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取締役を選任する株主総会を開くとき、役員候補者のリストや議事録案だけを確認して進めていないでしょうか。

取締役・監査役などの役員選任は株主総会の決議で行います。だからこそ、「誰が議決権を行使できる株主なのか」「その株主は何個の議決権を持つのか」を確認しておく必要があります。その前提資料が株主名簿です。株主名簿が古いままだと、定足数・賛成数の計算や議事録の記載に影響し、役員選任決議の有効性に疑義が生じるおそれもあります。

この第4話では、株主名簿を管理する人が、役員選任の前に何を確認すべきかを中心に整理します。古い名簿の整備手順は第3話「株主名簿が古い会社はどう整備するか」、株主名簿の基本は第1話「株主名簿とは何か」をご覧ください。

実務メモ
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1. 役員選任は誰が決めるのか

会社法では、役員(取締役・監査役・会計参与)および会計監査人は、株主総会の決議によって選任すると定められています。

会社法第329条第1項(役員及び会計監査人の選任)
役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。 ※ 引用は要点のみ。正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。

つまり、取締役や監査役を選ぶのは株主総会であり、その決議には株主の議決権が使われます。だからこそ、誰が株主で、何個の議決権を持つのかを、株主名簿で確認する必要があるのです。

「役員選任」と「代表取締役の選定」は別の話です

株主総会で選ぶのは取締役・監査役などの役員です。一方、代表取締役を誰にするか(選定)は、取締役会設置会社では取締役会で、取締役会非設置会社では定款・株主総会・取締役の互選などで決めるのが一般的で、選び方が異なります。本記事の中心は役員選任に置きます。また、役員の任期管理とも別の論点です。本記事は任期そのものではなく、選任決議の前提となる株主名簿に絞ります。

2. 役員選任は、株主名簿の確認から始まる

役員選任は、次の流れで考えると整理しやすくなります。出発点は株主名簿の確認です。

1. 株主名簿を確認 誰が株主か、何株持っているかを確認
2. 議決権数を確認 自己株式・種類株式・議決権制限を確認
3. 株主総会で選任 定足数・賛成数を確認して決議
4. 議事録・登記へ 選任結果と前提資料を整合させる

3. なぜ株主名簿が役員選任で重要になるのか

役員選任の場面で株主名簿が必要になる理由を整理します。

表1:役員選任で株主名簿が必要になる理由
確認場面株主名簿で見ること見落とした場合のリスク
議決権を行使できる株主の確認誰が株主か(氏名・名称)無権利者に議決権を行使させる/真の株主を除外する
招集通知の送付先株主の住所本来通知すべき株主に届かない
定足数・賛成数の計算各株主の株式数・議決権数定足数不足や賛成割合の誤算
議事録の記載出席株主数・出席議決権数・総議決権数議事録の数値が実態と食い違う
登記申請・専門家への依頼前提となる株主・議決権の状況登記の前提資料に不整合が生じる
株主名簿と「株主リスト」は別物

役員変更登記などの際に法務局へ提出する「株主リスト」は、申請ごとに作成する証明書類で、会社法121条の「株主名簿」とは別物です(第1話参照)。株主リストを作る前提としても、まず株主名簿が正確であることが必要です。

4. 役員選任前に確認すべき株主名簿のポイント

役員選任の前に、株主名簿について最低限確認しておきたい項目を整理します。

表2:役員選任前に確認すべき株主名簿項目
確認項目見る資料注意点
最新版か・最終更新日株主名簿、更新履歴古い版を使っていないか
株主の氏名・名称、住所株主名簿、住所変更届、法人登記表記ゆれ・住所変更の反映漏れ
株式数株主名簿、登記(発行済株式総数)合計が発行済株式総数と一致するか
議決権数株主名簿、定款、発行済株式総数株式数=議決権数とは限らない
自己株式の有無株主名簿、取得・処分資料自己株式は議決権を持たない
種類株式・議決権制限株式の有無定款、株主名簿、登記種類ごとに議決権の有無・内容が異なる
株式譲渡後の名義書換漏れ譲渡契約書、承認議事録、書換請求書契約があっても名簿未更新のことがある
株式質権者の有無株主名簿の質権欄、質権設定契約議決権は原則として株主が行使

