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第1話で全体像を、第2話で「外国投資家とは誰か」を、第3話で「対象になる取引」を整理しました。本記事(第4話)では、外為法手続の要否判断で最も実務的に重要といってよい「指定業種」と「コア業種」を扱います。

ここまでの判定で、投資家が外国投資家に該当し、予定取引が対象取引に該当することがわかったとしても、それだけで事前届出が必要になるとは限りません。次に確認するのが、投資先である日本企業やその子会社等が、どのような事業を行っているかです。投資先(やその子会社等)が外為法上の事前届出対象業種、すなわち「指定業種」を営んでいる場合に、事前届出の要否を本格的に検討する段階に入ります。

さらに、指定業種の中でも、国の安全等の観点から特に慎重に扱われる「コア業種」があります。指定業種・コア業種の該当性は、事前届出の要否だけでなく、事前届出免除制度(第5話)の利用可否、審査の見通し、そしてM&Aスケジュールにも影響します。

この分野で実務担当者がつまずきやすいのは、次の3つの思い込みです。「定款の事業目的を見れば判断できる」「対象会社単体だけ見ればよい」「上場会社リストに載っていれば最終判断できる」——いずれも危険です。本記事では、指定業種・コア業種の基本と、M&Aで対象会社・子会社まで確認する方法を、初心者にもわかるように整理します。

本記事の位置づけ・注意
本記事は、外為法の対内直接投資規制における指定業種・コア業種の確認について、企業法務担当者が初期確認を行うための一般的な整理です。実際の判定は、対象会社・子会社の事業内容、許認可、技術、製品・サービス、取引先、研究開発内容、指定業種告示、コア業種告示、事業所管省庁の解釈、最新の法令・告示・当局実務によって変わります。指定業種・コア業種を定める告示は近年きわめて頻繁に追加・改定されており、本記事の業種例は執筆時点の整理にすぎません。個別案件では、必ず最新の公的資料(財務省・日本銀行・経済産業省)を確認し、必要に応じて外為法・M&A実務に詳しい専門家に相談してください。
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なぜ「指定業種か」を確認する必要があるのか

このセクションの要点:外為法手続は、①外国投資家か → ②対象取引か → ③指定業種か → ④コア業種か → ⑤免除制度を使えるかの順に確認します。本記事は③と④に集中します。投資先が指定業種を営むかどうかが、事前届出か事後報告かの大きな分かれ目です。

外為法手続の要否は、いくつかの問いを順番に確認していくことで見えてきます。第2話・第3話で「外国投資家か」「対象取引か」を確認しました。これらが「はい」であっても、投資先が指定業種を営んでいなければ、少なくとも指定業種該当性を理由とする事前届出には進まない方向になります。ただし、対内直接投資等では非指定業種でも事後報告が必要になる場合があり、特定取得(第3話)では指定業種に該当しなければ手続不要となる場合もあります。「非指定業種=常に何もしなくてよい」とは整理せず、取引類型ごとに事前届出・事後報告・手続不要を確認してください。逆に、指定業種を営んでいれば、原則として事前届出の要否を検討することになります。

順番確認することなぜ重要か関連するシリーズ記事
1投資家は外国投資家か該当しなければ対内直接投資規制の対象外第2話
2行為は対象取引か株式取得・事業承継・資金提供・同意などで当てはまりが変わる第3話
3投資先・子会社が指定業種を営むか事前届出か事後報告かの大きな分かれ目第4話(本記事)
4コア業種か非コア業種か免除制度の利用範囲や審査の慎重さに影響第4話(本記事)
5事前届出免除制度を使えるか指定業種でも基準を満たせば事後報告で足りる場合がある第5話
6事前届出・事後報告・手続不要のどれか手続の種類で投資実行のタイミングが変わる第5話
7待機期間・クロージング日程をどう設計するか事前届出には待機期間があり、契約日程の前提になる第8話

