災害で会社を休業したら給与はどうなる?休業手当の判断
LegalGPT|BCP・危機管理
第7話
災害・事業停止に備える企業法務BCP
緊急時の判断と対応|全15話
災害で会社を休業したら給与はどうなる?休業手当の判断
大型台風の接近を受け、前日の夕方に「明日は安全確保のため全社休業とします」と社内通知を出した。判断は迅速で、誰も出社せずに済んだ。
ところが翌日、人事部の問い合わせ窓口には質問が集中します。
- 「明日の給与は100%出ますか?」
- 「休業手当ということは60%ですか?」
- 「災害だから無給ですか?」
- 「電車が止まって行けなかった日はどうなりますか?」
第5話では災害発生直後の初動を、第6話では出社命令・帰宅・自宅待機・在宅勤務の判断を扱いました。第7話では、その勤務判断をした後に必ず来る「お金」の問題、すなわち災害時に労働基準法26条の休業手当が必要かを、会社がどう判断するかを整理します。
この記事の結論
- 「災害が原因だから休業手当は不要」とは限らない。
- 「会社が休業を決めたから必ず休業手当が必要」とも限らない。
- 判断の中心は、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」に当たるか。天災事変等の不可抗力なら同条の支払義務はないが、不可抗力といえるには①外部原因と②最大の注意を尽くしても回避不能の2要件が必要。
- 「地震」「台風」「大雪」という災害名だけでは結論は出ない。
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災害で会社を休業したら休業手当は必要?
まず条文を確認します。労働基準法26条は次のとおりです。
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
(労働基準法26条)
ポイントは3つです。
- 対象は「使用者の責に帰すべき事由による休業」であること。すべての休業が対象ではありません。
- 支払額は「平均賃金の100分の60以上」。60%は最低ラインです。
- 「平均賃金」は労基法12条で算定する概念であり、月給の60%でも基本給の60%でもありません。
つまり、災害時の休業手当の判断とは「その休業が、使用者の責に帰すべき事由によるものか」を見極める作業です。災害が絡むとここが一気に難しくなります。
まず「会社が休業させた」のか確認する
判断の入口で最も多い混同が、「社員が来られない」ことと「会社が社員を休ませる」ことの取り違えです。次の3つは同じではありません。
| 場面 | 状況 | 最初の論点 |
|---|---|---|
| A | 会社は営業しているが、従業員本人が鉄道運休で出社できない | そもそも使用者が「休業させた」といえるか。原則として労基法26条の入口に立たない可能性 |
| B | 会社が安全上の理由で「今日は全員自宅待機」と命じた | 使用者による休業。26条の「使用者の責に帰すべき事由」を検討 |
| C | 工場自体が地震で損壊し、物理的に操業できない | 使用者による休業だが、直接被災として不可抗力に当たるかを検討 |
LegalGPTの「災害時休業手当5項目」
休業の判断を記録する前に、次の5項目を押さえてください(LegalGPTの実務整理です)。
- 誰が休業を決めたか:会社が命じたのか、従業員本人が出社できなかったのか。
- 事業場は直接被災したか:建物損壊、浸水、停電、設備損壊など。
- 原因は事業の外部か:自然災害、交通途絶、取引先停止、電力供給停止など。
- 回避可能だったか:在宅勤務、他拠点、代替調達、勤務時間変更、一部操業、他業務への配置など。
- 契約・規程に別の定めがないか:就業規則、労働契約、労働協約、労使慣行。
休業手当判断の基本フロー
- その日は所定労働日か? → NOなら、原則として労基法26条の休業手当の問題ではない
- 労働者は労務を提供できる状態だったか?
- 会社が休業・自宅待機(就労させない形のもの)等を命じたか? → NO(本人が来られなかっただけ)なら、26条とは別の問題として契約・規程を確認
- YESなら、それは「使用者の責に帰すべき事由」か?
- 不可抗力の2要件(①外部原因、②最大の注意でも回避不能)を両方満たすか?
- 満たす → 原則として労基法26条の休業手当支払義務なし
- 満たさない → 平均賃金の60%以上の休業手当が必要
- どちらの場合も、労働契約・労働協約・就業規則・労使慣行でこれを上回る賃金・手当を定めていないかを別途確認
労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」とは?
