この記事の実務版
読んで終わりにせず、
次の案件で使える形に。
この記事のテーマを、チェックリスト・文例・AIプロンプト・業務ツールとして、明日の実務にそのまま落とせる形で揃えています。
チェックリスト
文例・ひな形
AIプロンプト
業務ツール
無料ツールあり買い切り商品あり30日無料トライアルあり

第1話で外為法の対内直接投資規制の全体像を、第2話で「外国投資家とは誰か」という最初の判定軸を整理しました。本記事(第3話)では、2つ目の判定軸である「どの行為・取引が外為法上の対象になるのか」を扱います。

ここで重要なのは、投資家が外国投資家に該当するだけでは、直ちに事前届出が必要になるわけではないという点です。外為法の対内直接投資規制は、「誰が投資するのか」だけでなく「何をするのか」も見ます。外国投資家が行おうとしている行為が、外為法上の「対内直接投資等」または「特定取得」といった対象行為に当たって初めて、手続の要否を検討する段階に進みます。

実務でつまずきやすいのは、対象になる行為が株式取得や増資にとどまらないことです。事業譲受、吸収分割、合併といった事業を承継するM&A、一定の長期貸付や社債取得、さらには役員選任議案への同意や事業目的の実質的変更への同意なども、外為法の検討対象になり得ます。「株式を取得していないから外為法は関係ない」という思い込みは、見落としの典型です。

対象取引の整理を誤ると、事前届出の要否、事後報告の要否、ひいてはM&Aのクロージング日程契約条項に影響します。本記事では、外為法の対象になる取引を、M&A・出資実務でよく出る類型ごとに、初心者にもわかるように整理します。

本記事の位置づけ・注意
本記事は、外為法の対内直接投資規制における対象取引該当性について、企業法務担当者が初期確認を行うための一般的な整理です。実際の判定は、投資家の属性、取引スキーム、取得比率・議決権比率、対象会社・子会社の事業内容、契約上の権利、資金提供の内容、最新の法令・告示・当局実務によって変わります。本記事に記載した比率・金額・要件は執筆時点の整理であり、改定され得ます。個別案件では、必ず最新の公的資料(財務省・日本銀行・経済産業省)を確認し、必要に応じて外為法・M&A実務に詳しい専門家に相談してください。
実務メモ
この記事の内容を、毎回ゼロから考えないために。
法務実務で効くのは、知識そのものよりも"再現できる型"です。記事で読んだ確認観点・依頼文・回答メモ・マスキングを次の案件でそのまま引き出せる形に残しておくと、判断と説明の質が一段安定します。
確認観点をチェックリスト化する
確認依頼文・回答文を文例に残す
相談回答・法改正対応を記録に残す
AIに入れる前の情報整理を安全に
無料ツールあり買い切り商品あり30日無料トライアルあり

なぜ「対象取引か」を確認する必要があるのか

このセクションの要点:外為法手続は、①外国投資家か → ②対象取引か → ③指定業種か → ④免除制度を使えるかの順に確認します。本記事は②に集中します。外国投資家でも、対象取引でなければ手続は不要です。

外為法手続の要否は、いくつかの問いを順番に確認していくことで見えてきます。第2話で確認したとおり、最初の問いは「外国投資家か」でした。これが「はい」であっても、次に「その行為が対象取引か」を確認しなければ、手続の要否は決まりません。

順番確認することなぜ重要か関連するシリーズ記事
1投資家は外国投資家か該当しなければ対内直接投資規制の対象外第2話
2その行為は対象取引か株式取得・事業承継・資金提供・同意など、行為の類型で当てはまりが変わる第3話(本記事)
3投資先・子会社が指定業種を営むか対内直接投資等では、指定業種該当性が事前届出・事後報告の区分に大きく影響する。なお特定取得では、対象会社が指定業種でなければ手続不要となる場合があり、同じ書き方で単純化しない第4話
4事前届出免除制度を使えるか指定業種でも基準を満たせば事後報告で足りる場合がある第5話
5事前届出・事後報告・手続不要のどれか手続の種類で投資実行のタイミングが変わる第5話
6待機期間・クロージング日程をどう設計するか事前届出には待機期間があり、契約日程の前提になる第8話