注意したいのは、指定業種に該当しても、それだけで必ず事前届出になるわけではないことです。指定業種に当たっても、事前届出免除制度(第5話)を利用できれば、事後報告で足りる場合があります。指定業種該当性は「事前届出の検討に進む入口」であって、最終結論ではありません。指定業種該当性と免除制度の利用可否は、別の論点として分けて考える必要があります。

指定業種とは何か

このセクションの要点:指定業種とは、外国投資家による対内直接投資等について事前届出の対象になり得る業種です。国の安全等の観点から、告示で定められています。該当性は業種名だけでなく、実際の事業内容で判断します。

ざっくり言うと、指定業種とは「外国マネーが入ると国の安全等に関わり得るとして、事前にチェックすべき業種」です。厳密には、外為法上、外国投資家による対内直接投資等について事前届出の対象になり得る業種として、告示(『対内直接投資等に関する命令第三条第三項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件』)で定められています。経済産業省「対内直接投資審査制度について(外為法)」では、指定業種は全体で約180業種と説明されています。ただしこれは同資料作成時点の整理であり、指定業種・コア業種は告示改正により追加・変更され得ます。実際の案件では、投資実行時点の最新の指定業種告示・コア業種告示・経済産業省の指定業種分類資料を確認してください。

投資先が指定業種を営んでいる場合、外国投資家による対内直接投資等は、原則として事前届出の要否を確認することになります。重要なのは、指定業種に該当するかは、業種名や定款の記載だけでなく、実際に行っている事業内容・製品・サービス・技術・許認可・取引先などを見て判断する必要があるという点です(日本銀行Q&A「対内直接投資・特定取得編」も、定款上の事業目的だけでなく実際に行っている事業活動により判断する必要がある旨を示しています)。

項目内容実務上の意味
指定業種事前届出の対象になり得る業種(告示で指定)該当すれば事前届出の要否を確認する入口になる
事前届出対象業種指定業種とほぼ同義で使われる呼び方「事前届出業種」と呼ばれることもある
事業所管大臣各業種を所管する大臣(財務大臣と共同で審査)業種によって照会先・所管省庁が異なる(財務省『事業所管省庁』で確認)
日本標準産業分類業種分類の基礎として参照される統計上の分類告示の業種は産業分類を手がかりに整理されるが、最終判断は告示・当局解釈による
事前届出投資実行前に届け出て審査を受ける手続原則として待機期間がある(第8話
事後報告投資実行後に報告する手続指定業種でない場合や免除制度利用時など
非指定業種指定業種に当たらない業種原則として事前届出は不要(事後報告等を確認)

コア業種とは何か

このセクションの要点:コア業種とは、指定業種の中でも国の安全等の観点から特に重要性が高い業種です。コア業種に該当すると、事前届出免除制度の利用が制限され、上乗せの基準が課されるなど、扱いが重くなります。

コア業種とは、指定業種の中でも、国の安全等の観点から特に慎重な審査が必要とされる業種です。コア業種は別途の告示(コア業種告示)で定められています。

コア業種に該当する場合の主な影響は、事前届出免除制度(第5話)の利用に関わります。経済産業省「対内直接投資審査制度について(外為法)」によれば、コア業種については免除制度を利用できる範囲が制限されるとともに、遵守すべき基準が追加されます(たとえば、コア業種に属する事業に関し、取締役会や重要な意思決定委員会に出席しないこと、期限を付した書面提案を行わないこと等の上乗せ基準が日本銀行Q&Aで示されています)。さらに、2025年5月施行の政省令改正では、経済安全保障推進法上の特定社会基盤事業者であって、かつコア業種(電力・鉄道・通信等)に属する事業者への投資について、事前届出免除制度の対象外とする措置がとられました。つまり、コア業種かどうかは、単なる業種名の違いではなく、免除可否・M&Aスケジュール・投資条件・経営関与(とりわけ非公開技術情報へのアクセスや技術ガバナンスへの関与)の設計にも影響し得ます。株主間契約に技術関連の関与条項を入れたまま免除を使おうとすると、免除基準に抵触する場合がある点に注意してください。

