住所等変更登記の義務化とは|2026年から法人も対象になる新制度を解説
2026年4月1日から、不動産の所有者に対する住所等変更登記の義務化が始まりました。ニュースや解説記事の多くは「引っ越したら登記が必要」「相続した実家をどうするか」といった個人向けの話題として扱っています。そのため、企業の法務部・総務部では「うちには関係のない話だ」と受け止められがちです。
しかし、この制度の対象は「不動産の所有権の登記名義人」であり、そこには法人も当然に含まれます。自社ビル、工場、倉庫、営業所、店舗、社宅・社員寮、駐車場、研究施設、遊休地──会社が所有権の登記名義人となっている土地・建物があり、その会社の名称または住所に変更が生じた場合、その法人も住所等変更登記義務化の対象となります。
そして企業の場合、変更のきっかけは引っ越しではありません。本店移転と商号変更です。「10年前に本社を移転した」「数年前に社名を変えた」「持株会社体制への移行に伴い、不動産を所有している法人自体はそのままで商号を変更した」といった経験がある会社は、当時、会社所有の不動産すべてについて不動産登記まで直したかどうかを、あらためて確認する必要があります。
本記事はシリーズ第1話として、制度の全体像と「なぜ法人が対象になるのか」を整理します。読み終えたときに、「まず自社が所有している不動産と、その登記名義の現状を確認しよう」と動き出せることをゴールにしています。
2026年住所等変更登記義務化|法人所有不動産の登記管理実務
制度の全体像から、自社不動産の棚卸し、過去分の処理、社内体制の構築までを10話で扱います。自社の状況に近いところから読み進めてください。
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住所等変更登記の義務化とは
住所等変更登記の義務化とは、不動産の所有権の登記名義人について氏名・名称または住所に変更があったときは、その変更があった日から2年以内に変更の登記を申請しなければならないという制度です。根拠は不動産登記法第76条の5で、施行日は2026年(令和8年)4月1日です。
法務省の説明でも、この義務は所有権の登記名義人一般に課されるものとされ、正当な理由がないのに申請を怠ったときは同法第164条第2項により5万円以下の過料の適用対象になるとされています。
「所有権の登記名義人」とは
不動産登記簿(登記記録)は、大きく表題部(土地であれば所在・地番・地目・地積、建物であれば所在・家屋番号・種類・構造・床面積)と権利部に分かれ、権利部の甲区に所有権に関する事項が、乙区に抵当権など所有権以外の権利に関する事項が記録されます。
この甲区に「所有者」として記録されている者が所有権の登記名義人です。法人であれば、甲区には会社の名称と住所(本店・主たる事務所の所在地)が記録されています。今回の義務化は、この甲区に記録された名称・住所を最新の状態に保つことを求めるものです。
義務を負うのは「所有権の」登記名義人
不動産登記法第76条の5が対象としているのは所有権の登記名義人です。したがって、会社が賃借しているだけの物件や、他社の不動産に自社が抵当権者として登記されている場合は、この申請義務そのものの対象ではありません。もっとも、担保取引や将来の抹消登記の場面では表示の不一致が実務上の支障になり得るため、義務の有無とは切り離して確認しておく価値があります。
「住所等変更登記」とは
住所等変更登記とは、登記簿に記録されている所有者の氏名・名称や住所を、現在の内容に合わせて直す登記のことです。所有者が入れ替わる登記(売買や相続による所有権移転登記)ではなく、名義人は同じままで、その表示だけを直す登記である点が特徴です。実務では「登記名義人表示変更登記」と呼ばれることもあります。
法務省のQ&Aでは、法人の場合の住所等変更登記として、本店を移転した場合に不動産登記簿上の住所(本店の所在地)を変更する登記と、社名を変更した場合に不動産登記簿上の名称を変更する登記の2つが挙げられています。
| 区分 | 登記簿に記録されている情報 | 変更が生じる典型例 | 必要となる登記 |
|---|---|---|---|
| 個人 | 氏名・住所 | 転居(転勤・住み替えなど)、婚姻等による改氏 | 登記名義人の住所または氏名の変更登記 |
