。消費者安全法・所管業法や、サービス障害・情報漏えい・労働災害・サイバー事故は別の報告制度を確認します。
ステップ7 事故対応の初動体制を作る
事故発生直後は順序が結果を左右します。(1)人命・身体の安全確保と追加事故の防止、(2)出荷・販売・利用の停止判断、(3)事故現物・ログ・設計資料等の証拠保全、(4)認知日と法定期限の記録・対象ロット・販売経路の特定、(5)行政報告の要否確認と保険会社・委託先への通知、(6)経営・法務・品質・技術・広報・営業・サポートによる対策本部と被害者・顧客・販売店への情報提供、(7)原因調査・公表・再発防止、の順です。
避けるべき初動の代表例は、事故現物やログを廃棄・上書きする、報告期限を原因確定まで放置する、事実確認前に責任を全面的に認める又は誤使用と断定する、訴訟リスクだけを理由に安全情報を遅らせる、委託先へ丸投げする、の五つです。なお「謝罪すると法的責任を認めたことになるから一切謝罪しない」というのは誤った理解で、被害への配慮・お見舞いや安全情報の提供と、事実・原因・法的責任の認定は別のこととして扱います。
ステップ8 事故原因を調査し、証拠とトレーサビリティを確保する
原因調査は責任追及のためだけではなく、被害拡大防止・行政報告・リコール判断・保険請求・求償・再発防止のいずれにも必要です。確認対象は次の代表区分にまとめられます。事故現物・破損部品・写真/型式・ロット・製造番号/設計・製造・試験・変更の記録/取扱説明書・警告表示/ソフト・AI・クラウドのバージョンとログ/苦情・保守履歴・販売経路/委託先・部品メーカーとの連絡記録等です。
証拠保全と原因調査は区別します。証拠保全は事故時点の状態を変えずに保存する措置です。分解・解析する場合は写真・封印・保管記録・作業者・日時・手順を記録し、解析で元の状態が失われることを管理します。ソフト・AI・クラウドはログ保存期間が短いことがあるため、発生後直ちにログの上書き停止・保全を検討します。保全状況はステップ1の「事故事実・証拠保全表」に併せて記録します。
調査では、原因を製品欠陥・誤使用・部品不良・設置不良のいずれかへ早期に断定せず、委託先の調査報告書だけで確定しないよう注意します。必要なら独立した第三者機関・専門家の解析を検討し、調査中も安全措置・行政報告・注意喚起を並行します。訴訟・行政調査・保険請求を見据え、証拠の取得経緯と保管の連続性を記録します。
ステップ9 リコール・修理・交換・注意喚起の対応を比較する
事故や不具合が判明したときの対応は、全面回収だけではありません。危険の程度と対象範囲に応じて、複数の手段を比較します。次の表で代表的な選択肢を整理します。
※ 表は横にスクロールできます。
| 対応案 | 想定する危険 | 対象範囲 | 被害拡大防止効果 | 主な課題 |
|---|---|---|---|---|
| 追加出荷・販売の停止 | 拡大防止が急務 | 未出荷・流通在庫 | 新規被害を抑える | 既販売分は残る |
| 注意喚起・利用停止要請 | 回避可能な危険 | 全利用者 | 到達率に依存 | 連絡先未把握だと届かない |
| 無償点検・修理・部品交換 | 特定部位の不具合 | 対象ロット | 危険を除去できる | 実施率の管理が必要 |
| ソフト・ファーム更新/設定変更 | 制御・機能の不具合 | 対象機器 | 遠隔で迅速 | 未更新機・検証不足 |
| 製品交換・回収(対象ロット/全製品) | 重大・広範な危険 | 対象ロット〜全数 | 最も確実 | 費用・回収率・物流負担 |
| 返金・代替品提供 | 使用継続が困難 | 対象利用者 | 使用を止められる | 原資・代替手段の確保 |
| サービス機能・全体の停止 | サービス側の危険 | 対象機能〜全体 | 即時停止できる | 利用者の不利益・代替策 |