指定業種・コア業種・非コア業種・非指定業種の関係を、まず階層イメージで示します。

すべての業種
↓ このうち告示で指定されたもの
指定業種(事前届出の対象になり得る業種)
↓ さらにそのうち特に重要なもの
コア業種(特に慎重な審査・免除の制限)

「非コア業種」とは、指定業種のうちコア業種に当たらないものを指します。「非指定業種」は、そもそも指定業種に当たらない業種です。両者は別物である点に注意してください。整理すると次の通りです。

区分意味実務上の影響確認資料
指定業種事前届出の対象になり得る業種の総称(コア・非コアを含む)原則として事前届出の要否を確認。免除制度の利用可否も検討指定業種告示(別表第一・第二)
コア業種指定業種のうち特に重要性が高い業種免除制度の利用が制限され、上乗せ基準が課される。審査も慎重コア業種告示(対内直接投資等/特定取得)
非コア業種指定業種のうちコア業種に当たらないもの事前届出の検討対象だが、免除制度を利用しやすい場合がある指定業種告示(コア業種告示に該当しないもの)
非指定業種そもそも指定業種に当たらない業種原則として事前届出は不要(事後報告等を確認)いずれの指定業種告示にも該当しないこと

どのような業種で注意が必要か

このセクションの要点:軍事・安全保障関連、重要インフラ(電力・ガス・通信・上水道・鉄道・石油等)、サイバーセキュリティ、重要物資・サプライチェーン、感染症医薬品・高度管理医療機器などは、指定業種・コア業種に関係しやすい分野です。ただし正確な該当・分類は必ず最新の告示で確認してください。

以下は、財務省・経済産業省の公表資料に基づく例示です。指定業種・コア業種は告示で頻繁に追加・改定されるため(後述)、ここに挙げた分野・例が、読者の確認時点で過不足なく一致するとは限りません。あくまで「注意すべき方向性」として参考にし、実際の該当性は最新の告示・当局資料で確認してください。

分野具体例(例示)なぜ注意が必要か確認すべき資料
軍事・安全保障関連の製造武器、航空機(無人航空機を含む)、宇宙関連、原子力、軍事転用可能な汎用品の製造業国の安全に直結。コア業種に位置づけられる代表例コア業種告示、指定業種告示
重要インフラ電気業、ガス業、通信事業、上水道、鉄道、石油、熱供給業社会基盤の安定供給・安全保障に関わるコア業種告示、各事業所管省庁の資料
サイバーセキュリティサイバーセキュリティ関連事業情報・システムの安全に関わるコア業種告示、経産省FAQ
半導体・電子部品・重要物資半導体関連、重要鉱物資源に係る金属鉱業・製錬業、永久磁石製造・素材製造、肥料(塩化カリウム等)輸入業サプライチェーン・経済安全保障の観点。近年の告示追加が多いコア業種告示、経産省FAQ(半導体製造業関連等)
医薬品・医療機器感染症に対する医薬品の製造業、高度管理医療機器の製造業公衆衛生・有事対応に関わるコア業種告示、所管省庁資料
ソフトウェア・情報処理ソフトウェア業、情報処理サービス業、インターネット利用サポート業(一定のもの)2019年改正以降、届出対象として整理。「受託開発だから」「ただのIT企業だから」と非指定と決めつけず、機能・用途(サイバーセキュリティ、暗号、重要インフラ向け等)や告示・別表の定めで該当し得る。判定が難しい領域指定業種告示、日本銀行Q&A、経産省FAQ(ソフトウェア業・情報処理サービス業の考え方)
航空・宇宙・運輸航空運輸、海運、旅客運送、(宇宙関連)輸送基盤・安全保障に関わる指定業種告示・コア業種告示、所管省庁資料
放送・農林水産等放送業、農林水産業、警備業、皮革関連(一定のもの)公共性・食料安全保障・治安等に関わる指定業種指定業種告示、所管省庁資料
再生可能エネルギー・電力関連発電・電力関連事業で電気業等に該当し得る場合事業の実態によって電気業(コア業種)に関係し得るコア業種告示、経産省FAQ
告示は頻繁に改定されます:コア業種は、2020年(令和2年)の制度導入後も、重要鉱物資源等の追加(令和3年10月)、サプライチェーン保全等のための追加(令和5年4月、令和6年8月告示・同年9月15日適用)など、累次の告示改正で範囲が拡大しています。さらに2025年にも業種告示の改正案に関する意見募集や事前届出免除制度の見直しが行われています。「数年前に確認したから大丈夫」は通用しません。案件ごとに、財務省・経済産業省の最新の告示・資料を確認してください。
実務の急所(ソフトウェア・IT):IT・スタートアップ投資で最も誤認が多いのがソフトウェア業・情報処理サービス業です。「受託開発だから」「ただのIT企業だから」という理由だけで非指定業種と決めつけるのは危険です。該当性は、そのソフトウェア・システムがどのような機能・用途(サイバーセキュリティ、暗号、監視、重要インフラ向け等)を持つかや、告示・別表の定めによって分かれます。実務上の判定が難しい領域なので、独自にシステムを開発・提供している場合や、対象システムが重要インフラ・安全保障に関わり得る場合は、経済産業省のソフトウェア業・情報処理サービス業に関するFAQと所管省庁の解釈で確認するのが安全です(汎用的なウェブサイト制作や他社製品の単なる小売等は別途整理)。
改正動向にも注意:2026年3月に国会提出された外為法改正法案では、間接取得(外国投資家が日本企業に投資している海外法人等の議決権を新たに50%以上取得する行為等)の規制対象化、リスク軽減措置の届出制度、非居住者等のために行う投資の取扱いなどの見直しが示されています。指定業種・コア業種の確認そのものも、告示改正やQ&A更新の影響を受けます。本記事執筆時点で未成立・未公布・未施行であり、未施行の内容を現行制度として扱わないよう注意してください(詳細は第10話)。

