新規事業で他社と組む前に確認すべきこと|業務提携・共同開発・JV契約

「提携先とは話がまとまっているので、簡単な業務提携契約を作ってほしい」——事業部からよくある依頼です。ところが、誰が顧客と契約し、費用や売上をどう分け、成果を誰が持つのかは決まっておらず、すでに技術資料を渡し、成果は「とりあえず共有」、撤退や失敗時の処理は未確認——。この状態でひな形を埋めても、後で揉めます。

結論を先に示します。業務提携契約は、すでに決まった事業内容を文章にするだけの書類ではありません。誰が何を提供し、費用・責任・成果を負担し、どの条件で続け終了するかを決める「事業設計」です。本記事では、新規事業で業務提携契約を締結する前に確認すべき事項を実務の順序で整理します(実施主体は第4話、社内決裁は第5話)。

この記事の要点

  • 契約書のひな形より先に、提携目的と各社の役割を言語化する
  • 秘密情報を開示する前にNDA(秘密保持契約)を締結し、対象・目的・開示範囲を限定する
  • NDA・基本合意書・PoC・共同開発・本契約・JV契約を段階ごとに使い分ける
  • MOUや基本合意書も、名称だけで法的拘束力の有無は決まらない
  • 既存知財と共同開発成果を分け、帰属だけでなく利用範囲・出願・終了後利用を決める
  • 共同開発成果の帰属は、費用負担ではなく技術・アイデアの貢献度で設計する(「共有」「50:50」と機械的に定めない)
  • ノウハウ・設計図面・産業データの一方的な開示要請、無償のPoC・技術指導、知財訴訟リスクの一方的転嫁は、独占禁止法上の問題となり得る
  • 独占・競業避止・情報交換・成果物の利用制限は独占禁止法上の確認を行う
  • 契約違反・開発失敗・相手方撤退・契約終了後の処理を開始前に決める
本記事での用語

GO・条件付きGO・HOLD・NO-GOは、法令上の正式な区分ではありません。本シリーズが、検討状況を整理するために使う区分です。また「業務提携」「JV」は実務上の呼び名で、民法・会社法に「業務提携契約」「JV契約」という一つの定型契約があるわけではありません。

2026年6月24日 知財取引指針の公表

2026年(令和8年)6月24日、公正取引委員会・中小企業庁・特許庁は「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」(以下「知財取引指針」)と、その附属資料である契約書ひな形(秘密保持契約書・共同開発契約書・開発委託契約書・製造委託契約書)を公表しました。同指針は、特許権等の知的財産権に限らず、権利化されていないノウハウ、設計図面・設計加工データ、工程表・レシピ、機械の稼働状況等の産業データ、研究開発の過程で生じるデータ、顧客データ等を広く「知的財産権等」として対象とし、特定の業種に限定しない横断的な考え方を示しています。内容は、独占禁止法(優越的地位の濫用)を中心に、中小受託取引適正化法(取適法)・フリーランス・事業者間取引適正化等法との適用関係、問題となり得る事例(約70事例)、実践例(約50事例)で構成されます。業務提携・共同開発・PoCという名称でも、実態として発注者・受注者の関係が生じる場面では、同指針の考え方を確認します。公正取引委員会「知的財産分野関係」

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新規事業で他社と組む契約にはどのような種類があるか

「業務提携契約」を1通結べばすべて解決、とはなりません。提携は、秘密保持・実証・共同開発・販売・ライセンス・出資などの組み合わせで、目的や段階に応じて契約を分けます。代表的なものは、NDA、基本合意書(MOU・LOI)、PoC契約、共同研究開発契約、業務提携・業務委託・ライセンス・販売店契約、出資契約、株主間契約・合弁契約などです。

※ 表は横にスクロールできます。

段階主な目的契約の例主に決めること
初期検討情報交換NDA秘密情報・利用目的・開示範囲
基本合意交渉方針MOU・LOI対象・スケジュール・拘束力
技術検証実現可能性の確認PoC契約検証範囲・費用・成果
開発商品・技術の開発共同開発契約役割・貢献度・知財・費用
事業化販売・提供・収益化業務提携・販売・ライセンス顧客・売上・責任
法人化共同出資会社出資契約・株主間契約支配・資金・退出
運営JV会社との取引ライセンス・委託等知財・業務・対価

すべての提携で全契約が必要なわけではなく、1通に統合する場合もあります。段階ごとに目的と責任を区切ると、交渉・終了・移行を管理しやすくなります。新会社を作らず契約だけで連携する方式(本記事では「契約型共同事業」と呼びます。正式な類型ではありません)でも、実態によっては民法上の組合などの法律関係が生じ、「組合関係を成立させない」と書けば必ず否定できるとは限りません。

契約書を作る前に確認する8つの事項

条項の前に、まず事業モデルを合意します。確認するのは、提携目的・各社の提供資源・顧客との関係・金銭・知財や秘密情報やデータ・意思決定・責任やリスク・終了や撤退の8つです。以下のヒアリングシートで具体化します。

※ 表は横にスクロールできます(業務提携ヒアリングシート)

確認項目具体的に聞くこと契約への影響
提携目的・対象事業何を実現するか/商品・技術・地域・顧客契約範囲・独占・利用範囲
役割・提供資源開発・販売・運用・保守/技術・人材・設備・顧客義務・責任・利用条件・返還
顧客契約誰が顧客と契約するか対外責任・売上
価格・売上受領誰が価格を決め、誰が代金を受けるか意思決定・競争法・精算
費用負担開発費・追加費用予算・超過時対応
既存知財・新規成果各社の持込み/何が生まれるか/誰の技術・アイデアか利用許諾・帰属・利用権・対価
ノウハウ・技術資料図面・工程表・加工データを渡すか開示範囲・対価・目的外利用の禁止
データ誰が取得・利用するか個人情報・利用範囲
意思決定誰が何を決めるか会議体・拒否権
品質・苦情・事故誰が管理・対応するか保証・責任・顧客対応・賠償
独占他社と取引できるか範囲・期間・競争法
契約期間・撤退いつまで続け、どの条件で離脱できるか更新・終了・成果処理
相手方倒産等継続できるか解除・利用継続

ステップ1 提携相手と提携目的を確認する

条件の前に、相手方と提携の必要性を確認します。相手方については、契約締結権限・財務や事業継続性・必要な許認可・知財やデータの提供権限・コンプライアンス(反社・制裁・輸出管理)・競合との関係・終了後の保守提供などを確認します。公表情報だけでは分からないため、質問票・資料提出・表明保証・報告義務を組み合わせますが、調査で将来の問題を完全には防げません。

提携目的については、自社だけで実現できない理由、相手方でなければならない理由、期待するもの(技術・販路・資金・許認可など)、短期検証か長期共同事業か、成果が出ない場合に負担できる費用、独占の要否、将来のJV化、終了後も相手方の保守が必要かを整理します。

相手方がスタートアップ・中小企業の場合

交渉力・資金力・法務体制の差を背景に、無償の秘密情報開示、PoCの無償作業、知財の一方的帰属、過度な取引先制限、責任の一方的負担などが問題となり得ます。契約条件は、各社の貢献・対価・リスク・事業化の利益を踏まえて設計します。この問題は相手方がスタートアップの場合に限りません。知財取引指針は、業種や企業規模を限定せず、発注者と受注者の取引過程における知的財産権等の帰属・取扱いについて横断的な考え方を示しています。自社が発注者側に立つ場面では、自社が違反者になり得るという視点で確認します(公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」は令和4年3月31日策定、令和8年2月19日改正)。

