消費者庁の命令・立入検査にどう備えるか|従事者指定義務と行政監督の強化
2026年施行・公益通報者保護法改正対応シリーズ
第6話消費者庁の命令・立入検査にどう備えるか|従事者指定義務と行政監督の強化
2026年12月施行の改正公益通報者保護法では、従事者指定義務の履行確保のため、消費者庁の命令権・立入検査権が新設されます。勧告・公表・報告徴収との違い、命令違反・検査拒否等の罰則、企業が整備すべき指定書・名簿・記録を解説します。
従事者指定書がなくても、担当者が決まっていればよいのでしょうか。内部通報窓口があれば従事者指定義務を履行したことになるのでしょうか。消費者庁はどのような場合に立入検査を行うのでしょうか。検査を拒否すると誰が処罰されるのでしょうか。
結論を先に示します。改正法は、従事者指定義務の履行確保を強化するものです。常時使用する労働者が300人を超える事業者について、消費者庁の命令権・立入検査権が新設されます。ただし、内部通報体制の不備すべてに無制限に命令・立入検査ができるわけではありません。従事者指定義務(第11条第1項)と、体制整備義務全般(第11条第2項)を区別する必要があります。命令違反、報告拒否、虚偽報告、検査拒否等には30万円以下の罰金が設けられ、法人にも両罰規定がありますが、その上限は解雇・懲戒に関する法人罰(3,000万円以下)とは異なります。
この記事で分かること
行政権限の紹介にとどめず、従事者指定の実務、証跡整備、立入検査の初動対応に使える記事とすることを目指します。
読んだだけで終わると、次の案件でまたゼロから考えることになります。
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改正で行政監督はどう変わるか
まず全体像を確認します。改正前から、消費者庁には一定の行政監督権限がありました。「改正前は消費者庁に何の権限もなかった」という理解は誤りです。改正で新設されたのは、主に命令権・立入検査権と、それに伴う罰則です。
| 手段 | 改正前 | 改正後 | 対象義務 |
|---|---|---|---|
| 助言・指導 | あり(第15条) | 変更なし(第15条) | 第11条第1項・第2項(300人以下は努力義務として) |
| 勧告 | あり | 従事者指定義務に関する勧告は第15条の2第1項として整理(命令の前提となる勧告として位置付け) | 同上 |
| 公表 | 勧告に従わない場合の公表あり | 変更なし。加えて命令した旨の公表を新設(第15条の2第3項) | 第11条第2項の勧告不履行(300人超)、命令違反(300人超) |
| 命令 | なし | 新設(第15条の2第2項) | 従事者指定義務(第11条第1項)に限定。300人超の事業者のみ |
| 報告徴収 | あり | 従事者指定義務に関する報告徴収を第16条第1項として整理し立入検査と組み合わせ。それ以外の体制整備義務に関する報告徴収は第16条第2項として存続 | 従事者指定義務(第16条第1項、300人超)、体制整備義務全般(第16条第2項、300人超・以下いずれも) |
| 立入検査 | なし | 新設(第16条第1項) | 従事者指定義務。300人超の事業者のみ |
| 命令違反 | 制度自体がなし | 新設。刑事罰の対象(第21条第2項第1号) | 命令(第15条の2第2項) |
| 報告拒否・虚偽報告(第16条第1項関係) | 制度自体がなし | 新設。刑事罰の対象(第21条第2項第2号) | 従事者指定義務の履行確認 |
| 検査拒否等 | 制度自体がなし | 新設。刑事罰の対象(第21条第2項第2号) | 同上 |
| 法人処罰 | 両罰規定なし | 解雇・懲戒(第23条第1項第1号)、命令違反・検査拒否等(同項第2号)について両罰規定を新設 | 第21条第1項・第2項の各罰則 |
| 過料 | 第16条第2項に相当する報告徴収の懈怠等について20万円以下の過料 | 変更なし(第24条) | 第16条第2項の報告徴収(従事者指定義務以外の体制整備義務) |
重要ポイント
この表で押さえておきたいのは、命令権・立入検査権という「強い権限」が新設された対象は、体制整備義務全般ではなく、従事者指定義務(第11条第1項)に限定されているという点です。この限定は、記事全体を通じて繰り返し確認します。
従事者指定義務とは何か
