行政機関・警察から突然問い合わせが来たら?企業法務の初動対応
火曜8時45分、受付に職員が3名
火曜日、午前8時45分。本社受付から法務部に内線が入ります。
法務担当者が受付へ向かう途中、今度は総務部から電話が鳴ります。
受付に着くと、職員の一人がこう告げます。
社内の意見は割れます。
- A:「行政や警察には全部見せないとまずい」
- B:「令状がないなら全部断れる」
- C:「まず根拠条文と手続の性質を確認しよう」
正しい初動は、AでもBでもありません。最初に確かめるべきなのは、次の6点です。
- 誰が(氏名・身分)
- どの機関として(所属・担当部署)
- どの法的根拠で(法律・条文、書面の有無)
- 任意なのか、法定の調査なのか、令状による強制処分なのか
- 何を対象に(会社・部署・人・期間・資料)
- いつまでに(期限・手続)
行政・警察対応の最初の仕事は、回答することでも拒否することでもない。「相手・権限・対象・期限」を確定することである。
「行政・警察だから従う」「令状がないから拒否する」という二択は、どちらも危険です。前者は法的根拠のない範囲まで資料を渡し、個人情報や取引先の秘密を不必要に外へ出すおそれがあります。後者は、罰則で応諾が担保された調査を拒んで別の違反を生んだり、令状執行の場面で混乱を招いたりするおそれがあります。
本記事は、行政機関・警察・検察等の側から会社へ接触があった場面を扱います。会社の側から行政へ報告・相談・自主申告する場面は、第9話で扱っています。
【シリーズナビゲーション】企業不祥事の初動対応|全15話
第1部|外部から不正情報が入ったとき
第2部|不正疑惑を調査するとき
第3部|疑惑が外部化したとき
- 10メディアから不正疑惑の問い合わせが来たら?企業が最初にやること
- 11記者から質問状が届いたら?回答期限・事実確認・回答文の作り方
- 12不祥事について「ノーコメント」でいい?メディア回答の判断基準
- 13SNSで会社の不正疑惑が拡散したら?炎上時の初動対応
- 14行政機関・警察から突然問い合わせが来たら?企業法務の初動対応この記事
第4部|初動対応の総仕上げ
行政・警察から連絡が来たら最初に何を確認する?
最初に固定するのは、次の6項目です。
| No. | 確認項目 | 確認の目的 |
|---|---|---|
| 1 | 相手方の身元 | 本当に公的機関の職員か |
| 2 | 所属・担当部署 | どの機関の、どの権限の担当か |
| 3 | 法的根拠 | どの法律の何条に基づくか |
| 4 | 任意/法定/強制の区別 | 応じるか否かを会社が判断できるか |
| 5 | 対象範囲 | 会社・部署・人・期間・資料 |
| 6 | 期限・手続 | 回答期限、書面の有無、提出方法 |
この6項目が固まってから、次の4ステップに進みます。
- 社内責任者・外部弁護士へ連絡する
- 証拠保全を指示する
- 提出・対応の範囲を決める
- 対応記録を残す
実際には、7と8は6項目の確認と並行して動かすことが多くなります。大切なのは、6項目が曖昧なまま「提出する/しない」を決めないことです。
問い合わせを6つのレーンに分ける
「行政機関」「警察」と一括りにしても、法的権限はまったく異なります。以下は法令上の分類ではなく、初動判断のためのLegalGPT独自の実務整理です。
| レーン | 内容 | 典型例 | 会社の判断余地 |
|---|---|---|---|
| 1 | 一般的な問い合わせ・任意協力依頼 | 事実関係の照会、資料の任意提出依頼 | 原則として協力するか・範囲を会社が判断 |
| 2 | 行政指導 | 指導・勧告・助言 | 相手方の任意の協力によってのみ実現されるもの |
| 3 | 法令上の報告徴収・立入検査等 | 個別法に基づく報告徴収・資料提出・立入検査 | 個別法の定めによる(罰則付きのものも多い) |
| 4 | 間接強制を伴う行政調査 | 独占禁止法47条の立入検査・提出命令等 | 応諾義務あり。ただし物理的な直接強制ではない |
| 5 | 警察・検察の任意捜査・照会 | 任意の事情聴取、任意提出依頼、刑訴法197条2項照会 | 手続ごとに性質を確認 |
| 6 | 令状等による刑事上の強制処分 | 捜索、差押え、電磁的記録提供命令、検証 | 裁判官の令状に基づく強制処分 |
同じ「資料を見せてください」でも、レーン1とレーン4とレーン6では法的意味がまったく違います。受付で最初に行うべきなのは、この要請がどのレーンに当たるかを見極めるための情報を集めることです。
相手の身元を確認する
行政職員や警察官を犯罪者扱いする必要はありません。しかし、公的機関をかたる詐欺や情報窃取の可能性はゼロではなく、また正規の職員であっても、どの部署のどの権限による接触かは確認が必要です。
確認する事項は次のとおりです。
- 機関名、部署、氏名、役職
- 連絡先
- 身分証(立入検査では、根拠法で身分を示す証明書の携帯・提示が定められていることが多い)
- 案件名、事件番号等
- 連絡の目的
電話だけの接触であれば、その場で資料を送らず、いったん切って機関の公式代表番号から担当部署へ折り返す方法が有効です。相手が告げた電話番号へ折り返すだけでは、本人確認として十分でない場合があります。
来訪の場合も、身分証を確認し、氏名・所属を記録します。確認は丁寧な言葉で、「社内手続上、記録させていただいています」と伝えれば足ります。
最初に確認する5つの質問
受付・法務担当者が、そのまま使える形にしておきます。
- 「今回のご要請の法的根拠を教えていただけますか」
- 「任意のご協力のお願いでしょうか。それとも、法令に基づく報告徴収・立入検査等でしょうか」
- 「対象となる会社・部署・期間・資料の範囲を確認させてください」
- 「回答・提出の期限はいつでしょうか」
- 「書面(告知書・照会書・令状等)はございますか」
質問は尋問調にしないことが重要です。目的は相手を試すことではなく、会社として適切に対応するために必要な情報を正確に受け取ることです。多くの公的機関は、正規の手続であれば根拠や趣旨の説明に応じます。
「任意」と「応諾義務あり」は違う
職員から「ご協力ください」と言われても、それだけで任意とは限りません。逆に「立入検査です」と言われても、根拠法令を確認しなければ、どの範囲でどの程度の応諾義務があるのかは分かりません。
確認するのは次の点です。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 根拠条文 | どの法律の何条か |
| 権限の対象 | 誰に対する権限か(事業者・関係者・参考人等) |
| 調査の対象 | 何について調べる権限か |
| 拒否等への罰則 | 報告拒否、虚偽報告、検査拒否・妨害・忌避に罰則があるか |
| 提出命令の有無 | 資料提出の「依頼」か「命令」か |
| 立入範囲 | どこまで立ち入れるか |
| 身分証提示 | 身分証明書の携帯・提示義務の定めがあるか |
言葉の印象ではなく、根拠条文と書面で判断するのが原則です。
行政指導とは?