ここでも強調しておきたいのは、対象取引に該当しても、それだけで事前届出が必要になるわけではないということです。対象取引に当たった後、さらに指定業種(第4話)免除制度・届出区分(第5話)を確認して、初めて「事前届出・事後報告・手続不要」のいずれかが決まります。対象取引の確認は、あくまで「次の検討に進むかどうか」を判断する段階です。

外為法で問題になる主な取引類型

このセクションの要点:対象になる行為は、大きく(A)株式・議決権の取得系(B)事業承継系(C)資金提供系(D)同意・権利行使系に分けて整理すると見通しがよくなります。「株式を取得していないから関係ない」は誤りです。

外為法上の対内直接投資等は、外為法26条2項および対内直接投資等に関する政令(直投令)2条16項各号に定められています(日本銀行Q&A「対内直接投資・特定取得編」に基づく整理)。実務でよく出る行為を類型でまとめると、次の4グループに整理できます。

(A) 株式・議決権の取得系
上場会社の株式・議決権の取得(1%以上)、非上場会社の株式・持分の取得、上場会社株式への一任運用、議決権代理行使の受任など。
(B) 事業承継系
居住者法人からの事業の譲受け、吸収分割・合併による事業の承継など、株式ではなく「事業そのもの」を承継する取引。
(C) 資金提供系
国内法人に対する1年を超える金銭の貸付け(一定の金額・割合要件を満たすもの)、一定の社債の取得など、株式以外の資金提供。
(D) 同意・権利行使系
会社の事業目的の実質的変更への同意、役員(取締役・監査役)選任議案への同意、事業の全部譲渡等の議案への同意など、議決権行使を通じた経営関与。

これらを、M&A・出資実務の具体例とともに表にまとめます。なお、外国投資家が「他の外国投資家」から非上場会社(非上場に限る)の株式・持分を譲り受ける場合は、対内直接投資等ではなく「特定取得」という別の枠組みで扱われます(特定取得は外為法26条3項に定義され、事前届出は法28条等によります)。上場会社の株式を他の外国投資家から取得する場合は、特定取得ではなく通常の対内直接投資等(1%基準)として扱われる点に注意してください。海外ファンド間の非上場株式のセカンダリー取引(売主・買主とも外国投資家)も、この特定取得の枠組みで確認します。特定取得でも、対象会社が指定業種に係る場合は事前届出の対象になり得ます(後述)。

取引類型M&A・出資実務での具体例外為法上の注意点関連するシリーズ記事
上場会社株式・議決権の取得上場会社株式の市場買付け・相対取得取得後の出資比率・議決権比率が1%以上で対象になり得る(密接関係者合算)第6話
非上場会社株式・持分の取得非上場会社の買収・出資、子会社設立出資比率の閾値がなく、1株(1口)でも対象になり得る第7話
増資引受(新株発行)第三者割当増資、スタートアップへの出資既存株主からの譲受でなくても、新株の取得は対象になり得る第7話
事業譲受事業の全部・一部の譲受け、カーブアウト株式を取得しなくても、居住者法人からの事業承継として対象になり得る本記事
吸収分割による事業承継対象事業を分割して承継組織再編でも事業承継として対象になり得る本記事
合併による事業承継吸収合併による事業の承継合併でも居住者法人からの事業承継として対象になり得る本記事
会社の事業目的の実質的変更への同意定款の事業目的変更議案への賛成上場会社等は外国投資家が総議決権の3分の1以上保有の場合に限る本記事
役員選任議案への同意外国投資家自ら・その関係者が取締役・監査役に就任する議案への同意上場会社等は総議決権の1%以上保有が入口。非上場は手続不要規定等を個別確認本記事
長期貸付親会社ローン、投資家ローン1年を超える貸付けで一定の金額・割合要件を満たすものが対象になり得る本記事
社債取得本邦会社の社債の引受け・取得特定の外国投資家に募集された社債で償還まで1年超のものなど本記事
支店・事業所の設置外国企業による国内支店・事業所の設置非居住者個人・外国法人が国内に支店・事業所を設置等する場合(駐在員事務所は除く)本記事
改正動向にも注意:2026年3月に国会提出された外為法改正法案では、外国投資家が、本邦企業に一定の投資をしている海外法人等の議決権を新たに50%以上取得する行為などを、「対内直接投資等」に追加する内容(いわゆる間接取得規制)が示されています。今後は「日本企業の株式を直接取得していない」海外法人等の支配権取得も対象になり得る方向です。ただし本記事執筆時点で未成立・未公布・未施行であり、現行制度として扱わないよう注意してください(詳細は第10話)。

