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非上場会社やスタートアップへの出資は、上場会社への市場投資に比べると規模が小さく見えるため、外為法の確認が後回しになりやすいものです。しかし、外国投資家が日本の非上場会社の株式・持分を取得する場合も、外為法上の対内直接投資等(第3話)として確認が必要になり得ます。本記事(第7話)では、外国投資家による非上場会社の買収・スタートアップ出資に焦点を当てて整理します。

ここで最も大切なのは、非上場会社では、上場会社のような1%基準とは異なり、「1株取得」でも確認対象になり得るという点です(第6話の上場会社とはここが大きく違います)。「1株だけだから」「シード投資だから」「少額だから」といって外為法確認を省略してよいとは限りません。

さらにスタートアップでは、まだ売上が小さくても、ソフトウェア、AI、サイバーセキュリティ、半導体、宇宙、医療、エネルギーなどの技術・事業内容によって、指定業種・コア業種(第4話)の確認が必要になることがあります。加えて、外国投資家どうしで非上場株式を譲渡する場合には、「特定取得」という別の枠組みも問題になります。本記事では、これらを初心者にもわかるように整理します。

本記事の位置づけ・注意
本記事は、外為法の対内直接投資規制における非上場会社の買収・スタートアップ出資について、企業法務担当者が初期確認を行うための一般的な整理です。実際の判定は、投資家の属性、株式・持分取得の方法、取得比率・議決権比率、対象会社・子会社の事業内容、指定業種・コア業種該当性、特定取得該当性、投資契約上の権利、免除制度の利用可否、最新の法令・告示・当局実務によって変わります。個別案件では、必ず最新の公的資料(財務省・日本銀行・経済産業省)を確認し、必要に応じて外為法・M&A実務に詳しい専門家に相談してください。
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非上場会社への出資で外為法が問題になる理由

このセクションの要点:非上場会社への出資も、外国投資家か → 非上場株式・持分取得か → 株式譲渡/増資/特定取得のどれか → 指定業種・コア業種か → 免除制度、の順で確認します。1株からが確認の入口になる点が上場会社と異なります。

非上場会社への出資も、外為法の判定軸(第2話第5話)に沿って確認します。非上場会社特有のポイントは、上場会社の1%基準のような入口基準とは異なり、1株取得でも外為法確認の対象になり得ること、取得の形(株式譲渡・増資・特定取得)が多様なこと、そして上場会社リストのような公表整理がないことです。

順番確認すること非上場会社でのポイント関連するシリーズ記事
1投資家は外国投資家かVC・ファンド・SPCの背後関係まで確認(日本法人でも該当し得る)第2話
2非上場会社の株式・持分取得か1株(1口)でも対内直接投資等に該当し得る第3話
3株式譲渡か、増資引受か、特定取得か他の外国投資家からの譲受は「特定取得」(別枠)本記事・第3話
4対象会社・子会社が指定業種・コア業種に該当するか定款・HPだけでなく技術・開発内容まで確認第4話
5事前届出免除制度を使えるか役員派遣・技術アクセス前提だと免除を使いにくい第5話
6事前届出・事後報告・手続不要を整理したか指定業種か・比率により結論が変わる第5話
7クロージング日・払込日・登記日程に反映したか待機期間が払込・登記に影響第8話
8投資契約・株主間契約に反映したか権利内容が免除可否・行為時届出に影響第9話

非上場会社では「1株取得」でも確認が必要になり得る

このセクションの要点(本記事の中心):非上場会社の株式・持分取得には出資比率の閾値がなく、1株でも対内直接投資等に該当し得ます。ただし「該当=必ず事前届出」ではありません。最終的な手続は、指定業種か非指定業種か、取得比率によって変わります。

上場会社では取得後の議決権比率1%が入口でしたが、非上場会社では株式・持分の取得自体が広く対内直接投資等に該当し得ます。出資比率の閾値が設定されていないため、ざっくり言えば「1株(1口)の取得でも入口に入る」と考えておくのが安全です。少数株でも、非上場会社では株主数が少なく、経営関与・情報アクセス・技術流出の観点で重要性を持ち得るためです。