行政手続法2条6号は、行政指導を、行政機関がその任務または所掌事務の範囲内で一定の行政目的を実現するため、特定の者に一定の作為または不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって、処分に該当しないものと定義しています。
行政指導には、次のルールがあります。
- 任意性(32条1項):行政指導に携わる者は、その内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない
- 不利益取扱いの禁止(32条2項):相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない
- 明確化原則(35条1項):行政指導の趣旨・内容・責任者を明確に示さなければならない
- 権限行使を示す場合の明示(35条2項):許認可等の権限を行使し得る旨を示すときは、その根拠条項・要件・要件に適合する理由を示さなければならない
- 書面交付(35条3項):口頭で行政指導がされた場合、相手方から書面の交付を求められたときは、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない(その場で完了する行為を求めるもの等の例外あり)
口頭で「改善してください」と言われたときは、35条3項に基づき書面の交付を依頼することが考えられます。法令違反の是正を求める行政指導が法律の要件に適合しないと考える場合には、中止等の求め(36条の2)の制度もあります。
第一に、行政からの問い合わせがすべて行政指導であるわけではありません。 個別法に基づく報告徴収・立入検査は、行政指導ではなく法令上の調査権限の行使です。
第二に、行政手続法には適用除外があります。 たとえば、報告または物件の提出を命ずる処分その他その職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分および行政指導は、行政手続法第2章から第4章までの規定の適用が除外されています(3条1項14号)。刑事事件に関する法令に基づき検察官・司法警察職員等がする処分・行政指導も同様です(同項5号)。
したがって、「行政指導は任意だから、行政の資料要求も断れる」という推論は成り立ちません。行政指導の任意性(32条)を、個別法上の報告徴収・立入検査へ一般化しないことが大切です。
法定の報告徴収・立入検査とは?
日本には、「行政機関の立入検査は全部同じ」という一般的な制度はありません。報告徴収・資料提出・立入検査の権限は、個別の法律ごとに定められています。労働基準監督官の臨検(労働基準法101条)、税務職員の質問検査(国税通則法74条の2等)、各業法に基づく立入検査など、根拠法はさまざまです。
個別法ごとに、次の点が異なります。
- 対象(誰に報告を求め、どこに立ち入れるか)
- 要件(どのような場合に行使できるか)
- 権限の内容(報告・資料提出・質問・検査)
- 応諾義務と罰則(報告拒否・虚偽報告・検査拒否等の制裁)
- 立入範囲
- 身分証明書の提示義務
企業法務の初動は、「どの法律の何条か」を確認することから始まります。多くの個別法には、立入検査の権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない旨の規定も置かれています。行政上の調査と刑事捜査は、制度として別物だということです。
個人情報保護委員会の報告徴収・立入検査
個人情報保護委員会(PPC)は、個人情報保護法146条1項に基づき、個人情報取扱事業者等その他の関係者に対し、個人情報等の取扱いに関し必要な報告もしくは資料の提出を求め、または職員に事務所等へ立ち入らせ、質問させ、帳簿書類その他の物件を検査させることができます。立入検査をする職員は身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があったときは提示しなければならず(同条2項)、この権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとされています(同条3項)。
PPCのQ&A(Q11-1)は、報告徴収・立入検査に応じなかった場合や虚偽の報告をした場合等には、刑事罰(50万円以下の罰金)が科される可能性があると説明しています(法182条。法人への両罰規定もあります)。
「行政からの資料要求=任意協力」ではない場合がある。PPCの報告徴収は、罰則によって応諾が担保された法定の調査です。
補足が2点あります。
- 法150条に基づき、146条1項の権限が事業所管大臣等へ委任される場合があります。さらに、法170条・施行令40条により、一定の場合には地方公共団体の長その他の執行機関(都道府県公安委員会等)が報告徴収・立入検査に係る事務を処理することがあります。「個人情報保護法に基づく報告徴収」が、PPC以外の機関名で届くこともあるということです。
- 2026年7月17日に公布された個人情報保護法の改正法は、一部を除き公布日から2年以内の政令で定める日に施行されます。2026年9月5日時点の本文は現行条文に基づいていますが、施行後は条番号・制度内容を再確認してください。
独禁法47条の立入検査は「任意」?
独占禁止法47条1項は、公正取引委員会が事件について必要な調査をするため、次の処分ができると定めています。
- 事件関係人・参考人への出頭命令・審尋、意見・報告の徴収(1号)
- 鑑定人への出頭命令・鑑定(2号)
- 物件の所持者への提出命令、提出物件の留置(3号)
- 営業所その他必要な場所への立入検査(4号)
公取委の「独占禁止法審査手続に関する指針」は、行政調査手続について、罰則により間接的に履行を担保するという間接強制権限に基づいて立入検査・提出命令・留置・出頭命令および審尋・報告命令等を行うと説明しています。正当な理由なく検査を拒み、妨げ、忌避した場合や物件を提出しない場合には、94条の罰則が適用されることがあります。
公取委の事業者向け説明資料「独占禁止法違反被疑事件の行政調査手続の概要について」は、47条に基づく処分について、対象者には受忍する義務があり罰則が適用されることがあるという意味で調査に応じるか否かが全くの任意であるというものではない一方、あえて拒否した場合に審査官が直接的物理的に実力を行使して強制し得るものではないと整理しています。
さらに同資料は、47条に基づく間接強制力を伴う立入検査ではなく、事業者等の任意の協力に基づいて資料の提出等を依頼する場合もあること、その場合には審査官等が47条に基づくものではなく任意の協力に基づくものであることを説明したうえで同意を得て行うことを明記しています。
| 区分 | 根拠 | 応諾義務 | 拒否した場合 |
|---|---|---|---|
| 47条の立入検査・提出命令等 | 独禁法47条1項 | あり(受忍義務) | 94条の罰則が適用され得る。ただし審査官による物理的強制はない |
| 任意の協力に基づく資料提出依頼 | 47条によらない | 任意 | 罰則なし。応じる範囲を会社が判断 |
| 任意の供述聴取 | 47条によらない | 任意 | 罰則なし。ただし審尋に移行することがある |
立入検査の開始時には、審査官は審査官証(47条3項の身分証明書)を提示し、根拠条文、事件名、違反被疑事実の要旨、関係法条等を記載した告知書を交付します。まずこの告知書で、47条に基づく調査なのか、任意の協力依頼なのかを確認します。
行政調査と刑事捜査は何が違う?
