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シリーズ第8話

NDAレビューをAIで効率化する方法|秘密情報・目的外利用・返還廃棄条項の見方

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NDAは「短い契約書」ではない

秘密保持契約(NDA)は、条文数が比較的少なく、「短い契約書だから簡単」と思われがちです。しかし実務では、秘密情報の定義の広狭、利用目的の明確さ、例外情報の網羅性、返還・廃棄の実務対応、秘密保持期間の長短、損害賠償・差止め条項の有無など、重要な論点が凝縮されています。
NDAの条文は短くても、そこに含まれるリスクは決して小さくありません。

ChatGPTをはじめとする生成AIは、NDAレビューの初動整理・論点抽出・修正文案・コメント案作成に活用できます。ただし、NDAをそのままAIに貼り付けて「問題点を教えて」と聞くだけでは、実務に必要な深さの回答は得にくいのが実情です。

本記事では、NDAレビューをAIで効率化するための実務的な方法を、立場の整理・主要条項の確認観点・プロンプト例とともに解説します。最終的な法的判断は、必ず法務担当者・責任者・必要に応じて弁護士が行ってください。

NDAレビューでは、秘密情報の定義・目的外利用・例外条項・返還廃棄・秘密保持期間など、短い契約書でも確認すべきポイントが多くあります。レビュー用の指示文を毎回ゼロから考えるのが手間な方は、契約書AIレビュー専用プロンプト集もあわせてご確認ください。

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まず結論:NDAレビューでは「立場」と「情報の流れ」を整理する

NDAをAIにレビューさせる場合も、まず以下を明確にすることが最優先です。

  • 自社が開示者か、受領者か、双方開示か:立場によって見るべきポイントが根本的に異なります。
  • 片務NDAか双務NDAか:片務NDAでは義務の非対称性に注意が必要です。
  • どの情報を、誰に、何の目的で開示するか:情報の種類・開示目的・開示先の明確化が、NDA評価の基礎となります。

これらを指定せずにAIに「このNDAをレビューしてください」と依頼すると、立場不明の汎用的な指摘しか返ってきません。「当社は受領者側。相手方から技術情報の開示を受ける。目的は新製品の共同開発検討」のように背景を指定することで、実務に役立つ回答に近づきます。

また、NDAに自社の秘密情報・取引先情報・個人情報が含まれる場合、AIへの入力前にマスキング・匿名化を検討することも重要です(詳細は後述します)。

図解:NDAレビューにAIを使う流れ

① NDAと取引背景を確認
取引の目的・相手方・情報の種類・取引規模・案件の重要度を把握する
② 自社の立場を整理する
以下のいずれかを確認する:
開示者
情報を渡す側
受領者
情報を受け取る側
双方開示
相互に情報交換
③ 秘密情報・目的・開示範囲を整理
開示する(または受領する)情報の種類、目的、開示先(役職員・委託先・グループ会社等)を明確化する
④ ChatGPT(AI)で確認観点・リスク候補を抽出
立場・前提条件を指定したプロンプトで、条項ごとのリスク候補・確認観点を整理させる
⑤ 修正文案・コメント案を作成
AIに修正文案のたたき台・社内向けコメント・相手方向けコメントを生成させる
⑥ 法務担当者が確認・補正
AIの出力を事実・法令・自社方針・交渉状況に照らして確認・修正する。重要案件は弁護士確認も検討する
⑦ 社内説明・相手方交渉・記録化
上長報告・相手方へのコメント送付・レビュー履歴の記録・締結管理
NDAレビューでは、契約書の文言だけでなく、どの情報がどの方向に流れるかを整理することが重要です。情報の流れを把握したうえでAIに指示することで、実務に近い観点整理が得られます。

