第三者からの告発は公益通報になる?公益通報者保護法との関係

  • 企業不祥事の初動対応|第3話 / 全15話
  • カテゴリー:コンプライアンス・規程対応
  • 法令・情報基準日:2026年9月5日
注意本記事における「現行法」の意味

本文中の「現行法」は、法令・情報基準日(2026年9月5日)時点で施行されている公益通報者保護法(令和2年改正後の法律)を指します。2026年12月1日施行の改正法(令和7年法律第62号)は、基準日時点では施行前です。改正後の内容を説明する箇所には、その旨を明記しています。

ある朝、法務部の共通アドレスに、次のメールが届きました。

受信メール(本文)

私は御社の取引先であるA社の社員です。御社○○工場で法令に反する処理が行われています。私はA社の業務としてその工場で作業しており、現場で確認しました。

受信した担当者は、こう考えました。

「この人は当社の社員ではない。だから公益通報者保護法は関係ないのでは」

この判断は早すぎます。公益通報者保護法は、自社の従業員だけを対象とする法律ではありません。A社が当社との契約に基づいて事業を行い、送信者がその事業に従事している労働者であれば、当社は送信者にとっての「役務提供先」に当たり得ます。その場合、このメールは、見た目は「社外から届いた告発」でも、法律上は当社内部への公益通報として整理され得ます。

一方で、社外から届いた告発がすべて公益通報になるわけでもありません。近隣住民や一般消費者からの指摘は、その属性だけでは公益通報者保護法上の「公益通報」に当たらないのが通常です。ただし、それは会社がその情報を放置してよいという意味ではありません。

本記事では、第三者から届いた告発を、「公益通報に当たり得るか」という法的な切り分けと、「会社として調べるべきか」という実務判断の二段階で整理します。

この記事の結論/まず押さえること
  • 公益通報に当たるかは「会社の外の人か」では決まりません。通報者の法的属性、役務提供先との関係、通報対象事実、通報先その他の法定要件によって決まります。
  • 取引先の従業員・役員も、一定の要件の下で公益通報の主体になり得ます。
  • 取引先従業員が告発先企業そのものに通報した場合、法律上は「事業者内部への通報」となり得ます。
  • 公益通報者保護法の対象外であることと、会社がその情報を無視してよいことは別問題です。
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第三者からの告発でも公益通報になる場合がある

公益通報者保護法2条1項は、「公益通報」を、法律が列挙する者が、不正の目的でなく、自分の「役務提供先」(又はその事業に従事する役員・従業員・代理人その他の者)について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、一定の通報先に通報すること、と定めています。

したがって、判断の軸は「社内の人か、社外の人か」ではありません。次の5つです。

【図1】公益通報該当性の5要素

要素 1 誰が通報したか 法2条1項各号に掲げる者か(労働者・派遣労働者・一定の退職者・役員・取引先の労働者等)
要素 2 誰についての不正か その人の「役務提供先」又はその事業に従事する役員・従業員等についての事実か
要素 3 何を通報したか 「通報対象事実」(対象法律の罪・過料の理由となる事実等)か
要素 4 どこへ通報したか 役務提供先等/権限を有する行政機関等/その他の外部 のどれか
要素 5 保護要件を満たすか 不正の目的でないこと+通報先ごとの要件

「第三者」をひとくくりにしない

会社から見れば同じ「社外の人」でも、公益通報者保護法上の立場は大きく異なります。まず、次の4グループに分けて考えます。

  • 自社と直接関係する人:自社の労働者、自社が受け入れている派遣労働者、通報日前1年以内に退職した元労働者、派遣終了後1年以内の元派遣労働者、自社の役員
  • 取引関係を通じて関係する人:取引先の労働者・派遣労働者で、取引先が自社との契約に基づいて行う事業に従事している者(通報日前1年以内に従事していた者を含む)、同様の事業に現に従事している取引先の役員
  • 2026年12月1日から加わる人(施行前):一定のフリーランス(特定受託業務従事者)と、業務委託の終了後1年以内の者
  • 通常はその属性だけでは主体にならない人:一般消費者、近隣住民、単なる顧客、従業員の家族、取引先法人そのもの、株主であるというだけの者、競合事業者であるというだけの者

最後のグループでも、その人が別に「労働者」「役員」「取引先の事業に従事する労働者」などの資格を持っていれば結論は変わります(近隣住民が自社工場のパート社員である場合など)。名乗りや肩書ではなく、実際の法的関係を確認することが出発点です。

そもそも誰が公益通報者になれる?