「立入検査=強制捜査」ではありません。行政法上の立入検査と、刑事訴訟法上の捜索・差押えは制度として別物です。
| 区分 | 根拠 | 性質 | 裁判官の令状・許可状 |
|---|---|---|---|
| 独禁法47条の行政調査 | 独禁法47条 | 行政調査。罰則による間接強制。犯罪捜査のための権限と解釈してはならない(47条4項) | 不要 |
| 公取委の犯則調査 | 独禁法101条以下 | 犯則事件の調査。任意の質問・検査・領置(101条)と、裁判官の許可状による臨検・捜索・差押え等(102条) | 102条の処分では必要 |
| 警察・検察の捜索・差押え等 | 刑訴法218条等 | 犯罪捜査のための強制処分 | 必要(裁判官の令状) |
公取委の審査官が来た場合も、それが47条の行政調査なのか、犯則調査(刑事告発を目的とする手続)なのかで、法的な位置付けは大きく変わります。告知書・許可状の記載で手続の種類を確認することが出発点です。
行政職員が突然来社したときの対応
「担当者が不在なので、お帰りください」
「どうぞ、全部ご覧ください」
受付の初動は次の順序です。
ただし、法令上の立入検査を不当に遅延させたり妨害したりしてはいけません。 「責任者到着まで数分お待ちいただけますか」と依頼することは考えられますが、それはあくまで相手の了解を得たうえでの対応です。
弁護士が来るまで待ってもらえる?
一律には言えません。手続によって扱いが異なります。
会社としては、直ちに社内法務・外部弁護士へ連絡し、可能であれば対応に参加してもらい、短時間の準備時間について相手方に相談することは考えられます。
しかし、法定の立入検査や令状執行について、弁護士到着まで開始を拒否できる一般的な権利があるわけではありません。 公取委の説明資料は、立入検査の円滑な実施に支障がない範囲で弁護士を立ち会わせることもできるとしつつ、弁護士の立会いがないと立入検査を行うことができないものではないため、弁護士が到着しないことを理由に立入検査を拒むことはできないと明記しています。
弁護士は、調査を止めるボタンではありません。手続の性質を確認し、対象範囲や手続上の疑義を整理し、記録と事後対応を支える役割です。
警察から電話が来たら?
たとえば、こんな電話です。
まず確認するのは次の点です。
- 警察署・部署、担当者の氏名
- 事件の概要
- 会社の立場(被害者か、関係先か、捜査対象か)
- 誰についての捜査か
- 何を求めているか
- 任意提出の依頼か、刑訴法197条2項の照会か
- 照会書等の書面はあるか
- 期限
最も避けたいのは、電話を受けた社員がその場で資料をメール送付することです。本人確認ができておらず、法的根拠も対象範囲も不明なまま、個人情報や第三者情報を含む資料が社外へ出てしまいます。窓口は法務・責任者へ一本化し、公式番号への折り返しと書面の確認を経て対応を決めます。
書面の照会書が届いた場合は、文書番号、所属長名義と職印、照会取扱者の連絡先の記載も確認します。警察庁の通達「捜査関係事項照会書の適正な運用について」は、文書番号のない照会書や、電話での口頭照会の後に正本が郵送されないといった不審な照会が問題になった事案を踏まえ、照会書の書式・決裁・文書番号の管理を求めています。
刑訴法197条2項の照会とは?