| 法人 | 名称・住所(本店または主たる事務所の所在地) | 本店移転、主たる事務所の移転、商号変更、法人名称の変更 | 登記名義人の住所または名称の変更登記 |
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なぜ義務化されたのか
背景にあるのは所有者不明土地問題です。法務省は、登記簿を見ても所有者や連絡先が分からない土地が全国で増加し、周辺環境の悪化や民間取引・公共事業の阻害といった社会問題が生じていること、その解決策として令和3年の法改正でこれまで任意だった住所等変更登記が義務化されたことを説明しています。
もっとも、義務を課すだけでは登記所への申請が増え続けます。そこで併せて用意されたのが、簡単な申出等をしておけば、その後は法務局が職権で住所等変更登記を行うスマート変更登記という仕組みです。法人にもこの仕組みがあり、後述します。
相続登記の義務化とは別の制度です
2024年(令和6年)4月1日に施行された相続登記の申請義務化は、相続により不動産の所有権を取得した相続人に3年以内の申請を義務付けるもので、根拠条文(不動産登記法第76条の2)も過料の上限(10万円以下、同法第164条第1項)も異なります。本記事で扱う住所等変更登記の義務化は、これとは別個の制度です。社内説明の際は、期限・条文・過料の額を取り違えないよう注意してください。
法人も住所等変更登記義務化の対象になる
ここが本記事の中心です。制度の対象は「不動産の所有権の登記名義人」であり、法人は除かれていません。会社が土地・建物の所有権の登記名義人となっており、その名称または住所に変更が生じた場合、その法人は住所等変更登記の申請義務を負います。
個人であれば変更のきっかけは引っ越しや改氏ですが、法人の場合はそうではありません。会社側で起きる次のような出来事が、そのまま不動産登記上の表示のズレにつながります。
| 会社側で起きた変更 | 不動産登記で確認する事項 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 本店移転 | 甲区に記録された登記名義人の住所 | 同一市区町村内の移転でも、登記簿上の表示が現在の本店所在地と一致しているか |
| 主たる事務所の移転 (一般社団法人・医療法人など) |
甲区に記録された登記名義人の住所 | 会社以外の法人でも、所有権の登記名義人であれば同じ考え方になる |
| 商号変更 | 甲区に記録された登記名義人の名称 | 旧商号のまま残っていないか。ブランド変更や持株会社化等に伴い、同一法人について商号変更を行った場合が対象(法人自体が入れ替わる合併・会社分割は別論点) |
| 法人名称の変更 | 甲区に記録された登記名義人の名称 | 組織変更・種類変更に伴い名称が変わった場合も、名義人の同一性は保たれる |
| 行政区画の変更・住居表示の実施 | 甲区に記録された登記名義人の住所 | 会社は何もしていなくても表示がズレる類型。法務省は、行政区画の変更等による住所変更を「正当な理由」が認められ得る例として挙げている |
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注意したいのは、法人の場合、1回の本店移転が、会社が持つ不動産の数だけ影響するという点です。個人であれば対象は自宅くらいですが、会社が本社・工場・倉庫・社宅・駐車場を全国に持っていれば、確認すべき登記記録はその筆数・個数だけ存在します。移転から数年が経ってから確認したときに、一部の物件だけ手当てされていた、という状態が起こりやすいのはこのためです。
商業登記を変更しただけでは不動産登記の問題は終わらない
企業の担当者が最も混同しやすいのが、商業・法人登記と不動産登記の関係です。「本店移転は法務局で登記した。だから会社所有の不動産も当然すべて直っているはずだ」という理解は、正確ではありません。
両者は、目的も、登記される単位も、申請先も異なる別の登記制度です。
| 項目 | 商業・法人登記 | 不動産登記 |
|---|---|---|
| 公示の対象 | 会社・法人そのものの情報(商号、本店、目的、役員、資本金など) | 個々の不動産の物理的状況と権利関係(所有権、抵当権など) |
| 登記記録の単位 | 会社・法人ごとに1つ | 土地は1筆ごと、建物は1個ごと |