現行法で公益通報の主体となり得るのは、法2条1項1号から4号に掲げる者です。各号には、その人にとっての「役務提供先」が対になって定められています。

【表1】現行法における公益通報の主体と役務提供先(2026年9月5日時点)

条文 主体 その人の役務提供先
法2条1項1号労働者(労働基準法9条の労働者)、労働者であった者自らを使用する事業者、又は通報日前1年以内に自らを使用していた事業者
法2条1項2号派遣労働者、派遣労働者であった者労働者派遣の役務の提供を受ける(通報日前1年以内に受けていた)事業者=派遣先
法2条1項3号同項1号・2号の事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて行う(行っていた)事業に従事する(通報日前1年以内に従事していた)労働者・派遣労働者等当該「他の事業者」=取引先
法2条1項4号役員イ:その役員に職務を行わせる事業者/ロ:イの事業者が他の事業者との契約に基づいて事業を行う場合に、その役員が当該事業に従事するときの当該「他の事業者」

押さえておきたい補足は次のとおりです。

  • 「労働者」は労働基準法9条の労働者で、正社員に限らず、パートタイマー、アルバイト、派遣労働者なども含まれ、公務員も原則として含まれます(消費者庁「通報者の方へ」)。
  • 「役員」は、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人のほか、法令の規定に基づき法人の経営に従事している者(会計監査人を除く)です。いわゆる執行役員は、この定義に当たらなければ「役員」ではありませんが、労働契約を結んでいれば労働者として主体になり得ます(消費者庁「公益通報者に関するQ&A」)。
  • 条文上、役員には「役員であった者」の定めがなく、退職者のような1年間の延長はありません。
  • 退職者の範囲(「通報日前1年以内」の数え方、在職中に知った事実の扱いなど)は、第4話「元従業員から会社の不正を告発されたら?退職者からの通報への対応」で詳しく扱います。

取引先の従業員も公益通報者になり得る

「役務提供先」=その人が仕事として役務を提供している先

「役務提供先」という言葉は難しく聞こえますが、感覚としては「その人が仕事として役務を提供している先」です。自社の従業員にとっては自社、派遣労働者にとっては派遣先がそれに当たります。

そして消費者庁は、雇用元(又は派遣先)と取引先との請負契約等に基づいてその取引先で働いている場合には、取引先事業者が役務提供先になると説明しています(消費者庁「公益通報者保護法に関するQ&A(基本的事項)」Q4)。

冒頭のメールに当てはめると、次のようになります。

【図2】「役務提供先」の関係図

関係 1 A社(取引先・Xの雇用主)── 雇用 ──▶ 社員X A社はB社(当社)と請負契約・業務委託契約などを締結している
関係 2 社員X ── A社の業務として ──▶ B社(当社)○○工場で作業 XはA社とB社の契約に基づく事業に従事している
関係 3 社員X ── 通報 ──▶ B社(当社)
Xにとっての役務提供先:A社法2条1項1号(Xを使用する事業者)
Xにとっての役務提供先:B社法2条1項3号(A社が契約に基づいて事業を行う相手方)
図2の読み方

B社から見ればXは「他社の社員」です。しかし法律上は、B社を役務提供先とする公益通報の主体になり得ます。

取引先従業員が主体になるための3つの確認点

  1. A社とB社の間に「請負契約その他の契約」がある(又はあった)か
    請負契約に限られません。消費者庁の制度説明資料は、卸売業者などとの継続的な物品納入契約、清掃業者などとの継続的な役務提供契約、コンサルティング会社などとの継続的な顧問契約の相手方も「取引先事業者」に含まれる例として挙げています。
  2. Xがその契約に基づく事業に従事している(又は通報日前1年以内に従事していた)か
    A社の社員であっても、B社向けの業務に関与していない人は、B社との関係で法2条1項3号の主体にはなりません。
  3. 通報内容がB社(又はB社の事業に従事する役員・従業員等)についての通報対象事実か

具体的には、次のような場面が考えられます。

  • 清掃会社の従業員が、清掃を受託している工場で違法な処理を目撃し、工場を運営する委託元に通報する
  • 物流会社の従業員が、継続的に運送を受託している荷主企業の出荷現場で法令違反の疑いを把握し、荷主に通報する
  • コンサルティング会社の従業員が、顧問契約に基づく支援業務の中で顧客企業の不正を知り、顧客企業に通報する