株式取得・議決権取得で注意すべきこと

このセクションの要点:株式取得は、上場会社と非上場会社で確認ポイントが大きく異なります。上場会社は「1%以上」という比率が問題になり、非上場会社は閾値がなく1株でも対象になり得ます。密接関係者・共同取得がある場合は単独保有だけで判断しません。

株式・議決権の取得は、最も典型的な対象取引です。ただし、対象会社が上場しているかどうかで、確認すべきポイントが変わります。

ざっくり言うと、上場会社では「取得後にどれだけの比率になるか」が問題になります。厳密には、上場会社等の株式・議決権の取得で、取得後の出資比率または議決権比率が1%以上となる場合が対象です。この比率の算定には、取得者本人だけでなく、密接関係者である外国投資家(第2話参照)の保有分も合算されます。

一方、非上場会社では出資比率の閾値が設定されていません。そのため、1株(1口)の取得であっても対内直接投資等に該当し得ます。スタートアップ出資のように少数株を取得する場合でも、外為法確認を省略してよいとは限りません。

また、株式の「取得」だけでなく、上場会社株式への一任運用や、議決権の代理行使の受任、議決権の共同行使の合意なども、一定の比率で対象になり得ます。「自分が直接株式を持つわけではない」場合でも、議決権への影響を通じて対象になることがある点に注意が必要です。

区分典型的な取引確認する比率・範囲実務上の注意点詳細記事
上場会社市場買付け、相対取得、立会外取引取得後の出資比率・議決権比率が1%以上か(密接関係者合算)一任運用・議決権代理行使受任・共同保有も確認。1%は事前届出の入口であり、免除制度の検討も必要第6話
非上場会社株式譲受、増資引受、子会社設立出資比率の閾値なし(1株でも対象になり得る)他の外国投資家からの既発行株式の譲受は「特定取得」として別枠。少数株でも確認を省略しない第7話

増資引受・新株予約権・種類株式で注意すべきこと

このセクションの要点:スタートアップ出資や第三者割当増資でも外為法確認は必要です。少額・少数株でも省略できません。新株予約権・種類株式・転換社債型新株予約権付社債では、将来の議決権・支配関係への影響も見ます。投資契約上の役員指名権・拒否権なども実質的な影響として整理します。

外国投資家が日本会社の新株を引き受ける場合(第三者割当増資など)も、株式の取得として対象になり得ます。特にスタートアップ投資では、「少額だから」「少数株だから」という理由で外為法確認を省略するのは危険です。前述のとおり、非上場会社には出資比率の閾値がないためです。

さらに、普通株式だけでなく、新株予約権、転換社債型新株予約権付社債(いわゆるCB)、種類株式(優先株式など)といった商品設計では、将来の議決権や支配関係への影響も見ておく必要があります。現時点では議決権が小さくても、転換・行使によって将来的に議決権比率が変動する可能性があるためです。