ただし、厳密には「対内直接投資等に該当すること」と「事前届出が必要なこと」は別です。非上場会社の場合、手続の結論はおおむね次のように分かれます(日本銀行Q&A、財務省資料に基づく整理。詳細は第5話)。

  • 対象会社が指定業種を営む場合:1株の取得でも事前届出の要否を検討します。もっとも、非上場会社への対内直接投資等では、免除制度を利用できない外国投資家を除く外国投資家は、コア業種以外の指定業種に限り事前届出免除制度を利用できる場合があり、この場合は出資比率・議決権比率にかかわらず事後報告が必要です。コア業種に該当する場合は、非上場会社への対内直接投資等では免除制度を利用できず、原則どおり事前届出を検討します。
  • 対象会社が指定業種を営まない場合(非指定業種):非上場会社株式・持分の取得に係る対内直接投資等の文脈では、指定業種該当性を理由とする事前届出には進まない方向です。事後報告については、取得後の議決権比率が密接関係者と合わせて10%以上となる場合に必要となり、10%未満であれば報告不要と整理される類型があります。ただしこれは対内直接投資等の文脈での説明であり、特定取得、事前届出免除制度を利用する場合、実行報告、支払等報告などは別途確認が必要です。

つまり、「非上場だから不要」も「1株でも必ず事前届出」も、どちらも正確ではありません。正しくは「1株から確認の必要はあるが、結論は指定業種該当性と比率次第」です。また、取得比率だけでなく、役員指名権、拒否権、情報提供権、技術情報アクセス、株主間契約上の権利も確認すべきです。

理由具体例外為法上の注意点
株主構成への影響株主数が少なく、少数株でも比重が大きい非上場会社では、上場会社の1%基準とは異なり、1株取得でも外為法確認の入口になり得る
経営関与の可能性少数株でも取締役を送る役員選任同意は対象取引になり得る
役員指名権投資契約で役員指名権を取得免除基準(役員不就任)に抵触し得る
拒否権・同意権重要事項への拒否権実質的な経営関与として確認
非公開情報へのアクセス情報提供権・閲覧権免除可否・関与度の判断材料
技術情報へのアクセス指定業種事業の非公開技術に触れる免除基準(技術アクセス禁止)に抵触し得る
共同投資家との関係複数の外国投資家で共同出資密接関係者・合算・共同保有を確認
将来ラウンドでの追加取得フォローオン投資で比率上昇将来の届出・報告も視野に入れる
指定業種・コア業種との関係開発技術が指定業種に関係1株でも事前届出を検討

株式譲渡・増資引受・第三者割当増資の違い

このセクションの要点:非上場会社への出資には、既存株主からの株式譲渡、会社が新株を発行する増資引受(第三者割当)種類株式・新株予約権・CBなどがあります。株式取得時だけでなく、将来の転換・行使・追加取得も見据えます。

非上場会社・スタートアップへの出資には、いくつかのパターンがあります。既存株主から株式を取得する株式譲渡、会社が新株を発行して外国投資家が引き受ける増資引受・第三者割当増資、スタートアップ投資で多い種類株式(優先株式)の発行、新株予約権や転換社債型新株予約権付社債(CB)を使う投資などです。いずれも、株式取得時点だけでなく、将来の転換・行使・追加取得を見据える必要があります。また、払込日・クロージング日・株主名簿書換日・登記日程と、事前届出が必要な場合の待機期間との関係も確認します。

特に、種類株式やJ-KISS等の将来株式取得型のスキームでは、ダウンラウンドや希薄化防止条項(アンチ・ダイリューション)の発動によって転換比率が上昇し、当初の想定を超えて議決権比率が高まる(事後報告・事前届出の要否が変わる)ことがあります。投資契約の段階で、将来の最大転換比率(キャップ発動時など)も織り込んで外為法上の影響を確認しておくと安全です。

