「外為法(外国為替及び外国貿易法)」と聞くと、多くの方は貨物の輸出や技術の海外提供、いわゆる輸出管理・安全保障貿易管理を思い浮かべるのではないでしょうか。実務でも、外為法は「モノや技術を海外に出すときの法律」というイメージが先行しがちです。

しかし、外為法にはもう一つの大きな顔があります。それが、外国投資家が日本企業に出資したり、外国企業が日本企業を買収したりする場面を規律する「対内直接投資規制」です。海外の事業会社が日本企業を買収する、海外ファンドが日本のスタートアップに出資する、外資系の日本法人が国内企業に投資する——こうしたケースでは、輸出管理とはまったく別の枠組みとして、外為法の対内直接投資規制が問題になります。

特に外為法とM&Aの関係では、この規制は日程に直結します。外為法の事前届出が必要かどうかによって、契約締結後すぐにクロージング(取引実行)できるとは限らないからです。事前届出が必要な取引には、原則として一定の「待機期間(投資禁止期間)」があり、当局の審査が入ります。

さらに、この分野は今まさに大きく動いています。「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律」(令和8年法律第30号)が2026年5月29日に成立し、同年6月5日に公布されました。対内直接投資審査制度に関する主要な改正は2027年1月4日に施行予定で、間接取得の規制、リスク軽減措置の届出、外国政府等の影響下にある国内投資家の取扱い、非指定業種への投資後の報告徴求などが新たに導入されます(いわゆる「外為法2027年改正」)。

本記事は、外為法・対内直接投資シリーズの第1話として、この分野の全体像を、外為法を初めて確認する企業法務担当者にも理解できるように整理します。2026年10月1日時点で施行されている現行制度と、2027年1月4日施行予定の改正後制度をはっきり分けて説明しますので、どちらの話かを確認しながら読み進めてください。

本記事の基準日・表記ルール
本記事は2026年10月1日時点の法令・公的資料に基づいて整理しています。以下の表記で、現行制度と未施行の制度を区別します。
現行2026年10月1日時点で施行されている制度
2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用2027年1月4日に施行され、施行日から30日を経過した2027年2月3日以後に行う投資等から新ルールが適用される予定の制度(2026年10月1日時点では未施行)
2027年1月4日施行・同日以後の投資に適用施行日(2027年1月4日)以後に行う投資から適用される予定の制度(非指定業種への投資後の報告徴求等。2026年10月1日時点では未施行)
施行済改正法のうち公布日(2026年6月5日)から施行されている部分
実際の届出要否は、投資家の属性、対象取引、対象会社・子会社の事業や保有技術、指定業種該当性、免除制度の利用可否、最新の法令・告示・当局実務によって変わります。個別案件では、必ず財務省・日本銀行・e-Gov法令検索などの最新の公的資料を確認し、必要に応じて外為法・M&A実務に詳しい専門家に相談してください。

外為法2027年改正の現在地|公布済み・2027年1月4日施行予定

このセクションの要点:2026年3月17日に閣議決定・国会提出された外為法改正法案は、2026年5月29日に成立、6月5日に公布されています。改正の大部分は2027年1月4日施行予定で、2026年10月1日時点では未施行です。一方、関係行政機関の長への意見照会(法69条の4)など一部の規定は公布日から施行済みです。

財務省の公表資料によれば、改正法は「我が国経済の健全な発展に寄与する対内直接投資を一層促進しつつ、国の安全等を損なうおそれがある対内直接投資に対して適切に対応できるよう、対内直接投資審査制度の高度化をはかるもの」と位置付けられています(財務省「『外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律』について」令和8年6月5日)。2026年10月1日時点のスケジュールは次のとおりです。

日付出来事2026年10月1日時点の状態
2026年1月7日関税・外国為替等審議会が答申「対内直接投資審査制度等のあり方について」を取りまとめ—
2026年3月17日改正法案を閣議決定・国会提出—
2026年5月29日改正法が成立—
2026年6月5日改正法を公布(令和8年法律第30号)。関係行政機関の長への意見照会の義務付け(法69条の4。投資後の報告徴求に関する同条3号を除く)は公布日から施行施行済
2026年6月29日対日外国投資委員会(JFIC)の設置・初回開催設置済
2026年7月3日関連政省令・告示改正案を公表(パブリックコメント)—
2026年9月16日改正に伴う政令・命令・告示を公布し、パブリックコメントの結果を公示。財務省「2027年(令和9年)施行 外為法改正 関連資料」を公表公布済・未施行
2027年1月4日改正法の主要部分・関係政省令・告示の施行2027年1月4日施行予定
2027年2月3日全面適用。改正法附則3条1項〜5項により、間接取得の規制、リスク軽減措置の届出事項化・修正/変更届出、みなし外国投資家の見直しなどの新規定は、施行日から起算して30日を経過した日(2027年2月3日)以後に行う対内直接投資等・特定取得に適用。改正告示(重要技術等)も同日以後の投資等に適用。ただし、非指定業種への投資後の報告徴求等(改正後29条の2)と、事後報告に関するみなし規定(改正後55条の5第3項)は、施行日(2027年1月4日)以後に行う投資から適用(附則3条6項〜8項)未施行

実務上のポイントは、「施行日(2027年1月4日)」と「新しい届出ルールが適用される投資の実行日(2027年2月3日以後)」がずれていることです。ただし、非指定業種への投資後の報告徴求等(改正後29条の2)は例外で、施行日である2027年1月4日以後に行う投資から適用されます。2020年施行の改正時と同様に、施行日から全面適用日までの期間に、新ルールに基づく事前届出を行い、全面適用日以後の投資実行に備えるという設計になっています。2026年10月以降に交渉が始まり、2027年2月以降にクロージングが見込まれる案件では、改正後のルールを前提に届出要否を確認しておく必要があります。

施行日に関する根拠:施行日(2027年1月4日)は、財務省「対内直接投資審査制度の見直しについて(概要資料)」及び財務省報道発表(令和8年9月16日)で示されています。また、同日公布の「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」附則、関係告示の附則でも、令和9年1月4日からの施行・適用が定められています。施行予定の条文は、e-Gov法令検索の施行予定情報や財務省公表の新旧対照表であわせて確認してください。

外為法は輸出管理だけの法律ではない

このセクションの要点:外為法は「対外取引を全体として管理する法律」です。輸出管理(モノ・技術を外に出す規制)と、対内直接投資(外国からの投資を国内企業が受け入れる場面の規制)は、同じ外為法の中でも別の章・別の枠組みで動いています。本シリーズが扱うのは後者です。

外為法は、戦後まもない1949年に制定され、段階的な自由化を経て、現在は対外取引は原則自由というのが建前です(外為法1条)。もっとも、自由が原則であるからこそ、安全保障や経済秩序の観点から必要な範囲で「例外的な管理」が残されています。外為法は、この例外的な管理を担う器として、複数の異なる分野をひとつの法律の中に抱えています。

