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【2025年版】契約実務の教科書

【2025年版】契約実務の教科書

作成・審査・保存・印紙税を体系整理|早見表&チェックリスト付き

契約書の作成から審査、締結、保存、印紙税の処理まで──法務担当者の日常業務は多岐にわたります。

しかし、「NDAはいつも同じ雛形でいいの?」「保管期間って結局何年?」「印紙を貼り忘れたらどうなる?」といった疑問に、自信を持って答えられる方は意外と少ないのではないでしょうか。

この記事では、契約実務の全体像を「作成」→「審査」→「締結」→「保存」→「印紙税」の流れで体系的に整理します。各フェーズで「今すぐ使える」早見表・チェックリストも用意しましたので、日常業務のリファレンスとしてご活用ください。

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1. 契約実務の全体像

企業内で「契約実務」と呼んでいる仕事は、概ね次の5つのフェーズに分解できます。それぞれのフェーズで求められるスキルや注意点は異なりますが、全体を俯瞰して理解しておくことで、自分の業務がどの位置にあるのかを把握しやすくなります。

フェーズ 主な作業 よくある課題
①作成 雛形選定、条項ドラフト、社内調整 古い雛形の使い回し、法改正未反映
②審査 リスク条項チェック、修正交渉 チェック観点の属人化、見落とし
③締結 押印、電子署名、印鑑証明取得 押印権限の確認漏れ、原本管理
④保存 ファイリング、データベース登録 保管期間のバラつき、検索性の低さ
⑤印紙税 課税判定、印紙貼付、消印 貼り忘れ、過怠税のリスク

この記事では、各フェーズのポイントを順番に解説していきます。

👉 この章のポイント:契約実務の「全体マップ」を頭に入れることで、個別の作業が全体のどこに位置するかを意識しながら業務を進められるようになります。

2. 契約書の作成|雛形活用と条項設計

2-1. 雛形管理の基本

契約書作成の出発点は「適切な雛形の選定」です。

【雛形管理のポイント】

  • 契約類型ごとに標準雛形を整備する(NDA、業務委託、売買等)
  • 法改正(フリーランス保護法、下請法等)を反映した定期更新
  • 「自社有利版」「中立版」「相手方雛形対応版」の3段階で用意
  • 雛形のバージョン管理・変更履歴の記録

💡 実務Tips:雛形は「年1回の棚卸し」を習慣化しましょう。法改正情報をキャッチアップし、古い条項が残っていないか確認することが重要です。

2-2. 必ず入れるべき基本条項

契約類型を問わず、以下の条項は必須です。

条項 内容 注意点
契約期間 始期・終期・自動更新の有無 自動更新条項の解約予告期間に注意
解除条項 解除事由、催告の要否、即時解除 反社条項による即時解除を明記
損害賠償 賠償範囲、上限額、免責事由 故意・重過失の場合の上限撤廃
秘密保持 秘密情報の定義、開示範囲、期間 契約終了後の存続期間を明記
準拠法・管轄 日本法準拠、専属的合意管轄 国際取引では仲裁条項も検討

2-3. 2025年時点で注意すべき法改正対応

以下の法改正は、契約書作成に直接影響します。

  • フリーランス保護法(2024年11月施行):業務委託契約での書面交付義務、報酬支払期日の明記
  • 改正下請法(2026年1月施行):支払期日の短縮、手形払いの廃止など
  • 個人情報保護法(2025年改正予定):委託先への監督義務の強化

👉 この章のポイント:ここまでを押さえれば、「どの雛形を使うか」「どこを変えるか」を、属人的な勘に頼らず説明できるようになります。

3. 契約書の審査|リスクチェックの勘所

3-1. 審査の基本フロー

契約書審査は、以下のステップで進めます。

  1. 形式チェック:当事者表示、日付、署名欄の確認
  2. 取引内容の確認:事業部門へのヒアリング(何を・いくらで・いつまで)
  3. リスク条項の特定:責任限定、解除、知的財産権、秘密保持など
  4. 修正案の作成:自社にとって不利な条項の修正提案
  5. 交渉・合意:相手方との条項調整
  6. 最終確認:修正漏れ、整合性のダブルチェック

