再販売価格維持とは何か|販売店に価格を指示してよいのか
次の案件で使える形に。
「せっかくのブランド商品が、安売り店で値崩れしている。指定の価格で売ってほしい」——メーカーや卸、ブランドオーナーなら、一度は感じたことのある悩みではないでしょうか。
ですが、ここには独禁法上の落とし穴があります。ざっくり言うと、希望小売価格を「参考」として示すことと、販売店にその価格を「守らせる」ことは、まったく別物です。販売価格を拘束し、従わない販売店に不利益を与えると、再販売価格の拘束(再販売価格維持)として独禁法上問題になり得ます。
この記事は、独禁法シリーズ全15回の第8話です。メーカー営業・代理店管理・販売店管理・EC運営・新人法務の方に向けて、「販売店に価格を指示してよいのか」という疑問に、初心者向けに丁寧に答えます。
本シリーズは、独占禁止法・独禁法の基礎を「営業・購買・事業企画・新人法務」の方が最後まで読めるように、15回に分けて整理するものです。第8話は、メーカー等が販売店の価格を縛る「再販売価格維持」を扱います。
記事末尾に全15回の一覧表を載せています。気になる回から読み進めても構いません。
再販売価格維持とは何か
再販売価格維持とは、メーカーや卸売業者などが、その商品を仕入れて売る販売店・小売業者の「再販売価格」(販売店がさらに消費者などに売るときの価格)を拘束する行為です。独占禁止法上は「再販売価格の拘束」と呼ばれ、不公正な取引方法の一つとして問題になり得ます。
公正取引委員会は、再販売価格の拘束について、メーカーが指定した価格で販売しない小売業者等に対して、卸価格を高くしたり出荷を停止したりして、指定した価格を守らせることだと説明しています。つまり、単に価格を「示す」だけでなく、従わない販売店に不利益を与えてでも守らせる点がポイントです。まずは関連する言葉を整理しましょう。
| 用語 | 意味 | 問題になりやすさ | 誤解しやすい点 |
|---|---|---|---|
| 再販売価格維持 | 販売店の販売価格を維持させる行為 | 高い | 「お願い」でも拘束なら問題 |
| 再販売価格の拘束 | 独禁法上の呼び方。販売価格を拘束する行為 | 高い | 同じことを指す |
| 希望小売価格 | メーカーが参考として示す価格 | 参考なら低い | 守らせると拘束になる |
| 推奨価格 | 推奨として示す価格 | 参考なら低い | 強制すれば拘束 |
| 参考価格 | 参考として示す価格 | 参考なら低い | 名称より実態で判断 |
| 最低販売価格 | これ以上下げてはいけない価格 | 高い | 値引きを縛る拘束になりやすい |
| 値引き禁止 | 値引きを禁じる指示 | 高い | 実質的な価格拘束 |
| 価格監視 | 販売店の価格を監視する | 手段次第 | 拘束の実効化手段になり得る |
| 出荷停止 | 指定価格を守らせるための出荷停止 | 高い | 拘束の実効化として問題 |
| 取引停止 | 指定価格を守らせるための取引停止 | 高い | 拘束の実効化として問題 |
※表は横スクロールできます(スマホの場合)。
なぜ販売店の価格を拘束すると問題になるのか
販売店は本来、自社の経営判断で販売価格を自由に決められる存在です。仕入れた商品をいくらで売るかは、その販売店の競争の手段そのものです。メーカーがこの価格を縛ってしまうと、販売店どうしの価格競争が弱まり、なくなってしまうおそれがあります。
公正取引委員会の説明をかみくだくと、メーカーが安売り店への出荷をやめさせるなどして価格を守らせると、その商品はどの販売店でもメーカーの指定価格で売られることになります。すると消費者は、価格で販売店を選べなくなり、本来なら安く買えたはずの商品を高く買わざるを得なくなります。こうして消費者のメリットが奪われるため、再販売価格の拘束は不公正な取引方法の一つとして問題になりやすいのです。
「この指示で、販売店が自由に値段を決められなくなっていないか?」「販売店どうしの価格競争を消していないか?」と考えると、なぜ価格拘束が問題なのかがイメージしやすくなります。