| 本店移転時に必要な登記 | 本店移転の登記(会社法第915条第1項により、原則として変更から2週間以内) | 所有権の登記名義人の住所についての変更登記(不動産登記法第76条の5により、変更日から2年以内) |
| 申請先 | 本店等の所在地を管轄する登記所 | その不動産の所在地を管轄する登記所 |
| 期限の考え方 | 会社法上の登記期間 | 不動産登記法上の申請義務期間 |
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表現に注意:義務化されたのは「本店移転登記」ではありません
今回2026年4月1日に義務化されたのは、会社法上・商業登記上の本店移転登記そのものではなく、法人が所有権の登記名義人となっている不動産について、その住所・名称の変更を不動産登記簿に反映する住所等変更登記です。社内資料で「本店移転登記が2年以内に義務化された」と書いてしまうと、会社法第915条の登記期間との関係で誤解を招きます。
もっとも、2026年5月15日以降は、一定の条件を満たす法人について、商業・法人登記の変更情報が不動産登記に連携され、登記官が職権で変更登記を行う運用が始まっています。したがって「商業登記を直しても不動産登記には一切反映されない」と言い切るのも、現在では正確ではありません。反映される場合と、されない場合があるというのが実態です。その分かれ目が、後述する会社法人等番号の登記の有無です。
図1:法人で住所等変更登記が問題になる流れ
会社側で変更が起きる
本店移転、主たる事務所の移転、商号変更、法人名称の変更
商業・法人登記を変更する
ここまでは通常、総務・法務が漏れなく対応している
会社が所有している不動産を洗い出す
本社・工場・倉庫・営業所・店舗・社宅・駐車場・遊休地など。ここが抜けやすい
各不動産の登記記録上の名称・住所を確認する
登記事項証明書等で、甲区の表示と現在の商号・本店が一致しているかを突合する
会社法人等番号が登記されているかを確認する
登記されていれば、本店・主たる事務所や名称の変更について原則としてスマート変更登記の対象。ただし吸収合併・吸収分割・新設合併・新設分割は対象外。登記されていなければそもそも対象外
申請するか、職権登記に委ねるかを判断する
対象外の物件は自社で変更登記を申請する。対象であっても、職権登記の完了前に売却・抵当権抹消等を行う必要があるときは自ら申請する。判断の前提として、4と5の事実確認が欠かせない
いつまでに変更登記が必要なのか
期限は、原則として変更があった日から2年以内です。法務省のQ&Aでも、住所等の変更日から2年以内に変更登記をする必要があるとされています。
法人の場合、実務上まず問題になるのは「変更があった日」をいつと見るかです。本店移転であれば移転の効力が生じた日、商号変更であれば効力発生日が起点になりますが、社内の決議日・効力発生日・商業登記の完了日が食い違うことは珍しくありません。複数回の移転を経ている場合は、どの変更を起点とするかも整理が必要です。
2026年4月1日より前の変更も要確認
企業実務上、最も重要なのがここです。施行日より前に生じた住所等の変更であっても、変更登記がされていなければ義務化の対象になります。
法務省は、施行日前に住所等を変更した場合で変更登記がされていないものについては、2028年(令和10年)3月31日までに変更登記をする必要があるとし、その根拠として民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第7項を挙げています。
「昔のことだから時効」ではありません
2015年の本店移転でも、2019年の商号変更でも、不動産登記に反映されていなければ対象です。過去の変更が何年前であるかは問われません。期限は変更時点からではなく、2028年3月31日という一律の日付で区切られます。
具体的には、次のような会社は確認が必要です。
- 過去に本社を移転したが、そのとき自社所有不動産の登記まで手当てしたか記録が残っていない
- 数年前に商号変更をしたが、登記簿上の名義が旧商号のままの物件がありそうだ
- 取得した時期が古い土地があり、そもそも登記事項証明書を最近取っていない
- 担当者の交代が続き、不動産登記の管理を誰が見ているのか社内で明確でない
組織再編は「住所・名称の変更」とは別の問題
