LegalGPT|BCP・危機管理

第5話

災害・事業停止に備える企業法務BCP

緊急時の判断と対応|全15話

地震・台風が発生した直後、会社が最初にやること

平日の朝、強い揺れが会社を襲いました。

電話はつながらない。社員の一部と連絡が取れない。工場の設備は止まり、基幹システムにも入れない。今日出荷予定の重要顧客からは、いずれ問い合わせが来るはずです。主要な仕入先がどうなっているのかも分かりません。

このとき、会社は何から始めればよいのでしょうか。

第1〜4話では、BCPの全体像、重要業務とRTO・RLO、意思決定権限、サプライチェーンという「平時の準備」を扱いました。第5話からは、実際に災害が起きた後、会社がどう動くかという有事フェーズに入ります。

本記事では、発災直後から24時間程度を時間軸で区切り、企業法務・BCP担当者が限られた情報の中で会社の意思決定を支える初動実務を整理します。

この記事の結論

  • 発災直後の最優先は、契約や売上ではなく人命・安全と二次災害の防止です。
  • 安全確保・安否確認・対策本部・被害確認・情報発信は、一列に並べず、担当を分けて並行して進めます。
  • 完全な情報を待たず、「確認済み/確認中/不明」を区別したうえで暫定判断し、新しい情報で更新します。
  • 重要業務であっても、安全・品質・法令を守れないなら止める判断もBCPです。
  • 初動の段階から、誰が・いつ・何を確認し・何を決めたかを記録します。
  • 法務は全判断の事前承認者ではなく、法的論点をトリアージして初動を止めない役割を担います。

本記事の前提

本記事で紹介する内閣府「事業継続ガイドライン」は、企業の自主的な事業継続の取組を支援するためのガイドラインです。ガイドライン自身も、記載事項には推奨や例示が多く、各企業・組織は自社に適した事項を取捨選択して取り組めばよいとしています。したがって、ガイドラインに書かれた方法がそのまますべての企業の法的義務になるわけではありません。一方、個別の場面では労働安全衛生法、消防法、各業法、契約上の義務などが関係するため、本記事では「ガイドライン上の推奨」と「法令上の義務」を区別して説明します。

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災害発生直後、会社が最初にやること

結論から示します。初動の優先順位は、次の流れで考えます。

  1. ① 人命・安全:避難、救護、二次災害防止、設備の緊急停止
  2. ② 体制:対策本部の立上げ、指揮命令系統・代行者の確定、連絡手段の確保
  3. ③ 情報:安否情報・被害情報を一か所に集める
  4. ④ 判断:重要業務への影響を見て、停止・縮小・継続・代替を暫定判断
  5. ⑤ 外部対応:顧客・取引先・行政等への第一報、報告要否の確認
  6. ⑥ 記録:誰が何を確認し、何を決めたかを残す
  7. ⑦ 再評価:新しい情報で判断を更新し続ける
図1 初動の優先順位(LegalGPTによる整理)

ただし、これは「①が100%終わってから②へ」という手順書ではありません。実際には、同じ時間帯に複数の人が別々の作業を並行して進めます。大切なのは「順番」よりも、何を優先し、誰が並行して動くかです。

表1 発災直後に並行して動く担当(例)
担当発災直後に主に行うこと
各拠点の現場責任者・安全担当避難誘導、救護、119番通報、危険区域設定、設備の緊急停止、拠点第一報
人事・総務安否確認の発信と集約、来訪者・外部作業員の所在確認
対策本部長(または代行者)・事務局本部の立上げ、情報集約、優先順位の決定、暫定判断
情報システムシステム・通信の状態確認、代替連絡手段の確保
営業・購買・物流重要顧客・主要仕入先・物流の状況確認
広報対外発信窓口の一本化、未確認情報の発信防止
法務決定権者の確認、短い法的期限の洗い出し、対外発信の確認、記録の確保

発災直後〜24時間の初動タイムライン

内閣府の事業継続ガイドライン(令和5年3月)は、「5.1.1.2 緊急時の対応手順」の中で、事象発生後は時間の経過とともに必要な内容が変化するため、局面ごとに業務の優先順位を見定めることが重要だとしています。また、初動段階で実施すべき事項の例として、参集・対策本部の立上げ、被害状況の確認、安全確保、二次災害防止、情報発信、BCP発動の要否判断、対応の記録などを表で示しています。

