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📋 法務実務スタンダード20選 第9話

関連当事者取引はどこまで確認すべきか|実務標準チェック

「社長の親族の会社からの仕入れ、これって何か手続要りますか?」 法務担当者なら一度は受ける質問だ。返答に詰まるなら、その時点で社内の関連当事者取引コントロールには穴がある。

関連当事者取引は、放置すれば会計開示の注記漏れ・税務上の寄付金または役員給与認定・会社法上の利益相反取引違反・上場審査での重大指摘に直結する。一方で過剰に止めにいけば、必要な取引まで滞り、現場との関係が悪化する。「どこまで確認するか」の標準ラインを内部に持っているかどうかが、実務の質を決める。

本記事では、会社法356条・365条・369条・423条・428条、会社計算規則112条、企業会計基準第11号・適用指針第13号、コーポレートガバナンス・コード原則1-7、東証企業行動規範を踏まえ、非上場会社からプライム上場会社まで使える実務標準の確認範囲・社内申告フロー・承認プロセスを提示する。

▶ 法務実務スタンダード20選|コーポレート編

結論|関連当事者取引の確認は4層で組む

PRACTICAL CONCLUSION

関連当事者取引は「禁止」ではなく「4層の確認体制で通す」のが実務標準。

関連当事者との取引は、適切な手続を経れば実施できる。実務では次の4層で確認体制を組む。
第1層(識別):関連当事者リストを年1回更新し、取引前申告フローで対象取引を識別する。
第2層(機関承認):関連当事者取引のうち、会社法356条1項各号の競業取引・直接取引・間接取引に該当するものについては、取締役会承認(取締役会非設置会社では株主総会承認)を取得し、当該取締役は議決から除外する(特別利害関係人)。事後報告(365条2項)も忘れない。
第3層(会計開示):会社計算規則112条・財務諸表等規則8条の10に基づき、計算書類または有価証券報告書で「重要な取引」を注記する。
第4層(税務):取引価格の独立第三者間取引性(アームズ・レングス)が確保されないと、法人税法上の寄付金・役員給与認定リスクが発生する。

▼ 概念整理:関連当事者取引と会社法上の利益相反取引は重なるが一致しない

関連当事者取引 =企業会計基準第11号・会社計算規則112条等で定義される、開示・モニタリング対象の広い概念
会社法上の利益相反取引 =会社法356条1項各号(競業取引・直接取引・間接取引)の機関承認対象。関連当事者取引の一部に重なる

関連当事者取引すべてが会社法356条の承認対象になるわけではない。たとえば「主要株主の経営する会社との取引」は関連当事者取引だが、当社の取締役自身が当事者でなければ会社法356条1項2号・3号の直接適用はない(主要株主が同時に取締役・近親者経由で実質的当事者となれば適用余地あり)。両者の交点と差分を意識して運用設計する。

非上場会社でも会社法上の利益相反取引規制は同じだ。「うちは上場していないから大丈夫」は通用しない。むしろ中小オーナー会社こそ、社長親族の会社・社長個人との取引が多発するため、規模が小さいほど発生頻度が高い論点である。

実務標準(Practical Standard)

以下が「誰が読んでも同じ判断になる」標準対応である。社内ルールを設計する場合、この標準をベースに、自社の機関設計(取締役会設置/非設置)・上場区分・連結範囲に合わせて調整する。

▶ STANDARD 01

関連当事者リストを年1回・役員交代時に更新する

関連当事者の範囲は、企業会計基準第11号・財務諸表等規則8条17項・会社計算規則112条4項にほぼ共通して定められている。実務では、以下のリストを年1回および役員選任のたびに更新する。

  • 親会社・子会社・兄弟会社(同一の親会社をもつ会社)
  • 関連会社(議決権20%以上または15%以上で重要な影響)およびその子会社
  • その他の関係会社(自社が他社の関連会社の場合のその他社)およびその親会社・子会社
  • 主要株主(議決権10%以上保有)およびその近親者(二親等内の親族)
  • 役員(取締役・会計参与・監査役・執行役)およびその近親者(二親等内の親族)
  • 上記の役員・主要株主およびその近親者が議決権の過半数を保有する会社等およびその子会社
  • 従業員企業年金(重要な取引がある場合)