定款だけで判断してはいけない理由

このセクションの要点(本記事の重要箇所):指定業種該当性は、定款の事業目的だけでは判断できません。日本銀行Q&Aも、定款上の事業目的だけでなく実際に行っている事業活動により判断する必要があるとしています。事業部門・技術部門・経営企画への確認が欠かせません。

定款の事業目的は、将来の事業も見据えて広めに書かれていることが多いものです。そのため、定款だけを根拠に指定業種該当性を判断すると、次のような形で誤る可能性があります。

  • 定款には書かれているが、実際には行っていない事業がある(過大に評価してしまう)。
  • 定款上は目立たなくても、実際には重要な技術・サービス・許認可を持っている場合がある(見落としてしまう)。
  • 子会社を通じて指定業種事業を行っているのに、定款(親会社)だけ見ると気づかない。

外為法上の指定業種該当性は、実際の事業活動、製品・サービス、技術、許認可、取引先、研究開発内容、子会社の事業などを見て確認する必要があります。会社HPや登記簿だけで判断せず、事業部門・技術部門・経営企画に確認することが重要です。日本銀行Q&Aも、指定業種に該当するか否かは定款上の事業目的だけでなく、実際に行っている事業活動により判断する必要がある旨を明記しています。

定款で見えること定款だけでは見えないこと実務上の確認方法
事業目的(形式的な記載)実際にどの事業を行っているか事業部門・経営企画へのヒアリング、売上構成資料
事業範囲の広さ(網羅的な列挙)どの事業に売上・実体があるかセグメント別売上、事業計画
研究開発中の技術・将来の事業化予定技術部門・研究開発部門への確認、知財一覧
保有する許認可・登録・届出許認可一覧、所管省庁との関係
子会社・関連会社が営む事業子会社一覧、グループ図、各社の事業内容
官公庁・重要インフラ事業者との取引主要取引先一覧、契約状況

対象会社だけでなく子会社まで確認する理由

このセクションの要点(本記事の重要箇所):指定業種該当性は、対象会社単体では判断できないことがあります。日本銀行Q&Aによれば、投資先の「子会社」や「議決権半数子会社」が営む事業に指定業種が含まれる場合も含めて判断します。持株会社・SPCへの投資では特に重要です。

