LegalGPT|BCP・危機管理

第4話

災害・事業停止に備える企業法務BCP

緊急時の判断と対応|全15話

取引先が止まったらどうする?サプライチェーンBCPと代替調達

本記事は「災害・事業停止に備える企業法務BCP|緊急時の判断と対応 全15話」の第4話です。法令・情報基準日は2026年9月25日です。本記事で紹介する政府ガイドライン・指針は、企業の自主的な取組を促すためのものであり、それ自体が法的義務を定めるものではありません。

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自社の工場は無事。それでも生産が止まった

地震の翌朝、自社工場の点検は終わりました。建物も設備も無事。従業員の安否も確認できました。ところが昼前、調達部門から連絡が入ります。

「特殊部品の仕入先が被災して、出荷のめどが立たないそうです」

部品の在庫は数日分。それが尽きれば、無傷の工場でも製品は作れません。

これが、サプライチェーンBCPが扱う問題です。自社の建物、設備、人員、意思決定体制をどれだけ整えても、重要な仕入先・委託先・物流会社が止まれば、自社の重要業務も止まります。

内閣府の事業継続ガイドライン(令和5年3月)も、企業が分業化・外注化を進めてきた結果、原材料の供給、部品の生産、組立、輸送、販売などに携わる企業のどれかが被災するとサプライチェーン全体が止まりかねない、と指摘しています。

この記事では、第1話(BCPの全体像)、第2話(BIA・重要業務・RTO)、第3話(緊急時の意思決定権限)に続き、重要業務を支える外部依存をどう管理するかを、企業法務と調達実務の視点から整理します。

この記事の結論

  • 重要取引先は、取引金額ではなく「止まったら自社の重要業務がRTOまでに復旧できなくなるか」で決める。
  • 仕入先を2社にしても、上流の供給者・地域・物流・設備が共通なら同時に止まる。見るべきは「数」ではなく「共通の単一障害点」。
  • 取引先のBCPは「文書の有無」ではなく「自社が必要とする時間と量で供給できるか」で確認する。
  • 代替先は「候補」ではなく「必要な時間内に切替え可能な状態」まで準備する。契約・品質・仕様・顧客承認・生産能力・物流のどれかが欠ければ切り替えられない。
  • 法務の役割は、BCP上の代替策が契約上も実行可能かを確認し、「BCPでは代替できるはずが、契約上は切り替えられない」事故を防ぐこと。

サプライチェーンBCPとは?

サプライチェーンBCPとは、自社の重要業務が、原材料・部品の供給者、製造や加工の委託先、物流会社、設備保守会社、システム事業者などの外部依存先の停止によって止まらないよう、平時から依存関係を把握し、代替策を準備しておく取組です。法令上の定義がある用語ではなく、BCPのうち外部依存に着目した部分を指す実務上の呼び方です。

事業継続ガイドラインは、従来の防災活動が拠点ごとの対策を中心とするのに対し、事業継続マネジメント(BCM)ではサプライチェーンなど依存関係のある委託先・調達先・供給先まで検討範囲に含めると整理しています。つまり、自社の塀の外まで見るのがBCPの前提です。

  1. 重要業務(第2話のBIAで特定)
  2. 必要な外部資源の洗い出し
  3. 重要取引先の特定
  4. 上流依存・共通依存の確認
  5. 取引先BCPの確認
  6. 代替策の検討(代替調達・在庫・代替生産・物流複線化等)
  7. 切替え可能性の確認(契約・品質・仕様・顧客承認・生産能力・物流)
  8. 契約・運用への落とし込み
  9. 訓練・定期更新
図2 サプライチェーンBCPの流れ(LegalGPT作成)

まず「止まると自社も止まる取引先」を特定する

出発点は第2話のBIA

第2話では、重要業務を決め、その業務に必要な資源を洗い出しました。第4話はその続きです。重要業務とRTO(目標復旧時間)・RLO(目標復旧レベル)の決め方は第2話を参照してください。

たとえば、重要業務を「主要顧客向け製品Xの製造・出荷」とし、必要資源として次を洗い出したとします。

  • 原材料A
  • 部品B
  • 特殊加工C(外部委託)
  • 物流D(外部の運送会社)

次に問うのは、「A・B・C・Dのどれが止まると、製品XをRTOまでに出荷できなくなるか」です。事業継続ガイドラインも、重要業務に不可欠な要素として原料・部品、金型、工程、物流、サービスなどを挙げ、その中から復旧を遅らせる「ボトルネック」を把握するよう求めています。

