📋 法務実務スタンダード20選 第9話

関連当事者取引はどこまで確認すべきか|実務標準チェック

「社長の親族の会社からの仕入れ、これって何か手続要りますか?」 法務担当者なら一度は受ける質問だ。ここで「関連当事者だから取締役会承認が必要です」と即答してしまうと、法的には誤りであることが多い。逆に「取締役本人が出てこないから不要です」と機械的に流すと、実質支配のケースで承認漏れを起こす。

関連当事者取引と会社法上の利益相反取引は、重なる部分はあるが一致しない別概念である。関連当事者取引は会計開示・ガバナンス上の広い管理概念であり、会社法356条は「取締役」を起点とする機関承認規制だ。さらに会社法356条1項の中でも、1号は競業取引、2号・3号が利益相反取引であり、規制趣旨も責任規定も異なる。この3つの区別ができていない社内ルールは、過剰承認と承認漏れを同時に起こす。

本記事では、2026年9月25日時点の会社法356条・365条・369条・370条・423条・428条、会社計算規則112条、企業会計基準第11号・適用指針第13号、コーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日改訂版)、東証有価証券上場規程の企業行動規範を踏まえ、非上場会社からプライム上場会社まで使える実務標準の確認範囲・社内申告フロー・承認プロセスを提示する。

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結論|関連当事者取引の確認は4層で組む

PRACTICAL CONCLUSION

関連当事者取引は「禁止」ではなく「4層の確認体制で通す」のが実務標準。ただし会社法上の承認要否は、関連当事者該当性ではなく「取締役本人の取引上の立場」と「会社と取締役の具体的な利益相反構造」で判定する。

第1層(識別):関連当事者リストを年1回・役員交代時に更新し、取引前申告フローで対象取引を識別する。
第2層(会社法上の機関承認):識別された取引のうち、会社法356条1項1号(競業取引)・2号(直接取引)・3号(間接取引)に該当するものだけが機関承認の対象。取締役会設置会社は取締役会(365条1項)、取締役会非設置会社は株主総会で、重要な事実を開示して承認を受ける。取締役会設置会社では、当該取締役は特別利害関係取締役として取締役会の議決に加われず(369条2項)、取引後は遅滞なく重要な事実を取締役会に報告する(365条2項)。
第3層(会計開示):会社計算規則112条・財務諸表等規則8条の10等に基づき、関連当事者との重要な取引を注記する。会社法上の承認不要な取引でもここは残る。
第4層(税務):取引条件が時価・通常の取引条件から不合理に乖離すると、その取引実態に応じて寄附金・役員給与等の税務上の論点が生じ得る。価格の合理性を説明できる資料を残す。
※プライム市場・スタンダード市場の上場会社は、これに加えてコーポレートガバナンス・コード原則4-3(3)(旧・原則1-7)による利益相反管理を確認する。グロース市場の上場会社は基本原則がコンプライ・オア・エクスプレインの対象であり、適用範囲が異なる。支配株主を有する上場会社は、さらに東証企業行動規範の規律が重なる。

▼ 概念整理①:関連当事者取引と会社法上の利益相反取引は重なるが一致しない

関連当事者取引 =企業会計基準第11号・会社計算規則112条4項等で定義される開示・モニタリング対象の広い概念。親会社・子会社・関連会社・主要株主・役員・その近親者・これらが議決権の過半数を持つ会社等との取引を含む
会社法上の利益相反取引 =会社法356条1項2号(直接取引)・3号(間接取引)。取締役が取引上どの立場に立つか、会社と取締役の利害がどう対向するかを起点とする機関承認規制
会社法上の競業取引 =会社法356条1項1号。利益相反取引ではない。会社の事業機会・顧客を取締役が奪う危険を規律する別類型

ここが最重要:「関連当事者との取引だから会社法356条1項2号・3号にあたる」という整理は誤りである。当社の取締役が一切関与しない主要株主の支配会社との取引は、会計上の関連当事者取引ではあっても、会社法356条の機関承認対象ではない。逆に、関連当事者リストに載っていない相手先であっても、当社の取締役がその相手方を代表して当社と取引すれば、356条1項2号の直接取引になる。関連当事者該当性と会社法上の承認要否は、別軸で判定する。

▼ 概念整理②:会社法356条1項は「1号」と「2号・3号」で性質が違う

1号|競業取引 取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をする場合。会社と取締役が「取引の両当事者」になるわけではない。損害額の推定規定は423条2項
2号|直接取引 取締役が自己又は第三者のために会社と取引をする場合。会社の取引相手側に取締役が立つ類型。任務懈怠の推定は423条3項、自己のための取引は428条の無過失責任
3号|間接取引 会社が取締役の債務を保証することその他、会社と取締役以外の者との取引でありながら会社と当該取締役の利益が相反する場合。任務懈怠の推定は423条3項

見出し・表・社内規程で「356条1項各号=利益相反取引」とまとめると、競業取引の管理(事業機会の奪取・顧客の持ち出し)が抜け落ち、責任規定(423条2項と3項)の適用も誤る。1号と2号・3号は必ず分けて書く。なお、事前承認はいずれの号にも必要であり、取締役会設置会社では365条2項の事後報告も1号から3号まで共通して必要である。

非上場会社でも会社法上の利益相反取引規制は同じだ。「うちは上場していないから大丈夫」は通用しない。むしろ中小オーナー会社こそ、社長親族の会社・社長個人との取引が多発するため、規模が小さいほど発生頻度が高い論点である。

実務標準(Practical Standard)

以下が「誰が読んでも同じ判断になる」標準対応である。社内ルールを設計する場合、この標準をベースに、自社の機関設計(取締役会設置/非設置)・上場区分・連結範囲に合わせて調整する。

▶ STANDARD 01

関連当事者リストを年1回・役員交代時に更新する

会社法上の計算書類注記における「関連当事者」は、会社計算規則112条4項が定義している。実務では、以下のリストを年1回および役員選任・株主構成変動のたびに更新する。

  • 当該株式会社の親会社、子会社
  • 当該株式会社の親会社の子会社(いわゆる兄弟会社)
  • その他の関係会社(自社を関連会社とする他の会社)並びにその親会社及び子会社
  • 関連会社及び当該関連会社の子会社
  • 主要株主(自己又は他人の名義で総株主の議決権の10%以上を保有する株主)及びその近親者(二親等内の親族)
  • 当該株式会社の役員(取締役・会計参与・監査役・執行役)及びその近親者
  • 当該株式会社の親会社の役員又はこれらに準ずる者及びその近親者
  • 上記の主要株主・役員・親会社役員及びその近親者が他の会社等の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合の当該会社等及びその子会社
  • 従業員のための企業年金(掛金拠出以外の重要な取引を行う場合に限る)

※二親等内の親族=配偶者、父母、子、祖父母、孫、兄弟姉妹、及びこれらに準ずる姻族。
※金商法開示(有価証券報告書)の関連当事者の範囲は、企業会計基準第11号・財務諸表等規則が定めており、会社計算規則の範囲と完全には一致しない。たとえば会計基準側は「重要な子会社の役員及びその近親者」も範囲に含む(適用指針第13号第13項(4)④)。連結・単体の双方を持つ会社は、両方の範囲を並べたマスタを作るのが安全である。
※「役員に準ずる者」には、相談役・顧問・執行役員その他、社内の地位や職務からみて実質的に経営に強い影響を及ぼす者が含まれ、退任した創業者等も実質判定で該当し得る(適用指針第13号第4項・第23-2項)。

▶ STANDARD 02

役員・主要株主から年1回の自己申告を取得する

役員および主要株主に対し、年1回および新任時に「関連当事者申告書」(自己および近親者が経営・出資する会社等のリスト、他社における役員兼務の状況、当該他社を代表・代理する権限の有無、および当該他社に対する実質的な支配・影響力の有無)を提出させる。会社が把握できない近親者の経営会社・出資会社は、本人申告でしか拾えない。特に「代表権の有無」と「実質支配の有無」まで申告させておくと、後述の会社法356条1項2号・3号の判定が一気に速くなる。これは内部統制の中核ピースである。

▶ STANDARD 03

取引申請時に「関連当事者該当性」と「356条該当性」を二段で判定する

稟議・契約申請のフォームに「取引相手は関連当事者リストに該当するか」のチェック欄を設ける。営業部門は判断できないため、法務・経理が一次照合する設計が標準だ。該当した場合、そこで終わらせずに第二段の判定を必ず行う。