刑事訴訟法197条1項は、捜査についてはその目的を達するため必要な取調べをすることができるが、強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、することができないと定めています。
同条2項は、捜査については、公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができると定めています。実務では「捜査関係事項照会書」という書面で行われるのが一般的です。
この照会の法的性質は、次のように整理されています。
- 警察庁の通達「捜査関係事項照会書の適正な運用について」(平成31年3月27日)は、この照会は照会先に報告義務を負わせるものと解される一方、回答を拒否しても罰則の適用はなく、強制力をもって回答を求めることはできないと整理しています。
- 個人情報保護委員会のQ&Aは、捜査機関からの197条2項照会への回答は個人情報保護法27条1項1号の「法令に基づく場合」に当たるため、本人の同意を得ずに回答できるとしています。
ここから言えるのは、次の2点です。
- 197条2項照会は、令状による捜索・差押えとは違う。 回答しないことを理由に、照会そのものの効果として資料が強制的に取得されるわけではありません。
- 一方で、「令状がないから自由に無視してよい」と言い切るのも正確ではありません。 照会には報告義務があると解されており、捜査への協力の必要性もあります。
197条2項照会は「報告」を求める制度
企業法務として特に押さえたいのが、照会で求められるものの範囲です。上記の警察庁通達は、197条2項は捜査のための必要事項の「報告」を求める制度であるため、同項そのものを根拠として帳簿・書類やその謄本等の提出を直接求めることはできないと整理しています。ただし、照会を受けた会社が自発的に資料の写し等を提出して報告に代えることは差し支えないとされています。
したがって、次の2つは区別して管理する必要があります。
| 場面 | 根拠 | 会社が行うこと |
|---|---|---|
| 照会への回答 | 刑訴法197条2項 | 照会事項について報告する(写しの添付で報告に代えることもあり得る) |
| 資料そのものの提出 | 刑訴法221条(任意提出・領置) | 資料・端末等を任意に提出し、捜査機関が領置する |
冒頭の「会社のメールを提供してほしい」という電話も、照会事項への報告を求めているのか、メールデータそのものの任意提出を求めているのかで、法的な位置付けと社内の記録方法が変わります。
「法令に基づく場合」は、個人情報保護法上の同意取得等の例外に当たるという意味であり、照会された事項を無限定に回答してよいという意味ではありません。会社としては、照会書の記載内容に照らして回答範囲を必要な事項に絞ること、第三者の秘密や他の法令上の守秘義務に関わる情報が含まれる場合は個別に検討すること、回答内容と回答日を記録することが重要です。
なお、197条5項により、照会に関する事項をみだりに漏らさないよう求められることがあります。後述する電磁的記録提供命令に伴う秘密保持命令(218条3項)とは制度が異なりますが、いずれにしても、照会を受けたことを社内外にどこまで共有するかは法務と外部弁護士が判断し、担当者の判断で拡散させないようにします。
警察へ資料を任意提出するときの注意点
警察から「任意でPCを提出してください」「このファイルを出してください」と求められることがあります。
刑訴法221条は、検察官・検察事務官・司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物、または所有者・所持者・保管者が任意に提出した物を領置することができると定めています。
つまり、「ちょっと見せるだけ」と「任意提出して領置される」は同じではありません。 任意提出された物は捜査機関が占有し、捜査の必要がある間は手元に戻らないことがあります。
提出前に確認すべき事項は次のとおりです。
| 確認事項 | ポイント |
|---|---|
| 対象 | 何を提出するのか(PC本体か、特定ファイルか) |
| 目的 | 何の事件の、何のための提出か |
| 原本かコピーか | 端末本体を渡すのか、複製データで足りるのか |
| 返却見込み | いつ頃戻る見込みか(確約は得られないことも多い) |
| 業務影響 | その端末・資料がないと業務が止まらないか |
| 個人情報・第三者情報 | 顧客・取引先・他の社員の情報が含まれるか |
| 提出権限 | 会社として提出する権限があるか(私物、個人アカウント等) |
提出する場合は、提出物の一覧と会社控え(コピー・ハッシュ値等を含め、可能な範囲で)を残します。
これらの確認は証拠を隠したり改変したりするためのものではありません。 提出前に都合の悪いファイルを削除する、差し替える、といった行為は絶対に行ってはいけません。
社員が事情聴取を求められたら?
警察から社員へ「話を聞きたい」と連絡が来ることがあります。まず確認するのは次の点です。
- 誰が対象か
- 被疑者としての取調べか、参考人(被疑者以外の者)としての聴取か
- 出頭依頼の法的性質
- 日時・場所
- 何について聴取されるのか
刑訴法198条1項は、捜査機関は犯罪の捜査に必要があるときは被疑者の出頭を求め取り調べることができるとしたうえで、ただし書で、被疑者は逮捕または勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、または出頭後いつでも退去することができると定めています。被疑者以外の者の取調べは223条1項に定めがあり、同条2項で198条1項ただし書が準用されています。
ただし、これを「警察の任意聴取はすべて自由に退去できるから気にしなくてよい」と一般化するのは不適切です。
- 逮捕・勾留されている場合は扱いが異なります
- 参考人が出頭・供述を拒んだ場合に、検察官が裁判官に証人尋問を請求できる制度もあります(226条)
- 行政調査(たとえば独禁法47条の審尋)での聴取は、刑事手続の聴取とは別のルールで動きます
また、社員個人と会社の利益が一致しない場合があることに注意が必要です(後述)。必要に応じて、社員本人が会社とは別の弁護士に相談できる機会を検討します。
会社として絶対にしてはいけないのは、供述内容を指示すること、口裏合わせをすること、事実を隠すよう指示することです。
捜索差押許可状を持って来たら?
刑訴法218条1項は、検察官・検察事務官・司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令または検証をすることができると定めています。
2025年5月23日に公布された「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第39号)により、従来の記録命令付差押えに代わる電磁的記録提供命令が創設され、この部分は2026年5月21日に施行されました。古い解説記事にある「記録命令付差押え」の説明は、2026年9月5日時点の現行制度とは異なる点に注意が必要です。
令状そのものの電子化を含む刑事手続の全面的なデジタル化に関する規定には、2026年9月5日時点で未施行のものがあります。 本記事は、同日時点で施行済みの刑事訴訟法を基準とし、将来の電子令状制度とは区別して説明します。
電磁的記録提供命令は、電磁的記録を保管する者等に対し、必要な電磁的記録を記録媒体に記録・移転させて提出させる方法や、電気通信回線を通じて捜査機関の管理する記録媒体へ記録・移転させる方法で提供させるものです。正当な理由なく命令に違反した場合の罰則が設けられています。
さらに、裁判官の許可を受けて、命令を受けた者に対し、1年を超えない期間を定めて、命令を受けたことや提供した(しなかった)ことをみだりに漏らしてはならない旨を命ずる秘密保持命令の制度があります(218条3項)。違反には罰則があります。後述するメディア対応や適時開示との関係でも、秘密保持命令の有無と範囲は必ず確認してください。
令状のどこを確認する?