分野主な場面法務担当者が確認すること本シリーズで扱うか
輸出管理(安全保障貿易管理)貨物の輸出、リスト規制・キャッチオール規制への該当輸出する貨物が規制対象か、許可の要否、該非判定原則扱わない(2027年改正で「重要技術の保有」に関係する範囲で言及)
技術提供(役務取引)非居住者への技術提供、プログラムの提供提供する技術が規制対象か、役務取引許可の要否原則扱わない(同上)
対内直接投資外国投資家による日本企業への出資・M&A・株式取得・事業承継事前届出・事後報告・手続不要のいずれか、待機期間の有無本シリーズの対象
資本取引金銭の貸借、預金、証券の取得など対外的な資本取引許可・届出の要否(取引類型による)原則扱わない(対内直接投資に関連する範囲のみ言及)
支払・受領の報告一定額を超える国際的な支払・資金の受払支払等報告書の要否扱わない

なお、2027年改正後は、輸出管理と対内直接投資の関係が一段と近くなります。後述のとおり、外為法上の技術管理の対象となっている「技術」を保有する法人への投資が、業種ではなく技術に着目して事前届出の対象になるためです。輸出管理部門が持っている該非判定の情報が、投資規制の判断材料にもなるという点は押さえておきましょう。

本シリーズでは、輸出管理ではなく、対内直接投資規制(外国投資家による日本企業への出資・M&A・事業承継など)に絞って解説します。以降、特に断りなく「外為法」というときは、対内直接投資規制の文脈を指すものとお読みください。

外為法の対内直接投資とは何か

このセクションの要点:対内直接投資規制とは、外国投資家が日本企業に出資・投資する場面で、国の安全・公の秩序・公衆の安全・我が国経済の円滑な運営という観点から、事前届出または事後報告を求める制度です。まずは「外国からの投資が日本企業に入るときに国がチェックする仕組み」というイメージで十分です。

厳密な定義は条文(外為法26条以下、対内直接投資等に関する政令・命令、関係告示)に委ねられており、後続の第2話(外国投資家とは誰か)・第3話(対象になる取引)で詳しく扱います。

財務省は、制度の趣旨を、対外取引自由を原則としつつ、外国投資家が行う対内直接投資等の一定の類型について、国の安全の確保、公の秩序の維持、公衆の安全の保護、我が国経済の円滑な運営の観点等から、一定の場合に事前届出を求め、財務大臣及び事業所管大臣が審査を行うもの、と説明しています(財務省「対内直接投資審査制度について」)。審査の観点は、外為法27条3項1号に基づき、おおむね次の4つに整理されます。

  • 国の安全が損なわれることとなる事態
  • 公の秩序の維持が妨げられることとなる事態
  • 公衆の安全の保護に支障を来すこととなる事態
  • 我が国経済の円滑な運営に著しい悪影響を及ぼすこととなる事態

この制度が実際にどのような場面で問題になるのかを、典型例で示します。

場面具体例外為法上の注意点
外国企業による日本企業の買収海外の事業会社が日本の同業他社の株式を取得対象会社・その子会社の事業に指定業種が含まれれば事前届出の可能性現行。2027年2月3日以後に行う投資等では、対象会社が一定の重要技術を保有するかも確認2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用
海外ファンドによる非上場会社への出資外国VC・PEファンドが日本のスタートアップに出資非上場会社の株式取得には出資比率の閾値がなく、1株(1口)の取得でも対象取引になり得る
外資系の日本法人による投資外国企業の日本子会社が国内企業に出資日本で設立された法人でも、外国法人等に議決権の50%以上を保有されている場合などは「外国投資家」に該当する
外国投資家による上場会社株式の取得海外投資家が上場会社株式を市場で買い増し取得後の株式・議決権比率(密接関係者分を含む)が1%以上となる場合に対象となり得る
事業承継型のM&A事業の譲受け、吸収分割・合併による事業の承継株式取得以外の手法でも対内直接投資等に該当し得る
海外会社の買収(間接取得)日本企業の株式を保有する海外会社を、別の外国投資家が買収現行法では原則として対内直接投資等に当たらない。2027年1月4日施行の改正により、2027年2月3日以後に行う取引は「間接取得」として事前届出の対象になり得る2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用

対内直接投資規制が問題になるかどうかは、「外国投資家か」「対象取引か」「対象会社が何の事業を営み、何の技術を持っているか」「免除制度を使えるか」の組み合わせで決まります。「外資が入る=必ず事前届出」でも、「日本法人が買主=外為法は無関係」でもありません。

「外国投資家」とは誰か|外為法26条1項の現行定義

このセクションの要点:外為法上の「外国投資家」は、外為法26条1項1号から5号に定められた者で、対内直接投資等や特定取得を行う者です。日本で設立された日本法人でも、外国法人等に議決権の50%以上を保有されている場合など一定の外国支配を受ける場合には外国投資家に当たります。ただし、外国との取引や外国人株主がいるというだけで、直ちに外国投資家になるわけではありません。

外為法26条1項は、外国投資家を「次に掲げるもので、次項各号に掲げる対内直接投資等又は第三項に規定する特定取得を行うもの」と定義し、5つの類型を挙げています。2027年改正では1号から3号に変更はなく、4号・5号も実質的な類型は維持されます。

号類型(要旨)日本法人が該当し得るか実務上の確認ポイント
1号非居住者である個人—国籍ではなく「居住性」で判断する
2号外国法令に基づいて設立された法人その他の団体、外国に主たる事務所を有する法人その他の団体—(外国法人等)海外親会社、海外の投資ビークルなど
3号会社で、1号・2号に掲げる者が直接に保有する議決権と、他の会社等を通じて間接に保有する議決権(政令で定めるもの)とを合計した割合が50%以上のもの該当し得る(いわゆる居住者外国投資家)外国法人の子会社だけでなく、日本の子会社・孫会社を経由して50%以上保有される孫会社・ひ孫会社も含まれ得る(日本銀行「外為法Q&A(対内直接投資・特定取得編)」Q35-1)
4号任意組合・投資事業有限責任組合・外国の類似団体(特定組合類似団体)で、1号に掲げる者等の出資割合が50%以上、または1号に掲げる者等が業務執行組合員の過半数を占めるもの(特定組合等)該当し得る(国内組合も対象)国内ファンドでも、出資者構成やGPの属性次第で外国投資家となる
5号2号から4号以外の法人その他の団体で、非居住者である個人が役員又は代表権を有する役員のいずれかの過半数を占めるもの該当し得る株主構成が日本側でも、役員構成によって外国投資家となる

3号の議決権比率は、間接保有分を含めて判定します。たとえば、外国法人Xが日本法人Aの議決権の100%を持ち、AがB社の議決権の60%を持つ場合、B社も3号の外国投資家に該当し得ます。日本銀行のQ&Aでも、外国法人に直接50%以上保有される日本の会社や、その会社法上の子会社等を通じて合計50%以上保有される会社が外国投資家となる旨が説明されています。また、海外パートナーシップから出資を受ける場合の議決権の計算方法(パススルーの考え方)についても、同Q&Aに解説があります(Q35-2、Q35-3)。

