SNSで会社の不正疑惑が拡散したら?炎上時の初動対応

  • 企業不祥事の初動対応|第13話 / 全15話
  • カテゴリー:コンプライアンス・規程対応
  • 法令・情報基準日:2026年9月5日
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日曜21時12分、投稿が拡散し始めた

日曜日、21時12分。法務部長のスマートフォンに、広報担当者から電話が入りました。

「Xで当社の品質不正に関する投稿が拡散しています。」

投稿の本文はこうです。

○○社では検査結果を書き換えるよう上司から指示されています。会社も知っています。証拠を載せます。

添付されているのは、社内会議資料らしき画像2枚。投稿者のプロフィールには「元○○社社員」とあります。

21時30分の時点で、状況はさらに動いていました。

  • 投稿は数千件リポストされている
  • 記者から広報部へ問い合わせが入った
  • 取引先から営業担当へ確認の電話が来た
  • 社員から「これは誰が漏らしたのか」という連絡が来た
  • 投稿を引用して「この会社は昔からデータ改ざんしている」「死人が出る製品を売っている」という投稿まで広がり始めた

経営陣からは、「すぐ否定しろ」「投稿を削除させろ」「元社員を特定して法的措置を取れ」という指示が飛んできます。

しかし、この時点で会社が最初にやるべきことは、反論でも、削除要請でも、投稿者探しでもありません。

何が投稿され、何が確認でき、何が拡散しているのかを、まず保存して分類することです。

初動の原則

SNS炎上の初動は「反論」ではなく、「保存→分類→事実確認→影響判定→対応レーンの選択」である。

本記事では、会社への直接の質問(第10話第12話)ではなく、不特定多数に向けてSNS上で不正疑惑が拡散している場面の初動を、企業法務・危機管理の視点で整理します。

※本記事は2026年9月5日時点の法令・公表資料に基づいています。公益通報者保護法は、現行制度と2026年12月1日施行の改正法を区別して記載しています。

【シリーズナビゲーション】企業不祥事の初動対応|全15話

SNSで不正疑惑を見つけたら最初に何をする?

SNS上の不正疑惑への対応は、次の10ステップで考えます(LegalGPT独自の整理です)。

No. ステップ 主な作業
1保存投稿・URL・画像・投稿者情報を記録
2投稿者・拡散状況の確認アカウント、前後の投稿、引用・返信の状況
3命題単位の分類投稿を検証可能な主張ごとに分解
4既知案件/新規不正情報の判定調査中の案件か、社内で未把握の情報か
5証拠保全社内資料・データの散逸防止(必要な範囲で)
6事実確認客観資料との照合
7被害・法的リスクの評価安全、顧客被害、権利侵害、情報漏えい
8対応の選択静観、訂正、公式声明、削除申出等
9他レーンとの連携メディア、行政、適時開示
10継続監視・再評価再評価日時を決めて見直す

このフローの前提にあるのは、投稿の拡散量と、情報の法的・事実的な重要性は別という視点です。

100万回閲覧された根拠のない投稿より、閲覧数500回でも具体的な内部資料・メール・事故情報を伴う投稿のほうが、企業法務としては重大な場合があります。そのため本記事では「いいねが何件付いたら炎上」といった数値基準は設けません。

削除・反論する前に投稿を保存する

SNS投稿は、投稿者自身による削除、アカウント削除・非公開化、編集、プラットフォームによる削除などで、いつでも見られなくなる可能性があります。

特に注意したいのは、会社が反論・削除要請・投稿者への連絡をしたことをきっかけに、投稿が消えることです。削除に成功した後で、「何が書かれていたか」「誰が書いたか」「どう拡散したか」を確認できなくなれば、事実確認にも法的対応にも支障が出ます。

順番

「保存 → その後に削除・反論を検討」

最低限、次の情報を記録します。

  • 投稿本文、投稿URL
  • アカウント名(表示名)、ユーザーID、プロフィール
  • 投稿日時、会社が確認した日時
  • 添付画像・動画
  • スレッド、前後の投稿、引用元・引用投稿、主な返信
  • 確認時点で表示されている拡散状況(リポスト数・閲覧数等)
  • 保存した担当者
注意保存の方法にも制約がある

動画は、必要に応じてプラットフォーム上で確認できる形(URL・再生時間・確認日時等)で記録します。なお、プラットフォームの技術的制限を不正に回避する方法や、第三者アカウントへのアクセスなどは行ってはいけません。保存は、会社の担当者が通常の利用の範囲で閲覧できる情報を対象にします。

「スクリーンショットだけ」では足りない

スクリーンショットは有用ですが、それだけでは次の問題が残ります。

  • URLが写っていない
  • 投稿時刻が画面から切れている
  • 前後関係・スレッドの流れが分からない
  • 後から投稿者のプロフィールや表示名が変わる

スクリーンショットは「保存票」とセットで管理するのが実務的です。

実務で使える「投稿証拠保存票」

投稿証拠保存票 SNS POST — EVIDENCE RECORD
項目 記載内容
保存番号SNS-001 等の連番
プラットフォームX/Instagram/TikTok/YouTube/掲示板 等
URL投稿の個別URL
投稿者表示名確認時点の表示名
ユーザーID@以下のID等
投稿日時画面上の表示
会社が確認した日時年月日・時分
本文全文をテキストでも記録
画像/動画枚数・内容・保存ファイル名
前後の投稿スレッド・関連投稿の有無と内容
引用元引用・転載の元投稿
プロフィール自己紹介欄(「元社員」等の記載)
閲覧時の拡散状況表示されている数値
保存担当者氏名・部署
保存ファイル名スクリーンショット等の保存先
備考削除・編集を確認した場合はその日時