改正後第11条第1項は、事業者に対し、公益通報対応業務に従事する者(従事者)を定めることを義務付けています。従事者として定める必要があるのは、次の2つの要件をいずれも満たす者です。第一に、内部公益通報の受付、調査または是正に必要な措置を主体的に行い、またはその重要部分に関与する者であること(公益通報対応業務を行う者であること)。第二に、その業務に関して、公益通報者を特定させる事項を伝達される者であることです。いずれか一方だけでは、従事者として定めるべき対象にはなりません。
消費者庁のQ&Aによれば、内部公益通報受付窓口において公益通報対応業務を行うことを主たる職務とする部門の担当者は、従事者として定める必要があります。それ以外の部門の担当者であっても、事案により公益通報対応業務を行い、かつ公益通報者を特定させる事項を伝達される場合には、必要が生じた都度、従事者として定める必要があります。一方、内部公益通報の受付・調査・是正について主体的に行っておらず、重要部分にも関与していない者(例えば、ヒアリングの対象者や、内容を伝えられたにとどまる者)は、従事者として定めるべき対象には該当しません。
| 関与者 | 従事者となり得るか | 確認条件 |
|---|---|---|
| 常設窓口担当者 | 該当し得る(主たる職務として該当する場合が多い) | 内部公益通報受付窓口の業務を主たる職務としているか |
| 調査担当者 | 該当し得る | 公益通報者を特定させる事項を伝達されるか |
| 是正担当者 | 該当し得る | 同上 |
| 法務担当者 | 関与内容による | 調査・是正の重要部分に関与し、特定事項を伝達されるか |
| 人事担当者 | 関与内容による | 同上 |
| 情報システム担当者 | 関与内容による | 案件対応でログ調査等に関与し、特定事項を伝達されるか |
| 経営者・役員 | 関与内容による | 役職だけで決まらない。公益通報対応業務を主体的に行い、または重要部分に関与し、その業務に関して通報者を特定させる事項を伝達される場合は指定対象となり得る |
| 外部弁護士 | 関与内容による | 公益通報対応業務を行い、その業務に関して通報者を特定させる事項を伝達される場合は指定対象となり得る。スポットの一般的な法律相談にとどまる場合はこの限りでない |
| 外部窓口担当者 | 関与内容による | 同上 |
| 親会社担当者 | 関与内容による | 子会社の公益通報対応業務に主体的に関与し、特定事項を伝達されるか |
| 通報対象となった上司 | 原則として公益通報対応業務から排除すべき | 利益相反排除の観点から調査・是正判断に関与させないのが基本。実際に関与させ特定事項を伝達した場合の従事者該当性は、業務内容と伝達の有無により別途判断する |
| 単なる決裁者(内容を知らない) | 関与内容による | 特定事項を伝達されているか |
| 資料の形式的な発送担当者 | 通常は該当しない | 特定事項の実質的な取扱いがないか |
誤解しやすい点
「窓口担当者だけ指定すればよい」というのは不正確です。調査や是正に実質的に関与し、通報者を特定させる事項を伝達される者であれば、部署や役職を問わず指定の対象になり得ます。逆に、「通報対応に少しでも関わる者は全員従事者にしなければならない」というのも行き過ぎです。基準は、業務への主体的な関与と、特定事項の伝達の有無です。
どのように指定すればよいか
指定の方法について、法律上、書面や署名・押印が必須と定められているわけではありません。もっとも、指定を受ける本人に、従事者の地位に就くこと、第12条の守秘義務が課されること、違反時に第22条の罰則が科され得ることが明確に認識される方法で指定する必要があります。
| 方法 | 本人の認識 | 証跡 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 指定書・辞令(個人名記載) | 明確 | 残りやすい | 最も分かりやすい方法 |
| 通知書・メール(個人名記載) | 明確 | 残りやすい | 受領確認まで残すとより確実 |
| 職務分掌・規程での属性指定(部署・役職単位) | 本人が自らの該当を認識できるかがポイント | 規程自体は残るが個別の認識確認が必要 | 該当者本人が守秘義務・罰則を認識できる方法をあわせて講じる必要がある |
| 案件別の追加指定通知 | 明確 | 案件ごとに残す | 臨時の関与者に有効 |
| 口頭のみ | 不明確になりやすい | 残りにくい | 後日の説明が困難になりやすいため推奨しない |
| 規程に担当部署名を書いただけ | 不十分な場合がある | 個別の認識確認が別途必要 | 本人が自らの指定を認識していない場合、指定の実効性に疑義が生じ得る |
基本的な指定フローは、次のとおりです。