一方で、過度な一般化は禁物です。次のような事情だけでは、外為法26条1項の外国投資家には当たりません。

  • 外国企業と取引がある、海外に販売子会社がある
  • 外国人株主が一部いる(合計しても議決権50%未満で、役員の過半数も非居住者でない場合など)
  • 外国籍の従業員や、居住者である外国籍の役員がいる(5号は「非居住者である個人」が役員の過半数を占める場合)
  • 上場会社で外国人持株比率が高いが、上記の要件に当たらない

なお、外国投資家に当たる上場会社であっても、個々の外国法人等の議決権保有割合がいずれも10%未満であるなどの要件を満たす「特定上場会社等」については、一定の手続が不要とされています(対内直接投資等に関する政令3条1項6号関係。日本銀行Q&A Q36)。判定にあたっては、株主名簿だけでなく大量保有報告書等の情報も踏まえる必要があります。

2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用「みなし外国投資家」の範囲の見直し
現行の外為法27条13項等は、外国投資家以外の者が外国投資家のためにその名義によらないで行う対内直接投資等に相当するものについて、その者を外国投資家とみなしています。改正後は、これが「非居住者等(26条1項各号に掲げるもの)のために、その名義によらないで行うもの」のうち、①非居住者等の計算において行われるもの、②契約又は外国の法令等に基づき行われるもの(政令で定めるもの)、③非居住者等と株式の所有関係等に基づく永続的な経済関係・親族関係・雇用関係その他の政令で定める特別の関係にある者により行われるもの(政令で定めるもの)、と整理され、日本法人・国内居住者が外国投資家とみなされる場面が具体化されます(改正後の外為法27条14項、27条の2第7項、29条の2第13項、55条の5第3項)。詳しくは後述の「外国政府等の支配・影響下にある国内投資家の取扱い」で整理します。

「日本法人なら外為法は対象外」という誤解|現行制度と2027年改正

このセクションの要点:「買主が日本法人だから外為法は関係ない」は、現行制度の下でも誤りです。さらに2027年改正後は、外国の議決権支配がなくても、外国政府等の支配・影響下で投資を行う日本法人・国内居住者が「外国投資家」とみなされる類型が具体化されます。他方で、外国投資家に当たることと、事前届出が必要になることは別問題です。
観点現行2026年10月1日時点2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用改正後
日本法人が外国投資家に当たる主な場面外国法人等に議決権の50%以上を直接・間接に保有される会社(26条1項3号)、外国側出資・GP支配の組合(4号)、非居住者個人が役員の過半数を占める法人(5号)左記に加え、非居住者等のために一定の態様で投資を行う日本法人・国内居住者が外国投資家とみなされる(改正後27条14項等)
他人名義・他人のための投資外国投資家のために、その名義によらないで行う投資を行う者は外国投資家とみなす(現行27条13項等)「非居住者等のため」に行う投資について、計算・契約/外国法令・特別の関係の3類型で整理・具体化
外国政府等の影響下にある国内投資家議決権支配や名義借りに当たらない限り、正面から捉える規定は限定的外国政府等をはじめとする類型的に特にリスクの高い非居住者等の支配・影響下での投資を、事前届出等の対象とする(財務省概要資料)
外国投資家に当たっても手続不要となる場合対象取引に当たらない、適用除外に当たる、特定上場会社等の手続不要の要件を満たす等左記に加え、日本企業の100%海外子会社による実質的なグループ内再編、居住者外国投資家の自己株式取得で反射的変動が限定的な場合などの合理化

ここで混同しやすいのが、「外国投資家に当たる」ことと「事前届出が必要になる」ことの違いです。外国投資家に当たるのは、あくまで判定フローの入口を通過したにすぎません。その後に、対象取引か、指定業種・重要技術に関わるか、免除制度を使えるかを順に確認して、初めて事前届出・事後報告・手続不要のいずれかが決まります。

M&Aで外為法が問題になる理由|待機期間とクロージング

このセクションの要点:事前届出が必要な取引には待機期間(投資禁止期間)があり、届出後すぐにはクロージングできません。当局の審査・追加照会で日程が動く可能性もあります。だからこそ、外為法手続の要否は、契約交渉やスケジュール設計の早い段階で確認する必要があります。

外為法とM&Aの関係で最も重要なのは、クロージング日程への影響です。事前届出が必要な場合、外国投資家は届出が受理された日から原則30日間、その対内直接投資等を行ってはなりません(外為法27条2項)。株式譲渡契約や投資契約を締結しても、待機期間が明けるまでクロージングできないのです。

区分期間の目安位置づけ
原則の禁止期間届出受理日から30日法令上の原則(外為法27条2項本文)
実務上の短縮2週間以内で終わる例が多い審査の必要がないと認められる場合は短縮され得る(27条2項ただし書)。財務省の2025年度年次報告書によれば、2025年度は3,401件の事前届出のうち約67%が2週間(14暦日)以内、約25%が5営業日以内に審査終了し、平均審査期間は9.2営業日。ただし短縮は保証されない
懸念案件の延長4か月、さらに最長5か月まで延長され得る国の安全等に係る対内直接投資等に該当するかの審査に必要な場合(27条3項・6項)
2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用リスク軽減措置の自発的修正当初の受理日を起点としつつ、修正届出の受理日から14日を確保禁止期間中にリスク軽減措置の修正を届け出ることができ、残りの禁止期間が修正届出の受理日から14日未満となる場合は、その14日を経過する日まで禁止期間とされる(改正後27条の3)

財務省は、事案の内容等によって審査に時間を要することがあるため、早めの書類提出を求めています。特に年末年始、大型連休の前、株主総会が集中する時期の前は届出が集中する傾向にあるとされています(財務省「対内直接投資審査制度について」)。2027年1月4日の施行直後から2月3日の全面適用前後は、改正後の新様式での届出が集中することも想定されるため、余裕を持ったスケジュールを組むのが安全です。

こうした不確実性があるため、M&Aの契約実務では、外為法手続を契約条項として手当てします(詳細は第9話)。

  • 前提条件(クロージング条件):外為法上必要な届出が受理され、待機期間が満了していること等をクロージングの条件とする
  • 誓約事項(コベナンツ):当事者が必要な届出・報告に協力し、当局対応を適切に行うことを約束する
  • リスク軽減措置への対応:2027年改正後は、届出書に記載したリスク軽減措置(経営関与の制限等)の内容・変更手続を、投資契約や株主間契約の条項と整合させる2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用
  • 解除権:当局から変更・中止の勧告・命令が出た場合等の取扱いを定める
  • ロングストップ日:待機期間の延長リスクや、改正法の全面適用日(2027年2月3日)をまたぐ日程を織り込む
M&A検討の開始
↓
対象会社の事業内容・子会社・許認可・技術情報・株主構成の確認
↓
外為法手続の要否確認(事前届出/事後報告/手続不要)
↓
契約交渉・契約締結(前提条件・誓約・解除権・ロングストップ日)
↓
事前届出(必要な場合。改正後はリスク軽減措置も記載)
↓
待機期間・当局審査(追加照会・延長の可能性)
↓
クロージング(取引実行)
↓
実行報告・事後報告(多くは実行日から45日以内)