これを企業の実務に落とし込むと、次のようなタイムラインになります。

注意:以下の時間区分は、LegalGPTが実務上の目安として整理したものです。「○分以内に必ず実施」という法的義務ではありません。災害の規模、発生時間帯(勤務時間内・夜間休日)、業種、拠点数によって大きく変わります。

表2 初動タイムライン(目安)
フェーズ時間の目安主な実施事項この段階で優先しないこと
フェーズ0
身を守る
発生直後〜数分 身の安全確保/避難/負傷者の救護・119番/安全に実施できる範囲での初期消火/ガス・薬品等の漏えい防止/設備の緊急停止 契約・売上・納期の判断
フェーズ1
体制をつくる
数分〜1時間程度 従業員・来訪者・外部作業員の安全確認/安否確認の開始/拠点から第一報/対策本部の立上げ/本部長・代行者の確定/危険区域の設定/通信手段の確保/BCP発動基準の確認 被害額の算定、全容把握を待つこと
フェーズ2
集めて暫定判断
1〜3時間程度 安否情報の集約/建物・設備・システム被害の確認/重要業務の状態確認/取引先・物流の状況確認/重要業務の暫定判断(停止・縮小・継続)/BCP発動の要否判断/社内外への第一報/行政報告の要否・期限確認/初動記録の作成 長期的な契約紛争の検討
フェーズ3
更新して動かす
3〜24時間程度 被害情報の更新/RTOとの照合/代替拠点・代替調達等の発動/従業員の勤務方針決定/顧客・取引先への具体的連絡/行政対応/保険会社への連絡検討/経営判断の更新/次シフトへの引継ぎ 恒久対策・再発防止の議論

なお、ガイドラインの表では、BCP発動の要否判断は「初動が落ち着いた後」に、あらかじめ定めた基準に基づいて権限者が行う事項として整理されています。そこで本記事でも、対策本部の立上げ(フェーズ1)と、BCP発動の判断(フェーズ2)を分けて記載しています。人命保護などの初動(防災)対応は、BCP発動を待たずに始まります。

最優先は人命・安全と二次災害防止

発災直後に守るべきものは、自社の重要業務ではなく、従業員・来訪者・顧客・外部作業員等の生命・身体の安全です。

事業継続ガイドラインは、役員・従業員等の身体・生命の安全確保と自社拠点での二次災害防止を「当然、最優先とすべき」としています。令和8年版防災白書も、初動段階で必要な対応として従業員や来訪者の人命を守ることを挙げ、耐震化・避難体制・安否確認手段の確保といった平時の備えが被害の大きさを左右すると述べています。あわせて、設備・データ・在庫といった経営資産を守ることが早期再開に不可欠だとしています。

発災直後の主な安全措置

  • 避難・避難誘導(来訪者は不慣れな場所で被災している点に注意)
  • 負傷者の救護、119番通報、閉じ込め者の確認
  • 危険区域への立入禁止(倒壊・落下・ひび割れ・浸水箇所)
  • 生産設備の緊急停止、火災防止(ガス栓の遮断、必要な電源遮断)
  • ガス・薬品・危険物の漏えい防止
  • 危険が敷地外に及ぶおそれがある場合の、周辺住民への周知や行政当局への連絡

ここは「推奨」ではなく法令も関係する

安全措置の一部は、ガイドラインの推奨にとどまりません。例えば労働安全衛生法25条は、労働災害発生の急迫した危険があるときは、事業者は直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等の必要な措置を講じなければならないと定めています。また、2025年4月施行の省令改正により、退避や危険箇所への立入禁止等の措置について、作業を請け負う一人親方等や同じ場所で作業する労働者以外の人にも同等の保護を図る措置が事業者に義務付けられました。対象となる措置や対象者の範囲は、改正された各省令の規定によります。

危険物施設を持つ会社では、消防法16条の3第1項により、危険物の流出その他の事故が発生したときに、所有者・管理者・占有者が直ちに流出・拡散の防止等の応急措置を講じる義務があります。

このように、どの法令がどこまで関係するかは業種・設備によって異なります。平時に「自社の拠点で適用される安全関係法令」を洗い出しておくことが、法務・BCP担当者の役割です。