重要なのは、指定の事実と本人の認識を、後から第三者に説明できる証跡を残すことです。本人が従事者として定められたことを客観的に認識できる方法を採用する必要があり、認識の有無を説明できる記録を残すことが実務上望ましいといえます。実態として業務を行わせていたのに指定を忘れていた場合は、指定義務の履行状況について改めて確認・是正が必要になります。
体制整備義務との違い
第11条第1項(従事者指定義務)と第11条第2項(体制整備義務)は、しばしば一体のものと理解されがちですが、法的には区別される義務です。
| 項目 | 第11条第1項(従事者指定義務) | 第11条第2項(体制整備義務) |
|---|---|---|
| 義務の内容 | 公益通報対応業務従事者を定めること | 内部公益通報に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、労働者等への周知その他の必要な措置 |
| 具体的内容の根拠 | 条文および指針 | 主に法定指針・指針の解説 |
| 命令・立入検査の対象 | 対象となる(300人超) | 対象とならない(助言・指導、勧告、勧告に従わない場合の公表にとどまる) |
| 刑事罰との関係 | 命令違反・検査拒否等に刑事罰 | 直接の刑事罰なし |
誤解しやすい点
ここが本記事で最も誤解されやすい点です。従事者指定は体制整備の一部のように見えますが、条文上は第11条第1項として独立した義務であり、命令権・立入検査権はこの従事者指定義務の履行確保のために新設されたものです。第11条第2項の体制整備義務(窓口の運用状況、調査の実効性、記録保存、利益相反排除など)全般が、命令や立入検査、刑事罰の直接の対象になるわけではありません。周知不足や調査の遅れといった体制整備義務の不備は、助言・指導や勧告、勧告に従わない場合の公表の対象にはなり得ますが、それだけで直ちに命令や刑事罰の対象になるとは言えません。
300人超と300人以下で何が違うか
常時使用する労働者の数が300人を超える事業者(301人以上と表現されることもあります)と、300人以下の事業者とでは、義務の性質と行政監督の及び方が異なります。「常時使用する労働者」とは、常態として使用される労働者を指し、繁忙期のみの一時雇用は含まれません。パートタイマーやアルバイト、契約社員、出向者も、常態として使用されていれば含まれ、派遣労働者は派遣先・派遣元の双方でカウントされます。事業所単位か法人単位か、複数事業所がある場合の扱い等、個別の算定が公的資料で網羅的に示されていない場合は、慎重に確認してください。
| 項目 | 300人超の事業者 | 300人以下の事業者 |
|---|---|---|
| 従事者指定(第11条第1項) | 法的義務 | 努力義務 |
| 体制整備(第11条第2項) | 法的義務 | 努力義務 |
| 助言・指導 | 対象 | 対象 |
| 勧告 | 対象 | 対象 |
| 公表 | 勧告に従わない場合、命令した場合に対象 | 対象外(第11条第2項の勧告不履行を理由とする公表は300人超の事業者が対象) |
| 報告徴収 | 対象(報告懈怠等には過料。従事者指定義務関係は刑事罰) | 対象(報告懈怠等には過料) |
| 命令 | 従事者指定義務違反について対象 | 対象外 |
| 立入検査 | 従事者指定義務の履行確認について対象 | 対象外 |
| 命令違反等の刑事罰 | 対象 | 対象外 |
| 通報妨害禁止(第11条の2) | 適用される | 適用される |
| 通報者探索禁止(第11条の3) | 適用される | 適用される |
| 不利益取扱い禁止(第3条等) | 適用される | 適用される |
誤解しやすい点
「300人以下には公益通報者保護法が適用されない」というのは誤りです。第3条から第7条、第11条の2、第11条の3等、企業規模を問わず適用される規定が多数あります。一方で、「300人以下にも同じ命令・立入検査が及ぶ」というのも誤りです。命令権・立入検査権は、300人超の事業者が負う従事者指定義務の履行確保のために設けられたものであり、300人以下の事業者にはそもそもこの法的義務がないため、命令・立入検査の直接の対象にはなりません。300人以下の事業者も、助言・指導、努力義務に関する勧告、および第16条第2項の報告徴収(懈怠等には第24条の過料)の対象にはなり得ます。もっとも、第11条第2項の勧告に従わない場合の公表は、同項の法的義務を負う300人超の事業者を対象とするものであり、努力義務にとどまる300人以下の事業者はこの公表の対象にはなりません。
消費者庁の監督手段
従事者指定義務違反が疑われる場合、消費者庁の監督手段は、おおむね次の段階で構成されます。ただし、これがすべての案件で必ずこの順序どおりに進むとは限りません。