  • 第一段:会計・開示上の関連当事者に該当するか(→注記・税務の論点へ)
  • 第二段:①当社の取締役本人が、当該取引の当事者・代表者・代理人になっているか(2号)。②会社と当該取締役の利益が具体的に相反する構造がないか(3号。取締役個人の債務の保証・引受け・担保提供のほか、取締役が実質的に支配する相手先への利益移転等を含む)
▶ STANDARD 04

会社法356条1項各号に該当する場合は機関承認+議決権除外+事後報告

競業取引(1号)・直接取引(2号)・間接取引(3号)のいずれかに該当する場合、以下を必ず実施する。

  • 取締役会設置会社:取締役会で当該取引につき重要な事実を開示し、事前承認を取得(会社法365条1項により356条1項の「株主総会」を「取締役会」と読み替える)
  • 取締役会非設置会社:株主総会で重要な事実を開示し、普通決議で承認を取得(会社法356条1項・309条1項)
  • 当該取締役は特別の利害関係を有する取締役として取締役会の決議に参加できない(会社法369条2項)。定足数の基礎からも除外される
  • 取締役会設置会社では、取引後遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告(会社法365条2項)──実務でもっとも忘れられやすい項目。1号の競業取引も報告対象である
  • 議事録に「取引の内容・条件・必要性・条件の妥当性検討」「特別利害関係取締役の議決不参加」を記載する

※関連当事者取引であっても会社法356条1項各号に該当しない場合(例:当社取締役が当事者にも代表者にもならず、当社取締役との利害対向構造もない主要株主の支配会社との通常取引)は、会社法上の機関承認は不要。ただし第3層(会計開示)・第4層(税務)、上場会社では上場規制の論点は残る。また、承認不要でも「重要な財産の処分及び譲受け」「多額の借財」等に当たれば会社法362条4項により別途取締役会決議が必要になる。

▶ STANDARD 05

承認と「取引条件の公正性」は別物として、両方を記録する

会社法356条の承認は、取引を行ってよいかどうかの手続要件にすぎない。承認を得たからといって取引条件が公正であることが担保されるわけではなく、条件が会社に不利であれば任務懈怠責任(423条)の問題は別途残る。実務では、①承認手続の履践、②条件の公正性の検証(相見積り・市場実勢・第三者評価)、この2つを別の証跡として残す。稟議書に「必要性」「代替取引先の有無」「価格決定根拠」を独立の欄として設けるのが標準だ。

▶ STANDARD 06

計算書類・有価証券報告書の注記情報を継続収集する

会社計算規則112条1項により、関連当事者との重要な取引は個別注記表に記載する。経理部門と連携し、年度末に注記情報を集約する仕組みを構築する。重要性の判断基準(後述)を経理部門と共通言語にすることが運用上の鍵となる。会社法上の承認が不要だった取引こそ、注記漏れが起きやすいため、承認フローとは別に「注記候補リスト」を持つ。

▶ STANDARD 07

取引条件の合理性を検証し、税務上の論点を潰す

取引条件が時価・通常の取引条件から不合理に乖離する場合、その取引実態に応じて、法人税法上の寄附金(時価との差額が実質的な贈与等と認められる場合)や役員給与(役員が個人として負担すべき支出を会社が負担した場合等)の論点が生じ得る。実務上は、独立当事者間であればどのような条件になるかを一つの検証軸として、複数見積り・実勢調査・近隣相場・第三者評価などの価格妥当性検証資料を取得し、稟議書面に明記して保管する。移転価格税制の適用がある国外関連取引では、同税制上の独立企業間価格の算定という別枠の検討が必要になる。

なぜこの標準になるのか|規制の4つの源泉

関連当事者取引の規制は、単一の法令から来ているわけではない。会社法(取締役の利益相反防止)・会計基準(情報開示)・税法(適正な所得計算)・上場規程/CGコード(少数株主保護)が、それぞれ違う目的で同じ取引にコミットしている。標準対応が多層構造になるのは、規制構造を反映しているためだ。

規制の源泉 主な根拠法令 規制の目的 求められる対応
会社法
(機関承認)
会社法356条1項1号〜3号
会社法365条1項・2項
会社法369条2項
会社法423条2項〜4項・428条
取締役と会社の利益相反の防止、会社の事業機会の保全/善管注意義務(330条)・忠実義務(355条)の担保 取締役会または株主総会の事前承認、特別利害関係取締役の議決権制限、事後報告、条件妥当性の記録
会計基準
(開示)
会社計算規則112条
財務諸表等規則8条の10
連結財務諸表規則15条の4の2
企業会計基準第11号・適用指針第13号
財務諸表利用者が会社の財政状態・経営成績を適切に理解できる情報提供 個別注記表・財務諸表注記での開示、取引条件及び決定方針の説明
税法 法人税法22条・34条・37条
所得税法28条・183条
(国外関連取引は租税特別措置法66条の4)
適正な所得計算と恣意的な所得移転の防止 取引条件の合理性の検証、価格決定資料の保管
上場規制
(東証上場会社)
東証有価証券上場規程441条・441条の2(企業行動規範)
CGコード原則4-3(3)(2026年7月21日改訂版。旧・原則1-7)
少数株主の利益保護、構造的利益相反の規律、市場の信頼確保 関連当事者取引に関する手続枠組みの策定・開示と監視(プライム・スタンダード市場)、支配株主関連の重要な取引等における独立性を有する者からの意見入手と適時開示

この4つは独立して作動する。会社法上の承認は不要でも会計開示は必要、機関承認は済んでいても税務で寄附金認定される、上場会社で企業行動規範上の意見入手が漏れる――こうした「層またぎの抜け」が事故の典型パターンである。

会社法356条1項の正確な読み方|1号・2号・3号を分ける

📖 会社法356条1項(要旨)

取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

  • 1号(競業取引):取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき
  • 2号(直接取引):取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき
  • 3号(間接取引):株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき

同条2項は、1項の承認を受けた2号・3号の取引について民法108条(自己契約・双方代理)を適用しない旨を定める。取締役会設置会社では、365条1項により1項の「株主総会」が「取締役会」に読み替えられる。

1号|競業取引は「利益相反取引」ではない

1号は、取締役が会社の事業機会・顧客・ノウハウを自己又は第三者のために利用し、会社と競争関係に立つことを規律する規定である。ここでいう「株式会社の事業の部類に属する取引」とは、会社が実際に行っている取引と目的物(商品・役務)および市場(地域・流通段階等)が競合する取引と解されている。

実務上の分岐点は次のとおりである。取締役が競業関係にある他社の取締役に就任すること自体は「取引」ではなく、承認対象ではない。その他社を代表・代理して具体的な競業取引を行う段階で1号の承認対象になる。なお、承認を欠いても競業取引自体は有効だが、会社法423条2項により、当該取引によって取締役又は第三者が得た利益の額が、会社の損害額と推定される。損害額の立証負担が会社側から取締役側に移る強力な規定であり、2号・3号の423条3項(任務懈怠の推定)とは推定の対象が異なる。

2号|直接取引は「取締役が取引の名義人・代理人か」で決まる

2号の「自己又は第三者のために」については名義説と計算説の対立があるが、名義説が多数説である。すなわち、㋐取締役が自己の名義で会社と取引する場合、㋑取締役が第三者(他の法人・個人)を代表し又は代理して会社と取引する場合が、2号の対象となる。

したがって、「関連当事者だから」という理由だけで2号を適用してはならない。判定すべきは、当社の取締役が当該取引の名義人になっているか、または相手方を代表・代理して契約締結行為をしているか、という取引上の立場である。

✅ 2号の判定は、この一問で足りることが多い
「この契約書の相手方欄に、当社の取締役の氏名があるか。または、相手方を代表・代理して署名・押印するのは当社の取締役か。」──いずれもNoであれば、2号は原則として該当しない。ただしここで終わらせず、次に3号(間接取引)の検討へ進む。

なお、形式的には2号に該当しても、会社に不利益が生じる危険が構造的に存在しない取引については承認不要と解されている。会社が取締役から無利息・無担保で金銭を借り入れる場合(最判昭和38年12月6日)、普通取引約款に基づく定型的取引(運送契約・預金契約等)、既存債務の履行などがこれにあたる。

3号|間接取引は「会社と取締役の利益が具体的に相反する構造」があるか

3号は、会社が取引の当事者となり、相手方は取締役以外の第三者でありながら、会社と当該取締役の利益が相反する類型である。条文が例示する「株式会社が取締役の債務を保証すること」が典型で、実務で問題となる主な場面は次のとおりである。