※二親等内の親族=配偶者、父母、子、孫、祖父母、兄弟姉妹、配偶者の父母・兄弟姉妹・祖父母、兄弟姉妹・子・孫の配偶者

▶ STANDARD 02

役員・主要株主から年1回の自己申告を取得する

役員および主要株主に対し、年1回および新任時に「関連当事者申告書」(自己および近親者が経営する会社等のリスト)を提出させる。会社が把握できない近親者の経営会社・出資会社は、本人申告でしか拾えない。これは内部統制の中核ピースである。

▶ STANDARD 03

取引申請時の関連当事者該当性チェックを必須化する

稟議・契約申請のフォームに「取引相手は関連当事者リストに該当するか」のチェック欄を設ける。営業部門は判断できないため、法務・経理が一次照合する設計が標準だ。該当した場合、追加の利益相反取引承認フローに分岐させる。

▶ STANDARD 04

会社法上の利益相反取引に該当する場合は取締役会承認+議決権除外+事後報告

関連当事者取引のうち、会社法356条1項各号(競業取引・直接取引・間接取引)に該当するものについて、以下を必ず実施する。

  • 取締役会設置会社:取締役会で重要事実を開示し、事前承認を取得(会社法365条1項・356条1項)
  • 取締役会非設置会社:株主総会で重要事実を開示し、普通決議で承認を取得(会社法356条1項・309条1項)
  • 当該取締役は特別利害関係人として取締役会決議に参加できない(会社法369条2項)
  • 取引後遅滞なく重要な事実を取締役会に報告(会社法365条2項)──実務でもっとも忘れられやすい項目
  • 議事録に「取引の内容・条件・必要性・条件の妥当性検討」「特別利害関係人の議決不参加」を記載する

※関連当事者取引であっても会社法356条1項各号に該当しない場合(例:当社取締役が当事者ではない主要株主の支配会社との取引)は、機関承認は不要。ただし第3層(会計開示)・第4層(税務)の論点は残る。

▶ STANDARD 05

計算書類・有価証券報告書の注記情報を継続収集する

会社計算規則112条1項により、関連当事者との重要な取引は個別注記表に記載する。経理部門と連携し、年度末に注記情報を集約する仕組みを構築する。重要性の判断基準(次節参照)を経理部門と共通言語にすることが運用上の鍵となる。

▶ STANDARD 06

取引価格の独立第三者間取引性を確保し、税務リスクを潰す

取引価格が市場実勢から乖離すると、法人税法上、寄付金(損金不算入)または役員給与(損金不算入+源泉所得税徴収)として認定されるリスクがある。価格の妥当性検証資料(複数見積り・実勢調査・近隣相場・第三者評価)を取得し、稟議書面に明記して保管する。価格決定方針は、社内ルールで「アームズ・レングス基準」の文言を入れて運用する。

なぜこの標準になるのか|4層の制度趣旨

関連当事者取引の規制は、単一の法令から来ているわけではない。会社法(利益相反防止)・会計基準(情報開示)・税法(適正な所得計算)・上場規程(少数株主保護)の4層が、それぞれ違う目的で取引にコミットしている。標準対応がこの4層構造になるのは、規制構造を反映しているためだ。

主な根拠法令 規制の目的 求められる対応
第1層
機関承認
会社法356条1項
会社法365条1項・2項
会社法369条2項
取締役と会社の利益相反防止/善管注意義務(330条)・忠実義務(355条)の担保 取締役会または株主総会の事前承認、特別利害関係人の議決権制限、事後報告
第2層
会計開示
会社計算規則112条
財務諸表等規則8条の10
企業会計基準第11号・適用指針第13号
財務諸表利用者が会社の財政状態・経営成績を適切に理解できる情報提供 個別注記表・財務諸表注記での開示、独立第三者間取引性の説明
第3層
税務
法人税法22条・34条・37条
所得税法28条・183条
適正な所得計算と恣意的な所得移転の防止 独立第三者間取引価格(アームズ・レングス)の確保、価格決定資料の保管
第4層
上場規制
東証有価証券上場規程(企業行動規範)
CGコード原則1-7(プライム・スタンダード市場全原則/グロース市場基本原則)
少数株主の利益保護、構造的利益相反の規律、市場の信頼確保 取引手続の事前枠組み開示、支配株主取引における独立第三者意見の入手、特別委員会の設置

この4層は独立して作動する。会社法上は問題なくても会計開示が必要、機関承認は済んでいても税務で寄付金認定される、上場会社で東証企業行動規範上の意見入手が漏れる――こうした「層またぎの抜け」が事故の典型パターンである。

