不当廉売とは何か|安売りが独禁法上問題になる場合
次の案件で使える形に。
「他社より安く売って一気にシェアを取りたい」「赤字覚悟のセールで集客したい」「初月無料で顧客を増やしたい」——安く売ることは、競争のもっとも基本的な手段です。安売りそのものを禁止する制度はありません。
ですが、ざっくり言うと、正当な理由なく、供給に要する費用を著しく下回る価格で継続的に売り、競争者の事業活動を困難にさせるおそれがあると、独占禁止法上の「不当廉売(ふとうれんばい)」として問題になり得ます。不当廉売は、価格競争を禁止する制度ではなく、競争者を排除して公正な競争秩序を害するような不当な安売りを問題にする制度です。
この記事は、独禁法シリーズ全15回の第12話です。営業・EC運営・商品企画・小売・価格戦略・新人法務の方に向けて、「安売りはどこから危ないのか」を初心者向けに整理します。
本シリーズは、独占禁止法・独禁法の基礎を「営業・購買・事業企画・新人法務」の方が最後まで読めるように、15回に分けて整理するものです。第12話は、安売りが問題になり得る「不当廉売」を扱います。
記事末尾に全15回の一覧表を載せています。気になる回から読み進めても構いません。
不当廉売とは何か
不当廉売とは、ざっくり言うと、正当な理由なく、商品・サービスを供給に要する費用を著しく下回る価格で継続して供給し、他の事業者(競争者)の事業活動を困難にさせるおそれがある行為などをいいます。独占禁止法上は、不公正な取引方法の一つとして問題になり得ます。
公正取引委員会の不公正な取引方法(いわゆる一般指定)の第6項では、不当廉売について、法律上定められた行為のほか、不当に商品または役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること、と整理されています。ポイントは、単に「安い」だけでなく、「費用を著しく下回る」「継続的」「正当な理由がない」「競争者の事業活動を困難にさせるおそれ」といった要素が重なる点です。まずは関連用語を整理しましょう。
| 用語 | 意味 | 問題になりやすさ | 誤解しやすい点 |
|---|---|---|---|
| 不当廉売 | 費用を著しく下回る継続的な安売り等 | 要件次第 | 安いだけでは該当しない |
| 原価割れ販売 | 原価を下回る価格での販売 | 要件次第 | 原価割れ=即違法ではない |
| 赤字販売 | 採算を割る価格での販売 | 要件次第 | 赤字=即違法ではない |
| 安売り | 通常より安く売る | 原則は低い | 競争の手段として正当 |
| セール | 期間限定の値引き販売 | 原則は低い | 短期・限定なら問題になりにくい |
| キャンペーン価格 | 販促目的の特別価格 | 原則は低い | 目的・期間・水準を確認 |
| 在庫処分 | 在庫を処分するための安売り | 正当な理由になり得る | 処分の必要性が前提 |
| 見切り品 | 期限間近・訳あり品の安売り | 正当な理由になり得る | 合理的事情が前提 |
| ダンピング | 俗に不当な安売りを指す語 | 文脈次第 | 貿易上の語と独禁法上の語は別 |
| 初回無料・初月無料 | 導入を促す無料提供 | 態様次第 | 継続性・実質価格を確認 |
※表は横スクロールできます(スマホの場合)。
安売り・値引き・セールが常に違法ではない理由
大前提として、安く売ること自体は、競争の最も基本的な手段です。企業が努力してコストを下げ、消費者に安く提供することは、本来むしろ歓迎されるべきことです。独占禁止法は価格競争を禁止する制度ではありません。だから、通常の値引きや短期セール、販促キャンペーンが、それだけで違法になることはありません。
では、なぜ不当廉売が問題になるのでしょうか。それは、費用を大きく下回る価格で継続的に売り続けて競争者を市場から追い出し、競争がなくなった後で価格を吊り上げるような行為が、長い目で見ると消費者の利益を害し、公正な競争秩序を壊すからです。つまり、不当廉売が問題にするのは「安いこと」ではなく、「競争者を排除して競争をゆがめる安売り」です。能率を高めて安く提供する競争(能率競争)と、競争者を排除するための採算度外視の安売りは区別されます。
「この安さは、自社の企業努力(コスト削減)の結果か、それとも競争者を追い出すための採算度外視か?」と考えると、危ないかどうかがイメージしやすくなります。
原価割れ販売・赤字販売が問題になりやすい場面
「原価割れだから違法」「赤字だから不当廉売」ではありません。原価割れ・赤字販売であっても、それだけで直ちに不当廉売になるわけではなく、価格水準、継続性、正当な理由、競争者への影響を総合的に見て判断されます。とはいえ、次のような場面はリスクが高まりやすいので注意が必要です。