希望小売価格と価格拘束の違い
ここが実務で最も重要なポイントです。希望小売価格・参考価格・推奨価格を「単なる参考」として示すこと自体は、直ちに問題になるわけではありません。問題になるのは、それを販売店に守らせ、販売店の自由な価格決定を妨げる場合です。名称を「推奨価格」に変えても、実態として守らせていれば拘束と評価され得ます。名称ではなく実態で判断されると理解してください。
| 行為 | 実務上の位置づけ | 独禁法上のリスク | 安全寄りにする工夫 |
|---|---|---|---|
| 希望小売価格を参考情報として示す | 参考の提示 | 低い | 「参考」「自主決定」を明記 |
| 推奨価格を示す | 推奨の提示 | 低い | 強制と受け取られない表現に |
| 販売店が自由に価格を決められる | 本来の姿 | 低い | 自由決定を妨げない |
| 指定価格で売るよう求める | 価格の指定 | 高い | 指定でなく参考にとどめる |
| 値引きを禁止する | 値引きの制限 | 高い | 値引き可否は販売店判断に |
| 最低販売価格を設定する | 下限価格の設定 | 高い | 下限の設定を避ける |
| 指定価格を守らない販売店に警告する | 遵守の要請・警告 | 高い | 価格遵守を求めない |
| 守らない販売店への出荷を止める | 不利益取扱い | 高い | 価格を理由に出荷を止めない |
| リベート・仕入条件で差をつける | 不利益取扱い | 高い | 価格遵守を条件にしない |
※表は横スクロールできます。
危ない指示・安全寄りの表現の例
| 表現 | 評価 | 理由・修正の方向性 |
|---|---|---|
| 「必ず定価で販売してください」 | 危険 | 価格を強制=拘束。参考提示にとどめる |
| 「値引きは禁止です」 | 危険 | 値引き制限=実質的拘束 |
| 「最低販売価格を下回らないでください」 | 危険 | 下限価格の拘束 |
| 「セール販売は禁止です」 | 危険 | 価格設定の制限になり得る |
| 「ポイント還元は禁止です」 | 注意 | 実質的な値引き制限になり得る |
| 「指定価格を守らない場合は出荷停止します」 | 危険 | 拘束の実効化手段 |
| 「希望小売価格は参考情報です」 | 比較的安全 | 参考であることを明確化 |
| 「販売価格は各販売店が自主的に決定してください」 | 比較的安全 | 自由決定を明記 |
| 「ブランドイメージを損なわない表示をお願いします」 | 表示の範囲なら可 | 価格でなく表示の管理に |
| 「商品説明・品質表示を正確にしてください」 | 比較的安全 | 品質・表示の管理は別問題 |
※表は横スクロールできます。表現は一般的な目安で、実際の評価は取引の実態によります。
最低販売価格・値引き禁止・割引禁止で注意すべきこと
「定価で売れ」と直接言わなくても、最低販売価格の設定、値引き禁止、割引禁止、ポイント還元禁止、セール禁止などは、実質的に販売店の価格を縛ることになりやすく、注意が必要です。これらは「価格そのものの指定」ではないように見えても、販売店が自由に値段を下げられない状態を作り出すため、再販売価格の拘束と評価され得ます。
特にポイント還元やクーポンは、消費者から見れば実質的な値引きです。これらを一律に禁止すると、実質的な値引き制限として価格拘束につながり得ます。「直接の価格指定ではないから安全」と安易に考えないことが大切です。
指定価格を守らない販売店への不利益取扱いが危ない理由
再販売価格の拘束が成立しやすくなるのは、指定価格を守らない販売店に「不利益」を与えて、価格を守らせるときです。公正取引委員会の説明でも、安売りをする販売店への卸価格引上げや出荷停止といった行為が、価格を守らせる手段として挙げられています。こうした不利益取扱いは、価格拘束を実効化する手段として問題になり得ます。