避難・緊急安全措置を通常の決裁待ちにしない

避難、危険区域への立入禁止、設備の緊急停止、火災防止といった措置について、社長・取締役・対策本部の正式決裁を待たなければ動けない設計にしてはいけません。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」も、初動対応は現場にいる従業員の判断で、顧客や従業員の安全を第一に被害拡大を防ぐ措置を行うという考え方を示しています。

法務・BCP担当者が関与するのは、救命活動の指揮ではありません。安全担当者や現場責任者が、即時に必要な措置を取れる権限が、BCPや安全管理規程等で平時から与えられているかという点です。事後報告でよい範囲を明文化しておけば、現場は迷わず動けます。権限設計の詳細は、第3話「災害時の意思決定権限をどう決める?社長不在でも会社を止めない体制」で解説しています。

安否確認は「誰が働けるか」の確認でもある

安否確認の第一の目的は、もちろん人命の保護です。負傷者や閉じ込められている人がいないか、救助が必要な人がいないかを確認します。

ただし、それだけではありません。事業継続ガイドラインは脚注で、安否確認は事業継続のために稼働できる要員を把握する意味においても重要だとしています。安否確認は、BCPの「人」という経営資源を把握する作業でもあるのです。

表3 安否確認で確認する項目(例)
目的確認項目
人命保護本人の安否/負傷の有無/救助・支援の必要性
家族等への対応家族等の対応のため当面勤務が難しいか(詳細の理由までは聞かない)
所在現在地(社内・外出先・自宅・移動中)
稼働可能性出社可能か/在宅勤務可能か/いつから勤務可能か

注意したいのは、必要以上の個人情報を集めないことです。家族の具体的な被災状況や健康状態の詳細まで一律に回答させる設計は、目的との関係で過剰になりがちです。安否確認システムや私物端末で集めた情報の扱いは、第11話「災害時に自宅PC・私物端末を使ってよい?緊急時の情報管理ルール」で扱います。

「全員の安否が分かるまで次へ進まない」は避ける

150人中120人から回答があり、30人が未回答だったとします。未回答者への確認は、担当者を決めて粘り強く続けます。しかし、それを理由に会社全体の判断をすべて止める必要はありません。

別の担当者が、対策本部の運営、設備被害の確認、重要業務の状態確認、取引先の状況確認、情報発信を並行して進めます。「一つの作業が100%終わってから次へ」という直列型の初動は、災害時にはほぼ確実に詰まります。

なお、未回答者は「無事」でも「被災」でもなく、「未確認」です。この区別は、次の対策本部の章で扱う状況ボードでも一貫させます。

対策本部を立ち上げ、情報を一か所へ集める

事業継続ガイドラインは、緊急時の体制として役割・責任・指揮命令系統を明確にし、重要な役割を担う者が死傷したり連絡がつかなかったりする場合に備えて権限委譲・代行者・代行順位を定めるよう求めています(5.1.1.1)。初動では、平時に決めたこの体制を実際に起動することが仕事です。

表4 対策本部の立上げで確認すること
項目初動で確認すること
誰が発動するか規程上の発動権者。自動参集基準(例:自社拠点所在地で一定震度以上)を定めている場合は、基準該当の有無
本部長・代行者本部長と連絡がつくか。つかなければ代行順位に従い、「いつから、誰が代行しているか」を宣言し記録
参集参集対象者と参集可能性。ガイドラインは、安全確保の観点等から必要に応じて参集対象者の出社を抑制することにも触れている
設置場所本社が使えない場合の代替拠点。移動が危険ならオンライン本部を先に立ち上げる
連絡手段電話が不通の場合の手段(チャット、メール、衛星電話、災害用伝言サービス等)と、その優先順位
役割分担情報集約、安否、設備、IT、顧客・取引先、広報、法務・記録の担当者

対策本部の最初の成果物は、立派な方針書ではありません。全員が同じ状況認識を共有するための一枚の表です。

LegalGPT実務ツール① 初動状況ボード

「初動状況ボード」は政府の正式用語ではなく、LegalGPTが初動の情報集約用に整理した様式です。ホワイトボード、共有スプレッドシート、チャットの固定投稿など、使える媒体で運用します。