厚生労働省「令和8年熊本地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A」(令和8年8月7日、8月25日更新。以下「熊本地震Q&A」)のA1-4は、天災事変等の不可抗力の場合は使用者の責に帰すべき事由に当たらず、休業手当の支払義務はないとしたうえで、ここでいう不可抗力を次の2要件で説明しています。
不可抗力の2要件(熊本地震Q&A A1-4・A1-5)
- その原因が事業の外部より発生した事故であること
- 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
2つを両方満たす必要があります。
重要なのは、自然災害なら①は満たしやすいが、②まで当然に満たすとは限らないという点です。台風が数日前から予測されていた、在宅勤務が可能だった、他拠点で業務できた、代替調達が可能だった――こうした事情があれば、「本当に避けられなかったのか」が問われます。
一方で、「在宅勤務の可能性が少しでもあれば必ず休業手当が必要」ということでもありません。熊本地震Q&A自身も冒頭で、法令上の義務は個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案すべきものとしています。あくまで個別事情の総合判断です。
「天災だから休業手当不要」とはいえない理由
熊本地震Q&Aは、事業場の施設・設備が直接被害を受けた場合(A1-4)と、直接の被害はないが取引先や交通が止まった場合(A1-5)とで、原則を逆にしています。
| 区分 | 典型例 | 原則 | 例外・注意点 |
|---|---|---|---|
| 直接被災 | 工場倒壊、店舗浸水、設備破損、建物が危険で立入不能 | 休業の原因が事業主の関与の範囲外で、最大の注意を尽くしても避けられない事故に当たると考えられ、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業に該当しない | 「原則」であり絶対ではない。休業範囲や期間が被害と見合っているか、復旧後も休業を続けていないか等は別途確認。労使の話し合いと不利益回避の努力も求められている |
| 間接被害 | 自社は無傷だが、取引先停止、原材料不着、物流停止、鉄道・道路の寸断 | 原則として使用者の責に帰すべき事由による休業に該当する | 不可抗力の2要件を満たせば例外的に該当しない。取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案 |
直接被災した場合
地震で工場が倒壊した、浸水で店舗が使えない、といったケースです。熊本地震Q&A A1-4は、このような場合は原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないとしています。
ただし、同じA1-4は、直接被害を受けた場合であっても、労使がよく話し合い、休業中の手当の水準や休業日・休業時間の設定等について労働者の不利益を回避する努力を求めています。また、被害を受けたのが一部の設備だけなのに全社を長期間休業させた場合などは、休業のすべてが直接被災によるものといえるかを検討する必要があります。「直接被災なら何があっても休業手当不要」と絶対化しないでください。
取引先・物流が止まった場合
自社工場は無傷でも、主要仕入先の被災で原材料が届かない。物流網が寸断されて出荷できない。このような間接被害による休業は、熊本地震Q&A A1-5のとおり原則として使用者の責に帰すべき事由に当たるというのが出発点です。
| 判断要素 | 確認したいこと |
|---|---|
| 取引先への依存の程度 | その取引先は唯一の供給元か。代わりの供給元はあったか |
| 輸送経路の状況 | 迂回ルート、他の輸送手段はあったか |
| 他の代替手段の可能性 | 在庫、代替品、他拠点での生産、別業務への配置はできたか |
| 災害発生からの期間 | 発災直後か、相当期間が経過して代替策を講じる時間があったか |
| 休業回避の具体的努力 | 実際に何を検討し、何を試み、なぜ実行できなかったか |