刑訴法219条1項は、令状に記載すべき事項を定めています。会社側が確認する項目は次のとおりです。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 令状の種類 | 捜索差押許可状、電磁的記録提供命令の令状、検証許可状など |
| 被疑者等の氏名 | 誰の事件か |
| 罪名 | どの犯罪の捜査か |
| 捜索すべき場所・身体・物 | どの事業所・フロア・部屋・物か |
| 差し押さえるべき物 | どの資料・物か |
| 提供させるべき電磁的記録・提供させるべき者・提供の方法 | 電磁的記録提供命令の場合 |
| 複写すべき範囲 | 電子計算機に接続された記録媒体から複写して差し押さえる場合(219条2項) |
| 有効期間 | 期間経過後は着手できない |
| 発付年月日・発付した裁判官 | 裁判所名・裁判官の記名押印 |
| 執行担当者 | 所属・氏名 |
刑訴法110条は差押状・捜索状等を処分を受ける者に示さなければならないと定めており、捜査機関による執行にも222条1項で準用されます。会社としては、提示を受けたら内容を確認し、可能な範囲で記録し、対応責任者へ共有します。
一方で、次のような対応は勧められません。
- 令状を取り上げる
- 長時間の閲覧を要求して執行を止める
- 会社がその場で令状の適法性を独自に判断し、物理的に執行を妨げる
令状の内容に疑義があれば、確認・記録したうえで外部弁護士と対応を検討します。
令状の対象範囲を意識する
捜索・差押えは、会社全体を無制限に調べる制度ではありません。令状には、場所・物・罪名等が特定されます。
したがって会社側も、「どの場所」「どの資料・データ」が対象なのかを確認し、執行状況を可能な範囲で記録します。建造物内での執行には、原則として看守者またはこれに代わるべき者の立会いが求められるため(114条2項、222条1項で準用)、会社側の立会者を決めておくことも重要です。
対象範囲について見解が異なる場合でも、社員が実力で執行を止めてはいけません。会社としてできるのは、次のことです。
- 懸念を丁寧に伝える
- 何が対象とされたかを記録する
- 外部弁護士へ相談し、事後の手続(押収物の還付請求や不服申立て等)を検討する
PC・サーバー・クラウドはどうなる?
2026年9月5日時点の刑訴法は、電磁的記録について、差押え対象の電子計算機に接続された記録媒体からの複写による差押え(218条2項)や、電磁的記録提供命令(218条1項)などの仕組みを定めています。
会社法務として把握すべき対象は次のとおりです。
- PC本体、スマートフォン
- 共有サーバー、クラウドストレージ
- メール、チャット(Teams、Slack等)
- ログ、バックアップ
IT部門へは、次の指示を明確な言葉で出します。
- 捜査・調査対象になり得るデータを消さない
- 端末を勝手に初期化・入替えしない
- アカウントを削除・停止しない(退職者アカウントの定期削除等の自動処理も確認する)
- 保存期間経過による自動削除の設定を確認する
同時に、PCやサーバーが押収された場合の業務影響を把握し、代替端末の準備や業務継続対応を検討します。
押収された資料をどう管理する?
刑訴法120条は、押収をした場合には目録を作り、所有者・所持者・保管者またはこれらの者に代わるべき者に交付しなければならないと定めています(222条1項で準用)。電磁的記録提供命令によりオンラインで提供させた場合についても、目録の作成・提供に関する規定が設けられています。
企業側でも、目録とは別に社内記録を作ります。
- 何が
- いつ
- 誰によって
- どの手続(任意提出/差押え/電磁的記録提供命令)で
- どこから持ち出されたか
目録と社内記録を照合し、食い違いがあれば記録しておきます。
業務に不可欠な資料・端末が押収された場合は、還付・仮還付の請求(123条、222条1項で準用)の可能性を外部弁護士と検討します。ただし、その場で当然にコピーを取らせてもらえるとか、すぐに返してもらえるといった前提は置かないでください。行政調査でも、たとえば公取委は立入検査当日に日々の事業活動に必要なものについて一定範囲で謄写の求めに応じるとしていますが、これは公取委の運用として説明されているものであり、刑事手続に一般化はできません。
証拠を削除・改変してはいけない
行政・警察対応で、次の行為は絶対に行ってはいけません。
- メールの削除
- チャットの削除
- ファイル名・日付の改変
- 書類の廃棄
- バックデート
- 社員への口裏合わせ
- 「この資料はない」という虚偽説明
- 行政・警察へ提出する資料の意図的な改ざん
- 調査対象者へ証拠を消すよう示唆すること
これらは危機管理上のミスにとどまらず、検査妨害・虚偽報告等に関する罰則、刑事法上の問題、行政処分や課徴金算定上の不利益、会社の信用失墜など、別の重大な法的問題につながり得ます。どの罪が成立するかは事案によりますが、「後で説明すればよい」では済まない領域です。
まず証拠保全を再確認する
行政・警察の接触そのものが、証拠散逸のリスクを急激に高めることがあります。「警察が来た」という情報が社内に広がれば、関係者が自分のデータを消そうとする可能性があるからです。
法務からIT部門・関係部署へ、次の保全を指示します。
- 保存対象(人・部署)
- 対象期間
- メール、チャット、ログ
- 紙資料
- バックアップ
保全の設計(人×期間×媒体)と保全指示書は、第6話「企業不祥事の証拠保全|メール・チャット・PCをいつ確保する?」を参照してください。
ここでの保全は、行政・警察に見せないための保全ではありません。証拠を変更・消失させないための保全です。資料を別の場所へ移して隠すことは、保全ではなく隠匿です。
行政・警察への資料提出をどう管理する?