いずれも、契約関係の実態と従事関係によって結論が変わります。「取引先の社員だから対象外」とも、「取引先の社員なら必ず公益通報者」とも言えません。

もう一つの意外なポイント:契約内容と無関係な違反でもよい

注意契約内容と無関係でも公益通報になり得る

消費者庁は、取引先(B社)で生じている法令違反が、A社・B社間の契約内容と無関係であっても、それが通報対象事実に当たれば、B社への通報は公益通報になり得るとしています。例として、清掃業務に従事する労働者が、清掃の委託元で危険物の不適切な管理を発見して委託元に通報する場合が挙げられています(消費者庁「通報対象事実(通報の内容)に関するQ&A」)。

「清掃の契約とは関係ない話だから、公益通報ではない」という整理は誤りになり得ます。

取引先従業員から公益通報を受けたB社側の法的な意味

  • XのB社への通報は、B社にとって「役務提供先等への公益通報」(法3条1号の通報、いわゆる1号通報。法定指針上の「内部公益通報」)となり得ます。そのため、法11条に基づく内部公益通報対応体制(常時使用する労働者が300人超の事業者は義務、300人以下は努力義務)の射程に入ります。
  • B社は、公益通報によって損害を受けたことを理由として、Xに損害賠償を請求できません(法7条。名宛人は「法2条1項各号に定める事業者」で、Xにとっての役務提供先B社も含まれます)。
  • 解雇の無効(法3条)や降格・減給等の不利益取扱いの禁止(法5条1項)の名宛人は、主としてXを雇用するA社です。現行法には、B社がA社との請負契約等を打ち切ることを直接無効とする規定は、労働者派遣契約の解除(法4条)を除いて置かれていません。
この対応は避ける取引先への交代要求など、報復的な対応

規定がないからといって、報復的な対応が許容されるわけではありません。消費者庁の指針の解説は、取引先の労働者等から通報を受けた場合、通報に係る秘密保持に十分配慮しつつ、可能な範囲で、取引先に公益通報者のフォローアップや保護を要請することなどが望ましいとしています(推奨事項)。「A社にXの交代を求める」といった対応は、通報者保護の趣旨に真っ向から反し、紛争・レピュテーションの両面で重大なリスクになります。

「社外から来た=外部通報」ではない

多くの企業担当者は、次のように整理しがちです。

  • 自社従業員から会社への通報=内部通報
  • 社外の人から会社への通報=外部通報

しかし、公益通報者保護法上の「内部/外部」は、通報者が物理的に会社の内側にいるかどうかでは決まりません。その人の役務提供先から見て、どこへ通報したかで整理します。

【表2】通報先による整理(現行法3条)

通報先 法の整理 保護要件の目安(労働者の場合)
役務提供先、又は役務提供先があらかじめ定めた者(外部委託の通報窓口等)事業者内部への通報(法3条1号、いわゆる1号通報)通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると「思料する」場合
処分・勧告等の権限を有する行政機関等行政機関への通報(法3条2号、いわゆる2号通報)「信ずるに足りる相当の理由」がある場合、又は「思料」したうえで氏名・住所等を記載した書面を提出する場合
発生・被害拡大の防止に必要と認められる者(報道機関等)その他の外部への通報(法3条3号、いわゆる3号通報)「信ずるに足りる相当の理由」があり、かつ法定の事情(不利益取扱いのおそれ、証拠隠滅のおそれ等)がある場合

※役員については法6条で別の要件(調査是正措置に努めたこと等)が定められています。本記事では詳細を割愛します。

注意「○号」の表記について

本記事では、通報者の区分を「法2条1項○号」(例:取引先従業員=法2条1項3号)、通報先の区分を「法3条○号(いわゆる○号通報)」(例:報道機関等への通報=法3条3号、いわゆる3号通報)と書き分けています。同じ「3号」でも意味がまったく異なる点に注意してください。なお、2026年12月1日施行の改正法では、通報先の区分は法3条1項各号に、取引先の労働者等は法2条1項4号に、役員は同項5号に、それぞれ条項番号が変わります。

この整理に冒頭の事例を当てはめると、次のようになります。

  • XがB社(当社)に通報した場合:物理的には社外から届いたメールでも、B社にとっては事業者内部への通報(法3条1号の通報、いわゆる1号通報)となり得ます。B社が外部の法律事務所等を通報窓口として「あらかじめ定め」ていれば、その窓口への通報も同じです。
  • Xが報道機関に通報した場合:その他の外部への通報(法3条3号の通報、いわゆる3号通報)として、より厳しい保護要件が問題になります。
  • 一般消費者がB社に告発メールを送った場合:そもそも主体の要件を欠くため、法3条のいずれの通報にも当たりません。公益通報者保護法の枠外の「情報提供」です。

つまり、「社外から届いた通報は3号通報」という理解は、内部への公益通報を見落とす方向でも、公益通報でない情報を公益通報と誤認する方向でも、誤りになり得ます。

この人からの告発は公益通報になり得る?