重要取引先は取引金額で決めない

重要取引先を「年間取引額の上位20社」で決めてしまう会社は少なくありません。しかし、停止したときの影響は取引額と比例しません。たとえば次のような先は、取引額が小さくても重要です。

  • 代替できない特殊部品を供給している小規模メーカー
  • 特殊な熱処理・表面処理を担う唯一の委託先
  • 顧客の認証を取得している唯一の供給者
  • 重要システムの保守会社
  • 物流上のハブとなる倉庫・運送事業者
  • 重要設備のメンテナンス会社

本シリーズでは、重要取引先を次のように考えます。

重要取引先とは、停止した場合に、自社の重要業務のRTO・RLOを達成できなくなる可能性がある外部依存先である。

停止影響を見る9つの評価軸

表1 外部依存先を「停止影響」で評価する軸
評価軸確認すること見落としやすい点
① 代替可能性他社から同等品・同等サービスを調達できるか「市場にある」と「自社仕様で使える」は別
② 代替に必要な時間見積、契約、品質確認、監査、試作、顧客承認にかかる期間代替先があっても切替えに数か月かかることがある
③ 地理的集中拠点が同一地域・同一ハザード区域に集中していないか複数社でも同じ工業団地にあることがある
④ 上流依存一次取引先が異なっても、その上流が同一でないか一次取引先へのヒアリングなしには見えない
⑤ 生産能力代替先が必要数量を生産できるか代替先も繁忙期・他社からの殺到で余力がない
⑥ 物流依存港、空港、道路、倉庫、運送会社に共通依存していないか製品はできても運べない
⑦ 品質・法規制代替品・代替工程をすぐ使えるか、許認可・認証が必要か品質再評価や届出が必要な業種がある
⑧ 契約上の制約指定サプライヤー、指定材料、再委託制限、顧客承認自社の顧客との契約に書かれていることが多い
⑨ 復旧時間取引先自身の想定RTOが自社のRTOに間に合うか取引先のRTOは自社のために設定されたものではない

評価は精緻な点数化より、「代替不能」「代替可能だが時間がかかる」「すぐ代替可能」程度の区分から始めても十分です。重要なのは、取引額リストとは別の視点で一度見直すことです。

仕入先を2社にすれば安心、ではない

サプライチェーンBCPで最も多い誤解が、「同じ部品を2社から買っているから大丈夫」という考え方です。

2社購買は有効な対策の一つですが、2社が次のような共通要素に依存していれば、同じ原因で同時に止まります。

  • 同じ地域に工場がある(同じ地震・水害で被災する)
  • 同じ電力系統・工業用水に依存している
  • 同じ港・物流倉庫を使っている
  • 同じ二次サプライヤーから原材料を買っている
  • 同じ金型・設備(または同じ設備メーカーの保守)に依存している
  • 同じクラウドサービスやEDIを使っている

事業継続ガイドラインも、調達先の複数化や代替調達先の確保を例示する一方で、複数の調達先が同時に被災する場合や、2段階以上先の調達先が同一でそこが被災する場合に留意するよう、括弧書きで注意しています。

図1 サプライチェーンの依存関係。自社から見ればB・Cの2社購買だが、B・Cともに特殊材料QをD社1社から調達しているため、Dが止まれば両方が止まる(LegalGPT作成)

見るべきは取引先の数ではなく、重要業務を止める共通の単一障害点(それが止まると全体が止まる一点)がどこにあるかです。

一次サプライヤーの先までどう確認するか

「末端まで完全に可視化」は現実的ではない

二次・三次サプライヤーまで確認すべきだといっても、すべての購買品について末端まで追跡するのは、大企業でも困難です。取引先にとって上流の調達先は営業上の秘密であることも多く、開示を強制できるわけでもありません。

そこで、次のように優先順位をつけます。

  1. 重要業務に使う品目・サービスに限定する
  2. その中で「代替不能」「代替に時間がかかる」ものを先に調べる
  3. 一次サプライヤーに、重要な原材料・工程・拠点・物流について可能な範囲でヒアリングする
  4. 複数の一次サプライヤーの回答を突き合わせ、共通する上流・地域・物流を探す

上流の供給者の社名まで分からなくても、「特殊材料Qは国内1社からしか調達できない」「工程の一部を同じ地域の外注先に出している」と分かれば、共通依存の可能性として把握できます。

2026年の改定検討でもテーマになっている

内閣府は2026年7月13日、「事業継続ガイドライン改定等に関する検討会」の第1回を開催しました。南海トラフ地震や首都直下地震の基本計画の見直しで、経営中枢機能の維持に向けた代替戦略やサプライチェーン対策の強化が指摘されたことを受けたものです。

第1回の資料では、検討テーマの一つに「サプライチェーン対策(含む企業間連携)」が挙げられ、一次請け以降も含めた調達先と企業同士の関係の把握・可視化、同時被災を避けた在庫の地理的分散、代替調達先や物流代替手段の確保、情報共有、同業他社との連携などが検討の観点として示されています。

基準日(2026年9月25日)時点で、改定版のガイドラインは公表されていません。現行版は令和5年3月版です。検討会資料の内容は検討の方向性であり、確定した新ルールではありません。

取引先のBCPをどう確認する?