| 不利益取扱い | 何が問題になり得るか | 価格拘束との関係 | 確認すべきこと |
|---|---|---|---|
| 出荷停止 | 取引を断つことで価格を守らせる | 拘束の典型的な実効化手段 | 価格を理由にしていないか |
| 取引停止 | 取引終了で価格を守らせる | 拘束の実効化手段 | 停止の真の理由は何か |
| 卸価格の引上げ | 仕入条件を悪化させ守らせる | 拘束の実効化手段 | 価格遵守と連動していないか |
| リベート停止 | リベート差で守らせる | 拘束の実効化手段 | 価格を条件にしていないか |
| キャンペーン対象外 | 優遇から外して守らせる | 拘束の実効化手段 | 除外理由が価格でないか |
| 人気商品の供給制限 | 供給差で守らせる | 拘束の実効化手段 | 供給制限の理由は何か |
| 販促支援の打切り | 支援差で守らせる | 拘束の実効化手段 | 打切りの理由は何か |
| 契約更新拒絶 | 更新拒絶で守らせる | 拘束の実効化手段 | 拒絶の真の理由は何か |
| 取引条件悪化 | 条件差で守らせる | 拘束の実効化手段 | 価格遵守と連動していないか |
| 警告メール送付 | 圧力で守らせる | 拘束につながり得る | 価格遵守を求めていないか |
※表は横スクロールできます。なお、取引先の選択は本来自由ですが、「価格を守らせる手段」として行うと問題になります。取引拒絶一般は第11話で扱います。
代理店契約・販売店契約に書くと危ない文言
口頭やメールだけでなく、契約書・販売店向けマニュアル・ブランドガイドライン・EC運用ルールの文言にも注意が必要です。価格を拘束する条項は、契約に書いてあっても、また販売店が同意していても、再販売価格の拘束として問題が残り得ます。代表的な要注意条項を整理します。
| 条項例 | 危険になりやすい点 | 修正・確認の方向性 | 法務確認 |
|---|---|---|---|
| 販売価格遵守条項 | 指定価格の遵守を義務づける | 参考価格の提示にとどめる | 要確認 |
| 最低販売価格条項 | 下限価格を拘束 | 下限設定を削除 | 要確認 |
| 値引き禁止条項 | 値引きを制限 | 値引き可否は販売店判断に | 要確認 |
| セール禁止条項 | 価格設定を制限 | 価格制限を避ける | 要確認 |
| 価格変更承認条項 | 価格変更に承認を要する | 価格決定の自由を残す | 要確認 |
| 価格違反時の出荷停止条項 | 拘束の実効化を明文化 | 価格を理由とする制裁を削除 | 要確認 |
| 販売方法管理条項 | 過度だと価格に波及し得る | 必要最小限・価格と切り離す | 要確認 |
| ブランドガイドライン遵守条項 | 価格遵守を含むと危険 | 表示・品質の範囲に限定 | 要確認 |
| 品質管理条項 | 価格管理に転用すると危険 | 品質の範囲にとどめる | 要確認 |
| 表示・広告確認条項 | 価格表示の強制に注意 | 表示の正確性の範囲で | 要確認 |
※表は横スクロールできます。代理店・販売店契約全体の論点は 第13話 で扱います。
EC販売・ネットショップ・ポイント還元で起きやすい問題
ネット販売では価格が一覧で比較されやすいため、「ECだけは価格を統一したい」というニーズが生まれがちです。しかし、ECでも販売店の価格を拘束すれば再販売価格の拘束になり得ます。「リアル店舗はよくてECはダメ」という線引きはありません。価格そのものではなく、価格以外の要素(表示・品質・ブランド表現)で管理できないかを考えるのがポイントです。
| 場面 | 価格拘束になり得る場面 | 価格以外で管理できること | 実務上の注意 |
|---|---|---|---|
| ECモールでの値引き販売 | 値引きを禁止・制限する | 商品説明・画像の品質 | 価格は販売店判断に |
| ポイント還元 | 還元率を一律に禁止・制限 | — | 実質的値引き制限に注意 |
| クーポン配布 | クーポンを一律に禁止 | — | 実質的値引き制限に注意 |
