株式質権を設定したら議決権・配当はどうなるか|株主と質権者の関係
次の案件で使える形に。
「株式に質権を設定したら、銀行や質権者が株主総会で議決権を行使するのでしょうか」——よくある疑問です。
結論から言うと、株式質権を設定しても株式が譲渡されたわけではなく、質権者が当然に株主になるわけではありません。議決権は基本的に株主のものです。ただし、配当などについては、会社法上、株式質権の効力が及ぶ場面があります。
この第12話では、株式質権設定後の議決権・配当・株主総会対応の基本を、株主名簿管理の視点から整理します。登録株式質権者の基礎は第11話「借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か」をご覧ください。
1. 株式質権を設定しても、株主は直ちには変わらない
株式質権は担保権であり、株式譲渡とは異なります。質権を設定した株主(質権設定者)は、原則として株主名簿上の株主のままです。登録株式質権者は、株主名簿に記載された質権者であって、株主そのものではありません。
| 項目 | 株主 | 登録株式質権者 | 管理上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 地位 | 株式の所有者 | 株式を担保に取っている者 | 株主欄を質権者に置き換えない |
| 議決権 | 原則として行使する | 原則として行使できない | 質権者を議決権者扱いしない |
| 招集通知 | 送付対象 | 株主総会の招集通知の対象ではない | 通知先を取り違えない |
| 配当 | 本来の受領者 | 質権の効力が及ぶ場合がある(後述) | 契約・会社法を確認 |
2. 議決権は誰が行使するのか
会社法308条のとおり、株主総会で議決権を行使するのは株主です。株式質権を設定しただけでは、質権者が当然に議決権を行使できるわけではありません。むしろ、株主名簿に質権者の氏名等が記載されても、それによって質権者が株主になるわけではないため、質権者は株主総会で議決権を行使する立場にはない、というのが基本的な整理です。
もっとも、実務では、質権設定契約に議決権行使に関する定めがあったり、株主から質権者へ委任状が出されたりすることがあります。会社側としては、議決権行使者を判断する際、株主名簿・委任状・質権設定契約の内容を確認する必要があります。なお、契約上の議決権行使の制限や委任の有効性は個別判断が必要なため、断定せず慎重に確認してください。
| 項目 | 原則的な考え方 | 確認すべき資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 議決権 | 株主が行使(質権者は当然には行使できない) | 株主名簿、委任状、質権設定契約 | 委任の有効性は個別確認 |
| 招集通知 | 株主に送付 | 株主名簿、基準日 | 質権者への通知(150条)と区別 |
| 配当 | 株主が受けるのが基本だが質権の効力が及ぶ場面あり | 会社法151条、契約、株主名簿 | 登録質/略式質で扱いが異なる |
3. 質権者が議決権を行使したいと言ってきた場合
金融機関などの質権者から「議決権を行使したい」と申し出があっても、質権者だからといって当然に議決権を行使できるわけではありません。次の点を確認しましょう。
| 確認事項 | 見る資料 | 注意点 |
|---|---|---|
| 株主名簿上の株主は誰か | 株主名簿 | 議決権は本来株主のもの |
| 株主からの委任状があるか | 委任状 | 委任の範囲・有効性を確認 |
| 質権設定契約に議決権の定めがあるか | 質権設定契約書 | 契約条項の意味を確認 |
| 会社にどう通知・証明されているか | 通知書、契約書 | 会社が確認できる形か |
| 基準日との関係 | 基準日設定資料、株主名簿 | 基準日株主が権利行使者 |
委任状や契約条項の確認をしないまま、質権者を議決権行使者として扱うと、決議の前提を誤るおそれがあります。判断に迷う場合は、専門家に相談してください。
4. 配当は誰に支払うのか
剰余金の配当は、本来株主に対して行われます。ただし、会社法151条により、剰余金の配当など株主が受ける金銭等について、株式質権の効力が及ぶ場面があります。
特に登録株式質権者がいる場合は、配当金の取扱いを確認する必要があります。配当を誰に支払うか(誰に支払えば適切か)は、株主名簿・登録株式質権者の有無・質権設定契約・会社法の規定・社内手続を確認して整理します。
| 確認事項 | 見る資料 | 見落とした場合のリスク |
|---|---|---|
| 株主名簿上の株主 | 株主名簿 | 支払先の誤り |
| 登録株式質権者の有無 | 株主名簿(質権欄) | 質権の効力を見落とす |
| 質権設定契約の配当条項 | 質権設定契約書 | 契約上の取扱いの見落とし |
| 登録質か略式質か | 株主名簿、契約書 | 受領・差押えの扱いの違い |
| 基準日(配当基準日) | 基準日設定資料 | 対象株主・時点の誤り |
登録株式質権者への具体的な通知・配当対応は、第13話「登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務」で詳しく扱います。
5. 会社法151条の株式質入れの効果
会社法151条は、会社が一定の行為をした場合、株式質権の効力が、その株式の株主が受けることのできる金銭等に及ぶと定めています(いわゆる物上代位)。