通報者の属性ごとに、2026年9月5日時点の整理をまとめます。【表3】通報者別に見た公益通報の主体該当性

通報者 主体該当性 確認ポイント
自社の従業員(正社員・パート等)なり得る(法2条1項1号)通報対象事実・通報先など、その他の法定要件も必要
自社が受け入れている派遣労働者なり得る(法2条1項2号)派遣先である自社についての事実か
退職後1年以内の元従業員なり得る(法2条1項1号)「通報日」前1年以内か(詳細は第4話)
退職後1年を超えた元従業員主体としては対象外内容の調査要否は別に判断
取引先の従業員・派遣労働者なり得る(法2条1項3号)取引先が自社との契約に基づいて行う事業に従事しているか
元取引先従業員一定の場合なり得る(法2条1項3号)通報日前1年以内に当該事業に従事していたか
取引先の役員なり得る(法2条1項4号ロ)契約に基づく事業に「現に」従事しているか
退任した役員役員としては対象外使用人兼務だった場合など、労働者としての地位を別途確認
フリーランス(個人事業主)原則対象外/例外あり実態が労働基準法9条の労働者なら現行法でも対象となり得る。2026年12月1日改正に注意
一般消費者・顧客通常は対象外別資格の有無を確認。情報として調査すべき場合はある
近隣住民通常は対象外同上
従業員の家族家族自身は原則として対象外本人の承諾の下、本人の意思に基づく代行なら本人が保護対象となり得る
取引先法人そのもの原則対象外法人の従業員・役員は別途検討
株主株主であることだけでは対象外従業員・役員等を兼ねる場合は別
競合事業者競合であることだけでは対象外元従業員が転職している場合などは別資格を確認

表の「なり得る」は、主体の要件を満たし得るという意味にとどまります。公益通報に当たるかどうかは、役務提供先との関係、通報対象事実、不正の目的の有無、通報先ごとの要件をあわせて判断します。

家族が代わりに通報した場合は?

公益通報の主体として法2条1項が列挙しているのは、労働者、派遣労働者、一定の退職者、役員、取引先の事業に従事する労働者等です。従業員の家族は、それだけでは主体に含まれていません。

一方で消費者庁は、労働者の家族などの第三者が、当該労働者本人の承諾の下で本人の意思に基づいて通報を代行している場合には、その労働者が法の保護の対象となり得るとしています(消費者庁「公益通報者に関するQ&A」)。

CASE A 架空事例

妻が、夫から聞いた話をもとに、自分の判断で会社へ告発した。

→ 妻自身が公益通報者になるわけではありません。夫本人の意思に基づく通報とも当然には言えません。

CASE B 架空事例

従業員である夫が、妻に「自分の意思として、この内容を会社へ通報してほしい」と依頼し、妻が代わりに送信した。

→ 労働者である夫による公益通報として、夫が保護の対象となり得ます。

どちらに当たるかは、代行関係の事実認定の問題です。会社側は、「どなたかの意思に基づいて、その方の代わりにご連絡いただいているのか」を、本人の特定を求めない形で確認するのが基本です。

要注意家族関係からの本人特定・探索

家族からの連絡には、家族関係を通じて従業員本人が特定される情報が含まれがちです。ケースAであっても、その情報を社内で広く共有したり、「誰の家族か」を探ったりすることは避けるべきです。

一般消費者・近隣住民の告発は公益通報?

次のようなケースを考えます。

  • 近隣住民が、工場からの排水が違法ではないかと指摘してきた
  • 顧客が、製品表示が法令に違反していると指摘してきた
  • 一般消費者が、ウェブ広告の不当表示を告発してきた
  • 地域住民が、無許可工事ではないかと指摘してきた

これらの人は、その属性だけでは法2条1項各号のいずれにも当たらないため、通常は公益通報者保護法上の「公益通報者」にはなりません。

しかし、ここで判断を止めてはいけません。

  • 指摘内容が具体的で、重大な法令違反や安全上の問題を示している場合、公益通報かどうかにかかわらず、会社として事実確認が必要になり得ます。
  • 事実によっては、個別法令に基づく行政への報告・届出が問題になることがあります(第9話「会社の不正が判明したら行政に報告すべき?報告義務と自主申告の判断」)。
  • 同じ事実を、自社の従業員や取引先従業員が行政機関や報道機関に通報する可能性もあります。
注意推奨事項と法的義務の区別

消費者庁の「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」は、推奨事項として、コンプライアンス経営の推進と経営上のリスク情報の早期把握の観点から、通報窓口の利用者と通報対象事項の範囲を幅広く設定し、内部公益通報に該当しない通報についても、公益通報に関する同解説の定めに準じて対応するよう努めることが望ましいとしています。例として、利用者には通報日から1年より前に退職した者や、子会社・取引先の従業員(退職者を含む)・役員を、通報対象事項には内部規程違反等を挙げています。

これは法的義務ではなく推奨事項ですが、「法の対象外だから対応しない」という運用を支持するものではありません。

取引先「会社」からの告発はどう扱う?