| タイムセール | セールを禁止する | — | 価格設定の自由を残す |
| 送料無料設定 | 実質値引きとして禁止 | — | 実質的値引き制限に注意 |
| セット販売 | 実質値引きとして禁止 | セット内容の表示ルール | 価格制限と切り離す |
| 並行販売 | 価格目的の制限 | 正規品の表示・真贋管理 | 目的を明確に |
| レビュー施策 | — | 表示の適正さ | 景表法等も別途確認 |
| ブランド公式画像の利用 | — | 画像・商標の使用ルール | 知財の範囲で管理 |
| 価格比較サイトへの掲載 | 掲載価格の制限 | 掲載情報の正確性 | 価格制限を避ける |
| 無断出品対策 | 価格目的の制限に転用 | 正規流通・真贋の管理 | 真の目的を明確に |
※表は横スクロールできます。表示や景品表示法など、別の法令の確認が必要な場合もあります。
ブランド価値・品質維持のためなら価格を縛れるのか
「安売りでブランドが傷つくのを防ぎたい」という思いは自然なものです。しかし、目的がブランド保護や品質維持であっても、価格そのものを拘束する方法は慎重に考えるべきです。目的が正当でも、手段として価格を縛れば再販売価格の拘束の問題は残り得ます。
そこで考えたいのが、価格ではなく、価格以外の要素を管理するという発想です。商品説明の正確性、品質表示、商標・ロゴの使用ルール、広告表現、保管・販売方法、アフターサービス体制、正規販売店の表示などは、ブランド価値を守るうえで有効で、価格拘束とは別の管理策になり得ます。
| 代替策 | 目的 | 価格拘束との違い | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 商品説明の正確性を求める | 誤認防止 | 価格に関与しない | 表示の範囲で |
| 品質表示ルールを定める | 品質の担保 | 価格に関与しない | 必要最小限に |
| 商標・ロゴの使用ルール | ブランド表示の保護 | 知財の管理 | 知財の範囲で |
| 広告表現のルール | 表現の適正化 | 価格に関与しない | 過度に広げない |
| 販売方法・保管方法を定める | 品質・安全の確保 | 価格に関与しない | 価格に波及させない |
| アフターサービス体制を求める | 顧客満足の確保 | 価格に関与しない | 合理的な範囲で |
| 正規販売店表示ルール | 正規流通の明確化 | 表示の管理 | 差別の手段にしない |
| 顧客対応基準を定める | サービス品質の確保 | 価格に関与しない | 合理的な範囲で |
| 表示・品質・サービスを管理 | 総合的なブランド管理 | 価格を縛らない | 価格拘束に転用しない |
※表は横スクロールできます。価格以外の管理も、内容・態様によっては別の独禁法上の論点が生じ得るため、必要に応じて法務に相談してください。
著作物再販制度という例外
再販売価格の拘束には、例外的に認められている分野があります。それが「著作物再販制度」です。公正取引委員会も、書籍・雑誌・新聞・音楽CDなどの著作物については、再販売価格の拘束の例外として扱われると説明しています。書店で本が定価で売られているのは、この制度によるものです。
ただし、この例外を一般商品にそのまま当てはめてはいけません。例外の対象は限られており、一般の商品・デジタルコンテンツ・ソフトウェア・キャラクターグッズなどには適用されないと考えるのが基本です。「著作物に再販があるのだから、うちの商品も定価販売できる」という発想は誤りです。
| 対象 | 例外の対象になり得るか | 誤解しやすい点 |
|---|---|---|
| 書籍 | 著作物再販の対象になり得る | すべての販売形態で当然とは限らない |
| 雑誌 | 著作物再販の対象になり得る | 同上 |
| 新聞 | 著作物再販の対象になり得る | 同上 |
| 音楽用CD | 著作物再販の対象になり得る | 同上 |