保存票は、後述する「SNS炎上初動ダッシュボード」の元データになります。

SNS投稿を6タイプに分ける

保存した投稿は、内容に応じて分類します。以下はLegalGPT独自の実務整理です。1つの投稿が複数のタイプにまたがることは珍しくありません。

TYPE 内容 初動の考え方
A具体的な不正事実の指摘「6月17日に検査記録を書き換えた」新規不正情報として評価し、調査ルートへ
B事実と異なる可能性のある具体的主張「死亡事故を隠している」客観的に確認し、誤りなら訂正・削除申出等を検討
C意見・評価・批判「この会社は信用できない」厳しい・不快というだけで削除対象・違法としない
D内部資料・秘密情報会議資料、メール、顧客情報疑惑の事実確認と、情報管理の検討を別レーンで
E個人への権利侵害社員の住所・電話番号、私生活情報本人の被害防止を優先して検討
Fなりすまし・偽アカウント社名・ロゴを使った偽公式アカウントなりすまし報告、注意喚起等を別レーンで

冒頭の事例なら、元投稿は TYPE A(検査結果書換えの指示)+TYPE D(会議資料画像)、引用投稿の「死人が出る製品」は TYPE B、「昔からデータ改ざんしている」は TYPE B・Cの混在 と整理できます。

「拡散している=事実」ではない

リポスト数・いいね数・閲覧数は、投稿の真偽を示すものではありません。一方で、「SNSだから信用できない」と切り捨てるのも誤りです。

評価は、拡散量ではなく情報の中身で行います。

評価軸 確認すること
具体性日時・人物・部署・取引・製品が特定されているか
添付資料社内資料・メール等が添付されているか
社内情報との整合実在する会議・様式・担当者と一致するか
検証可能性社内の客観資料で確認できるか
重大性安全、法令違反、顧客被害につながるか

この評価は、第1話第2話第5話で扱った不正情報の評価と同じ考え方です。

そして重要なのは、SNS投稿が社内で把握されていなかった具体的な不正情報を含むなら、それは広報案件であると同時に、新規の不正疑惑でもあるという点です。SNS対応チームだけで処理せず、調査ルート(第5話)へ接続します。

投稿内容を命題単位に分解する

第12話では、メディアの質問を「命題単位」で判断する考え方を扱いました。SNS投稿にも同じ手法が使えます。

例えば次の投稿です。

○○社は検査データを改ざんし、社長も知っていた。事故で死亡者も出た。

これを投稿全体として「デマか事実か」の二択で判断するのではなく、次のように分解します。

No. 命題 分類(例)
検査記録が変更されたか確認済み/未確認/誤り
その変更が不正な「改ざん」に当たるか評価未確定
社長が認識していたか未確認
事故が存在するか確認済み/誤り
死亡者が出たか確認済み/誤り
会社が隠蔽したか評価未確定

「改ざん」「隠蔽」は評価を含む言葉です。記録の変更という事実が確認されても、それが不正な改ざんかは、変更の理由・手続・規格等を確認するまで確定しません。

反論する前に「何が間違っているか」を固定する

投稿が「この製品で死亡事故が10件起きている」、会社の確認結果が「事故2件、死亡事故0件」だったとします。

このとき会社が訂正すべきは「事故自体がない」ではなく、「死亡事故10件という部分が事実と異なる」 という点です。

NG一括否定

「投稿内容はすべて虚偽です」と一括否定すると、事故2件の存在が後から明らかになった時点で、会社の説明全体の信頼性が崩れます。公式に訂正する場合も、誤っている命題を限定します(第11話の前提分解と同じ考え方です)。

対象者へ聞く前に証拠保全すべき場合

投稿に「営業部長がキックバックを受け取っている」とあった場合、会社がすぐ営業部長に「SNSに書かれているが本当か」と聞けば、証拠の削除や関係者との口裏合わせにつながる可能性があります。

必要に応じ、次の順序で進めます。

1投稿を保存する
2社内メール・チャット等、必要な範囲で証拠を保全する
3客観資料を確認する
4対象者に確認する

ただし、すべてのSNS投稿について対象者のPCを確保するといった一律運用は不要です。散逸リスク・重大性・対象の特定可能性等から判断します(第6話)。

投稿者特定を最初の目的にしない

経営陣から「誰が書いたか調べろ」と指示されても、事実確認より先に投稿者特定へ進むべきではありません。

投稿者が現従業員・元従業員・取引先社員などである場合、公益通報者保護法との関係を検討する必要があります。

ただし、SNSへの投稿であることだけで公益通報に該当するわけではありません。 公益通報に当たるかは、次の点を個別に確認します。

  • 通報者が法2条1項各号の主体に当たるか(退職者は退職後1年以内か等、第4話
  • 通報対象事実に当たるか
  • 不正の目的でないか
  • 通報先・保護要件(法3条各号)を満たすか
参考 消費者庁「通報先に関するQ&A」Q14