判断要素は、生命・身体への影響、火災等の可能性、件数・再現性、販売数量、対象ロットの特定可能性、通常使用か誤使用の予見可能性、利用者が危険を回避できるか、注意喚起や修理・更新で危険を除けるか、対象者へ連絡できるか、子ども・高齢者の使用、海外販売、行政の見解、代替品、回収率・改修率の追跡可能性、です。
重要な前提として、リコールは民事責任の確定後に初めて行うものではなく、その実施が製造物責任を認めたことと当然に同じでもありません。反対に「責任を認めることになる」として必要な安全措置を遅らせてはいけません。自主リコールと行政命令に基づく措置は区別し、回収開始だけで完了とせず、回収率・改修率・未対応者・再通知・販売店在庫まで追跡します。
ステップ10 利用規約・契約書による責任分担を確認する
事故・不具合に直接関わる契約条項を整理します(作り方は第10話で詳述)。本文では特に、外部責任と内部求償の切り分け、補償の手続(通知・防御・和解の事前承認)、責任上限とその適用除外、保険の4点を中心に確認します。条項ごとの確認は次の表のとおりです。
※ 表は横にスクロールできます。
| 条項 | 確認すべき内容 | 不明確な場合のリスク | 修正・運用対応 |
|---|---|---|---|
| 安全・品質・法令適合 | 基準・検査・検収・適合義務 | 責任範囲が曖昧になる | 基準と検査・承認手続を明記 |
| 事故・苦情の報告と共有 | 報告期限・トレーサビリティ・記録保存 | 報告期限に間に合わない | 通知期限と保存義務を設定 |
| 第三者請求・補償 | 補償対象・通知・防御・和解承認 | 補償が空文化する | 対象と手続を具体化 |
| 回収・調査費用 | リコール・修理・交換・原因調査費の負担 | 費用負担で紛争化 | 費目ごとに分担を定める |
| 責任上限・適用除外 | 上限・除外損害・故意重過失等の例外 | 不当な免責で無効化も | 性質に応じ上限と例外を設計 |
| 保険・求償・終了後協力 | 保険加入・求償・終了後の協力 | 求償・対応が滞る | 保険証明・求償条項を整備 |
「委託先が全額補償する」とだけ書くのでは不十分です。補償対象、自社指定の仕様・部品・素材に原因がある場合、委託先が支配・確認できなかった事項、通知期限、調査協力、防御方針、和解の事前承認、リコール・修理・交換・広報費用、間接損害、責任上限と故意・重過失の例外、保険の適用、相手方の資力不足時の対応まで定めます。なお責任制限条項の効力は、まず契約当事者間で問題となります。契約関係のない被害者に対する製造物責任・不法行為責任や、行政上の報告・回収義務を当然に排除するものではありません。保険金支払や求償への影響は保険約款・保険代位の範囲・条項の有効性等で異なります。BtoCでは消費者契約法8〜10条等により、責任を全部免除する条項や故意・重過失まで免責する条項等が無効となり得ます。軽過失による損害賠償責任の一部制限は同法8条により当然に一律無効となるものではありませんが、生命・身体が重要な法益であること等から同法10条により無効となる場合があり、財産損害の上限と人身損害の適用除外を書き分けます。BtoBでも強行法規・公序良俗・契約の性質等による限界があります。
ステップ11 保険の補償範囲を確認する
保険は「入っているか」だけでなく「何が補償されるか」を確認します。種類ごとに対象が異なります。次の表で代表的な保険を整理します。
※ 表は横にスクロールできます。
| 保険の種類 | 主な補償対象 | 対象となり得る事故 | 対象外となり得る費用 |
|---|---|---|---|
| 生産物賠償責任保険(PL保険) | 製品の欠陥による身体・財物損害の賠償 | 発火・誤作動による負傷・物損 | 欠陥製品自体の修理・交換、リコール費用 |