「対象会社の定款・事業だけ見れば足りる」というのも誤解です。日本銀行Q&Aによれば、外国投資家が対内直接投資等を行う場合、投資先の子会社または議決権半数子会社が営む事業に、指定業種に属する事業が含まれるものも、指定業種該当性の判断に含まれます。つまり、対象会社本体が指定業種を営んでいなくても、その子会社等が営んでいれば、対象会社への投資について事前届出の要否確認が必要になり得るのです。

ここでいう「議決権半数子会社」とは、日本銀行Q&Aの定義によれば、投資先(その子会社を含む)が総議決権数の50%を保有する他の会社(外国法人等を除く)であって、当該投資先の子会社(会社法上の子会社)に該当しないものをいいます。会社法上の子会社だけでなく、こうした50%保有先まで視野に入る点に注意が必要です。

特に、純粋持株会社、グループ統括会社、投資会社、SPCなどへの投資では、会社本体は事業を行っていなくても、傘下の事業会社が指定業種を営んでいることが珍しくありません。こうしたケースでは、対象会社の子会社一覧・グループ図・各社の事業内容・売上構成・許認可を整理することが不可欠です。

さらに、確認の射程は直接の子会社にとどまりません。前述の「議決権半数子会社」は投資先(その子会社を含む)が議決権の過半数を保有する会社を指すため、子会社がさらに過半数を保有する孫会社・ひ孫会社など、資本関係の連鎖でつながる下位の会社に指定業種が潜んでいることがあります。「1階層目の子会社は販売会社だからセーフ」と早合点せず、グループ図(資本関係図)は末端の法人まで展開し、製造子会社・開発子会社・許認可保有会社などの実体事業を確認してください。

なお、子会社・議決権半数子会社まで確認する範囲や意味合いは、対内直接投資等の類型、特定取得の該当性、上場・非上場の別、届出・報告の区分によって整理が異なる場合があります。実務上は、まず対象会社本体・子会社・議決権半数子会社の事業を広めに棚卸ししたうえで、最終的な届出要否は日本銀行Q&A・関係告示・専門家確認で詰めるのが安全です。

ケース具体例確認すべきポイント注意点
持株会社への出資純粋持株会社・グループ統括会社への投資傘下の事業会社が指定業種を営むか本体が非事業会社でも子会社で該当し得る
グループ会社に指定業種事業があるグループ内の一部会社が指定業種を営むどの会社がどの事業を営むかの整理グループ全体を俯瞰して確認
子会社が重要インフラ事業を営む子会社が電力・通信・鉄道等を運営コア業種該当の可能性コア業種なら免除制限・慎重審査
子会社がソフトウェア・通信関連事業を営む子会社がソフトウェア業・情報処理を行う指定業種の範囲(FAQで確認)該当範囲が細かいので所管省庁資料を確認
子会社が許認可事業を営む子会社が規制業種の許認可を保有許認可と指定業種の関係許認可の存在が該当を示唆することがある
子会社が研究開発機能を持つ子会社が重要技術の研究開発を担う技術内容・将来の事業化売上がなくても技術で問題になり得る
対象会社は非事業会社だが子会社が事業会社SPC・投資ビークル経由の投資実質的に何の事業を支配するか箱ではなく傘下事業を見る

上場会社リストの使い方と限界

このセクションの要点:財務省が公表する「本邦上場会社の対内直接投資等事前届出該当性リスト」は初期確認の参考になりますが、個別案件の最終判断には使えません。更新時点があり、実際の分類と一致しない可能性もあります。事前届出の要否は投資家自身が判断するのが原則です。

上場会社については、財務省が「本邦上場会社の外為法における対内直接投資等事前届出該当性リスト」を公表しています(全上場会社を対象とした任意の照会結果や定款・有価証券報告書等に基づく分類)。本記事執筆時点では、令和7年7月15日時点のリストが公表されています。これは、上場会社の指定業種・コア業種該当性の初期確認に役立つ参考資料です。