ここで第4話「サプライチェーンBCPと代替調達」とつながります。平時に代替調達先を確保していたか、特定取引先への依存をどう管理していたかは、災害後に「その休業は本当に避けられなかったのか」を評価する事情の一つになり得ます。もっとも、BCPが不十分だったから必ず休業手当が必要になる、という関係ではありません。あくまで総合判断の一要素です。
台風で予防的に休業した場合
本記事で最も実務的なポイントです。大型台風が接近し、建物にも設備にもまだ被害はない。会社は前日に「明日は危険なので全社休業」と決めた――このケースです。
判断の順序を間違えない
- 先に、安全上、出社・勤務させてよいかを判断する(第6話)
- その後で、出社させない・休業させる場合の賃金・休業手当の扱いを判断する
「休業手当が発生するから出社させる」という逆算は避けてください。休業手当のコストを理由に危険な出社を求めることは、安全配慮の観点から問題になり得ます。
そのうえで押さえたいのは、安全上その休業判断が合理的であることと、労基法26条上の休業手当が不要であることは、同じ問題ではないという点です。
予防的休業では、事業場は直接被災していません。不可抗力の要件①(外部原因)は台風という外部の事象に由来しますが、要件②(最大の注意を尽くしても回避不能)については、次のような事情を踏まえて検討することになります。
- 気象警報・危険情報の内容、計画運休の発表状況
- 在宅勤務に切り替えられる業務・人員がいたか
- 時差勤務、始業繰下げ、早期帰宅で対応できなかったか
- 業務の延期や他拠点での対応はできたか
- 休業の範囲(全社か一部か)と時間(終日か、危険が高い時間帯か)は必要な範囲だったか
「台風だから不可抗力」とも、「会社が自主的に決めたから必ず使用者責任」とも、自動的には決まりません。原因、危険度、予測可能性、代替手段、休業範囲、期間、回避努力を総合して判断します。
鉄道運休で社員が来られない場合
検索でも相談でも非常に多いテーマです。「電車が止まった=必ず休業手当」ではありません。
| ケース | 状況 | 考え方 |
|---|---|---|
| 1 | 会社は通常営業。鉄道が止まり、従業員本人が出社できない | 使用者が「休業させた」場面ではないため、原則として26条の休業手当の問題の入口に立たない。熊本地震Q&A A12-2は、労働者が出勤できなかった場合の賃金について、労働契約・労働協約・就業規則等に定めがあればそれに従い、有給の特別休暇制度があれば活用も考えられ、定めがなくても労使で話し合い不利益をできる限り回避する努力が大切としている |
| 2 | 鉄道は一部動いているが、会社が全社員に自宅待機(就労させない)を命じた | 会社による休業。26条の「使用者の責に帰すべき事由」の検討へ進む |
| 3 | 会社が在宅勤務を命じ、従業員は通常どおり勤務した | 勤務した時間は「休業」ではない。通常の賃金の問題 |
「自宅待機」はラベルではなく中身で判断する
「自宅待機」という言葉には、実際には異なる指示が含まれています。
- A:完全に業務をさせず休ませる → 使用者による休業として26条の検討対象
- B:電話対応等を求め、呼び出しに即応させる → 休業ではなく、労働時間・賃金の問題になり得る
- C:在宅勤務として通常業務をさせる → 通常の勤務。通常の賃金
社内通知で「自宅待機」と書いたかどうかではなく、実際に何を命じたのかで評価が変わります。通知文には、業務の要否、連絡対応の要否、賃金の扱いを明記しておくと後の紛争を防げます。
在宅勤務・他拠点勤務ができる場合
在宅勤務で通常の労働を行った時間は、休業手当ではなく通常の賃金の問題です。したがって災害時は、「会社休業→全員休ませる」だけでなく、在宅勤務、他拠点勤務、別業務、時差勤務、部分的な操業といった選択肢を検討する価値があります。これは従業員の収入を守ると同時に、休業回避努力の記録にもなります。
ただし、「在宅勤務が理論上可能だから、それを実施しなければ不可抗力を主張できない」という断定はできません。業務内容、システムの稼働状況、従業員自身の被災状況や安全、情報セキュリティなどを含めた総合判断です。システム停止時の対応は第10話、私物端末や自宅PCの利用ルールは第11話で扱います。
計画停電・一部休業はどう考える?