3-2. 必ずチェックすべき「危険条項」

以下の条項は、特に注意深く審査する必要があります。

危険度 条項 リスク内容
無制限の損害賠償 上限額がない場合、予測不能な損害リスク
一方的な解除権 相手方のみに無条件解除権がある場合
知的財産権の帰属 成果物の権利が全て相手方に移転する条項
自動更新条項 解約予告期間が短い/長すぎる場合
反社条項の不備 表明保証・即時解除の両方が必要

⚠️ やってはいけない例:「相手方の雛形だから」という理由で、リスク条項をチェックせずにそのまま締結すること。自社雛形でなくても、不利な条項は必ず修正交渉を行いましょう。

3-3. AI活用による審査効率化

契約書審査は、生成AIの活用効果が高い領域です。

【AIに任せられる作業】

  • 一次スクリーニング(重要条項の抜け漏れチェック)
  • リスク条項のピックアップ
  • 類似契約との比較分析

【人間が判断すべき作業】

  • ビジネス判断を伴う条項の取捨選択
  • 最終的なリスク受容の意思決定
  • 相手方との交渉戦略

👉 この章のポイント:ここまでを押さえれば、「どの条項を重点的に見るべきか」「AIと人間の役割分担」を、チーム内で共有できるようになります。

4. 契約書の締結|押印・電子契約・印鑑証明

4-1. 押印の種類と効力

契約書への押印には、以下の種類があります。

押印の種類 用途 法的効力
実印+印鑑証明 不動産取引、重要契約 本人の意思の推定力が最も高い
会社実印(代表者印) 会社間の重要契約 法人の意思表示として有効
認印・角印 日常的な契約書 法的効力は実印と同等(証明力は劣る)

4-2. 印鑑証明書が必要な契約

以下の契約類型では、印鑑証明書の添付が求められることが多いです。

  • 不動産売買契約・賃貸借契約
  • 金銭消費貸借契約(融資契約)
  • 連帯保証契約
  • M&A関連契約(株式譲渡契約等)
  • 重要な業務提携契約

4-3. 電子契約の活用

電子契約は、以下のメリットがあります。

  • 印紙税不要:電子契約には印紙税がかかりません
  • 締結スピード:郵送の往復が不要になり、数日→数時間に短縮
  • 保管コスト削減:物理的な保管スペースが不要

【電子契約が使えないケース】

  • 定期借地契約(借地借家法で書面が要求)
  • 相手方が電子契約に対応していない場合
  • 社内規程で紙の原本が必要とされている場合

👉 この章のポイント:ここまでを押さえれば、「どの印で押すか」「電子契約に切り替えるべきか」を、取引内容に応じて判断できるようになります。

5. 契約書の保存|保管期間の早見表

5-1. 保管期間の基本ルール

契約書の保管期間は、以下の法律で定められています。

根拠法 保管期間 対象文書
会社法 10年 重要な契約書、取締役会議事録等
法人税法 7年 取引に関する契約書、領収書等
民法(時効) 5年or10年 債権の時効期間に応じた保管
電帳法 7年 電子取引データの保存義務

5-2. 契約類型別・保管期間早見表

契約類型 推奨保管期間 根拠・理由
売買契約 10年 瑕疵担保・債務不履行の時効
業務委託契約 10年 成果物の瑕疵責任、損害賠償請求権
NDA(秘密保持契約) 契約終了後+10年 秘密保持義務の存続期間+時効
雇用契約 退職後5年 労働基準法の書類保存義務
不動産関連契約 永久 権利関係の証明として長期保存

👉 この章のポイント:ここまでを押さえれば、「この契約は何年保管すればいいですか?」という社内の問い合わせに、根拠を示して即答できるようになります。

6. 印紙税の実務|課税文書の判定と対処法

6-1. 印紙税の基本

印紙税は、契約書などの「課税文書」を作成した場合に課される税金です。

【課税文書の例】

  • 第1号文書:不動産売買契約書
  • 第2号文書:請負契約書
  • 第7号文書:継続的取引の基本契約書

【非課税文書の例】

  • 委任契約書(準委任を含む)
  • NDA(秘密保持契約)
  • 電子契約(紙の文書ではないため)