NDAレビューでAIが得意なこと

NDAレビューにおいて、AIは以下の作業を補助するのに役立ちます。

  • 秘密情報の定義の広狭の整理:定義が開示者にとって狭すぎないか、受領者にとって広すぎないかを文言ベースで整理させる
  • 利用目的・目的外利用の確認:目的条項の曖昧さ、実務上の使いにくさを洗い出す
  • 第三者開示先の整理:役職員・グループ会社・外部専門家・委託先への開示条件を確認する
  • 例外情報の確認:公知情報・既知情報・独自開発情報・法令開示などが適切に網羅されているか確認する
  • 返還・廃棄条項の確認:複製物・電子データ・派生資料を含む廃棄義務の実務的重さを整理する
  • 秘密保持期間の確認:開示者側・受領者側それぞれの観点から期間の長短を評価する
  • 損害賠償・差止め条項のリスク候補抽出:違反時のリスクをリストアップさせる(実現可能性の判断は人間が行う)
  • 修正文案のたたき台作成:条項修正の方向性と文案のたたき台を作成させる
  • 社内向け・相手方向けコメント案の作成:表現のトーンを変えたコメント案を複数生成させる
  • NDAチェックリストの作成:確認漏れ防止のためのチェックリストを業種・目的別に出力させる
注意:AIの出力は「見落とし防止のための候補」であり、法的判断そのものではありません。AIが「問題ない」と判断しても、実務上のリスクがゼロとは限りません。最終確認は必ず法務担当者が行ってください。

NDAレビューでAIに任せてはいけないこと

  • 最終的な法的判断:条項の有効性、法令適合性、自社への法的影響の最終評価は人間が行う
  • どの情報を営業秘密として扱うかの最終判断:営業秘密該当性(秘密管理性・有用性・非公知性)の評価は法務担当者・弁護士が行う
  • 自社の秘密管理体制の評価:社内のアクセス管理・台帳整備・教育状況は人間が確認する
  • 開示してよい情報の範囲の経営・事業判断:何をどこまで相手方に開示するかは経営判断であり、AIに決めさせるものではない
  • 相手方との交渉方針の最終決定:どの条項にどの程度こだわるかは、取引上の関係性・優先度を踏まえて人間が決める
  • 高度な技術情報・個人情報・営業秘密をそのままAIに入力すること:情報の性質上、無加工での外部AI入力は避けるべきケースが多い
  • 紛争性のあるNDA違反案件の結論:違反の有無・損害額・差止め可能性は専門家の関与が必要
  • 損害賠償・差止めの実現可能性の判断:法院・仲裁での実際の見通しはAIでは判断できない

表:NDAレビューでAIに向いている作業・人間が判断すべき作業

作業の種類 AIが担当しやすいこと 人間が判断すべきこと 注意点
論点整理 条項ごとの確認観点・リスク候補のリストアップ 自社の事業・取引背景を踏まえた優先順位の判断 AIは背景情報なしには的外れな指摘をすることがある
秘密情報の定義確認 定義の広狭・含まれる情報類型の整理 自社が開示・受領する情報との整合性判断 口頭情報や派生情報が含まれるか要注意
例外条項の確認 公知・既知・独自開発・法令開示の文言確認 例外の過不足が自社に及ぼす影響の評価 例外のない契約は受領者側に過度に不利
返還・廃棄の整理 廃棄対象の範囲・廃棄証明の要否の確認 自社の電子データ管理体制・実務対応可能性の判断 バックアップ・法定保存文書の扱いに注意
修正文案 条項修正のたたき台・複数案の作成 文案の採否・法的正確性・交渉方針の最終確認 そのまま相手方に送付しない
コメント案作成 社内向け・相手方向けの表現案の下書き コメントの対外送付前の確認・承認 交渉戦略・相手方との関係を踏まえて調整が必要
チェックリスト作成 確認漏れ防止のためのリスト生成 自社の実務フローに合わせたカスタマイズ 業種・取引類型に応じた調整が必要
損害賠償・差止め 条項のリスク候補のリストアップ 実際の請求可能性・訴訟見通しの判断 重要案件は弁護士確認を推奨