ステップ2 各社の役割と顧客との関係を決める

各社の義務を「必要な協力を行う」で終わらせず、誰が・何を・いつまでに・どの水準で行うか(作業義務と完成義務を区別)を定め、顧客との契約・料金受領・提供・品質・苦情・返金・個人情報の対応を分担します。契約主体・提供者・請求者・保守や苦情対応者が異なる場合は、役割を顧客に表示し、契約・広告・画面・運用を整合させること、権限のない者が顧客へ約束しないことが重要です(再委託しても元の当事者の責任は当然には消えません)。

自社提供する資源・担当業務・顧客に対する立場を明確化
提携先提供する資源・担当業務・再委託の可否を明確化
顧客誰と契約し、誰に料金を払い、誰が責任を負うか

※ 表は横にスクロールできます(役割分担表/自社で記入するテンプレートです)

業務自社提携先共同顧客に対する主体契約上の責任
商品企画
技術開発
営業・広告
顧客契約
料金請求
サービス提供
品質管理
保守・障害対応
苦情・返金
個人情報対応

共同開発を伴う場合は、この役割分担表がそのまま成果の帰属設計の基礎資料になります。知財取引指針も、共同研究開発でははじめに双方に期待される貢献(役割分担)を明示的に整理することを重視しています。開始時点で詳細を決められない場合でも、役割分担の大きな枠組みだけは書面化しておきます。

ステップ3 契約を段階に分ける

各段階では、目的・開始条件・終了条件・次段階へ進む条件・費用・扱う秘密情報やデータ・生まれる成果・本契約締結義務の有無を定めます。段階を踏めば必ず安全になるわけではなく、必要な契約と確認事項を区切るための整理です。

ステップ4 NDA・基本合意書で交渉段階を管理する

NDAで確認する事項

NDAでは、秘密情報の定義・表示方法・利用目的・開示できる範囲・複製や解析の制限・例外(公知情報等)・管理義務・返還廃棄・義務期間・知財の不許諾・公表・救済の可否と要件などを確認します。NDAがあっても開示は必要最小限にし、営業秘密として守るには秘密管理措置も重要です。相手方が競合の場合は、価格・顧客・将来戦略など競争上重要な情報の共有範囲を限定します。NDAは、技術・データの利用許諾や知的財産権の取得を意味しません。

知財取引指針は、NDAを締結するだけでは足りず、秘密情報の範囲・利用目的・開示対象者・管理を適切に限定することを求めています。実務では、契約交渉が本格化する前に、自社の情報を次の3区分で整理しておくと交渉が速くなります。

  • ①NDAなしで開示できる情報
  • ②NDA締結後に開示できる情報
  • ③いかなる状況であっても開示すべきでない情報

あわせて、秘密情報の範囲を広く定義すればよいわけではない点(分別・従業員名簿の管理などの管理コストも考慮する)、開示対象者を目的遂行に必要な範囲へ限定する点、契約期間だけでなく終了後の残存条項を定める点(情報の性質に見合わない短い期間だけを定めると、期間満了後に相手方が自由に利用できる状態になり得ます)を確認します。生成AIを利用する場面では、入力した秘密情報が利用目的を超えてAI学習に用いられないか、AI提供者への開示や第三者提供に当たらないかを、契約時に確認しておきます。

NDA締結拒否・片務的NDAの取扱い

知財取引指針は、取引上の地位が優越している発注者が、受注者に対し、一方的にNDAを締結しないまま取引の実施を要請する場合や、双方から秘密情報の開示が想定されるのに一方の当事者にのみ秘密保持義務を課す片務的なNDAの締結を一方的に要請する場合であって、受注者が今後の取引への影響を懸念して受け入れざるを得ないときは、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある、としています。「社内ひな形だから修正できない」「手続が煩雑だから」という理由だけでNDAの締結や修正協議を拒否することは、正当な理由とはされていません。取引開始前であってもNDAの締結を求めることは当然のことである、というのが同指針の立場です。

ノウハウ・データの開示要請にどう向き合うか

提携交渉では、技術資料や図面、工場見学の受入れが求められます。知財取引指針は、取引の本来の目的に照らして合理的に必要と考えられる範囲を超えて相手方のノウハウ等の提供を求めないこと、監査や品質保証等で開示を受ける必要がある場合はあらかじめ必要な箇所を明らかにし、その目的を達成するために必要な範囲を超えて提供を求めたり知り得たりしないことを求めています。

※ 表は横にスクロールできます(一方的な開示要請の類型と実務対応)

類型問題となり得る要請の例実務対応
技術情報発注内容に含まれない製造ノウハウ・製造方法・工程表・成分や配合比率の無償提供要請開示範囲を発注内容に紐づけ、目的・対価・利用範囲を事前に明示
設計図面・加工データ見積り段階での設計データの無償提供、金型の設計データの一方的な提供要請提供の要否・対価・二次利用の可否を契約で明確化
工場見学・監査監査・品質保証に必要な範囲を超える質問・撮影、指定事業者による見学見学ルートと説明範囲を事前設定、秘密保持誓約書、撮影禁止表示、見学者名簿
産業データ機械の稼働時間・生産性等のリアルタイムデータの無償提供要請収集対象・利用範囲・保存期間を契約や利用規約で明示
試作品・技術指導試作品そのものや技術指導の過程で得たノウハウの目的外利用・第三者開示秘密情報として取り扱い、第三者への開示・複製は事前の書面等による承諾を要件化

これらの行為は、取引上の地位が優越している発注者が正当な理由なく一方的に要請し、受注者が受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。さらに、取適法またはフリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象取引に当たる場合は、不当な経済上の利益の提供要請、買いたたき、協議に応じない一方的な代金決定としても問題となり得ます。

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秘密情報の定義、利用目的、開示先、返還・廃棄、知財の不許諾など、NDAで確認すべき事項を手元で整理できる無料の資料です。一般的な確認項目を整理するもので、個別契約の妥当性や法的効果を保証するものではありません。契約内容・取引状況に応じて追加の確認が必要です。

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基本合意書(MOU・LOI)で確認する事項

基本合意書では、提携対象・交渉期間・独占交渉の有無・PoCや本契約の予定・費用負担・公表・秘密保持・本契約締結義務の有無・拘束力の範囲などを確認します。MOU・LOI・基本合意書・覚書は、名称だけで法的拘束力の有無が決まりません。文言・合意内容・具体性から判断され、一部の条項だけに拘束力を持たせる例もあります。「拘束力なし」と書きつつ具体的な義務・違約金を定める場合は整合性を確認します。独占交渉期間が長すぎると他の提携機会を失うことがあります。

ステップ5 PoC契約で検証範囲と次段階を区切る

PoC(Proof of Concept、概念実証)は、技術・事業の実現可能性を限定的に検証することです。PoCを実施しても、本開発・本契約を締結する義務が当然に生じるわけではありません。無償PoCでも、秘密情報・成果・データ・費用・利用範囲を決める必要があり、一方に過度な無償開発を負わせないようにします。