出資パターン具体例外為法上の確認ポイント契約・スケジュール上の注意点
株式譲渡既存株主から株式を取得譲渡元が日本人か外国投資家か(特定取得か)クロージング条件に外為法クリアランス
第三者割当増資会社が新株を発行し外国投資家が引受新株取得も対象。指定業種・免除を確認払込日・登記期限と待機期間の整合
種類株式発行優先株式によるスタートアップ投資議決権の有無・内容、将来の支配関係種類株式の内容と議決権比率を確認
新株予約権発行ワラント・ストックオプション類似行使後の議決権影響将来の比率変動を見込む
転換社債型新株予約権付社債(CB)転換権付き社債社債性と将来の株式転換の両面社債としての論点も確認
SAFE・J-KISS等の将来株式取得型スキーム将来の株式取得を約する投資権利行使・株式取得の時点で確認が必要になり得る将来の転換・取得時のスケジュールに留意
株主間契約による権利付与役員指名権・同意権等の付与経営関与の有無が免除可否に影響契約締結時・権利行使時の両方を確認
追加出資・フォローオン投資次回ラウンドでの追加取得累積比率・密接関係者合算各ラウンドで再確認
SAFE・J-KISS等の将来株式取得型スキームについては、日本法・外為法上の位置づけが個別性の高い論点です。本記事では断定を避け、将来の株式取得・権利行使の時点で外為法確認が必要になり得るという実務上の注意にとどめます。具体的な設計では専門家に確認してください。

特定取得とは何か|外国投資家間の非上場株式譲渡に注意

このセクションの要点:特定取得とは、外国投資家が「他の外国投資家」から日本の非上場会社の株式・持分を譲り受ける場合の枠組みです(外為法26条3項に定義)。誰から取得するかで、通常の対内直接投資等と特定取得が分かれます。海外ファンド間のセカンダリー取引などで問題になります。

同じ「非上場株式の取得」でも、誰から取得するかによって枠組みが変わります。日本人株主や外国投資家でない者から取得する場合は「対内直接投資等」ですが、他の外国投資家から日本の非上場会社の株式・持分を譲り受ける場合は、「特定取得」として規定されています(特定取得は外為法26条3項に定義され、事前届出は法28条、事前届出免除は法28条の2によります)。

対内直接投資等
日本人株主・外国投資家でない者などから、非上場会社の株式・持分を取得する場合(新株引受・設立時取得を含む)。指定業種なら事前届出を検討。
特定取得
外国投資家が「他の外国投資家」から、非上場会社の株式・持分を譲り受ける場合(外為法26条3項に定義)。指定業種(特定取得に係る告示)に係るものは事前届出の対象になり得る。

特定取得は、海外ファンド間のセカンダリー取引、SPV(特別目的事業体)持分の譲渡、ファンド持分の譲渡、既存外国株主から新規外国投資家への譲渡などで問題になります。特定取得に該当する場合でも、事前届出・事後報告の要否は、指定業種(特定取得に係る指定業種・コア業種告示)・投資家属性・免除制度・最新の法令資料を確認する必要があります。なお、特定取得が居住者・非居住者間で行われる場合には、資本取引としての手続が問題になるケースもあります(日本銀行Q&A)。

特定取得の免除・事後報告、対象会社側の留意:特定取得についても、一定の場合には事前届出免除制度を利用できます。ただし、コア業種以外の指定業種に該当する事業を営む発行会社についての整理であり、免除を利用した外国投資家は特定取得を行った日から45日以内に事後報告を提出する必要があります(対内直接投資等とは様式・根拠・確認事項が異なるため、日本銀行Q&Aと特定取得に係る告示・基準告示を確認してください)。また、特定取得は譲渡人・譲受人(いずれも外国投資家)が当事者ですが、対象会社(日本企業)も、株式譲渡の承認(会社法139条)や株主名簿の書換え(会社法133条)を行う場面で、外為法上の届出・待機期間が満了しているかを確認しておくと、間接的なコンプライアンスリスクを避けやすくなります。