資料要求を受けたら、「全部出す」「全部拒む」の二択にせず、次の10項目を確認します。
- 法的根拠
- 要求対象
- 期間
- ファイル形式
- 提出方法
- 期限
- 原本かコピーか
- 第三者情報の有無
- 個人情報の有無
- 営業秘密の有無
法定義務のある範囲には適切に対応します。要求範囲に疑義がある場合は、行政機関・捜査機関に確認し、必要に応じて外部弁護士と協議します。会社の独断で、対象資料を隠したり恣意的に選別したりしてはいけません(第9話で整理した「法的根拠に基づく提出要求を受けた場合の対応」と同じ考え方です)。
「秘密情報だから出しません」は万能ではない
資料に個人情報、営業秘密、取引先の秘密、NDA対象情報が含まれていても、法令上の提出義務や令状がある場合には、「秘密だから」という理由だけで当然に拒否できるとは限りません。
一方、任意の提出依頼であれば、第三者情報を含めて提出の必要性と範囲を検討する余地があります。契約上の秘密保持義務と行政・刑事手続上の提出権限・義務を比較し、個別に判断します。一律の優先順位はありません。
日本に米国型の広範な秘匿特権はない
「外部弁護士とのメールだから、すべて行政・警察への提出を拒める」とは言えません。日本には、米国型の一般的で広範なAttorney-Client Privilegeがそのまま存在するわけではありません。
独占禁止法の行政調査には、課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の内容を記録した物件で、一定の条件を満たすものを、審査官が内容にアクセスすることなく還付する判別手続があります。しかし、これは対象・要件が限定された特定の制度です。他の行政調査や刑事手続に一般化せず、利用する場合は制度の要件を確認してください(第7話・第8話も参照)。
実務で使える「行政・警察対応受付票」
| 区分 | 項目 | 記入欄 |
|---|---|---|
| 相手方 | 機関名・部署 | |
| 相手方 | 担当者氏名・役職 | |
| 相手方 | 身分証確認(有・無/確認者) | |
| 相手方 | 公式連絡先(折り返し確認の有無) | |
| 案件 | 案件名・事件番号等 | |
| 案件 | 対象会社・対象部署 | |
| 案件 | 対象事実(相手方の説明) | |
| 法的性格 | 任意照会/行政指導/報告徴収/立入検査/資料提出命令/刑訴法照会/任意捜査/令状執行/その他 | |
| 根拠 | 法律・条文 | |
| 根拠 | 告知書・照会書・令状等(有・無/写しの有無) | |
| 対応 | 回答・提出期限 | |
| 対応 | 資料範囲 | |
| 対応 | 社内責任者 | |
| 対応 | 外部弁護士(連絡時刻・対応者) | |
| 対応 | 証拠保全指示(時刻・指示先) | |
| 対応 | 広報・IR連絡 | |
| 記録 | 受付者・受付日時 |
実務で使える「法的権限確認表」
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 機関 | ○○委員会/○○省/警察等 |
| 部署・担当者 | 氏名・連絡先 |
| 要請内容 | 何を求めているか |
| 法的根拠 | 法律・条文 |
| 法的性質 | 任意/行政指導/法定調査/間接強制/令状等 |
| 応諾義務 | 有/無/要確認 |
| 拒否等の制裁 | 罰則等の有無 |
| 対象 | 会社・部署・人物 |
| 期間 | 対象期間 |
| 資料 | 対象資料 |
| 期限 | 回答・提出期限 |
| 書面 | 照会書・告知書・令状等 |
| 秘密保持の要請・命令 | 197条5項の要請、218条3項の秘密保持命令等の有無と範囲 |
| 社内責任者 | 担当役員・法務 |
| 外部弁護士 | 連絡状況 |
実務で使える「提出資料管理表」
提出資料は、手続の種類ごとに法的意味が異なります。警察への任意提出、行政への資料提出、差押え・押収を同じ欄で混同しないよう、「提出区分」を必ず設けます。
| 欄 | 記入内容 |
|---|---|
| 管理番号 | 社内の連番 |
| 提出区分 | 任意協力/行政指導対応/法定報告・提出命令/立入検査時の提出・留置/刑訴法197条2項回答/任意提出(領置)/差押え・押収/電磁的記録提供命令 |
| 要求元・担当者 | 機関名・部署・氏名 |
| 法的根拠 | 法律・条文、書面名 |
| 要求日時 | |
| 要求内容・対象期間 | |
| 提出期限 | |
| 資料名 | |
| 原本/コピー | |
| 提出形式・提出方法 | 紙・電子媒体・オンライン等 |
| 提出者・提出日時 | |
| 受領者 | |
| 会社控え | 控えの保管場所 |
| 個人情報・第三者情報・営業秘密 | 有無と検討結果 |
| 目録との照合 | 押収・留置の場合 |
| 返却・還付状況 | |
| 備考 |
社員には何を指示する?
初動の社内連絡では、次の内容を簡潔に伝えます。
- 行政・警察から直接質問や連絡を受けた場合は、法務へ連絡してください
- 自分の判断で資料を渡さないでください
- 虚偽の説明はしないでください
- 証拠・メール・チャットを削除しないでください
- 質問された内容と回答した内容を記録してください
- 本件について外部へ不用意にSNS投稿しないでください
- メディアからの問い合わせは広報へ集約してください
ただし、この連絡は行政機関や警察への法令上保護される通報・協力を一律に禁止するものであってはいけません。 社員向け通知には、次の留保を入れておきます。
内部通報・行政機関への通報その他法令上保護される公益通報等を制限するものではありません。
また、社員が個人として捜査対象となる可能性がある場合には、次に述べる利益相反への配慮が必要です。
会社と社員の利益が対立する場合
たとえば、会社は法人として違反を否定したい一方、社員は「上司から指示された」と説明したいという場面があります。
このとき、会社の顧問弁護士が当然に社員個人も代理するとは限りません。必要に応じて、次の対応を考えます。
- 社員本人へ、会社と利益が相反する可能性があることを説明する
- 社員が独立した弁護士に相談できる機会を検討する
社内調査と行政・警察の聴取が並行する場合
会社の内部調査と、行政・警察の聴取が並行することもあります。この場合、会社が先に社員へ「警察にはこう答えるように」と指示してはいけません。
一方で、社内調査としての証拠保全・事実確認は継続します。誰をいつ聴取するか、社内調査が行政・警察の手続に影響を与えないかを、外部弁護士と協議しながら進めます。
メディア・適時開示への対応
行政の立入検査や警察の捜索が入ると、記者から「警察が御社を捜索したのは事実ですか」といった問い合わせが来る可能性があります。
- 確認済みの事実は何か
- 公表可能な範囲はどこまでか
- 捜査・調査への影響はないか
- 個人情報に配慮しているか
- 秘密保持命令等により、口外が制限されている事項はないか