このリストは、上場会社を大きく、①指定業種以外(事後報告業種)の事業のみを営む会社、②指定業種のうちコア業種以外の事業のみを営む会社、③指定業種のうちコア業種に属する事業を営む会社の3区分で整理するものです。ただし、この分類は任意照会の結果や定款・有価証券報告書等に基づく参考情報であり、個別案件における事前届出要否の最終判断を代替するものではありません。

ただし、財務省自身が注意喚起しているとおり、外為法上、事前届出の要否は投資家が自ら判断するのが原則であり、本リストは判断の便宜のために取りまとめられたものです。リストは更新時点の任意回答や定款・有価証券報告書等に基づいており、リストの分類と実際の分類が一致しない可能性があるとされています。したがって、リストだけで個別案件の最終判断をしてはいけません。

項目確認できること確認できないこと実務上の注意点
会社の分類当該上場会社の事前届出該当性の目安個別取引における最終的な要否あくまで参考。最終判断は別途
指定業種該当性指定業種に関係し得るかの参考情報個別の事業実態の詳細実際の事業活動で再確認
コア業種該当性コア業種に関係し得るかの参考情報免除制度の利用可否の結論免除は投資家属性・条件次第
更新時点リストの基準時点(例:令和7年7月15日時点)その後の事業内容・分類の変化最新版・基準時点を必ず確認
子会社情報—(子会社まで網羅されるとは限らない)子会社・議決権半数子会社の事業子会社事業は別途確認が必要
投資家属性外国投資家該当性・特定外国投資家か投資家側の確認は別途(第2話
取引内容取得比率・取引類型対象取引の確認は別途(第3話
免除制度の利用可否免除基準を満たすか第5話で確認
個別案件の届出要否最終的な届出・報告の要否投資家が自ら判断(原則)

非上場会社・スタートアップでの確認方法

このセクションの要点:非上場会社には上場会社リストのような公表整理がありません。会社側が自ら事業内容を整理する必要があります。スタートアップは事業が変化しやすく、定款・HP・ピッチ資料・実際の開発内容がずれることもあります。売上がない研究開発段階でも技術内容を確認します。

非上場会社の場合、上場会社リストのような公表整理は存在しません。そのため、投資を受ける会社側が、自社の事業内容・技術・許認可・子会社事業を自ら整理することが重要になります。

特にスタートアップは、事業内容が短期間で変化しやすく、定款・登記簿・会社HP・ピッチ資料・実際の開発内容が一致していないことがあります。ソフトウェア、AI、サイバーセキュリティ、半導体、ドローン、宇宙、医療、エネルギー関連などに関わる場合は、特に慎重な確認が必要です。また、まだ売上がない研究開発段階でも、保有・開発している技術の内容や将来の事業化予定によって、指定業種に関係し得る点に注意してください。実務上は、投資契約の締結前に、会社側が指定業種該当性の初期メモを作っておくと、スケジュール管理に役立ちます。

資料確認する内容注意点
定款事業目的(出発点)実際の事業との一致・不一致を確認
登記事項証明書会社の基本情報・役員最新の内容を取得
会社概要事業の全体像概要と実態のずれに注意
ピッチ資料事業の方向性・技術の訴求点対外説明と実態の差を確認
事業計画現在と将来の事業将来の事業化予定も確認
製品・サービス説明資料実際の提供内容指定業種に関係する機能の有無
技術資料保有・開発中の技術売上がなくても技術で問題になり得る
特許・知財一覧重要技術の所在知財から事業の性質を把握
許認可一覧規制業種・登録の有無許認可が該当を示唆することがある
主要取引先官公庁・重要インフラとの取引取引先の性質が判断材料になる
子会社・関連会社一覧傘下会社の事業子会社・議決権半数子会社まで確認
売上構成どの事業に実体があるか少額・補助的でも指定業種に触れないか
将来の事業展開予定新規事業・ピボット予定将来の届出・報告も視野に入れる