5. 基準日と役員選任の関係

定時株主総会では、「いつ時点の株主を、権利を行使できる株主として扱うか」を決めるために基準日を設けるのが一般的です。会社法124条が基準日の仕組みを定めています。

会社法第124条第1項(基準日)
株式会社は、一定の日(基準日)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(基準日株主)をその権利を行使することができる者と定めることができる。 ※ 正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。

つまり、基準日を定めると、その基準日時点の株主名簿に記載された株主が、株主総会で議決権を行使できる株主として扱われます。役員選任議案も、この基準日株主の議決権で決まります。

基準日後に株式譲渡があっても、原則として基準日株主が権利行使者になります。ここでは深入りしませんが、「総会の議決権は、基準日時点の株主名簿で決まる」という点を押さえてください。招集通知の送付先と基準日の関係は、第5話「株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係」で詳しく整理します。

表3:役員選任と基準日・名義書換の関係
場面誰を株主として扱うか実務上の注意点
基準日を定めた定時総会基準日時点の株主名簿上の株主基準日設定と議決権行使期間を確認
基準日後に株式譲渡があった原則として基準日株主名簿の確定時点を取り違えない
名義書換が未了の譲渡原則として株主名簿上の株主会社は名簿上の株主を株主として扱える(会社法130条)

6. 名義書換漏れがある場合の役員選任リスク

役員選任の前に特に注意したいのが、過去の株式譲渡が名義書換まで済んでいるかです。株式譲渡契約があるだけでは、会社に対して当然に新株主として扱われるとは限りません。

会社法第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。 ※ 正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。

株式を取得した人は、会社に対して名義書換を請求できます(会社法133条)。逆に言えば、名義書換が済んでいない間は、原則として会社は株主名簿上の株主を株主として扱うことになります。役員選任の前には、誰に招集通知を送り、誰の議決権で決議するのかを取り違えないよう、過去の譲渡と名義書換の有無を確認しておきましょう。

名義書換の詳細は第7話「株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか」、譲渡制限株式は第8話「譲渡制限株式と株主名簿」、書換請求への対応は第9話「株主名簿書換請求を受けたらどうするか」で扱います。

7. 議決権数をどう確認するか

役員選任では、株主名を確認するだけでは足りません。議決権数の確認が必要です。原則は「1株1議決権」(単元株制度がある場合は1単元1議決権)ですが、次の要素があると株式数と議決権数が一致しないことがあります。

自己株式(議決権を持たない)
議決権制限株式(議決権の全部または一部がない種類株式)
単元株式(1単元に満たない株式は議決権なし)
種類株式(種類ごとに権利内容が異なる)

議決権数の数え方の詳細は第6話「議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方」で整理します。ここでは、役員選任の決議要件を押さえます。

会社法第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)
第309条第1項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。 ※ 正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。

役員選任は普通決議(会社法309条1項)で行いますが、341条によって特別なルールが上乗せされています。ポイントは2つです。

定足数:議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主の出席が原則。定款で下げられますが、3分の1未満には下げられません(通常の普通決議では定足数を完全に排除できるのと異なり、役員選任・解任は「特則普通決議」と呼ばれます)。
賛成数:出席株主の議決権の過半数。定款でこれを上回る割合に加重することもできます。
必ず定款を確認

定足数や決議要件は定款で調整されている場合があります。役員選任議案を準備するときは、自社の定款の定めを必ず確認してください。なお、選任ではなく解任、特に監査役の解任などは決議要件が異なる場合があります(本記事では選任を中心とし、解任の詳細には立ち入りません)。