ポイントは、外為法の確認が契約締結より前に来るべきだということです。「契約を締結してから外為法を確認したら、実は事前届出が必要で、しかも待機期間が読めない」という事態を避けるため、できるだけ早い段階で要否を見立てておく必要があります。

最初に見るべき判定順序|外国投資家→対象取引→指定業種・重要技術→免除制度

このセクションの要点(本記事の中心):外為法手続の要否は、①外国投資家か → ②対象取引か → ③指定業種・重要技術に関わるか → ④免除制度を使えるか → ⑤事前届出/事後報告/手続不要の確定という順番で見ていくと整理しやすくなります。2027年改正後は、③で「業種」だけでなく「保有技術」も確認し、②で「間接取得」も確認対象に加わります。
1投資家は「外国投資家」か
外為法26条1項各号に当たるかを確認します。日本法人でも、外国法人等による議決権50%以上の直接・間接保有(3号)、組合の出資・GP構成(4号)、非居住者個人による役員過半数(5号)があれば該当します。2027年2月3日以後に行う投資等では、非居住者等のために一定の態様で投資を行う「みなし外国投資家」も確認します。あわせて、外国政府等・国有企業等や、外国政府の情報収集活動に協力する義務を負う投資家等(特定外国投資家等)に当たるかも確認します。この属性は、④の免除制度の可否や、改正後の間接取得・投資後報告の対象範囲を左右します。
2その行為は外為法上の「対象取引」か
非上場会社の株式・持分の取得、上場会社の株式・議決権の1%以上の取得、事業目的の実質的変更や役員選任等への同意、支店等の設置、償還期間1年超の一定の金銭貸付け、事業の譲受け・吸収分割・合併による事業の承継などが定められています(外為法26条2項、対内直接投資等に関する政令)。2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用日本企業の株式等を保有する外国法人等を買収等により支配する間接取得(改正後26条2項9号・10号)も対象取引に加わります。
3対象会社・子会社が「指定業種」を営むか、「重要技術」を保有するか
対象会社(およびその子会社等)の事業が告示で定める「指定業種」に該当するかを確認します。特に審査の必要性が高いものは「コア業種」とされます。定款の事業目的だけでなく、実際に営んでいる事業・子会社の事業まで確認します。2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用改正後は、業種に加えて、外為法上の技術管理の対象となっている一定の技術を保有する法人への投資も、事前届出(コア)の対象となります。
4「事前届出免除制度」を使えるか
指定業種に関わる株式等の取得でも、役員に就任しない、指定業種の事業の譲渡・廃止を株主総会に自ら提案しない、非公開の技術関連情報にアクセスしない等の免除基準を遵守すれば、事前届出が免除され事後報告で足りる場合があります(外為法27条の2)。コア業種では上乗せ基準があり、免除の対象範囲も限定されます。外国政府等・国有企業等や、外国政府の情報収集活動に協力する義務を負う投資家等(特定外国投資家)は免除制度を利用できず、これらに準ずる投資家は利用に制限と上乗せ基準が課されます。
5事前届出・事後報告・手続不要を確定する
①〜④の結果から手続を確定します。指定業種・重要技術に関わり免除制度を使えなければ事前届出、指定業種に関わらない対象取引は多くの場合事後報告(上場会社株式等は10%以上取得等の場合)、そもそも外国投資家・対象取引に当たらなければ手続不要です。2027年1月4日施行・同日以後の投資に適用改正後は、非指定業種への投資であっても、類型的に特にリスクの高い外国投資家による10%以上の取得等については、投資後5年間、報告徴求・勧告・命令の対象となり得ます。
判定軸確認すること実務で見る資料関連するシリーズ記事
① 外国投資家か26条1項各号該当性(間接保有・役員構成を含む)、改正後のみなし外国投資家、特定外国投資家等の属性外為法26条1項、日本銀行Q&A、投資家側の資本構成・役員構成・外国政府との関係資料第2話:外国投資家とは誰か
② 対象取引か株式取得・増資・事業譲受・組織再編・役員選任同意・貸付等、改正後の間接取得外為法26条2項、対内直接投資等に関する政令、取引スキーム資料第3話:対象になる取引
③ 指定業種・重要技術か対象会社・子会社の事業が指定業種・コア業種に当たるか、改正後は一定の重要技術を保有するか指定業種告示・コア業種告示、本邦上場会社の事前届出該当性リスト、輸出管理の該非判定資料第4話:指定業種・コア業種
④ 免除制度を使えるか免除基準・上乗せ基準を遵守できるか、投資家属性による制限に当たらないか免除基準告示、日本銀行Q&A、投資家属性資料第5話:判定フロー
⑤ 手続の確定事前届出・事後報告・手続不要、改正後の投資後報告の可能性日本銀行の届出書・報告書様式、記入の手引第5話・第8話
① 投資家は「外国投資家」か?(改正後はみなし外国投資家も確認)
↓ はい(いいえなら対内直接投資規制の対象外)
② その行為は外為法上の「対象取引」か?(改正後は間接取得も確認)
↓ はい(いいえなら対象外)
③ 対象会社・子会社は「指定業種」を営むか/改正後は「重要技術」を保有するか?
↓ 該当 → 原則「事前届出」/ 非該当 → 原則「事後報告」等
④ 「事前届出免除制度」を使えるか?(投資家属性による制限を確認)
↓ 使える → 事後報告で足りる場合あり / 使えない → 事前届出
⑤ 事前届出・事後報告・手続不要のいずれかを確定

事前届出・事後報告・手続不要の違い

このセクションの要点:外為法手続には大きく事前届出・事後報告・手続不要の3類型があります。最大の違いは「投資を実行する前か後か」「待機期間があるか」です。事後報告は「自由にやってよい」という意味ではありません。
区分いつ必要になるか提出時期投資実行への影響実務上の注意点
事前届出原則として、対象会社・子会社が指定業種を営み(改正後は重要技術の保有を含む)、免除制度が使えない場合など投資を実行する前に、日本銀行を経由して財務大臣・事業所管大臣へ提出待機期間(投資禁止期間)の満了までクロージングできない届出後に投資を実行した場合は、多くの場合実行日から45日以内に実行報告が必要(日本銀行Q&A Q12)。改正後はリスク軽減措置の記載・変更手続にも注意
事後報告対象取引だが指定業種に関わらない場合(上場会社等は10%以上の取得等の場合)、免除制度を利用した場合など投資を実行した後(多くは実行日から45日以内)待機期間はなく、投資実行自体は可能「報告不要」とは異なる。免除制度利用時は免除基準の遵守義務が続く。2027年1月4日施行・同日以後の投資に適用特にリスクの高い外国投資家の非指定業種への投資は、投資後5年間の報告徴求等の対象となり得る
手続不要外国投資家・対象取引に当たらない場合、法令上の適用除外に当たる場合など—影響なし「手続不要」と判断する根拠こそ慎重に確認する。安易に「不要」と決めつけない