6-2. 印紙税額の早見表

契約金額 第1号文書 第2号文書 第7号文書
1万円未満 非課税 非課税
100万円以下 200円 200円
500万円以下 1,000円 1,000円
1,000万円以下 5,000円 5,000円
金額記載なし 200円 200円 4,000円

※第7号文書(継続的取引の基本契約書)は金額にかかわらず一律4,000円

6-3. 印紙を貼り忘れた場合の対処法

印紙の貼り忘れが発覚した場合、以下のペナルティがあります。

  • 過怠税:本来の印紙税額の3倍(自主申告の場合は1.1倍)
  • 消印漏れ:印紙税額と同額の過怠税

💡 実務Tips:貼り忘れに気づいたら、税務署に自主申告することで過怠税を1.1倍に軽減できます。発覚前の自主申告がポイントです。

👉 この章のポイント:ここまでを押さえれば、「この契約書に印紙は必要ですか?」「いくら貼ればいいですか?」という質問に、根拠を示して回答できるようになります。

7. 契約類型別ガイド

主要な契約類型ごとの注意点を整理します。各契約類型の詳細は、個別記事で条項ごとのNG例・OK例を含めて解説しています。

7-1. NDA(秘密保持契約)

  • 秘密情報の定義を明確にする(「一切の情報」は広すぎる)
  • 開示範囲(役員・従業員・委託先)を限定する
  • 秘密保持期間を契約終了後も存続させる
  • 残存条項として損害賠償・管轄を明記

7-2. 業務委託契約

  • 請負か準委任かを明確にする(成果物の完成義務の有無)
  • フリーランス保護法対応:書面交付義務、報酬支払期日
  • 下請法対応:支払期日60日以内、不当な減額禁止
  • 知的財産権の帰属を明記(発生時帰属 or 譲渡)

7-3. 売買契約・取引基本契約

  • 個別契約との優先関係を明記
  • 検収条件・瑕疵担保(契約不適合責任)の期間
  • 所有権移転時期(引渡時 or 代金支払時)
  • 印紙税:第7号文書(4,000円)に該当する可能性

👉 この章のポイント:ここまでを押さえれば、主要な契約類型ごとに「最低限チェックすべき観点」を頭に入れた状態で審査に臨めるようになります。

8. まとめ:契約実務チェックリスト

契約実務の各フェーズで確認すべき項目をチェックリスト形式でまとめました。

【作成フェーズ】

  • ☐ 適切な雛形を選定している(法改正対応済みか確認)
  • ☐ 基本条項(契約期間、解除、損害賠償、秘密保持、準拠法)が揃っている
  • ☐ 取引内容に応じた特約条項を追加している
  • ☐ 反社条項が含まれている

【審査フェーズ】

  • ☐ 危険条項(無制限損害賠償、一方的解除権等)をチェックした
  • ☐ 事業部門にヒアリングし、取引実態を把握した
  • ☐ 修正案を作成し、交渉の優先順位を決めた
  • ☐ 最終版で修正漏れがないか確認した

【締結フェーズ】

  • ☐ 押印権限者を確認している
  • ☐ 印鑑証明書の要否を確認している
  • ☐ 電子契約の場合、相手方の対応可否を確認している
  • ☐ 原本の取り交わし方法を決めている

【保存フェーズ】

  • ☐ 契約類型に応じた保管期間を設定している
  • ☐ 契約書データベースに登録している
  • ☐ 更新期限・解約期限のアラート設定がある

【印紙税フェーズ】

  • ☐ 課税文書に該当するか判定した
  • ☐ 適切な金額の印紙を貼付した
  • ☐ 消印を押している
  • ☐ 電子契約で印紙税を節約できないか検討した

自社の契約実務を1分でチェック

  • ☐ 契約類型ごとの標準雛形が整備され、法改正に対応している
  • ☐ 契約審査のチェックリスト・審査基準が言語化されている
  • ☐ 契約書の保管期間・印紙税の判定基準が社内で共有されている

上記のうち、1つでも「自信がない」と感じる項目があれば、本記事で紹介した各フェーズのポイントやチェックリストを参考に、自社の契約実務体制を整えていくことをおすすめします。

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