表5 初動状況ボード(ひな形)
項目状態現在の状況(要点)確認時刻情報源担当次回確認
人員・安否
建物
設備
電力
通信
ITシステム
重要業務
主要取引先
物流
顧客影響
行政対応

運用のルールは一つです。空欄を残さないこと。分からない項目には「情報なし」と書きます。空欄は「まだ誰も見ていない」のか「問題がないので書いていない」のか区別できず、判断を誤らせます。

「情報がない」と「問題がない」を区別する

災害時の危機管理で最も起きやすい誤りの一つが、「連絡がない=問題なし」と推定することです。

「サーバーに異常なし」と「サーバーの状態を確認できていない」は、まったく違います。「取引先B社は被害なし」と「B社とは連絡がつかず不明」も、まったく違います。連絡が来ないのは、被害が大きくて連絡できないからかもしれません。

そこで、状況ボードの「状態」欄は、次の区分から選ぶ運用にします。

表6 状態区分の定義(例)
状態意味判断での扱い
確認済・問題なし担当者が直接確認し、使用・稼働に支障がない前提として使ってよい(確認時刻を必ず併記)
被害あり被害・制約を確認した影響範囲と復旧見込みを確認
停止安全確保や被害により止めている再開条件を明記
確認中担当者が確認作業中次回報告時刻を決める
情報なしまだ誰も確認していない「問題なし」として扱わない。担当を割り当てる
連絡不能確認を試みたが連絡がつかない最悪ケースも想定して判断。別経路で確認継続

この区分があると、対策本部は「分かっていること」と「分かっていないこと」を分けたまま判断できます。情報がそろうのを待たずに暫定判断し、情報が更新されたら判断も更新する。これが初動の基本姿勢です。

被害確認の対象と、初動で聞くべきこと

表7 被害確認の対象(例)
区分対象関連する回
人従業員、来訪者、派遣・協力会社の作業員、外部作業員—
建物・拠点建物本体、避難経路、危険区域、周辺への危険—
設備生産設備、電気、ガス、水、空調、消防設備—
IT・通信基幹システム、ネットワーク、電話、インターネット、クラウド第10話
重要業務第2話で特定した重要業務が実行できるか第2話
外部依存主要仕入先、物流、委託先、保守会社第4話

外部依存先の状況確認と代替調達の考え方は、第4話「取引先が止まったらどうする?サプライチェーンBCPと代替調達」を、システム停止時の対応は第10話「停電・通信障害・システム停止で業務が止まったら?BCPの法務対応」を参照してください。

「被害総額」の算定は後でよい

初動段階で、現場に「被害額を正確に出せ」と求めるのは逆効果です。初動で必要なのは、次の判断材料です。

  • 使えるか、使えないか
  • 安全か、危険か
  • 復旧の見込みはいつ頃か(「不明」も回答として認める)
  • 重要業務に影響するか

正確な損害額や保険請求の資料は後続フェーズの仕事です。ただし、写真の撮影や被害箇所の記録など、後から取り直せない証拠は、安全が確保できる範囲で早めに残しておきます。詳細は第13話「被災したら何を記録する?保険・損害賠償に備える証拠保存」で解説します。

重要業務を止めるか、続けるか

BCPは「何としてでも業務を続ける計画」ではありません。安全が確認できない、必要な人員がいない、設備が危険、品質を保証できないといった場合には、重要業務であっても一時停止する判断が必要です。

事業継続とは、無理に業務を続けることではなく、安全を確保しながら、重要業務を許容できる時間内に、許容できる水準で再開させることです。ガイドラインも、事業継続対応の業務再開の場面で、従業員・顧客の安全確保が前提であることの認識の徹底に触れています。

停止・継続判断の簡易フロー

  1. Q1 人命・安全上、継続できるか?
    NO → 停止(危険区域の設定・退避を優先)
  2. Q2 必要な人員を確保できるか?
    NO → 代替要員・在宅勤務・他拠点での対応を検討
  3. Q3 設備・IT・電力・通信は使えるか?
    NO → 代替手段(手作業、代替設備、他拠点、外部委託)を検討
  4. Q4 品質・法令・許認可の条件を守れるか?
    NO → 原則停止、または必要な措置(行政への確認等)を講じるまで保留
  5. Q5 重要業務のRTO(目標復旧時間)にどう影響するか?
    → 通常継続/縮小継続/代替へ移行/停止を選択し、再評価時刻を決める
図2 停止・継続判断の簡易フロー(LegalGPTによる実務上の整理。法律上この順序で判断することが求められているわけではありません)