NDAレビューで最初に整理すべき前提条件

AIへの指示の前に、以下の前提条件を整理しておくと、出力の精度が上がります。

前提条件の項目 整理内容の例 整理するとよい理由
自社の立場 開示者 / 受領者 / 双方開示 立場によって見るべき条項が正反対になるため
NDAの種類 片務NDA(一方のみ義務あり)/ 双務NDA(双方に義務あり) 片務か双務かで交渉上の立場が変わるため
開示する情報の種類 技術情報・営業情報・顧客情報・価格情報・個人情報・知財情報 など 情報の性質によって秘密保持期間・廃棄義務の重さが異なるため
開示目的 業務委託検討・共同開発・M&A・提携・製品購入検討 など 目的の範囲が狭すぎると実務に支障が出るため
開示先の範囲 役職員のみ / グループ会社 / 外部専門家 / 委託先 など 第三者開示の範囲が実務運用に合っているか確認するため
開示期間・秘密保持期間 開示期間:3か月 / 秘密保持期間:契約終了後3年 など 情報の陳腐化スピードや事業リスクに照らして適切か確認するため
返還・廃棄の実務対応 紙資料の返還 / 電子データの完全削除 / 廃棄証明書の要否 自社の情報管理体制で実際に対応可能か確認するため
想定されるリスク 情報漏えい・目的外使用・再開示・NDA違反 など リスクの優先順位を絞ることで出力の精度が上がるため
出力形式 リスク表 / 修正文案 / 社内コメント / 相手方コメント 出力形式を指定しないと汎用的な文章になりやすいため

開示者側で見るべきポイント

自社が秘密情報を開示する立場(開示者側)の場合、以下の点を重点的に確認してください。

  • 秘密情報の定義が狭すぎないか:定義が狭いと、実際に開示した情報が「秘密情報」に該当しない場合があります。
  • 口頭開示・視覚開示・サンプル・デモ情報が含まれるか:書面以外の方法で開示した情報が保護されるかを確認してください。
  • 秘密表示がない情報の扱い:「秘密」の表示をしなかった情報が自動的に除外されないか確認します。
  • 目的外利用が明確に禁止されているか:目的条項が曖昧だと、受領者に広く利用される可能性があります。
  • 第三者開示の範囲が広すぎないか:再開示できる相手の範囲・条件が限定されているかを確認します。
  • 複製・管理義務があるか:受領者が秘密情報を適切に管理する義務(アクセス制限・保管方法)が定められているかを確認します。
  • 返還・廃棄義務が明確か:契約終了後に速やかに返還・廃棄させる義務が明記されているかを確認します。
  • 差止め・損害賠償の規定が適切か:NDA違反時に差止請求・損害賠償請求ができる根拠があるかを確認します。
  • 秘密保持期間が短すぎないか:情報の性質に照らして、保護が必要な期間と一致しているかを確認します。

受領者側で見るべきポイント

自社が秘密情報を受け取る立場(受領者側)の場合、以下の点を重点的に確認してください。

  • 秘密情報の定義が広すぎないか:定義が過度に広いと、実質上すべての情報が秘密情報になり、業務遂行に支障が出る場合があります。
  • 既知情報・公知情報・独自開発情報などの例外があるか:これらの例外がないと、受領者側が不当に広い義務を負うことになります。
  • 目的の範囲が狭すぎて実務運用に支障がないか:検討目的だけでなく、実際の業務遂行に必要な利用が認められているかを確認します。
  • 役職員・専門家・委託先への開示が認められているか:業務遂行上必要な社内外への開示が適切に認められているかを確認します。
  • 返還・廃棄義務が過度に重くないか:電子データの完全削除・廃棄証明書の提出が実務上対応可能な範囲かを確認します。
  • 損害賠償・違約金・差止めが過大ではないか:損害額の予定・違約金の金額が過大で不均衡ではないかを確認します。
  • 秘密保持期間が無期限または過度に長くないか:情報の性質に対して過度に長い期間の義務は交渉対象となりえます。
  • 個人情報や第三者情報を受け取る場合の体制があるか:受け取る情報に個人情報が含まれる場合、自社の個人情報保護体制との整合を確認します。