「BCPを策定していますか?」では足りない

取引先アンケートで「BCPを策定していますか」と聞き、「はい」と返ってきても、それだけでは自社への供給が続くかどうかは分かりません。取引先のBCPは取引先自身の重要業務を守るためのもので、自社向けの製品がその重要業務に入っているとは限らないからです。

表2 質問の具体化
悪い質問より実務的な質問
御社はBCPを策定していますか?当社向け製品を生産する工場が使用不能になった場合、代替拠点から何日以内に、平時の何%程度まで供給できますか?
災害対策はしていますか?当社向け製品に使う主要原材料のうち、調達先が1社しかないものはありますか?その在庫は何日分ありますか?
緊急連絡先を教えてください被災時、誰が、何時間以内に、どの手段で当社へ第一報を入れる手順になっていますか?

ポイントは、取引先の回答を自社のRTO・RLOと突き合わせられる形で聞くことです。自社のRTOが3日なのに、取引先の復旧想定が2週間であれば、そのギャップを埋める対策(在庫、代替先など)が自社側に必要だと分かります。

取引先BCP確認シート(簡易ひな形)

表3 取引先BCP確認シート(LegalGPT作成の簡易ひな形)
確認項目確認内容
対象製品・サービス
生産拠点(所在地)
想定RTO(当社向け供給の再開までの日数)
最低供給水準(平時比で何%まで)
代替拠点・代替生産設備
主要設備の復旧方法
主要上流依存先(1社依存の有無)
在庫(原材料・製品)
電力・通信等の代替手段
物流代替
緊急連絡先・通知手順
BCP訓練の実施状況
最終更新日

情報をどこまで求めてよいか

取引先に詳細な内部情報の開示を一方的に求めればよい、というものではありません。上流の調達先、生産能力、在庫水準などは、取引先にとって営業秘密や競争上重要な情報であることがあります。実務では次の点に配慮します。

  • 目的を限定する:自社向け供給の継続性を確認する目的に必要な範囲に絞る。
  • 粒度を調整する:社名ではなく「国内1社依存の有無」、正確な在庫数ではなく「おおむね何日分」でよい場合が多い。
  • 秘密保持を整える:既存のNDAや基本契約の秘密保持条項が、BCP情報に及ぶかを確認する。
  • 社内の取扱範囲を決める:受領したBCP情報を調達・BCP事務局以外に広げない。
  • 優越的地位に注意する:取引上の力関係を背景に、必要以上の情報提供や費用負担を事実上強いない。

取引先とBCPを「共有」する意味

確認は一方通行ではありません。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、サプライチェーンを形成する企業群が目標復旧時間などのBCPを共有しておくことで緊急時に最適な対策を選択しやすくなること、同一部品を納める複数企業の連携で代替部品の調達が迅速になることを、連携の効果として挙げています。

自社がBCPを作っても取引先に何も伝えなければ、取引先は自社のRTOを知りません。重要取引先とは、可能な範囲で次の事項をすり合わせておくと、発災時の判断が速くなります。

  • 自社が必要とする復旧時間(いつまでに供給が必要か)
  • 最低限必要な供給水準(平時の何%あれば重要顧客に出荷できるか)
  • 発災時の連絡方法・窓口
  • 代替生産・代替材料の考え方(どこまで変更を許容できるか)

また、中小企業では、中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」や、複数事業者による「連携事業継続力強化計画」の認定制度があります。中小企業庁の「連携事業継続力強化計画策定の手引き」(2026年7月17日更新)では、サプライチェーンにおける垂直的な連携や、代替生産、原材料・部品の確保の協力、車両・倉庫等の相互利用などが連携の例として示されています。取引先が中小企業の場合、こうした制度の活用を一緒に検討するのも一つの方法です。

同業他社との連携では、情報交換をBCP・代替生産の実施に必要な範囲に限定し、価格、販売数量、顧客、販売方針など競争上センシティブな情報を不必要に交換しないよう注意します。技術・工程情報についても、必要性と共有範囲を検討し、連携内容によっては独占禁止法上の確認を行います。

代替調達にはどんな方法がある?

