AI時代の法務部──これからの役割と、新任法務が最初にやるべきこと
導入:AIは法務の敵か、味方か?
最近、Business Insider Japanに掲載された記事で、ITサービス大手のCognizant CEOであるラヴィ・クマール氏が興味深い発言をしました。「AIの発展はむしろ新卒採用を増やす方向に働く」──AIが”エントリーレベル職”を奪うという懸念がある一方で、AIと共に働くための土台づくりこそが企業に求められているという示唆に富んだ内容でした。
この話を受けて、法務の現場で働く私たちは何を考えるべきでしょうか?これからの法務部の役割や、配属直後の若手法務が何から取り組むべきかを、実体験も交えながら考えてみます。
法務部はこれからどう変わるのか?
1. 「契約書を読む人」から「仕組みを整える人」へ
AIにより、契約書レビューや定型リスク抽出の自動化は確実に進みます。それに伴い、法務が担うべき役割はより「設計」や「戦略」に近づいていきます。
従来の法務
- 契約書の条文チェック
- 個別案件のリスク判定
- 定型的な法的問題への対応
これからの法務
- 契約プロセス全体の構築・改善
- リスクの予見・分担をビジネス目線で調整
- 経営判断の土台となる「ルール」と「仕組み」を整備
2. 「調整力」と「翻訳力」こそが価値になる
法務部員の真の価値は、法律知識の暗記量ではありません。ビジネスの言葉と法の言葉をつなぎ、経営判断につなげる翻訳力こそ、AIでは代替できない核心的スキルです。
- 「契約上のリスクが高い」→「売上への影響は月額○○万円程度」
- 「法的には問題ない」→「ただし評判リスクを考慮すると…」
- 「この条項は削除推奨」→「ただし交渉決裂なら代替案として…」
新任法務がまず取り組むべき3つのこと
1. AIを活用できる業務領域を探る
AIツールが使える環境であれば、リスクを最小化した活用方法を積極的に模索してみましょう。
- 契約書ドラフト作成の補助
- 法改正情報の整理・要約
- 社内研修資料の下書き作成
重要なポイント:「どんな作業なら任せられるか」「どこは人間が必須か」の線引きを明確にすることです。
2. 「この会社の”文脈”」を知る
法律の教科書には載っていない、”自社の空気”を読む力が実務法務では武器になります。
- 契約の種類(売買/ライセンス/業務委託など)
- 過去のトラブル事例
- 会社が重視する価値観(利益?信用?スピード?)
- 意思決定スタイル(トップダウン?現場主導?)
実践的ヒント:過去契約書を読む/先輩の失敗談を聞く/営業会議に同行する
3. 「契約を見る」より「全体を見る」
実際の仕事は、契約書が出来上がるまでの”道のり”を整えることです。
- 起案・承認・責任の所在
- 法務の関与タイミング
- トラブル時の対応フロー
- 契約管理システムとの連携
- 更新・終了手続きの整備
AI活用の具体例:法務でこんな使い方をしています
📋契約書レビュー支援
- 入力: 契約書ドラフト(個人情報・機密情報を除く)
- 出力: 一般的なリスクポイントの指摘
- 人間の仕事: 自社固有のリスク判定・交渉戦略の決定
📝社内規程の下書き作成
- 入力:「テレワーク規程を作りたい。従業員50名、IT企業」
- 出力: 一般的な規程のたたき台
- 人間の仕事: 自社の実情に合わせたカスタマイズ・法的精査
※なお、社内のパワーバランスや経営陣の意向など、”言い回し以上に空気を読む”必要がある場面は、当然ながらAIには対応できません。
📚法改正情報の整理
- 入力: 官報や法務省の発表文書
- 出力: ポイントを整理した要約
- 人間の仕事: 自社への影響度判定・対応策の検討
おわりに:AI時代の法務部は「翻訳者」から「設計者」へ
AIがエントリーレベルの業務を代替する流れは、もはや止められません。しかしそれは決してネガティブな変化ではありません。法務が「より重要な判断と設計」に集中できる時代が来るということでもあります。
若手法務の皆さんには、ぜひ以下のマインドセットを持っていただきたいと思います:
- 「契約を見る」よりも「全体を見て、仕組みを整える」
- 「法律を知っている」よりも「ビジネスと法律をつなげる」
- 「AIを恐れる」よりも「AIを使いこなす」
AIは”あなたの仕事”を奪うのではなく、”あなたの価値”を際立たせる補助線になるはずです。この変化の波を、ぜひ味方につけて活用していきましょう。

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