8. 自己株式がある場合の注意点

会社が自己株式を保有している場合、その自己株式には議決権がありません。役員選任前のチェックとして、自己株式を議決権数に含めていないかを必ず確認してください。

よくある誤り

自己株式を議決権数に含めてしまうと、定足数や賛成割合の計算を誤るおそれがあります。発行済株式総数には自己株式が含まれますが、議決権数を考えるときは自己株式を除く、という整理を忘れないようにしましょう。詳細は第6話で扱います。

9. 種類株式・議決権制限株式がある場合の注意点

種類株式発行会社では、普通株式だけでなく、種類ごとの権利内容を確認する必要があります。特に議決権制限株式(議決権の全部または一部がない株式)がある場合、役員選任議案でその株式が議決権を行使できるかを確認しなければなりません。

押さえておきたい原則

株主名簿上の株式数が、そのまま議決権数になるとは限りません。自己株式・議決権制限株式・単元株式などがある場合は、株式数と議決権数を分けて考える必要があります。定款・株主名簿・発行済株式総数・種類株式の内容をあわせて確認してください。

表4:議決権数確認で注意する項目
項目役員選任への影響確認資料
自己株式議決権なし。定足数・賛成数の母数から除く株主名簿、取得・処分資料、登記
議決権制限株式議決権の全部/一部がない場合がある定款、株主名簿、登記
単元株式1単元未満は議決権なし定款(単元株式数)、株主名簿
種類株式種類ごとに議決権の有無・内容が異なる定款、株主名簿、登記
名義書換未了株式原則、名簿上の株主が議決権を行使譲渡契約書、書換請求書、受付記録

10. 役員選任議事録を作る前に確認すべきこと

役員選任の議事録には、定足数や賛成数の前提となる数値を記載します。議事録を作る前に、次の事項が株主名簿・定款と整合しているか確認しましょう(登記手続の詳細には立ち入りません)。

表5:役員選任議事録を作る前に確認する事項
確認事項確認する資料管理担当者の注意点
招集通知の送付先株主名簿(住所)、基準日基準日株主に漏れなく送付したか
議決権を行使できる株主の総議決権数株主名簿、定款、発行済株式総数自己株式・議決権制限を除く
出席株主数・出席議決権数出席状況、委任状・議決権行使書代理出席・書面行使の取扱い
定足数定款、会社法341条3分の1未満には下げられない
賛成議決権数・決議要件定款、会社法341条加重の有無を確認
選任された役員の氏名議案、決議結果候補者と議案の一致
就任承諾書の有無就任承諾書登記の前提資料になる

11. 役員選任前にやってはいけないこと

最後に、役員選任前に避けたい対応を整理します。

表6:役員選任前にやってはいけないこと
NG対応なぜ危ないか正しい確認方法
古い株主名簿をそのまま使う株主・議決権数が実態と食い違う事前に整備し、根拠資料と突合(第3話)
譲渡契約書だけを見て株主を入れ替える名義書換の有無を確認していない承認・書換請求・受付記録を確認
自己株式を議決権数に含める定足数・賛成割合を誤る自己株式を母数から除く
住所変更を反映せず招集通知を送る通知が届かない住所変更届・法人登記で更新
定款を確認せず決議要件を判断定足数・加重要件を見落とす現行定款で決議要件を確認
種類株式・議決権制限を確認しない議決権数を誤る定款・登記で種類と内容を確認
修正履歴を残さず名簿を書き換える後から検証できない修正日・修正者・根拠資料を記録

12. 役員選任前チェックリスト

表7:役員選任前チェックリスト
確認項目完了欄注意点
株主名簿は最新版か最終更新日・管理者を確認
基準日は確認したか基準日株主が議決権者
招集通知の送付先は確認したか住所の最新性
株主別株式数は最新か発行済株式総数と突合
議決権数は確認したか株式数=議決権数とは限らない
自己株式は除外しているか議決権なし
種類株式・議決権制限株式はないか定款・登記で確認
株式譲渡・名義書換漏れはないか契約と名義書換は別
定款の決議要件を確認したか341条+定款の加重
役員候補者の就任承諾書を確認したか登記の前提資料
議事録の記載事項と整合しているか数値の整合性
個別案件では一次資料の確認を