| 施設賠償責任保険 | 施設・設備の管理に起因する賠償 | 店舗・施設での事故 | 製品の欠陥そのもの |
| 請負業者賠償責任保険 | 設置・工事作業中の賠償 | 設置・保守作業中の事故 | 仕事の目的物自体の不良 |
| 専門業務賠償(E&O) | 役務・助言・判断の誤りによる賠償 | サービス誤り・AI誤助言 | 身体・財物損害(PLの領域) |
| サイバー保険 | 情報漏えい・サイバー事故の損害・費用 | 不正アクセス・漏えい | 製品の物理的事故 |
| リコール費用保険 | 回収・通知・廃棄等のリコール費用 | 自主・命令リコール | 賠償金・対象事故・開始要件に注意 |
| 海外PL保険 | 海外での製品賠償 | 輸出先での事故・訴訟 | 対象地域・準拠法・高額賠償の限度 |
PL保険とリコール費用保険は同じではありません。PL保険は欠陥製品そのものの修理・交換費用や自主リコール費用を当然には補償しません。サービス障害・誤助言・AI誤判定はE&O等の検討が必要な場合があり、情報漏えい・サイバー事故はサイバー保険の対象となり得ます。故意・契約上加重した責任・既知事故・特定地域・特定製品・サイバー事故等が免責・除外となる場合があります。保険金額・自己負担額・事故通知期限・被保険者・求償権放棄・海外適用・事故発生ベース/請求ベースを確認します。委託先の保険加入証明を受け取っても自社の保険が不要になるとは限りません。保険に入っても、安全確保・事故報告・リコール・被害者対応の義務はなくなりません。
ステップ12 発売前の安全審査・事故対応体制を整える
事故対応は起きてからの話だけではありません。本記事の中心は開始前の予防と体制整備です。リスクアセスメント、予見可能な使用・誤使用の整理、FMEA・FTA・HAZOP等の活用、安全要求仕様、フェイルセーフ・フールプルーフ・冗長化・停止/警報・人による確認、試験・検証・第三者認証、法令適合確認、警告表示・取説・対象年齢・利用制限、設置/保守/更新手順、部品・委託先の変更管理、製造ロット・販売先管理、事故・苦情窓口、重大事故のエスカレーション、事故対応訓練、リコール計画、保険、経営承認を発売前に準備します。FMEA等は全事業に同一方法で義務付けられているわけではなく、製品・事業の性質に応じたリスク評価手法として活用します。次の表で審査します(自社で記入してください)。
※ 自社記入用。表は横にスクロールできます。
| 危険源・不具合 | 発生原因 | 被害 | 発生可能性 | 重大性 | 現行・追加対策 | 残存リスク・承認・発売判断 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 |
| 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 |
考え方として、発生確率が低くても、死亡・重傷等の重大結果が予想される場合は確率だけでGOとしません。利用者の注意だけに依存せず、設計・保護装置・警告の順で対策を検討します(本質安全が優先)。AIや自動制御は、誤判定時の安全側動作、人による介入、ログ、モデル更新管理を確認します。発売後の苦情・ヒヤリハットを安全設計へ戻す仕組みを作ります。
AI・ソフトウェア・クラウドサービスの不具合
事故は物理的な製品だけで起きるわけではありません。AI・ソフト・クラウドの不具合も身体・財産の被害につながり得ます。本記事の見守り機器のような事業では、AIが異常を検知できず機器が止まらない、更新(アップデート)で安全機能が作動しなくなる、クラウド停止で制御・監視ができない、といった事故が考えられます。
責任は、(1)ソフト・AI単体が製造物に当たるか、(2)機器へ組み込まれ機器全体の安全性を欠く原因となったか、(3)サービス契約上の債務不履行、(4)不法行為責任、(5)個別業法・AI関連ルール等、(6)各当事者の役割、に分けて考えます。「AIだから誰も責任を負わない」「AI提供者がすべて負う」のどちらも誤りです。