「継続/停止」の二択にしない

初動判断の選択肢は、実際にはもっと多くあります。

  • 通常どおり継続
  • 縮小して継続(生産量・受付時間・対応範囲を絞る)
  • 重要顧客向けだけ継続
  • 一部工程のみ停止
  • 代替拠点・他工場へ移行
  • 在宅勤務・手作業に切り替え
  • 全面停止

「どの水準まで戻せば許容できるか」という考え方が、第2話で扱ったRLO(目標復旧レベル)です。平時にRTO・RLOを決めておくと、初動では「今の状態で、いつまでに、どの水準に戻せるか」を照合するだけで済みます。第2話「会社の重要業務をどう決める?BCPの事業影響度分析(BIA)」も参照してください。

従業員の勤務方針と、休業手当は分けて考える

業務の停止・縮小を決めると、従業員を出社させるのか、自宅待機・帰宅・在宅勤務にするのかという判断が必要になります。初動では、人命・安全を優先して勤務方針を決めること、そして一律に「全員出社」「全員帰宅」と決めないことが要点です。ガイドラインも、かえって帰宅することが危険な場合の待機指示に触れています。具体的な判断は第6話で扱います。

また、休業・自宅待機を決めることと、その間の賃金・休業手当が必要かどうかは別の問題です。初動では「休業・待機を決定し、その事実と理由を記録すること」までにとどめ、手当の判断は第7話「災害で会社を休業したら給与はどうなる?休業手当の判断」で整理します。

顧客・取引先・行政へいつ連絡する?

被害の全容が分かるまで沈黙する必要はありません。事業継続ガイドラインは、企業の活動が外から全く見えない「ブラックアウト」を起こすと、取引先が代替調達に切り替えるなど自社に不利な状況が進むと指摘しています。

一方で、分からないことを推測で発表してはいけません。第一報では、次の要素を区別して伝えます。

  • 何が起きたか(事実)
  • 現在確認できている影響(確認済み)
  • 現在確認中の事項(確認中)
  • 次回の更新予定時刻
  • 連絡窓口

表現の例

×「当社製品の供給に影響はありません。」(未確認なのに断定)

○「現時点で当社○○拠点の従業員の安全を確認しています。製品供給への影響は現在確認中です。○時を目途に次報をお知らせします。窓口:○○部(連絡先)」

契約上の通知義務、納期遅延の通知方法、不可抗力条項との関係は、第8話「災害で納品できないと契約違反?不可抗力・債務不履行の判断」と第9話「納期に間に合わないとき取引先へどう通知する?事業停止時の契約対応」で詳しく扱います。

SNS・広報への注意

災害時は、従業員が個人的にSNSへ投稿した現場写真や情報が、会社の公式発表と食い違うことがあります。初動では、次の点を社内に早めに周知します。

  • 対外的な情報発信の窓口は一本化する
  • 対外発表は、定められた承認ルートを通す(承認者が不在なら代行者)
  • 社内向けには、確認済みの情報を定期的に共有する(情報の空白が憶測を生む)
  • 未確認情報は、社内外を問わず断定しない

行政への報告は「要否と期限を確認する担当」を決める

災害・事故の種類や業種によっては、行政機関への報告・届出が必要になる場合があります。ただし、災害に遭った企業すべてに一律の行政報告義務があるわけではありません。必要かどうかは、業種、保有する許認可、施設・設備、事故の内容によって決まります。

初動では、行政報告の要否と期限を確認する担当者を決め、状況ボードの「行政対応」欄で管理するところまでを行います。

ただし、法令上「直ちに」通報・報告することが求められる事故については、社内での法的検討が完了するまで待ってはいけません。例えば、消防法16条の3第2項は、危険物施設で同条1項の事故が発生した事態を発見した者に、消防署等への直ちの通報を求めています。平時にこうした即時通報事項をリスト化し、現場が法務確認を待たずに通報できるようにしておくことが重要です。