結論は、会社の種類、定款や株式取扱規程、株券発行会社かどうか、種類株式・議決権制限株式の有無などで変わります。個別案件では、定款・株式取扱規程・過去の議事録・株主総会資料・株主名簿・登記情報を確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。なお本シリーズは主に非上場会社・子会社・中小企業の実務を想定し、相続対応は扱いません。

まとめ

役員(取締役・監査役など)の選任は株主総会の決議で行います(会社法329条)。
そのため、誰が議決権を行使できる株主で、何個の議決権を持つのかを確認する必要があります。株主名簿はその前提資料です。
役員選任は普通決議ですが、341条により定足数を3分の1未満に下げられない「特則普通決議」です。定款の確認も欠かせません。
古い名簿・名義書換漏れ・自己株式・種類株式・基準日を見落とすと、役員選任決議に影響するおそれがあります。
議案を作る前に、株主名簿・定款・過去の譲渡資料・議決権数を確認することが重要です。

次回(第5話)は、株主総会の招集通知を誰に送るのか、株主名簿と基準日の関係を整理します。

このシリーズで扱うテーマ(全15話)

表8:株主名簿管理で忘れがちな会社法実務15選
話数記事タイトル主なテーマ
第1話株主名簿とは何か|登記簿を見ても株主が分からない理由株主名簿の基礎・登記簿との違い
第2話株主名簿の記載事項とは|氏名・住所・株式数・取得日をどう管理するか記載事項の管理実務
第3話株主名簿が古い会社はどう整備するか|過去の譲渡・増資・自己株式を確認する手順名簿の再整備
第4話株主名簿と役員選任|誰の議決権で取締役・監査役を選ぶのか(本記事)役員選任と議決権
第5話株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係招集通知と基準日
第6話議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方議決権数の確認
第7話株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか名義書換と対抗要件
第8話譲渡制限株式と株主名簿|承認決議と名義書換の順番を整理譲渡制限株式
第9話株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務書換請求への対応
第10話株主名簿記載事項証明書とは|株主から証明書を求められた場合の対応記載事項証明書
第11話借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か株式質権の基礎
第12話株式質権を設定したら議決権・配当はどうなるか|株主と質権者の関係質権と議決権・配当
第13話登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務質権者への通知・配当
第14話株主名簿の閲覧請求を受けたらどうするか|拒否できる場合と社内対応閲覧・謄写請求
第15話株主名簿管理チェックリスト|役員・法務・総務が毎年確認すべきこと年次チェックリスト

◀ 前回(第3話):役員選任の前に、まず古い株主名簿が正しいか確認したい方は、第3話「株主名簿が古い会社はどう整備するか」もあわせてご確認ください。

▶ 次回(第5話):次回は、株主総会の招集通知を誰に送るのか、株主名簿と基準日の関係を整理します。
第5話:株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係

株主総会・役員変更・取締役会議事録などの会社法実務については、Legal GPT のコーポレート法務関連記事もあわせてご確認ください。

参考情報・参照先

本記事は、以下の一次情報(公的機関の法令データベース)を確認したうえで作成しています。条文の正確な内容・最新の改正状況は、必ず以下のリンクからご確認ください。

e-Gov 法令検索「会社法」(参照条文:第121条 株主名簿/第124条 基準日/第125条 株主名簿の備置き及び閲覧等/第130条 株式の譲渡の対抗要件/第133条 株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録/第308条 議決権の数/第309条 株主総会の決議/第329条 役員及び会計監査人の選任/第341条 役員の選任及び解任の株主総会の決議)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
e-Gov 法令検索「会社法施行規則」(株主総会議事録・株主名簿記載事項・議決権行使等に関する規定)
https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応にあたっては、定款・株式取扱規程・過去の議事録・株主総会資料・株主名簿・登記情報などを確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。

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