「調達先の複数化」は選択肢の一つにすぎません。事業継続ガイドラインも、適正在庫の見直しや在庫場所の分散、調達先・供給先との連携、汎用部品の使用など設計仕様の段階で代替調達を容易にする工夫を挙げています。主な選択肢は次のとおりです。

表4 代替調達・供給継続の主な方法
方法メリットデメリット・コスト切替えに必要な時間
複数購買(平時から分割発注)切替えがほぼ不要。発注比率を変えるだけ単価上昇、品質管理の負担増。上流共通なら効果なし短い
代替サプライヤーの事前登録平時コストが比較的小さい準備の深さ次第で実効性が大きく変わる準備状況により数日〜数か月
他地域のサプライヤー同時被災リスクを下げる物流費・リードタイム増準備状況による
代替原材料・代替部品供給元の選択肢が広がる品質評価・仕様変更・顧客承認が必要になりやすい長くなりやすい
代替生産拠点(自社・グループ)自社管理下で対応できる設備・人員の二重化コスト立上げ準備次第
委託先の切替え設備投資が不要技術移転、図面・データ提供、品質確認中〜長
安全在庫・重要部品の備蓄発災直後の時間を稼げる保管費、劣化・陳腐化、資金負担、保管場所の被災即時(在庫分のみ)
金型・治具等の複数拠点化設備起因の単一障害点を解消製作費・管理負担。所有権・管理責任の整理が必要事前準備が前提
自社による一時的な内製化外部に左右されない技術・設備・人員がなければ不可能中
同業他社等との相互応援自社にない能力を補える協定・情報管理・独禁法への配慮協定の具体性による
物流ルートの複線化製品を届ける手段を確保複数契約の維持コスト短〜中

在庫は「増やせば解決」ではない

安全在庫は、発災直後の時間を稼ぐ有効な手段です。しかし、保管費用、劣化や陳腐化、使用期限、資金負担があり、在庫を置いた倉庫自体が被災すれば意味がありません。長期停止には在庫だけでは耐えられません。

必要な在庫量は、RTOから単純に差し引いて決めるものではありません。たとえば代替先への切替えに10日かかるなら、在庫だけで事業を継続する戦略では、原則としてその切替えまでの需要をつなげる在庫が必要です。ただし、需要の抑制、重要顧客への優先配分、既存取引先の部分復旧、代替材料の使用などを組み合わせれば、必要量は変わります。各対策の開始時期と供給量を時系列で組み合わせて設計してください。在庫はサプライチェーンBCPの一手段であり、代替調達の準備とセットで考えます。

物流と共通システムもサプライチェーンの一部

部品や製品が作れても、道路、港湾、空港、倉庫、運送会社、燃料が止まれば届きません。工場Aと工場Bが離れていても、両方が同じ港・同じ倉庫を使っていれば、そこが共通の障害点になります。調達先の複数化と並行して、輸送手段・輸送会社・保管拠点の複線化も確認してください。

また、重要な委託先・物流会社・サプライヤーが同じクラウドサービス、EDI、通信サービスに依存していれば、システム障害が共通原因になりえます。システム停止への対応は第10話で扱います。

「代替先リスト」があっても発注できない理由

本記事で最も伝えたいのがこの章です。

BCPの資料に「代替サプライヤー:E社」と書いてある。けれども、実際に発災してE社に電話すると、次のような壁が次々に現れます。

  • E社とは取引がなく、基本契約も取引口座もない
  • 価格も支払条件も決まっていない
  • 社内規程上、新規取引先には信用調査・反社チェックが必要
  • 品質監査をしていないので、品質保証部門が使用を認めない
  • 仕様書や図面を渡したいが、NDAがない
  • 図面や金型の権利が顧客にあり、第三者へ提供するには顧客の承諾が必要
  • 部品の購入先変更について、顧客との契約で事前承認が必要とされている
  • E社の生産ラインは他社の注文で埋まっている
  • E社から自社までの輸送手段が確保されていない

代替先の会社名がExcelに書いてあることと、災害時にその会社へ発注して必要な品質・数量で受け取れることの間には、大きな距離があります。

代替先は「候補」ではなく、「必要な時間内に切替え可能な状態」まで準備する。

代替調達準備度チェック

代替先ごとに、次のチェックリストで準備度を確認してください。「候補先あり」の段階にとどまっているのか、「切替え可能」な段階まで来ているのかを区別するためのものです。