計画停電
計画停電について厚生労働省は、東日本大震災時の「節電に向けた労働時間の見直しなどに関するQ&A」で、次のように整理しました。
- 電力が供給されない計画停電の時間帯を休業とする場合は、原則として26条の使用者の責に帰すべき事由による休業に該当しない(Q2-3)。
- 計画停電の時間帯以外も含めて1日全部を休業とする場合、停電時間帯以外は原則として該当する。ただし、他の手段の可能性、休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、停電時間帯のみを休業とすることが経営上著しく不適当と認められる場合には、停電時間帯以外を含めて原則として該当しないとされた(Q2-4)。
このQ&Aは2011年の東日本大震災当時の計画停電を前提としたものです。現行法(労基法26条)の条文は変わっていないため考え方の参考になりますが、当時の特定の事情を現在の一般ルールとして扱わないよう注意してください。
たとえば停電予定が13時〜16時なのに終日休業とする場合は、「設備の停止・再起動に時間がかかり、安全上午前だけの操業ができない」「停電時間に合わせて始業を早める・時差勤務にする余地がない」など、停電時間以外まで休業が必要だった理由を説明できるかがポイントです。
一部休業(時短休業)
通常8時間勤務の日に、台風接近のため午後3時間だけ休業させた場合はどうか。26条が適用される休業であれば、「休んだ3時間分の60%」ではなく、その1日全体で平均賃金の60%以上が支払われているかで判断します。
厚生労働省「確かめよう労働条件」のQ&Aも、1労働日の一部を休業した場合は、労働した割合で賃金が支払われていても、その日全体として平均賃金の100分の60までは支払わなければならず、実際の支給額がそれに達しない場合は差額を支給する必要があると説明しています。
計算例(一部休業)
- 平均賃金:10,000円 → その日の最低保障額:6,000円
- 実際に働いた時間分の賃金:4,000円
- 差額:6,000円 − 4,000円 = 少なくとも2,000円を休業手当として支給
働いた分の賃金がすでに6,000円以上であれば、労基法26条上の追加支給は生じません(契約・規程の定めは別途確認)。
給与100%・休業手当60%・不可抗力の違い
「会社都合なら60%払えば終わり」という理解は不十分です。災害時の賃金は三層構造で考えると整理できます。
レベル1:通常賃金の請求権があるか(民法536条2項・契約)
民法536条2項は、債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができないと定めています。労働契約に当てはめると、使用者(労務の受領側)の責めに帰すべき事由で働けなかった場合、労働者は賃金全額を請求できる可能性があります。労働関係では、使用者自身の故意・過失等により労働者を休業させることになった場合などに、民法536条2項に基づく通常賃金の支払義務が問題となります。
レベル2:それがなくても労基法26条の休業手当が必要か
最高裁(ノース・ウエスト航空事件・最二小判昭和62年7月17日)は、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、過失責任主義とは異なる観点も踏まえた概念であり、民法536条2項の帰責事由より広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むと判断しました。休業手当が労働者の生活保障のための制度だからです。つまり、民法上は賃金全額を請求できない場面でも、26条の休業手当(平均賃金の60%以上)は必要になることがあります。
レベル3:不可抗力で26条も適用されないか
不可抗力の2要件を満たせば、26条の支払義務もありません。ただし次の点に注意してください。
「26条の義務なし」=「1円も払わなくてよい」ではない
熊本地震Q&A A1-2は、労働契約・労働協約・就業規則・労使慣行に基づき、不可抗力による休業についても賃金・手当を支払うこととしてきた企業が、災害に伴う休業についてこれを支払わないとすることは労働条件の不利益変更に該当し、適法な変更手続なしにはできないとしています。休業手当を70%、80%、100%と上乗せする定めも有効です。まず自社の規程を確認してください。
| 状況 | 主な確認事項 | 金銭面の基本論点 |
|---|---|---|
| 通常勤務・在宅勤務 | 実際に勤務したか | 通常の賃金 |
| 使用者側の帰責事由(故意・過失等)で就労不能 | 民法536条2項、契約・規程 | 通常賃金を請求される可能性 |
| 労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業 | 不可抗力に当たらないか | 平均賃金の60%以上(規程で上乗せがあればそれに従う) |
| 不可抗力による休業 | 2要件を両方満たすか | 26条の義務はない。ただし契約・就業規則・労働協約・労使慣行を確認 |
| 労働者自身が出社不能 | 使用者による休業といえるか | 26条とは別問題。契約・規程、特別休暇、労使の話し合い |
休業手当はいくら?