同Q&Aは、インターネットを利用して不特定多数の者に通報対象事実を伝える行為について、法3条3号の「その他の外部通報先」への通報との関係で、一般的には公益通報にならない場合が多いとの考え方を示しています。ただし、商品が広く流通していて誰もが被害者になり得る場合や、顧客のみが利用できる会員サイトの掲示板に書き込む場合など、公益通報となり得るケースもあり、個々の事案に応じて判断されるとしています。

したがって、「SNSだから公益通報ではない」と即断して投稿者探索や処分へ進むべきではありません。「元社員だから関係ない」と決めつけることも同様です。

現行制度と2026年12月1日以降を区別する

時期 制度の内容
現行(2026年9月5日時点)法11条1項・2項に基づき事業者がとるべき措置に関する指針(法定指針)で、公益通報者を特定させる事項の範囲外共有を防ぐ措置と、やむを得ない場合を除く通報者の探索を防ぐ措置が求められている
2026年12月1日以降(改正法施行後)改正法11条の3により、事業者は、正当な理由がなく、公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならないとされる

改正法11条の3は「探索行為そのもの」を一切禁止する規定ではなく、「正当な理由がなく」「公益通報者を特定することを目的とする行為」 が対象です。とはいえ、現行法下でも探索防止は法定指針上の措置であり、施行を待たずに「投稿者探しから始めない」運用を固めておくべきです。

内部資料が投稿されたら?

内部資料らしき画像がSNSに投稿された場合、会社側で確認すべき事項は多岐にわたります。

確認事項 ポイント
真正性実在する資料か、改変されていないか
版・時期どの版か、いつ作成されたか
アクセス範囲誰が閲覧・保有できたか(※探索目的で使わない)
個人情報顧客・従業員の個人情報を含むか
営業秘密秘密管理性・有用性・非公知性を満たすか
契約上の秘密情報取引先との秘密保持義務の対象か
公益通報との関係通報対象事実の証拠として示されたものか
不正の証拠としての性質資料が疑惑の事実を裏付けているか
短絡資料の投稿=即懲戒・即告訴ではない

営業秘密に当たるには、不正競争防止法2条6項の 秘密管理性・有用性・非公知性 の3要件を満たす必要があり、会議資料だから当然に営業秘密とはいえません。また、営業秘密に当たるとしても、同法上の不正競争行為の類型に該当するかは別途個別に判断します。さらに、公益通報との関係も別に確認が必要です。

そして何より、資料が本物で、そこに書かれた不正が事実なら、優先課題は資料の流出経路ではなく不正そのものです。資料の真正性確認は、疑惑の事実確認の一部として行います。

公式アカウントですぐ反論する?

「SNSで炎上したら、すぐSNSで反論(または謝罪)」は一律の正解ではありません。選択肢は少なくとも5つあります。

選択肢 向いている場面
① 静観拡散が限定的、事実面の影響が小さい、反応がかえって注目を集めるおそれがある
② SNS上で短く訂正明確な誤情報があり、同じSNS利用者へ迅速に訂正する意味が大きい
③ 自社Webサイトで正式説明+SNSからリンク重大案件、説明事項が多い、正式な公表記録を残したい
④ プレスリリース/適時開示事案の重大性、上場会社の開示要否による
⑤ 個別のメディア対応すでに取材が来ている(第10話第12話

「静観」は「何もしない」ではありません。保存・分類・事実確認・監視は続けたうえで、対外発信をしないという判断です。判断理由と再評価日時を記録しておきます。

SNSを「唯一の公式発表場所」にしない

重大な不祥事の場合、SNS投稿には、文字数の制約、タイムラインで流れてしまう、引用によって文脈が変えられる、アカウント停止等のリスクがあるといった弱点があります。

そのため、自社Webサイト上の正式声明を「原本」とし、SNSは「当社の公表はこちら」という導線に使うのが基本形です。ただし、軽微な誤情報の訂正まで毎回プレスリリースにする必要はありません。

会社として公式声明を出す判断基準

公式声明を出すかは、閲覧数だけでなく、次の9つの軸で判断します。

判断軸 確認のポイント
① 投稿の具体性検証可能な具体的主張か
② 事実確認度何が確認済みで、何が未確認か
③ 拡散範囲SNS外(報道・取引先)へ広がっているか
④ 顧客・取引先への影響問い合わせ・取引判断への影響
⑤ 安全・被害拡大製品の使用中止等の案内が必要か
⑥ メディア報道報道済み・取材中か
⑦ 行政報告報告義務・報告済みの内容との整合
⑧ 市場への影響上場会社の株価・開示との関係
⑨ 誤情報訂正の必要性放置すると被害が広がる誤情報か

特に⑤は優先度が高く、安全に関わる情報がある場合は、事実確認の完了を待たずに必要な案内を検討します。

公式声明に書くこと・書かないこと

書くこと(必要に応じて) 書かないこと
確認済みの事実投稿者への攻撃
確認中の事項投稿者の動機の推測(「悪意ある元従業員」「金銭目的」等)
明確な誤情報の訂正(命題を限定)「すべて虚偽」という一括否定
現在の対応(調査体制等)投稿者特定・法的措置の予告
安全上必要な案内投稿に含まれる個人情報の引用
今後の公表予定未確認事項の断定

社員がSNSで反論し始めたら?