指定業種該当性を確認するための社内ヒアリング

このセクションの要点:指定業種該当性は、法務だけで完結しません。事業部門・技術部門・経営企画への社内ヒアリングを通じて、実際の事業・技術・取引・子会社事業を確認します。

投資を受ける日本企業の法務・経営企画が、社内で確認しておきたい質問を整理します。これらは、指定業種・コア業種該当性を判断するための基礎情報になります。

質問確認先確認する理由
現在実際に行っている事業は何か事業部門・経営企画定款ではなく実態で判断するため
売上のある事業と研究開発段階の事業は何か事業部門・経理・研究開発実体のある事業と将来事業を切り分ける
許認可・届出・登録が必要な事業はあるか法務・各事業部門許認可が指定業種を示唆し得る
官公庁・自治体・重要インフラ事業者との取引はあるか営業・事業部門取引先の性質が判断材料になる
防衛・航空・宇宙・通信・電力・サイバーセキュリティに関係する技術はあるか技術部門・研究開発コア業種に関係し得る領域
AI・ソフトウェア・データ処理・暗号・認証・監視に関係する機能はあるか技術部門・開発ソフトウェア・情報処理関連の該当確認
半導体・電子部品・重要物資に関係する製品はあるか事業部門・調達サプライチェーン関連のコア業種確認
医療・医薬品・医療機器に関係する事業はあるか事業部門・薬事感染症医薬品・高度管理医療機器の確認
子会社・関連会社の事業内容は何か経営企画・子会社管理子会社・議決権半数子会社まで判断するため
今後開始予定の新規事業はあるか経営企画・事業開発将来の該当・届出を見込むため

指定業種確認の簡易フロー

このセクションの要点:基本情報の確認から始め、実際の事業 → 子会社事業 → 許認可・技術・取引先 → 公的資料との照合 → 所管省庁・専門家確認へと進めると整理しやすくなります。

ここまでの内容を、初心者向けの簡易フローにまとめます。実際の判定はさらに細かい検討が必要なため、これは「最初のあたりをつける」ための地図です。

対象会社の基本情報を確認する
定款・登記簿・会社概要を確認する
実際の事業内容・売上構成を確認する
子会社・議決権半数子会社の事業を確認する
許認可・技術・取引先・研究開発内容を確認する
公的資料で指定業種・コア業種を照合する
事業所管省庁・専門家に確認する
事前届出・免除制度・事後報告の検討へ(第5話)
このフローについての注意:上記は初期確認用の簡易フローです。指定業種・コア業種該当性の最終判断は、最新の法令・告示・当局資料に基づき、事業所管省庁への確認や、必要に応じて専門家の確認を経て行う必要があります。業種の細かい範囲、子会社・議決権半数子会社の扱い、コア業種の該当性などは個別性が高く、簡易フローだけで結論を出すべきではありません。

よくある誤解

このセクションの要点:「定款で判断できる」「対象会社単体でよい」「子会社は無関係」「リストで最終判断できる」「コアでなければ問題ない」など、いずれも見落としや誤判断につながります。
誤解実際の考え方実務上の注意点
定款を見れば指定業種かどうかわかる定款上の目的だけでなく、実際の事業活動で判断する事業部門・技術部門へのヒアリングが必要
対象会社単体だけ見ればよい子会社・議決権半数子会社の事業も含めて判断し得るグループ図・子会社事業を整理する
子会社の事業は関係ない子会社が指定業種を営めば、対象会社への投資でも確認が必要になり得る持株会社・SPCへの投資で特に注意
上場会社リストに載っていれば最終判断できるリストは参考。事前届出の要否は投資家が自ら判断するのが原則更新時点・実態との不一致に注意
非上場会社なら指定業種確認は不要非上場でも指定業種を営めば確認が必要会社側が自ら事業内容を整理する
売上がない研究開発中の事業は関係ない技術内容・将来の事業化予定で問題になり得る研究開発段階でも技術を確認する
ソフトウェア会社はすべて同じ扱いでよいソフトウェア業・情報処理等は範囲が細かく、該当・非該当が分かれる経産省FAQ・所管省庁資料で確認
コア業種でなければ外為法上問題ない非コアの指定業種でも事前届出の検討対象になり得る「コアか否か」と「指定業種か否か」は別問題
指定業種に該当すれば必ず事前届出が必要である指定業種でも、免除制度を使えれば事後報告で足りる場合がある該当性と免除可否を分けて検討(第5話
事業部門に聞かず法務だけで判断できる実際の事業・技術・取引は事業部門・技術部門が把握している社内ヒアリングを前提にする