| 音楽テープ | 著作物再販の対象になり得る | 媒体により扱いを確認 |
| レコード盤 | 著作物再販の対象になり得る | 媒体により扱いを確認 |
| 一般商品 | 対象外 | 定価販売を当然に強制できない |
| デジタルコンテンツ | 対象外と考えるのが基本 | 媒体物との違いに注意 |
| ソフトウェア | 対象外と考えるのが基本 | 著作物だが再販対象とは別問題 |
| キャラクターグッズ | 対象外 | 著作権があっても再販対象ではない |
※表は横スクロールできます。著作物再販制度の対象範囲や運用は、公正取引委員会の公式情報で必ず確認してください。
「著作権がある=著作物再販の対象」ではありません。ソフトウェアやキャラクターグッズは著作権が関係しても、再販売価格の拘束の例外として定価販売を強制できるわけではないと考えるのが基本です。判断に迷う場合は公的情報を確認し、法務に相談してください。
実務で最初に確認すべきポイント
販売店の価格を管理したいと感じたら、次の流れで確認しましょう。
図解:価格管理を考えるときの確認の流れ
初期チェックリスト
| チェック項目 | 確認の視点 |
|---|---|
| 販売店の販売価格を指定していないか | 価格を強制していないか |
| 値引き・割引・ポイント還元を禁止していないか | 実質的な価格制限でないか |
| 最低販売価格を設定していないか | 下限価格の拘束でないか |
| 守らない販売店に不利益を与えていないか | 拘束の実効化手段でないか |
| 希望小売価格が参考情報にとどまっているか | 「参考」の範囲か |
| 販売店が自由に価格を決められると明記しているか | 自主決定を明確にしているか |
| 契約書・メール・マニュアルに危険な文言がないか | 価格拘束の文言が紛れていないか |
| ブランド管理を価格拘束で実現しようとしていないか | 目的と手段がずれていないか |
| 価格以外の品質・表示・サービス管理で対応できないか | 代替策を検討したか |
| 法務・コンプライアンスに相談すべきか | 迷ったら早めに相談する姿勢があるか |
※表は横スクロールできます。チェックリストの総まとめは 第15話 で扱います。
法務・コンプライアンス部門としては、販売店契約・代理店契約・価格通知文・販売店向け資料・EC運用ルールを定期的に確認し、価格拘束につながる文言がないかをチェックしておくと安心です。実務では、公正取引委員会の公式情報や流通・取引慣行ガイドライン、契約書、販売実態、社内運用、法務部門の確認を踏まえて対応してください。最新情報は公正取引委員会等の公式情報を確認することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
メーカーや卸売業者などが、その商品を仕入れて売る販売店・小売業者の販売価格(再販売価格)を拘束する行為です。独占禁止法上は「再販売価格の拘束」と呼ばれ、不公正な取引方法の一つとして問題になり得ます。販売価格を指定し、従わない販売店に不利益を与えて守らせる点が特徴です。
実務上はほぼ同じことを指します。「再販売価格維持」は販売店の価格を維持させる行為の通称で、独占禁止法上は「再販売価格の拘束」として整理されています。どちらも、販売店の自由な価格決定を妨げる点で問題になり得ます。
希望小売価格・参考価格・推奨価格を「単なる参考」として示すこと自体は、直ちに問題になるわけではありません。問題になるのは、それを販売店に守らせ、販売店の自由な価格決定を妨げる場合です。「参考であり、販売価格は各販売店が自主的に決定する」ことを明確にしておくと安全側に倒せます。
「お願い」でも、実態として販売店に価格を守らせ、自由な価格決定を妨げていれば、再販売価格の拘束として問題になり得ます。要請の形式(依頼か指示か)ではなく、販売店が実際に自由に価格を決められる状態にあるかどうかが重要です。繰り返しの要請や、守らない場合の不利益とセットになっていると、拘束と評価されやすくなります。