| 場面 | 独禁法上のリスク | 正当化されやすい事情 | 注意すべき事情 |
|---|---|---|---|
| 通常の値引き販売 | 低い | 費用を回収できている | — |
| 短期セール | 低い | 期間・対象が限定的 | 反復・常態化していないか |
| 在庫処分 | 低め | 処分の必要性がある | 処分を装っていないか |
| 季節商品の見切り販売 | 低め | 季節性・鮮度の事情 | 合理的範囲か |
| 新規顧客獲得キャンペーン | 態様次第 | 期間限定・販促目的 | 継続化・水準に注意 |
| 初回無料 | 態様次第 | 導入促進・限定的 | 実質価格・継続性を確認 |
| 原価割れ販売 | 要件次第 | 合理的事情がある | 費用との差・継続性 |
| 継続的な赤字販売 | 高い | — | 競争者排除につながらないか |
| 競争者排除目的の安売り | 高い | — | 排除の意図・効果 |
| 特定地域だけの極端な安売り | 高い | — | 競争者近隣での狙い撃ち |
※表は横スクロールできます。リスクは一般的な目安で、実際の評価は取引の実態によります。
「供給に要する費用を著しく下回る対価」とは何か
不当廉売の判断で鍵になるのが、「供給に要する費用を著しく下回る対価」かどうかです。ざっくり言うと、その商品・サービスを提供するのにかかる費用と比べて、価格が著しく低いかどうかを見ます。ここでいう費用は、仕入原価だけでなく、提供に必要なさまざまなコストを含めて考える必要があります。
| 費用項目 | なぜ確認するか | 証跡として残すもの |
|---|---|---|
| 仕入原価 | 商品の調達コスト | 仕入伝票・契約 |
| 製造原価 | 製造にかかるコスト | 原価計算資料 |
| 物流費 | 配送・保管のコスト | 物流費の記録 |
| 販売手数料 | モール等への手数料 | 手数料明細 |
| 決済手数料 | 決済にかかるコスト | 決済明細 |
| 広告費 | 販促・集客のコスト | 広告費の記録 |
| 人件費 | 提供に関わる人のコスト | 人件費の配賦根拠 |
| 保守費・サポート費用 | 提供後の対応コスト | 保守・サポート費の記録 |
| サーバー費用 | SaaS等の運用コスト | インフラ費の記録 |
| 返品対応費用 | 返品処理のコスト | 返品費の記録 |
| 導入支援費用 | 導入にかかるコスト | 導入費の記録 |
| 研究開発費・共通費の配賦 | 共通的コストの分担 | 配賦基準の記録 |
※表は横スクロールできます。どの費用をどこまで見るかは事案により異なります。費用と価格の関係は、客観的な計算根拠を残しておくことが大切です。
「仕入価格は割っていないから大丈夫」と単純に考えるのは危険です。物流費・手数料・人件費・サポート費なども含めた「供給に要する費用」全体と比べてどうか、という視点が必要です。特にECやSaaSでは、送料・決済手数料・サーバー費・サポート費などが見落とされがちです。
継続性・正当な理由・競争者への影響をどう見るか
不当廉売かどうかは、価格水準だけでなく、継続性・正当な理由・競争者への影響を合わせて見ます。一時的・限定的な安売りと、競争者を追い出すまで続ける継続的な安売りは、大きく評価が異なります。
| 確認する要素 | 見るべきこと | リスクが高まる方向 |
|---|---|---|
| 価格水準 | 費用をどれだけ下回るか | 著しく下回るほど |
| 供給に要する費用 | 費用全体との関係 | 費用を大きく割るほど |
| 可変費・固定費 | どの費用も回収できないか | 回収できない範囲が広いほど |
| 原価計算の根拠 | 計算根拠があるか | 根拠が乏しいほど |
| 継続性 | 一時的か継続的か | 継続的・反復的なほど |
| 販売数量 | 影響の大きさ | 数量が多いほど |
| 対象地域 | 地域が限定的か | 競争者近隣を狙うほど |
| 対象顧客 | 顧客が限定的か | 競争者の顧客を狙うほど |
| 正当な理由 | 合理的事情があるか | 理由が乏しいほど |
| 競争者への影響 | 事業活動を困難にさせるか | 困難にさせるおそれが大きいほど |
| 競争者排除の意図 | 排除の狙いがあるか | 排除の意図があるほど |
| 価格回復の見込み | 排除後に値上げを狙うか | 回復を前提にするほど |
※表は横スクロールできます。