外為法2027年改正で何が変わるか|2027年1月4日施行予定の主要改正

このセクションの要点:改正の柱は、財務省の整理によれば、Ⅰ 審査の効率化・実効性確保(リスク軽減措置の明確化、間接的な投資の捕捉)、Ⅱ 安全保障等の環境変化への対応(外国政府等の支配・影響下にある投資活動の捕捉、非指定業種への投資に関するリスク対応措置)、Ⅲ 省庁横断的な執行体制の強化(関係行政機関への意見照会)の3つです。Ⅲ以外は2026年10月1日時点で未施行です。
改正項目現行2026年10月1日時点改正後主な根拠施行
リスク軽減措置届出事項として法律上明記されておらず、審査の過程で個別に対応届出事項として明確化。変更時は変更届出、勧告・命令の対象にも改正後27条1項4号、27条の3、27条の42027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用
間接取得海外の親会社レベルの買収は原則として対象外日本企業の株式等を保有する外国法人等の支配権取得を対内直接投資等に追加改正後26条2項9号・10号、26条5項2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用
外国政府等の影響下にある国内投資家議決権支配・名義借り等に当たらない限り捕捉は限定的非居住者等のために行う投資について、みなし外国投資家の類型を具体化改正後27条14項、27条の2第7項等2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用
非指定業種への投資のリスク対応事後報告のみで、勧告・命令はできない特にリスクの高い外国投資家の一定の投資について、投資後5年間の報告徴求・処分等の勧告・命令改正後29条の22027年1月4日施行・同日以後の投資に適用
関係行政機関への意見照会—国の安全等の観点から必要な場合に、内閣総理大臣・外務大臣その他の関係行政機関の長への意見照会を義務付け69条の4施行済(2026年6月5日。投資後報告に係る3号は2027年1月4日)
事前届出業種・重要技術・合理化現行の指定業種・コア業種告示重要技術保有法人の指定、情報通信技術関連業種の限定、コア業種の追加、役員重任の届出合理化等改正政令・命令・告示(2026年9月16日公布)2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用

リスク軽減措置の届出事項化と変更届出

改正後の外為法27条1項は、事前届出事項を、事業の目的、金額、実行の時期に加え、「当該外国投資家による当該対内直接投資等に係る会社の経営への関与の制限その他の……事態を生ずるおそれをなくするための措置」(国の安全等に係る措置)と法律上明記します(同項4号。外国投資家がこの措置を講ずる場合に限る)。財務省は、これを「リスク軽減措置」と呼び、例として「外国投資家が外国政府等の影響を受けて投資対象事業の遂行に関与しないこと」を挙げています。

  • 審査中の自発的修正:禁止期間中に、届け出たリスク軽減措置の修正を届け出ることができます。禁止期間の起算点は当初の届出受理日のままですが、残りが修正届出の受理日から14日未満となる場合は、14日を経過する日まで禁止期間とされます(改正後27条の3)。
  • 投資後の変更届出:禁止期間満了後に、届け出たリスク軽減措置を変更しようとするときは、あらかじめ変更の届出が義務付けられます。変更届出も審査され、必要な場合は変更の中止や新たなリスク軽減措置が勧告・命令されます(改正後27条の4)。
  • 勧告・命令の対象:投資内容の変更・中止だけでなく、リスク軽減措置に関する修正についても勧告・命令できることが明確化されます(改正後27条5項・10項)。

財務省は、リスク軽減措置の類型や具体例をガイドライン等で示す方針を示しています。概要資料では、外国政府による影響(議決権行使で外国政府等の影響を受けない旨)、重要な事業の廃止・縮小(特定事業の廃止・縮小等の提案を行わない旨)、機微技術・情報の流出(秘密情報の取得や第三者への開示提案等を行わない旨)といったイメージが示されています。投資を受ける日本企業側も、リスク軽減措置の内容が自社のガバナンスや情報管理にどう影響するかを確認しておくべきです。

海外法人等を介した「間接取得」の規制

改正後の外為法26条2項9号・10号は、日本企業の株式・議決権を保有する外国法人等(直接保有法人等。改正後26条5項)を、別の外国投資家(間接取得者)が買収等により支配することを通じて、日本企業の株式等を間接的に取得する行為を、対内直接投資等に加えます。財務省の概要資料と改正法・改正政令に基づくと、要件は次のように整理できます。

要素内容根拠
対象行為①直接保有法人等(又はその親会社等)の議決権を、間接取得者とその同一グループ(間接取得者に議決権の50%以上を直接保有される法人など、政令で定める者)が合算して新たに50%以上保有することとなる取得。事業活動を支配する目的がある場合は、投資一任契約等に基づく議決権行使等権限も含む改正後26条2項9号、改正後政令
対象行為②直接保有法人等(又はその親会社等)の役員選任に係る議決権の行使により、間接取得者側の関係者が新たに役員又は代表権を有する役員の過半数を占めることとなるもの改正後26条2項10号、改正後政令
対象行為③①②に準ずる行為として政令で定めるもの(議決権行使等権限の50%以上の取得、共同議決権行使への同意、いわゆる黄金株の取得、特定組合類似団体の業務執行組合員の過半数を占める行為等)改正後26条2項11号、改正後政令
直接保有法人等の要件非上場の日本企業の株式・持分を保有している外国法人等、又は間接取得者側と直接保有法人等側の保有分を合算して上場会社等の株式・議決権が1%以上となる外国法人等改正後26条2項9号イ〜ハ、改正後政令(率は1%)
事前届出が必要となる日本企業の保有割合(一般の外国投資家)間接取得の結果、日本企業の株式・議決権を合算で50%以上保有することとなる場合(50%未満は政令で事前届出不要)財務省概要資料、改正後政令
事前届出が必要となる日本企業の保有割合(類型的に特にリスクの高い投資家)事前届出免除制度を利用できない投資家(外国政府等・国有企業等、特定外国投資家等)が間接取得者の場合は、上場会社等は1%以上、非上場会社は閾値なし財務省概要資料、改正後政令
グループ内取引類型的に特にリスクの高い投資家以外によるグループ内取引等は事前届出不要財務省概要資料、改正後政令
業種要件日本企業(その子会社等を含む)が指定業種を営む場合や、改正後に重要技術を保有する場合に事前届出の対象となり得る改正後27条1項、改正後政令・命令・告示
適用開始施行日から30日を経過した日(2027年2月3日)以後に行う間接取得に適用改正法附則3条1項

海外会社を買収したら日本企業株式を保有していた場合の確認フロー

グローバルM&Aでは、「海外の会社を買収したところ、その会社が日本企業の株式を持っていた」というケースが珍しくありません。現行法では、このような海外での親会社レベルの買収は原則として対内直接投資等に当たりませんが、2027年2月3日以後に行う取引については、次の順序で確認が必要になります2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用。