EXPERT INSIGHT

立証責任の転換ロジック──任務懈怠責任は「推定」で構造が変わる

通常の任務懈怠責任(会社法423条1項):
会社側が「取締役に過失あり」を立証する必要がある。

利益相反取引による損害(会社法423条3項):
→取締役の任務懈怠が推定される。取締役側が「自分に過失なし」を立証しなければ責任を免れない。

自己のために直接取引(会社法428条1項):
→無過失でも責任を免れない。責任限定契約も及ばない。

つまり、利益相反取引においては立証責任の構造が会社側→取締役側に逆転する。これが、機関承認+議事録+取引条件妥当性検証資料の保管がそのまま「取締役自身を守る」運用になる理由である。

EXPERT INSIGHT

「みなし決議(会社法370条)」は使えるか

急ぎの利益相反取引で取締役会を開催できない場合、書面決議(みなし決議)による承認も理論上は有効である。会社法370条は、定款に定めがある場合に限り、取締役全員の書面または電磁的記録による同意があったときは取締役会決議があったものとみなす旨を定める。

ただし、利益相反取引における留意点として、特別利害関係人となる取締役は提案にも同意にも参加できない(会社法369条2項の趣旨)。みなし決議でも特別利害関係人を除いた取締役全員の同意書を回収する実務フローを構築しておく必要がある。

監査役設置会社の場合、監査役全員が異議を述べないことも要件となる(会社法370条括弧書き)。みなし決議の頻用は監査役からの異議を招きやすく、対外説明力も弱くなる。原則は実会議、例外的にみなし決議という運用ラインが標準だ。

根拠|関連法令とガイドライン

会社法上の利益相反取引規制

会社法356条1項は、取締役が以下の取引を行う場合、株主総会で重要事実を開示し承認を受けることを義務付けている。取締役会設置会社では、365条1項により取締役会承認に置き換わる。

📖 会社法356条1項(要旨)
  • 1号(競業取引):取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき
  • 2号(直接取引):取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき
  • 3号(間接取引):株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき

※ いずれも「取締役」が起点となる規制であり、関連当事者取引のうち取締役が当事者・代理人・経営する会社等を介して関わるものに適用される。

承認を欠いた直接取引は、会社・取締役・代理代表した相手方に対して無効主張可能(最判昭43.12.25・相対的無効説)。間接取引・第三者が介在する直接取引については、第三者が取締役会承認の不存在につき悪意の場合に限り無効主張できる。

事後報告義務(会社法365条2項)

会社法365条2項は、利益相反取引を行った取締役に対し、取引後遅滞なく取引についての重要な事実を取締役会に報告する義務を課している。事前承認はあるのに事後報告が議事録に残っていないパターンは実務で非常に多い。事前承認・事後報告の双方が議事録化されていないと、監査役監査・会計監査人監査・上場審査・M&Aデューデリで指摘される。

任務懈怠責任の推定(会社法423条3項)

会社法423条3項により、356条1項2号・3号の取引で会社に損害が生じた場合、以下の取締役は任務懈怠が推定される。

  • 当該利益相反取引を行った取締役
  • 会社が当該取引をすることを決定した取締役
  • 取締役会の承認決議に賛成した取締役

この「推定」は重要だ。通常の任務懈怠責任(423条1項)は会社側が立証責任を負うが、利益相反取引では取締役側が「自分は任務を怠っていない」と立証しなければならない。承認手続を経ていてもこの推定は働く。

自己のために直接取引した取締役の無過失責任(会社法428条1項)

自己のために直接取引(356条1項2号の前段)をした取締役は、たとえ取締役会承認を取得していても、会社に損害が生じた場合に過失なきことを証明しても責任を免れない(無過失責任)。総株主の同意による責任免除(424条)以外、株主総会・取締役会決議による一部免除も責任限定契約も適用されない(428条2項)。

会社計算規則112条|計算書類の関連当事者注記

会社計算規則112条1項は、関連当事者との重要な取引について個別注記表で以下の事項を記載することを求めている。

  • 関連当事者の名称・氏名、議決権所有割合、関係
  • 取引の内容、種類別の取引金額、取引条件・条件の決定方針
  • 取引により発生した債権・債務の期末残高
  • 取引条件の変更があった場合の内容と影響