次の2つは、法律上まったく別の場面です。

  • A社の社員XがB社の不正を通報する
  • A社という法人そのものが、B社の不正を指摘する

公益通報者保護法は、法2条1項各号に掲げる「者」(労働者、役員等)による通報を保護する制度です。消費者庁も、個人事業主も含め事業者が通報をした場合は、原則として保護の対象とならないとしています(消費者庁「公益通報者に関するQ&A」Q10)。したがって、取引先企業が法人名義で抗議・告発してきた場合に、その法人を公益通報者として扱う必要は通常ありません。

ただし、次の点は別途検討が必要です。

  • 情報源の個人:A社法人名義の告発書の作成に、B社の現場で事実を把握したA社社員Xが関与している場合でも、Xが情報源であるというだけで、当然にX自身が公益通報者になるわけではありません。X本人の意思に基づく通報をA社が代行しているのか、A社が独自の法人意思として通知しているのかなど、実際に誰の意思・行為として通報されたのかを確認する必要があります(本人の承諾の下、本人の意思に基づく代行が本人の公益通報となり得ることは、家族による代行と同じ考え方です)。いずれの場合も、B社がA社に「誰が言っているのか」を問いただすことは、情報源の探索につながるため慎重にすべきです。
  • 差出人の役員:代表取締役等の役員が、A社とB社の契約に基づく事業に現に従事している場合、その役員個人を法2条1項4号ロの主体として検討する余地があります。書面が法人としての抗議なのか、役員個人としての通報なのかを見極めます。
  • 実務上の調査対象:法人からの指摘は、公益通報に当たらなくても、契約上・コンプライアンス上・危機管理上の調査対象になり得ます。取引上の紛争や交渉の文脈で送られてきた場合でも、指摘内容が具体的であれば、紛争対応とは切り分けて事実確認を検討します。

フリーランスは2026年12月1日からどう変わる?

施行前・現行法 2026年9月5日時点

フリーランスや個人事業主であるというだけでは、現行法上の公益通報の主体には原則として含まれません。消費者庁は、大工等の一人親方や車持ちトラック運転手のように従業員を持たずに事業を行う者について、事業者による通報は原則として保護の対象外としつつ、形式上は請負・業務委託と称する契約でも、実態として労働基準法9条の労働者に当たる場合には、その通報は保護の対象となり得るとしています(消費者庁「公益通報者に関するQ&A」Q10)。

労働者に当たるかどうかは、契約書の名称ではなく、指揮監督の有無や報酬の性格などの実態から判断されます。「業務委託契約だから対象外」と即断しないことが重要です。

施行後・改正法 2026年12月1日から

令和7年法律第62号により、公益通報の主体に「特定受託業務従事者」が加わります(施行日は2026年12月1日)。

  • 自社が直接業務委託しているフリーランス:2026年12月1日以降、一定の特定受託業務従事者又はその者であった者は、その特定受託事業者に業務委託をしている事業者、又は通報日前1年以内に業務委託をしていた事業者を役務提供先として、公益通報の主体となり得ます(改正後法2条1項3号)。
  • 取引先が業務委託しているフリーランス:取引先が自社との契約に基づいて行う事業に従事する特定受託業務従事者等も、自社を役務提供先とする主体となり得ます(改正後法2条1項4号。現行法の同項3号が繰り下がったもの)。
  • 不利益取扱いの禁止:業務委託をした事業者は、公益通報を理由として、業務委託に係る契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額その他不利益な取扱いをしてはなりません(改正後5条)。
注意改正後も「フリーランスなら全員対象」ではない

ここでいう「特定受託業務従事者」は、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)2条2項の定義を引用しています。同法上の「特定受託事業者」は、業務委託の相手方である事業者のうち、①従業員を使用しない個人、又は②一の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しない法人です。「特定受託業務従事者」は、その個人と、その法人の代表者を指します。