命令権は何に対して使われるか
命令権(第15条の2第2項)は、従事者指定義務(第11条第1項)に関する勧告に、正当な理由なく従わない場合に行使されるものです。第11条第2項の体制整備義務全般に対する命令ではありません。
| 状況 | 第11条第1項との関係 | 第11条第2項との関係 | 命令対象となり得るか |
|---|---|---|---|
| 従事者を全く指定していない | 直接該当 | – | 勧告を経て命令の対象になり得る |
| 指定方法が不明確(本人が未認識) | 該当し得る | – | 指定の実効性次第で対象になり得る |
| 指定対象者に漏れがある | 該当し得る | – | 同上 |
| 指定したが本人に通知していない | 該当し得る | – | 同上 |
| 窓口がない | – | 体制整備義務の内容として指針上求められる水準を満たしているか個別確認が必要 | 直接の命令対象ではなく、助言・指導、勧告、公表の対象になり得る |
| 周知不足 | – | 同上 | 同上 |
| 調査・是正の体制や運用が指針上の水準を満たしていない | – | 同上 | 同上 |
| 範囲外共有防止措置がない | – | 同上 | 同上 |
| 研修が不足 | – | 同上 | 同上 |
| 記録保存が不十分 | – | 同上 | 同上 |
誤解しやすい点
「窓口が機能していなければ直ちに命令」「周知不足なら直ちに命令」という理解は誤りです。これらは第11条第2項の体制整備義務の問題であり、命令の直接対象ではなく、助言・指導や勧告、公表の対象にとどまります。命令の対象は、あくまで従事者指定義務の履行状況に限られます。
立入検査では何を確認されるか
改正後第16条第1項は、消費者庁が事業者に報告を求め、職員に事務所その他の事業所へ立ち入らせ、帳簿書類その他の物件を検査させることができると定めています。同項には、独立した質問権は規定されていません。立入検査を行う職員は身分証明書を携帯し、関係者に提示する必要があります。これは犯罪捜査のために認められた権限ではなく、行政調査です。令状を要する刑事捜索とは異なる制度です。
以下は、公表された一律の検査項目ではなく、第11条第1項の従事者指定義務の履行状況を説明するために、企業が準備しておくことが考えられる資料の例です。実際の検査対象は、個別の検査目的と必要性によって異なります。
| 資料 | 確認目的 | 通報者情報の有無 | 提出時の注意 |
|---|---|---|---|
| 従事者指定書・名簿 | 指定の実施状況確認 | 通常なし(氏名程度) | 個人情報への配慮 |
| 指定通知・受領記録 | 本人認識の確認 | 通常なし | – |
| 規程・職務分掌 | 体制の枠組み確認 | なし | – |
| 研修記録 | 周知・教育の実施状況確認 | 通常なし | – |
| アクセス権限記録 | 情報管理体制の確認 | 設定状況のみ | – |
| 通報案件担当者一覧 | 従事者指定との整合確認 | 担当者名のみ、通常は通報者情報を含まない | – |
| 外部委託契約・グループ共通窓口契約 | 指定関係の確認 | 通常なし | – |
| 異動・退職時の指定解除記録 | 指定管理の実効性確認 | 通常なし | – |
| 通報受付台帳・調査記録・是正記録 | 体制の運用状況確認 | 含まれ得る | 通報者を特定させる事項のマスキング等を消費者庁と調整 |
| メール・チャット・システムログ | 個別案件での必要性による | 含まれ得る | 同上。目的・範囲を確認したうえで対応 |
これらすべてが常に提出させられるわけではなく、検査の法定目的(従事者指定義務の履行状況確認)との関連性に応じて確認される資料が異なります。法定の立入先は「事業者の事務所その他の事業場」であり、具体的にどの場所が対象となるかは個別の検査によります。外部委託先、在宅勤務者の自宅、国外サーバー等が「事業場」に当然に含まれるかについては、公的資料で網羅的に示されているわけではないため、個別に確認が必要です。
立入検査の目的と限界
立入検査は、従事者指定義務の履行状況を確認するための行政調査であり、犯罪捜査ではありません。この違いを理解したうえで、適法に協力する姿勢が重要です。企業秘密や個人情報を理由に一切協力しないという対応は適切ではありません。一方で、行政職員から求められた資料を、目的や範囲を確認せずに無制限に提出することも推奨されません。行政調査の目的、法的根拠、対象範囲を確認しながら対応してください。
法務確認ポイント