平均賃金は労基法12条に基づき、原則として算定事由発生日以前3か月間に支払われた賃金の総額 ÷ その期間の総日数(暦日数)で算定します。賃金締切日がある場合の起算、業務上の傷病による休業期間などの除外期間、臨時の賃金や3か月を超える期間ごとの賃金(賞与など)を算入しないこと、日給・時間給などの場合の最低保障(賃金総額÷労働日数×60%)といった細則があります。
計算例(月給制)
- 月給30万円(残業代・手当なしと仮定)、直前3か月の賃金総額90万円、暦日数92日
- 平均賃金:900,000円 ÷ 92日 ≒ 9,782.60円
- 休業手当(1日あたりの最低額):9,782.60円 × 60% ≒ 5,869.56円
- 1か月のうち所定労働日21日を休業させた場合:約5,870円 × 21日 ≒ 約12万3千円
「月給30万円の60%=18万円」にはなりません。平均賃金は暦日で割るため、1日あたりの額は所定労働日ベースの日給より低くなるのが通常です。
※単純化した計算例です。実際の平均賃金は、直前の賃金締切日、除外期間、算入する賃金の範囲、賃金形態(日給・時間給等の最低保障)等によって算定期間・計算方法が変わります。端数処理を含め、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。
支払時期について、「確かめよう労働条件」のQ&Aは、休業手当は労基法11条の賃金に該当するため同法24条が適用され、休業期間の属する賃金算定期間について定められた支払日に支払うと説明しています(昭和25年4月6日基収207号、昭和63年3月14日基発150号)。賃金支払の原則(通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定期日に)に沿って支払ってください。熊本地震Q&A A4-1も、天災事変などの理由による賃金支払義務の免除規定は労基法にないとしています。
所定休日はどうなる?
休業手当は、労働義務のある日(所定労働日)に使用者の責に帰すべき事由で休業させた場合の問題です。もともとの所定休日について、当然に26条の休業手当が発生するわけではありません。休業期間中に所定休日を挟む場合は、休日を除いた所定労働日で計算します。
雇用調整助成金の特例は「その災害」の限定措置
熊本地震Q&A A1-3は、雇用調整助成金は労基法26条の使用者の責に帰すべき事由による休業に該当するか否かによって扱いが異ならないと説明しています。また2026年9月28日時点では、令和8年熊本地震に伴う経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主を対象に、生産量低下の確認期間の短縮などの特例措置が示されています(一部は熊本県内事業所のみ)。ただしこれは特定の災害に対する時限的な措置です。災害時には特例が設けられることがあるため、発災時に厚生労働省・都道府県労働局の最新情報を確認してください。
有給休暇にすればよい?
「災害で休みにする日は、全員年休で処理しよう」――これは避けてください。熊本地震Q&A A9-1は、年次有給休暇は労働者が請求する時季に与えるものであり、使用者に命じられて取得するものではないとしています。時季変更権(労基法39条5項ただし書)や労使協定による計画的付与(同条6項)も、使用者が一方的に取得を命じられることを定めたものではないと明記しています。
一方、従業員本人が収入確保のために年休取得を希望することはあります。その場合は本人の請求として処理すればよく、問題はありません。要は「休業」と「年休」を混同しないことです。
派遣社員・パートはどうなる?
派遣労働者熊本地震Q&A A2-1は、派遣中の労働者の休業手当について「使用者の責に帰すべき事由」に当たるかどうかは派遣元の使用者について判断されるとしています。派遣先が不可抗力で操業できず、派遣先の直接雇用労働者について休業手当が不要とされても、派遣元については他の事業場へ派遣する可能性等を含めて判断されます。派遣先で不要だから派遣社員も当然不要、とはなりません。
パート・アルバイト・有期契約社員労基法26条は「労働者」についての制度であり、雇用形態だけを理由に対象外にはなりません。所定労働日や平均賃金(日給・時給の最低保障を含む)、契約内容によって具体的な金額が変わります。
ケースで比較|同じ災害でも結論が変わる
ケース1 地震で工場が倒壊
工場へ立入不能。設備も破損し、全員休業。→ 直接被災。熊本地震Q&A A1-4により、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられる。ただし規程上の支払定めの確認と、労働者の不利益回避の努力が必要。
ケース2 自社は無傷だが主要仕入先が停止