各業法の報告義務の具体的な確認方法は、第12話「災害で工場・店舗を停止したら?許認可・行政報告の法務チェック」で扱います。

初動から記録を残す

災害時は対応を優先するあまり、「誰が、何時に、何を確認し、何を決めたか」の記録が後回しになります。しかし、この記録は後から次の場面で重要になります。

  • 顧客・取引先との契約上のトラブル(不可抗力・通知の有無)
  • 保険請求
  • 行政への説明
  • 従業員の勤務・賃金をめぐる労務問題
  • 監査、株主等への説明
  • 振り返りと再発防止

事業継続ガイドラインも、初動段階・事業継続対応の双方で「対応の記録」を実施事項に挙げ、事後の振り返りのため、記録項目を明示したフォーマットを事前に用意しておくことを推奨しています。

LegalGPT実務ツール② 災害初動対応ログ

「災害初動対応ログ」も政府の正式用語ではなく、LegalGPTが整理した様式です。記録担当者を一人決め、口頭の指示もその場でログに残します。

表8 災害初動対応ログ(記入例)
時刻情報・事象情報源判断・決定内容判断理由決裁者・判断者指示・対応完了確認
08:10地震発生現場・気象情報———各拠点で避難・設備停止
08:15工場A 設備一部緊急停止工場長立入禁止区域を設定落下物のおそれ工場長(事前付与権限)作業員を退避08:25 退避完了
08:35社長と連絡不能秘書・総務副社長が本部長代行代行順位規程副社長オンライン本部を設置
表9 災害初動対応ログ(空欄ひな形)
時刻情報・事象情報源判断・決定内容判断理由決裁者・判断者指示・対応完了確認

LegalGPT実務ツール③ 災害第一報(拠点→対策本部)

拠点からの第一報は、完璧な報告を待たず、分かる範囲で出し、更新する設計にします。分からない項目は「不明」「確認中」と書けば足ります。

表10 災害第一報フォーマット
項目記入欄(例示)
拠点名
報告時刻/報告者 : /
人身被害負傷者 名(重傷 名)/救急要請:済・未・不要
安否確認状況在籍 名中、確認済 名、未確認 名/来訪者・外部作業員:
建物確認済・問題なし/被害あり/確認中/情報なし
設備稼働/停止(緊急停止・被害)/確認中
電力・水・通信
システム
重要業務実行可/縮小可/不可/不明
周辺状況火災・漏えい・道路・周辺への危険
実施中の対応
必要な支援人員・物資・専門業者・判断事項
次回報告予定 : 

証拠保存の対象や方法の詳細は、先に挙げた第13話で扱います。

ケース|午前8時10分に大規模地震が起きた会社の24時間

設例 平日午前8時10分、首都圏で大規模地震が発生。製造業A社の状況は次のとおりです。

  • 本社:停電。非常電源が稼働
  • 工場:設備の一部が緊急停止
  • 倉庫:商品の一部が落下
  • 従業員150人のうち30人が安否未確認
  • 代表取締役社長:移動中で連絡不能/副社長:連絡可能
  • 基幹システム:アクセス不能
  • 重要顧客向け出荷:当日午後の予定
  • 主要仕入先B社:連絡不能
  • 負傷者1名、建物の一部にひび

以下は、A社がとり得る動きの一例です。時刻は目安であり、現実の災害対応に絶対的な時刻基準があるわけではありません。

表11 A社の初動(例)
経過時間主な対応ポイント
10分
(8:20頃)
負傷者の救護・119番/ひびのある区画と倉庫の落下区域を立入禁止/工場設備の安全停止を確認/来訪者・外部作業員の所在確認 工場長・拠点責任者が事前付与された権限で即時実施。社長の承認は待たない
30分
(8:40頃)
安否確認の一斉発信/社長と連絡不能のため副社長が代行順位に基づき対策本部を立上げ(オンライン併用)/各拠点から第一報 代行開始の時刻と根拠をログに記録。社長との連絡は別担当が継続
1時間
(9:10頃)
状況ボードに人・建物・設備・システムを集約/重要業務(当日出荷)への影響を確認/B社への連絡を別経路で継続 未確認30人は「未確認」、B社は「連絡不能」と記載。「無事」とは書かない
3時間
(11:10頃)
当日出荷の暫定判断(倉庫の安全確認前は立入不可→確認済み在庫・他拠点在庫での一部出荷か延期か)/従業員の勤務方針の暫定決定/重要顧客へ第一報/BCP発動判断/B社の代替調達の検討開始/行政報告の要否確認 システム停止下で出荷する場合、品質・出荷記録を手作業で担保できるかも確認
6時間
(14:10頃)
重要業務のRTOとの照合/代替策の発動(他拠点出荷、代替調達先への打診等)/顧客・社内への情報更新 第一報で約束した次報時刻を守る
24時間
(翌8:10頃)
翌日の事業運営方針の決定/取引先・顧客への更新連絡/本部要員の交代と引継ぎ/ログ・ボードの整理 長時間対応による判断力低下を防ぐため、交代制を組む