同条には会計監査人設置会社以外についての記載項目の調整規定も置かれている。実務では条文(会社計算規則112条1項各号・2項)を直接確認のうえ、自社の機関設計に照らした記載項目を確定する運用が安全である。

注記不要となる取引(会社計算規則112条2項)

会社計算規則112条2項は以下の取引について同条1項の注記を要しないと規定する。これは「会計開示の省略」であって会社法356条の機関承認まで不要にする規定ではない。

  • 一般競争入札による取引、預金利息・配当金の受取りその他取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
  • 役員に対する報酬等の給付
  • 市場価格その他公正な価格を勘案して一般の取引条件と同様のものを決定していることが明白な取引

重要性の判断基準|会計上の「1%基準」

金融商品取引法上の有価証券報告書を提出する会社(上場会社等)は、財務諸表等規則8条の10により関連当事者注記が必要となる。重要性の判断基準は企業会計基準適用指針第13号で示されており、実務では以下が目安となる。

関連当事者の区分 取引区分 重要性判断の目安
法人(親会社・子会社・関連会社・主要株主等) 損益計算書項目(売上高・仕入高等) 連結売上高の1%超
貸借対照表項目(資産・負債等) 連結総資産の1%超
個人(役員・主要株主・近親者) 各損益・残高項目 原則として1,000万円超
※ あくまで原則的目安であり、特別損益項目には別途の数値基準があるほか、金額が小さくても質的に重要な取引(事業承継時の取引、IPO直前の取引等)は開示対象となり得る。最終判断は監査法人と協議のうえ確定する。

「1%基準」というキーワードを社内に持っておくと、経理部門・監査法人との意思疎通が一段スムーズになる。実務では、稟議申請時点で「1%基準を超える可能性があるか」を法務・経理が一次評価し、超える可能性があれば取引開始前に開示資料の準備を始める運用が標準だ。

CGコード原則1-7(東証上場会社)

東証コーポレートガバナンス・コード原則1-7は、上場会社が役員や主要株主等との取引(関連当事者間の取引)を行う場合、取締役会があらかじめ取引の重要性・性質に応じた適切な手続を定め、その枠組みを開示するとともに、その手続を踏まえた監視(取引の承認を含む)を行うべきと定める。プライム市場・スタンダード市場の上場会社は全原則について、グロース市場の上場会社は基本原則について、コンプライ・オア・エクスプレインが求められる。

※ 注記 CGコードについては今後の改訂議論の中で原則1-7と原則4-3の整理が論点として示されている。本記事執筆時点では現行の原則1-7が適用されているため、本文では現行を前提として記載している。改訂内容が確定した時点で社内文書を更新する運用が安全である。

東証企業行動規範|支配株主との重要な取引等(東証上場会社のみ)

東証有価証券上場規程上の企業行動規範は、上場会社が支配株主との間で重要な取引等を行う場合に、当該支配株主からの独立性を有する者による意見の入手等を「遵守すべき事項」として定めている。違反した場合は公表措置等の実効性確保手段の対象となる。これは東証上場会社に固有の規律であり、非上場会社には直接適用されないが、IPO準備会社・グループ内取引が多い会社では事実上の参考基準として機能する。2025年7月22日施行の改正企業行動規範では、MBO・支配株主による完全子会社化等の規律が強化され、その他の関係会社等との取引における公正性担保措置・株式価値算定の充実開示が求められる範囲が拡大した。