※ 表は横にスクロールできます。
| 機能 | 想定誤作動 | 被害 | 安全側動作・人による確認 | ログ・更新管理・責任分担 |
|---|---|---|---|---|
| 異常検知・通知 | 検知漏れ・誤検知 | 救助の遅れ・誤停止 | フェイルセーフ・人の確認 | 判断ログ・モデル管理・分担明確化 |
| 自動制御 | 誤制御・暴走 | 身体・物損 | 安全側停止・手動介入 | 制御ログ・更新検証・分担 |
| センサー・測定 | 誤測定・遅延 | 異常の見逃し | しきい値・冗長化・人の確認 | 測定ログ・校正記録・分担 |
| クラウド連携 | 停止・遅延 | 監視・制御不能 | 代替・縮退運転 | 稼働記録・障害時手順 |
実務上は、用途・性能限界の明示、更新前の検証とロールバック、外部API・クラウド障害時の代替措置、事故時のログ保全を準備します。
GO・条件付きGO・HOLD・NO-GOの判断基準
ここまでの確認を、社内判断の区分に落とし込みます。次は社内整理用の目安です。
※ 表は横にスクロールできます。
| 区分 | 状態の目安 |
|---|---|
| GO | 主要な危険を特定し、適用法令・技術基準・表示・安全対策の実装検証済み。製造・輸入・販売・委託先の役割が明確で、事故報告・リコール体制、トレーサビリティ・証拠保存、保険と契約上の責任分担を確認し、残存リスクを経営者が承認。 |
| 条件付きGO | 発売前に試験・警告表示・契約修正・保険加入・事故対応手順等の完了を条件に開始可能。限定地域・顧客・数量・実証でリスクを管理し、監視・追加検証・即時停止条件を設定できる。 |
| HOLD | 重大な危険の評価が未了、責任主体が不明、安全試験・行政確認・事故報告体制が未整備、対象ロット・販売先を追跡できない、事故時の停止・回収・通知や保険・契約・資金面の対応能力が確認できない。 |
| NO-GO | 法令・強制規格に適合できない、重大危険を合理的に低減できない、対象者を特定・通知・回収できない、必要な許可・認証・表示を得られない、安全性確認の試験・データがなく期限内に整備できない、重大事故時の対応費用・体制を確保できない、違法・危険な設計を免責条項だけで補おうとしている。 |
事故の可能性がゼロでないことだけでNO-GOになるわけではありません。重大性・発生可能性・低減可能性・利用者への利益・代替案を総合評価します。ただし、残存リスクを経営者へ説明せず現場判断だけで受容してはいけません。GO等は法令上の正式区分ではありません。
具体例で見る事故・不具合責任の整理
A社が自社ブランドで家庭用の見守り機器を販売。製造は国内OEMのB社、主要センサーは海外C社(A社が輸入しB社へ支給)、完成品はA社ブランド、AIモデルはD社、クラウドは海外E社、設置はF社、月額サービス付き、利用者は高齢者宅で、異常検知時に家族へ通知します(電気用品安全法等の対象可能性)。利用規約は「通知の正確性を保証せず一切責任を負わない」、OEM契約は「B社が製造物責任をすべて負う」とだけ記載。ロット管理はあるが購入者と製造番号の紐付けが不完全で、リコール手順はなく、PL保険はあるがリコール費用保険はありません。ある日、センサーの誤作動とクラウド通信障害が重なり異常通知が届かず、利用者が転倒して長時間発見されず症状が悪化。別宅では電源部分が発熱し家具が焦げました。
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| 論点 | 現時点の評価 | 確認事項 | 直ちに行う対応・開始条件 |
|---|---|---|---|
| 利用者の安全確保と販売停止 | 最優先 | 同種事故・対象ロット・在庫範囲 | 注意喚起・利用停止案内と出荷・販売の一時停止 |