表5 代替調達準備度チェック(LegalGPT作成)
確認事項候補先あり切替え可能
代替先を特定している✓✓
緊急連絡先を登録済み一部✓
信用調査・反社チェック等の社内手続を完了✓
基本契約(または緊急時取引の合意)を締結済み✓
NDAを締結済み✓
取引口座開設・発注システム登録済み✓
価格・支払条件の考え方を合意済み✓
仕様書・図面・データを提供できる(権利関係確認済み)✓
品質評価・監査済み✓
顧客承認の要否を確認し、必要なら手続を把握✓
必要な認証・許認可・届出を確認済み✓
必要数量の生産能力を確認済み✓
物流ルートを確認済み✓
年1回以上、情報を更新している✓

すべての代替先を「切替え可能」にする必要はありません。重要業務のうち、代替不能・切替えに時間がかかる品目から優先します。

品質・仕様・顧客承認の壁

災害時だからといって、原材料、部品、生産場所、製造工程、委託先を自社の判断だけで変更できるとは限りません。

自社と顧客との契約には、次のような定めが置かれていることがあります。

  • 指定材料・指定部品・指定工場
  • 再委託の禁止または事前承認制
  • 仕様・工程・購入先を変更する場合の事前通知・事前承認(いわゆる変更管理、Change Control)
  • 品質保証協定に基づく変更時の再評価手続
  • 顧客による監査

これらは平時の品質を守るためのルールであり、災害時に自動的に免除されるものではありません。顧客の承認を得ずに代替部品へ切り替えれば、仮に部品自体に問題がなくても契約違反となるおそれがあり、品質問題が起きれば責任関係はさらに複雑になります。

加えて、医薬品、医療機器、食品、化学物質、電気用品など、業種によっては製造所・原材料・工程の変更に法令上の許可、届出、承認、認証が関係します。個別の業法はここでは扱いませんが、行政手続が必要になる場面の確認は第12話で整理しています。

したがって、準備すべきは「代替サプライヤーを探すこと」だけではなく、代替サプライヤーへ切り替えるための承認プロセスを平時に確認しておくことです。可能であれば、重要顧客との間で「災害時に代替材料・代替工場を使う場合の簡易承認手続」をあらかじめ協議しておくと、発災時の時間を大きく短縮できます。

法務が確認する契約上のポイント

法務が参加する意味

法務がサプライチェーンBCPに参加する意味は、仕入先を探すことではありません。調達部門が検討した代替策について、次の点を確認することです。

  • 契約上、切り替えられるか(指定サプライヤー、専属契約、最低購入数量等)
  • 顧客承認が必要か
  • 再委託制限はないか
  • 仕様変更手続が必要か
  • 代替先との契約・NDAは整っているか
  • 図面・金型・データを代替先に提供する権利があるか
  • 取引先から必要な情報を受け取る契約上の仕組みがあるか

こうした確認によって、「BCP上は代替できることになっているのに、契約上は切り替えられない」という事故を防ぐのが法務の役割です。

重要取引先との契約で確認する項目

BCP条項の具体的な作り方は第14話で扱います。ここでは、代替調達・供給継続を可能にするために確認すべき項目の全体像を示します。

表6 重要取引先との契約で確認する項目
分類確認項目BCP上の目的
情報を早く得る災害・障害発生時の通知義務と通知期限、復旧見込み・復旧状況の報告、重要な供給体制変更(拠点移転・上流変更等)の通知停止を早く知り、代替策の発動判断を早める
平時の備えBCP策定・維持、BCP情報の提供、訓練・確認への協力、監査・確認権、安全在庫取引先の復旧能力を把握し、ギャップを埋める
役割を決める代替拠点・代替生産、代替調達への協力、再委託先管理、優先供給・供給配分発災時に誰が何をするかを事前に決める
代替策へ移行しやすくする金型・治具・図面・データへのアクセスや引渡し、第三者製造への協力供給停止が長期化したときの切替えを可能にする
出口不可抗力、履行停止中の扱い、解除長期停止時の契約関係を整理する

契約書に書けば必ず供給してもらえる、というわけではありません。取引先の工場が物理的に動かなければ、どんな条項があっても部品は届きません。契約は供給を保証する道具ではなく、情報を早く得る、役割を決める、代替策へ移行しやすくするための道具です。

不可抗力で「仕方ない」で終わらせない

取引先が被災して納入できないとき、「不可抗力だから仕方ない」で思考を止めてはいけません。取引先が契約上の責任を免れるかどうかと、自社が事業を継続できるかどうかは別の問題です。

自社としては、契約上の通知を受け、復旧見込みを確認し、代替供給を検討し、自社の顧客への影響を判断する必要があります。取引先の免責の有無など契約責任の判断は第8話で詳しく扱います。