よくある誤解

関連当事者取引はすべて会社法356条の承認対象になるか?
そうではない。関連当事者取引は会計基準・会社計算規則・財規上の広い概念であり、会社法356条1項各号は「取締役」を起点とする規制である。両者は重なる部分があるが一致しない。たとえば、当社の取締役が当事者・代理人・経営する会社等として関与する取引は会社法356条の対象だが、当社の取締役が関与しない主要株主の支配会社との取引は、関連当事者取引(会計開示対象)であっても会社法356条の機関承認は不要である。両者を分けて運用設計することが、過剰承認・承認漏れの双方を防ぐ。
関連当事者取引は禁止されているのでは?
禁止ではない。会社法356条・365条は「適切な手続を経て承認を取得すれば実施可能」という規制構造であり、取引そのものを禁じていない。実務では、合理的な事業上の必要性があり、独立第三者間取引と同等の条件で行われ、機関承認・開示・税務対応が適切に行われている取引は、原則として実施できる。重要なのは「禁止」ではなく「手続を踏むこと」である。
100%子会社との取引も利益相反取引になるか?
最高裁昭和45年8月20日判決は、取締役が会社の全株式を所有し、会社の営業が実質上その取締役の個人経営にすぎないときは取締役会承認を要しないとしている。実務上は、100%親子会社間取引について両社の利害が実質的に対立しないとして、取締役会承認手続は省略される運用が一般的だ。ただし、会社計算規則112条上の「重要な取引」に該当する場合は注記対象となる点は別問題として残る。
役員の家族の会社との取引は会社法上の利益相反取引にあたるか?
役員の親族が経営する会社との取引は、原則としては「取締役と会社」の取引ではないため、会社法356条1項の直接取引・間接取引に直接は該当しない。ただし、実質的に当該役員が当該家族会社の経営権を握っており、取引によって役員が間接的に利益を得る関係があれば、間接取引(356条1項3号)として捉えられる余地がある。一方、会計上の関連当事者には「役員およびその近親者が議決権の過半数を保有する会社等」として明確に含まれ、注記の対象となる(会社計算規則112条4項、企業会計基準第11号)。会社法上の機関承認の要否と、会計上の開示の要否は別軸で判断する。
無利息・無担保で取締役から会社が借入する場合も承認が必要?
最判昭和38年12月6日は、株式会社に対し取締役が無利息・無担保で金銭を貸し付ける行為は、取締役会承認を要する利益相反取引にはあたらないとしている。会社が一方的に利益を受けるだけで、両者の利害が実質的に対立しないためだ。会社が取締役から負担のない贈与を受ける場合(大判昭13.9.28)も同様である。ただし返済利息を伴う場合や担保提供を伴う場合は別途検討が必要だ。
非上場会社なら関連当事者取引はあまり気にしなくていい?
これは危険な誤解だ。会社法上の利益相反取引規制(356条・365条・369条・423条・428条)は、上場・非上場を問わず適用される。任務懈怠責任の推定(423条3項)も同様だ。さらに税法上の寄付金・役員給与認定リスクは規模を問わず発生する。むしろ非上場の中小オーナー会社では社長親族の会社との取引が多発する傾向にあり、後日の株主間紛争・相続・事業承継・M&Aデューデリジェンス時に問題化することが多い。
兼任代表取締役の会社間取引は、片方の会社で承認すればよい?
両方の会社で承認手続が必要となる。最判昭45.4.23は、両会社の代表取締役を兼ねる者が、一方の会社の債務について他方の会社を代表してする保証は、保証する側の会社にとって間接取引(会社法356条1項3号)にあたるとした。実務では、兼任代表取締役のいる両社それぞれで取締役会承認を取得する。当該取締役は両方の取締役会で特別利害関係人として議決から除外される。

例外・注意点

標準ルールには以下の例外・特殊論点がある。これらは判断を変える要素として、社内ルールに必ず織り込む。

論点 標準対応からの修正 根拠・留意点
100%親子会社間取引 取締役会承認手続は省略可(実務運用) 最判昭45.8.20。ただし会社計算規則112条の注記対象には該当する余地がある
株主全員の同意 取締役会承認なしでも取引有効 最判昭49.9.26。中小オーナー会社では現実的選択肢
無利息・無担保の貸付(会社が借手) 承認不要 最判昭38.12.6。会社が一方的に利益を得る場合に限る
負担のない贈与(会社が受贈者) 承認不要 大判昭13.9.28
一般競争入札・市場価格による取引 会計上の注記不要 会社計算規則112条2項。利益相反取引該当性は別途判断
みなし決議による承認(会社法370条) 定款の定めがあれば書面決議も可 特別利害関係人は提案・同意ともに不可。監査役の異議がないことも要件
監査等委員の事前承認 423条3項の任務懈怠推定が適用されない 会社法423条4項。監査等委員会設置会社のみ
支配株主との重要取引(東証上場会社) 独立第三者意見の入手が必要 東証企業行動規範。2025年7月改正で対象拡大・開示充実
有価証券報告書提出会社 連結財務諸表ベースで開示・連結子会社の取引も対象 財務諸表等規則8条の10、企業会計基準第11号第6項
⚠️ エスカレーションが必要な場面
  • 支配株主・主要株主との大型取引(資産譲渡・事業譲渡・第三者割当等)
  • 取引条件の独立第三者間取引性に客観的な裏付けが取れない取引
  • 取引相手の関連当事者該当性が役員自己申告で初めて発覚した過去取引
  • 監査法人から関連当事者取引としての注記を求められた未承認取引
  • 事業承継・M&A・IPO準備に向けて関連当事者取引を整理する必要が生じた局面
  • 税務調査で取引価格について寄付金・役員給与認定の指摘を受けた場合