  • 会社が取締役個人の債務を保証する
  • 会社が取締役個人の債務を引き受ける(重畳的債務引受・免責的債務引受)
  • 会社が取締役個人の債務のために会社財産に担保を設定する(物上保証)
  • 会社が、当該取締役が代表取締役を兼務する他社の債務を保証する(最判昭和45年4月23日)。判例は旧商法265条の下で「取締役が第三者のためにする取引」に当たるとしたが、現行会社法の条文構成のもとでは、会社が第三者(債権者)と契約する形をとることから、間接取引(3号)として整理されるのが一般的である
⚠️ 3号は「取締役個人の債務の肩代わり」に限定されない

条文は「取締役の債務を保証することその他……株式会社と当該取締役との利益が相反する取引」と定めており、債務保証・債務引受け・担保提供は例示にすぎない。取締役が相手会社を実質的に支配している、取引による利益が当該取締役の経済的利益に直接結び付いているなど、会社と取締役の利害が具体的に対向する事情がある場合には、個別に3号該当性を検討する必要がある。

東京地裁平成25年9月27日判決は、相手会社の代表取締役は当該取締役ではなくその妻であったが、当該取締役が相手会社の取締役かつ株主であり、妻は実務を当該取締役に任せていて、相手会社の役員・株主はいずれも当該取締役とその妻子で構成されていた、という事情の下で、相手会社は実質的に当該取締役が支配する会社であるとし、会社の代表者として自らが実質的に支配する会社へ商標権を無償で譲渡する行為は利益相反取引に該当すると判断した(同判決は2号・3号のいずれに当たるかを特定せず、利益相反取引該当性を認めている)。

もっとも、3号を「実質的に取締役の利益になりそうだから」という漠然とした評価だけで際限なく広げるのも適切ではない。判定の軸は、会社の負担と当該取締役(又は取締役が実質的に支配する先)の利益が、取引の構造上、具体的に対向しているかである。通常の商取引で相手方の役員に取締役の親族がいるというだけでは、この構造は通常生じない。逆に、無償・著しい低廉・回収可能性のない資金提供など対価性に疑義のある取引が、取締役の親族・実質支配先との間で行われる場合は、3号該当性を積極的に疑うべき場面である。

類型別判定表|親族会社・兼務会社・出資先との取引をどう捌くか

取引類型 会社法356条1項 判断のポイント 会計上の関連当事者
当社の取締役個人が、当社と売買・賃貸借・貸付等を行う 2号 該当 取締役が自己の名義で当社の取引相手になる典型。自己のための取引であれば428条の無過失責任も射程に入る 該当(役員本人)
当社の取締役が、相手会社を代表・代理して当社と取引する 2号 該当 「第三者のために」の典型。相手会社が関連当事者かどうかとは無関係に2号に該当する 相手会社の属性次第
当社の取締役が相手会社の役員ではあるが、当該取引を代表・代理していない 2号 原則非該当
3号 個別判定
名義説の下では2号に当たらない。役員兼務という事実だけでは足りない。他方、当該取締役が相手会社を実質的に支配している、相手会社の債務を個人保証している、取引の対価性に疑義があるなど、利害が具体的に対向する事情があれば3号を検討する 兼務先が役員の議決権過半数所有会社なら該当
当社の取締役の配偶者が代表取締役を務める会社との取引 2号 原則非該当
3号 個別判定
当社の取締役が名義人でも代表・代理者でもない以上、2号には当たらない。ただし、配偶者が名目上の代表にとどまり当該取締役が実質的に会社を支配している場合には、3号該当性が認められ得る(東京地判平25.9.27)。無償・低廉譲渡など対価性に疑義がある取引は特に要注意 配偶者が議決権の過半数を自己の計算で所有していれば該当
当社の取締役の親族が経営する会社との取引 2号 原則非該当
3号 個別判定
「社長の親族の会社だから一律に取締役会承認」という運用は法的根拠を欠く。他方「取締役が代表者でなければ常に安全」も誤り。取締役本人の取引上の立場と、相手会社に対する実質的な支配・利害の対向構造の両方を確認する 近親者が議決権の過半数を所有していれば該当
当社の取締役が株式を保有するだけの会社との取引 2号 原則非該当
3号 個別判定
出資しているだけでは取引の名義人でも代理人でもない。ただし持株比率・役員構成・意思決定の実態から当該取締役が実質支配していると評価できる場合や、取引により当該取締役の持分価値が直接増加する構造がある場合は3号を検討する 議決権の過半数所有なら該当
当社が取締役個人の借入債務を保証する 3号 該当 条文が明示する典型例。保証料の有無を問わない 該当(役員本人)
当社が取締役個人の債務を引き受ける/担保を提供する 3号 該当 債務引受け・物上保証も会社の財産的負担が取締役の利益に直結する 該当(役員本人)
当社が、取締役が代表取締役を兼務する他社の債務を保証する 3号 該当 最判昭45.4.23。保証する側の会社で承認が必要。取引の双方に同一人が関与する場合、両社それぞれで承認要否を判定する 兼務先の属性次第
当社の取締役が、自己又は第三者のために当社と同種の事業の取引を行う 1号 該当 利益相反取引ではなく競業取引。損害額の推定は423条2項。他社の取締役に就任すること自体は取引ではない 相手方の属性次第
主要株主(当社の取締役ではない)が経営する会社との取引 非該当 356条は取締役を起点とする規制であり、主要株主関係というだけでは適用されない。上場会社では企業行動規範・CGコードの規律、非上場会社では開示・税務の規律で管理する 該当
当社が取締役から無利息・無担保で借入れる 承認不要 最判昭38.12.6。会社が一方的に利益を受け、利害が実質的に対立しない。利息や担保提供を伴う場合は別途検討 該当(金額基準次第)
⚠️ 「個別判定」欄をどう運用するか

「3号 個別判定」となる類型では、次の事情の有無を稟議段階で確認し、1つでも当てはまれば法務が3号該当性を正式に検討する運用が実務的である。

  • 当社取締役が相手会社の議決権・役員構成・意思決定を実質的に握っている
  • 相手会社の名目上の代表者が実務を当社取締役に委ねている
  • 取引が無償・著しい低廉・回収可能性に疑義のある資金提供である
  • 当社取締役が相手会社の債務を個人保証している
  • 取引により当社取締役個人の持分価値・債務負担が直接増減する

3号非該当と判断した場合でも、判断の理由と確認した事実を記録に残しておくこと。後日の監査・訴訟で「なぜ承認を取らなかったか」を説明できるかどうかが分かれ目になる。

承認を欠いた取引の効力

取締役会の承認を欠く利益相反取引の効力について、判例は相対的無効説を採る(最大判昭和43年12月25日)。会社と取締役の間の直接取引については、会社は当該取締役に対して無効を主張できる。他方、取締役が会社を代表して自己のためにした第三者との間の取引や間接取引については、第三者が承認の不存在について悪意である場合に限り、会社は無効を主張できる。取引の安全と会社保護の調整として設計された枠組みである。前掲の東京地判平25.9.27も、この枠組みに従い、相手会社が取締役会決議・承認を経ていないことにつき悪意であったと認定して、会社による無効主張を認めている。

取締役会設置会社の事後報告義務(会社法365条2項)

会社法365条2項は、取締役会設置会社において356条1項各号の取引をした取締役に対し、取引後遅滞なく当該取引についての重要な事実を取締役会に報告する義務を課している。事前承認はあるのに事後報告が議事録に残っていないパターンは実務で非常に多い。競業取引(1号)についても報告義務がある点は見落とされやすい。事前承認・事後報告の双方が議事録化されていないと、監査役監査・会計監査人監査・上場審査・M&Aデューデリで指摘され得る。なお、取締役会非設置会社には365条2項は適用されないため、同条に基づく取締役会への事後報告義務はないが、社内統制上は取引実行結果を記録・保存しておくのが安全である。

責任規定|423条2項・3項・4項と428条

条文 適用対象 効果
423条2項 356条1項1号
(競業取引)
当該取引によって取締役又は第三者が得た利益の額が、会社に生じた損害の額と推定される
423条3項 356条1項2号・3号
(直接取引・間接取引)
会社に損害が生じたとき、①当該取引をした取締役、②会社が当該取引をすることを決定した取締役、③承認決議に賛成した取締役について、任務を怠ったものと推定される。承認を得ていてもこの推定は働く
423条4項 監査等委員会設置会社 監査等委員でない取締役の利益相反取引について監査等委員会の承認を受けたときは、3項の推定が適用されない(当該取引をしたのが監査等委員である取締役の場合を除く)
428条 356条1項2号のうち
「自己のために」した直接取引
423条1項の責任は、任務懈怠が当該取締役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない(無過失責任)。さらに、425条〜427条の一部免除・責任限定契約の規定が適用されない。総株主の同意による免除(424条)のみが残る
※ 428条の「自己のために」の射程 2号の「自己又は第三者のために」を名義説で読む場合、428条の「自己のために」も名義基準で判断され、取締役が自己名義で行った直接取引が対象となる。取締役が第三者を代表・代理して行った取引は、2号には該当するが428条の無過失責任の対象とはならない、という整理になる。この点は学説上の議論があるため、重大案件では条文と最新の解説にあたって個別に確認すること。
EXPERT INSIGHT