代替調達先との取引でも取引適正化ルールは適用される

緊急の代替調達であっても、取引ルールが免除されるわけではありません。2026年1月1日から、下請法は改正により「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称:取適法)となっています。代替先への製造委託や運送委託などが同法の適用対象となる取引であれば、発注内容の明示、代金の支払期日、買いたたきや協議に応じない一方的な代金決定の禁止などのルールがそのまま適用されます。また、代替調達先がフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)上の「特定受託事業者」に該当する場合には、同法の適用関係も確認します。

「災害だから」と、不明確な条件での口頭発注、無理な短納期、急な仕様変更に伴う費用の押し付け、一方的な価格設定を当然視しないでください。平時に代替先との基本条件を決めておくことは、BCPのためだけでなく、発災時に取引適正化ルールを守るためにも役立ちます。適用範囲の判断は、公正取引委員会・中小企業庁の最新資料で個別に確認してください。

ケース|2社購買していたのに両方止まった

設例

製造業A社は、重要顧客向けに製品Xを製造している。製品Xには特殊部品Pが必要である。

  • Pの調達先:サプライヤーB社(60%)、サプライヤーC社(40%)
  • B社・C社はいずれも、特殊材料QをD社1社から調達している
  • D社の工場は1拠点のみ

地震でD社工場が停止し、B社・C社ともPを製造できなくなった。A社のP在庫は5日分。A社が重要顧客向け出荷について設定しているRTOは3日である。

「2社購買だから安全」ではなかった

A社から見れば、PはB社とC社の2社購買で、リスク分散ができているように見えていました。しかし、B社とC社は同じD社の材料Qに依存しており、D社の1拠点が単一障害点でした。一次サプライヤーの数では、この構造は見えません。

検討すべきこと

① D社の存在を平時に把握できていたか
B社・C社に「Pの主要材料で調達先が1社しかないものはあるか」と聞いていれば、D社への共通依存に気づけた可能性があります。社名の開示までは受けられなくても、「B・Cともに材料Qを国内1社に依存」と分かれば十分な警告になります。

② D社の復旧見込み
B社・C社経由で、D社の被災状況と復旧見込みを確認します。あわせて、B社・C社が保有する材料Qの在庫と、仕掛品・完成品のPの在庫も確認します。A社の在庫5日分だけでなく、サプライチェーン上の在庫の合計で持ちこたえられる期間が変わります。

③ 在庫5日分でどこまで持つか
在庫が5日分あるからといって、5日間判断を待てるわけではありません。重要なのは、在庫が尽きるまでに代替策を実行できるかです。たとえば代替先への切替えに4日かかるなら、遅くとも発災後1日程度で切替えの判断を始めなければ、在庫切れに間に合いません。
ここで、在庫日数にRTOを単純に足して「8日目まで大丈夫」と考えるのは誤りです。RTOは「停止しても許される時間」そのものではなく、許容限界より手前に設定する復旧の目標です(第2話参照)。在庫の残日数、D社とB社・C社の復旧見込み(D社が復旧しても、B社・C社がPを製造してA社へ輸送するまでのリードタイムがかかる)、代替調達のリードタイムを時系列に並べ、いつまでに代替策を発動しなければならないかを逆算します。重要顧客向けに在庫を優先配分し、他の製品への使用を止めることで在庫の持ち日数を延ばす判断もありえます。

④ B社・C社に代替材料はあるか
B社・C社が材料Qの代わりに別の材料で同等のPを作れるか。その場合、B社・C社内部の品質確認に加え、A社側の受入評価も必要です。

⑤ A社側で代替部品を使えるか
Pそのものを別仕様の部品に置き換えられるか。設計部門・品質部門の判断が必要です。

⑥ 顧客の仕様承認が必要か
④⑤のいずれでも、A社と重要顧客の契約・品質保証協定で、材料や部品の変更に事前承認が必要とされていないかを確認します。承認が必要なら、承認に要する日数を含めて③の逆算に組み込む必要があります。

⑦ 代替先E社を使う場合
Pを製造できる別のサプライヤーE社があるとしても、E社が材料Qに依存していないか、基本契約・NDA・口座があるか、品質監査は済んでいるか、必要数量を生産できるか、図面を提供してよいかを確認します。これらが未了なら、在庫が尽きる前の切替えは現実的ではありません。

⑧ 誰が代替調達を決裁するか
代替材料・代替先への切替えは、調達・品質・設計・営業にまたがる判断で、通常の決裁ルートでは時間がかかります。③で見たとおり判断の猶予は短いため、緊急時の決裁権限と代行順位は第3話の体制に従い、「代替調達の発動」を誰が決められるかをあらかじめ決めておく必要があります。