これらは外部弁護士・会計士・税理士、必要に応じて特別委員会を活用する局面である。法務部内で抱え込まず、初期段階で外部に共有することが事故防止につながる。

実務対応フロー|申告から承認・開示・事後報告まで6ステップ

1

関連当事者リストの整備・年次更新

役員・主要株主・親会社・子会社・関連会社・近親者会社をリスト化。年1回および役員選任・株主構成変動の都度更新。役員からは「関連当事者申告書」を年次取得する。総務・経理と連携し、株主名簿・登記情報・人事情報を突合する。

2

取引申請時の関連当事者該当性スクリーニング

稟議・契約申請のフォームに「関連当事者該当性」のチェック欄を組み込む。営業部門による自己申告に加え、法務・経理が二次照合(取引相手の商号・所在地を関連当事者リストに照合)。該当が判明した時点で、会社法356条1項各号該当性を別途判定し、利益相反承認フローへ分岐させる。

3

取引条件・必要性・税務適正性の妥当性検討

独立第三者間取引と同等の条件であるかを、市場価格・他社見積り・実勢との比較で検証。事業上の必要性・代替取引先の有無を稟議書面に明記。条件に合理性が認められない場合は条件交渉・取引中止を検討する。価格妥当性検証資料は、機関承認時の参考資料および税務上の寄付金・役員給与認定への対抗資料として残す。

4

機関承認の取得(取締役会または株主総会)

取締役会設置会社は取締役会で重要事実を開示し承認決議。取締役会非設置会社は株主総会の普通決議。当該取締役は特別利害関係人として議決から除外(議事録に明記)。東証上場会社で支配株主取引の場合は、東証企業行動規範に基づく独立第三者意見書の取得を並行。

5

取引実行後の事後報告(会社法365条2項)

取引実行後、遅滞なく取引の重要な事実を取締役会に報告し、議事録に記載する。事後報告の典型項目は、実際の取引金額・履行状況・契約条件の変更有無・想定外事象の有無である。取締役会の年間スケジュールに「利益相反取引事後報告」を定例議題として組み込んでおくと、報告漏れを防ぎやすい。

6

記録保存と注記用情報の経理連携

承認議事録・取引契約書・条件妥当性検討資料・事後報告議事録を一元保管。重要な取引については期末に経理へ連携し、計算書類の個別注記表(会社計算規則112条)または有価証券報告書の関連当事者注記(財規8条の10)を作成。1%基準への該当性も経理と共同で判定する。取引条件変更があれば随時記録を更新する。

社内共有用ルール例|そのままコピペで運用

以下は社内規程・社内チャットへ貼り付けて使えるテンプレートだ。自社の機関設計・上場区分に応じて文言を調整する。

RULE TEMPLATE 01

関連当事者取引 取扱規程(簡易版)

第1条(目的)
本規程は、当社の役員・主要株主およびその近親者等(以下「関連当事者」)との取引について、利益相反の防止、適正な情報開示、税務上の適正な所得計算を行うため、必要な手続を定める。

第2条(関連当事者の範囲)
関連当事者の範囲は、企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」および会社計算規則112条4項に定める範囲とする。

第3条(自己申告)
役員および主要株主は、毎年4月および新任時に、自己および近親者が経営または出資する会社等に関する申告書を、法務部に提出する。

第4条(取引前申請)
取引申請者は、取引相手が関連当事者に該当する可能性がある場合、稟議申請時にその旨を明記し、法務部の事前確認を受ける。法務部は会社法356条1項各号該当性を判定する。

第5条(事前承認)
会社法356条1項各号に該当する取引は、取締役会の事前承認を取得する。当該取引に係る取締役は、取締役会の決議に参加しない(会社法369条2項)。

第6条(事後報告)
取引実行後、当該取締役は遅滞なく当該取引の重要な事実(実際の取引金額・履行状況・条件変更の有無等)を取締役会に報告し、議事録に記載するものとする(会社法365条2項)。