立証責任の転換ロジック──推定規定で攻守が入れ替わる

通常の任務懈怠責任(会社法423条1項):
→会社側が「取締役に任務懈怠あり」を立証する必要がある。

競業取引(423条2項):
→損害額の立証が困難という難点を、取締役等が得た利益=損害額という推定で埋める。

利益相反取引による損害(423条3項):
→取締役の任務懈怠が推定される。取締役側が「自分は任務を怠っていない」と立証しなければ責任を免れない。

自己のために直接取引(428条):
→帰責事由がないことを証明しても責任を免れず、責任限定契約も及ばない。

つまり、いずれの類型でも立証責任の構造が会社側→取締役側に傾く。これが、機関承認+議事録+取引条件妥当性検証資料の保管がそのまま「取締役自身を守る」運用になる理由である。

EXPERT INSIGHT

「みなし決議(会社法370条)」は使えるか

急ぎの利益相反取引で取締役会を開催できない場合、書面決議(みなし決議)による承認も可能である。会社法370条は、定款に定めがある場合に、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をしたときに、当該事項について議決に加わることができる取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定める。

利益相反取引における留意点は、369条2項により議決に加わることができない特別利害関係取締役は、370条の同意者に含まれないという点である。条文上、当該取締役が提案すること自体が禁止されているとまでは読めないが、手続の公正性を対外的に明確にするため、実務上は非利害関係取締役から提案し、同意も非利害関係取締役全員から回収する運用としておくのが安全である。

監査役設置会社の場合、監査役が当該提案について異議を述べないことも要件となる(370条括弧書)。みなし決議の頻用は監査役からの異議を招きやすく、対外説明力も弱くなる。原則は実会議、例外的にみなし決議という運用ラインが標準だ。

会計開示|関連当事者注記はどこまで書くか

会社計算規則112条1項|個別注記表の記載事項

会社計算規則112条1項は、株式会社と関連当事者との間に取引(当該株式会社と第三者との間の取引で、当該株式会社と当該関連当事者との間の利益が相反するものを含む)がある場合、次に掲げる事項のうち重要なものを注記することを求めている。

  • 1号:関連当事者が会社等であるときは、名称、当該関連当事者の総株主の議決権に占める当社の議決権割合、当社の総株主の議決権に占める当該関連当事者の議決権割合
  • 2号:関連当事者が個人であるときは、氏名、当社の総株主の議決権に占める当該関連当事者の議決権割合
  • 3号:当社と当該関連当事者との関係
  • 4号:取引の内容
  • 5号:取引の種類別の取引金額
  • 6号:取引条件及び取引条件の決定方針
  • 7号:取引により発生した債権又は債務に係る主な項目別の期末残高
  • 8号:取引条件の変更があったときは、その旨、変更の内容及び計算書類に与えている影響の内容
✅ 会計監査人設置会社以外は記載を絞れる
会社計算規則112条1項ただし書により、会計監査人設置会社以外の株式会社は、4号から6号まで及び8号を省略できる。すなわち、取引の内容・取引金額・取引条件及び決定方針・条件変更の影響は省略可能で、関連当事者の特定情報と期末残高が残る。自社が会計監査人設置会社かどうかで注記の重さが大きく変わるため、この切り分けを経理と共有しておく。

また、注記は同条3項により、112条1項各号に掲げる区分に従い関連当事者ごとに表示する。連結計算書類を作成している会社でも、連結注記表ではなく個別注記表で開示する点が、金商法開示との大きな違いである。

注記不要となる取引(会社計算規則112条2項)

会社計算規則112条2項は以下の取引について同条1項の注記を要しないと規定する。これは「会計開示の省略」であって、会社法356条の機関承認まで不要にする規定ではない。

  • 1号:一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当金の受取りその他、取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
  • 2号:取締役・会計参与・監査役・執行役に対する報酬等の給付
  • 3号:前2号のほか、当該取引に係る条件につき市場価格その他当該取引に係る公正な価格を勘案して一般の取引の条件と同様のものを決定していることが明白な場合における当該取引

3号は会社法独自の除外であり、財務諸表等規則側には置かれていない。会社法上は注記不要でも金商法開示では必要、というケースが生じ得る点に注意する。

重要性の判断基準|「1%基準」は万能ではない

金融商品取引法上の開示(有価証券報告書)における関連当事者注記の重要性の判断基準は、企業会計基準適用指針第13号が数値基準を示している。実務で「1%基準」と呼ばれるものは、この適用指針のうち貸借対照表項目等に係る基準を指しており、損益計算書項目には一律には適用されない。この区別を誤ると、開示すべき取引を落とすか、不要な取引まで拾うことになる。

グループ区分 取引区分 開示対象となる金額基準(適用指針第13号第15項・第16項)
法人グループ
(親会社・法人主要株主等、関連会社等、兄弟会社等)
売上高、売上原価、販売費及び一般管理費 売上高、又は売上原価と販売費及び一般管理費の合計額の10%を超える取引
営業外収益、営業外費用 営業外収益又は営業外費用の合計額の10%を超える損益に係る取引
特別利益、特別損失 1,000万円を超える損益に係る取引
※営業外損益・特別損益については、上記基準を満たす場合でも、取引総額が税金等調整前当期純損益又は最近5年間の平均の税金等調整前当期純損益の10%以下となる場合は開示を要しない
貸借対照表項目の残高及びその注記事項、債務保証等、担保提供又は受入れ その金額が総資産の1%を超える取引
資金貸借取引、有形固定資産・有価証券の購入売却等/事業の譲受け又は譲渡 残高が総資産の1%以下でも、取引の発生総額が総資産の1%を超える取引(反復的取引等では期中平均残高で判断可)/事業の譲受け・譲渡は対象となる資産又は負債の総額のいずれか大きい額が総資産の1%超
個人グループ
(役員及び個人主要株主等・その近親者、これらが議決権の過半数を所有する会社等)
損益計算書項目・貸借対照表項目等のいずれも 1,000万円を超える取引はすべて開示対象
※役員(親会社及び重要な子会社の役員を含む)又はその近親者が他の法人の代表者を兼務し、その代表者として当社と取引を行う場合は、法人間の商取引として法人グループの基準で重要性を判断する。ただし、当該役員等が当該法人又はその親会社の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合は、引き続き個人グループの基準による(適用指針第13号第16項・第33項)。
※連結財務諸表を作成している会社は、個別財務諸表での関連当事者注記は求められない(財務諸表等規則8条の10)。他方、会社法の計算書類では連結計算書類を作成していても個別注記表での開示が必要(会社計算規則112条)。
※金額が小さくても質的に重要な取引(事業承継時の取引、IPO直前の取引等)は開示対象となり得る。また、これまで開示対象だった取引が一時的に数値基準を下回った場合、直ちに開示対象から外す画一的取扱いは避け、開示の継続性に留意する(適用指針第13号第20項)。最終判断は監査法人と協議のうえ確定する。
⚠️ 「一律1%基準」は誤り

「関連当事者取引は売上の1%を超えたら開示」という説明を社内で流通させないこと。損益計算書項目の基準は10%(特別損益は1,000万円)、貸借対照表項目・資金貸借等の基準が1%、個人グループは1,000万円である。なお、会社法の計算書類注記における「重要なもの」については、会社計算規則に数値基準が置かれていない。会社計算規則3条(会計慣行のしん酌)により上記適用指針が参考とされるのが実務だが、最終的には会社の規模・取引の質を踏まえた判断であり、監査法人との協議が前提になる。

上場規制|CGコードと東証企業行動規範(2026年9月25日時点)

CGコード|旧・原則1-7は2026年改訂で原則4-3(3)へ

コーポレートガバナンス・コードは2026年7月21日に改訂版が施行された。2026年版では、従前の補充原則が再整理され、コードの規範は基本原則(4個)と原則(26個)から構成される。従前の補充原則の内容の一部は原則へ統合・格上げされ、その他は「解釈指針」等として整理されている。解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではない。

関連当事者取引に関する規律は、従来の原則1-7の内容が原則4-3(3)に整理・移動している。現行の原則4-3(3)は、取締役会が経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理すべきこととし、あらかじめ、上場会社が関連当事者との間で行う取引について、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めてその枠組みを開示するとともに、その手続を踏まえた監視(取引の承認を含む)を行うべきである、と定める。