日本企業側は、外国投資家どうしの譲渡では直接の当事者ではないように見えますが、株主変更・支配関係変更・情報提供依頼が来る可能性があり、無関係とは言えません。

区分典型例誰から取得するか実務上の注意点
対内直接投資等創業株主からの買収、第三者割当増資の引受日本人株主・外国投資家でない者・新株発行指定業種なら1株でも事前届出を検討
特定取得海外ファンド間の非上場株式譲渡他の外国投資家特定取得の告示・免除基準を確認(別枠)
対象外と整理され得る取引相続・遺贈による取得など報告不要類型に当たるかを確認(直投令等)
場面具体例確認すべきこと注意点
外国投資家Aから外国投資家Bへの非上場株式譲渡海外株主の入替え特定取得該当性・指定業種対内直接投資等ではなく特定取得
海外ファンド間のセカンダリー取引ファンドの保有株式を別ファンドへ売却投資家属性・指定業種・免除セカンダリーでも確認が必要
SPV持分の譲渡投資ビークルの持分を譲渡背後の対象会社株式の取得に当たるか実質的な支配の移転を確認
海外親会社の変更に伴う間接的な支配関係変更海外グループ再編間接保有・支配関係の変動間接的でも影響を確認
既存外国株主から新規外国投資家への譲渡株主構成の入替え特定取得該当性日本企業側にも情報依頼が来得る
M&A前の株主整理クロージング前の株式集約各譲渡の枠組み(対内直投/特定取得)スキーム全体で確認

スタートアップ出資で指定業種・コア業種を確認する方法

このセクションの要点:スタートアップは定款・HPだけでは事業がわかりません。ピッチ資料・技術資料・事業計画・特許・データ処理内容まで確認します。売上がまだなくても、開発中の技術が指定業種・コア業種に関係することがあります。

スタートアップでは、定款・登記簿・会社HPだけでは事業内容が十分にわからないことが多いものです。第4話で述べたとおり、指定業種該当性は実際の事業活動で判断するため、ピッチ資料、技術資料、事業計画、製品ロードマップ、特許・知財、データ処理の内容、顧客候補などを確認する必要があります。重要なのは、売上がまだなくても、開発中の技術・サービスが指定業種・コア業種に関係する可能性があることです。さらに、スタートアップは事業転換(ピボット)も多いため、投資契約時点の事業内容と将来計画の両方を整理しておくことが大切です。

分野具体例確認すべき資料注意点
AI・機械学習AIモデル・解析エンジンの開発技術資料・用途・顧客候補用途(防衛・監視等)で慎重確認
ソフトウェア・情報処理SaaS・データ処理基盤機能仕様・FAQ該当性該当範囲が細かく所管省庁FAQを確認
サイバーセキュリティセキュリティ製品・サービス製品内容・取引先コア業種に関係し得る
半導体・電子部品設計・製造・装置製品・製造工程重要物資・コア業種に関係し得る
ドローン・ロボティクス無人機・自律制御用途・技術内容航空機(無人航空機)はコア業種
宇宙・航空衛星・ロケット・部品技術・契約先宇宙関連はコア業種に位置づけられる
医療機器・医薬高度管理医療機器・医薬品薬事・製品分類感染症医薬品・高度管理医療機器はコア業種
エネルギー・電力発電・蓄電・電力制御事業内容・出力規模電気業はコア業種に関係し得る
通信・データ処理通信基盤・大規模データ処理事業内容・許認可通信事業は指定業種・コア業種に関係し得る
官公庁・重要インフラ向けサービス政府・インフラ事業者向け製品取引先・契約内容取引先の性質が判断材料になる
具体的な業種名・指定業種該当性は、必ず最新の公的資料(指定業種告示・コア業種告示・経産省FAQ)で確認してください。本記事の分野例は「注意すべき方向性」を示すものであり、該当・非該当を断定するものではありません。告示は頻繁に改定されます。