買収対象の海外会社(とその子会社等)は日本企業の株式・持分・議決権を保有しているか?
↓ 保有している(非上場会社株式、又は合算で上場会社等の1%以上)
買主は外国投資家か? 外国政府等・国有企業等、特定外国投資家等に当たるか?
↓
買収により海外会社(又はその親会社等)の議決権50%以上を新たに取得するか/役員の過半数を占めるか/これに準ずる行為か?
↓ 該当(非該当なら間接取得としては対象外)
グループ内取引等の除外に当たるか?
↓ 当たらない
日本企業の保有割合は閾値以上か?(一般の投資家:50%以上/特にリスクの高い投資家:上場1%以上・非上場は閾値なし)
↓ 閾値以上
日本企業・その子会社等は指定業種を営むか、重要技術を保有するか? 免除制度を使えるか?
↓
事前届出の要否を確定(海外のクロージング日程と待機期間を連動させる)

この確認は、海外のディール・チームだけでは完結しません。買収対象の海外会社が日本に持っている出資先・子会社の情報や、その日本企業の事業内容・保有技術を早期に把握する必要があります。日本側の法務担当者が、グローバルディールの初期デューデリジェンスに関与することが重要になります。

外国政府等の支配・影響下にある国内投資家の取扱い

財務省は、類型的に特にリスクが高い非居住者等(事前届出免除制度を使えないもの。外国政府をはじめとする投資家)の支配・影響下において、当該非居住者等のために外国投資家以外の日本企業・国内居住者が行う投資活動を、事前届出等の対象とすると説明しています。改正法は、このための「みなし外国投資家」の類型を次のように定め、具体的な範囲を政令に委ねています(改正後27条14項)。

類型(改正後27条14項)改正後政令で具体化された主な内容
1号:非居住者等の計算において行われるもの(法律で規定)
2号:契約又は外国の法令その他これに類するものに基づき行われるもの非居住者等との投資の委託契約に基づくもの、非居住者等との契約に基づき外国政府等の情報収集活動に協力する義務を負う者がその非居住者等の指示に基づき行うもの、外国の法令等に基づき外国政府等の情報収集活動に協力する義務を負う者がその外国政府等の指示に基づき行うもの
3号:非居住者等と政令で定める特別の関係にある者により行われるもの特別の関係=非居住者等側が議決権の50%以上を直接・間接に保有する法人、配偶者・直系血族、雇用関係、生計維持関係、外国政府等の情報収集活動への協力義務、役員の過半数を占める法人等。そのうえで、非居住者等の指示に基づくもの、指示に基づき特定事業の譲渡・廃止を目的とするもの、非居住者等への事業譲渡や一定の特定技術の提供を目的とするもの等に限定

ここで重要なのは、「外国と関係がある日本法人は、すべて外国投資家とみなされる」わけではないという点です。改正後も、みなしの対象は「非居住者等のために、その名義によらないで行う投資」のうち、法律と政令が定める類型に限られます。また、外国投資家とみなされる者が類型的に特にリスクの高い非居住者等のために行う一定の投資については、免除制度を利用できないこととされています(改正後の対内直接投資等に関する政令3条の2)。単に外国企業と取引がある、外国人の株主や従業員がいる、といった事情だけで直ちにこの類型に当たるものではありません。個別の判断は、政令・命令の文言と、今後公表される当局の解説資料に照らして行ってください。

非指定業種への投資に対する投資後の報告要求・勧告・命令

現行制度では、非指定業種を営む日本企業への投資は、株式・議決権取得比率が10%以上となる場合等に事後報告を求めるのみで、勧告・命令等の措置を講じることはできません。改正後の外為法29条の2は、この点に対応する仕組みを新設します。

  • 対象:事前届出の対象でない投資(非指定業種への投資)のうち、将来、国際情勢の変化その他の事由により、国の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいものに該当するおそれが大きいものとして政令で定めるもの。財務省は、対象を類型的に特にリスクの高い外国投資家(外国政府をはじめとする事前届出免除制度が利用できない外国投資家)による株式・議決権の10%以上の取得等に限定すると説明しています。
  • 報告の求め:特に必要があると認めるときは、事業の目的や保有株式数等の報告を求めることができます。期間は投資実行日から5年を経過する日までです(改正後29条の2第1項・11項)。
  • 勧告・命令:国の安全に係る投資に該当すると認めるときは、関税・外国為替等審議会の意見を聴いて、取得した株式等の全部又は一部の処分その他必要な措置を勧告でき、応諾しない場合は命令できます(同条2項〜6項)。報告に応じない・虚偽報告の場合も勧告等の対象となります(同条3項)。
  • 緊急措置:国の安全を損なう事態を生ずるおそれが著しく大きく緊急の必要がある場合は、新たな投資を行わないこと等を命ずることができます(同条9項)。
  • 適用:施行日(2027年1月4日)以後に行う投資について適用されます(改正法附則3条6項)。

関係行政機関への意見照会と対日外国投資委員会(JFIC)

外為法69条の4は、財務大臣及び事業所管大臣が、対内直接投資等の審査等に当たり、国の安全等に係るものに該当するかどうかを確認するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣、外務大臣その他の関係行政機関の長の意見を求めなければならないと定めます。この規定は公布日(2026年6月5日)から施行済みです(投資後の報告徴求に係る同条3号は2027年1月4日施行予定)。

これを実務上支える組織として、2026年6月29日に対日外国投資委員会(JFIC:Japan Foreign Investment Committee)が設置されました。財務省によれば、JFICは外為法69条の3及び69条の4に基づく審査等に係る関係機関の協力・連携を推進するための省庁横断的な体制で、財務省と国家安全保障局(NSS)を共同議長、外務省・経済産業省・防衛省を主構成員とし、その他の事業所管官庁等が参加します。扱う案件は、投資先の業種や保有技術、外国投資家の属性(外国政府との関係など)、投資の態様(取得する議決権の割合など)等から総合的に判断するとされています。

JFICは届出の窓口ではなく、届出・報告の手続そのもの(日本銀行経由で財務大臣・事業所管大臣に提出)は変わりません。ただし、案件によっては関係省庁の意見照会を経るため、審査に時間を要する可能性を織り込んでおくことが現実的です。

政省令・告示の見直し|重要技術・情報通信技術関連業種・役員重任

財務省が2026年9月に公表した「2027年(令和9年)施行 外為法改正 関連資料」には、概要資料、パブリックコメントへの考え方、法律・政令の新旧対照表、改正命令、改正告示が掲載されています。政省令・告示の主なポイントは次のとおりです(いずれも2027年1月4日施行・原則として2027年2月3日以後に行う投資等に適用)。