在庫処分・見切り品・短期キャンペーンなら安全なのか
在庫処分や見切り品、短期キャンペーンは、正当な理由として整理しやすい場面です。賞味期限・使用期限が近い商品、季節商品、展示品・訳あり品の処分などには合理的な事情があり、一時的・限定的であれば不当廉売になりにくいといえます。ただし、「在庫処分」「キャンペーン」という名目を使えば何でも安全、というわけではありません。実態として継続的・反復的に著しい安値を続け、競争者を排除する効果があれば、名目に関わらず問題になり得ます。
| 場面 | 正当化されやすい事情 | 危険になりやすい事情 | 記録すべき証跡 |
|---|---|---|---|
| 在庫処分 | 過剰在庫の処分の必要性 | 処分を装った継続的安売り | 在庫状況・処分の判断 |
| 賞味期限・使用期限が近い商品 | 期限切れ前の処分 | 常態的な期限前安売り | 期限・数量の記録 |
| 季節商品の処分 | シーズン終了の処分 | 季節を口実にした継続安売り | 季節性の記録 |
| 展示品・訳あり品 | 品質・状態に応じた値下げ | 正常品を訳あり扱い | 状態の記録 |
| 新規開店セール | 開店時の限定的販促 | 長期化・反復 | 期間・目的の記録 |
| 新規参入キャンペーン | 参入時の限定的販促 | 排除目的の長期赤字 | 期間・目的の記録 |
| 短期販促 | 期間限定の販促 | 常態化・反復 | 期間・対象の記録 |
| 顧客獲得の初回割引 | 初回限定の割引 | 実質的な継続的安売り | 適用条件の記録 |
| サブスク初月無料 | 導入促進・限定的 | 長期無料の常態化 | 無料期間・条件 |
| 事業撤退前の処分販売 | 撤退に伴う処分 | 撤退を装った安売り | 撤退の意思決定記録 |
| 競争者排除目的の長期赤字販売 | — | 排除の意図・効果 | 目的を再検討 |
※表は横スクロールできます。
EC・SaaS・小売・入札価格で起きやすい不当廉売リスク
デジタル販売やサブスクでは、「無料」「ポイント還元」「送料無料」などの形で実質的な値引きが行われやすく、表示価格だけを見ていると費用との関係を見落としがちです。実質的な価格として検討が必要な場合があります。
| 場面 | 何が問題になり得るか | 確認すべき費用 | 安全寄りにする工夫 |
|---|---|---|---|
| ECモールでの極端な安売り | 費用を著しく下回る継続販売 | 仕入・手数料・物流費 | 費用全体と比較 |
| 送料無料を含めた赤字販売 | 送料込みで費用割れ | 送料を含めた実質費用 | 送料を費用に算入 |
| ポイント還元込みの実質価格 | 還元込みで著しい低価格 | 還元分を反映した実質価格 | 実質価格で検討 |
| タイムセールの反復 | 常態化で継続的安売りに | 反復頻度・期間 | 限定的な実施に |
| 初月無料・初年度無料 | 長期無料が継続的提供に | 提供に要する費用 | 期間を限定 |
| サブスクの長期無料提供 | 採算度外視の継続提供 | サーバー・サポート費 | 無料範囲を限定 |
| フリーミアムモデル | 無料機能の範囲・継続性 | 提供コスト全体 | 有料転換の設計を明確に |
| 競合エリアだけの低価格 | 競争者近隣の狙い撃ち | 地域別の価格・費用 | 地域差の合理性を確認 |
| 競合顧客だけへの低価格提示 | 競争者の顧客の狙い撃ち | 顧客別の価格・費用 | 差別の合理性を確認 |
| 入札価格の極端な低額設定 | 採算度外視の入札 | 受注に要する費用全体 | 積算根拠を残す |
※表は横スクロールできます。なお、酒類・ガソリン・家庭用電気製品など、不当廉売が起きやすいとされる分野では、公正取引委員会が業界別の考え方を示しています。該当する場合は確認してください。
競合他社の安売りに困ったときの初動対応
逆に、競合他社の極端な安売りに困っている場合もあるでしょう。ただし、「競合が安すぎて困る」というだけでは不当廉売にはなりません。まずは事実を客観的に整理することが初動として大切です。なお、対抗してこちらも採算度外視の安売りをすると、今度は自社が不当廉売を問われかねない点にも注意が必要です。
| 初動対応 | ポイント |
|---|---|
| 価格を記録する | いつ・いくらで売っているか |
| 販売期間を確認する | 一時的か継続的か |
| 対象地域を確認する | 自社近隣を狙っていないか |
| 対象商品・サービスを確認する | どの商品が対象か |
| 原価割れの可能性を整理する | 費用を下回る可能性があるか |