最低販売価格の設定や値引き禁止は、実質的に販売店の価格を縛ることになりやすく、再販売価格の拘束として問題になり得ます。「定価で売れ」と直接言わなくても、下限価格の設定や値引き・割引・ポイント還元・セールの一律禁止は、実質的な価格拘束と評価され得る点に注意してください。
価格を守らせる手段として出荷停止や取引停止、卸価格の引上げ、リベート停止などを行うと、再販売価格の拘束を実効化する行為として問題になり得ます。公正取引委員会も、安売り店への卸価格引上げや出荷停止を、価格を守らせる手段の例として挙げています。取引先の選択は本来自由ですが、「価格遵守を理由とする不利益」は危険です。
目的がブランド保護や品質維持であっても、価格そのものを拘束する方法は慎重に考えるべきです。目的が正当でも、手段として価格を縛れば再販売価格の拘束の問題は残り得ます。ブランド価値の維持は、商品説明・品質表示・商標やロゴの使用ルール・広告表現・販売方法・アフターサービスなど、価格以外の管理で実現できないかを検討するのが安全です。
ECでも、販売店の価格を拘束すれば再販売価格の拘束になり得ます。「リアル店舗はよくてECはダメ」という線引きはありません。特にポイント還元・クーポン・送料無料・タイムセールは消費者から見れば実質的な値引きであり、これらを一律に禁止すると実質的な価格制限になり得ます。価格以外(表示・品質・ブランド表現)で管理できないかを考えましょう。
書籍・雑誌・新聞・音楽CDなどの著作物については、再販売価格の拘束の例外として扱われる「著作物再販制度」があるためです。ただし、この例外の対象は限られており、一般商品・ソフトウェア・キャラクターグッズなどには当てはめられないと考えるのが基本です。「著作権があるから定価販売できる」という発想は誤りなので注意してください。
販売価格の遵守を義務づける条項、最低販売価格条項、値引き・セール禁止条項、価格変更の承認条項、価格違反時の出荷停止条項などは、再販売価格の拘束につながり得るため要注意です。希望小売価格は「参考」であり、販売価格は販売店が自主的に決定することを明確にしましょう。ブランドガイドラインや品質管理条項に価格遵守が紛れ込んでいないかも確認し、迷う場合は法務に相談してください。
初心者がしがちな誤解と正しい考え方
| ありがちな誤解 | 正しい考え方 |
|---|---|
| 希望小売価格なら必ず安全 | 守らせれば名称に関わらず拘束になり得る |
| 販売店にお願いするだけなら問題ない | 実態として守らせていれば問題になり得る |
| 値引き禁止はブランド保護だから問題ない | 目的が正当でも価格拘束は問題が残り得る |
| 安売り販売店だけ出荷停止してもよい | 価格遵守を理由とする不利益は問題になり得る |
| 最低価格ではなく推奨価格と書けば安全 | 名称ではなく実態で判断される |
| ECだけ価格を統一してよい | ECでも価格拘束は問題になり得る |
| 代理店契約に書けば価格拘束できる | 契約にあっても拘束なら問題が残り得る |
| 販売店が同意すれば問題ない | 同意があっても価格拘束は問題が残り得る |
| 著作物再販があるから一般商品でも定価販売できる | 例外は限定的で一般商品には当てはまらない |
| 価格以外の販売方法管理もすべて禁止される | 表示・品質等の管理は別問題(態様には注意) |
※表は横スクロールできます。
まとめ
本記事は一般的な情報提供であり、個別の法律相談ではありません。再販売価格の拘束に当たるかどうかは、取引の実態・拘束の有無・市場の状況などの個別事情によって変わります。実際の判断にあたっては、公正取引委員会の公式情報や流通・取引慣行ガイドライン、社内のコンプライアンス規程、契約書、販売実態を踏まえ、必要に応じて法務部門や専門家にご相談ください。最新の制度内容や個別事案の判断については、必ず公正取引委員会等の公式情報をご確認ください。