海外VC・CVC・ファンド・日本SPCで注意すべきこと

このセクションの要点:投資家が海外VC・CVC・ファンドでも、日本SPC経由でも、投資家が日本法人でも、外国親会社・外国株主・外国ファンド・最終支配者を確認します。外国政府・国有企業等が関与する場合は特に慎重に。

第2話で述べたとおり、外国投資家は海外企業だけではありません。海外VC・海外CVC・海外ファンドが直接出資する場合はもちろん、海外ファンドが日本SPCを設立して出資する場合、外国親会社を持つ日本法人がCVC投資をする場合、複数の外国投資家が共同投資する場合などでも、投資家属性の確認が必要です。投資家が日本法人でも、外国親会社・外国株主・外国ファンド・最終支配者を確認する必要があり、「日本SPCを使えば外為法は関係ない」というのは誤解です。外国政府・国有企業・公的ファンド・制裁対象・懸念先が関与する場合は、免除制度の利用可否や審査の観点で特に慎重な確認が必要です。

複数の外国投資家が共同で投資する場合は、同じ運用者(GP)が管理する別ファンドや、議決権の共同行使に合意している投資家などが、外為法上の「密接関係者」(直投令2条19項)として合算されることがあります。シードやシリーズAで海外VCが共同で入るときなど、単独の取得比率は小さくても、合算により事後報告・(指定業種であれば)事前届出のハードルを超えることがある点に注意してください。

改正動向にも注意:2026年3月に国会提出された外為法改正法案では、外国投資家が、本邦企業に一定の投資をしている海外法人等の議決権を新たに50%以上取得する行為等を、対内直接投資等として規制対象に加える内容(間接取得規制)が示されています。海外親会社の変更、SPV持分の譲渡、海外ファンド間のセカンダリー取引など、従来は日本企業株式の直接取得ではないとして見落とされやすかった場面にも影響し得ます。本記事執筆時点で未成立・未公布・未施行であり、未施行の内容を現行制度として扱わないよう注意してください(詳細は第10話)。
投資家類型具体例外為法上の確認ポイント注意点
海外VC外国のベンチャーキャピタル外国投資家該当性・役員派遣の有無役員派遣前提だと免除を使いにくい
海外CVC外国事業会社のコーポレートVC事業提携・技術アクセスの有無戦略投資は確認が深くなる
海外PEファンド外国のプライベートエクイティ支配取得・経営関与の有無マジョリティ取得は事前届出を検討
外国親会社を持つ日本法人外資系日本法人のCVC議決権50%以上保有関係(3号該当)日本法人でも外国投資家に当たり得る
海外ファンドが設立した日本SPC買収用の日本SPCSPCの出資者・支配関係箱ではなく出資者を見る
外国政府系ファンドSWF・公的年金基金等外国政府等との関係・認証の有無・免除可否認証を受けたSWF・公的年金基金等は一般免除を利用できる場合があり、最新資料で個別確認
国有企業・外国政府等に関係する投資家外国政府等に支配・影響される法人、情報収集義務者、特定外国投資家・準ずる者等免除制度の利用が制限される場合がある「国有企業だから一律」「SWFだから一律」と単純化せず投資家属性を個別確認
複数外国投資家による共同投資共同ラウンド密接関係者・合算・共同保有単独では基準未満でも合算で問題に
既存外国株主による追加投資フォローオン累積比率・特定取得該当性各回で再確認

投資契約・株主間契約で確認すべき権利

このセクションの要点:外為法では「何%取得するか」だけでなく、投資後にどう関与するかが重要です。役員指名権・拒否権・情報提供権・技術アクセス権などは、免除制度の利用可否や届出内容に影響します。