「何も答えない」「全部答える」の二択にしないことが大切です。また、「捜索を受けた=違法行為が確定した」ではありません。社外への説明でも、社内での説明でも、この区別を崩さないようにします。
上場会社の適時開示
上場会社では、行政調査、警察捜査、行政処分等が上場規程上の重要な会社情報に該当する場合、適時開示を検討します。行政庁による法令等に基づく処分や法令違反に係る告発などは発生事実として検討対象になり得ますし、それ以外でも投資判断に著しい影響を及ぼす事実であれば、いわゆるバスケット条項の検討が必要になります。
ただし、「警察から問い合わせが来た=必ず適時開示」「立入検査=必ずTDnet」ではありません。東京証券取引所の「会社情報適時開示ガイドブック(2026年7月版)」や適時開示ナビを確認し、個別に判断します。
メディアへの回答で適時開示を代替することはできません。行政・警察への説明、メディア回答、適時開示の内容は、同じ事実マスターから作ります。
第10話の「対外説明事実マスター」を参照してください。
行政・警察対応の最初の30分フロー
行政/警察から接触 ↓ 本人・所属を確認 ↓ 目的・根拠・手続を確認 ↓ 任意/法定/強制を分類(6レーン) ↓ 書面・告知書・令状等を確認 ↓ 法務・責任者へエスカレーション ↓ 必要に応じ外部弁護士へ連絡 ↓ 証拠保全を指示 ↓ 資料・場所・社員対応を一本化 ↓ 対応記録を開始
これは「30分ですべて終わる」という意味ではなく、初動の順序です。立入検査や令状執行は数時間から終日続くこともあります。
任意か法定かの判定フロー
行政・警察から連絡 ↓ 相手方・身元確認 ↓ 書面/令状等あり? ↓ 法的根拠を確認 ↓ どのレーン? ├ レーン1:一般問い合わせ・任意協力 ├ レーン2:行政指導 ├ レーン3:法令上の報告徴収・立入検査 ├ レーン4:間接強制を伴う行政調査 ├ レーン5:警察等の任意捜査・照会 └ レーン6:令状による強制処分 ↓ 対象・期限・範囲を確認 ↓ 法務・責任者・必要に応じ外部弁護士 ↓ 証拠保全 ↓ 対応・提出 ↓ 内容を記録 ↓ 行政報告・メディア・適時開示等を再確認
行政調査を受けたことで、別の法定報告義務が判明することもあります。その場合は第9話「会社の不正が判明したら行政に報告すべき?報告義務と自主申告の判断」の手順に接続します。
行政の立入検査が来たときの10ステップ
- 職員の身元を確認する
- 根拠法令を確認する
- 告知書等を確認する
- 社内責任者・法務へ連絡する
- 外部弁護士へ連絡する
- 対象範囲を確認する
- 対応する社員を限定する
- 検査内容・提出物を記録する
- 不明点はその場で確認する
- 検査終了後に事実関係と提出物を整理する
法令上の検査を妨害しないことが前提です。
警察の令状執行時の10ステップ
- 身元を確認する
- 令状の提示を受ける
- 令状の内容を確認する
- 法務・経営・外部弁護士へ即時連絡する
- 社員へ証拠保全と対応一本化を指示する
- 対象場所・対象物を確認する
- 執行状況を可能な範囲で記録する
- 業務継続への影響を確認する
- 押収物目録を確認する
- 執行終了後に社内対応会議を開く
「弁護士到着まで執行を止める」というステップはありません。
初動チェックリスト
- 相手の機関名・部署・氏名を確認した
- 身分証等を確認した
- 公式連絡先を確認した
- 案件名・事件番号等を確認した
- 法的根拠を確認した
- 任意/法定/強制を確認した
- 書面・告知書・令状を確認した
- 対象部署・資料・期間を確認した
- 回答・提出期限を確認した
- 秘密保持の要請・命令の有無を確認した
- 法務責任者へ連絡した
- 必要に応じ外部弁護士へ連絡した
- 証拠保全を開始した
- メール・チャット等を削除していない
- 対応者を限定した
- 行政・警察とのやり取りを記録している
- 資料提出の根拠・範囲を確認した
- 原本/コピーを確認した
- 提出資料の会社控えを管理している
- 任意提出と押収を混同していない
- 押収物目録を確認した
- 社員聴取の法的立場を確認した
- 会社と社員の利益相反を確認した
- 広報対応を確認した
- 上場会社なら適時開示を確認した
やってはいけない10の対応
| やってはいけないこと | 理由 |
|---|---|
| 行政だから全部任意だと思う | 罰則付きの報告徴収・立入検査は多い |
| 行政だから全部強制だと思う | 任意の協力依頼や行政指導もある |
| 警察に令状がないから何でも拒否できると思う | 197条2項照会には報告義務があると解されている |
| 令状があるから会社中の資料を無制限に持っていけると思う | 令状は場所・物等を特定して発付される |
| 弁護士が来るまで法定調査・令状執行を必ず止められると思う | そのような一般的権利はない |
| 担当社員がその場で資料を勝手に送る | 本人確認・根拠・範囲が未確認のまま情報が出る |
| 資料を削除・修正する | 別の重大な法的問題につながり得る |
| 社員へ供述内容を指示する | 口裏合わせは許されない |
| 任意提出と押収を混同する | 手続・返還・記録の扱いが異なる |
| 行政・警察への説明とメディア・適時開示を別々に管理する | 説明の食い違いが信用を損なう |
3つのケースで考える
ケースA|行政から任意の資料提出依頼
○○省の担当者から電話があり、「事故について、関連する社内資料をメールで送ってください」と依頼された。書面はない。
対応
- 公式代表番号への折り返しで本人確認
- 法的根拠を確認(個別法の事故報告義務や報告徴収に当たるか、任意の依頼か)
- 対象資料・期限を確認
- 必要に応じて書面化を依頼
- 提出範囲を法務が判断し、提出資料管理表に記録
ポイント:行政機関からの連絡でも、言葉だけで法的性格を決めない。法定の事故報告義務が問題となる場合は、第9話の手順に接続する。
ケースB|公取委の独禁法47条立入検査
朝、公正取引委員会の審査官が来社。審査官証を提示し、告知書を交付した。
対応
- 身分と根拠(告知書に47条の記載があるか)を確認
- 法務・外部弁護士へ連絡(弁護士の到着を待たずに検査は始まり得る)
- 対象範囲を確認
- 立入検査を妨害しない
- 提出命令・留置の目録と社内記録を照合
- 社員へ証拠保全と削除禁止を指示
ポイント:任意調査ではなく、罰則で応諾義務が担保された行政調査である。ただし刑事上の捜索差押えとは異なる。
ケースC|警察の捜索差押え
警察官が複数来社し、裁判官発付の捜索差押許可状を提示した。
対応
- 令状の提示を受け、種類・罪名・場所・物・有効期間を確認
- 法務・経営・外部弁護士へ即時連絡
- 対象場所・資料を確認し、立会者を決める
- 社員へ削除禁止・対応一本化を指示
- 執行状況を記録
- 押収物目録を確認し社内記録と照合
- 業務継続対応
- 終了後に危機対応会議(メディア・適時開示の検討を含む)
ポイント:会社が独自判断で執行を物理的に阻止しない。捜索を受けたことは、違法行為が確定したことを意味しない。
よくある質問(FAQ)
Q1.行政機関から資料提出を求められたら必ず提出しなければなりませんか?