通報者情報や個人情報、営業秘密が含まれる資料については、その必要性を踏まえたうえで、検査の目的に照らして必要な範囲で提示・提出し、通報者を特定させる事項についてはマスキング等の方法を消費者庁と調整することが考えられます。企業が一方的に必要な情報まで隠してよいという意味ではなく、通報者保護や個人情報保護の必要性を説明し、提出方法について協議する姿勢が重要です。弁護士との相談資料についても、資料の性質、行政調査の目的、提出要請の法的範囲、弁護士法上の守秘義務等を踏まえて個別に検討してください。
報告徴収・立入検査の違い
改正後第16条は、第1項と第2項で異なる報告徴収を定めています。両者を単に「報告徴収」とまとめず、区別してください。第1項は従事者指定義務(第11条第1項)の履行状況確認に関するもの、第2項は第11条第1項の努力義務部分および第11条第2項の体制整備義務に関する報告徴収です。
| 項目 | 第16条第1項の報告徴収 | 第16条第1項の立入検査 | 第16条第2項の報告徴収 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 従事者指定義務の履行状況確認 | 同左 | 従事者指定義務以外の体制整備義務(努力義務部分を含む)の履行状況確認 |
| 対象事業者 | 300人超(第16条第1項かっこ書きにより300人以下は対象外) | 300人超 | 300人超・300人以下いずれも対象になり得る |
| 立入の有無 | 報告徴収自体は立入を伴わない | 立入を伴う | 立入を伴わない |
| 違反時の効果 | 報告拒否・虚偽報告に刑事罰 | 検査拒否・妨害・忌避に刑事罰 | 報告懈怠・虚偽報告に過料(第24条) |
| 刑事罰 | あり(第21条第2項第2号) | あり(第21条第2項第2号) | なし |
| 過料 | なし | なし | あり(20万円以下、第24条) |
| 法人処罰 | 両罰あり(第23条第1項第2号、30万円以下) | 両罰あり(同左) | 第23条の両罰規定による法人処罰ではなく、第24条は報告義務違反に対する過料を定めた規定である |
この整理から分かるとおり、同じ「報告を求められる」という場面でも、従事者指定義務に関する第16条第1項の報告徴収は刑事罰の対象になり得るのに対し、第16条第2項の報告徴収は、報告を怠っても過料(行政上の秩序罰)にとどまり、刑事罰ではありません。過料は前科にならない点も、罰金と異なります。
罰金・過料・法人処罰の違い
この記事に関連する罰則を、労働者への解雇・懲戒の直罰規定(第2話・第3話で解説)とあわせて整理します。
| 行為 | 根拠条文 | 個人への法定刑 | 法人への法定刑 | 刑事罰か |
|---|---|---|---|---|
| 公益通報をした労働者への解雇・懲戒 | 第21条第1項、第23条第1項第1号 | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 | 3,000万円以下の罰金 | 刑事罰 |
| 命令違反 | 第21条第2項第1号、第23条第1項第2号 | 30万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 | 刑事罰 |
| 第16条第1項の報告拒否・虚偽報告 | 第21条第2項第2号、第23条第1項第2号 | 30万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 | 刑事罰 |
| 第16条第1項の立入検査拒否・妨害・忌避 | 同上 | 30万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 | 刑事罰 |
| 従事者守秘義務違反 | 義務:第12条/罰則:第22条 | 30万円以下の罰金 | 両罰規定の対象外と考えられる(要個別確認) | 刑事罰 |
| 第16条第2項の報告懈怠・虚偽報告 | 第24条 | 20万円以下の過料 | -(第23条の両罰規定の対象ではない) | 行政上の秩序罰(刑事罰ではない) |
注意