| 電源発熱と重大製品事故報告 | 緊急確認 | 火災・拡大被害該当性・認知日・報告義務者(製造/輸入事業者) | 知った日を含め10日以内の報告要否を判定 |
| 利用規約の全面免責 | 修正必須 | 消費者契約法8〜10条 | 生命身体損害の全面免責等を是正 |
| 購入者トレーサビリティ | HOLD | 購入者と製造番号の紐付け | 連絡可能な顧客台帳を整備 |
| AI通知機能・クラウド障害時の代替策 | 条件付き | 誤検知・安全側動作・障害時の縮退 | 性能限界の明示と代替監視・通知の設計 |
| OEM契約の責任分担 | 再設計 | 仕様指定・支配範囲・補償手続 | 外部責任と内部求償を分けて再設計 |
| 保険と再開条件 | HOLD | PL保険・リコール費用の補償/原因・安全対策・通知・行政対応 | 補償の不足を手当てし、これら完了後に再開を判断 |
A社はC社製センサーの輸入者・自社ブランド表示者・顧客との契約当事者です。ただし完成品について消費生活用製品安全法上の製造・輸入事業者として誰が重大製品事故報告義務を負うかは、A社・B社間の製造委託・届出・設計検査・表示・流通の実態で判断します。製造物責任法上の表示製造業者該当性と、製品安全法令上の届出・報告義務者は同じ基準で決まるわけではありません。身体損害(転倒)と他の財産への損害(家具の焦げ)を別に整理し、AI・クラウド・センサー・電源部分の複合原因を切り分けます。結論は追加事実・技術評価・行政確認・契約内容で変わり得る暫定評価です。
LegalOS 法律相談(関連ツール)
事故・不具合対応の相談履歴を整理する
事故発生日・認知日・報告期限の記録、関係者の相談履歴、販売停止・回収判断の経緯、再発防止策、類似事故の検索、引継ぎに使えます。ただし事故原因や法的責任を自動判定せず、重大製品事故報告の期限を保証するものでもありません。緊急事故ではツールへの記録より安全確保・行政報告等を優先してください。
LegalOS 法律相談を見る新規事業の事故・不具合対応でよくある失敗
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| 失敗 | なぜ問題か | 改善方法 |
|---|---|---|
| 製造委託先へ任せれば自社は責任を負わない、製造物責任法だけを確認すると考える | 輸入者・表示製造業者・契約当事者として外部責任が残り、契約責任・不法行為・行政義務も生じ得る | 外部責任と内部求償を分け、責任根拠を横断的に確認する |
| 利用規約の全面免責だけで対応する | 消費者契約法等で無効となり、行政・被害者を拘束しない | 無効リスクを踏まえ条項と運用を見直す |
| 事故原因の確定まで行政報告を検討しない/起算日を記録しない | 知った日を含め10日以内の報告期限を徒過する | 認知日と報告要否を直ちに記録・判定する |
| 事故現物・ログ・メールを廃棄または上書きする | 原因調査・求償・保険請求の証拠を失う | 証拠保全を初動の最優先に置く |
| 事実確認前に責任を全面的に認める・否定する、誤使用と断定する、OEM先の調査報告だけで原因を確定する | 事実誤認と不利な対応につながり、利害関係者の報告に偏る | 事実確認まで断定を避け、必要なら第三者解析を行う |
| 重大製品事故報告とリコール判断を混同する/回収率を追跡しない | 必要な措置の遅れ・形だけの回収になる | 報告・リコール・賠償を分けて連携・追跡する |
| PL保険でリコール費用も補償されると考える | 補償範囲が異なり費用を自己負担する | 保険ごとの補償範囲と不足を確認する |
| 購入者とロット・製造番号を紐付けない/ソフト・AI・クラウド障害を製品安全と切り離す | 対象者へ連絡できず、複合原因を見落とす | トレーサビリティとAI・ソフトを横断管理する |