表:開示者側・受領者側で見るべきNDA条項

条項 開示者側の確認ポイント 受領者側の確認ポイント AIプロンプト指定のコツ
秘密情報の定義 定義が狭すぎず、口頭・視覚・サンプル情報を含むか 定義が広すぎず、既に保有する情報が巻き込まれないか 「定義の広狭と含まれる情報の類型を整理して」と指定
利用目的 目的が曖昧で目的外利用の余地がないか 目的が狭すぎて実務遂行に支障が出ないか 「実務上使いにくい点を指摘して」と指定
第三者開示 再開示の範囲・条件が限定されているか 役職員・専門家・委託先への開示が認められているか 「開示できる相手と条件を整理して」と指定
秘密情報の例外 例外が広すぎてほぼ全情報が対象外にならないか 公知・既知・独自開発・法令開示の例外があるか 「例外条項の過不足を整理して」と指定
返還・廃棄 廃棄義務が明確で証明が取れる仕組みがあるか 廃棄義務が過度に重く、実務対応が困難でないか 「実務上の廃棄対応の難易度を整理して」と指定
秘密保持期間 情報の性質に照らして短すぎないか 無期限または過度に長い義務でないか 「情報の種類ごとに期間の適否を整理して」と指定
損害賠償・差止め 違反時に差止め・賠償請求の根拠があるか 損害額予定・違約金が過大でないか 「違反時のリスク候補を整理して」と指定

主要条項1:秘密情報の定義

秘密情報の定義は、NDAレビューで最も重要な確認箇所の一つです。定義が不明確・不十分だと、NDA締結後の運用で「これは秘密情報か?」という争いが生じるリスクがあります。

開示者側が注意すべきポイント

  • 書面で開示した情報のみが対象とされ、口頭情報・視覚情報・サンプル情報・デモ情報が除外されていないかを確認する
  • 「秘密」の表示がない情報が自動的に除外される構造になっている場合、口頭開示後に一定期間内に書面で確認することが求められるか確認する
  • 電子データ・ノウハウ・派生情報(相手方が作成した分析資料など)が含まれるかを確認する

受領者側が注意すべきポイント

  • 定義が「開示された一切の情報」のように包括的すぎる場合、受領者の通常業務に支障が出る
  • 秘密情報の範囲が契約の目的(検討・共同開発・委託等)と整合しているか確認する

AIで定義の広狭を整理する方法

条項を貼り付けたうえで、「秘密情報として含まれる情報類型と除外される情報類型を整理してください。当社は受領者側です」のように指示すると、定義の構造を整理した出力を得やすくなります。

主要条項2:利用目的・目的外利用の禁止

NDAにおける「目的」は、秘密情報をどの範囲で使ってよいかを規定する重要な条項です。

  • 開示者側:目的が曖昧すぎると、受領者が情報を広く利用できる余地が生まれます。「○○プロジェクトの検討目的のみ」のように目的を限定する文言があるかを確認してください。
  • 受領者側:目的が狭すぎると、受領した情報を実際の業務遂行に活用できない場合があります。「検討目的のみ」と書かれた場合に、実際の実装・開発フェーズに入ったときの扱いを確認してください。

ChatGPTには、「目的条項の文言が実務上使いにくい点があれば指摘してください。修正文案の方向性も示してください」のように依頼すると、具体的な改善候補を得やすくなります。

修正文案例の方向性

  • 開示者側:「本情報は、◯◯プロジェクトに関する業務委託の可否を検討する目的にのみ使用するものとし、その他の目的には一切使用してはならない」のように目的を限定・具体化する
  • 受領者側:「本情報は、◯◯プロジェクトに関する業務の検討および遂行のために必要な範囲で使用できる」のように、遂行フェーズも含める修正を提案する

主要条項3:第三者開示・役職員等への開示

業務遂行上、秘密情報を役職員・グループ会社・外部専門家・委託先等に共有する必要が生じることは珍しくありません。

確認すべきポイント

  • 開示者側:受領者が再開示できる相手の範囲が限定されているか。「必要最小限の役職員に限る」「開示前に秘密保持義務を課す」などの条件があるかを確認する
  • 受領者側:業務遂行上必要な委託先・専門家への開示が認められているか。開示前に秘密保持義務を課すことを条件に開示が認められているかを確認する