なお、新株予約権や転換社債型新株予約権付社債(CB)については、取得時点で直ちに株式・議決権の取得として扱われるか、将来の行使・転換時に確認すべきか、社債部分が社債取得として問題になるかを分けて検討する必要があります。実務上は、発行(取得)時・行使時・転換時のそれぞれで外為法確認のタイミングを整理しておくのが安全です。

加えて、投資契約・株主間契約において、役員指名権、拒否権、重要事項同意権などが付与される場合は、実質的な経営への影響も整理しておくべきです。こうした権利は、後述の「同意・権利行使系」の取引(役員選任議案への同意など)として将来問題になり得るほか、事前届出免除制度の利用可否にも影響します。免除の基準には「外国投資家自らまたはその密接関係者が役員に就任しない」「指定業種に属する事業の譲渡・廃止を株主総会に自ら提案しない」などが含まれるため、役員を派遣する前提の投資や重要事業への関与を予定する投資では、免除が使えず株式取得について事前届出が必要になることがあります(詳細は第5話第9話)。

要素確認する理由見る資料注意点
普通株式の新規発行新株取得も株式取得として対象になり得る増資の条件、引受契約非上場は閾値なし。少数でも確認
種類株式議決権・優先権の設計が支配関係に影響種類株式の内容、定款議決権の有無・条件を確認
新株予約権将来の議決権取得につながる新株予約権の発行要項行使後の比率も見込む
転換社債型新株予約権付社債(CB)社債性と将来の株式転換の両面社債要項・転換条件社債としての論点と株式転換の論点を両方確認
役員指名権役員選任を通じた経営関与投資契約・株主間契約権利行使時に対象取引となり得る
拒否権・同意権重要事項への実質的な関与株主間契約実質的な支配・影響の有無を整理
株主間契約議決権の共同行使等の合意株主間契約全体共同保有・合算の要否に直結
将来ラウンドでの取得比率追加出資で比率が変動する資本政策表将来の届出・報告も視野に入れる

事業譲受・会社分割・合併で注意すべきこと

このセクションの要点:外為法確認は株式取得型M&Aだけの問題ではありません。事業譲受・吸収分割・合併によって居住者法人の事業を承継する場合も対象になり得ます。対象は「株式」ではなく「事業そのもの」なので、承継される事業の内容・許認可・技術・取引先を確認します。

「株式を取得しないM&Aなら外為法は関係ない」というのは、よくある誤解です。外為法では、居住者法人からの事業の譲受け、吸収分割および合併による事業の承継も、対内直接投資等の一類型として定められています(経済産業省「対内直接投資審査制度について(外為法)」でも、規制対象となる対内投資行為の類型として「事業の譲受け(合併による事業承継等)」が挙げられています)。

事業承継型のM&Aでは、対象が会社の株式ではなく「事業そのもの」です。そのため、承継される事業の内容、その事業に付随する許認可、技術、設備、取引先などを確認する必要があります。特にカーブアウト案件(事業の一部を切り出して譲渡・承継する案件)では、切り出される事業の範囲が重要になります。指定業種に該当する事業が含まれるかどうかで、手続の要否が変わり得るためです。

再生可能エネルギー、電力・ガス等のインフラ、通信、ソフトウェア・情報処理、半導体、重要鉱物資源等の重要物資、サイバーセキュリティ関連などは、近年の告示改定で指定業種・コア業種(第4話)に関係し得る領域です。これらに関わる事業を承継する場合は、特に慎重な確認をおすすめします。