経営者へ提出する事故・安全リスクサマリー
経営者が必要とするのは「PL法上の責任があるか」という単一の結論ではありません。どの事故が起き得るか、最大被害、予防の程度、事故時の対応と費用、保険の範囲、残存リスクの受容可否、代替案を整理して示します。
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| 項目 | 経営判断に必要な内容 |
|---|---|
| 対象製品・サービス/想定事故 | 何を売り、どの事故が起き得るか |
| 最大損害 | 人身・財産・賠償・事業停止の最大規模 |
| 適用法令・報告義務 | 製品安全法令・重大製品事故報告等の有無 |
| 安全対策・第三者試験・認証 | 対策の実装・検証・認証の状況 |
| 製造・輸入・販売・委託先/外部責任・内部求償 | 役割分担と責任の所在 |
| 事故時の停止・回収手段/トレーサビリティ | 停止・回収の実行可能性と追跡能力 |
| 保険/事故対応予算 | 補償範囲・不足・対応費用 |
| 開始条件・残存リスク・GO区分 | GO/条件付きGO/HOLD/NO-GOと受容可否 |
法務AIプロンプト集100選
事故・安全リスクの洗い出しと整理を効率化する
危険源の洗い出し、関係者の役割整理、事故初動チェック、原因調査項目の整理、責任分担・リコール対応案の比較、経営者向け報告書の構成に使えます。ただし生成AIは事故原因や法的責任を確定しません。出力だけで製品安全法令への適合やリコール要否を判断せず、重大事故・人身事故では弁護士・技術専門家・行政機関等へ速やかに相談してください。
法務AIプロンプト集100選を見る新規事業の事故・不具合・製品安全チェックリスト
1. 危険・安全設計
- 想定事故・予見可能な誤使用・最大被害を整理した
- 安全対策・試験・警告・フェイルセーフ・残存リスクを確認した
2. 法令・責任主体
- 適用法令・技術基準・表示・届出・報告制度を確認した
- 製造者・輸入者・販売者・ブランド表示者・委託先の役割を整理した
3. 契約・委託先
- 委託先との品質・安全・事故報告・調査協力・回収・補償・保険を定めた
- 外部責任と内部求償を区別した
4. 記録・トレーサビリティ
- 型式・ロット・製造番号・購入者・販売経路・部品/ソフトのバージョンを追跡できる
- 設計・試験・変更・検査・苦情・事故・ログを保存できる
5. 事故・リコール対応
- 認知日・報告期限・安全確保・証拠保全・販売停止の初動手順を定めた
- 顧客通知・修理・交換・回収・返金・回収率管理・窓口を準備した
6. 保険・経営判断
- PL・E&O・サイバー・リコール費用等の補償範囲と不足を確認した
- 最大損害・対応費用・開始条件・残存リスクを経営者が承認した
まとめ
- 事故責任は製造物責任法だけでなく契約責任・不法行為責任・行政法上の義務を横断して確認し、被害者への外部責任と委託先等との内部求償を区別する
- 製造委託・全面免責・保険だけでは、自社の責任・対応義務はなくならない
- 重大製品事故は認知日と報告期限(知った日を含め10日以内)を管理して原因確定前でも安全措置を検討し、事故現物・ロット・ログ・設計変更等の記録とトレーサビリティを整える
- リコール・修理・交換・注意喚起等を被害拡大防止の観点で比較し、事故後の対応だけでなく開始前の安全設計・試験・体制・保険を重視する
事故が起きた場合の責任は契約書の一文だけでは決まらず、安全性を支配・確認できた者、製造・輸入・販売へ関与した者、顧客と契約した者、事故後に措置を講じるべき者を法令・契約・事実に基づいて整理する必要があります。大切なのは事故をゼロにすることではなく、危険を合理的に低減し迅速に対応できる事業構造を作ることで、次回の第15話「新規事業を撤退するときの法務|始める前に決める終了条件」では撤退・終了の設計を扱います。