したがって、改正後も「フリーランスなら全員対象」ではありません。従業員を使用している個人事業主や、複数の役員がいる法人は、この定義に当たりません。なお、改正法の施行前にフリーランスが行った情報提供が、2026年12月1日の施行によって当然に遡って公益通報になるわけではありません。改正法附則2条は、新法の規定(罰則を除く)を、施行前にされた旧法2条1項に規定する公益通報にも適用すると定めています(附則に特別の定めがある場合を除く)。そのため、施行前の通報については、旧法上の主体要件(実態として労働者に当たるか等)を満たしていたかを確認する必要があります。

【表4】現行法と2026年12月1日施行の改正法の比較(主体と通報者保護の主要点)

項目 2026年9月5日時点(現行法) 2026年12月1日から(施行前)
労働者対象対象
派遣労働者対象(派遣先が役務提供先)対象
退職者通報日前1年以内の者が対象同じ(1年以内の枠組みは維持)
役員対象(「役員であった者」の定めなし)対象
取引先の労働者等契約に基づく事業に従事(1年以内に従事)している場合に対象基本構造は継続。取引先の事業に従事するフリーランスも追加
フリーランス原則対象外。実態が労働者なら別特定受託業務従事者と業務委託終了後1年以内の者を追加
通報者の探索法定指針に基づき、探索を防ぐ措置が必要(300人以下は努力義務)正当な理由のない、公益通報者を特定することを目的とする行為を法律上禁止(改正後11条の3)

改正法には、このほか、公益通報を妨げる行為の禁止、公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰、公益通報後1年以内の解雇・懲戒を公益通報を理由とするものと推定する規定なども含まれます。

通報者の属性だけでは公益通報か決まらない

ここまで「誰が」を中心に見てきましたが、主体に当たるだけでは公益通報になりません。

  • 役務提供先との関係:通報内容は、その人の役務提供先(又はその事業に従事する役員・従業員等)についての事実である必要があります。従業員の私生活上の法令違反は、役務提供先の事業と無関係であり、公益通報に当たらないとされています(消費者庁「通報対象事実(通報の内容)に関するQ&A」)。
  • 通報対象事実:公益通報者保護法と、同法の別表及び政令で定める対象法律に規定する罪の犯罪行為の事実、又は過料の理由とされている事実などに限られます(法2条3項)。
  • 不正の目的でないこと:不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的による通報は公益通報に当たりません。ただし、会社側が安易に「不正の目的」と決めつけると、保護を否定する判断を誤るおそれがあります。認定は慎重に行うべきです。
  • 通報先と保護要件:表2のとおり、通報先によって要件が異なります。

特に誤解が多いのが通報対象事実です。

  • 「社内規程違反」「上司の態度が悪い」「経営判断に納得できない」は、それだけでは通報対象事実に当たらないのが通常です。
  • 消費者庁Q&Aは、パワー・ハラスメント(労働施策総合推進法)やセクシュアル・ハラスメント(男女雇用機会均等法)それ自体は、犯罪行為・過料対象行為又は最終的に刑罰・過料につながる法令違反行為とはされていないため、通常、公益通報に該当しないと整理しています。一方、具体的行為が暴行・脅迫や強制わいせつ(現在の不同意わいせつ)などの犯罪行為に当たる場合には、公益通報に該当し得ます(消費者庁「通報対象事実(通報の内容)に関するQ&A」Q2)。
  • 債務不履行などの契約違反は、民事上の争いであり、それだけでは通報対象事実に当たりません。
原則通報対象事実に当たらない=会社として問題ない、ではない

社内規程違反、倫理違反、ハラスメント、不適切な会計処理、安全上の問題、契約違反は、別の法令、社内制度、リスク管理の観点から調査対象になり得ます。

送信者の属性が分からないときは?

実務では、「私は御社の関係者です」「詳しくは名乗れません」とだけ書かれ、労働者なのか、取引先従業員なのか、一般の方なのか分からないことがよくあります。

このとき、「属性が分からないから公益通報ではない」と即断しないことが重要です。指針の解説は、匿名の通報であっても、法3条1号・6条1号の要件を満たす通報は内部公益通報に含まれるとしています。受付時点で主体要件を確認できないことは、公益通報に当たらないことを意味しません。