| 自社・競争者への影響を整理する | 事業活動が困難になっているか |
| 証拠を保存する | 画面・チラシ・見積等を保存 |
| 価格以外の要因も確認する | 正当な理由がないか |
| 社内で事実関係を整理する | 客観的に経緯をまとめる |
| 公取委への相談・申告を検討する | 相談・申告の窓口を確認 |
| 弁護士相談を検討する | 専門家の助言を得る |
※表は横スクロールできます。公正取引委員会には不当廉売・差別対価に関する申告・相談の窓口があります。
価格戦略を安全寄りに設計するための工夫
「安く売ってはいけない」ではありません。費用との関係・期間・目的を明確にし、記録を残すことで、リスクを下げられます。次のような工夫が考えられます。
| 工夫 | ねらい・ポイント |
|---|---|
| 費用計算の根拠を残す | 供給に要する費用と価格の関係を示せるように |
| 低価格の期間を限定する | 継続的・常態的な安売りを避ける |
| キャンペーンの目的を明確にする | 販促目的・新規獲得目的などを記録 |
| 対象範囲を合理的にする | 地域・顧客の不自然な限定を避ける |
| 実質価格で検討する | 送料・還元・無料分を含めて確認 |
| 競争者排除を目的にしない | 排除目的・価格回復前提を避ける |
| 業界別の考え方を確認する | 酒類・ガソリン・家電等は特に確認 |
| 景品表示法の表示も確認する | 価格表示は別途確認 |
| 社内承認を得る | 価格戦略を組織として確認 |
| 法務確認の記録を残す | 判断の根拠を証跡として残す |
※表は横スクロールできます。
実務で最初に確認すべきポイント
安売りを企画したら、次の流れで確認しましょう。
図解:安売りを考えるときの確認の流れ
価格戦略を立てる前の実務チェックリスト
| チェック項目 | 確認の視点 |
|---|---|
| 販売価格は費用を大きく下回っていないか | 供給に要する費用全体と比較したか |
| 原価・費用の計算根拠があるか | 客観的な計算を残せるか |
| 低価格販売の期間は限定されているか | 継続的・常態的でないか |
| 正当な理由を説明できるか | 合理的事情があるか |
| 在庫処分・短期キャンペーン等の事情があるか | 名目だけになっていないか |
| 対象地域・顧客を不自然に限定していないか | 競争者の狙い撃ちでないか |
| 競争者排除を目的としていないか | 排除の意図がないか |
| 競争者の事業活動を困難にさせるおそれがないか | 影響の程度を確認したか |
| 価格回復を前提にしていないか | 排除後の値上げを狙っていないか |
| 景品表示法上の価格表示も確認したか | 表示の適正さを確認したか |
| 法務・コンプライアンスに相談すべきか | 迷ったら早めに相談する姿勢があるか |
※表は横スクロールできます。チェックリストの総まとめは 第15話 で扱います。
実務では、価格設定の理由、費用計算、期間、対象範囲、キャンペーン目的、社内承認、法務確認といった証跡を残しておくことが大切です。あわせて、公正取引委員会の公式情報や不当廉売に関する考え方、酒類・ガソリン・家庭用電気製品などの業界別資料、契約書、販売実態を踏まえて対応してください。最新情報は公正取引委員会等の公式情報を確認することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
正当な理由なく、商品・サービスを供給に要する費用を著しく下回る価格で継続して供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為などをいいます。公正取引委員会の一般指定では、法律上定められた行為のほか、不当に低い対価で供給し他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること、と整理されています。不公正な取引方法の一つとして問題になり得ます。
安売りやセール販売が、それだけで違法になることはありません。安く売ることは競争の基本的な手段で、独占禁止法は価格競争を禁止する制度ではありません。問題になるのは、費用を著しく下回る価格で継続的に売り、競争者を市場から排除して競争をゆがめるような不当な安売り(不当廉売)です。通常の値引きや短期セールは、原則として問題になりにくいといえます。
原価割れ販売が、それだけで直ちに不当廉売になるわけではありません。価格水準(費用をどれだけ下回るか)、継続性、正当な理由の有無、競争者の事業活動を困難にさせるおそれがあるかを総合的に見て判断されます。合理的な事情があり、一時的・限定的な原価割れであれば、問題になりにくい場合もあります。