このケースで重要なのは、30人の安否未確認とB社の連絡不能が解消しないまま、会社としての暫定判断が進んでいる点です。未確認事項を放置しているのではなく、担当を付けて確認を続けながら、分かっている情報で判断し、分かったら更新しています。

法務部は災害発生直後に何をする?

初動の法務がやるべきことは、「契約書を最初から全部読む」ことではありません。限られた時間で、会社の判断を止めずに、後で困る法的リスクを先回りして潰すことです。優先順位は次のとおりです。

表12 初動で法務が行うこと(優先順)
優先内容具体的な確認事項
1意思決定権限の確認誰が決められるか。代行が有効に始まっているか。代行開始の記録があるか(第3話)
2短い法的期限の確認行政報告・届出の要否と期限、契約上の通知期限(不可抗力通知等)、その他期限のある手続
3重要業務に直結する契約だけ確認重要顧客・重要取引先との契約の通知条項、不可抗力条項、代替供給・BCP協力条項
4対外発信の法的チェック未確認情報の断定、責任を不用意に認める表現、根拠のない復旧時期の約束がないか
5判断記録の確保初動対応ログが回っているか。口頭決定が記録から漏れていないか

法務がボトルネックにならない

災害時に「法務確認が終わるまで何もできない」状態をつくってはいけません。人命保護・二次災害防止などの即時対応は、事前に定めた権限で現場が動きます。法務はすべてを事前承認する部門ではなく、重要な法的判断に優先順位を付け、意思決定を止めないために支援する部門です。

そのための道具が、次のトリアージです。

LegalGPT実務ツール④ 初動法務トリアージ

RED/YELLOW/GREENは法律上の分類ではなく、LegalGPTによる実務上の整理です。

表13 初動法務トリアージ
区分目安対象となる論点(例)
RED今すぐ確認人命・安全に関わる判断の権限・根拠/極めて短い期限の行政報告等/重要契約の通知期限/事業の停止・継続に直結する法的制約(許認可条件等)
YELLOW当日中顧客との納期調整/代替調達の契約条件/休業・勤務方針に伴う労務上の論点/保険会社への連絡
GREEN初動後でよい損害額の詳細算定/長期的な契約紛争の整理/恒久対策・規程改定

発災直後チェックリスト

印刷して対策本部に備え付けられるよう、項目を絞っています。

人命・安全

  • □ 避難・救護・119番通報
  • □ 危険区域の設定・立入禁止
  • □ 二次災害防止(安全に実施できる範囲での初期消火、火気・ガス・薬品・設備の緊急停止等)
  • □ 法令上の即時通報事項の該当確認・通報
  • □ 来訪者・外部作業員の所在確認