無償の技術検証(PoC)・技術指導・試作品製造

知財取引指針は、発注者が受注者に対し、正当な理由がないのに無償で技術指導、技術検証(PoC)、試作品製造等を実施させた場合には、発注者が本来負担すべき費用が受注者に転嫁されることになる、と整理しています。取引上の地位が優越している発注者が一方的にこれを要請し、受注者が今後の取引への影響を懸念して受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。取適法・フリーランス法の適用対象取引に当たる場合は、不当な経済上の利益の提供要請、買いたたき、協議に応じない一方的な代金決定としても問題となり得ます。スタートアップ指針では、これに加えて、著しく低い対価でのPoC、PoC実施後の正当な理由のない対価の減額、正当な理由のないやり直し要請についても考え方が示されています。「本開発で回収してもらうから今回は無償で」という運用は、合意の記録がなければ後から説明できません。

※ 表は横にスクロールできます(PoC契約で決めること)

確認項目契約で決めること曖昧な場合の問題
検証目的何を確認するかゴールが定まらない
対象範囲技術・顧客・環境作業が拡大する
評価基準成功・失敗の判定結果の評価が争いになる
期間開始日・終了日無期限に続く
費用誰が何を負担するか/無償とする理由と記録無償作業が拡大する
データ提供・利用・削除目的外利用が生じる
成果レポート・試作品・中間成果物等所有・利用で争う
知財発明・改良・ノウハウ商用利用できない
本開発移行義務・条件PoC後の期待がずれる
公表実績紹介・名称利用無断公表が生じる
中止途中終了・費用精算・やり直しの範囲損失分担が不明

PoC終了時には、本開発へ進む/追加検証を行う/条件を変更する/提携を終了する、のいずれかを判断できる設計にします。また、完成品とは別に制作した中間成果物(絵コンテ、加工可能データ、素材データ、検証過程の試作物など)についても、契約内容に含まれない無償提供を一方的に要請することは問題となり得るため、提供の要否・対価・帰属を事前に整理しておきます。

ステップ6 共同開発契約で知財と事業化を設計する

共同開発契約では、開発対象・役割(仕様・マイルストーン・各社の作業・変更管理・検収など)と費用(各社負担・追加費用・予算超過・中止時の精算など)を定めたうえで、知的財産を次のように区別します。

  • 既存知財(契約前から各社が保有。契約上「バックグラウンドIP」と呼ぶことがあります):一覧化し、共同開発への利用範囲・再許諾・改変・第三者提供・終了後利用・権利保証の有無を決める
  • 共同開発成果(開発中に生まれる発明・著作物・ソフトウェア・ノウハウ・データ・学習済みモデル・改良技術。「フォアグラウンドIP」と呼ぶことがあります):帰属と利用を設計する
  • 第三者の知財・OSS:利用条件・侵害責任を確認する

成果の帰属は「費用負担」ではなく「貢献度」で決める

知財取引指針は、共同研究開発によって得られた成果の帰属は、技術やアイデアの貢献度によって決められることが原則とし、専ら一方の当事者のみが技術やアイデアを提供している場合に他方の当事者のみへ単独で帰属させるときは、原則として当該知的財産権等の適切な対価を支払うこととしています。あわせて、提供した当事者が望めば、その当事者も成果を利用できるよう無償で実施権を設定するなど、共同研究に携わった当事者の利用可能性に配慮することを求めています。

重要なのは、研究開発経費を多く負担していることが、直ちに成果である知的財産権等の帰属主体となることを正当化するものではないという整理です。実質的な創作を一方が担い、他方は資金提供やプロジェクト管理・助言等の関与にとどまる「名ばかり共同研究開発」において、一方当事者の貢献度を超えて成果を一方のみまたは双方に帰属させることは、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。持分を機械的に50:50とすることも、指針が示す考え方とは異なります。共同出願の持分は、貢献度に応じて協議して決めます。

出願への干渉と、特許を受ける権利の所在

特許を受ける権利は、原則として発明者に帰属します(特許法第29条第1項。職務発明について契約・勤務規則等にあらかじめ定めがあるときは使用者等に帰属します。同法第35条第3項)。発明が共同でなされたときは共同発明者の共有となり、共有者の一部のみでは特許出願をすることができません(同法第38条)。ここでいう発明者は創作行為に現実に加担した者を指し、単なる管理者・補助者・資金提供者は共同発明者に当たらないと解されています。

したがって、取引と直接関係のない発明や、受注者が独自に開発した発明について、共同出願を強制したり、事前報告や出願内容の修正を求めたりすることは、出願干渉として優越的地位の濫用の問題となり得ます。加えて、発注者側に特許法上の発明者が存在せず特許を受ける権利を有しない場合、その出願は特許を受けることができず、又は無効とされ得ます(同法第49条第7号、第123条第1項第6号)。共同出願にすれば安全、という発想は成り立ちません。

バックグラウンド情報の管理(コンタミネーション対策)

契約締結前に保有していた情報と契約締結後に生じた情報が混在すると、既存情報であることの主張立証が困難になり、本来単独で出願できたはずの技術が共同開発の成果として扱われるリスク(コンタミネーションリスク)が生じます。実務では次を行います。

  • 契約締結時に、共同開発の開始時点のバックグラウンド情報をリスト化して開示・交換する
  • 契約書上は「本研究のために必要な情報である旨を書面等で通知したもの」と定義し、開示するバックグラウンド情報の範囲を自ら決められるようにする
  • 開示したバックグラウンド情報の相手方における取扱い(秘密保持義務・目的外使用禁止・特許出願禁止等)を定める
  • 他者の実施を検出できる技術(物の構成・形状・組成等)は特許出願、検出しにくいプロセスノウハウ・データ・ソースコード等は公証制度(確定日付)やタイムスタンプで保有時期を証拠化する

帰属と利用権を分けて設計する

成果の帰属は「甲乙共有」とだけ書かず、単独・共有・分野別・成果類型別を比較し、誰に帰属させるか(帰属)と、各社がどこまで使えるか(利用権)を分けて設計します。成果を持たない側の利用権の範囲、出願・維持・権利行使、著作権における著作者人格権の不行使、ノウハウの秘密管理・利用制限も定めます。なお、改良知財(既存知財をもとにした改良)について、優越的な立場にある側が正当な理由なく無償譲渡や独占的ライセンスを一方的に求めることは、優越的地位の濫用として問題となり得ます。共同研究開発指針では、成果の改良発明等を他の参加者へ譲渡する義務を課すことや、他の参加者へ独占的に実施許諾する義務を課すことが、不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項として示されています。また、特許を共有とし一方のみが製造・販売する場合は、自己実施しない側への補償(不実施補償)の有無を事前に取り決めておくと、後の紛争を避けられます。

注意:「共有」にすれば安全・公平とは限らない

知財を共有しても自由に使えるとは限りません。特許権の共有では、各共有者は別段の定めがなければ自己実施できますが、持分の譲渡や第三者への実施許諾には他の共有者の同意が必要です(特許法第73条)。著作権の共有では、原則として行使に共有者全員の合意が必要ですが、各共有者は正当な理由がない限り合意の成立を妨げられません(著作権法第65条第2項・第3項)。特許権の共有とは取扱いが異なり、「共有」とだけでは各社がどこまで利用・許諾・処分できるかは決まりません。また著作者人格権は一身専属で譲渡できないため、改変・公表等の予定があれば、利用態様を具体化して必要かつ合理的な範囲の不行使特約を検討します(特約を定めても著作者人格権自体が消滅するわけではありません。なお、氏名表示権等の行使を必要とする側と協議せずに不行使条項を一方的に押し付けることは、優越的地位の濫用の問題となり得ます)。さらに、共有特許としながら一方当事者のみが実施でき、他方が実施できないという不利な取扱いを一方的に求めることも、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります(知財取引指針)。費用を多く負担した側が当然に全知財を取得するわけでもありません(詳細は第7話・第8話)。