また、基本原則1の解釈指針には、少数株主と経営陣・支配株主との間には構造的に利益相反や情報の非対称性の問題があることを踏まえ、関連当事者間の取引が会社や株主共同の利益を害するものでないか等の観点から必要性・合理性を検討し、適正な手続に従って少数株主の利益に配慮すべきである旨が明記されている。

📌 市場区分ごとの適用範囲(2026年改訂後も変更なし)
  • プライム市場・スタンダード市場:基本原則及び原則が適用対象。したがって原則4-3(3)はコンプライ・オア・エクスプレインの対象となる
  • グロース市場:基本原則のみが適用対象。原則4-3(3)は直接の対象外だが、基本原則1・基本原則4の趣旨として関連当事者取引の管理は引き続き重要である

「解釈指針」はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではないが、原則の趣旨を理解し実質的な対応を行うための参照資料である。改訂により原則数が減ったことは規律の緩和を意味しない旨が、コード本文で明示されている。旧・原則1-7を前提に作成した社内規程・コーポレート・ガバナンス報告書の記載は、条番号を含めて見直すこと。

東証企業行動規範|支配株主との重要な取引等(上場規程441条の2)

東証有価証券上場規程上の企業行動規範は、支配株主を有する上場会社について、当該上場会社又はその子会社等の業務執行を決定する機関が、支配株主その他施行規則で定める者が関連する重要な取引等(上場規程441条1項に該当する場合を除く)を行うことについての決定をする場合に、当該決定が当該上場会社の少数株主にとって不利益なものでないことに関し、当該支配株主からの独立性を有する者による意見の入手を行うほか、必要かつ十分な適時開示を行うことを「遵守すべき事項」として定めている(上場規程441条の2、施行規則436条の4)。違反した場合は、公表措置、上場契約違約金の徴求、改善報告書の徴求、特別注意銘柄への指定等の対象となる。

項目 内容
対象者の範囲 ①支配株主、②上場会社と同一の親会社をもつ会社等、③上場会社の親会社の役員及びその近親者、④上場会社の支配株主(親会社を除く)の近親者、⑤③④の者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等及びその子会社
「重要な取引等」 上場会社又はその子会社等の決定事実のうち適時開示を要するもの(第三者割当、自己株式の取得、合併・会社分割、事業の譲渡譲受け、子会社等の異動を伴う株式譲渡取得、固定資産の譲渡取得、業務提携、公開買付け等)
手続の内容 a. 支配株主からの独立性を有する者(独立性を有する社外取締役等で構成される特別委員会、独立性を有する社外取締役・社外監査役等が想定される)による、少数株主にとって不利益でないことに関する意見の入手
b. 必要かつ十分な適時開示(入手した意見の概要を開示資料に記載)
意見入手の時期 原則として重要な取引等を決定する日まで。条件未確定で適切な意見形成が困難な事情がある場合は後日の条件決定時に入手可(当初開示で未了である旨と見通しに言及)
通常は対象外 上場会社又はその子会社等と支配株主その他施行規則で定める者との間で行われている反復・継続的な営業取引は、通常、手続の実施対象に含まれない
441条との関係 MBOや支配株主等による完全子会社化等(上場廃止となる見込みがあるもの)は上場規程441条の適用対象となり、441条の2の「重要な取引等」には含まれない。2025年7月22日施行の改正により、意見入手が必要な場面がMBOやその他の関係会社等による完全子会社化等へ拡大され、特別委員会の実効性・株式価値算定に関する開示の充実が求められる範囲も拡大した

これは東証上場会社に固有の規律であり、非上場会社には直接適用されない。もっとも、IPO準備会社・グループ内取引が多い会社では、事実上の参考基準として機能する。なお、支配株主を有する上場会社は、意見の入手方法等に関する基本的な考え方を、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の「支配株主との取引等を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針」に反映することが望まれるとされている。

よくある誤解

関連当事者取引はすべて会社法356条の承認対象になるか?
ならない。関連当事者取引は会計基準・会社計算規則・財務諸表等規則上の広い概念であり、会社法356条1項は「取締役」を起点とする規制である。両者は重なる部分があるが一致しない。当社の取締役が当事者・代表者・代理人として関与する取引や、会社と当社取締役の利益が具体的に相反する構造のある取引は356条の対象だが、当社の取締役が関与せず利害の対向構造もない主要株主の支配会社との通常取引は、関連当事者取引(会計開示対象)であっても会社法356条の機関承認は不要である。両者を分けて運用設計することが、過剰承認・承認漏れの双方を防ぐ。
会社法356条1項各号はすべて「利益相反取引」と理解してよいか?
よくない。356条1項1号は競業取引であり、利益相反取引ではない。利益相反取引は2号(直接取引)と3号(間接取引)である。区別が必要な理由は、規制趣旨が違うこと(1号は会社の事業機会の保全、2号・3号は会社と取締役の利害対立の防止)、そして責任規定が違うことにある。競業取引は423条2項で損害額が推定され、利益相反取引は423条3項で任務懈怠が推定される。428条の無過失責任は2号のうち自己のための直接取引だけに働く。社内規程の見出しや稟議フォームの選択肢でこの3類型を分けておくと、判定精度が大きく上がる。
関連当事者取引は禁止されているのでは?
禁止ではない。会社法356条・365条は「必要な情報を開示して適切な機関の承認を受ければ実施できる」という規制構造であり、取引そのものを禁じていない。会計基準も開示を求めるだけで、取引を禁じるものではない。合理的な事業上の必要性があり、通常の取引条件と整合する条件で行われ、機関承認・開示・税務対応が適切に行われている取引は、原則として実施できる。重要なのは「禁止」ではなく「手続を踏み、条件の合理性を説明できる記録を残すこと」である。
取締役会の承認を得れば、取引条件が公正だと認められるか?
認められない。会社法356条・365条の承認は手続要件であり、取引条件の公正性を保証するものではない。むしろ423条3項により、承認を得ていても会社に損害が生じれば任務懈怠が推定される。したがって、承認決議の場では「取引の内容・必要性・条件の妥当性」を実質的に審議し、価格決定の根拠資料(複数見積り・市場実勢・第三者評価)を議事録に紐づけて残す必要がある。承認と公正性は別途確認する、というのが実務の基本姿勢である。
役員の家族が経営する会社との取引は、会社法上の利益相反取引にあたるか?
まず2号(直接取引)については、原則としてあたらない。356条1項2号は取締役が自己又は第三者のために会社と取引する場合を対象とし、多数説である名義説では、取締役自身が取引の名義人となる場合か、取締役が相手方を代表・代理して取引する場合を指す。役員の配偶者や親族が代表者を務める会社との取引において、当社の取締役が契約の名義人でも代表・代理者でもなければ、2号には該当しない。
ただし3号(間接取引)は別途検討が必要である。3号は「取締役の債務を保証することその他……会社と当該取締役との利益が相反する取引」であり、債務の肩代わりに限定されない。東京地判平25.9.27は、相手会社の代表者が取締役の妻であっても、当該取締役が相手会社の取締役かつ株主で、役員・株主が当該取締役の家族で占められ、妻が実務を当該取締役に任せていた事情の下で、当該取締役が実質的に支配する会社への無償の権利譲渡について利益相反取引該当性を認めている。「親族会社=直ちに利益相反」も「取締役が代表者でなければ常に安全」も、いずれも誤りである。
なお会計上は「役員及びその近親者が議決権の過半数を自己の計算において所有する会社等」が関連当事者に含まれるため(会社計算規則112条4項9号、企業会計基準第11号)、注記の対象となり得る。会社法上の機関承認の要否と、会計上の開示の要否は別軸で判断する。
取締役が相手会社の役員を兼務していれば、それだけで承認が必要か?
兼務という事実だけでは2号には該当しない。2号の分岐点は当該取締役が相手会社を代表・代理して当該取引を行うかどうかである。代表・代理して取引すれば2号の直接取引となり、当社での承認が必要になる。逆に、相手会社の平取締役にすぎず当該取引の締結に代表者として関与していない場合は、2号には該当しない。
ただし、当社が当該相手会社の債務を保証する、当該取締役が相手会社の債務を個人保証している、当該取締役が相手会社を実質的に支配しており取引の対価性に疑義がある、といった事情があれば3号の検討が必要になる。競業関係にある会社の役員に就任すること自体は「取引」ではないため、1号の承認対象ではない。
取締役が株主になっている会社との取引はどうか?
出資しているだけでは、取締役は取引の名義人でも代理人でもないため、2号には該当しない。もっとも、持株比率・役員構成・意思決定の実態から当該取締役が相手会社を実質的に支配していると評価できる場合や、取引により当該取締役の持分価値が直接増加する構造がある場合には、3号該当性を個別に検討する。特に、相手会社の全株式を取締役が保有し実質上その取締役の個人経営にすぎないといえる場合は、取引の実質が取締役個人との取引に近づくため、慎重な検討が必要である。会計上は、役員及びその近親者が議決権の過半数を自己の計算において所有する会社等であれば関連当事者に該当し、注記の対象となり得る。
100%子会社との取引も承認が必要か?
最高裁昭和45年8月20日判決は、取締役が会社の全株式を所有し会社の営業が実質上その取締役の個人経営にすぎないという具体的事案で、実質的な利害対立がないとして承認を要しないとした。もっとも、この判例は完全親子会社間取引一般について包括的な承認不要ルールを示したものではない。したがって「100%子会社だから承認不要」と一律処理せず、まず各社を基準に会社法356条1項各号への該当性を判定する。356条に該当する場合は、判例の射程が明確でない以上、原則どおり機関承認を取得する運用が安全である。少数株主の不存在やグループ全体での利害一致等から実質的な利益相反がないとの評価が問題となる場面でも、金額・取引条件・債権者への影響等を踏まえて個別に判断し、その理由を記録する。また、会社計算規則112条上の注記、362条4項の重要な財産の処分等、税務・移転価格その他の論点は別問題として残る。
無利息・無担保で取締役から会社が借入する場合も承認が必要?
最判昭和38年12月6日は、株式会社に対し取締役が無利息・無担保で金銭を貸し付ける行為は、承認を要する取引にはあたらないとしている。会社が一方的に利益を受けるだけで、両者の利害が実質的に対立しないためだ。会社が取締役から負担のない贈与を受ける場合も同様に解されている。ただし、返済利息を伴う場合、担保提供を伴う場合、返済条件が会社に不利な場合は別途検討が必要である。
非上場会社なら関連当事者取引はあまり気にしなくていい?
危険な誤解だ。会社法上の規制(356条・365条・369条・423条・428条)は、上場・非上場を問わず適用される。任務懈怠の推定(423条3項)も同様だ。会社計算規則112条の注記義務も、株式会社であれば規模を問わず適用される(会計監査人設置会社以外は記載事項の一部を省略できるにとどまる)。さらに税務上の寄附金・役員給与の論点は規模を問わず生じ得る。むしろ非上場の中小オーナー会社では社長親族の会社との取引が多発する傾向にあり、後日の株主間紛争・相続・事業承継・M&Aデューデリジェンス時に問題化することが多い。
兼任代表取締役の会社間取引は、片方の会社で承認すればよい?
両方の会社で承認要否を判定する必要がある。最判昭和45年4月23日は、甲乙両会社の代表取締役を兼ねる者が、甲会社の債務につき乙会社を代表してする保証は、甲会社の利益となり乙会社に不利益を及ぼす行為であるとして、承認を要する取引にあたるとした。実務では、兼任代表取締役のいる両社それぞれで自社を基準に判定し、該当すれば取締役会承認を取得する。当該取締役は、承認が必要となる各社の取締役会で特別利害関係取締役として議決から除外される。
CGコードの原則1-7に沿って社内規程を作ってあるが、そのままでよいか?
条番号の更新が必要になる。2026年7月21日施行のコーポレートガバナンス・コード改訂版では、従前の補充原則が再整理され、コードの規範は基本原則と原則から構成され、解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象外とされた。関連当事者取引に関する規律は原則4-3(3)に整理されている。求められる実質(あらかじめ取引の重要性・性質に応じた適切な手続を定め、その枠組みを開示し、手続を踏まえた監視・承認を行うこと)は維持されているため、規程の中身を大きく作り替える必要は通常ないが、コーポレート・ガバナンスに関する報告書や社内規程の参照条番号は改訂版に合わせて更新する。適用範囲は、プライム市場・スタンダード市場が基本原則及び原則、グロース市場が基本原則のみである点も確認しておく。