実務上は、次の対応が基本になります。

質問の例

当社又は当社の取引先との間で業務上のご関係がある場合、差し支えない範囲で、そのご関係をお知らせいただけますか。お名前をお知らせいただく必要はありません。

第三者からの告発が公益通報か判断するフロー

以下は、厳密な法的判定を自動化するものではなく、担当者が論点を見落とさないための簡易フローです。【図3】第三者からの告発の公益通報該当性・簡易判定フロー

STEP 0 第三者から不正情報を受領
STEP 1 通報者の属性を確認できるか 労働者/派遣労働者/1年以内の退職者/役員/取引先の労働者等か。不明なら「該当可能性あり」として留保し、次へ
STEP 2 自社がその人の「役務提供先」に当たり得るか 取引先従業員なら、自社との契約に基づく事業への従事関係を確認
STEP 3 指摘内容は「通報対象事実」に当たり得るか 対象法律の罪・過料の理由となる事実等か
STEP 4 不正の目的による通報でないか 安易に認定しない
STEP 5 どこへの通報か 自社・自社があらかじめ定めた窓口か
すべて該当し得る公益通報に当たる可能性あり。通報者情報の管理・不利益取扱い防止・探索防止を前提に慎重に対応
いずれかが明確に該当しない公益通報者保護法の対象外となる可能性。ただしコンプライアンス・危機管理上の調査要否を別途判断

公益通報者保護法の対象外なら無視してよい?

答えは明確にNOです。

原則公益通報者保護法の対象外=対応不要、ではない

一般消費者、近隣住民、株主、取引先法人、1年以上前の退職者、現行法上対象にならないフリーランスからの情報でも、内容が具体的で、重大な法令違反・安全上の問題・不正会計等を示していれば、会社として確認すべき場合があります。

判断は二段階で行います。

  • 第1段階:法的評価 公益通報に当たり得るか(通報者保護のルールが及ぶか)
  • 第2段階:調査判断 重大性・具体性・検証可能性・安全リスク・行政報告の要否・レピュテーション・社内規程から、調査を行うか

第1段階で「対象外」となっても、第2段階の結論は変わり得ます。第2段階の具体的な基準は、第2話「匿名の告発メールが届いたら?会社が調査すべきか判断するポイント」第5話「不正疑惑はどこまで調査する?社内調査を始める判断基準」で扱っています。

公益通報に当たり得る場合、会社側で何が変わる?

公益通報に当たる場合、会社は一般的な情報処理とは異なるルールの下で対応します。現行法で問題になる主な点は次のとおりです。

  • 不利益取扱いの禁止等:通報者の立場に応じて、解雇の無効や不利益取扱いの禁止(法3条〜6条)、損害賠償請求の制限(法7条)が及びます。取引先従業員の場合の整理は前述のとおりです。
  • 内部公益通報対応体制:常時使用する労働者が300人超の事業者は、法11条と法定指針に基づき、公益通報対応業務従事者を定め、内部公益通報受付窓口で受け付けた内部公益通報について、正当な理由がある場合を除き必要な調査を行い、是正に必要な措置をとる体制を整備する必要があります(300人以下は努力義務)。
  • 通報者の保護体制:法定指針は、不利益取扱いの防止、範囲外共有の防止、通報者の探索の防止等の措置を求めています。消費者庁は、こうした措置の対象となる「公益通報者」には、行政機関や報道機関等への公益通報を行った者も含まれるとしています。
  • 従事者の守秘義務:従事者(又は従事者であった者)が、正当な理由なく公益通報者を特定させる事項を漏らすと、30万円以下の罰金の対象となります(法12条・21条)。
注意公益通報に当たることは、内容が真実であることを意味しない

通報者の保護と事実認定は別問題です。会社は、通報者を保護しつつ、通報内容については客観資料に基づいて事実を確認します。調査の進め方は第5話「不正疑惑はどこまで調査する?社内調査を始める判断基準」以降で扱います。

6つのケースで確認

【表5】ケース比較(2026年9月5日時点)

ケース 主体該当性 会社対応の要点
1 取引先清掃会社の従業員が、委託先工場の違法行為を工場運営会社に通報なり得る(法2条1項3号)内部公益通報として受け付け、通報者情報を管理
2 一般消費者が商品の不正表示を通報主体を欠き、公益通報に当たらない可能性が高い表示・安全リスクとして調査要否を判断
3 退職から6か月の元従業員が在職中に知った不正を通報なり得る(法2条1項1号)退職者であることを理由に軽視しない
4 従業員の妻が夫から聞いた不正を自分の判断で通報妻自身は主体でない内容の調査要否は別。夫の特定・探索はしない
5 フリーランスが委託元企業の不正を通報現行:原則対象外(実態が労働者なら別)/12月1日以降:一定の者は主体現時点から通報者保護に準じた運用
6 取引先法人の代表取締役名義で告発書が届いた法人名義の告発は原則対象外(役員個人・情報源の社員は別途検討)紛争対応と切り分けて事実確認。情報源は追及しない

ケース1・3:主体に当たり得るケース

ケース1は、継続的な役務提供契約と通報者のその業務への従事が確認できれば、工場運営会社が役務提供先となり得ます。違反内容が清掃契約と無関係でも構いません。ケース3の退職者特有の論点は第4話「元従業員から会社の不正を告発されたら?退職者からの通報への対応」で扱います。