利用できる公的ひな形

知財取引指針の附属資料として、秘密保持契約書ひな形・共同開発契約書ひな形・開発委託契約書ひな形・製造委託契約書ひな形の4種類が公表されています。研究開発型の連携では、特許庁のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書(OIモデル契約書。新素材編・AI編・大学編等。ver2.2は令和7年4月公表)が、秘密保持契約書・PoC契約書・共同研究開発契約書・ライセンス契約書について逐条解説付きで公開されています。知財取引指針も、役割分担、経費負担と知的財産権の帰属、非保証、損害賠償、マイルストーン方式による対価などの場面でOIモデル契約書を参照しており、両者は置き換え関係ではなく併用するものです。指針が「問題となり得る行為」と「あるべき姿」を示し、ひな形・モデル契約書が条項例と交渉のオプションを示す、という関係で使い分けます。いずれも、そのまま全案件へ適用する完成品ではありません。

ステップ7 費用・売上・追加負担を明確にする

「費用は協議して決める」「売上は別途精算」では揉めます。下表のとおり初期・継続費用と、売上の受領者・配分方法(固定額・売上歩合・利益配分)・税や手数料・返金や貸倒れの負担・分配時期・計算根拠を決めます。予算超過は自動的に折半とは限らず、追加費用の承認手続や上限超過時の対応を定めます。税務・会計は契約書だけで決まらないため、税理士・公認会計士に確認してください。

※ 表は横にスクロールできます(費用・売上の整理表/自社で記入)

項目自社負担提携先負担共同負担算定方法支払時期超過時の対応
初期開発費
外部委託費
知財費用
知財・ノウハウの対価
運用・保守費
広告費
顧客返金
追加開発費

知的財産権等の対価をどう設定するか

知財取引指針は、知的財産権等の対価について、特定の対価設定方法や従前の取引慣行だけを唯一の前提としないことを求めています。受注者から取引形態や支払方法について提案があった場合には、その要否や具体的内容を十分に協議します。設定方法には、一括払、分割払、レベニューシェア方式(売上げ等に応じた支払)、ロイヤリティ方式(利用実績に応じた支払)、イニシャルフィーとランニングロイヤルティの組合せ、事業の進捗に応じたマイルストーン方式などがあり、リスクとリターンのバランスを踏まえて選びます。価値評価の考え方としては、原価法(コスト・アプローチ)、取引事例比較法(マーケット・アプローチ)、収益還元法(インカム・アプローチ)が示され、それぞれ長所と短所があります。

また、取引の目的である成果物そのものの対価と、それに関連する知的財産権等の提供に係る対価とを区分して整理するという考え方も示されています。必ず明示的に区分しなければならないわけではなく、成果物の対価に包括して設定することが合理的な場合もありますが、その場合でも、受注者から区分や説明を求められたときは丁寧に説明し、必要に応じて協議の場を設けることが望ましいとされています。成果物の制作費用のみを基準として、知的財産権等の経済的価値が反映されていない著しく低額な対価を一方的に決定することや、取引の目的に照らして必要な範囲を超える無制限の利用・全面的な譲渡を当然の前提とする条件を一方的に設定することは避けます。契約締結時に具体的な額を定められない場合でも、算定方法や下限を定めて予見可能性を高めることが有用です。

共同開発という名称でも取適法・フリーランス法の確認が必要

PoC・共同開発・業務提携という名称でも、実態が一方から他方への情報成果物作成委託・役務提供委託・製造委託等に当たり、規模要件(資本金または従業員数)を満たす場合は、中小受託取引適正化法(取適法。2026年1月1日施行で旧・下請法を改正・改称)の適用を確認します。相手方が特定受託事業者(いわゆるフリーランス)に当たる場合はフリーランス・事業者間取引適正化等法の適用を確認します。契約名称だけで適用の有無は決まりません。適用関係は、独占禁止法と取適法では原則として取適法が優先し、独占禁止法・取適法とフリーランス法では原則としてフリーランス法が優先して適用されます。知財取引指針は、ノウハウ等の一方的な開示要請、知的財産権等の不当な対価設定、著作権の無償譲渡・無償ライセンスの要請、中間成果物の譲渡要請、無償の技術指導・PoC・試作品製造、知財訴訟リスクの転嫁、共同研究開発成果の一方的帰属・名ばかり共同研究開発について、不当な経済上の利益の提供要請(取適法第5条第2項第2号、フリーランス法第5条第2項第1号)、買いたたき(取適法第5条第1項第5号、フリーランス法第5条第1項第4号)、協議に応じない一方的な代金決定の禁止(取適法第5条第2項第4号)との関係を整理しています。他方、NDAの締結拒否・片務的NDA、著作者人格権の不行使条項、出願干渉、成果物の利用制限、最恵待遇条件、共有知財の不利な取扱いは、主として独占禁止法の問題として整理されています(NDA締結拒否後に秘密情報を提出させたような場合は、不当な経済上の利益の提供要請が問題となり得ます)。対象となれば自社が違反者になり得ます。

ステップ8 意思決定・会議体・変更管理を設計する

「両社協議の上決定する」だけでは、意見が割れると事業が止まります。下表のとおり日常業務と重要事項の決定者、運営委員会等の構成・決議方法・議事録、各種変更の承認方法を定めます。重要変更は口頭やメールだけで進めず記録し、許認可・個人情報・顧客契約への影響を再確認します。

※ 表は横にスクロールできます(意思決定権限表/自社で記入)

決定事項自社単独提携先単独双方合意会議体承認緊急時の対応
日常運用
予算変更
仕様変更
価格変更
新規顧客・地域
知財出願
第三者委託
事故・公表
提携終了

デッドロック(重要事項で意見が一致せず意思決定できない状態)への対応として、担当者協議、経営者へのエスカレーション、第三者専門家の意見聴取、一定期間の現状維持、事業範囲の縮小、一方による買取り、共同事業の終了、JV株式の売却・解散などがありますが、いずれも万能ではなく、当事者の資力・出資比率・事業継続性を踏まえた個別設計が必要です。

ステップ9 独占・競業避止・情報交換を確認する

相手方に独占性を認めることはありますが、範囲を広く設定すればよいわけではありません。独占条項では、対象商品・顧客・地域・期間・最低購入や販売義務・成果未達時の独占解除・既存事業の除外・例外承認の手続などを確認します。競業避止では、何を競合とみなすか、自社の既存・将来事業を過度に・無期限に縛らないか、地域・顧客・期間が合理的か、終了後も制限が必要かを確認します。