冒頭の事例のような状況では、社員が個人アカウントから「これはデマです」「元社員の嫌がらせです」「内部事情を知らない人が騒いでいるだけ」などと発信し始めることがあります。こうした個人発信は、会社の公式見解と誤解されたり、未確認事項を断定したりして、事態を悪化させかねません。

社内には、次のような指示を出します。

  • 個人の判断でSNS上の投稿に反論しない
  • 投稿者へ直接接触しない
  • 投稿のスクリーンショットを社内外で拡散しない
  • 取引先・記者等からの問い合わせは広報・法務へ共有する
  • 関連する情報を持っている場合は、社内の指定窓口へ提供する

同時に、指示文には次の留保を入れます。

指示文に入れる留保

本指示は、内部通報窓口や行政機関への通報その他法令上保護される公益通報等を制限するものではありません。

「SNSに投稿した者を探す」「外部への通報は禁止」といった指示は出してはいけません。

また、会社が社員の私生活上のSNS利用を無制限に制約できるわけではありません。制約の対象は、会社の秘密情報、職務上知った情報、公式見解と誤解される発信などであり、就業規則・SNSポリシーの定めを確認します。この段階で懲戒を安易に示唆するのも避けます。

投稿者が現従業員と判明した場合

即座に「投稿を全部消せ」と命じる前に、投稿内容、会社秘密・個人情報の有無、公益通報との関係、業務上のアカウントか私的アカウントか、就業規則等を確認します。削除させることで、投稿という証拠そのものが消えることもあります。ここでもまず保存です。

なりすましアカウントへの対応

会社名・ロゴ・役員名等を使った偽アカウントは、企業不祥事への批判とは別レーンで処理します。

確認すべき事項は、公式アカウントと識別できるか、何を投稿しているか、顧客被害が出ていないか、詐欺・フィッシングや個人情報の収集に使われていないか、です。

対応の流れは次のとおりです。

1投稿・アカウント情報を保存する
2プラットフォームのなりすまし報告手続を利用する
3必要に応じて自社Webサイト・公式アカウントで注意喚起する
4詐欺等の被害が疑われる場合は、警察等への相談を検討する
5被害を受けた顧客への対応を行う

偽アカウントを見つけたら必ず警察へ、というものではなく、被害の有無・内容に応じて判断します。各サービスの報告手続は変更されやすいため、利用時点の各サービス公式ヘルプで確認してください。

公式アカウント自体が乗っ取られていないか

公式アカウントから不審な投稿が出ている場合は、ログイン状況、管理者と権限、不審なログインの有無、連携アプリ、投稿履歴を確認し、必要に応じて認証情報の変更、アクセス権の整理、プラットフォームへの申告、利用者への注意喚起を検討します。技術的な調査はIT・情報セキュリティ部門や外部専門家と連携して行います。

社員・役員の個人情報が晒されたら?

社員・役員の住所、電話番号、家族情報、非公表の個人情報がSNSに掲載された場合は、不正疑惑の事実確認とは切り分けて、本人の被害防止を優先します。

  • 投稿を保存する(保存データ自体の管理・アクセス制限にも注意)
  • 本人へ連絡し、状況を共有する
  • プラットフォームへの削除申出を検討する
  • 身の危険がある場合等は警察等への相談を検討する
  • 出社・通勤等に関する会社の安全措置を検討する

会社自身が「投稿には社員の住所が書かれています」などと発信し、個人情報を再拡散することは避けます。

投稿を削除してもらえる?

会社にとって不快・批判的・評判を落とす投稿であっても、それだけで当然に削除できるわけではありません。

「この会社の対応は最低だ」という評価・意見と、「会社が死亡事故10件を隠している」という具体的な事実の主張とでは、法的な検討が異なります。

また、会社や役員について虚偽情報や名誉・信用を害する投稿がある場合、民法709条等の不法行為、名誉・信用の侵害、人格権に基づく差止め等が問題となり得ますが、その評価は次の要素で変わります。

  • 事実の摘示か、意見・論評か
  • 摘示された事実の真実性
  • 公共の利害に関する事実か(公共性)
  • 公益を図る目的か(公益目的)
  • 誰について、どのような文脈で書かれたか

「虚偽なら必ず名誉毀損」「悪口なら削除できる」とはいえず、法人の名誉・信用についても具体的事案ごとの判断になります。

「削除」より「訂正」が重要な場合

投稿がすでに大量に転載・スクリーンショット化されている場合、元投稿が削除されても誤情報は消えません。この場合は、削除申出と並行して公式な訂正情報の発信を検討します。

一方で、「削除すると必ず逆効果になる」というのも一般論にすぎません。個人情報の掲載やなりすましのように、削除の必要性が高い類型もあります。削除のメリット・デメリットは個別に判断します。

削除対応を3つのレーンに分ける

削除対応は、次の3レーンで整理します(LegalGPT独自の整理です)。

レーン 手段 主な対象
レーン1プラットフォーム規約による通報なりすまし、嫌がらせ、個人情報の掲載など、サービス規約違反
レーン2権利侵害を理由とする削除申出情報流通プラットフォーム対処法上の仕組み等を利用
レーン3法的手続仮処分、訴訟等の裁判手続

通常は、まずプラットフォームの規約上の手続や情プラ法上の削除申出を利用できないかを確認します。一方、個人情報の大量拡散、金銭被害を生じさせるなりすまし、継続的で重大な権利侵害など、侵害の重大性・緊急性が高い場合には、これらと並行して、又は先行して仮処分等の法的手続を検討することがあります。レーン3の具体的手続は弁護士と相談して判断してください。

情報流通プラットフォーム対処法とは?