スタートアップ投資では、投資契約・株主間契約に投資家保護条項(役員指名権、オブザーバー権、拒否権・同意権、情報提供権、技術情報アクセス権、優先交渉権、追加投資権など)が多く入ります。外為法では、取得比率だけでなく、投資後にどのような関与をするかが重要になる場合があります。特に、役員就任・指定業種事業への関与・非公開技術情報へのアクセスは、事前届出免除制度(第5話)の免除基準に直結します。経営関与が弱い純投資か、事業提携・技術提携を伴う戦略投資かで、確認の深さが変わります。契約書レビューでは、外為法手続とクロージング条件を連動させることが重要です。

権利・条項具体例外為法上の注意点契約実務上の対応
役員指名権取締役を1名指名できる役員就任は免除基準に抵触し得る事前届出・行為時届出を検討
オブザーバー権取締役会へのオブザーバー参加関与度・コア業種の意思決定への関与を確認関与範囲を明確化
拒否権・同意権重要事項への拒否権実質的な経営関与として確認対象事項を整理
重要事項承認権一定額以上の取引の承認経営への影響度を確認関与の強さを記録
情報提供権月次・四半期の情報提供非公開情報アクセスの範囲技術情報の扱いに注意
非公開技術情報へのアクセス研究開発情報の共有指定業種事業の非公開技術なら免除基準に抵触し得るアクセス範囲を限定・確認
事業提携条項協業・販売提携戦略投資として確認が深くなる提携内容も外為法の観点で確認
技術提携条項共同開発・技術供与技術アクセス・指定業種該当性免除可否・届出内容に反映
優先交渉権追加取得の優先交渉将来の取得・比率上昇将来の届出を視野に
追加投資権次回ラウンド参加権累積比率・特定取得各回で再確認
譲渡制限・共同売却権タグアロング・ドラッグアロング将来の株主変更・特定取得出口時の枠組みも確認
将来ラウンドの参加権プロラタ権将来の取得・比率変動将来の手続を見込む

クロージング・払込日・登記日程への影響

このセクションの要点:事前届出が必要な場合、払込日・株式譲渡実行日・株主名簿書換日・登記日程に影響します。外為法確認を投資契約締結直前に始めると、クロージング遅延のリスクがあります。待機期間の詳細は第8話

事前届出が必要な場合、払込日・株式譲渡実行日・株主名簿書換日・登記日程に影響します。第三者割当増資では、払込期間や登記期限と外為法の待機期間の整合性を確認する必要があります。株式譲渡では、クロージング条件として外為法クリアランスを置くことがあります。スタートアップ投資では、資金繰りや次回ラウンドとの関係でスケジュール遅延が致命的になり得ます。外為法確認を投資契約締結直前に始めると、クロージング遅延につながる可能性があるため、早めに着手することが重要です。

投資検討
投資家属性の確認(外国投資家か)
対象会社・子会社の指定業種確認
投資契約ドラフト(権利内容の整理)
外為法届出要否の確認
必要に応じて事前届出
待機期間・当局審査
払込・株式譲渡実行
登記・株主名簿更新
事後報告・社内記録
タイミング確認事項遅れると困ること実務対応
LOI・投資意向表明投資家属性・対象事業の概観後工程で前提が崩れる早期に外国投資家該当性を確認
DD開始事業・子会社・技術・許認可指定業種該当の見落とし外為法観点をDD項目に追加
投資契約ドラフト役員指名権・技術アクセス等の権利免除可否の判断が遅れる権利内容と免除基準を照合
取締役会決議増資・割当の決議会社法手続と外為法の不整合スケジュールを連動
株主総会決議種類株式・募集事項の決議日程の手戻り待機期間を織り込む
事前届出提出届出書・添付資料提出遅れでクロージング遅延早めに準備・提出
待機期間禁止期間の満了払込・実行ができない短縮・延長の可能性を見込む(第8話
払込日待機期間満了後か無届実行のリスク待機期間満了を確認して実行
株式譲渡実行日クリアランス完了か契約違反・無届リスク前提条件の充足を確認
登記登記期限との整合登記遅延・過料リスク登記日程を逆算
事後報告報告期限(対内直接投資等・特定取得の該当様式では実行日/特定取得日から45日以内。報告類型ごとに様式を確認)報告漏れ・罰則リスク期限を管理し期限内に提出