取引類型具体例確認すべき事業内容注意点
事業譲受事業の全部または一部の譲受け承継する事業の業種、許認可、技術、設備株式を取得しなくても対象になり得る
吸収分割既存会社へ事業を承継させる分割分割対象事業に指定業種が含まれるか組織再編でも事業承継として確認
新設分割を含む組織再編新設会社への事業承継、新設会社株式の取得、組織再編議案への同意新設会社の株式・持分取得、議案への同意、承継事業の内容など「新設分割だから当然に事業承継型の対内直接投資等」と単純化せず、どの行為が対象取引になり得るかを分解して確認する(対内直接投資等の定義に直接並ぶのは事業譲受け・吸収分割・合併)
合併吸収合併による事業の承継消滅会社の事業に指定業種が含まれるか合併も居住者法人からの事業承継として対象になり得る
カーブアウト特定事業の切り出し・譲渡切り出される事業の範囲・内容承継範囲の確定が要否判断に直結
事業の一部取得一部事業のみの取得取得対象事業の業種・許認可「一部だから対象外」とは限らない

長期貸付・社債取得で注意すべきこと

このセクションの要点:株式ではない資金提供でも外為法確認が必要になり得ます。1年を超える金銭の貸付け(一定の金額・割合要件を満たすもの)や一定の社債の取得が典型です。金額・期間・返済条件・既存債務との関係・議決権との組み合わせを確認します。

「貸付や社債は株式ではないので外為法は関係ない」というのも誤解です。外為法では、外国投資家による日本企業への一定の資金提供も、対内直接投資等として問題になり得ます。

代表的なのが、国内法人に対する1年を超える金銭の貸付けです。ざっくり言うと、長期の貸付けで一定規模以上のものが対象になり得ます。厳密には、貸付期間が1年を超え、かつ、貸付後の貸付残高が1億円相当額を超えることに加え、当該貸付残高と、当該外国投資家が所有する当該国内法人発行の社債の残高との合計額が、当該国内法人の負債額として定める額の50%相当額を超えることなどが要件とされています。金融機関が業務として行う貸付けや、居住者である外国投資家が行う本邦通貨建ての一定の貸付けなどは除外され得ます(具体的な要件・除外は日本銀行Q&Aと関係法令で確認してください)。M&Aファイナンスの親会社ローンや投資家ローン、スタートアップ資金調達のメザニンファイナンスなどで問題になり得ます。なお、貸付金を株式に振り替えるデット・エクイティ・スワップ(DES)を行う場合は、新たに取得する株式の側面について、対内直接投資等(株式取得)の確認が別途必要になります。

また、社債の取得についても、特定の外国投資家に対して募集された本邦会社の社債で、取得日から元本償還日までの期間が1年を超え、かつ取得後の社債残高が1億円相当額を超え、社債残高と貸付残高の合計が前記の負債額基準(50%相当額)を超える場合などが対象になり得ます。「社債だから一律に対象」ではなく、期間・募集先・残高・負債割合・除外事由を確認します。転換社債型新株予約権付社債(CB)は、社債としての論点と将来の株式転換の論点の両面から確認が必要です。

なお、こうした資金提供については、対内直接投資等としての届出・報告とは別に、支払・受領に関する外為法上の報告(支払等報告書など)が問題になる可能性もあります。対内直接投資の枠組みだけでなく、外為法の他の報告義務にも目配りが必要です。

資金提供の形態具体例外為法上の注意点見る資料
長期貸付1年を超える金銭の貸付け金額・期間・割合の要件を満たすと対象になり得る金銭消費貸借契約書、貸付残高の資料
親会社ローン外国親会社から日本子会社への貸付外国投資家からの貸付として要件を確認グループ内貸付契約、資金計画
投資家ローン投資家から投資先への貸付株式投資と組み合わせた資金提供の全体像を確認投資契約、貸付契約
社債取得本邦会社の社債の引受け・取得特定の外国投資家に募集された社債で償還まで1年超のものなど社債要項、募集要項
転換社債型新株予約権付社債(CB)転換権付きの社債社債性と将来の株式転換の両面で確認社債要項、転換条件
メザニンファイナンス劣後ローン・優先株等の中間的資金商品設計に応じて貸付・株式の論点を確認各契約・要項
債務保証・担保提供保証・担保の差入れ資金提供スキーム全体の中で位置づけを確認保証契約、担保契約