特に注意したいのは、命令違反や第16条第1項の検査拒否等について、個人の法定刑に拘禁刑は設けられておらず、30万円以下の罰金にとどまるという点です。「検査を拒否すれば拘禁刑になる」という理解は誤りです。また、法人への罰金は、解雇・懲戒の場合の3,000万円以下と、命令違反等の場合の30万円以下とでは大きく異なります。「命令違反だけで法人に3,000万円の罰金が科される」という理解も誤りです。両罰規定は、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者が、法人の業務に関して違反行為をした場合に、行為者を罰するほか法人も罰する構造であり、行為が法人の業務に関して行われたことが前提になります。過料と罰金は別の制度であり、過料は刑事罰ではなく前科にもなりません。両者を同じものとして扱わないでください。なお、国・地方公共団体に対する適用関係には別途の規定があるため、本記事では主に民間事業者を対象に説明しています。
従事者指定の証跡
法律上必須とされる事項と、立入検査等で履行状況を説明するための推奨証跡は、区別して理解してください。
| 資料 | 位置付け | 記載事項の例 | 立入検査時の役割 |
|---|---|---|---|
| 従事者指定書・通知 | 指定の実効性を示す推奨証跡(書式自体は法律上必須ではない) | 指定日、指定者、対象業務、対象範囲 | 本人が指定を認識していたことの説明資料 |
| 従事者名簿 | 推奨証跡 | 氏名、所属、指定日、指定解除日 | 指定状況の全体像を示す資料 |
| 受領確認・研修記録 | 推奨証跡 | 受講日、説明内容(守秘義務・罰則を含む) | 本人の認識を裏付ける資料 |
| 案件別追加指定の記録 | 推奨証跡 | 案件番号、追加指定日、対象者、対象範囲 | 臨時関与者の指定状況を示す資料 |
| 指定解除記録 | 推奨証跡 | 異動日・退職日、解除日 | 指定管理の継続的な実効性を示す資料 |
| アクセス権限記録 | 推奨証跡 | 権限設定日、対象者、範囲 | 指定範囲とアクセス範囲の整合性を示す資料 |
特に強調したいのは、後付け作成をしないということです。検査直前に指定日を遡らせて書類を作成することは、事実と異なる説明につながり、かえって深刻な問題を引き起こします。人事異動や担当変更の都度、名簿を更新し、案件ごとの追加指定や指定解除も記録してください。本人が指定を認識していたこと、守秘義務と罰則の説明を受けたことを、後から説明できる状態にしておくことが実務上のポイントです。
外部窓口・グループ窓口の注意点
外部委託やグループ共通窓口を利用しても、各事業者が自ら義務主体であることに変わりはありません。「外部委託すれば自社の義務がなくなる」「親会社が指定すればすべての子会社で自動的に有効になる」という理解は誤りです。
ケース1:外部弁護士を窓口にしている
義務主体は自社です。外部弁護士が公益通報者を特定させる事項を伝達される場合、当該弁護士を従事者として定める必要があります。委託契約において、守秘義務や情報管理、契約終了時の情報返却・削除についても取り決めておくことが望まれます。
ケース2:通報受付専門会社へ委託している
ケース1と同様、義務主体は自社であり、受託先の担当者が特定事項を伝達される場合は従事者として定める必要があります。委託先における範囲外共有防止措置についても、契約上確認しておくべきです。
ケース3:親会社の窓口を子会社が共同利用している
子会社も第11条の義務主体です。親会社の窓口担当者を指定するだけで、すべての子会社について当然に指定済みとなるわけではありません。どの法人が誰をどの立場で指定しているかを、子会社ごとに確認する必要があります。
ケース4:海外親会社のコンプライアンス部門が調査する
国内の事業者が本法上の義務主体である点は変わりません。国外の部門が特定事項を扱う場合の指定関係、個人情報の国外移転に関する規律等を、個別に確認する必要があります。
ケース5:通報後、社内調査のため情報システム担当者を追加する
案件ごとの追加指定が必要になり得る典型例です。ログ調査等に関与し、特定事項を伝達される場合は、その都度、追加指定と記録を行ってください。
立入検査の事前連絡を受けた場合・職員が来訪した場合の初動
立入検査の事前連絡を受けた場合、または職員が来訪した場合の対応は、検査を回避する方法ではなく、適法に対応し、記録を残す方法として整理します。
検査当日の対応
検査当日は、次の流れで対応することが考えられます。
特に重要なのは、その場で確認できない事項を推測で説明しないことです。第16条第1項自体に独立した質問権・答弁義務は規定されていませんが、行政職員から事実確認を求められた場合、不正確な説明は、後の報告内容や資料提出との整合性を欠き、虚偽報告等の評価につながるリスクがあります。事実確認を求められた場合は、確認できる資料に基づいて説明し、その場で確認できない事項については、確認後の報告が可能かを担当職員と調整してください。原本の提出を求められた場合は、写しを手元に残し、提出の記録(受領書や提出一覧)を保存することも重要です。