原材料が届かず工場を休業。→ 間接被害。原則として使用者の責に帰すべき事由に該当。代替調達の可能性、取引先依存度、在庫、災害後の経過期間、休業回避努力を総合して、不可抗力に当たるかを検討。
ケース3 大型台風で前日から全社休業
建物被害なし。事務職の多くは在宅勤務可能。→ 安全上の休業判断は適切でも、26条の不可抗力判断は別途必要。在宅勤務できる部署まで一律に休業させた理由を説明できるかがポイント。
ケース4 鉄道運休で社員本人が出社できない
会社は営業。→ 会社が休業させた場面ではない。26条ではなく、契約・規程・特別休暇・労使の話し合いの問題として整理。
ケース5 計画停電13時〜16時、会社は終日休業
→ 停電時間帯は原則として26条に該当しない。停電時間以外まで休業した理由(設備再起動、安全、時差勤務の可否など)を検討。
| ケース | 誰が休業を決めたか | 直接被災 | 出発点 | 主な検討事項 |
|---|---|---|---|---|
| 1 工場倒壊 | 会社 | あり | 原則として26条の帰責事由に該当しない | 休業範囲・期間、規程上の支払定め |
| 2 仕入先停止 | 会社 | なし | 原則として26条の帰責事由に該当 | 依存度、代替調達、在庫、経過期間、回避努力 |
| 3 台風予防休業 | 会社 | なし | 安全判断と26条判断を分ける | 予測可能性、在宅勤務・時差勤務、休業範囲 |
| 4 鉄道運休 | 本人が出社不能 | なし | 26条の入口に立たない | 契約・規程、特別休暇、話し合い |
| 5 計画停電 | 会社 | 電力供給停止 | 停電時間帯は原則非該当 | 停電時間外まで休業した理由 |
平時に作る「災害時休業手当判断シート」
災害時の判断は、後から「なぜその休業が避けられなかったのか」を説明できるかどうかで評価が大きく変わります。判断した時点で記録を残すためのシートです(政府の正式様式ではなく、LegalGPTの実務整理です)。判断記録の保存方法は第13話も参照してください。
| 確認項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 休業日・時間 | |
| 対象事業場・対象者 | |
| 休業を決定した者(決裁者) | |
| 休業の直接原因 | |
| 施設・設備の直接被害 | 有・無(内容: ) |
| 外部要因(交通・取引先・電力等) | |
| 在宅勤務・代替勤務の可否 | |
| 他拠点利用の可否 | |
| 代替調達・物流の可否 | |
| 休業回避のために検討・実施したこと | |
| 不可抗力①:原因は事業の外部か | |
| 不可抗力②:最大の注意を尽くしても回避不能か | |
| 労働契約・就業規則・労働協約・労使慣行の定め | |
| 労基法26条の判断(該当・非該当)と理由 | |
| 平均賃金(算定方法) | |
| 支払額・支払根拠・支払日 | |
| 判断者・判断日 |
BCPは労務リスク管理でもある
このシートの「代替勤務」「他拠点」「代替調達」の欄は、平時のBCPがなければ埋められません。第2話で重要業務と目標復旧時間(RTO)を決め、第4話で代替調達を準備し、第6話で在宅勤務や勤務判断のルールを整えておくことは、災害後に「本当に休業を避けられなかったのか」を検討するときの材料になります。BCPは防災マニュアルにとどまらず、災害後の労務リスク管理にもつながっています。
災害時の休業手当でよくある失敗
- 「地震だから休業手当は不要」:不可抗力の2要件を確認していない。
- 「会社が休業を決めたから必ず60%」:直接被災など、不可抗力の可能性を検討していない。
- 「会社都合なら60%払えば終わり」:民法536条2項や契約・規程による通常賃金請求の問題を見ていない。
- 「月給の60%を払えばよい」:平均賃金の意味を取り違えている。
- 安全上の休業と休業手当の判断を混同:賃金コストで安全判断が歪む。
- 取引先停止だから不可抗力と即断:代替調達・在庫・他の手段を検討していない。
- 電車で来られない社員と会社休業を同じ扱い:誰が休業を決めたかを確認していない。
- 在宅勤務できる社員まで理由なく全休業:回避可能性の検討不足と評価され得る。
- 全員を一方的に年休扱い:休業と年休を混同している。
FAQ
Q. 地震で会社が壊れた場合も休業手当は必要ですか?
A. 事業場の施設・設備が直接被害を受けて休業させる場合は、熊本地震Q&A A1-4により、原則として労基法26条の使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられます。ただし就業規則等に支払定めがあればそれに従う必要があり、休業範囲・期間が被害と見合っているかも確認してください。