非上場会社・スタートアップ側が準備すべき資料

このセクションの要点:投資を受ける側(CFO・管理部門・法務)は、事業・技術・子会社・許認可がわかる資料と、資本政策・契約案・スケジュールを早めに整理します。
資料確認する理由注意点
定款事業目的(出発点)実態との一致を確認
登記事項証明書会社の基本情報・資本最新を取得
株主名簿既存株主・外国株主の有無特定取得・合算の判断材料
資本政策表増資後の比率・将来計画累積比率・将来ラウンドを確認
種類株式の内容議決権・優先権議決権ベースで確認
新株予約権一覧潜在的な議決権行使後の比率を見込む
投資契約書案出資内容・付随権利役員指名権・同意権の有無
株主間契約書案議決権行使・共同保有の合意合算・共同保有の要否
ピッチ資料事業の方向性・技術実態とのずれに注意
事業計画現在と将来の事業将来の事業化予定も確認
製品・サービス説明資料実際の提供内容指定業種関連機能の有無
技術資料開発中の技術売上がなくても技術で問題になり得る
特許・知財一覧重要技術の所在知財から事業の性質を把握
許認可一覧規制業種の有無許認可が該当を示唆し得る
子会社・関連会社一覧傘下会社の事業子会社・議決権半数子会社まで確認
主要取引先官公庁・重要インフラ取引取引先の性質が判断材料
官公庁・重要インフラ取引の有無安全保障との関わり慎重な確認が必要
研究開発ロードマップ将来の技術・事業展開将来の該当・届出を見込む
投資家の属性資料外国投資家該当性・最終支配者買主から取得
クロージングスケジュール払込・登記・報告の日程待機期間を織り込む

非上場会社出資の外為法確認フロー

このセクションの要点:投資家属性 → 外国投資家か → 非上場株式・持分取得か → 株式譲渡/増資/特定取得 → 事業内容 → 指定業種・コア業種 → 投資契約上の関与 → 区分整理、の順で進めます。
投資家の属性を確認する
外国投資家に該当するか確認する
非上場会社の株式・持分取得か確認する
株式譲渡・増資引受・特定取得のどれか確認する
対象会社・子会社の事業内容を確認する
指定業種・コア業種を確認する
投資契約上の経営関与・情報アクセスを確認する
事前届出・事後報告・手続不要を整理する
クロージング・払込・登記スケジュールに反映する
このフローについての注意:上記は初期確認用の簡易フローです。最終判断は、最新の法令・告示・当局資料に基づき、必要に応じて専門家の確認を経て行う必要があります。特定取得該当性、指定業種・コア業種の判断、免除制度の利用可否、投資契約上の権利の評価などは個別性が高く、簡易フローだけで結論を出すべきではありません。

よくある誤解

誤解実際の考え方実務上の注意点
非上場会社なら外為法はあまり関係ない外国投資家による非上場株式取得は対内直接投資等になり得る上場会社より確認の入口がむしろ広い
1株だけなら確認不要である非上場は閾値がなく1株でも対内直接投資等に該当し得る結論は指定業種・比率次第だが確認は必要
少額出資・シード投資なら外為法は関係ない金額の多寡だけで判断できない「少額」と「対象か」は別問題
スタートアップは売上が小さいので指定業種ではない売上がなくても開発技術が指定業種に関係し得る技術内容・将来計画を確認
定款に書いていない事業は確認不要である実際に行っている事業・開発技術で判断する定款は出発点にすぎない
日本SPCを使えば外為法は関係ない外国法人等が50%以上保有する日本SPCは外国投資家に当たり得るSPCの出資者・支配関係を確認
海外ファンドの出資者までは確認不要である組合型ファンドは出資割合・業務執行組合員の構成が判断要素必要な範囲で投資家構成を確認
種類株式や新株予約権は外為法と無関係である将来の議決権・支配関係への影響を確認する転換・行使後の比率を見込む
投資契約上の情報提供権や役員指名権は外為法と無関係である免除基準(役員不就任・技術非アクセス)に直結し得る権利内容を免除基準と照合
外国投資家間の株式譲渡は日本企業側には関係ない特定取得として確認が必要。株主変更で情報依頼が来得る当事者でなくても無関係ではない
外為法確認は投資契約締結後に始めればよい事前届出が必要だと締結後では遅く、クロージングが遅延するDD段階から外為法観点を入れる