ケース別に考える
ケース1:内部通報担当者は決まっているが、指定書・通知記録がない
実態として業務を行わせているのであれば、担当者は従事者に該当し得ますが、指定の事実と本人の認識を示す証跡がありません。速やかに、現状を正確に踏まえた指定書・通知の整備を進めるべきです。過去の指定日を遡らせて作成することは避け、整備した日付をそのまま記録してください。
ケース2:窓口担当者だけ指定し、調査担当者を指定していなかった
調査担当者が特定事項を伝達される立場であれば、指定漏れに当たります。判明した時点で、法務確認のうえ追加指定を行い、指定が遅れた経緯も記録しておくことが考えられます。
ケース3:案件途中で情報システム担当者が通報者情報へアクセスしたが、追加指定していなかった
案件ごとの追加指定を怠っていた例です。速やかに追加指定を行うとともに、アクセス権限の設定状況とあわせて記録を整理してください。
ケース4:親会社窓口を利用しているが、子会社側で誰も従事者指定していない
子会社も義務主体であるため、親会社の指定だけでは足りません。子会社において、誰が公益通報対応業務に関与しているかを洗い出し、必要な指定を行う必要があります。
ケース5:消費者庁から従事者指定状況について報告を求められた
第16条第1項の報告徴収に当たり得ます。事実に基づいた正確な報告を行うことが基本であり、報告拒否や虚偽報告は刑事罰の対象になり得ます。回答内容は法務確認のうえで提出し、提出記録を残してください。
ケース6:立入検査当日、担当者が不在で資料を提示できない
直ちに検査拒否と評価されるとは限りませんが、代替の対応者を確保できる体制や、資料の所在をすぐに確認できる体制を平時から整えておくことが望まれます。当日の状況と対応経緯を記録してください。
ケース7:検査前に指定漏れが判明し、施行後に是正した
判明後、速やかに是正し、是正の経緯(判明日、原因、是正日、是正内容)を記録することが重要です。指定日を遡らせるのではなく、是正した実際の日付で記録してください。
企業側のNG対応
| NG対応 | 問題となる法的論点 | 正しい対応 |
|---|---|---|
| 従事者を実際には指定していないのに、指定済みと報告する | 虚偽報告(第21条第2項第2号) | 実態を正確に報告し、指定漏れがあれば是正計画を示す |
| 検査直前に指定日を遡って書類を作る | 虚偽報告につながり得る | 実際の作成日で記録する |
| 通報案件の記録を削除する | 事実に反する状況の作出、企業統治上の重大な問題 | 記録を保全する |
| 従事者名簿を改変する | 同上 | 変更履歴が分かる形で更新する |
| 事実と異なる説明をする | 虚偽報告等の評価につながり得る | 不明な点は確認のうえ説明する |
| 事実確認を求められた際に推測で回答する | 不正確な説明による評価のリスク | 確認できる資料に基づき説明し、不明な点は後日回答とする |
| 検査対象資料を隠す | 検査妨害(第21条第2項第2号) | 目的・範囲を確認したうえで提示する |
| 関係者へ説明内容を合わせるよう指示する | 事実と異なる説明の準備、企業統治上の重大な問題 | 各自が事実に基づき説明する |
| 通報者情報を社内で広く共有する | 範囲外共有 | 共有範囲を必要最小限にする |
| 外部委託先へ責任を転嫁する | 自社が義務主体であることの看過 | 委託先と連携しつつ自社の義務履行を確認する |
| 検査職員の身分や根拠を確認せず資料を渡す | 不必要な情報開示のリスク | 身分証明書と検査根拠を確認する |
| 法的根拠がないとして一切協力を拒む | 検査拒否(第21条第2項第2号) | 根拠を確認したうえで適法に協力する |
| 個人情報を理由にすべて提出拒否する | 検査拒否につながり得る | マスキング等の提出方法を協議する |
| 提出資料の控えを残さない | 後日の説明が困難になる | 写し・提出記録を保存する |
| 検査対応記録を作らない | 同上 | 提出要請・説明内容・提出物を記録する |
| 検査後の改善指示を放置する | 再度の行政対応・命令のリスク | 改善計画を立て実行する |
これらのうち、記録の削除や虚偽の説明、口裏合わせの指示は、それ自体が事実認定を歪め、企業統治上も重大な問題を生じさせる行為であり、行ってはなりません。証拠隠滅や別の犯罪が当然に成立すると断定はしませんが、少なくとも、行政対応・民事・社内統治のいずれの観点からも避けるべき対応です。
施行日前に企業が整備すべきこと
次の取り組みは、法律上の義務と、実務上の推奨策の両方を含みます。