正式名称は 「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(平成13年法律第137号) で、一般に「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)と呼ばれます。旧プロバイダ責任制限法を改正する法律(令和6年法律第25号)が2025年4月1日に施行され、題名が改められました。

同法は、プロバイダ等の損害賠償責任の制限、発信者情報開示請求、発信者情報開示命令事件の裁判手続に加え、総務大臣が指定する大規模特定電気通信役務提供者(いわゆる大規模プラットフォーム事業者)に、削除対応の迅速化と運用状況の透明化に関する義務を課しています。

大規模特定電気通信役務提供者の主な義務(法第5章)

条文 義務の内容
法20条1項総務大臣による大規模特定電気通信役務提供者の指定
法21条1項指定を受けた日から3か月以内の総務大臣への届出
法22条被侵害者からの削除申出を受け付ける方法の整備・公表(電子的な方法で申出ができ、過重な負担を課さず、受付日時が申出者に明らかになること)
法23条申出を受けた場合の必要な調査
法24条侵害情報調査専門員の選任
法25条申出者への判断結果の通知
法26条送信防止措置の実施に関する基準(削除基準)等の公表
法27条送信防止措置を講じた場合の発信者への通知等
法28条措置の実施状況等の公表

※条文番号は2026年9月5日時点の現行法に基づきます。

対象は「指定を受けた事業者」に限られる

これらの義務は、すべてのSNS・掲示板事業者に同じように課されるものではありません。大規模特定電気通信役務提供者として指定され、法21条1項の届出を行った事業者について、法22条以下の削除申出対応等の規律が適用されます(法22条は、その対象を「前条第一項の規定による届出をした者に限る」としています)。

法21条1項は、指定を受けた日から3か月以内の届出を求めているため、指定されたことだけをもって、そのサービスについて削除申出への7日通知の運用が既に始まっているとは限りません。 総務省の公表資料によれば、2025年4月以降、主要なSNS・動画共有サービス等の事業者が順次指定され、2026年8月にも追加指定が行われています。新たに指定された事業者については、指定日と届出状況もあわせて確認する必要があります。

指定は変更され得るため、利用するサービスが対象かは、総務省の最新の指定状況で確認してください。指定対象外のサービスでは、各事業者の規約・手続に沿った対応になります。

また、法22条から25条までの規定は、被侵害者(権利を侵害されたとする者)からの削除申出に適用されるものです。会社が申出をする場合も、会社自身のどの権利が侵害されているのかを明確にする必要があります。

「7日以内に削除される」は誤り

情プラ法について、「申出から7日以内に投稿が削除される」という説明を見かけることがありますが、正確ではありません。

法25条1項により、大規模特定電気通信役務提供者は、削除申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に、削除等の措置を講じたときはその旨を、講じなかったときはその旨と理由を、申出者に通知しなければなりません。この総務省令で定める期間が 7日 とされています。

7日の意味

7日は削除完了の期限ではなく、削除するか否かの判断結果等を申出者に通知する期間です。

さらに、次の点にも注意が必要です。

  • プラットフォームが調査の結果、削除しないと判断することもある(その場合は理由が通知される)
  • 過去に同一内容の申出があった場合など、通知しないことに正当な理由があるときは通知不要とされている
  • 発信者の意見を聴くこととした場合、侵害情報調査専門員に調査を行わせることとした場合、やむを得ない理由がある場合には、所定の期間内に通知できなくても、判断結果を遅滞なく通知すれば足りるとされている(法25条2項)

したがって、「7日以内に削除される」「すべてのSNS事業者に7日ルールが適用される」とは説明できません。

削除申出=削除権ではない

情プラ法は、被侵害者からの削除申出に対する大規模プラットフォーム側の対応手続を整備するものであり、会社が「権利侵害だ」と申告すれば削除される仕組みではありません。投稿者側にも表現の自由があり、削除の可否は、権利侵害等についてプラットフォーム側が判断します。

なお、総務省は、どのような情報の流通が権利侵害や法令違反に当たるかを明確化する「違法情報ガイドライン」(法26条に関するガイドライン)を策定しています。また、名誉毀損・プライバシー侵害等に関して事業者団体等が策定した自主的なガイドラインもありますが、これらは法令そのものではなく、個別の判断では事案ごとの検討が必要です。

実務で使える「削除申出整理表」

削除申出では、「会社に不利だから」ではなく、どの記載が、どの権利を、どのように侵害するのかを具体化します。

削除申出整理表 TAKEDOWN REQUEST — WORKSHEET
項目 記載内容
対象URL投稿の個別URL(保存番号と紐付け)
投稿者表示名・ユーザーID
投稿日時画面上の表示
対象投稿投稿全文
問題となる具体的記載該当箇所を特定
侵害されている権利名誉・信用、プライバシー、商標、著作権 等
侵害と考える理由事実と異なる点、社会的評価への影響 等
根拠となる事実社内で確認済みの事実(命題単位)
証拠保存票、客観資料
希望する措置削除、非表示 等
会社担当者氏名・連絡先
申出日時年月日・時分
受付番号プラットフォームからの番号
結果削除/削除せず(理由)
結果通知日時年月日・時分

「根拠となる事実」の欄は、公式声明・メディア回答で使う確認済み事実と一致させます。社外に向けて「確認中」と言っている事項を、削除申出では「虚偽」と断定するような食い違いは避けてください。

発信者情報開示を検討するのはどんな場合?