ここで一点、混同しやすい論点を切り分けておきます。合併や会社分割によって不動産を承継した場合は、単なる住所・名称の変更ではありません。名義人となる法人自体が入れ替わっているため、必要になるのは表示の変更登記ではなく、承継を原因とする所有権の移転登記です。
この違いは、後述するスマート変更登記の対象範囲にも表れています。法務省のQ&Aでは、組織変更や持分会社間の種類変更、特例有限会社の株式会社への商号変更については、会社法人等番号の登記があれば法人のスマート変更登記の対象になるとされる一方、吸収合併・吸収分割・新設合併・新設分割による変更の登記については対象外とされています。名義人の同一性が保たれるかどうかで、扱いが分かれていると理解すると整理しやすいでしょう。
正当な理由なく怠ると5万円以下の過料
正当な理由がないのに住所等変更登記の申請を怠ったときは、不動産登記法第164条第2項により5万円以下の過料の適用対象となります。
ただし、期限を過ぎたら直ちに過料が科されるわけではありません。法務省は、登記官が義務違反の事実を把握しても直ちに裁判所への過料通知を行うこととはしておらず、義務違反者に対して相当の期間を定めて履行を催告し、それでも正当な理由なくその期間内に申請・申出がされないときに限って通知を行うと説明しています。実際に過料を科すかどうかを判断するのは裁判所であり、金額も5万円以下の範囲で裁判所が決定します。
「正当な理由」として想定されている場合
法務省のQ&Aでは、一般に「正当な理由」があると認めることが予定されている事情として、次のようなものが挙げられています。
- 検索用情報の申出または会社法人等番号の登記がされているが、登記官の職権による住所等変更登記の手続がされていない場合
- 行政区画の変更等により所有権の登記名義人の住所に変更があった場合
- 義務を負う者自身に重病等の事情がある場合
- 義務を負う者がDV被害者等であり、避難を余儀なくされている場合
- 義務を負う者が経済的に困窮しているために登記費用を負担する能力がない場合
法人にとって実務的に意味があるのは1つ目です。会社法人等番号を登記しておけば職権登記の対象に入り、法務局側の処理が済んでいない段階でも正当な理由が認められ得る、という整理になっています。これが、第6話・第7話で扱う事前対応の実務上の価値です。
企業にとっての本質的なリスクは過料だけではない
金額だけを見れば5万円以下であり、企業経営を揺るがす水準ではありません。しかし、登記簿上の名義と現在の会社情報が一致していない状態は、過料とは別の場面で影響し得ます。
| 場面 | 想定される影響 |
|---|---|
| 不動産の売却・譲渡 | 所有権移転登記の前提として名義人の表示を現在の情報に合わせる必要が生じ、決済スケジュールに影響することがある |
| 担保設定・抹消 | 金融機関との手続の過程で表示の不一致が判明し、追加の登記手続や書類収集が必要になることがある |
| M&A・デューデリジェンス | 不動産登記簿の確認過程で未了の変更登記が発見され、是正対応や表明保証の交渉材料になることがある |
| 社内のコンプライアンス管理 | 法令上の申請義務を管理対象として捕捉できていないこと自体が、管理体制の課題として指摘され得る |
| 登記官からの催告 | 他の登記申請の審査過程などで表示の不一致が把握され、催告を受けることがある |
※ 表は横にスクロールできます
いずれも、個別の事案によって影響の有無や程度は異なります。ただ、いざ売却や資金調達の場面で表示の不一致が判明すると、限られた時間の中で書類を集め直すことになりがちです。取引の予定がないうちに整えておくほうが負担が小さいという点は、社内説明の際に伝えやすい論点でしょう。
会社が所有している不動産をまず確認する
制度を理解しても、対象となる不動産が把握できていなければ何も始まりません。第一歩は、自社名義の土地・建物を洗い出すことです。
確認の対象として、次のようなものが考えられます。
- 本社・自社ビル、支社・営業所
- 工場、倉庫、物流拠点、研究施設
- 店舗、商業施設
- 社宅・社員寮、保養所
- 駐車場、資材置場
- 遊休地、将来の事業用地として取得した土地
- 過去の事業や統合の過程で取得し、現在は使用していない土地
- 私道持分、法定外の細分化された土地、共有持分