役員選任・事業目的変更・重要事項への同意で注意すべきこと

このセクションの要点:株式取得後や投資契約上の権利行使として、議案への同意が対象取引になり得ます。役員選任、事業目的の実質的変更、指定業種に関係する事業の廃止・譲渡などは特に注意が必要です。契約締結時だけでなく権利行使時(PMI・ガバナンス変更時)にも確認します。

外為法では、株式の取得そのものだけでなく、外国投資家による一定の議案への同意も対象取引として定められています。これは、議決権行使を通じた経営関与を捉えるものです。

具体的には、次のような同意が対象になり得ます(上場会社等については、外国投資家の議決権保有割合に応じた限定があります)。

  • 会社の事業目的の実質的な変更への同意:上場会社等の場合は、外国投資家が総議決権の3分の1以上を保有しているときに限られます。
  • 役員(取締役・監査役)選任議案への同意:上場会社等の場合は、外国投資家が総議決権の1%以上を保有しているときに限られます。
  • 事業の全部の譲渡等の議案への同意:上場会社等の場合は、外国投資家が総議決権の1%以上を保有しているときに限られます。

非上場会社の場合は、これらの議決権保有割合による限定が異なる(限定が付されていない類型もある)ため、より広く問題になり得ます。詳細は日本銀行Q&Aで類型ごとに確認してください。

実務上の注意点は、これらが株式取得時だけでなく、権利行使時にも問題になり得ることです。投資契約・株主間契約で役員指名権・拒否権・同意権を持っている場合、契約締結時に検討するだけでなく、実際に役員選任議案に賛成する、事業目的変更に同意するといった権利行使の場面でも外為法確認が必要になることがあります。M&A後のPMI(統合プロセス)やガバナンス変更の局面で、外為法の確認を忘れないことが重要です。

行為具体例確認する理由注意点
役員選任議案への同意外国投資家自ら・その関係者が取締役・監査役に就任する議案への同意役員選任を通じた経営関与上場会社等は総議決権1%以上保有が入口。非上場も手続不要規定・過去届出・業種を個別確認
取締役候補者の指名株主間契約に基づく役員指名指名・選任の一連の関与を確認権利行使時の同意も対象になり得る
事業目的の実質的変更定款の事業目的変更議案への賛成会社の事業内容の根本的変更上場会社等は総議決権3分の1以上保有が要件
重要事業の廃止・譲渡事業の全部譲渡等の議案への賛成重要な事業の処分への関与上場会社等は総議決権1%以上保有が要件
指定業種に関係する事業方針の変更指定業種事業の縮小・移転等安全保障上重要な事業への影響コア業種関連は特に慎重に確認
株主間契約上の拒否権行使重要事項への拒否権の発動実質的な支配・影響の行使権利の内容と行使態様を整理
合併・分割・事業譲渡への同意組織再編議案への賛成事業承継・再編への関与再編の中での外国投資家の役割を確認

対象取引の確認に必要な資料

このセクションの要点:対象取引該当性は、予定取引の内容を具体的に整理して初めて判断できます。スキーム図・契約書案・比率計算資料などを、日本企業側でも早めにそろえます。

対象取引に該当するかどうかは、「何を、どのように行うのか」が具体的に固まって初めて判断できます。投資を受ける日本企業の法務・経営企画は、買主・投資家と協力して、次のような資料を整理しておくとスムーズです。