独占禁止法の確認

共同研究開発は、それ自体が直ちに独占禁止法違反になるわけではありません。逆に、競合他社間だから当然に違法ということもありません。ただし、競争関係にある事業者間で研究開発・価格・販売・顧客・将来戦略などを共同化・共有する場合は競争への影響を確認します。共同事業に合理的に必要な範囲を超えて、各社の独自事業に関する現在・将来の価格・数量・顧客・販路・設備計画等の競争上重要な情報を共有しないことが原則です。共有が必要な場合は、目的・項目・閲覧者を限定し、アクセス制限や目的外利用の禁止など情報遮断措置を講じます。情報交換が必要だから、NDAがあるから適法というわけではなく、内容・必要性・管理措置を踏まえて個別に確認します。共同プロジェクトの従事者は相手方のコア技術等に触れるため、参加者の限定・アクセス制限・終了後の流用防止といった情報遮断(クリーンルーム)の運用も設計します。評価は市場・当事者の関係・制限内容によって変わり、公正取引委員会の「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」が参考になります。

成果物の利用制限・最恵待遇条件

知財取引指針は、共同研究開発の一方当事者が、成果の秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間又は範囲に限り、成果に基づく商品・役務の販売先を特定の事業者に制限することは原則として独占禁止法上問題とならない、としています。一方で、合理的な期間・範囲を超えて販売先を制限する場合や、共同研究開発の経験を活かして新たに開発した成果まで制限する場合には、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあり、市場における有力な事業者による制限で市場閉鎖効果が生じるおそれがある場合には、排他条件付取引(一般指定第11項)または拘束条件付取引(一般指定第12項)として問題となるおそれがあります。

最恵待遇条件(相手方の取引条件を他の取引先と同等以上に有利にする条件)も、設定すること自体が直ちに問題となるものではありません。ただし、合理的な期間・内容を超えて、相手方にメリットのない最恵待遇条件を一方的に設定する場合には、対価設定の柔軟性が害され、新規取引先の獲得機会が失われるなどの不利益が生じ、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。市場における有力な事業者が設定し市場閉鎖効果が生じるおそれがある場合は、拘束条件付取引としても問題となり得ます。契約終了後も権利が存続する限り制限が続くといった、期間の定めのない制限条項は特に注意が必要です。

※ 表は横にスクロールできます(共有情報の管理/自社で記入。競争上重要な情報は共有の必要性自体から確認)

情報共同事業に必要か共有範囲閲覧者保存場所契約終了時
技術仕様
開発結果
設計図面・加工データ
顧客情報
販売価格
販売数量
将来戦略
原価情報
個人データ

ステップ10 データ・個人情報の利用関係を決める

「データを共同で利用する」とだけ定めるのでは不十分です。下表のとおり、どのデータを誰が取得・管理・利用し、目的・個人情報該当・委託/共同利用/第三者提供のどれか・海外移転・AI学習・終了時の返還削除・派生データの帰属を決めます。法的整理が異なるため名称だけで決めず実態を確認します(詳細は第9話)。

あわせて、個人情報に当たらない産業データにも経済的価値がある点を確認します。知財取引指針は、機械の稼働状況等に関するリアルタイムデータについて、収集・解析により事業運営の効率化や保守サービス等に活用され得る経済的価値を有するものと位置づけ、正当な理由なくその無償提供等を一方的に要請することは、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあるとしています。データを提供する側は、収集対象・利用範囲を契約や利用規約で明示し、受け取る側は、内製化や第三者提供に転用しないことを明確にします。

※ 表は横にスクロールできます(提携事業のデータ整理表/自社で記入)

データ取得者管理者利用者利用目的法的整理終了時の処理
顧客情報
利用履歴
稼働・産業データ
開発データ
学習データ
分析結果
派生データ

ステップ11 表明保証・遵守事項・報告義務を設計する

表明保証とは、契約締結時などに一定の事実が真実・正確であることを当事者が表明・保証する条項です。候補は、契約締結権限・社内承認、許認可、提供する知財やデータの利用・許諾権限、第三者の権利の非侵害、重大な紛争の不存在、反社・輸出管理・贈収賄防止の遵守などです。すべてを無限定に保証させず、相手方が確認できる範囲や「知る限り」等の認識限定を検討し、違反時の解除・補償・是正を定めます。表明保証だけに頼らず事前調査も行い、継続的な遵守事項や重大事故・訴訟・支配権変更の報告義務も検討します。

とくに第三者の知的財産権を侵害しないことの保証(いわゆる特許保証)については、保証責任だけでなく、調査の実施と調査費用の負担を、目的物の仕様等の決定において各社が果たした役割等を踏まえて明示的に協議し、適切に分担します。知財取引指針は、発注者が自ら仕様等を決定し、その決定に受注者が関与していない場合において非侵害の調査が必要となるときは、原則として発注者が自らの負担で調査を行わなければならない、としています。受注者に一方的に転嫁し、又はその旨を契約に定めることは避けます。

ステップ12 責任分担・損害賠償・保険を設計する

「違反者がすべて賠償する」だけでなく、具体的なリスクに合わせます。下表の事故・損失を洗い出し、債務不履行責任・第三者請求の補償・責任分担・損害賠償の範囲・責任上限と除外事項(故意重過失・秘密保持違反・個人情報事故・人身損害など)・保険を定めます。責任上限を低くすれば常に有利とは限らず、自社が顧客へ負う責任と提携先から回収できる範囲が一致しないことがあります。顧客契約と提携先契約の責任上限を整合させ、金銭で回復できない知財・秘密情報は差止め・利用停止も検討します(詳細は第14話)。

知財訴訟等のリスクを一方的に転嫁しない

知財取引指針は、発注者の指示に基づく業務について第三者との間に知的財産権に関する紛争が生じた場合、その解決に係る責任や負担(紛争解決責任)を受注者に一方的に転嫁すること、又はその旨を契約に定めることは適正な取引とはいえない、としています。整理は次のとおりです。

  • 発注者にのみ帰責事由があるとき(専ら発注者の決定による仕様等そのものが第三者の権利を侵害している場合など)は、発注者が自ら紛争解決責任を負う
  • 受注者にも一定の帰責事由があるときは、各々の帰責事由の内容や各々が獲得した利益等を考慮し、正当といえる範囲で分担する
  • 受注者に帰責事由がないのに第三者から訴えられたときは、原則として発注者は、仕様等の決定に係る経緯や指示内容の開示要請、第三者への損害賠償についての求償等に応じる
  • 第三者の知的財産権を使用する必要があるときの使用料・事務その他の負担も、責任の所在を考慮せずに一方的に転嫁しない

ここでいう発注者の「指示」は、明確な指示に限らず、口頭やメールでの示唆、その仕様を用いなければ取引を停止する等の不利益の示唆も含まれ得るとされています。受注者側は、手書きのメモを含む書面・電磁的記録で経緯を残し、帰責事由がないことを証明できるようにしておきます。責任の設計としては、特許保証までは行わない前提で他の条件を定める、保証範囲を限定する代わりに対価(ライセンス料等)とのバランスを取る、賠償額の上限や請求期間を定める、といった選択肢があります。取引上の地位が優越している発注者が、正当な理由なく損害賠償責任の負担を一方的に要請する場合は、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあり、取適法・フリーランス法の適用対象取引ではこれらの規定にも触れ得ます。

※ 表は横にスクロールできます(リスク分担表/自社で記入)

リスク主な原因顧客対応者費用負担者契約上の責任保険
開発遅延
システム障害
情報漏えい
知財侵害(自社起因)
知財侵害(相手方の指示起因)
人身・物損事故
顧客返金