AIには「第三者開示の条件と範囲を整理し、実務遂行上問題になりうる点を指摘してください」のように依頼すると整理しやすくなります。

主要条項4:秘密情報の例外

受領者側にとって、秘密情報から除外される「例外」の規定は極めて重要です。以下の例外が揃っているかを確認してください。

  • 開示を受けた時点で公知であった情報
  • 開示を受けた時点で受領者が既に知っていた情報
  • 開示後に受領者の責によらず公知になった情報
  • 受領者が正当に第三者から取得した情報
  • 受領者が開示情報を参照せずに独自に開発した情報
  • 法令・裁判所・行政機関による開示要求に基づく開示(この場合は開示者への事前通知義務を設けることが多い)

これらの例外がない場合、または不十分な場合、受領者側に不当に広い義務が生じます。逆に例外が広すぎると開示者側の情報保護が弱まります。AIに「例外条項の過不足を整理してください。受領者側の観点から問題点を指摘してください」のように依頼すると有用です。

主要条項5:返還・廃棄条項

契約終了時や開示者からの請求時に、秘密情報を返還または廃棄する義務を定めた条項です。実務上の対応可能性を慎重に確認する必要があります。

確認すべきポイント

  • 廃棄の対象範囲:原本だけでなく、複製物・バックアップ・電子データ・派生資料・メモも含まれるかを確認する
  • 廃棄証明書の要否:廃棄後に証明書を提出する義務があると、実務的な手続きが増える
  • 法令・内部統制上の保存義務との整合:法令上保存が義務付けられている書類は廃棄できないため、例外規定があるかを確認する
  • 電子データの「完全削除」の実務的難易度:クラウドストレージ・バックアップサーバ上のデータを完全に削除することが現実的かを確認する
  • 廃棄期限:「契約終了後○日以内」という期限が実務対応上合理的かを確認する

AIには「返還・廃棄義務の実務上の対応難易度を整理してください。受領者側の観点から問題点と修正方針を示してください」のように依頼すると具体的な観点を得られます。

主要条項6:秘密保持期間

秘密保持期間は、「契約期間中」と「契約終了後の存続期間」に分けて確認することが重要です。

  • 開示者側:情報の価値が長期にわたって失われない場合(技術ノウハウ・顧客情報・営業戦略)は、秘密保持期間が過度に短くないか確認します
  • 受領者側:秘密保持義務が「無期限」または「永続的に有効」と定められている場合、過度な義務を負う可能性があります。合理的な期間(例:契約終了後3〜5年)への修正を検討します
  • 情報の種類別の検討:技術情報・営業情報・個人情報・営業秘密は、それぞれ陳腐化のスピードが異なります。情報の性質に応じた期間が設定されているかを確認します

AIには「情報の種類ごとに秘密保持期間の適否を整理してください」のように依頼すると整理しやすくなります。

主要条項7:損害賠償・差止め

NDA違反があった場合の法的対応として、損害賠償と差止めは重要な手段です。

  • 損害賠償の範囲:特別損害・逸失利益・弁護士費用が含まれるかを確認します(受領者側は過大な損害賠償義務に注意)
  • 違約金・損害賠償額の予定:あらかじめ損害額を定める規定がある場合、その金額が合理的かを確認します
  • 差止め・仮処分の可能性:情報が一度漏えいすれば回復が困難なため、差止め請求の根拠がNDAに明記されているかを確認します(法律上も差止め請求自体は可能ですが、NDA上の根拠があると交渉上有利になります)
  • AIで確認できること:リスク候補の整理・開示者と受領者それぞれの観点からの問題点の抽出。ただし、実際の請求可能性・訴訟見通しはAIでは判断できません。重要案件では弁護士への確認を推奨します

図解:NDA主要条項チェックマップ

① 秘密情報の定義
開示者口頭・サンプル・電子データが含まれるか
受領者定義が広すぎて通常業務に支障が出ないか
② 利用目的
開示者目的が曖昧で目的外利用の余地がないか
受領者目的が狭すぎて業務遂行に支障が出ないか
③ 第三者開示
開示者再開示の範囲・条件が限定されているか
受領者委託先・専門家への開示が認められているか
④ 例外情報
開示者例外が広すぎて保護が形骸化しないか
受領者公知・既知・独自開発・法令開示の例外があるか
⑤ 返還・廃棄
開示者複製物・電子データを含む廃棄義務があるか
受領者完全廃棄・証明書が実務上対応可能か
⑥ 秘密保持期間
開示者情報の価値に照らして短すぎないか
受領者無期限・過度に長期でないか
⑦ 損害賠償・差止め
開示者違反時に差止め・賠償請求の根拠があるか
受領者損害額予定・違約金が過大でないか