⑨ 顧客への通知が必要か
納期に影響が出る見込みになった時点、または代替品の承認を求める時点で、重要顧客への連絡が必要です。通知のタイミングや内容は第9話で扱います。

このケースから平時にやるべきこと

  • Pを重要品目として、B社・C社に上流依存(材料Qの調達先数・拠点)を確認する
  • D社への共通依存が分かったら、材料Qの在庫をB・C・A社のどこで何日分持つかを協議する
  • 代替材料・代替部品の技術評価と、顧客承認手続の確認を平時に進める
  • E社を「切替え可能」な状態まで準備するか、コストとの見合いで経営判断する
  • 「在庫が何日を切ったら代替策を発動するか」という発動基準を、切替えリードタイムから逆算して決めておく

発災時、取引先が停止したらどう動く?

平時の準備を前提に、実際に取引先から停止の連絡が入ったときの流れを示します。発災直後の全社的な初動は第5話で扱います。

  1. 停止情報の受領:取引先からの連絡、報道、自社からの確認で停止を把握する
  2. 影響範囲の特定:対象となる製品・工程・自社の重要業務を特定する
  3. 在庫の確認:自社在庫、仕掛品、輸送中在庫、取引先側の在庫を確認する
  4. 復旧見込みの確認:取引先の被災状況と再開見込み(上流を含む)を確認する
  5. RTOへの影響判定:在庫・復旧見込み・代替のリードタイムから、自社のRTOを守れるかを判定する
  6. 代替策の発動判断:代替調達・代替生産・在庫配分の変更を、緊急決裁体制で決める
  7. 必要な承認:社内の品質承認、顧客承認、行政手続の要否を確認し手続する
  8. 切替えの実行:代替先への発注。取引条件を明確にして発注する
  9. 顧客対応:自社顧客への状況連絡・納期調整
  10. 継続確認:取引先の復旧状況を追い、平常取引への戻し方を決める
図3 発災時の取引先停止対応フロー(LegalGPT作成)

ここで効くのが第3話の緊急決裁体制です。代替策の発動判断が「いつもの稟議」に乗ると、それだけで数日が失われます。どの金額・どの範囲の代替調達を誰が即決できるかを決めておきます。

なお、事業継続ガイドラインは、企業が発災後に情報を発信できないと取引先が代替調達に切り替えるなど事業継続に不利な状況が進む、とも指摘しています。自社が供給側に立つ場合は、逆の立場で同じことが起きます。取引先から情報が来ないときは、待たずにこちらから確認することが大切です。

平時に作る「重要取引先・依存関係マップ」

ここまでの内容を一枚で管理するための実務ツールです。「重要取引先・依存関係マップ」は政府の正式な用語ではなく、LegalGPTが実務上分かりやすく整理するための名称です。

表7 重要取引先・依存関係マップ(LegalGPT作成のひな形)
重要業務必要品・サービス一次取引先上流依存地域代替先切替時間在庫自社RTO契約上の制約
製品Xの製造・出荷(重要顧客向け)特殊部品PB社60%・C社40%B・Cとも材料QをD社1社(1拠点)から調達B:東海/C:東海/D:東海E社(候補段階)未確認(品質評価・顧客承認が必要)A社5日分3日顧客との品質保証協定で購入先変更は事前承認

作成のコツは、行を重要業務ごとに立て、「上流依存」「地域」「契約上の制約」の列を空欄のままにしないことです。空欄は「確認していない」ことを意味します。空欄が多い行ほど、次に取引先へヒアリングすべき対象です。

マップは作って終わりではありません。事業継続ガイドラインも、BCMを年1回以上点検することや、取引先の変更や新たな契約締結などの変化に応じて点検し、サプライチェーンの視点で点検・評価することを示しています。少なくとも年1回、加えて取引先の変更、拠点移転、新製品の立上げのタイミングで更新してください。

サプライチェーンBCPでよくある失敗

表8 よくある失敗と起きること
失敗何が起きるか
1 取引額上位だけを重要取引先にする少額でも代替不能な部品・工程・保守が漏れる
2 一次サプライヤーしか見ない共通の二次・三次サプライヤーが止まって全滅する
3 2社購買だから安心する地域・設備・上流依存が同じで同時に止まる
4 「BCP策定済み」の回答で安心する自社向け供給のRTOが分からないまま発災を迎える
5 代替先の会社名だけ登録している契約・口座・品質・顧客承認で切り替えられない
6 在庫だけで解決しようとする長期停止に耐えられず、在庫倉庫の被災で失う。在庫があるうちは大丈夫と判断を先送りし、切替えが間に合わない
7 物流を見ていない製品は完成しても運べない
8 代替品への切替えに顧客承認が必要なことを把握していない部品はあるのに使えない
9 契約書にBCP条項を書けば安心する物理的な供給能力がなければ部品は届かない