この記事のまとめ

  • 外為法では、投資先・子会社が指定業種を営むかを確認する必要がある。これは事前届出か事後報告かの大きな分かれ目になる。
  • 指定業種は事前届出の対象になり得る業種(告示で指定、全体で約180業種)。コア業種は指定業種の中でも特に重要で、免除制度の利用が制限され上乗せ基準が課される。
  • 指定業種該当性は定款だけでは判断できず、実際の事業、許認可、技術、取引先、研究開発内容、子会社事業を確認する必要がある(日本銀行Q&A)。
  • 対象会社単体だけでなく、子会社・議決権半数子会社が営む事業も含めて判断し得る。持株会社・SPCへの投資で特に重要。
  • 上場会社リストは参考になるが、更新時点や実態との不一致があり、個別案件の最終判断には追加確認が必要。事前届出の要否は投資家が自ら判断するのが原則。
  • 非上場会社・スタートアップでは、会社側が自ら事業内容を整理する必要がある。最終的な実務確認は第10話のチェックリストも参照。
  • 次回・第5話では、これらを踏まえて「事前届出・事後報告・手続不要の違い」と免除制度を、M&A担当者向けの判定フローとして整理する。

シリーズ記事一覧

本シリーズ「外為法・対内直接投資の実務10選」の全10話は次の通りです(リンクは順次公開)。

記事タイトル主なテーマリンク
第1話外為法の対内直接投資とは?日本企業への出資・M&Aで最初に見るべき規制全体像・4つの判定軸第1話を読む
第2話外国投資家とは誰か|海外企業・外国ファンド・日本法人子会社の判定ポイント外国投資家の定義・間接保有第2話を読む
第3話外為法の対象になる取引とは?株式取得・増資・事業譲受・合併・会社分割を整理対象取引の類型第3話を読む
第4話外為法の指定業種・コア業種とは?M&Aで対象会社・子会社まで確認する方法指定業種・コア業種の確認(本記事)本記事
第5話外為法の事前届出・事後報告・手続不要の違い|M&A担当者向け判定フロー要否判定フロー第5話を読む
第6話上場会社への出資と外為法|1%基準・議決権取得・事前届出免除制度の基本上場会社・1%基準・免除第6話を読む
第7話非上場会社の買収・スタートアップ出資と外為法|1株取得でも確認が必要な理由非上場会社・閾値なし第7話を読む
第8話外為法の待機期間はどれくらい?30日・2週間・5営業日・最大5か月の考え方待機期間の実務第8話を読む
第9話M&A契約で外為法をどう扱うか|前提条件・誓約事項・解除権・ロングストップ日の実務契約条項での手当て第9話を読む
第10話外為法・対内直接投資チェックリスト|外国投資家から出資を受ける前に確認すること実務チェックリスト第10話を読む

参照した主な公的資料

本記事は、以下の公的資料(一次情報)を参照して整理しています。指定業種・コア業種の範囲・分類・上場会社リストは改定・更新され得るため、実際の確認時には各資料の最新版をご参照ください。

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とした解説であり、特定の取引に関する法的助言ではありません。指定業種・コア業種該当性の判定は、対象会社・子会社の事業内容、許認可、技術、製品・サービス、取引先、研究開発内容、最新の告示・当局実務によって異なります。個別の案件については、最新の公的資料を確認のうえ、事業所管省庁や外為法・M&A実務に精通した専門家にご相談ください。
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