固定資産台帳だけを見ても完結しないことがあります
固定資産台帳や固定資産税の課税明細は有力な手がかりですが、それだけで会社所有不動産のすべてを把握できるとは限りません。償却済みで管理が手薄になっている物件、非課税・免税点未満で課税明細に現れにくい土地、私道持分や共有持分などは、台帳と登記の突合が必要になる典型です。複数の資料を突き合わせる前提で進めるのが安全です。
スマート変更登記で何が変わったのか
義務化と同時に整備されたのがスマート変更登記です。これは、一定の手続を済ませておけば、その後の住所等の変更について法務局が職権で変更登記を行う仕組みです。法務省は、この手続をしておけば変更のたびに自分で登記申請をしなくても義務違反に問われることがなくなる、と説明しています。
個人の場合は「検索用情報の申出」を行い、法務局が住基ネットへの照会で変更を把握し、本人の了解を得たうえで職権登記を行う流れになります。これに対し法人の場合は「会社法人等番号の登記」が入口です。所有権の登記事項として会社法人等番号が登記されていれば、商業・法人登記上の本店・商号の変更情報が不動産登記システムに連携され、順次、職権で変更登記が行われます。この職権登記について登録免許税等の費用はかからないとされています。
法人のスマート変更登記による実際の登記は、法務省のQ&Aによれば2026年(令和8年)5月15日から始まっており、対象は所有権の登記事項として会社法人等番号の登記がされている場合に限られます。また、法人の場合は個人と異なり、登記をすることについての意思確認や完了連絡はないとされています。法務省は、法人については住所等に変更が生じたことを確認次第、速やかに職権登記を実施することを想定しているとしていますが、通常の登記申請と同様、完了までには一定の期間を要します。
職権登記の完了を待てない取引がある場合
不動産の売却(所有権移転登記)や抵当権の抹消の手続では、現在の住所等と登記簿上の住所等が一致している必要があります。法務省の案内でも、登記簿上の住所等がまだ変更されていない段階でこれらの手続をする必要がある場合には、別途自ら住所等の変更登記を申請する必要があるとされています。スマート変更登記の対象物件であっても、職権登記の完了前に売却・担保取引の予定があるときは、職権登記を待たずに自社で変更登記を申請するという判断が必要になります。取引スケジュールが決まっている案件では、早い段階で登記記録の表示を確認しておくのが安全です。
「何もしなくても自動的に全部直る」制度ではありません
職権登記の対象になるのは、会社法人等番号が不動産登記に登記されている物件に限られます。古くから保有している土地・建物では登記されていないことがあり、その場合は連携の対象外です。また、吸収合併・吸収分割・新設合併・新設分割による変更の登記は対象外とされています。まず自社の物件が対象に入っているのかを確認することが出発点になります。
会社法人等番号と法人番号は別のものです
会社法人等番号は、商業登記に基づいて登記所が付す12桁の番号で、登記事項証明書に記載されています。一方、国税庁が指定する法人番号は13桁で、12桁の基礎番号の前に検査用数字を1桁付したものです。不動産登記の手続で用いるのは会社法人等番号のほうであり、社内で番号を回覧する際は桁数を確認してください。
法人の法務部がまず確認する5項目
本記事の到達点として、着手時にまず押さえるべき事項を5つに整理します。いずれも、外部への依頼を検討する前に社内で確認できる内容です。
自社名義の土地・建物があるか、その全体像を把握できているか
本社・工場・倉庫・社宅・駐車場・遊休地・共有持分まで含めて確認する。固定資産台帳だけでなく、複数の資料を突き合わせる前提で進める。
過去に本店・主たる事務所を移転していないか
移転の効力発生日と、当時の不動産登記対応の記録を確認する。複数回移転している場合は時系列を整理しておく。
過去に商号・法人名称を変更していないか
組織変更・種類変更・特例有限会社からの移行を含めて確認する。合併・会社分割による承継は別論点として切り分ける。
各不動産の登記記録上の名称・住所が、現在の商号・本店と一致しているか
登記事項証明書等で甲区の表示を確認し、現在の登記事項証明書(商業登記)の記載と突合する。表記の細かな差異にも注意する。
会社法人等番号が不動産登記の登記事項として登記されているか