情プラ法5条は、発信者情報開示請求権を定めています。開示請求には、少なくとも次の2つが必要です。

  • 侵害情報の流通によって、請求者の権利が侵害されたことが明らかであること(法5条1項1号)
  • 損害賠償請求権の行使のために必要である場合など、開示を受けるべき正当な理由があること(同項2号)

さらに、特定発信者情報(専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定める発信者情報)の開示を求める場合には、法5条1項3号の追加要件も満たす必要があります。

発信者情報は発信者のプライバシーや表現の自由に関わる情報で、いったん開示されると元に戻せないため、要件は厳格に設けられています。一つの手続で開示を求められる裁判手続(発信者情報開示命令事件、法8条以下)もありますが、具体的な手続は弁護士に相談してください。

注意投稿者特定の制度ではない

重要なのは、匿名で批判されたから投稿者を特定できる制度ではないという点です。「投稿者の身元を知りたい」「社員かどうか確認したい」という目的だけでは足りません。さらに、投稿者が公益通報者に当たる可能性がある場合は、前述の探索防止との関係から、投稿者特定を急ぐべきではありません。発信者情報開示を「通報者探し」の手段として使うことは避けてください。

投稿者へ直接DMしてよい?

一律に禁止されるわけではありませんが、初動では慎重に考えるべきです。DMを送ったことで、次のような事態が起こり得ます。

  • 投稿やアカウントが削除され、証拠が失われる
  • DMのやり取りがそのままスクリーンショットで公開される
  • 「会社から圧力を受けた」という追加投稿につながる
  • 公益通報者の探索と受け取られる

直接連絡する必要があるなら、投稿の保存、事実確認、法的評価を先に行い、連絡の目的と文面を決めてからにします。「削除しなければ訴える」「会社に来い」「誰から資料をもらった」といった連絡は送ってはいけません。

法的措置をSNSで予告してよい?

会社公式アカウントから「投稿者には法的措置を取ります」と即時に投稿するのは避けるべきです。

  • 事実確認が終わっていない
  • 公益通報に当たる可能性がある
  • 権利侵害の成立が確定していない
  • いったん予告すると後から方針を変えにくい
  • 予告そのものが追加の拡散を招く
区別

法的措置を検討することと、それをSNS上で予告することは別です。

上場会社は適時開示も確認する

SNSで情報が拡散したこと自体と、適時開示義務は区別します。拡散したから開示が必要になるわけではありません。

一方で、SNS投稿をきっかけに会社が重要な不祥事を把握した場合は、有価証券上場規程に基づく適時開示の要否を確認します。また、会社に関する風説等について取引所から照会を受けた場合の対応も想定しておきます。確認には、東京証券取引所「会社情報適時開示ガイドブック(2026年7月版)」や適時開示ナビ(2026年7月版の内容反映済み)を用います。

日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」の原則④は、不祥事に関する情報開示を、必要に応じ把握の段階から迅速かつ的確に行い、透明性の確保に努めるという考え方を示しています。ただし、同プリンシプルは法令・取引所規則とは異なり、一律に上場会社を拘束するものではありません。

別レーンの判断

会社公式SNSへの投稿で、適時開示を代替することはできません。

SNSで流れた情報とインサイダー取引規制

SNSで投稿・拡散されたからといって、未公表の重要事実が金融商品取引法166条4項の「公表」に当たるわけではありません。インサイダー情報の管理を緩めないでください(詳しくは第11話)。

SNS・記者回答・行政報告を一致させる

SNS投稿が拡散すれば、記者から「SNSでこう書かれているが事実か」と問い合わせが来ます。このとき、SNS担当は「デマです」、広報は「確認中です」、法務は「一部事実です」と、部署ごとに説明が食い違うのが最悪のパターンです。

第10話対外説明事実マスター を使い、SNSでの訂正、プレスリリース、記者への回答、行政への報告、適時開示、削除申出の根拠を、すべて同じ確認済み事実に基づかせます。

SNS対応チームの役割

担当 主な役割
広報拡散状況の把握、公式発信、メディア連携
法務事実と評価の区別、権利侵害、削除申出、公益通報、個人情報、営業秘密
調査チーム不正疑惑の確認、証拠保全
IT・情報セキュリティ公式アカウント管理、ログ、なりすまし、サイバー関連
IR(上場会社)適時開示、市場対応

中小企業では兼務で構いません。重要なのは、機能が抜けないことと、公式発信の窓口が一本化されていることです。

実務で使える「SNS炎上初動ダッシュボード」

SNS炎上初動ダッシュボード SNS CRISIS — INITIAL RESPONSE DASHBOARD
区分 項目
投稿情報URL/投稿者/投稿日時/確認日時/投稿内容/添付資料/拡散状況
内容評価TYPE(A〜F)/命題/確認済み・未確認・誤り・評価未確定/重大性/検証可能性
社内対応調査担当/証拠保全/行政報告/適時開示/メディア対応
SNS対応静観/限定訂正/公式声明/プラットフォーム通報/削除申出/法的対応
管理承認者/対応日時/再評価日時