株式会社が次に掲げる行為をした場合には、株式を目的とする質権は、当該行為によって当該株式の株主が受けることのできる金銭等(金銭その他の財産)について存在する。 ※ 引用は要点のみ。対象となる行為は条文に列挙されています。正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。
対象となる行為には、剰余金の配当や残余財産の分配のほか、取得請求権付株式・取得条項付株式・全部取得条項付種類株式の取得、株式の併合・分割、株式無償割当て、組織再編などが含まれます。要するに、「配当など、株主が受ける金銭等にも質権の効力が及ぶ場面がある」と押さえてください。
さらに、登録株式質権者は、これらの金銭等(金銭に限る)を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができるとされています(会社法154条1項)。詳細な担保権の実行・優先弁済の議論には深入りしませんが、登録株式質権者がいる場合の配当の取扱いには注意が必要です。
| 会社の行為 | 質権への影響 | 株主名簿管理上の注意点 |
|---|---|---|
| 剰余金の配当 | 配当金に質権の効力が及ぶ | 登録質権者の有無・受領の取扱い |
| 残余財産の分配 | 分配額に質権の効力が及ぶ | 清算時の取扱い |
| 株式の併合・分割 | 新たな株式等に効力が及ぶ | 登録質なら名簿記載(152条) |
| 取得請求権付・取得条項付株式等の取得 | 対価(金銭等)に効力が及ぶ | 対価の管理 |
| 組織再編(合併・株式交換等) | 受ける金銭・株式等に効力が及ぶ | 承継後の名簿管理 |
6. 登録株式質権者がいる場合の株主名簿管理
株主名簿には、株主だけでなく登録株式質権者の情報も記載されることがあります。会社側では、次の点を区別して管理する必要があります。
なお、株式分割等で新たな株式が生じた場合、登録株式質権者については、その質権者の氏名等を株主名簿に記載する義務が定められています(会社法152条)。登録後の管理は第13話「登録株式質権者への通知・配当対応」で詳しく整理します。
7. 株主総会の招集通知は誰に送るのか
株主総会の招集通知は、原則として株主に送ります。登録株式質権者は株主ではないため、株主総会の招集通知の対象ではありません。ただし、登録株式質権者に対する会社からの通知・催告については会社法150条が関係するため、別途の論点として確認が必要です。
株主総会の招集通知(株主向け)と、登録株式質権者への通知(会社法150条)は別の話です。混同しないようにしましょう。具体的な通知対応は第13話で扱います。送付先の判断には、基準日・株主名簿・質権登録の有無の確認が必要です。招集通知と基準日の関係は第5話「株主総会の招集通知は誰に送るのか」で整理しています。
8. 議決権数の計算に影響するのか
株式質権が設定されたこと自体で、当然に議決権数が減るわけではありません。議決権数の計算では、株主名簿上の株式数、自己株式、種類株式、議決権制限株式、基準日を確認します。株式質権は、議決権数そのものの増減というより、議決権の帰属・行使方法に関する契約上の制限や委任の問題として現れることがあります。議決権数の数え方は第6話「議決権数はどう確認するか」で整理しています。
9. 質権設定契約で確認すべき条項
株主名簿管理に関係する範囲で、質権設定契約の主な条項を確認します(契約審査の詳細には立ち入りません)。
| 条項 | 株主名簿管理との関係 | 注意点 |
|---|---|---|
| 議決権行使に関する条項 | 誰が議決権を行使するか | 委任の有無・範囲 |
| 配当金の受領・充当条項 | 配当の支払先・充当 | 会社法151条・154条との関係 |
| 期限の利益喪失時の取扱い | 実行時の対応 | 名義・名簿への影響 |
| 株式譲渡・追加担保・解除条項 | 名簿更新のタイミング | 解除時の更新 |
| 会社への通知義務 | 会社が把握できるか | 通知の有無・方法 |
| 株主名簿への登録請求 | 登録質か略式質か | 148条の記載請求 |
| 質権実行時の手続 | 実行後の株主・名簿 | 譲渡制限との関係(第8話) |
10. 質権解除時に何をするか
借入金の返済や担保解除により、株式質権が消滅・解除されることがあります。登録株式質権者として株主名簿に記載されている場合、解除後の名簿更新が必要になります。
質権解除後も質権者情報を残したままにすると、配当・通知対応で混乱します。解除日を記録し、名簿を更新しましょう(第15話のチェックリストにもつながります)。
11. 株式質権設定後によくあるミス
| ミス | 起きやすい場面 | 防止策 |
|---|---|---|
| 質権者を株主として扱ってしまう | 名簿の質権欄の誤解 | 株主と質権者を別管理 |
| 株主欄を質権者名に書き換える | 名義変更との混同 | 株主は変わらないと整理 |
| 質権設定だけで議決権が質権者に移ったと思い込む | 担保と議決権の混同 | 委任状・契約を確認 |
| 配当先を契約確認なしに変更する | 金融機関からの依頼 | 会社法151条・契約を確認 |
| 登録株式質権者への通知対応を忘れる | 通知ルール未整備 | 会社法150条を確認(第13話) |
| 解除後も質権者情報を残す | 解除連絡の見落とし | 解除日を記録し更新 |