その商品・サービスを提供するのにかかる費用と比べて、価格が著しく低いかどうかを見る考え方です。ここでいう費用は仕入原価だけでなく、物流費・販売手数料・決済手数料・人件費・保守費・サポート費・サーバー費など、提供に必要なコストを含めて考える必要があります。「仕入価格は割っていない」だけでは判断できず、費用全体との関係を見ることが大切です。
過剰在庫の処分、賞味期限・使用期限が近い商品、季節商品の処分、展示品・訳あり品などには合理的な事情があり、正当な理由として整理しやすい場面です。一時的・限定的であれば、不当廉売になりにくいといえます。ただし、「在庫処分」という名目で実態は継続的に著しい安値を続け、競争者を排除する効果がある場合は、名目に関わらず問題になり得ます。
期間限定の販促キャンペーンや初回割引は、目的・期間・水準が合理的であれば、原則として問題になりにくいといえます。注意が必要なのは、初月無料・初年度無料・長期の無料提供などが常態化し、採算度外視の継続的な提供になっている場合です。継続性と、提供に要する費用との関係(実質価格)を確認しましょう。
送料無料やポイント還元、クーポンは、消費者から見れば実質的な値引きです。表示価格だけでなく、送料・還元分を反映した実質価格が、供給に要する費用(送料・決済手数料・サーバー費・サポート費等を含む)を著しく下回り、継続的に競争者を排除する効果があれば、不当廉売として問題になり得ます。実質価格と費用全体の関係を確認することが大切です。
まず事実を客観的に整理します。価格・販売期間・対象地域・対象商品を記録し、費用を下回る可能性や自社・競争者への影響を整理し、画面・チラシ・見積などの証拠を保存しましょう。「安すぎて困る」だけでは不当廉売にはなりませんが、原価割れ・継続性・競争者排除のおそれが整理できる場合は、公正取引委員会の相談・申告窓口や弁護士への相談を検討できます。なお、対抗してこちらも採算度外視の安売りをすると、自社が不当廉売を問われかねない点に注意してください。
不当廉売は独占禁止法上の問題で、競争者を排除するような不当な低価格販売そのものを問題にします。一方、景品表示法の価格表示(二重価格表示など)は、価格の「表示」が消費者に誤認を与えないかという別の観点の問題です。安売りを企画するときは、独占禁止法上の不当廉売と、景品表示法上の表示の両方を確認する必要があります。本記事は不当廉売を扱っており、表示の詳細には立ち入りません。
まず「販売価格が供給に要する費用を著しく下回っていないか」を、費用全体と比べて確認します。そのうえで、低価格販売が一時的・限定的か(継続性)、在庫処分や販促などの正当な理由を説明できるか、対象地域・顧客を不自然に限定していないか、競争者排除を目的としていないか、競争者の事業活動を困難にさせるおそれがないかを確認します。実質価格(送料・還元込み)や景品表示法上の表示も確認し、迷う場合は法務・コンプライアンスに相談してください。
初心者がしがちな誤解と正しい考え方
| ありがちな誤解 | 正しい考え方 |
|---|---|
| 安売りはすべて違法 | 安売り自体は競争の手段。原則として問題にならない |
| 原価割れなら必ず不当廉売 | 価格水準・継続性・正当理由・影響を総合的に見る |
| 赤字販売なら必ず違法 | 赤字=即違法ではない |
| 短期キャンペーンなら何をしても安全 | 常態化・反復すれば継続的安売りになり得る |
| 在庫処分ならどれだけ安くしてもよい | 名目だけでは安全でなく、実態を見る |
| 競合より安くしたら違法 | 安いだけでは不当廉売にならない |
| 大企業だけが不当廉売を気にすればよい | 規模だけで決まらず、効果・継続性を見る |
| ECのポイント還元は価格ではない | 実質的な値引きとして検討が必要 |
| SaaSの無料提供は独禁法と関係ない | 継続的な採算度外視は問題になり得る |
| 競合が困っていると言えば不当廉売になる | 費用・継続性・排除のおそれを客観的に見る |
※表は横スクロールできます。
まとめ
本記事は一般的な情報提供であり、個別の法律相談ではありません。不当廉売に当たるかどうかは、価格と費用の関係・継続性・正当な理由・市場や競争者への影響などの個別事情によって変わります。実際の判断にあたっては、公正取引委員会の公式情報や不当廉売に関する考え方、業界別の資料、社内のコンプライアンス規程、契約書、販売実態を踏まえ、必要に応じて法務部門や専門家にご相談ください。最新の制度内容や個別事案の判断については、必ず公正取引委員会等の公式情報をご確認ください。