1投稿1行で管理し、同じ投稿の引用・転載は保存番号の枝番で紐付けると、拡散の経路と対応状況を一覧できます。

最初の60分フロー

SNS投稿を発見
 ↓
投稿・URL・画像等を保存
 ↓
アカウント・投稿の前後関係を確認
 ↓
投稿を命題単位に分解
 ↓
既知の案件か?
├ YES → 調査チームへ接続
└ NO → 新規不正情報として初期評価
 ↓
証拠散逸のリスクがあるか?
├ YES → 必要な範囲で証拠保全
└ NO → 次へ
 ↓
安全・被害拡大のリスクがあるか?
├ YES → 公表・通知等を優先検討
└ NO → 次へ
 ↓
誤情報/権利侵害/内部資料/なりすまし/個人情報を分類
 ↓
対応レーンを選択
(調査・公式発信・プラットフォーム対応・削除申出・行政・適時開示・メディア)
 ↓
社内の窓口を一本化
 ↓
継続監視・再評価日時の設定

監視は「すべての言及を追い続ける」ことではありません。元投稿・主要な引用、新たな具体的主張や資料の追加、SNS外(報道・取引先)への波及など、判断を変え得る動きに絞って、再評価日時ごとに確認します。

初動チェックリスト

保存

  • 元投稿を保存した
  • URLを保存した
  • 投稿日時と確認日時を記録した
  • 投稿者ID・プロフィールを保存した
  • 添付画像・動画を保存した
  • 前後の投稿を確認した

評価

  • 投稿内容を命題単位に分けた
  • 拡散数だけで重大性を判断していない
  • 新規不正情報か確認した
  • 証拠保全の要否を確認した
  • 安全・被害拡大リスクを確認した
  • 明確な誤情報を特定した
  • 意見・批判と事実の主張を分けた

人と情報

  • 投稿者特定を最初の目的にしていない
  • 公益通報との関係を確認した
  • 内部資料を即「違法流出」と断定していない
  • なりすましを確認した
  • 個人情報の掲載を確認した
  • 社員が個人で反論していない

削除・法的対応

  • プラットフォーム規約違反を確認した
  • 情プラ法による削除申出の対象か確認した
  • 削除申出の前に証拠を保存した
  • 発信者情報開示の要件を確認した

連携

  • SNSとメディア回答を整合させた
  • 行政報告と整合させた
  • 上場会社なら適時開示を確認した
  • 再評価日時を決めた

やってはいけない10のSNS初動

NG 理由
保存する前に削除要請削除後に内容・投稿者・拡散経路を確認できなくなる
すぐ公式アカウントで全面否定一部が事実だった場合、会社の説明全体の信頼を失う
拡散数が多いから事実だと判断拡散量は真偽を示さない
SNS投稿だから信用できないと無視具体的な新規不正情報を見落とす
最初に「誰が書いたか」を探索公益通報者の探索防止との関係で問題になり得る
内部資料の投稿=即違法・即懲戒営業秘密の要件、公益通報との関係を確認していない
批判的投稿をすべて削除対象と考える意見・論評は当然には権利侵害にならない
「7日以内に削除される」と説明7日は判断結果等の通知期間で、削除期限ではない
公式アカウントから法的措置を即予告事実・法的評価が未確定で、追加拡散を招く
社員が個別アカウントで反論公式見解と誤解され、説明の食い違いを生む

3つのケースで考える

ケースA|元従業員を名乗る人物が内部資料を投稿

CASE A 架空事例|内部資料の画像が添付されている

「会社ぐるみで検査データを書き換えている」という投稿に、内部資料の画像が添付されている。

対応は、投稿の保存、資料の真正性確認、新規不正情報としての評価、必要な証拠保全、公益通報との関係の確認、公式発信の要否判断の順で進めます。投稿者探索は先行させません。

ポイント:「内部資料を出した元社員」への対応から始めるのではなく、疑惑の事実確認から始める。

ケースB|明確な誤情報が大量拡散

CASE B 架空事例|事故2件、死亡事故0件

「○社製品で死亡事故10件」という投稿が拡散。社内確認の結果、事故は2件、死亡事故は0件だった。

対応は、証拠保存のうえ「死亡事故10件」という命題を限定して訂正し、必要に応じて公式サイトでの説明とSNSからのリンクで訂正を行います。権利侵害や規約違反に当たると考える場合は削除申出も検討します。

ポイント:事故2件は事実なので、「投稿は全部デマ」とは書かない。

ケースC|なりすまし公式アカウント

CASE C 架空事例|偽アカウントが外部サイトへ誘導

偽アカウントが「製品回収のお詫びとして返金します」と投稿し、外部サイトへ誘導している。

対応は、投稿保存、なりすまし報告、公式アカウント・自社Webサイトでの注意喚起、顧客被害の確認、必要に応じた警察等への相談です。

ポイント:企業不祥事への批判と、詐欺・なりすましは別レーンで処理する。

よくある質問(FAQ)

Q1.SNSで会社の悪評が広がったら、すぐ削除要請した方がよいですか?

A.まず投稿を保存し、内容を分類してください。批判や意見は当然には削除対象になりません。削除を検討するのは、なりすまし、個人情報の掲載、事実と異なる具体的な主張による権利侵害などが確認できた場合で、その場合も保存を先に行います。

Q2.SNSの投稿をスクリーンショットだけ保存すれば十分ですか?