Q. 台風だから会社を休みにした場合、休業手当は必要ですか?
A. 一律には決まりません。事業場に直接被害がない予防的休業では、予測可能性、在宅勤務や時差勤務の可否、休業範囲などを踏まえ、不可抗力の2要件を満たすかを検討します。安全上の判断が適切であることと、休業手当が不要であることは別問題です。
Q. 電車が止まって社員が出社できない場合は休業手当が必要ですか?
A. 会社が営業していて本人が来られないだけなら、会社が休業させたわけではないため、原則として26条の休業手当の問題ではありません。就業規則や特別休暇の定めを確認し、労使で不利益回避を話し合ってください。会社が自宅待機を命じた場合は別です。
Q. 在宅勤務できる社員にも休業手当を払いますか?
A. 在宅勤務で通常どおり働いた時間は休業ではなく、通常の賃金を支払います。在宅勤務できるのにあえて休業させた場合は、その理由(安全、システム、情報管理など)を記録しておきましょう。
Q. 災害時は社員を有給休暇扱いにしてよいですか?
A. 会社が一方的に年休取得を命じることはできません。本人が請求した場合に年休として処理するのは問題ありません。
Q. パート・アルバイトにも休業手当は必要ですか?
A. 雇用形態だけで対象外にはなりません。26条の要件を満たす休業であれば、パート・アルバイト・有期契約社員も対象です。金額は平均賃金(日給・時給の最低保障を含む)や所定労働日によって異なります。
Q. 派遣先が災害で休業した場合、派遣社員の休業手当はどうなりますか?
A. 判断は派遣元について行われます。派遣先で休業手当不要とされても、派遣元は他の派遣先へ派遣する可能性等を含めて判断されるため、当然に不要とはなりません(熊本地震Q&A A2-1)。
まとめ
- 「災害だから休業手当不要」とは限らない。
- 最初に、会社が労働者を休業させたのかを確認する。
- 不可抗力には外部原因と回避不能の2要件がある。
- 自社が直接被災した場合と、取引先・物流停止による休業は分けて考える。
- 台風の予防的休業は、安全上適切でも、それだけで休業手当不要とは決まらない。
- 代替勤務・他拠点・代替調達などの休業回避可能性も判断材料になる。
- 平均賃金60%は月給60%ではない。
- 通常賃金(民法536条2項・契約)と労基法26条の休業手当は別の層で判断する。
- 26条の義務がなくても、就業規則・労働契約等で支払義務がある場合がある。
- 安全を先に判断し、休業手当のコストを理由に危険な出社を求めない。
判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署や都道府県労働局、弁護士・社会保険労務士に相談してください。総合チェックは第15話のチェックリストにまとめています。
ここまでで従業員への休業対応は整理できました。しかし、会社が顧客へ製品を納品できなくなれば、今度は取引先に対する契約上の責任が問題になります。なお、本記事の「不可抗力」は労基法26条の使用者責任の判断に限った話であり、契約法上の不可抗力と同じ意味・要件とは限りません。次の第8話では、災害で納品できないときの債務不履行と不可抗力の考え方を扱います。
参考資料
| 資料名 | 発行主体 | URL | 確認日 |
|---|---|---|---|
| 令和8年熊本地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A(令和8年8月7日、8月25日更新) | 厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/001742608.pdf | 2026年9月28日 |
| 令和8年熊本地震について | 厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73935.html | 2026年9月28日 |
| 自然災害が発生した場合の支援や制度について(労働基準関係) | 厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00177.html | 2026年9月28日 |
| 節電に向けた労働時間の見直しなどに関するQ&A「2. 計画停電が実施された場合の対応について【労働基準法第26条関係】」 | 厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/faq_02.html | 2026年9月28日 |
| 休業手当の計算について | 滋賀労働局 | https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/content/contents/000651773.pdf | 2026年9月28日 |
| 確かめよう労働条件 Q&A「会社都合で休みをとらされましたが、給料なしは労基法上ありですか?」 | 厚生労働省 | https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/chingin/q6.html | 2026年9月28日 |
| 労働基準法(12条・24条・26条・39条) | e-Gov法令検索(デジタル庁) | https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 | 2026年9月28日 |
| 民法(536条) | e-Gov法令検索(デジタル庁) | https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 | 2026年9月28日 |
| 就職前に知りたい!労働法のこと(判例・事例:ノース・ウエスト航空事件〔最高裁第二小法廷昭和62年7月17日判決〕) | 厚生労働省 | https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/pdf/seminar_text_for_students.pdf | 2026年9月28日 |
本記事は2026年9月28日時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説であり、個別事案についての法的助言ではありません。災害時の取扱いは個別事情を総合的に勘案して判断されるため、具体的な判断にあたっては所轄の労働基準監督署・都道府県労働局や専門家にご確認ください。
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