NDAレビューで使えるプロンプト例1:リスク抽出(開示者側)

プロンプト例 / NDA リスク抽出(開示者側)
あなたは企業法務担当者を支援する立場です。
以下のNDAについて、当社が【開示者側】である前提で、
当社に不利または確認が必要な条項を抽出してください。

特に、以下の観点を重点的に確認してください:
- 秘密情報の定義(口頭情報・サンプル・電子データが含まれるか)
- 利用目的および目的外利用の禁止
- 第三者開示の範囲と条件
- 秘密情報の例外(例外が広すぎないか)
- 返還・廃棄条項の明確さ
- 秘密保持期間(短すぎないか)
- 損害賠償・差止めの根拠

出力は以下の表形式にしてください:
| 条項名 | リスク内容 | 重要度(高・中・低)| 確認理由 | 修正方針 | 社内確認事項 |

最終判断は人間が行う前提で、見落とし防止のための候補として整理してください。

【NDA本文をここに貼り付け】

このプロンプトのポイント

  • 「開示者側」と明示:立場を指定することで、開示者に不利な条項に焦点を絞った出力を得られます
  • 重点確認事項を列挙:確認してほしい条項を具体的に指定することで、重要論点の見落としを防ぎます
  • 表形式を指定:「重要度・修正方針・社内確認事項」を列にすることで、そのまま社内レビュー資料として使いやすくなります
  • 「最終判断は人間が行う前提で」:AIが過度に断定的な判断を下すのを防ぎ、候補整理に徹した出力になるよう促します

NDAレビューで使えるプロンプト例2:受領者側レビュー

プロンプト例 / NDA リスク抽出(受領者側)
あなたは企業法務担当者を支援する立場です。
以下のNDAについて、当社が【受領者側】である前提で、
過度に広い義務・実務運用上対応が難しい条項・修正を検討すべき条項を抽出してください。

特に、以下の観点を確認してください:
- 秘密情報の定義(広すぎないか、通常業務に支障が出ないか)
- 例外情報(公知・既知・独自開発・法令開示の例外が整備されているか)
- 利用目的(実務遂行に必要な範囲が確保されているか)
- 役職員・外部専門家・委託先への開示が認められているか
- 返還・廃棄義務(電子データの完全削除・廃棄証明書が実務対応可能か)
- 秘密保持期間(無期限または過度に長期でないか)
- 損害賠償・違約金(過大でないか)

出力は以下の表形式にしてください:
| 条項名 | 実務上の懸念 | 修正方針 | 修正文案(たたき台)| 相手方へのコメント案 |

【NDA本文をここに貼り付け】

このプロンプトのポイント

  • 「受領者側」の立場を明示:受領者に過度な義務がある条項を重点的に抽出させます
  • 「実務運用上対応が難しい条項」:法的リスクだけでなく、実務運用上の課題も抽出させる指定です
  • 修正文案と相手方コメント案をセットで依頼:レビューから交渉準備まで一気に整理できます

NDAレビューで使えるプロンプト例3:相手方へのコメント作成

プロンプト例 / 相手方向けNDAレビューコメント
上記の修正文案について、相手方に送るNDAレビューコメント案を作成してください。

作成にあたり、以下の方針に従ってください:
- 相手方を責める表現は避ける
- 秘密情報の管理実務・責任範囲の明確化・当社内での運用可能性という観点から説明する
- 長期的なビジネス関係を前提に、柔らかく交渉しやすい表現にする
- 相手方の合理的な懸念にも配慮した表現とする

出力は以下の表形式にしてください:
| 対象条項 | コメント案 | 表現上の注意点 |

このプロンプトのポイント

  • 「相手方を責めない」:法務担当者が対外コメントとしてそのまま使いやすい、建設的な表現を促します
  • 「運用可能性の観点」:法的リスクではなく、実務上の課題として伝えることで、交渉がスムーズになりやすくなります
  • 事前に修正文案を確認してから使う:このプロンプトは、プロンプト例2で作成した修正文案を確認・補正した後に使うことを想定しています