第9話では、ある商品を買うときに別の商品も一緒に買わせる「抱き合わせ販売」を取り上げます。正当なセット販売・バンドル販売との違いを、初心者向けに整理します。
第9話:抱き合わせ販売とは何かを読む →参照した公的情報
本記事では、独占禁止法・再販売価格維持・再販売価格の拘束に関する基礎情報として、主に以下の公的情報を参照しています。最新の制度内容や個別事案の判断については、必ず公正取引委員会等の公式情報をご確認ください。
- 公正取引委員会「不公正な取引方法(再販売価格の拘束)」
https://www.jftc.go.jp/ippan/part2/act_05.html - 公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/ryutsutorihiki.html - 公正取引委員会「よくある質問コーナー(独占禁止法)」
https://www.jftc.go.jp/dk/dk_qa.html - 公正取引委員会「メーカーによる小売業者への販売価格の指示」(相談事例)
https://www.jftc.go.jp/dk/soudanjirei/h29/h28nendomokuji/h28nendo01.html - 公正取引委員会「単なる取次として機能する卸売業者の再販売価格の指示」(相談事例)
https://www.jftc.go.jp/dk/soudanjirei/h14/h13nenmokuji/h13nen02.html - 公正取引委員会「独占禁止法の規制内容」
https://www.jftc.go.jp/dk/dkgaiyo/kisei.html
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本シリーズで続けて読むと理解が深まる回として、第1話:独占禁止法とは何か、第9話:抱き合わせ販売とは何か、第10話:排他条件付き取引とは何か、第13話:代理店・販売店契約で独禁法が問題になる場面、第15話:独占禁止法チェックリスト もおすすめです。
シリーズ全15回の一覧
| 回 | タイトル | この回で学ぶこと |
|---|---|---|
| 第1話 | 独占禁止法とは何か | 独禁法の全体像と4つの方向 |
| 第2話 | カルテルとは何か | 価格・数量・取引先を話し合う危険 |
| 第3話 | 談合とは何か | 入札・見積合わせ・受注調整のNG |
| 第4話 | 競合他社との情報交換 | どこまで許されるかの線引き |
| 第5話 | 業界団体・懇親会・展示会の注意 | NG会話の具体例 |
| 第6話 | 優越的地位の濫用とは何か | 強い立場の会社が注意すべき取引 |
| 第7話 | 値下げ・協賛金・返品要請 | 購買担当者の独禁法基礎 |
| 第8話 | 再販売価格維持とは何か(本記事) | 販売店への価格指示の論点 |
| 第9話 | 抱き合わせ販売とは何か | セット販売との違い |
| 第10話 | 排他条件付き取引とは何か | 専属契約・競合排除の注意 |
| 第11話 | 取引拒絶・取引停止 | 取引先を切る前の確認事項 |
| 第12話 | 不当廉売とは何か | 安売りが問題になる場合 |
| 第13話 | 代理店・販売店契約 | 価格・地域・顧客制限の注意 |
| 第14話 | 独占禁止法と取適法の違い | 下請法から変わった取引適正化ルール |
| 第15話 | 独占禁止法チェックリスト | 営業・購買・企画が見る15項目 |
※表は横スクロールできます。各話は公開され次第リンクが有効になります。
※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、公正取引委員会の公的情報を参考に整理したものです。法令・ガイドライン・制度内容は改正されることがあります。最新の内容や個別事案の判断は、公正取引委員会の公式情報等で必ずご確認ください。
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