資料誰が準備するか確認するポイント注意点
取引スキーム図買主・対象会社・専門家取引全体の構造・行為の種類複数の行為が組み合わさる場合は分解して確認
株式譲渡契約書案当事者取得株式数・議決権比率上場・非上場で確認軸が異なる
投資契約書案当事者出資内容・付随する権利役員指名権・同意権の有無
株主間契約書案当事者議決権行使・共同保有の合意合算・共同保有の要否に直結
事業譲渡契約書案当事者譲受事業の範囲・内容事業承継型の対象取引該当性
吸収分割契約書案当事者承継事業の範囲分割対象に指定業種が含まれるか
合併契約書案当事者消滅会社の事業内容合併による事業承継の確認
対象株式数・議決権比率の計算資料買主・対象会社取得後の比率(密接関係者合算後)1%・各閾値の判定
増資後資本政策表対象会社増資後の株主構成・比率将来ラウンドの影響も確認
新株予約権・種類株式の条件対象会社将来の議決権・転換条件行使後の比率変動を見込む
貸付契約書案当事者金額・期間・返済条件長期貸付の要件該当性
社債要項発行会社償還期間・引受先社債取得の対象取引該当性
役員指名権・同意権の一覧当事者契約上の経営関与の権利権利行使時の対象取引も視野に
クロージングスケジュール当事者各行為のタイミング事前届出が必要な場合は待機期間を織り込む

対象取引判定の簡易フロー

このセクションの要点:予定取引を分解し、株式系・事業承継系・資金提供系・同意系のどれに当たるかを順に確認すると整理しやすくなります。

ここまでの内容を、初心者向けの簡易フローにまとめます。実際の判定はさらに細かい要件があるため、これは「最初のあたりをつける」ための地図です。

予定取引を整理する
株式・議決権の取得か?(上場は1%/非上場は閾値なし)
増資・新株予約権・種類株式の取得か?
事業譲受・会社分割・合併による事業承継か?
長期貸付・社債取得などの資金提供か?
役員選任・事業目的変更等への同意か?
いずれかに当たれば対象取引に該当する可能性あり
指定業種・免除制度・届出区分の検討へ(第4〜5話)
このフローについての注意:上記は初期確認用の簡易フローです。対象取引該当性の最終判断は、最新の法令・告示・当局資料に基づき、必要に応じて専門家の確認を経て行う必要があります。取得比率の算定、貸付の金額・割合要件、同意行為の範囲、特定取得の扱いなどは個別性が高く、簡易フローだけで結論を出すべきではありません。

よくある誤解

このセクションの要点:「株式だけ見ればよい」「増資・事業譲渡・組織再編は関係ない」「少額なら対象外」「貸付・社債は無関係」といった思い込みは、いずれも見落としにつながります。
誤解実際の考え方実務上の注意点
外為法は株式取得だけ見ればよい事業承継・資金提供・同意行為など、株式取得以外も対象になり得る取引を類型ごとに分解して確認する
増資なら既存株主からの譲受ではないので関係ない新株の取得(増資引受)も株式取得として対象になり得る第三者割当増資・スタートアップ出資も確認
事業譲渡なら株式を取得しないので外為法は関係ない居住者法人からの事業の譲受けも対象になり得る承継事業の内容・範囲を確認する
会社分割や合併は会社法の問題で外為法は関係ない吸収分割・合併による事業承継も対象になり得る会社法手続と外為法確認は別物
少額出資なら対象取引にはならない非上場は閾値がなく、上場も1%以上で対象になり得る「少額」と「対象取引か」は別問題
非上場会社への1株取得は重要ではない非上場は1株(1口)でも対象になり得る少数株取得でも確認を省略しない
貸付や社債は株式ではないので外為法は関係ない一定の長期貸付・社債取得も対象になり得る金額・期間・割合の要件を確認する
役員選任や事業目的変更は届出と無関係である一定の議案への同意は対象取引になり得る権利行使時(PMI時)にも確認する
対象取引に該当すれば必ず事前届出が必要である対象取引でも、指定業種・免除制度次第で事後報告や手続不要になることがある第5話で区分を確認する