FAQ

Q. サプライチェーンBCPとは何ですか?

A. 仕入先、委託先、物流会社など外部依存先の停止によって自社の重要業務が止まらないよう、平時から依存関係を把握し、代替策を準備しておく取組です。自社拠点の防災だけでなく、自社の外にある経営資源まで対象に含める点が特徴です。

Q. 仕入先を2社に分ければBCP対策になりますか?

A. それだけでは不十分です。2社が同じ地域にある、同じ二次サプライヤーから材料を買っている、同じ物流拠点を使っているといった場合、同時に止まります。取引先の数ではなく、共通の単一障害点がないかを確認してください。

Q. 二次・三次サプライヤーまで調べる必要がありますか?

A. すべての品目で末端まで調べる必要はありません。重要業務に使い、代替が難しい品目から優先して、一次サプライヤーに上流の1社依存の有無や主要拠点を確認するのが現実的です。

Q. 取引先にBCPの提出を求めてもよいですか?

A. 自社への供給継続を確認する目的で、必要な範囲の情報提供を依頼することは一般的に行われています。ただし、取引先にとって営業秘密に当たる情報も含まれるため、目的と範囲を絞り、秘密保持を整え、取引上の立場を利用して過度な開示や負担を強いないよう配慮してください。

Q. 代替サプライヤーを登録しておけば十分ですか?

A. 登録だけでは足りません。基本契約、NDA、取引口座、品質評価、図面提供の権利、顧客承認の要否、生産能力、物流まで確認して、はじめて災害時に切り替えられる状態になります。

Q. 災害時なら顧客の承認なしに代替部品へ変更できますか?

A. 契約で材料・部品・購入先の変更に事前承認が必要とされている場合、災害だからといって当然に免除されるわけではありません。無断変更は契約違反や品質問題につながるおそれがあります。平時に承認手続を確認し、可能なら災害時の簡易手続を顧客と協議しておきましょう。

まとめ

  • 重要取引先は、取引額ではなく、止まった場合の自社重要業務への影響で決める。
  • 2社購買でも、共通の上流サプライヤー・地域・物流・設備に依存していればリスク分散にならない。
  • 取引先のBCPは、文書の有無ではなく、自社が必要とするRTO・供給水準を満たせるかで見る。
  • 在庫は判断を先送りする猶予ではない。在庫残日数と切替えリードタイムから、代替策の発動時期を逆算する。
  • 代替サプライヤーは、会社名を登録するだけでは足りない。
  • 契約・品質・仕様・顧客承認・生産能力・物流まで準備して、はじめて代替調達が実行できる。
  • 法務は、BCP上の代替策を契約上も実行可能にする役割を担う。
  • サプライチェーンBCPは一度作って終わりではなく、取引先・依存関係の変化に合わせて更新する。

ここまでの第3話・第4話で、平時の準備として「誰が決めるか」と「外部依存をどう備えるか」を整理しました。しかし、平時の準備をしていても、実際に地震や台風が起きた直後は、情報が限られた中で会社が行動しなければなりません。

取引先対策まで準備しても、実際に地震・台風が起きた瞬間、会社は何から始めればよいのか。次の第5話では、発災直後の初動を扱います。

参考資料

参考資料(確認日はいずれも2026年9月25日)
資料名発行主体URL
事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(令和5年3月)内閣府(防災担当)https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline202303.pdf
事業継続ガイドライン改定等に関する検討会内閣府(防災担当)https://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/jigyoukeizoku/index.html
事業継続ガイドライン改定等に関する検討会(第1回・令和8年7月13日)資料3「『事業継続ガイドライン』改定に向けた検討」内閣府(防災計画担当)https://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/jigyoukeizoku/pdf/siryo3.pdf
中小企業BCP策定運用指針中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/
中小企業BCP策定運用指針「3.1 BCPの対象拡大」中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_03c_1.html
事業継続力強化計画(制度概要・策定の手引き等の掲載ページ)中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html
連携事業継続力強化計画策定の手引き(2026年7月17日更新)中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/download/keizokuryoku/tebiki_renkei.pdf
中小受託取引適正化法(取適法)関係公正取引委員会https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html
2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について公正取引委員会https://www.jftc.go.jp/event/kousyukai/toriteki.html

本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な契約や取引への適用については、最新の法令・資料を確認のうえ、必要に応じて専門家に相談してください。

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