この記事のまとめ

  • 外国投資家による非上場会社の株式・持分取得は、外為法上の確認が必要になり得る。
  • 非上場会社では、上場会社の1%基準とは異なり、1株取得でも確認対象になり得る。ただし「該当=必ず事前届出」ではなく、指定業種か非指定業種か・比率(非指定業種は密接関係者合算10%が事後報告の目安)で結論が変わる。
  • 株式譲渡、増資引受、種類株式、新株予約権、転換社債、投資契約上の権利まで確認する。
  • 外国投資家どうしで非上場株式を譲渡する場合、特定取得(外為法26条3項に定義)が問題になり得る。
  • スタートアップでは、売上が小さくても、技術・事業内容によって指定業種・コア業種の確認が必要になる。
  • 日本SPCや海外ファンドを使う場合でも、投資家属性・支配関係・ファンド構造を確認する。
  • 外為法確認は、払込日・株式譲渡実行日・登記日程・投資契約条項に影響する。最終的な実務確認は第10話のチェックリストも参照。
  • 次回・第8話では、「外為法の待機期間」を、30日・2週間・5営業日・最大5か月の考え方とともに扱う。

シリーズ記事一覧

本シリーズ「外為法・対内直接投資の実務10選」の全10話は次の通りです(リンクは順次公開)。

記事タイトル主なテーマリンク
第1話外為法の対内直接投資とは?日本企業への出資・M&Aで最初に見るべき規制全体像・4つの判定軸第1話を読む
第2話外国投資家とは誰か|海外企業・外国ファンド・日本法人子会社の判定ポイント外国投資家の定義・間接保有第2話を読む
第3話外為法の対象になる取引とは?株式取得・増資・事業譲受・合併・会社分割を整理対象取引の類型第3話を読む
第4話外為法の指定業種・コア業種とは?M&Aで対象会社・子会社まで確認する方法指定業種・コア業種の確認第4話を読む
第5話外為法の事前届出・事後報告・手続不要の違い|M&A担当者向け判定フロー要否判定フロー第5話を読む
第6話上場会社への出資と外為法|1%基準・議決権取得・事前届出免除制度の基本上場会社・1%基準・免除第6話を読む
第7話非上場会社の買収・スタートアップ出資と外為法|1株取得でも確認が必要な理由非上場会社・閾値なし(本記事)本記事
第8話外為法の待機期間はどれくらい?30日・2週間・5営業日・最大5か月の考え方待機期間の実務第8話を読む
第9話M&A契約で外為法をどう扱うか|前提条件・誓約事項・解除権・ロングストップ日の実務契約条項での手当て第9話を読む
第10話外為法・対内直接投資チェックリスト|外国投資家から出資を受ける前に確認すること実務チェックリスト第10話を読む

参照した主な公的資料

本記事は、以下の公的資料(一次情報)を参照して整理しています。非上場会社株式の取得・特定取得・事前届出・事後報告・免除制度の要件は改定され得るため、実際の確認時には各資料の最新版をご参照ください。

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とした解説であり、特定の取引に関する法的助言ではありません。非上場会社の買収・スタートアップ出資に関する外為法の適用は、投資家の属性、取得方法、取得比率・議決権比率、対象会社・子会社の事業内容、指定業種・コア業種該当性、特定取得該当性、投資契約上の権利、免除制度の利用可否、最新の法令・告示・当局実務によって異なります。個別の案件については、最新の公的資料を確認のうえ、外為法・M&A実務に精通した専門家にご相談ください。
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