よくある誤解
内部通報窓口があれば従事者指定済みである
窓口の設置と従事者指定は別の要素です。窓口担当者が特定事項を伝達される場合、明確な方法で指定する必要があります
担当部署を規程に書けば必ず指定義務を履行できる
本人が自らの指定を認識できる方法をあわせて講じる必要があります
窓口担当者だけ指定すればよい
調査・是正の重要部分に関与し、特定事項を伝達される者は、部署を問わず指定の対象になり得ます
調査担当者は指定しなくてよい
特定事項を伝達される調査担当者は指定が必要です
役員は従事者にならない
特定事項を含む報告を受け対応に関与する役員は、原則として指定が必要と考えられます
外部弁護士へ委託すれば自社の義務はなくなる
義務主体は自社のままです。特定事項を伝達される外部弁護士は従事者として指定する必要があります
親会社が指定すれば子会社でも自動的に有効である
子会社も義務主体であり、子会社側での指定関係を個別に確認する必要があります
300人以下の企業には公益通報者保護法が適用されない
不利益取扱い禁止、通報妨害禁止、通報者探索禁止等は企業規模を問わず適用されます
300人以下にも同じ命令・立入検査がある
命令・立入検査は300人超の事業者の従事者指定義務違反を対象とするものです
消費者庁は内部通報制度の不備すべてに命令できる
命令の対象は従事者指定義務に限られます
周知不足だけで直ちに命令違反の刑事罰になる
周知は第11条第2項の問題であり、命令の直接対象ではありません
立入検査は刑事捜索と同じである
立入検査は行政調査であり、犯罪捜査ではありません
立入検査には令状が必要である
行政調査である立入検査に、刑事捜索と同様の令状は必要とされていません
個人情報があれば資料提出をすべて拒否できる
個人情報を理由に一切協力しないことは適切ではなく、提出方法の協議が基本です
検査職員から求められた資料は何でも無制限に渡すべきである
目的・法的根拠・対象範囲を確認しながら適法に協力することが基本です
検査に協力しなければすぐ拘禁刑になる
検査拒否等の個人への法定刑は30万円以下の罰金であり、拘禁刑は設けられていません
命令違反では法人に3,000万円の罰金が科される
命令違反等の法人罰金の上限は30万円以下です。3,000万円以下は解雇・懲戒の場合です
過料と罰金は同じである
過料は行政上の秩序罰であり、刑事罰である罰金とは異なります
指定漏れがあれば書類の日付を遡らせればよい
遡及作成は事実と異なる記録を作ることになり、行うべきではありません
立入検査前に不都合な記録を削除してよい
記録の削除は重大な問題を生じさせる行為であり、行うべきではありません
従事者守秘義務違反の根拠条文は第22条である
守秘義務そのものの根拠は第12条です。違反時の罰則が第22条に定められています
第12条が第22条へ移動した
移動したのは罰則規定(旧第21条が新第22条へ)であり、守秘義務そのものを定める第12条は移動していません
実務チェックリスト
実務上の留意点
このチェックリストは確認事項の一覧であり、これだけで義務履行が確定するものではありません。個別の状況については、法務部門や弁護士による具体的な検討をお勧めします。
シリーズ全11話の案内
まとめ
改正法は、従事者指定義務の履行確保を強化するものです。常時使用する労働者が300人を超える事業者について、消費者庁の命令権・立入検査権が新設されますが、その対象は従事者指定義務(第11条第1項)に限られ、体制整備義務全般(第11条第2項)へ無制限に及ぶものではありません。命令違反、報告拒否、虚偽報告、検査拒否等には30万円以下の罰金が設けられ、法人にも両罰規定がありますが、この上限は解雇・懲戒の場合の3,000万円とは異なります。第16条第2項に相当する一般的な報告徴収の懈怠は、20万円以下の過料であり、刑事罰ではありません。守秘義務の根拠は第12条、違反時の罰則は第22条であり、両者を混同しないでください。
従事者指定の事実と本人の認識を説明できる証跡が重要です。外部委託やグループ窓口を利用しても、各事業者の義務は残ります。立入検査には適法に協力しつつ、提出範囲、通報者情報、個人情報を適切に管理し、資料の後付け、遡及作成、削除、改変、虚偽説明は行わないでください。検査対応の責任者、記録者、提出資料の管理方法を、平時から決めておくことをお勧めします。
次の記事では、法律上明示された内部通報制度の周知義務について、「窓口はあるが知られていない」という課題への対応を解説します。
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