第13話では、ここまで扱ってきた価格拘束・排他条件・取引拒絶などが集まりやすい「代理店・販売店契約」を取り上げます。価格・地域・顧客の制限で注意すべき点を整理します。
第13話:代理店・販売店契約で独禁法が問題になる場面を読む →参照した公的情報
本記事では、独占禁止法・不当廉売・原価割れ販売に関する基礎情報として、主に以下の公的情報を参照しています。最新の制度内容や個別事案の判断については、必ず公正取引委員会等の公式情報をご確認ください。
- 公正取引委員会「不当廉売関係」
https://www.jftc.go.jp/dk/renbai/index.html - 公正取引委員会「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/futorenbai.html - 公正取引委員会「酒類の流通における不当廉売,差別対価等への対応について」
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/futorenbai_sake.html - 公正取引委員会「ガソリン等の流通における不当廉売、差別対価等への対応について」
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/futorenbai_gasorin.html - 公正取引委員会「家庭用電気製品における不当廉売,差別対価等への対応について」
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/futorenbai_kaden.html - 公正取引委員会「独占禁止法の規制内容」
https://www.jftc.go.jp/dk/dkgaiyo/kisei.html
価格戦略・販売施策の独禁法リスクを整理する場合は、Legal GPTの有料プロンプト集や法務チェック用テンプレートも参考になります。社内資料や価格戦略資料をAIに投入する前に、秘密情報や相手方情報を整理したい場合は、LegalOS マスキングのような補助ツールを使う方法もあります。また、契約書や社内資料の整形作業を効率化したい場合は、LegalOS 契約書一発整形のような補助ツールも選択肢になります。
本シリーズで続けて読むと理解が深まる回として、第8話:再販売価格維持とは何か、第9話:抱き合わせ販売とは何か、第11話:取引拒絶・取引停止はどこまで許されるか、第13話:代理店・販売店契約で独禁法が問題になる場面、第15話:独占禁止法チェックリスト もおすすめです。
シリーズ全15回の一覧
| 回 | タイトル | この回で学ぶこと |
|---|---|---|
| 第1話 | 独占禁止法とは何か | 独禁法の全体像と4つの方向 |
| 第2話 | カルテルとは何か | 価格・数量・取引先を話し合う危険 |
| 第3話 | 談合とは何か | 入札・見積合わせ・受注調整のNG |
| 第4話 | 競合他社との情報交換 | どこまで許されるかの線引き |
| 第5話 | 業界団体・懇親会・展示会の注意 | NG会話の具体例 |
| 第6話 | 優越的地位の濫用とは何か | 強い立場の会社が注意すべき取引 |
| 第7話 | 値下げ・協賛金・返品要請 | 購買担当者の独禁法基礎 |
| 第8話 | 再販売価格維持とは何か | 販売店への価格指示の論点 |
| 第9話 | 抱き合わせ販売とは何か | セット販売との違い |
| 第10話 | 排他条件付き取引とは何か | 専属契約・競合排除の注意 |
| 第11話 | 取引拒絶・取引停止 | 取引先を切る前の確認事項 |
| 第12話 | 不当廉売とは何か(本記事) | 安売りが問題になる場合 |
| 第13話 | 代理店・販売店契約 | 価格・地域・顧客制限の注意 |
| 第14話 | 独占禁止法と取適法の違い | 下請法から変わった取引適正化ルール |
| 第15話 | 独占禁止法チェックリスト | 営業・購買・企画が見る15項目 |
※表は横スクロールできます。各話は公開され次第リンクが有効になります。
※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、公正取引委員会の公的情報を参考に整理したものです。法令・ガイドライン・制度内容は改正されることがあります。最新の内容や個別事案の判断は、公正取引委員会の公式情報等で必ずご確認ください。
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