第7条(取引価格)
関連当事者との取引価格は、独立第三者間取引と同等の水準(アームズ・レングス)で決定するものとし、価格決定資料を保管する。市場実勢から乖離した価格設定は、税務上の寄付金または役員給与認定リスクを伴うため避ける。

第8条(記録・開示)
承認・実行された取引について、契約書・議事録・条件妥当性検討資料・事後報告記録を5年間保存し、計算書類の個別注記表に必要な事項を記載する。

RULE TEMPLATE 02

関連当事者該当性 セルフチェック(営業・購買向け)

取引申請時、以下のいずれかに該当する場合は、必ず法務部に事前相談してください。

☐ 取引相手は当社の親会社・子会社・関連会社か
☐ 取引相手は当社の役員(取締役・監査役等)が経営する会社か
☐ 取引相手は当社の役員の配偶者・親・子・兄弟姉妹(二親等内)が経営または出資する会社か
☐ 取引相手は当社の主要株主(議決権10%以上)またはその近親者か
☐ 取引相手は当社の役員・主要株主が議決権の過半数を保有する会社か
☐ 取引内容は当社が役員に対して保証・担保提供を行うものか
☐ 取引内容は当社が役員から無償または低廉に資産・サービスを取得するものか

いずれにも該当しない場合は通常の稟議フローで進行可能。1つでも該当する場合は法務部による事前判定を受けてください。

RULE TEMPLATE 03

取締役会議事録 記載例(事前承認)

議題:利益相反取引の承認の件(会社法第356条第1項第○号)

議長は、取締役○○氏より、当社と××株式会社との間における△△契約の締結について、当該取締役は××株式会社の代表取締役を兼任しており、本契約が会社法第356条第1項第2号に定める利益相反取引(直接取引)に該当する旨の説明があった。

取締役○○氏より、本取引の内容、取引金額、取引条件および取引の必要性について重要な事実の開示があり、取引条件は独立第三者間取引と同等の市場実勢を勘案して決定されている旨の説明があった(価格決定資料:別紙○)。

議長は、当該取締役○○氏は会社法第369条第2項に定める特別利害関係人にあたるため、本決議に参加できない旨を確認し、退席を求めた。

議長は、その他の取締役全員に対し本取引の承認について諮ったところ、出席取締役(特別利害関係人を除く)の全員一致により本取引を承認することが決議された。

RULE TEMPLATE 04

取締役会議事録 記載例(事後報告:会社法365条2項)

議題:利益相反取引の事後報告の件

取締役○○氏より、第○回取締役会において承認を受けた当社と××株式会社との△△契約に基づく取引について、以下のとおり実行が完了した旨の報告があった(会社法第365条第2項)。

 ・実際の取引金額: ◯◯円
 ・履行時期: ○年○月○日
 ・取引条件の変更の有無: なし(または変更内容を記載)
 ・想定外事象の有無: なし

各取締役および各監査役より特段の質疑なく、本報告を了承した。

この標準に従わないリスク

⚠️ 関連当事者取引のコントロールが破綻すると何が起きるか

関連当事者取引の管理は「やっておけばよい」ではなく、不備があった場合に取締役個人および会社にダイレクトに損害賠償・税務追徴・開示違反が降ってくる領域だ。以下は実務でよく見られる破綻パターンと、その帰結である。

破綻パターン 直接の法的・税務的帰結 実務での連鎖影響
取締役会承認なく利益相反取引を実行 会社法423条3項により当該取締役の任務懈怠が推定/会社が取引無効を主張可能 株主代表訴訟リスク/会社法339条による取締役解任の正当事由/取締役個人の損害賠償責任
事後報告(会社法365条2項)の議事録不存在 監査役監査・会計監査人監査での指摘/善管注意義務違反の評価 監査意見への影響/上場審査・M&Aデューデリでの重大指摘/是正対応コスト
自己のために直接取引を実行(承認の有無問わず) 会社法428条1項により無過失でも責任を免れない/責任限定契約の効力も及ばない 取締役個人の財産で会社の損害を賠償する事態/総株主の同意がなければ免除不可
取引価格の独立第三者間取引性が確保されない 法人税法上の寄付金(損金不算入)または役員給与(損金不算入+源泉所得税徴収)として認定 追徴税額/延滞税・加算税/税務署との対応コスト/同様の取引の遡及指摘
会社計算規則112条の注記漏れ 計算書類の重要な不備/監査意見への影響 株主総会での計算書類承認に支障/決算スケジュール遅延/監査法人との関係悪化
有価証券報告書の関連当事者注記漏れ(上場会社) 金融商品取引法上の重要事項に係る虚偽記載リスク/訂正報告 課徴金リスク/レピュテーション損害/株主からの損害賠償請求
支配株主取引で独立第三者意見を取らない(東証上場会社) 東証企業行動規範違反/公表措置等の対象 市場の信頼低下/投資家との対話困難化
IPO準備中に未整理の関連当事者取引が発覚 上場審査での重大指摘/審査長期化または不適合 IPOスケジュール白紙/主幹事証券・監査法人との関係悪化/管理体制の根本的見直し
事業承継・M&A時に過去の関連当事者取引が発覚 取引価格への影響/表明保証違反のリスク クロージング遅延/賠償条項発動/買収条件の見直し