A.十分とはいえません。URL、投稿日時、確認日時、投稿者ID、プロフィール、前後の投稿なども記録し、「投稿証拠保存票」で管理することをおすすめします。

Q3.虚偽の投稿なら必ず削除してもらえますか?

A.必ずではありません。削除の可否は、権利侵害等についてプラットフォーム側が判断します。事実の摘示か意見か、真実性、公共性、公益目的などによって評価も変わります。

Q4.情報流通プラットフォーム対処法では7日以内に投稿が削除されますか?

A.いいえ。総務大臣の指定を受け、法21条1項の届出を行った大規模特定電気通信役務提供者が、被侵害者からの削除申出に対し、原則として7日以内に削除したか否か等を通知する制度です。削除しない判断もあり得ますし、発信者への意見照会等の場合には期間を超えた通知も認められています。

Q5.匿名投稿者の氏名を会社は開示請求できますか?

A.権利侵害が明らかで、開示を受けるべき正当な理由がある場合に限られます(情プラ法5条1項1号・2号)。特定発信者情報の開示を求める場合は、さらに同項3号の要件も必要です。「誰が書いたか知りたい」「社員か確認したい」だけでは足りず、公益通報に当たる可能性がある場合は特に慎重な検討が必要です。

Q6.元従業員が内部資料を投稿したら、すぐ懲戒や法的措置を取れますか?

A.すぐに決めるべきではありません。資料の真正性、営業秘密の3要件、個人情報・契約上の秘密の有無、公益通報との関係を確認する必要があります。また、元従業員は通常すでに雇用関係になく、懲戒の前提も異なります。まず疑惑の事実確認を優先してください。

Q7.SNSで炎上したら会社公式アカウントで反論した方がよいですか?

A.一律ではありません。静観、SNSでの限定的な訂正、自社Webサイトでの正式説明、プレスリリース・適時開示、個別のメディア対応から、投稿の具体性、事実確認度、安全への影響などを踏まえて選択します。反論する場合も、誤っている命題を限定して訂正します。

まとめ|「消す・反論する」の前に、投稿を保存して事実を分ける

まとめ
  • SNSで不正疑惑を見つけたら、削除・反論より先に投稿を保存する
  • 拡散量と情報の重要性は別。具体性・検証可能性・重大性で評価する
  • 投稿は6タイプに分類し、命題単位に分解して「何が誤りか」を固定する
  • 社内で未把握の具体的な不正情報なら、新規の不正疑惑として調査ルートへ
  • 投稿者特定を最初の目的にしない。公益通報との関係を現行制度と改正法で区別して確認する
  • 内部資料の投稿は、疑惑の事実確認と情報管理を別レーンで扱う
  • 削除対応は規約通報・権利侵害の削除申出・法的手続の3レーン。情プラ法の「7日」は削除期限ではない
  • 公式発信は、自社Webサイトを原本に、SNS・記者回答・行政報告・適時開示を同じ確認済み事実でそろえる
NEXT/次の記事 第14話 / 全15話

行政機関・警察から突然問い合わせが来たら?企業法務の初動対応

SNS上の拡散と並行して、行政機関や警察から会社に直接連絡が来ることもあります。第14話では、任意の照会と強制手続の区別を含め、その初動を整理します。

第14話「行政機関・警察から突然問い合わせが来たら?企業法務の初動対応」を読む

参考資料・一次資料

※法令・情報基準日:2026年9月5日

情報流通プラットフォーム対処法

  • e-Gov法令検索「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(平成13年法律第137号)
  • e-Gov法令検索「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律施行規則」(令和4年総務省令第39号)
  • 総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」(大規模特定電気通信役務提供者の指定状況を含む)
  • 総務省「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律における大規模特定電気通信役務提供者の義務に関するガイドライン」(令和7年3月11日制定)
  • 総務省「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関するガイドライン」(違法情報ガイドライン、令和7年3月11日制定、令和8年8月6日改定)
  • ※同法は令和8年法律第58号による改正(令和9年3月1日施行)が予定されているため、施行日以降は条文・条数を再確認してください。

公益通報者保護法

  • 現行制度(施行前):e-Gov法令検索「公益通報者保護法」、消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針」(法定指針)、消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針の解説」、消費者庁「通報先に関するQ&A」(Q14ほか)
  • 2026年12月1日以降:公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)、消費者庁の改正法関連資料

営業秘密・不法行為

  • e-Gov法令検索「不正競争防止法」(2条6項)
  • e-Gov法令検索「民法」(709条)

個人情報

  • e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」、個人情報保護委員会の公表資料

上場会社

  • 日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」
  • 株式会社東京証券取引所「有価証券上場規程」
  • 株式会社東京証券取引所「会社情報適時開示ガイドブック(2026年7月版)」
  • 日本取引所グループ「適時開示ナビ」(2026年7月版の内容反映済み)
  • e-Gov法令検索「金融商品取引法」(166条4項)

プラットフォーム固有の手続

  • 各サービス(X、Meta、TikTok、YouTube等)の公式ヘルプ(なりすまし報告・権利侵害申告・削除申出窓口)。手続やURLは変更されやすいため、利用時点の公式情報を確認してください。
免責

本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別の事案についての法的助言ではありません。具体的な対応は、事案に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。

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