例外・注意点

標準ルールには以下の例外・特殊論点がある。これらは判断を変える要素として、社内ルールに必ず織り込む。

論点 標準対応からの修正 根拠・留意点
一人会社等で実質的利害対立がない特殊な取引 一律免除とせず個別判定 最判昭45.8.20は一人会社の具体的事案。完全親子会社間取引一般の包括的な承認不要ルールとして扱わず、356条該当性と判例の射程を個別に確認する
株主全員の同意がある場合 取締役会承認なしでも取引は有効 最判昭49.9.26。中小オーナー会社では現実的選択肢。同意の存在を書面で残す
無利息・無担保の貸付(会社が借手) 承認不要 最判昭38.12.6。会社が一方的に利益を得る場合に限る
普通取引約款に基づく定型取引・既存債務の履行 承認不要と解されている 利害の実質的対立が生じない類型。運送契約・預金契約等
取締役が実質的に支配する会社との取引 形式上は取締役が当事者でなくても承認要否を個別判定 東京地判平25.9.27。名目上の代表者が親族でも、実質支配・対価性の疑義があれば利益相反取引該当性が認められ得る
一般競争入札・市場価格による取引 会社法上の会計注記は不要 会社計算規則112条2項。356条該当性は別途判断。財規側には同旨の除外が置かれていない項目がある
役員報酬等の給付 関連当事者注記は不要 会社計算規則112条2項2号、企業会計基準第11号第9項(2)。会社法361条等の報酬規制で別途規律される
みなし決議による承認(会社法370条) 定款の定めがあれば書面決議も可 特別利害関係取締役は同意者に含まれない(369条2項により議決に加われないため)。実務上は非利害関係取締役から提案する運用とする。監査役設置会社では監査役が異議を述べないことも要件
監査等委員会の事前承認 423条3項の任務懈怠推定が適用されない 会社法423条4項。監査等委員会設置会社のみ。当該取引をした者が監査等委員である取締役の場合は除く
自己のためにした直接取引 責任限定契約・一部免除が使えない 会社法428条。総株主の同意による免除(424条)のみが残る
支配株主関連の重要な取引等(東証上場会社) 独立性を有する者による意見の入手+適時開示 上場規程441条の2・施行規則436条の4。反復・継続的な営業取引は通常対象外。MBO等は441条の適用
有価証券報告書提出会社 連結ベースで開示。連結財務諸表作成会社は個別での注記不要 財務諸表等規則8条の10、連結財務諸表規則15条の4の2、企業会計基準第11号。会社法の計算書類では個別注記表での開示が必要な点と混同しない
⚠️ エスカレーションが必要な場面
  • 支配株主・主要株主との大型取引(資産譲渡・事業譲渡・第三者割当等)
  • 取引条件の合理性に客観的な裏付けが取れない取引、対価性に疑義のある取引(無償・著しい低廉・回収可能性の乏しい資金提供)
  • 356条該当性が微妙な取引(取締役の関与の程度、代表・代理の有無、相手先に対する実質支配の有無が事実関係として不明確な案件)
  • 取引相手の関連当事者該当性が役員自己申告で初めて発覚した過去取引
  • 監査法人から関連当事者取引としての注記を求められた未承認取引
  • 事業承継・M&A・IPO準備に向けて関連当事者取引を整理する必要が生じた局面
  • 税務調査で取引価格について寄附金・役員給与の指摘を受けた場合

これらは外部弁護士・会計士・税理士、必要に応じて特別委員会を活用する局面である。法務部内で抱え込まず、初期段階で外部に共有することが事故防止につながる。

実務対応フロー|申告から承認・開示・事後報告まで6ステップ

1

関連当事者リストの整備・年次更新

親会社・子会社・兄弟会社・その他の関係会社・関連会社・主要株主・役員・親会社役員・これらの近親者・これらが議決権の過半数を所有する会社等をリスト化。年1回および役員選任・株主構成変動の都度更新する。役員からは「関連当事者申告書」を年次取得し、他社での役員兼務・代表権の有無・実質的な支配や影響力の有無まで記載させる。総務・経理と連携し、株主名簿・登記情報・人事情報を突合する。

2

取引申請時の二段スクリーニング

稟議・契約申請のフォームに「関連当事者該当性」のチェック欄を組み込む。営業部門の自己申告に加え、法務・経理が二次照合(取引相手の商号・所在地・株主構成を関連当事者リストに照合)。該当した場合でもそこで止めず、①当社取締役が当該取引の当事者・代表者・代理人か(2号)、②会社と当該取締役の利益が具体的に相反する構造がないか(3号。取締役の債務保証・引受け・担保提供のほか、取締役が実質支配する相手先への利益移転等を含む)を判定し、356条1項1号・2号・3号のいずれかに該当する場合のみ機関承認フローへ分岐させる。