ステップ13 契約期間・解除・終了後の処理を決める

終了条項は、契約期間と予告期間の記載だけでは足りません。契約期間(自動更新・本開発への移行・保守期間・知財ライセンス期間・秘密保持の存続)、通常終了、解除事由(重大な契約違反と是正期間・倒産・許認可失効・情報漏えい・知財侵害・反社・支配権変更・競合による買収など)を定めます。解除事由があっても直ちに無条件で解除できるとは限らず、違反の程度・催告の要否を確認します。

※ 表は横にスクロールできます(終了時処理表/自社で記入)

項目終了時の処理担当者期限終了後の利用可否
秘密情報
顧客データ
開発成果
既存知財
試作品・設備
顧客契約
ブランド

とくに、すでにサービスを利用している顧客がいる場合は、満了時だけでなく中途解除時も、顧客契約の満了または他システムへの移行が完了するまで最低限のシステム・サポートを維持する移行措置(移行サバイバル条項)を検討します。このほか、未完了作業・未払費用・保守・在庫・データ・個人情報・取引先通知・公表・従業員や出向者・終了後も存続する条項を開始前に決めます。終了後に成果の販売先制限や最恵待遇が残る設計になっていないかも、期間を明示して確認します(撤退時の処理は第15話)。

JV会社を作る場合に株主間契約で確認すること

JV会社では、会社設立・出資に加え、出資者間で次を決めます(実施主体の比較は第4話)。設立・出資(資本金・出資比率・追加出資・株主構成)、経営(取締役の指名・代表者・予算や重要事項の承認・拒否権・配当)、出資者とJV会社の取引(知財ライセンス・出向・委託・販売仕入れ・資金貸付・保証)、株式・持分(譲渡制限・先買権・共同売却権・売渡請求・支配権変更)、デッドロック・退出(協議・買取り・売却・解散・清算)です。

注意

株主間契約に合意しても、会社法上必要な株主総会・取締役会等の決議が不要になるわけではありません。JV会社の取締役は、出資元の指示だけでなく、JV会社の取締役として善管注意義務・忠実義務を負います。株主間契約に違反した会社決議の会社法上の効力は、契約違反の問題とは区別して検討します。税務・会計や企業結合規制も必要に応じて確認します。なお、出資者とJV会社の間の取引についても、出資者が親会社等として支配する関係にあるかどうかによって、優越的地位の濫用規制の適用の有無が異なり得るため、資本関係と取引条件を併せて確認します。

具体例で見る業務提携・共同開発契約

想定事例

製造業A社が、AIスタートアップB社と共同で、工場設備の故障を予測する法人向けサービスを開発する。A社は設備データ・業界知識・顧客基盤を、B社はAIモデルと開発人材を提供する。まず3か月のPoCを行い、成功すれば本開発・商用化へ進み、将来はJV設立も検討する。許認可・個人情報該当性・責任上限の一部は未確定。

※ 表は横にスクロールできます(事例の契約ロードマップ)

段階契約候補主な確認事項次段階への条件
情報交換NDA技術・顧客情報/双務性・残存条項提携可能性の確認
PoCPoC契約データ・成果・成功基準・費用評価基準達成
本開発共同開発契約役割・貢献度・費用・知財商用化判断
商用化業務提携・ライセンス等顧客・売上・責任販売開始
法人化出資・株主間契約等支配・追加資金・退出JV設立

※ 表は横にスクロールできます(事例の主要論点。前提が未確定のため暫定評価です)

論点現時点の評価追加確認契約対応
設備データHOLD利用権限・個人情報該当性・産業データの対価利用目的・管理・削除・提供範囲
既存AIモデルHOLDB社の権利・第三者素材・バックグラウンド情報の特定リスト化・交換/ライセンス範囲
改良モデルHOLD各社の技術・アイデアの貢献貢献度に基づく帰属・利用権・対価
PoCの費用HOLD無償・低額とする理由と協議記録対価・やり直し範囲・移行条件
本開発移行条件付きGO成功基準・予算移行条件
競業・独占HOLD市場・期間・必要性合理的な期間・範囲に限定
顧客責任・知財訴訟HOLD契約主体・保証内容・仕様決定の役割責任分担・調査負担・上限・保険
JV設立HOLD事業規模・出資・支配第4話・株主間契約

この段階で、設備データをB社の他案件やAI学習に使えるか、B社の既存モデルをA社がどこまで使えるか、改良モデルの帰属を誰の技術・アイデアの貢献で決めるか、本開発義務の有無、PoCと開発費の負担、商用の契約主体と売上分配、予測が外れた場合の責任、各社が競合や別パートナーと組めるか、JV化時の知財・データの移し方などを確認します。結論は事実関係によって変わります。

業務提携・共同開発契約でよくある失敗

※ 表は横にスクロールできます。

失敗なぜ問題か改善方法
契約前に重要な秘密情報を開示する/NDAがあれば何でも渡してよいと考えるNDAは利用許諾ではなく、開示は最小限が原則開示前にNDA、情報を3区分し開示範囲・目的・開示対象者を限定
社内ひな形を理由にNDAの締結や修正協議を断る/片務的なNDAを押し付ける締結拒否・片務的NDAの一方的要請は優越的地位の濫用の問題となり得る双務型を基本とし、残存条項・目的限定を協議し記録を残す
監査・品質保証・工場見学の名目で必要な範囲を超えた技術情報や図面・稼働データを求める合理的に必要な範囲を超えるノウハウ等の一方的な開示要請は独禁法・取適法上の問題となり得る必要箇所を事前に明示し、見学範囲・撮影可否・対価を定める
基本合意書は拘束力なしと決めつける/PoCの目的・成功基準を決めず無償作業が拡大名称だけで拘束力は決まらず、無償PoC・技術指導・試作品製造は費用転嫁の問題にもなり得る拘束力を持つ条項を明確化し、PoCは目的・基準・費用・移行条件を定める
各社の役割を「協力する」としか書かない/追加費用・予算超過の処理を決めない義務・責任・負担が不明確で紛争になる誰が何をいつまでに行うか、追加費用の承認手続・上限超過時対応を定める
成果を「共有」「持分50:50」とだけ書き、利用権・第三者知財・OSS・データの整理を欠く帰属は貢献度で決めるのが原則で、共有でも自由に使えるとは限らない貢献度を協議して帰属を決め、帰属+利用範囲+出願、第三者権利・OSS・データの法的整理を確認
費用を多く負担したことを理由に成果を自社へ帰属させる/実質を伴わない共同研究とする費用負担は帰属を正当化せず、「名ばかり共同研究開発」は優越的地位の濫用の問題となり得る役割分担を事前に書面化し、単独帰属とするなら適切な対価と相手方の利用可能性に配慮
独占・競業避止を過度に広く設定する/競合間で価格・顧客を共有する/期間の定めのない販売先制限や最恵待遇を置く事業を縛りすぎ、独占禁止法上の問題も生じ得る合理的な期間・範囲に限定し、競争法と情報遮断を設計
顧客の契約・責任主体を決めない/顧客契約と責任上限が不整合/知財訴訟リスクを相手方へ丸ごと転嫁する事故時に回収できない損失が残り、責任転嫁条項は独禁法上の問題にもなり得る責任主体と上限を整合させ、仕様決定の役割に応じて調査・保証・賠償を分担
契約名が「業務提携」だからと取適法(旧・下請法)・フリーランス法の確認を怠る規模差や相手方の属性により委託に各法が及び、一方的な代金決定・やり直し・支払遅延が違反となり得る双方の規模・属性を確認し、対象なら発注明示・支払期日・やり直し費用などを定める
相手方撤退・倒産時や終了後処理を決めず、即時解除だけ設け、JVを作れば解決と考える既存ユーザーが使えず賠償リスク、出資者間の問題も残る移行措置・終了後利用を定め、JVは株主間契約+個別契約も整える