項目改正後の内容(要旨)根拠資料
重要な技術の保有に着目した指定外為法上の技術管理の対象となっている「技術」を保有する法人を、業種ではなく技術に着目して事前届出(コア)の対象に指定。告示では、外国為替令別表1項〜15項の設計・製造・使用に係る技術、及び16項の技術のうち重要管理対象技術を定めている(公知の技術等を除く)令和8年9月16日告示(技術又は情報を定める件)、財務省概要資料
情報通信技術関連業種の見直し「ソフトウェア業等」について、コア業種に該当するものは原則として現行の取扱いを維持しつつ、コア業種以外は、経済安全保障推進法上の重要なインフラ・物資等に関係するものや、大量の個人情報・営業秘密として管理される技術情報等を扱うものなどに限定列挙し、その他は非指定業種化令和8年9月16日改正告示、財務省概要資料
コア業種の追加経済安全保障推進法の特定重要物資に係る製造業(磁気センサー、船体)、電気・ガスの小売事業者(大規模なものに限る)をコア業種に指定同上
指定業種の追加・削除医療法改正により指定された「重要供給確保医薬品」等に係る製造業を指定業種に追加。ペット飼育業は非指定業種化同上
役員の重任事前届出を経て就任した役員等の重任は、原則として事前届出不要。ただし、届出者が免除制度を利用できない場合や、役員等の所在国・国籍・兼職先の変更、発行会社・子会社の指定業種の変更、届出者の所在国・国籍や指定業種への関与方針の変更等の事情変更がある場合は引き続き事前届出が必要改正政令・命令、財務省概要資料
その他の合理化日本企業の100%海外子会社による投資で実質的に日本企業グループ内の組織再編にすぎない場合、居住者外国投資家の自己株式取得で反射的な変動が限定的な場合、特定上場会社等の孫会社以下による投資について、事前届出を不要とする改正政令・命令、財務省概要資料
届出・報告様式法改正に対応する様式の追加・修正のほか、届出者・発行会社・出資者・届出者の事業方針等に影響を及ぼす者に関する事項を、届出時点の添付書類として提出する方式に見直し改正命令、財務省概要資料

特に「重要技術」の追加は、これまで「当社は指定業種ではない」と整理していた会社にも影響し得ます。財務省は、今回の見直しで届出対象となる事業を営む企業の多くは既に指定業種に係る事業を営んでいるため、届出件数への影響は限定的となる見込みとしていますが、輸出管理上の該非判定で規制技術に該当すると判断している技術を保有している会社は、改正後の事前届出対象性を必ず確認してください。

取引類型ごとの整理|現行法と2027年改正後

このセクションの要点:株式取得・増資・事業譲受け・役員選任といった取引類型ごとに、現行法の基本と、2027年改正で変わる点を整理します。詳細な判定は第3話以降で扱います。
取引類型現行基本的な考え方2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用改正後の主な変化
非上場会社株式の取得(譲受け)外国投資家以外からの取得は、比率にかかわらず対象取引(26条2項1号)。外国投資家間の譲受けは「特定取得」(26条3項)として別途規律指定業種に加え重要技術保有の確認。届出時のリスク軽減措置の記載
増資の引受け(非上場会社)新株の取得も株式の取得として対象取引になり得る。1株でも対象同上。既存の外国株主の持分にも注意
上場会社株式・議決権の取得取得後の比率(密接関係者分を含む)が1%以上となる場合に対象取引(26条2項3号・4号)。指定業種以外は10%以上の取得等で事後報告重要技術保有の確認。特にリスクの高い外国投資家による非指定業種への10%以上の取得等は投資後報告徴求の対象となり得る
事業の譲受け・吸収分割・合併による承継国内法人等からの事業の承継が対象取引(26条2項8号)同上のほか、非指定業種でも特にリスクの高い外国投資家による一定の承継は投資後報告の対象となり得る(29条の2)
役員選任等への同意外国投資家自ら又はその関係者が役員に就任する議案への同意等は、指定業種では事前届出の対象となり得る。重任ごとの届出が論点に事前届出を経て就任した役員の重任は原則届出不要(事情変更や免除制度非利用者の場合を除く)
海外の親会社レベルの買収(間接取得)原則として対象外日本企業株式等を保有する外国法人等の支配権取得が対象取引に(26条2項9号・10号)。2027年2月3日以後の取引に適用
国内法人・居住者を通じた投資居住者外国投資家(26条1項3号等)や、外国投資家のための名義によらない投資(みなし)を規律非居住者等のために行う投資のみなし類型を具体化(27条14項等)

日本企業側の法務担当者が最初に準備すべき資料

このセクションの要点:外為法手続は形式的には外国投資家側の義務ですが、要否判定に必要な情報の多くは対象会社側にあります。2027年改正後は、事業内容に加えて保有技術の情報も重要になります。
資料確認する理由注意点
定款事業目的から指定業種該当の手がかりを得る定款の事業目的は出発点にすぎない。実際の事業との一致・不一致を確認
登記事項証明書会社の基本情報・役員・資本の状況を確認最新の登記内容を取得する
会社案内・事業説明資料実際に営んでいる事業の内容を把握する定款にない事業を実態として行っていないか確認
売上構成資料(セグメント別)どの事業が主力かを把握し、指定業種の関与度を見る少額・補助的でも指定業種に触れていないか確認
子会社一覧・グループ図子会社等の事業まで含めて指定業種該当を判断する対象会社本体だけでなく子会社等の事業も対象になり得る
許認可一覧規制業種・インフラ関連事業の有無を把握する電気・ガス小売など、改正でコア業種化される事業にも注意
研究開発・技術関連資料重要技術・非公開技術情報の有無を把握する技術流出懸念は審査の中心論点になり得る
輸出管理の該非判定資料外国為替令別表の規制技術・重要管理対象技術の保有状況を確認する2027年1月4日施行・2月3日以後の投資等に適用重要技術保有法人として事前届出(コア)の対象になり得る
主要取引先一覧官公庁・インフラ事業者との取引の有無を確認する取引先の性質が指定業種・コア業種の判断材料になることがある
株主構成(資本構成)既存の外国投資家の有無・持分、自社が居住者外国投資家に当たるかを把握する今回の投資と合算した比率が問題になることがある
海外株主・海外親会社の情報改正後の間接取得の可能性を把握する海外株主自身が買収される場合、日本企業側も届出への協力を求められ得る
予定取引の概要資料・M&Aスケジュール案取引スキームを特定し、待機期間を織り込んだ日程を組む2027年2月3日の全面適用日をまたぐ日程は特に注意

これらは、外為法手続のためだけでなく、デューデリジェンスや他の許認可(独占禁止法上の企業結合届出など別制度の確認を含む)にも活用できます。改正後の届出では、発行会社の沿革・事業内容、事前届出業種に該当する事業の具体的な内容等を添付書類として提出することが想定されているため、早めに整理しておくほど後工程で慌てずに済みます。