ケース2・4・6:その属性だけでは主体に当たらないケース

ケース4で夫の意思に基づく代行であれば夫が、ケース6で代表者が契約に基づく事業に現に従事していれば役員個人が、主体となる余地があります。いずれも、内容が具体的であれば法の適用とは別に確認が必要です。

ケース5:時期で結論が変わるケース

2026年9月5日時点では、実態が労働者に当たらない限り原則として主体ではありませんが、12月1日以降は特定受託業務従事者等であれば主体となります。ただし、施行前の通報が施行によって遡って公益通報になるわけではありません。それでも、施行直前の時期に届いた通報を「法の対象外」として粗雑に扱うことは、得策ではありません。

実務担当者が受領時に確認するチェックリスト

  • 通報者の法的属性(労働者/派遣労働者/退職者/役員/取引先の労働者等/それ以外)を、名乗りではなく実態で確認したか
  • 取引先関係者の場合、自社との契約の有無と、通報者のその事業への従事関係(現に又は通報日前1年以内)を確認したか
  • 自社が通報者の「役務提供先」に当たり得るかを検討したか
  • 指摘内容が通報対象事実に当たり得るかを、対象法律の観点から確認したか
  • 通報先が自社又は自社があらかじめ定めた窓口か(内部への通報か)を確認したか
  • 家族等からの連絡の場合、本人の承諾・意思に基づく代行かを、本人特定を求めずに確認したか
  • 法人名義の場合、法人・差出人の役員・情報源の個人を区別したか
  • フリーランスの場合、実態上の労働者性と、2026年12月1日以降の扱いを確認したか
  • 属性不明・匿名の場合、公益通報に当たる可能性を留保し、通報者情報を公益通報に準じて管理しているか
  • 公益通報に当たらないと判断した場合でも、調査要否を別途判断し、その理由を記録したか

よくある質問

Q.取引先の従業員からの告発は公益通報ですか?

A.取引先が自社との契約に基づいて行う事業に、その従業員が従事している(又は通報日前1年以内に従事していた)場合には、公益通報になり得ます。通報対象事実などの他の要件もあわせて確認します。

Q.近隣住民から工場の法令違反を指摘された場合は?

A.近隣住民であることだけでは、通常は公益通報者に当たりません。ただし、環境・安全に関わる具体的な指摘であれば、事実確認と個別法令上の報告義務の確認が必要になり得ます。

Q.従業員の家族が代わりに会社へ通報した場合は?

A.家族自身は原則として公益通報者に当たりません。従業員本人の承諾の下、本人の意思に基づく代行であれば、従業員本人が保護の対象となり得ます。

Q.取引先会社名義の告発書は公益通報ですか?

A.法人そのものは原則として保護の対象外です。差出人の役員や、情報源となった取引先社員が主体に当たる余地は別途検討します。

Q.フリーランスからの通報は2026年9月時点で保護されますか?

A.原則として対象外ですが、実態が労働基準法9条の労働者に当たれば保護の対象となり得ます。2026年12月1日からは、一定の特定受託業務従事者等が主体に加わります。

まとめ|「社外の人だから対象外」と決めてはいけない

  • 公益通報に当たるかは、社内・社外ではなく、①誰が、②誰について、③何を、④どこへ通報したか、⑤保護要件を満たすかで決まります。
  • 取引先の従業員・役員は、自社との契約に基づく事業に従事していれば法2条1項3号・4号ロの主体となり得ます。その人から自社への通報は、法3条1号の通報(内部への通報)となり得ます。
  • 消費者・近隣住民・株主・取引先法人・家族は、属性だけでは通常主体になりません。フリーランスは現行法では原則対象外で、2026年12月1日から一定の範囲で加わります(施行前)。
  • 法の対象外でも、情報を無視してよいことにはなりません。法的評価と調査判断を二段階で行います。
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元従業員から会社の不正を告発されたら?退職者からの通報への対応

退職者からの通報は、「通報日前1年以内」という期間の数え方や、在職中に知った情報の扱い、退職時の合意との関係など、固有の論点があります。次回は、元従業員から会社の不正を告発されたときの対応を整理します。

第4話「元従業員から会社の不正を告発されたら?退職者からの通報への対応」を読む

参考資料・一次資料

現行制度(2026年9月5日時点)

2026年12月1日施行の改正関係(施行前資料)

免責

本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別事案についての法的助言ではありません。個別の事案では、契約関係・従事関係・通報内容等の具体的事実に基づいて判断してください。

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