3

取引条件・必要性・税務論点の検討

取引条件が時価・通常の取引条件と整合するかを、市場価格・他社見積り・実勢との比較で検証する。事業上の必要性・代替取引先の有無を稟議書面に明記。条件に合理性が認められない場合は条件交渉・取引中止を検討する。この検討は356条に該当しない関連当事者取引でも実施する。価格妥当性検証資料は、機関承認時の参考資料、会計上の「取引条件及び取引条件の決定方針」の注記材料、税務上の寄附金・役員給与の指摘への説明資料として、三役で効いてくる。

4

機関承認の取得(取締役会または株主総会)

取締役会設置会社は取締役会で重要な事実を開示し承認決議(365条1項)。取締役会非設置会社は株主総会の普通決議(356条1項・309条1項)。当該取締役は特別利害関係取締役として議決から除外し、議事録に明記する(369条2項)。東証上場会社で支配株主関連の重要な取引等に当たる場合は、企業行動規範に基づく独立性を有する者からの意見入手と適時開示を並行して進める。

5

取締役会設置会社では取引実行後に事後報告(会社法365条2項)

取締役会設置会社では、取引実行後、遅滞なく取引についての重要な事実を取締役会に報告し、議事録に記載する。競業取引(1号)も報告対象である。典型項目は、実際の取引金額・履行状況・契約条件の変更有無・想定外事象の有無。取締役会の年間スケジュールに「356条1項各号取引の事後報告」を定例議題として組み込んでおくと、報告漏れを防ぎやすい。取締役会非設置会社は365条2項の対象外だが、社内記録として実行結果を保存する。

6

記録保存と注記用情報の経理連携

承認議事録・取引契約書・条件妥当性検討資料・事後報告議事録を一元保管。356条非該当と判断した案件についても、判断理由と確認した事実を記録に残す。重要な取引については期末に経理へ連携し、計算書類の個別注記表(会社計算規則112条)または有価証券報告書の関連当事者注記(財務諸表等規則8条の10等)を作成。重要性の数値基準(損益項目は10%等、貸借対照表項目・資金貸借等は総資産の1%、個人グループは1,000万円)への該当性も経理と共同で判定する。取引条件変更があれば随時記録を更新する。

社内共有用ルール例|そのままコピペで運用

以下は社内規程・社内チャットへ貼り付けて使えるテンプレートだ。自社の機関設計・上場区分に応じて文言を調整する。

RULE TEMPLATE 01

関連当事者取引 取扱規程(簡易版)

第1条(目的)
本規程は、当社の親会社・子会社・関連会社・主要株主・役員およびその近親者等(以下「関連当事者」)との取引について、利益相反の防止、適正な情報開示、適正な税務処理を行うため、必要な手続を定める。

第2条(関連当事者の範囲)
関連当事者の範囲は、会社計算規則112条4項および企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」に定める範囲とする。両者の範囲が異なる場合は、広い方を社内管理の対象とする。

第3条(自己申告)
役員および主要株主は、毎年4月および新任時に、自己および近親者が経営・出資する会社等、他社における役員兼務の状況およびその代表権の有無、ならびに当該他社に対する実質的な支配・影響力の有無に関する申告書を、法務部に提出する。

第4条(取引前申請・二段判定)
取引申請者は、取引相手が関連当事者に該当する可能性がある場合、稟議申請時にその旨を明記し、法務部の事前確認を受ける。法務部は、①会計・開示上の関連当事者該当性、および②会社法356条1項1号(競業取引)・2号(直接取引)・3号(間接取引)該当性を、それぞれ別個に判定する。②の判定にあたっては、当社取締役の取引上の立場に加え、当社と当該取締役との利益が具体的に相反する構造の有無を確認する。

第5条(事前承認)
会社法356条1項各号に該当する取引は、当社が取締役会設置会社である場合は取締役会(会社法365条1項)、取締役会非設置会社である場合は株主総会(会社法356条1項)において、当該取引につき重要な事実を開示し、事前の承認を取得する。取締役会決議による場合、当該取引について特別の利害関係を有する取締役は決議に参加しない(会社法369条2項)。

第6条(取引条件の合理性)
第5条の承認を得た場合においても、取引条件の公正性は別途確認するものとし、承認をもって取引条件が適正であると評価しない。関連当事者との取引条件は、時価その他通常の取引条件と整合する水準で決定し、独立当事者間であればどのような条件になるかを検証軸として、価格決定資料を保管する。

第7条(事後報告)
当社が取締役会設置会社である場合、取引実行後、当該取締役は遅滞なく当該取引の重要な事実(実際の取引金額・履行状況・条件変更の有無等)を取締役会に報告し、議事録に記載するものとする(会社法365条2項)。競業取引についても同様とする。取締役会非設置会社では同項に基づく取締役会への事後報告義務はないが、実行結果および承認時条件との差異を社内記録として保存する。

第8条(記録・開示)
承認・実行された取引について、契約書・議事録・条件妥当性検討資料・事後報告記録を保存する。会社法356条の承認を要しないと判断した関連当事者取引についても、判断の理由を記録し、注記用情報を経理部門に連携する。

RULE TEMPLATE 02

関連当事者該当性 セルフチェック(営業・購買向け)

【A】関連当事者チェック(会計開示・税務の論点)── 1つでも該当したら法務部へ

☐ 取引相手は当社の親会社・子会社・兄弟会社・関連会社・その他の関係会社か
☐ 取引相手は当社の主要株主(議決権10%以上)またはその二親等内の親族か
☐ 取引相手は当社または親会社の役員か、その二親等内の親族か
☐ 取引相手は、当社・親会社の役員、主要株主、またはその近親者が議決権の過半数を保有する会社か

【B】会社法356条チェック(機関承認の論点)── 1つでも該当したら承認フローへ

☐ 取引の相手方(契約当事者)が当社の取締役本人である → 2号(直接取引)
☐ 相手方を代表または代理して契約するのが当社の取締役である → 2号(直接取引)
☐ 当社が当社取締役個人の債務を保証・引受け・担保提供する → 3号(間接取引)
☐ 当社が、当社取締役が代表を兼務する他社の債務を保証する → 3号(間接取引)
☐ 当社取締役が、自己または他社のために当社と同種・同市場の取引を行う → 1号(競業取引)

【C】3号の追加チェック(実質判定)── 1つでも該当したら法務部が3号該当性を正式に検討

☐ 当社取締役が相手会社の議決権・役員構成・意思決定を実質的に握っている
☐ 相手会社の代表者が当社取締役の配偶者・親族であり、実務は当社取締役が仕切っている
☐ 取引が無償・著しい低廉・回収可能性に疑義のある資金提供である
☐ 当社取締役が相手会社の債務を個人保証している
☐ 取引により当社取締役個人の持分価値・債務負担が直接増減する

【A】のみ該当=機関承認は不要だが、注記・税務・記録は必要。
【B】または【C】該当=機関承認の要否を法務部が判定。取締役会設置会社では、特別利害関係取締役の議決除外・365条2項の事後報告も確認。
判断に迷う場合は必ず法務部に事前相談すること。

RULE TEMPLATE 03

取締役会議事録 記載例(事前承認:直接取引)

議題:利益相反取引(直接取引)の承認の件(会社法第356条第1項第2号・第365条第1項)

議長は、取締役○○氏より、当社と××株式会社との間における△△契約の締結について、当該取締役が××株式会社の代表取締役として同社を代表して本契約を締結する予定であり、本契約が会社法第356条第1項第2号に定める利益相反取引(直接取引)に該当する旨の説明があった。

取締役○○氏より、本取引の内容、取引金額、取引条件、取引の必要性および代替取引先の有無について重要な事実の開示があり、取引条件は時価その他通常の取引条件と整合する水準で決定されている旨の説明があった(価格決定資料:別紙○)。

議長は、当該取締役○○氏は会社法第369条第2項に定める特別の利害関係を有する取締役にあたるため、本決議に参加できない旨を確認し、退席を求めた。

議長は、その他の取締役全員に対し本取引の承認について諮ったところ、審議の上、出席取締役(特別の利害関係を有する取締役を除く)の全員一致により本取引を承認することが決議された。

RULE TEMPLATE 04

取締役会議事録 記載例(事後報告:会社法365条2項)

議題:会社法第356条第1項各号の取引に係る事後報告の件

取締役○○氏より、第○回取締役会において承認を受けた当社と××株式会社との△△契約に基づく取引について、以下のとおり実行が完了した旨の報告があった(会社法第365条第2項)。

 ・実際の取引金額: ◯◯円
 ・履行時期: ○年○月○日
 ・取引条件の変更の有無: なし(または変更内容を記載)
 ・承認時に開示した条件との差異: なし(または差異の内容および理由)
 ・想定外事象の有無: なし