よくある質問(FAQ)
製造をOEM先へ委託すれば、自社は製品事故の責任を負いませんか
負わないとは限りません。自社ブランドを付しただけで常に表示製造業者になるわけではありませんが、製造業者と誤認させる表示や製造への実質的関与があれば製造物責任を負い得ます。輸入者・契約当事者としての責任も確認し、契約上の「委託先が全責任を負う」は内部求償の取り決めにとどまります。
事故が起きれば、製造物責任法上の欠陥があったことになりますか
なりません。欠陥とは通常有すべき安全性を欠くことで、製品の特性・通常予見される使用・引渡時期等から判断します。事故の発生と欠陥の存在は別であり、欠陥・損害・因果関係の確認が必要です。誤使用や経年など欠陥以外の原因もあり得ます。
ソフトウェアやAIの不具合にも製造物責任法が適用されますか
ソフトウェアやAI単体は「製造または加工された動産」に当然には当たらず、製造物責任法が当然に適用されるとは限りません。ただし機器へ組み込まれ、その不具合が機器全体の安全性を欠く原因となる場合は、機器の欠陥評価に影響します。契約責任・不法行為責任は別に問題となります。
利用規約に「一切責任を負わない」と書けば免責されますか
免責されるとは限りません。BtoCでは消費者契約法8〜10条等により、責任を全部免除する条項や故意・重過失まで免責する条項等が無効となり得ます。被害者・行政を当然には拘束しません。なお保険への影響は保険約款・被保険者の法律上の責任・保険代位等により異なります。
重大製品事故は、事故原因が確定してから報告すればよいですか
違います。製造・輸入事業者は、重大製品事故を知った日を含めて10日以内に消費者庁へ報告する必要があります。製品の欠陥によらないことが明らかな場合を除き、原因が未確定でも報告対象になり得ます。認知日・被害・製品名・型式・数量・ロットを直ちに整理してください。
事故が1件発生したら、必ずリコールしなければなりませんか
必ずではありません。リコールは被害の重大性・多発性・拡大可能性・欠陥との関係・対象ロット等で判断し、停止・注意喚起・点検・修理・交換・回収・返金等を比較します。一方で、原因未確定を理由に必要な被害拡大防止措置を遅らせてはいけません。
PL保険に加入していれば、事故・リコール費用はすべて補償されますか
すべてではありません。PL保険は主に欠陥による身体・財物損害の賠償が対象で、欠陥製品自体の修理・交換やリコール費用は当然には補償されません。リコール費用保険は別で、対象事故・費目・開始要件・免責があります。補償範囲と不足を確認してください。
本記事は、2026年6月17日時点の公開情報に基づく一般的な情報提供であり、個別事案への法的助言、製品安全評価、事故原因鑑定ではありません。製造物責任法上の製造物・欠陥・製造業者等・因果関係の判断は個別事情によります。契約責任、不法行為責任、行政上の報告・回収義務は別々に確認する必要があります。食品、医薬品、医療機器、車両、建築、電気・ガス製品、労働災害、サイバー事故等には個別の法令と報告・回収制度があります。重大製品事故報告の要否・期限、リコールの要否・範囲は、事故の重大性・原因・拡大可能性・所管行政機関の見解等により異なり、最新の法令・行政資料で確認する必要があります。保険の補償範囲は保険約款・証券によります。GO・条件付きGO・HOLD・NO-GOは社内整理用の区分で法令上の正式分類ではなく、本記事の具体例は仮定の事例です。実際の事故・人身被害では、安全確保を最優先し、行政機関・弁護士・技術専門家・保険会社等へ速やかに相談してください。
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