体制

  • □ 対策本部の立上げ(場所またはオンライン)
  • □ 本部長・代行者の確定と記録
  • □ 連絡手段の確保
  • □ BCP発動基準の確認・発動判断

情報

  • □ 安否確認の開始・未確認者の追跡担当
  • □ 建物・設備
  • □ IT・通信
  • □ 重要業務
  • □ 取引先・物流

判断

  • □ 重要業務の停止・縮小・継続・代替
  • □ 従業員の勤務方針
  • □ 代替策の検討・発動
  • □ 次回再評価の時刻

外部対応

  • □ 顧客への第一報(確認済み/確認中を区別)
  • □ 取引先への連絡
  • □ 行政報告の要否・期限の確認
  • □ 必要に応じ保険会社等への連絡

記録

  • □ 拠点第一報の受領
  • □ 初動状況ボードの更新
  • □ 初動対応ログの記録

初動対応でよくある失敗

表14 初動のNG
NG内容なぜ問題か
NG1被害全容が分かるまで対策本部を立ち上げない全容は初動では分からない。情報を集める場がなくなる
NG2全員の安否確認が終わるまで他の作業を止める数人の未確認で会社全体が止まる
NG3重要業務だからと安全確認前に作業を再開する二次災害・労災につながり、法令違反にもなり得る
NG4社長の承認待ちで避難・設備停止が遅れる人命・安全措置は事前付与権限で即時に行うべき
NG5「連絡がない=取引先は無事」と考える連絡不能は被害が大きい兆候かもしれない
NG6未確認なのに「影響ありません」と発表する後で訂正すると信用を大きく失う
NG7口頭だけで進めて記録を残さない契約・保険・労務・行政説明で根拠を示せない
NG8法務がすべての事前承認者になる法務が初動のボトルネックになる

FAQ

Q1. 地震が起きたら会社は最初に何をすべきですか?

A. 身の安全確保、避難、救護、二次災害の防止です。契約や納期の判断はその後で、並行して別の担当者が安否確認と対策本部の立上げを始めます。

Q2. 対策本部はいつ立ち上げればよいですか?

A. 全容判明を待たず、事前に定めた基準に該当したら立ち上げます。本部長と連絡がつかなければ代行者が立ち上げ、代行開始を記録します。

Q3. 全社員の安否が確認できるまで事業判断を待つべきですか?

A. 待つ必要はありません。未確認者の確認は担当を決めて続け、他の判断は並行して進めます。未確認者は「未確認」として管理します。

Q4. 災害直後に重要業務を停止してもよいですか?

A. 安全・人員・設備・品質・法令上の条件を満たせないなら停止すべきです。BCPは無理に続ける計画ではなく、許容時間内に再開させるための計画です。

Q5. 被害状況が分からなくても取引先へ連絡すべきですか?

A. 重要顧客・重要取引先への影響が見込まれる場合や、契約上の通知義務がある場合は、被害の全容判明を待たずに第一報を検討します。すべての取引先へ直ちに連絡する一般的な法的義務があるわけではありませんが、沈黙が続くと取引先の不安や代替調達への切替えを招きます。第一報では、確認済み事項と確認中事項を区別し、未確認の内容を断定しないことが重要です。

Q6. 災害対応の記録は何を残せばよいですか?

A. 時刻、情報源、判断内容・理由、判断者、指示・対応、完了確認です。口頭の指示も記録します(本記事の「災害初動対応ログ」参照)。

まとめ

  • 発災直後の最優先は、人命・安全と二次災害の防止。避難や設備停止は決裁を待たずに現場が動ける設計にする。
  • 安否確認・対策本部・被害確認・情報発信は、担当を分けて並行して進める。
  • 安否確認は、人命確認であると同時に、稼働できる要員を把握するBCP上の作業でもある。
  • 「情報がない」と「問題がない」は違う。状況ボードでは空欄を残さず状態を区別する。
  • 重要業務でも、安全・品質・法令を守れないなら止める。選択肢は継続/停止の二択ではない。
  • 顧客・取引先への第一報は、確認済み事項と確認中事項を分け、次報時刻を示す。
  • 初動の段階から、誰が何を確認し、何を決めたかを記録する。
  • 法務は全判断の事前承認者ではなく、法的論点をトリアージして初動を支える。

会社として初動方針を決めた後、現場で最も難しいのが、従業員を出社させるのか、帰宅させるのか、自宅待機・在宅勤務にするのかという判断です。交通機関が止まる中での帰宅は安全か、緊急要員を出社させてよいか。次回は、この判断を安全配慮の観点から整理します。

2026年9月25日時点の動向

内閣府は「事業継続ガイドライン改定等に関する検討会」を設置し、2026年7月13日に第1回を開催しました。南海トラフ地震・首都直下地震の基本計画の見直しで、経営中枢機能の維持に向けた代替戦略の重要性やサプライチェーン対策の強化が指摘されたことを受け、ガイドラインの見直しと、BCPに取り組む企業が社会的に評価される環境づくりが検討されています。本記事の基準日時点で改定版は公表されていないため、本記事は現行の令和5年3月版に基づいています。検討中の事項は確定したルールではありません。

参考資料

※本記事は2026年9月25日時点の公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。具体的な対応は、自社の業種・拠点・規程・契約内容を踏まえ、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。

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