A.根拠によって異なります。個別法に基づく報告徴収や提出命令で罰則により応諾が担保されている場合は、法定の範囲で適切に対応する必要があります。一方、法令に基づかない任意の協力依頼であれば、提出の要否と範囲を会社が判断できます。まず根拠条文と書面を確認してください。
Q2.「立入検査」と言われたら拒否できませんか?
A.根拠法令によります。独禁法47条の立入検査のように、正当な理由なく拒否・妨害・忌避すると罰則が適用され得るものがあります。一方で、行政調査の立入検査は刑事上の捜索とは異なり、職員が物理的実力で直接強制するものではありません。「立入検査」という言葉だけで判断せず、根拠条文と告知書を確認してください。
Q3.行政職員が来たら弁護士が到着するまで待ってもらえますか?
A.短時間の待機を丁寧に依頼することは考えられますが、法定の立入検査について、弁護士到着まで開始を拒否できる一般的な権利はありません。公取委は、弁護士が到着しないことを理由に立入検査を拒むことはできないと明記しています。
Q4.警察に令状がなければ資料提出をすべて断れますか?
A.単純には言えません。刑訴法197条2項の照会には報告義務があると解されている一方、強制力をもって回答させることはできないとされています。また、同項は必要事項の「報告」を求める制度で、同項だけを根拠に資料そのものの提出を直接求めることはできないと整理されています。資料の任意提出の依頼であれば、提出するか否かや範囲を検討できます。いずれの場合も、照会内容に照らして必要な範囲を検討し、回答・提出の記録を残してください。
Q5.捜索差押許可状を持って警察が来たら何を確認しますか?
A.令状の種類、被疑者等の氏名、罪名、捜索すべき場所、差し押さえるべき物、電磁的記録提供命令の場合は提供させるべき電磁的記録・提供の方法、有効期間、発付年月日、発付した裁判官を確認します。確認・記録したうえで、疑義があれば外部弁護士と対応し、執行を物理的に妨げないでください。
Q6.押収されたPCが業務に必要な場合はどうしますか?
A.押収物目録を確認し、業務への影響を整理したうえで、還付・仮還付の請求の可能性を外部弁護士と検討します。その場でのコピーや早期返却が当然に認められるわけではないため、代替端末の準備など業務継続対応も並行して進めます。
まとめ|「誰が来たか」より「何の権限で来たか」を確認する
行政機関や警察からの接触は、突然やってきます。そのとき、「行政・警察だから全部従う」「令状がないから全部断る」という二択で動くと、どちらに転んでも会社は不利な立場に置かれます。
- 相手方の身元
- 所属・担当部署
- 法的根拠
- 任意/法定/強制の区別
- 対象範囲
- 期限・手続
そのうえで、社内責任者・外部弁護士への連絡、証拠保全、提出範囲の決定、対応記録へ進みます。
行政指導の任意性を個別法上の調査へ広げない。独禁法47条の調査を「任意」とも「刑事捜査」とも扱わない。197条2項照会を令状と同一視しない。令状執行を物理的に妨げない。そして、どの場面でも証拠を消さない、口裏を合わせない、提出したものを記録する。
「誰が来たか」より先に、「どの法的権限で何を求めているのか」を確認する。
これが、行政・警察対応の初動のすべての出発点です。
シリーズ全体を総まとめし、不祥事の発覚から24時間で会社がやるべきことをチェックリストで整理します。
第15話「企業不祥事の初動対応チェックリスト|発覚後24時間に会社がやること」を読む参考資料・一次資料
※法令・情報基準日:2026年9月5日
行政手続
- e-Gov法令検索「行政手続法」(平成5年法律第88号)2条6号、3条1項5号・14号、32条、35条、36条の2
https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000088
個人情報保護
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律第57号)27条1項1号、146条、147条、148条、150条、170条、182条、同法施行令40条
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057 - 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのQ&A」Q11-1
https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q11-1/ - 個人情報保護委員会 Q&A(刑事訴訟法197条2項に基づく警察からの照会への回答)
https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q7-17/ - 個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律(2026年7月17日公布、一部を除き公布日から2年以内の政令で定める日に施行)
独占禁止法
- e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号)47条、94条、101条、102条
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000054 - 公正取引委員会「独占禁止法第47条」
https://www.jftc.go.jp/dk/seido/tokusyushitei/dokkinhou47.html - 公正取引委員会「独占禁止法審査手続に関する指針」
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/shinsashishin.html - 公正取引委員会「独占禁止法違反被疑事件の行政調査手続の概要について(事業者等向け説明資料)」(令和2年12月)
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/shinsagaiyou.html - 公正取引委員会「審査手続・意見聴取手続」(行政調査と犯則調査)
https://www.jftc.go.jp/dk/seido/sinsa.html - 公正取引委員会「判別手続」
https://www.jftc.go.jp/dk/seido/hanbetsu/index.html
刑事手続
- e-Gov法令検索「刑事訴訟法」(昭和23年法律第131号)110条、114条、120条、123条、197条、198条、218条、219条、221条、222条、223条、226条(2026年9月5日時点の現行条文)
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131 - 情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律第39号。電磁的記録提供命令等に関する規定は2026年5月21日施行。令状の電子化を含むその他のデジタル化規定には2026年9月5日時点で未施行部分あり)
- 警察庁通達「捜査関係事項照会書の適正な運用について」(平成31年3月27日)
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/keiki/310327-20.pdf - 国家公安委員会規則「犯罪捜査規範」99条(任意捜査の原則)、100条(承諾を求める際の注意)※捜査機関の職員が守るべき規範であり、企業側の権利を直接定めるものではありません
上場会社
- 株式会社東京証券取引所「有価証券上場規程」
- 株式会社東京証券取引所「会社情報適時開示ガイドブック(2026年7月版)」
- 日本取引所グループ「適時開示ナビ」(2026年7月版の内容反映済み)
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別事案についての法的助言ではありません。具体的な対応は、根拠法令・手続の種類・事案の内容に応じて、外部弁護士等の専門家に相談してください。
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