表:NDAレビュー用プロンプトに入れるべき要素

要素 具体例 入れる理由 入れない場合のリスク
自社の立場 「当社は開示者側」「当社は受領者側」 立場によってリスクの方向が正反対になるため 立場不明の汎用的な指摘しか返ってこない
片務・双務の指定 「本NDAは片務NDA(当社のみ秘密保持義務あり)」 双方の義務の非対称性を前提にした評価が得られるため 双務NDAと誤った前提で評価される可能性がある
開示情報の種類 「開示情報は製品設計情報・価格情報・顧客リスト」 情報の性質によって秘密保持期間・廃棄義務の評価が変わるため 情報の特性を考慮しない一般的な回答になる
開示目的 「新製品の共同開発検討目的」 目的の適切さ・範囲の妥当性を評価できるため 目的の過不足が見えない分析になる
開示先の範囲 「自社の役職員・外部弁護士・国内委託先に開示する予定」 第三者開示の過不足を確認できるため 実務上必要な開示が認められているか確認できない
重点確認条項 「特に例外条項・返還廃棄・秘密保持期間を重点確認」 出力の精度と重点が絞られるため 全条項が均等に扱われ、重要論点が埋もれる
出力形式 「条項名・リスク・重要度・修正方針・社内確認事項の表形式」 そのまま社内資料・交渉メモに転用しやすいため 文章形式で読みにくい出力になりやすい
コメントの用途 「社内上長への報告用」「相手方への送付用」 用途によって表現のトーンを変えた出力が得られるため 社内・対外で同じ表現になり、そのまま使いにくくなる
注意事項の明示 「最終判断は人間が行う前提で、候補として整理してください」 AIが過度に断定的な結論を出すのを防ぐため 根拠のない断定的な結論が返ってくることがある

NDAレビューとマスキングの関係

NDAのレビューを行う際、AIに入力するNDA本文には、取引先名・プロジェクト名・担当者情報・技術情報・価格条件・顧客情報が含まれているケースがあります。

以下のような場合、秘密情報・個人情報・営業秘密をそのまま外部AIサービスに入力することが、情報管理上の問題となる可能性があります。

  • NDA締結前の段階で、相手方から受け取った秘密情報が含まれている
  • 自社の営業秘密・技術ノウハウが反映されている
  • 担当者名・役職・連絡先などの個人情報が含まれている
  • 相手方との守秘義務に基づき、第三者への開示が制限されている情報が含まれている

外部AIサービスへの入力前に、取引先名・プロジェクト名・担当者情報・固有の技術情報などをマスキング・匿名化する処理を行うことで、情報セキュリティ上のリスクを低減できます。

NDAや秘密保持契約には、取引先名・プロジェクト名・技術情報・担当者情報などが含まれることがあります。AI入力前に伏せておきたい情報を効率よく処理したい場合は、LegalOS マスキングのような前処理ツールを使う方法もあります。

LegalOS マスキングを確認する →

なお、マスキング処理後にレビューした場合でも、固有名称を除いた条項の構造・文言の評価はAIを使って行えます。マスキング前後の情報管理ルールを社内で整備したうえでご活用ください。

NDAレビュー用プロンプト集を使うメリット

NDA レビュー AI に利用する指示文を毎回ゼロから考えるのは、実務では手間がかかります。契約書AIレビュー専用プロンプト集を使うと、以下のようなメリットが得られます。

  • 開示者側・受領者側で観点を切り替えやすい:立場別の確認観点があらかじめ設計されており、毎回設定する手間が省けます
  • 秘密情報の定義・目的・例外・返還廃棄などの見落としを防ぎやすい:主要論点が網羅的に組み込まれた型を使えます
  • 修正文案・社内コメント・相手方コメントまで一貫して作りやすい:リスク抽出から交渉準備まで一連の流れで対応できます
  • 一人法務・少人数法務でも初動整理の精度を上げやすい:チェック漏れのリスクを低減できます
  • NDA以外の契約類型にも使える:秘密保持契約 AI 対応だけでなく、業務委託・売買・ライセンスなど他の契約書レビューにも展開できます