| 質権設定契約の議決権・配当条項を確認しない | 契約の一部のみ確認 | 関連条項を確認 |
| 総会前に委任状・行使権限を確認しない | 総会直前の慌ただしさ | 事前に権限を確認 |
12. 株式質権設定後の確認チェックリスト
| 確認項目 | 完了欄 | 注意点 |
|---|---|---|
| 株主名簿上の株主を確認したか | ☐ | 議決権・配当の基本主体 |
| 登録株式質権者の有無を確認したか | ☐ | 名簿の質権欄 |
| 対象株式数を確認したか | ☐ | 名簿と一致するか |
| 議決権行使に関する契約条項を確認したか | ☐ | 委任の有無・範囲 |
| 委任状の有無を確認したか | ☐ | 有効性は個別確認 |
| 配当金の取扱いを確認したか | ☐ | 会社法151条・契約 |
| 登録株式質権者への通知対応を確認したか | ☐ | 会社法150条(第13話) |
| 株主総会招集通知の送付先を確認したか | ☐ | 株主へ送付 |
| 解除時の更新方法を決めたか | ☐ | 解除日の記録 |
結論は、会社の種類、定款や株式取扱規程、株券発行会社か、質権設定契約・金融機関との契約内容によって変わります。個別案件では、定款・株式取扱規程・株主名簿・株式質権設定契約書・担保差入書・金融機関との契約・委任状・配当資料・株主総会資料を確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。なお、上場会社の振替株式(証券保管振替制度)には立ち入りません。本シリーズは主に非上場会社・子会社・中小企業の実務を想定し、相続対応は扱いません。
まとめ
次回(第13話)は、登録株式質権者への通知・配当対応を、株主名簿管理の視点から整理します。
このシリーズで扱うテーマ(全15話)
| 話数 | 記事タイトル | 主なテーマ |
|---|---|---|
| 第1話 | 株主名簿とは何か|登記簿を見ても株主が分からない理由 | 株主名簿の基礎・登記簿との違い |
| 第2話 | 株主名簿の記載事項とは|氏名・住所・株式数・取得日をどう管理するか | 記載事項の管理実務 |
| 第3話 | 株主名簿が古い会社はどう整備するか|過去の譲渡・増資・自己株式を確認する手順 | 名簿の再整備 |
| 第4話 | 株主名簿と役員選任|誰の議決権で取締役・監査役を選ぶのか | 役員選任と議決権 |
| 第5話 | 株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係 | 招集通知と基準日 |
| 第6話 | 議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方 | 議決権数の確認 |
| 第7話 | 株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか | 名義書換と対抗要件 |
| 第8話 | 譲渡制限株式と株主名簿|承認決議と名義書換の順番を整理 | 譲渡制限株式 |
| 第9話 | 株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務 | 書換請求への対応 |
| 第10話 | 株主名簿記載事項証明書とは|株主から証明書を求められた場合の対応 | 記載事項証明書 |
| 第11話 | 借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か | 株式質権の基礎 |
| 第12話 | 株式質権を設定したら議決権・配当はどうなるか|株主と質権者の関係(本記事) | 質権と議決権・配当 |
| 第13話 | 登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務 | 質権者への通知・配当 |
| 第14話 | 株主名簿の閲覧請求を受けたらどうするか|拒否できる場合と社内対応 | 閲覧・謄写請求 |
| 第15話 | 株主名簿管理チェックリスト|役員・法務・総務が毎年確認すべきこと | 年次チェックリスト |
◀ 前回(第11話):登録株式質権者とは何かを確認したい方は、第11話「借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か」もあわせてご確認ください。
▶ 次回(第13話):次回は、登録株式質権者への通知・配当対応を、株主名簿管理の視点から整理します。
第13話:登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務
株主総会・役員変更・取締役会議事録などの会社法実務については、Legal GPT のコーポレート法務関連記事もあわせてご確認ください。
参考情報・参照先
本記事は、以下の一次情報(公的機関の法令データベース)を確認したうえで作成しています。条文の正確な内容・最新の改正状況は、必ず以下のリンクからご確認ください。
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応にあたっては、定款・株式取扱規程・株主名簿・株式質権設定契約書・担保差入書・金融機関との契約・委任状・配当資料・株主総会資料などを確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
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