経営者へ提出する業務提携契約サマリー

経営者が必要とするのは条文解説ではなく、なぜこの相手方と組むのか、各社が何を提供し何を得るのか、自社の費用・責任、相手方へ渡す知財・データ、独占の要否、顧客の契約・責任主体、失敗時の最大損失、途中終了や終了後継続の可否、相手方への依存度、経営判断事項です。

※ 表は横にスクロールできます(経営者向け提携サマリー)

項目記載内容
提携目的・相手方何を共同で実現するか/選定理由・依存資源
契約段階・役割NDA・PoC・開発・商用化/各社の開発・販売・運用
顧客との関係契約・料金・責任主体
費用負担自社・相手方の費用・人材・設備等
知財・データ・独占持込み・成果・貢献度・利用範囲・対価/独占の対象・期間・例外
意思決定・主要リスク会議体・承認事項/遅延・事故・知財・依存等
責任・契約終了顧客契約との責任整合/知財訴訟の責任分担/解約・終了後処理
法令上の留意点独禁法(優越的地位の濫用・拘束条件付取引等)/取適法・フリーランス法の適用有無
HOLD・条件付きGO・経営判断未確定事項/締結前に必要な対応/独占・費用・知財・撤退の判断

業務提携・共同開発契約チェックリスト

提携の前提

  • 提携目的を言語化し、相手方でなければならない理由を確認した
  • 相手方の契約権限・財務・許認可・知財やデータの提供権限を確認した
  • 提携段階と必要な契約を整理した
  • 自社が発注者側に立つ場面がないか(取適法・フリーランス法・優越的地位の濫用)を確認した
  • 社内決裁を取得した

秘密保持・交渉

  • 自社情報を「NDAなしで開示可/NDA後に開示可/開示しない」に区分した
  • 秘密情報を開示する前にNDAを締結し、利用目的・共有範囲・開示対象者を限定した
  • 双務型か、残存条項と義務期間が情報の性質に見合うかを確認した
  • 工場見学・監査の範囲、撮影可否、誓約書の要否を事前に決めた
  • 設計図面・加工データ・稼働データの提供の要否と対価を確認した
  • 生成AIへの入力による目的外利用・第三者提供のリスクを確認した
  • 競争上重要な情報の共有範囲を確認した
  • MOU・LOIの法的拘束力・本契約締結義務の有無を明確にした
  • 独占交渉の範囲・期間を確認した
  • 交渉終了時の費用・資料処理を決めた

役割・金銭

  • 各社の業務内容・期限・品質を定めた
  • 顧客との契約主体・料金受領・売上配分を定めた
  • 初期・継続費用と追加費用の承認方法を定めた
  • 知的財産権等の対価と、その設定方法(一括・分割・レベニューシェア・ロイヤリティ・マイルストーン)を協議した
  • 成果物の対価と知財の対価を区分するかを検討し、協議の記録を残した
  • 返品・返金・貸倒れの負担を定めた
  • 再委託の可否・責任を定めた

PoC・共同開発

  • PoCの目的・対象・期間・成功基準と本開発への移行義務・条件を定めた
  • PoC・技術指導・試作品製造の費用負担と、やり直しの範囲を定めた
  • 中間成果物の帰属・提供の要否・対価を定めた
  • 双方に期待される役割分担を書面化した
  • バックグラウンド情報をリスト化して交換し、証拠化(出願・タイムスタンプ等)を行った
  • 成果の帰属を、費用負担ではなく技術・アイデアの貢献度に基づいて協議した
  • 単独帰属とする場合の対価と、提供側の利用可能性への配慮を定めた
  • 共有とする場合の持分・自己実施・第三者許諾・不実施補償を具体的に定めた
  • 取引と直接関係のない発明・独自開発の発明について出願を制限していない
  • 改良成果・派生成果を定め、第三者知財・OSS等を確認した
  • 終了後の成果利用を定めた

データ・個人情報

  • 提供するデータを特定し利用目的を定めた
  • 委託・共同利用・第三者提供を整理した
  • 産業データ・稼働データの収集対象・利用範囲・内製化への転用可否を定めた
  • AI学習・二次利用の可否、セキュリティ・漏えい時の対応を定めた
  • 契約終了時の返還・削除・利用継続を定めた

独占・競業・意思決定

  • 独占の対象・地域・期間・解除条件を限定した
  • 成果物の販売先制限・最恵待遇条件を合理的な期間・範囲に限定した
  • 競業避止の必要性・範囲と独占禁止法上の問題を確認した
  • 共有情報を必要最小限にした
  • 日常業務と重要事項の決定者を分け、仕様変更・追加費用の承認手続を定めた
  • デッドロック時の処理を定めた

責任・終了

  • 表明保証・遵守事項・報告義務の範囲を定めた
  • 非侵害の保証責任と調査の実施・費用負担を、仕様決定の役割に応じて分担した
  • 事故・障害・知財侵害の責任を定め、相手方の指示に起因する場合の分担・求償を定めた
  • 損害賠償範囲・責任上限を定め顧客契約と整合させ、保険の要否を確認した
  • 契約期間・更新・任意解約・解除事由・是正期間を定めた
  • 相手方の倒産・買収時の対応を定めた
  • 終了時の顧客・知財・データ・在庫処理と存続条項を定めた

関連プロンプト集

契約書AIレビュー プロンプト集 10STEP

業務提携・共同開発契約では、役割分担・知財・データ・費用・責任・契約終了などを複数の視点から確認する必要があります。本プロンプト集は契約レビューの論点整理を支援するもので、抜け漏れや知財条項の確認、自社・相手方それぞれの立場からのリスク洗い出し、責任・解除・終了後処理の確認などに使えます。

生成AIの出力は法的な結論ではありません。AIが契約の適法性を保証したり、すべてのリスクを自動的に発見したりするものではなく、弁護士のレビューに代わるものでもありません。原契約・事実関係・一次情報を確認し、必要に応じて専門家の確認を受けてください。

契約書AIレビュー プロンプト集を見る

まとめ

  • 業務提携は固定的な契約類型ではなく、契約書より先に提携目的・役割・顧客・金銭・知財・データ・責任・終了を整理する
  • NDA・基本合意書・PoC・共同開発・本契約・JV契約を段階に応じて使い分ける(MOUも名称だけで拘束力は決まらない)
  • NDAは締結するだけでなく、双務性・目的・範囲・開示対象者・残存期間を整え、締結拒否や片務的な押し付けは独禁法上の問題となり得る
  • ノウハウ・設計図面・加工データ・産業データの一方的な開示要請、無償のPoC・技術指導・試作品製造は、優越的地位の濫用や取適法・フリーランス法の問題となり得る
  • PoCでは成功基準と本開発への移行条件、費用と中間成果物の扱いを決める
  • 既存知財と新規成果を分け、成果の帰属は費用負担ではなく技術・アイデアの貢献度で決め、帰属と利用権を分けて設計する(「共有」「50:50」と機械的に定めない)
  • 費用・売上・追加負担・知財の対価とその設定方法・意思決定を明確にする
  • 独占・競業避止・情報交換・成果物の利用制限・最恵待遇は合理的な期間と範囲に限定し、独占禁止法を確認する
  • 知財訴訟リスクは、仕様決定の役割と帰責事由に応じて分担し、一方的に転嫁しない
  • 顧客契約との責任整合と、契約終了後の知財・データ・顧客・設備の処理を開始前に決める(JVは株主間契約+個別契約も)