各取締役および各監査役より特段の質疑なく、本報告を了承した。

この標準に従わないリスク

⚠️ 関連当事者取引のコントロールが破綻すると何が起きるか

関連当事者取引の管理は「やっておけばよい」ではなく、不備があった場合に取締役個人および会社にダイレクトに損害賠償・税務追徴・開示違反が降ってくる領域だ。以下は実務でよく見られる破綻パターンと、その帰結である。

破綻パターン 直接の法的・税務的帰結 実務での連鎖影響
承認なく利益相反取引(2号・3号)を実行 会社法423条3項により当該取締役の任務懈怠が推定/相対的無効説により会社が取引の無効を主張できる場合がある 株主代表訴訟リスク/取締役解任の正当事由の評価/取締役個人の損害賠償責任
「取締役が代表者でないから3号非該当」と即断し、実質支配先への取引を承認なく実行 後日、利益相反取引該当性が認められれば423条3項の推定を受け、取引自体の無効主張も生じ得る(東京地判平25.9.27の構図) 資産の返還請求訴訟/グループ内紛争・株主間紛争への発展/過去取引の遡及調査
承認なく競業取引(1号)を実行 会社法423条2項により、取締役等が得た利益の額が会社の損害額と推定される 事業機会・顧客の流出/損害額の立証負担が取締役側へ/競業避止に関する紛争の長期化
「関連当事者=要承認」と誤解し、不要な承認を大量に上げる 法的な瑕疵はないが、取締役会の審議が形骸化 本来審議すべき重要案件の埋没/現場の稟議遅延と抜け道運用の常態化
取締役会設置会社で事後報告(会社法365条2項)の議事録が存在しない 監査役監査・会計監査人監査での指摘/善管注意義務違反の評価 監査意見への影響/上場審査・M&Aデューデリでの重大指摘/是正対応コスト
自己のために直接取引を実行(承認の有無を問わず) 会社法428条により帰責事由のないことを証明しても責任を免れず、責任限定契約・一部免除も適用されない 取締役個人の財産で会社の損害を賠償する事態/総株主の同意がなければ免除不可
取引条件が時価・通常の取引条件から不合理に乖離 時価との差額が実質的な贈与等と認められる場合は寄附金(損金不算入)、役員が個人として負担すべき支出を会社が負担した場合等は役員給与として取り扱われ得る 追徴税額/延滞税・加算税/税務当局との対応コスト/同様の取引の遡及指摘
会社計算規則112条の注記漏れ 計算書類の重要な不備/監査意見への影響 株主総会での計算書類承認に支障/決算スケジュール遅延/監査法人との関係悪化
有価証券報告書の関連当事者注記漏れ(上場会社) 金融商品取引法上の重要事項に係る虚偽記載リスク/訂正報告 課徴金リスク/レピュテーション損害/株主からの損害賠償請求
支配株主関連の重要な取引等で独立性を有する者の意見を取らない(東証上場会社) 企業行動規範違反/公表措置、上場契約違約金、改善報告書徴求、特別注意銘柄指定等の対象 市場の信頼低下/投資家との対話困難化
IPO準備中に未整理の関連当事者取引が発覚 上場審査での重大指摘/審査長期化または不適合 IPOスケジュール白紙/主幹事証券・監査法人との関係悪化/管理体制の根本的見直し
事業承継・M&A時に過去の関連当事者取引が発覚 取引価格への影響/表明保証違反のリスク クロージング遅延/賠償条項発動/買収条件の見直し

特に注意すべきは、会社法423条2項・3項の推定規定と428条の無過失責任、加えて税務上の寄附金・役員給与の論点だ。これらは取締役個人の財布から賠償・追徴を求められうる規定であり、取締役会承認を経ていても完全に免れるわけではない。法務部門が承認手続を代行するだけでは足りず、取締役個人にもこのリスクの所在を説明し、取引条件の合理性の検証と記録を徹底することが、結果として取締役個人を守ることにつながる。

まとめ

関連当事者取引は、「禁止すべきもの」でも「気にしなくていいもの」でもない。会社法・会計基準・税法・上場規程が、それぞれ違う目的で同じ取引にコミットしている領域である。そして、最も事故が起きやすいのは、この4つの規制を「関連当事者取引」というひとつの箱にまとめて処理してしまう社内運用だ。

本記事の中核メッセージはひとつに尽きる。関連当事者取引は広い管理・開示概念であり、会社法356条1項2号・3号の利益相反取引とは一致しない。親族会社や主要株主関係会社との取引についても、取締役本人の取引上の立場と、会社と取締役の具体的な利益相反構造の両方を確認したうえで、会社法上の承認要否を判定する。そして356条1項の中でも、1号の競業取引と2号・3号の利益相反取引は、規制趣旨も責任規定も異なる別類型として扱う。

この判定は、どちらか一方に振り切ると必ず事故になる。「親族の会社だから一律に取締役会承認」は法的根拠を欠き、取締役会の審議を形骸化させる。他方「取締役が代表者でないから常に安全」も誤りで、取締役が実質的に支配する相手先との対価性に疑義のある取引は、利益相反取引と評価され得る。形式(取引上の立場)と実質(利害の対向構造)を両方見るのが実務標準である。

非上場の中小オーナー会社こそ、社長親族の会社・社長個人との取引が多発し、後日の株主間紛争・相続・事業承継・M&Aデューデリジェンス時に問題化することが多い。「うちは上場していないから」は理由にならない。会社法356条・369条・423条・428条は企業規模・上場区分にかかわらず適用され、取締役会設置会社では365条も適用される。

関連当事者リストを年1回更新し、役員から代表権・実質支配の有無まで含めて自己申告を取得し、取引申請時に二段スクリーニングをかけ、356条該当取引には自社の機関設計に応じた承認を徹底し、取締役会設置会社では特別利害関係取締役の議決除外+事後報告まで実施し、承認の有無にかかわらず取引条件の合理性を検証して記録し、注記情報を経理に連携する――この6ステップを継続運用できる仕組みを持つ会社が、結果として「事故が起きない会社」になる。

📋 本記事のまとめ

  • 関連当事者取引は禁止ではない。「識別・機関承認・会計開示・税務」の4層で通すのが実務標準(東証上場会社は上場規制レイヤーが加わる)
  • 関連当事者取引と会社法上の利益相反取引は重なるが一致しない。関連当事者だから356条、という整理は誤り
  • 会社法356条1項1号は競業取引、2号は直接取引、3号は間接取引。1号は利益相反取引ではない。損害額推定は423条2項、任務懈怠推定は423条3項と、責任規定も分かれる
  • 2号の「自己又は第三者のために」は名義説が多数説。取締役が取引の名義人か、相手方を代表・代理しているかが判定軸。役員兼務・親族関係・出資だけでは該当しない
  • 3号は「取締役個人の債務の肩代わり」に限定されない。債務保証・引受け・担保提供は例示であり、取締役が相手会社を実質的に支配しているなど会社と取締役の利害が具体的に対向する事情があれば、個別に3号該当性を検討する(東京地判平25.9.27)
  • 承認機関は、取締役会設置会社は取締役会(365条1項)、非設置会社は株主総会。取締役会設置会社では、特別利害関係取締役は議決に加われず(369条2項)、事後報告(365条2項)は競業取引も対象
  • 会社法上の承認と取引条件の公正性は別。承認を得ても423条3項の推定は働き、自己のための直接取引には428条の無過失責任が及ぶ
  • 会計開示は会社計算規則112条(個別注記表。会計監査人設置会社以外は4号〜6号・8号を省略可)と財務諸表等規則8条の10等。「1%基準」は貸借対照表項目・資金貸借等の基準であり、損益項目は10%、特別損益と個人グループは1,000万円
  • 税務は、取引条件が時価・通常の取引条件から不合理に乖離する場合に寄附金・役員給与等の論点が生じ得る。独立当事者間の条件を検証軸として価格根拠を残す
  • 上場規制は、CGコード(2026年7月21日改訂版)原則4-3(3)=旧・原則1-7(プライム・スタンダード市場が原則の適用対象、グロース市場は基本原則のみ)と、東証企業行動規範(上場規程441条の2・施行規則436条の4)。支配株主関連の重要な取引等では独立性を有する者からの意見入手と適時開示が必要で、反復・継続的な営業取引は通常対象外
  • 非上場会社でも会社法上の規制・注記義務・税務の論点は同じ。中小オーナー会社こそ発生頻度が高い

一次資料・公的資料

本記事は2026年9月25日時点で、以下の一次資料・公的資料を基準に再確認している。

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