登記されていれば職権による変更登記の対象になり得る。登記されていない物件は対象外なので、優先的に手当ての検討対象とする。
まとめ
住所等変更登記の義務化について、第1話で押さえておきたい点は次の3つです。
第1話のまとめ
1.法人も対象である。制度の対象は所有権の登記名義人であり、法人が除かれているわけではありません。会社が所有権の登記名義人となっている土地・建物について名称・住所の変更が生じれば、その法人が申請義務を負います。法人の場合、変更のきっかけは本店移転と商号変更です。
2.過去の変更も確認が必要である。2026年4月1日より前の変更でも、登記がされていなければ対象となり、2028年3月31日までの対応が求められます。何年前の変更かは問われません。
3.まず自社所有不動産を把握する。スマート変更登記という仕組みはありますが、対象となるのは会社法人等番号が登記されている物件に限られます。自社の物件がどちらに当たるのかを知るには、結局のところ所有不動産の一覧と登記記録の確認が必要です。
次に取り組むべき作業は明確です。自社がどの土地・建物を所有しているのかを洗い出すこと。その具体的な手順は第3話で扱います。もっとも、作業に着手する前に「いつまでに、何をどこまで終わらせる必要があるのか」という期限の枠組みを確定しておくほうが、社内での優先順位付けはしやすくなります。シリーズの順序としては、まず第2話で期限と過料の全体像を押さえてください。
よくある質問(FAQ)
Q1法人も住所等変更登記義務化の対象ですか?
A対象です。義務を負うのは不動産の所有権の登記名義人であり、法人も含まれます。法務省のQ&Aでも、法人の住所等変更登記の例として、本店移転に伴う住所の変更登記と社名変更に伴う名称の変更登記が挙げられています。
Q2本店移転の商業登記をしていれば、不動産登記は何もしなくてよいですか?
A商業・法人登記と不動産登記は別の制度なので、商業登記を直したことをもって当然にすべて完了するわけではありません。ただし、所有権の登記事項として会社法人等番号が登記されている物件については、2026年5月15日以降、法務局が職権で変更登記を行う対象となり得ます。会社法人等番号が登記されていない物件は対象外なので、まず自社の物件がどちらかを確認してください。
Q32026年4月1日より前の本店移転も対象ですか?
A対象です。施行日より前の変更であっても、変更登記がされていなければ義務化の対象となり、2028年3月31日までに変更登記をする必要があるとされています(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第7項)。
Q4住所等変更登記をしないとどうなりますか?
A正当な理由がないのに申請を怠ったときは、5万円以下の過料の適用対象となります(不動産登記法第164条第2項)。もっとも、期限を過ぎれば直ちに科されるものではなく、登記官が相当の期間を定めて催告し、それでも正当な理由なく申請・申出がされない場合に裁判所へ通知され、裁判所が判断する流れとされています。実務上は、過料そのものより、売却・担保設定・M&Aの場面で表示の不一致が支障になり得る点に留意してください。
Q5スマート変更登記を利用すれば、自分で申請しなくてもよいのですか?
A会社法人等番号が所有権の登記事項として登記されていれば、その物件については法務局が職権で変更登記を行う対象となり、変更のたびに申請しなくても義務違反に問われることがなくなる仕組みです。ただし、会社法人等番号が登記されていない物件や、会社法人等番号を有しない法人は対象外で、変更登記の申請が必要です。また、吸収合併・吸収分割・新設合併・新設分割による変更の登記も対象外とされています。加えて、職権登記が完了する前に売却や抵当権抹消の手続を行う必要がある場合は、登記簿上の表示を現在の表示に一致させるため、自ら変更登記を申請する必要があります。
参考資料・一次資料
本記事は2026年8月27日時点で公開されている法令および法務省・法務局の資料に基づく一般的な情報提供です。個別の不動産・登記記録の取扱いについては、登記事項証明書等で事実関係を確認のうえ、司法書士・弁護士にご相談ください。
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