よくある誤解

誤解実際の考え方注意点
外為法は輸出管理だけの法律である外為法は対外取引全体を管理する法律で、対内直接投資規制も含む2027年改正後は、輸出管理上の規制技術の保有が投資規制にも影響する
買主が日本法人なら外為法は関係ない外国法人等に議決権の50%以上を直接・間接に保有される日本法人等は、現行法でも外国投資家に当たる改正後は、非居住者等のために一定の態様で投資を行う日本法人・国内居住者も外国投資家とみなされ得る
外国と関係がある日本法人は全部外国投資家になる外国投資家に当たるのは、26条1項各号の要件や、みなし規定の類型に当たる場合に限られる取引関係・一部の外国人株主・外国籍従業員だけでは該当しない
外国投資家に当たれば必ず事前届出が必要対象取引、指定業種・重要技術、免除制度を順に確認して手続が決まる事後報告や手続不要で足りる場合も多い
非上場会社・少額出資なら外為法は関係ない非上場会社は1株でも対象取引になり得て、上場会社も1%以上で対象となり得る「少額だから大丈夫」は成り立たない
海外の親会社が買収されても日本の子会社には関係ない現行法では原則対象外だが、2027年2月3日以後の取引は間接取得として事前届出の対象になり得るグローバルM&Aでも日本の出資先・子会社の確認が必要
事後報告で済む投資は当局が後から何もできない改正後は、特にリスクの高い外国投資家の一定の非指定業種投資について、投資後5年間の報告徴求・処分勧告等が可能に投資家属性の確認は非指定業種でも重要
外為法の改正はまだ法案段階である改正法は2026年6月5日に公布済み。主要部分は2027年1月4日施行予定現時点で未施行の制度を現行法として扱わないことも同じくらい重要
定款だけ見れば指定業種は判断できる実際の事業・子会社等の事業まで確認が必要改正後は保有技術の確認も必要
ハイテク・防衛産業でなければ無関係永久磁石・肥料・重要鉱物資源などの製造業・輸入業や、電力・通信・鉄道など重要インフラの周辺事業も指定業種・コア業種に含まれ得る改正後は磁気センサー、船体、大規模な電気・ガス小売などもコア業種に
改正動向に関する整理(2026年10月1日時点):対内直接投資規制は、経済安全保障政策の高まりを背景に頻繁に見直されています。2019年改正(2020年施行)で事前届出免除制度が導入され、上場会社の株式取得の閾値が10%から1%に引き下げられました。2025年5月施行の政省令・告示改正では、外国政府の情報収集活動に協力する義務を負う投資家等を事前届出免除制度の利用できない投資家に加える見直し等が行われ、現在施行されています。そして、2026年6月5日に公布された改正法(令和8年法律第30号)と、2026年9月16日に公布された関係政省令・告示により、間接取得の規制、リスク軽減措置の届出事項化、みなし外国投資家の見直し、非指定業種への投資に対する投資後の報告徴求等、事前届出業種・重要技術の見直しが2027年1月4日に施行予定です(新しい届出ルールの多くは2027年2月3日以後の投資に適用)。関係行政機関への意見照会(法69条の4)は施行済みで、JFICも設置済みです。日本銀行の「外為法Q&A(対内直接投資・特定取得編)」は2026年10月1日時点で令和7年11月現在の改訂版が掲載されており、改正後の手続の詳細は、今後の様式・記入の手引・Q&Aの改訂を確認してください。

この記事のまとめ

  • 外為法は輸出管理だけの法律ではなく、外国投資家による日本企業への出資・M&A・事業承継にも関係する。
  • 外為法改正法は2026年6月5日に公布済みで、対内直接投資審査制度の主要改正は2027年1月4日施行予定。新しい届出ルールの多くは2027年2月3日以後の投資に適用される。2026年10月1日時点では未施行の部分を、現行法と混同しない。
  • 外為法26条1項の外国投資家には、外国法人等に議決権の50%以上を直接・間接に保有される日本法人なども含まれる。ただし、外国との関係があるだけで外国投資家になるわけではない。
  • 判定は①外国投資家 → ②対象取引 → ③指定業種・重要技術 → ④免除制度 → ⑤事前届出/事後報告/手続不要の順で行う。外国投資家に当たることと事前届出が必要なことは別問題。
  • 2027年改正では、間接取得、リスク軽減措置、外国政府等の影響下にある国内投資家、非指定業種への投資後の報告徴求、重要技術に着目した事前届出、役員重任の合理化などが変わる。
  • 事前届出が必要な場合はクロージング日程に直接影響するため、契約締結前に要否を見立て、前提条件・誓約・解除権・ロングストップ日で手当てする。
  • 投資を受ける日本企業側も、事業内容・子会社・許認可・技術情報(輸出管理の該非判定を含む)・株主構成を早めに整理する。
  • 次回・第2話では、最初の判定軸である「外国投資家とは誰か」を、間接保有や日本法人子会社の扱いまで含めて掘り下げる。最終話(第10話)では実務チェックリストを提供する。

シリーズ記事一覧

本シリーズ「外為法・対内直接投資の実務10選」の全10話は次のとおりです。

回記事タイトル主なテーマリンク
第1話外為法の対内直接投資とは?日本企業への出資・M&Aで最初に見るべき規制全体像・判定順序・2027年改正(本記事)本記事
第2話外国投資家とは誰か|海外企業・外国ファンド・日本法人子会社の判定ポイント外国投資家の定義・間接保有第2話を読む
第3話外為法の対象になる取引とは?株式取得・増資・事業譲受・合併・会社分割を整理対象取引の類型第3話を読む
第4話外為法の指定業種・コア業種とは?M&Aで対象会社・子会社まで確認する方法指定業種・コア業種の確認第4話を読む
第5話外為法の事前届出・事後報告・手続不要の違い|M&A担当者向け判定フロー要否判定フロー第5話を読む
第6話上場会社への出資と外為法|1%基準・議決権取得・事前届出免除制度の基本上場会社・1%基準・免除第6話を読む
第7話非上場会社の買収・スタートアップ出資と外為法|1株取得でも確認が必要な理由非上場会社・閾値なし第7話を読む
第8話外為法の待機期間はどれくらい?30日・2週間・5営業日・最大5か月の考え方待機期間の実務第8話を読む
第9話M&A契約で外為法をどう扱うか|前提条件・誓約事項・解除権・ロングストップ日の実務契約条項での手当て第9話を読む
第10話外為法・対内直接投資チェックリスト|外国投資家から出資を受ける前に確認すること実務チェックリスト第10話を読む

参照した主な公的資料

本記事は、以下の法令・公的資料(一次情報)を参照して整理しています。数値・分類・手続は改定され得るため、実際の確認時には各資料の最新版をご参照ください。

免責:本記事は2026年10月1日時点の一般的な情報提供を目的とした解説であり、特定の取引に関する法的助言ではありません。2027年1月4日施行予定の改正内容は、施行前の解説資料・ガイドライン・様式の公表等により運用の詳細が明らかになる部分があります。実際の届出・報告の要否や手続は、投資家の属性、取引の内容、対象会社・子会社の事業や保有技術、指定業種該当性、免除制度の利用可否、最新の法令・告示・当局実務によって異なります。個別の案件については、最新の公的資料を確認のうえ、外為法・M&A実務に精通した専門家にご相談ください。