特に注意すべきは、会社法423条3項の任務懈怠推定と428条1項の無過失責任、加えて税務上の寄付金・役員給与認定だ。これらは取締役個人の財布から賠償・追徴を求められうる規定であり、取締役会承認を経ていても完全に免れるわけではない。法務部門が承認手続を代行するだけでは足りず、取締役個人にもこのリスクの所在を説明し、取引条件の妥当性検証と記録を徹底することが、結果として取締役個人を守ることにつながる。

まとめ

関連当事者取引は、「禁止すべきもの」でも「気にしなくていいもの」でもない。会社法・会計基準・税法・上場規程の4層が、それぞれ違う目的で取引にコミットしている領域である。法務実務としては、4層を整理した上で、取引前識別・機関承認・事後報告・会計開示・税務適正性の各層に対応する仕組みを社内に組み込むことが標準対応となる。

非上場の中小オーナー会社こそ、社長親族の会社・社長個人との取引が多発し、後日の株主間紛争・相続・事業承継・M&Aデューデリジェンス時に問題化することが多い。「うちは上場していないから」は理由にならない。会社法356条・365条・369条・423条・428条は、企業規模・上場区分にかかわらず適用される。税務上の寄付金・役員給与認定リスクも同様だ。

関連当事者リストを年1回更新し、役員から自己申告を取得し、取引申請時にスクリーニングをかけ、利益相反取引については取締役会承認+特別利害関係人除外+事後報告を徹底し、価格妥当性を独立第三者間取引水準で確保し、注記情報を経理に連携する――この6ステップを継続運用できる仕組みを持つ会社が、結果として「事故が起きない会社」になる。

📋 本記事のまとめ

  • 関連当事者取引は禁止ではない。「4層(機関承認・会計開示・税務・上場規制)の確認体制で通す」のが実務標準
  • 関連当事者取引と会社法上の利益相反取引は重なるが一致しない。広い概念の関連当事者取引のうち、会社法356条1項各号に該当するものが機関承認対象
  • 第1層(会社法356条・365条・369条):取締役会または株主総会の事前承認+特別利害関係人の議決権除外+事後報告(365条2項)
  • 第2層(会社計算規則112条・財規8条の10):個別注記表または有価証券報告書での重要な取引の開示。1%基準を経理と共通言語にする
  • 第3層(法人税法22条・34条・37条):独立第三者間取引価格を確保し、寄付金・役員給与認定を防ぐ
  • 第4層(東証企業行動規範・CGコード原則1-7):東証上場会社における手続枠組みの開示と独立第三者意見の入手
  • 非上場会社でも会社法上の利益相反取引規制と税務リスクは同じ。中小オーナー会社こそ発生頻度が高い
  • 取締役会承認を経ていても、会社法423条3項の任務懈怠推定・428条1項の無過失責任が働く局面がある
  • 関連当事者リスト年次更新/役員自己申告/取引前スクリーニング/機関承認+特別利害関係人除外/事後報告の議事録化/注記情報連携――この6ステップで運用設計する

▼ 実務運用に落とし込む

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関連当事者取引のコントロールは、リスト管理・年次申告・取引申請のスクリーニング・機関承認・事後報告・価格妥当性検証・注記情報の集約まで、継続運用が必要な業務です。
LegalOS Inboxを利用すれば、関連当事者リスト・役員からの自己申告書・取引申請・承認議事録・事後報告・対応履歴を案件単位で一元管理でき、年度末の注記情報集約まで断絶なく運用できます。

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