業務提携契約は、良好な関係が続くことを前提に作る約束ではありません。各社の役割と利益を明確にし、成功時にも、失敗・中止・相手方撤退時にも混乱なく処理できる仕組みを作るものです。次回の第7話では、提携で扱う自社の知的財産の守り方(特許・商標・著作権・営業秘密)を解説します。

よくある質問(FAQ)

業務提携契約とは法律上どのような契約ですか

民法・会社法に「業務提携契約」という一つの定型契約があるわけではありません。共同開発・売買・業務委託・ライセンス・販売・出資などの要素を組み合わせて設計する実務上の総称です。契約名称より、各社の具体的な権利・義務・役割が重要です。

2026年6月24日の知財取引指針は、大企業側・発注者側にも関係しますか

関係します。同指針は特定の業種や企業規模に対象を絞らず、発注者と受注者の取引過程における知的財産権等の帰属や取扱いについて横断的な考え方を示しています。示されているのは「問題となり得る事例」であり、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に行われる場合に優越的地位の濫用として問題となります。該当性は個別の事案ごとに判断されますが、自社が発注者側に立つ場面では、社内ひな形や従前の取引慣行がそのまま通用するとは限らないという前提で見直すことが有用です。

NDAを締結すれば相手方へ技術資料をすべて渡してよいですか

いいえ。NDAは利用許諾ではなく、開示は必要最小限が原則です。知財取引指針も、NDAを締結するだけでなく、秘密情報の範囲・利用目的・開示対象者を適切に限定することを求めています。営業秘密として守るには契約だけでなく秘密管理措置も重要で、相手方が競合の場合は競争上重要な情報の共有範囲を限定します。

相手方からNDAの締結や修正協議を断られた場合はどうすべきですか

まず、締結しないまま秘密情報を開示しないことが基本です。知財取引指針は、取引上の地位が優越している発注者が、一方的にNDAを締結しないまま取引の実施を要請したり、片務的なNDAの締結を要請したりして、受注者が今後の取引への影響を懸念して受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあるとしています。「社内ひな形だから修正できない」「手続が煩雑だから」という説明は正当な理由とされていません。開示範囲の見直し、開示時期の後ろ倒し、対象を限定した個別の誓約書などの代替手段も検討し、協議の経緯を記録に残します。

PoCを実施すると本開発契約を締結する義務が生じますか

当然には生じません。PoC契約で本開発への移行義務・条件を定めておくかどうかによります。無償PoCでも、成果・中間成果物・データ・費用・利用範囲は契約で決める必要があります。なお、正当な理由なく無償での技術検証・技術指導・試作品製造を一方的に要請することは、優越的地位の濫用や、取適法・フリーランス法上の不当な経済上の利益の提供要請等の問題となり得ます。

共同開発成果は折半で共有するのが公平ですか/共有すれば各社が自由に使えますか

いずれも一律には決まりません。知財取引指針は、成果の帰属は技術やアイデアの貢献度によって決められることが原則とし、研究開発経費を多く負担していることが直ちに帰属主体となることを正当化するものではないとしています。持分を機械的に50:50とするのではなく、貢献度を踏まえて協議します。また共有でも自由とは限らず、特許権の共有では自己実施は原則自由でも第三者への実施許諾や持分譲渡には他の共有者の同意が必要です(特許法第73条)。著作権の共有は原則として全員の合意が必要です(各共有者は正当な理由なく合意を妨げられません。著作権法第65条第2項・第3項)。共有としながら一方のみが実施でき他方が実施できない取扱いを一方的に求めることも、優越的地位の濫用の問題となり得ます。

「名ばかり共同研究開発」とは何ですか

実質的な創作を一方の当事者が担い、他方は資金提供やプロジェクト管理、助言等の関与にとどまるにもかかわらず、成果に基づく知的財産権を他方のみ又は双方に帰属させるような状態を指します。特許法上、発明者は創作行為に現実に加担した者を指し、単なる管理者・補助者・資金提供者は共同発明者に当たらないと解されています。貢献度を超えて成果を帰属させる要請が一方的に行われ、相手方が今後の取引への影響を懸念して受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。

業務提携で独占条項を設けられますか/競合企業との共同開発は独占禁止法違反ですか

独占条項を設けること自体は可能ですが、対象・地域・期間・必要性と競争への影響を確認します。共同開発の成果の秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間又は範囲に限って販売先を制限することは原則として問題となりませんが、合理的な期間・範囲を超える制限や、共同開発の経験を活かした新たな成果まで制限することは問題となり得ます。競合間の共同開発も、それだけで当然に違法でも適法でもなく、価格・顧客・将来戦略などの共有を必要最小限にするなどの確認が要ります。

納品物が第三者の特許を侵害した場合、受注者がすべて責任を負う条項は有効ですか

契約の私法上の効力とは別に、独占禁止法上の評価が問題となり得ます。知財取引指針は、発注者の指示に基づく業務について、責任の所在を考慮せずに紛争解決責任を受注者へ一方的に転嫁すること、又はその旨を契約に定めることは適正な取引とはいえない、としています。発注者にのみ帰責事由があるときは発注者が自ら責任を負い、受注者にも一定の帰責事由があるときは、各々の帰責事由の内容や獲得した利益等を考慮して正当といえる範囲で分担すべきとされています。非侵害の保証責任や調査費用の負担も、仕様等の決定において各社が果たした役割を踏まえて協議のうえ分担します。

業務提携契約とJV契約は何が違いますか

業務提携は契約だけで連携する方式を広く指し、JVは共同出資会社(株式会社・合同会社等)を作る方式です。JVでは株主間契約に加え、JV会社と出資者間のライセンス・出向・委託などの個別契約も必要になることがあります。

提携相手が途中で撤退した場合や、契約終了後の成果利用はどうなりますか

あらかじめ契約で定めていなければ争いになります。相手方の撤退・買収・倒産時の処理や、契約終了後に各社が成果・既存知財・データを利用できる範囲を、開始前に決めておくことが重要です。終了後も販売先制限や最恵待遇が残る設計になっていないかも、期間を明示して確認します。

本記事は、2026年9月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。契約の法的性質・拘束力、知的財産の帰属や利用、独占禁止法・取適法・フリーランス・事業者間取引適正化等法上の評価、データの取扱い、責任や解除の効力は、契約内容・当事者の関係・事業の具体的内容によって異なります。優越的地位の濫用は、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に行われる場合に問題となるものであり、指針に掲載された事例に形式的に似ているだけで直ちに違法となるわけではありません。MOU・LOI・基本合意書は名称だけで拘束力が決まらず、共同開発成果は当然に共有・折半とならず、共有知財も各共有者が自由に利用・処分できるとは限りません(特許権と著作権で取扱いが異なります)。GO・条件付きGO・HOLD・NO-GOは本シリーズの社内整理用の区分であり、法令上の正式な区分ではありません。具体例は事実が確定していない前提の暫定整理です。実際の判断にあたっては、最新の法令・ガイドラインを確認し、弁護士・弁理士・税理士・公認会計士などの専門家にご相談ください。

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