この記事のまとめ

  • 外為法では、外国投資家かどうかに加えて、予定行為が対象取引に該当するかを確認する必要がある。
  • 対象取引は、株式取得や増資だけではない。(A)株式・議決権取得系、(B)事業承継系、(C)資金提供系、(D)同意・権利行使系に分けて整理すると見通しがよい。
  • 事業譲受、吸収分割、合併、長期貸付、社債取得、役員選任議案への同意なども確認対象になり得る。
  • 上場会社(1%以上)と非上場会社(閾値なし)では確認ポイントが異なる。他の外国投資家からの非上場株式の譲受は「特定取得」として別枠で扱われる。
  • 対象取引に該当する場合でも、次に指定業種(第4話)免除制度・届出区分(第5話)を確認する必要がある。最終的な実務確認は第10話のチェックリストも参照。
  • 次回・第4話では、3つ目の判定軸である「指定業種・コア業種」を、対象会社・子会社まで確認する方法とともに扱う。

シリーズ記事一覧

本シリーズ「外為法・対内直接投資の実務10選」の全10話は次の通りです(リンクは順次公開)。

記事タイトル主なテーマリンク
第1話外為法の対内直接投資とは?日本企業への出資・M&Aで最初に見るべき規制全体像・4つの判定軸第1話を読む
第2話外国投資家とは誰か|海外企業・外国ファンド・日本法人子会社の判定ポイント外国投資家の定義・間接保有第2話を読む
第3話外為法の対象になる取引とは?株式取得・増資・事業譲受・合併・会社分割を整理対象取引の類型(本記事)本記事
第4話外為法の指定業種・コア業種とは?M&Aで対象会社・子会社まで確認する方法指定業種・コア業種の確認第4話を読む
第5話外為法の事前届出・事後報告・手続不要の違い|M&A担当者向け判定フロー要否判定フロー第5話を読む
第6話上場会社への出資と外為法|1%基準・議決権取得・事前届出免除制度の基本上場会社・1%基準・免除第6話を読む
第7話非上場会社の買収・スタートアップ出資と外為法|1株取得でも確認が必要な理由非上場会社・閾値なし第7話を読む
第8話外為法の待機期間はどれくらい?30日・2週間・5営業日・最大5か月の考え方待機期間の実務第8話を読む
第9話M&A契約で外為法をどう扱うか|前提条件・誓約事項・解除権・ロングストップ日の実務契約条項での手当て第9話を読む
第10話外為法・対内直接投資チェックリスト|外国投資家から出資を受ける前に確認すること実務チェックリスト第10話を読む

参照した主な公的資料

本記事は、以下の公的資料(一次情報)を参照して整理しています。対象取引の範囲・比率・金額要件は改定され得るため、実際の確認時には各資料の最新版をご参照ください。

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とした解説であり、特定の取引に関する法的助言ではありません。対象取引該当性の判定は、投資家の属性、取引スキーム、取得比率・議決権比率、対象会社・子会社の事業内容、契約上の権利、資金提供の内容、最新の法令・告示・当局実務によって異なります。個別の案件については、最新の公的資料を確認のうえ、外為法・M&A実務に精通した専門家にご相談ください。
この記事を実務にする
読み終えた内容を、次の案件でそのまま使える形に。
法務記事で理解した内容は、チェックリスト・文例・記録・検索・ツール化まで落とし込まないと、次の案件で再利用しにくいまま終わってしまいます。下の道具は、今日の業務にすぐ差し込める順に並べています。
01
すぐ使いやすい入口
LegalOS 契約書一発整形
Word契約書の条番号・インデント・余白・見出し崩れを1クリックで整えるWindowsツール。
詳細を見る →
法務AIプロンプト集100選
契約・相談・調査・社内説明など、法務実務でそのまま使えるAIプロンプトを100本収録。
詳細を見る →
02
業務を整理するツール
迷ったら
今の業務に合う道具を、1分で診断します。
担当領域・体制・優先したい改善ポイントを選ぶだけで、入口になる道具をご案内します。