ただし、プロンプト集は「正解を出す魔法」ではなく、「NDAレビューに必要な観点と出力形式を整える型」として活用するものです。AIの出力は必ず法務担当者が確認・補正してください。

NDAレビュー用プロンプト集が向いている人・向いていない人

区分 内容
向いている人 ✔ NDAレビューを月に複数件担当している
向いている人 ✔ 秘密情報の定義・例外条項・返還廃棄を毎回チェックしている
向いている人 ✔ 開示者側・受領者側で見るポイントを効率よく整理したい
向いている人 ✔ NDA修正文案や相手方コメント作成の手間を減らしたい
向いている人 ✔ 一人法務・少人数法務でチェック観点を補強したい
向いている人 ✔ 秘密保持契約 AI 活用を社内で試験的に導入したい
向いていない人 ✗ AIをほとんど使わない・使う予定がない
向いていない人 ✗ NDAレビューをAIに完全自動化してほしい(最終確認を省きたい)
向いていない人 ✗ 秘密情報を無加工で外部AIに入力する運用を考えている
向いていない人 ✗ 自社の秘密管理体制や開示方針を確認するつもりがない
向いていない人 ✗ NDA違反の紛争案件もAIだけで判断・結論を出したい

注意点:NDAレビューでも最終判断は人間が行う

重要:AIの出力は「見落とし防止のためのレビュー候補」であり、法的判断そのものではありません。以下の点に注意してご利用ください。
  • 秘密情報の範囲・開示方針は自社の事業・情報管理体制に依存します。AIは自社内部の事情を把握していないため、実務に照らした確認が必要です。
  • 営業秘密該当性(秘密管理性・有用性・非公知性)の判断は慎重に行ってください。不正競争防止法上の営業秘密として保護されるかは、社内の秘密管理体制を含む総合的な判断が必要です。
  • 個人情報・技術情報・取引先情報のAIへの入力には注意が必要です。外部AIサービスの利用規約・データ取扱いポリシーを確認し、社内の情報管理ルールに従ってください。
  • M&A・共同開発・技術提携・紛争性のある案件では弁護士確認を検討してください。案件の重要度・情報の機密性・相手方との関係によっては、法律事務所への相談が適切です。
  • ChatGPTを含む生成AIは、法的に正確な判断を保証するものではありません。出力を鵜呑みにせず、一次情報(法令・判例・自社規程)との照合を忘れずに行ってください。
NDAレビューの確認観点を効率よく整理したい方へ

秘密情報の定義・目的外利用・例外・返還廃棄・秘密保持期間・損害賠償条項を整理する際は、契約書AIレビュー専用プロンプト集をご活用ください。開示者側・受領者側それぞれの観点で使える型を用意しています。NDA以外の契約審査にも使いたい場合は、法務AIプロンプト100選もあわせてご確認ください。

まとめ:NDAレビューにAIを正しく活用する

NDAは条文数が少ない場合でも、秘密情報の定義・利用目的・第三者開示・例外情報・返還廃棄・秘密保持期間・損害賠償という多くの重要論点が含まれています。

  • ChatGPTは、論点整理・リスク候補抽出・修正文案・コメント案作成の補助として有効活用できます
  • ただし、自社が開示者か受領者かを明確にせずにAIに依頼しても、実務に合わない汎用的な回答しか返ってきません。立場・情報の種類・目的・開示先を指定することが重要です
  • NDAに含まれる秘密情報・取引先情報・個人情報をAIに入力する際は、マスキング・匿名化を検討し、社内の情報管理ルールに従ってください
  • NDAレビュー用プロンプト集を使うと、確認観点と出力形式を整えやすくなりますが、AIの出力はあくまで「候補整理」であり、最終判断は法務担当者が行うものです
  • 重要案件・M&A・共同開発・紛争性のある案件では、弁護士への確認を検討してください

次回(第9話)は、「業務委託契約レビューをAIで効率化する方法|成果物・再委託・損害賠償・解除条項」を解説します。NDA同様、業務委託契約にも実務上の重要論点が多くあります。ぜひあわせてご覧ください。

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