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「株式譲渡契約書を作ったので、もう株主は変わっていますよね?」——実務では、こうした誤解がよく見られます。

結論から言うと、株式譲渡契約を締結しただけでは、株主名簿は自動的に書き換わりません。株式譲渡契約(譲渡人と譲受人の合意)と、株主名簿の名義書換は、別の問題です。名義書換をしないままだと、会社が誰を株主として扱うか、誰が議決権を行使できるか、誰に招集通知や配当を行うか、といった場面で問題が残ります。

この第7話では、株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるかを、株主名簿管理の視点から整理します。議決権数の確認は第6話「議決権数はどう確認するか」をご覧ください。

実務メモ
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1. 株式譲渡と株主名簿の関係

株式譲渡とは、株主が保有する株式を他人に譲り渡すことです。株式譲渡契約により、譲渡人と譲受人の間では株式の移転が問題になります。しかし、会社に対して「自分が新しい株主です」と扱ってもらうためには、株主名簿の名義書換が重要になります。

つまり、「譲渡人・譲受人の間の契約関係」と「会社に対する株主としての扱い」は、分けて考える必要があります。

表1:株式譲渡契約と株主名簿の違い
項目意味実務上の注意点
株式譲渡契約譲渡人と譲受人の間で株式譲渡を合意する契約当事者間の合意であり、これだけで名簿は変わらない
株主名簿の名義書換株主名簿の記載・記録を新株主に書き換えること会社に対して株主として扱われる前提(会社法130条)
株券の交付(株券発行会社)株券発行会社で株式譲渡の効力を生じさせる行為株券交付が効力発生要件(会社法128条1項)

2. 会社法130条の対抗要件とは何か

株式譲渡後の名義書換が重要になる根拠が、会社法130条の「対抗要件」です。

会社法第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。 ※ 正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。

「対抗することができない」とは、かみくだくと「相手に対して、自分の権利を主張できない」という意味です。つまり、譲受人が会社に対して「私を株主として扱ってください」と言うためには、株主名簿の名義書換が重要になる、ということです。名義書換が済んでいない間は、原則として会社は株主名簿上の株主を株主として扱えばよい、と整理されます。

株券発行会社では扱いが異なる

株券発行会社では、会社法130条2項により、対抗要件の規定の適用上「株式会社その他の第三者」が「株式会社」に読み替えられます。つまり、会社に対する対抗要件は名義書換ですが、第三者に対する関係は株券の占有が問題になります。株券発行会社かどうかで結論が変わるため、別途確認が必要です(後述)。

3. 名義書換をしないと何が困るのか

名義書換が未了のままだと、会社運営のさまざまな場面で問題が生じ得ます。

表2:名義書換をしない場合に起きる問題
場面起きる問題管理担当者が確認すべきこと
株主の特定会社が旧株主を株主として扱う可能性名簿・譲渡契約・名義書換請求の有無
招集通知旧株主に通知が送られる可能性名義書換の有無と基準日
議決権行使誰が議決権を行使できるか不明確基準日時点の名簿、議決権数
配当配当の支払先を誤る可能性配当基準日時点の名簿
株主名簿記載事項証明書証明書の交付先が問題になる名簿上の株主が誰か
議事録・登記書類前提となる株主・議決権数に影響名簿と議事録の整合

4. 会社は誰を株主として扱えばよいのか

会社は、原則として株主名簿に記載・記録された者を株主として扱うことになります。ただし、これは「株主名簿だけ見れば常に絶対に安全」という意味ではありません。会社が株式譲渡の事実を知っている場合や、関係者間で株主の地位について争いがある場合など、個別事情によっては慎重な対応が必要になります。

法務・総務担当者としては、株主名簿・株式譲渡契約書・譲渡承認資料・名義書換請求書・基準日をセットで確認し、判断の根拠を整理しておくことが大切です。

5. 議決権行使への影響

名義書換が未了の場合、株主総会で誰が議決権を行使できるかが問題になります。基準日を定めている場合は、基準日時点の株主名簿が重要になります。役員選任や定款変更など、決議要件が重要な議案では特に注意が必要です。

招集通知の送付先と基準日の関係は第5話「株主総会の招集通知は誰に送るのか」、議決権数の数え方は第6話「議決権数はどう確認するか」で整理しています。

6. 招集通知への影響

株主名簿が更新されていないと、旧株主に招集通知が送られてしまう可能性があります。逆に、譲受人から「自分が株主なのに通知が来ない」と言われることも考えられます。

基準日後の株式譲渡の場合は、基準日株主との関係を確認する必要があります。招集通知の送付先を判断する前に、名義書換の有無と基準日を確認することが重要です。なお、基準日後の譲渡について「常に旧株主だけ」「常に新株主だけ」と単純に決めつけないようにしましょう。

7. 配当への影響

株主名簿が更新されていないと、配当の支払先を誤る可能性があります。配当基準日がある場合は、基準日時点の株主名簿が問題になります。実務では、配当通知先・振込先・株主名簿上の株主・譲渡契約上の取り決めを確認する必要があります。配当実務の詳細には立ち入りませんが、名義書換漏れは配当対応にも影響することを押さえてください。

表3:議決権・招集通知・配当への影響
実務場面名義書換未了の影響関連記事
議決権行使誰が議決権を行使できるか不明確になる第6話
招集通知旧株主に送付/新株主に届かない第5話
配当支払先を誤るおそれ第12話・第13話
記載事項証明書交付先の判断が難しくなる第10話

8. 譲渡制限株式では、名義書換の前に承認手続を確認する

非上場会社では、株式に譲渡制限が付いていることが多くあります。譲渡制限株式の場合、名義書換の前に株式譲渡の承認手続を確認する必要があります。

実は会社法上も、譲渡制限株式を取得した者は、原則として、会社の承認などがない限り、単独で名義書換(株主名簿記載事項の記載・記録)を請求できないとされています(会社法134条)。おおまかな順番は、承認決議 → 承認通知 → 名義書換請求 → 株主名簿更新です。

表4:譲渡制限株式の場合に確認すること
確認事項見る資料注意点
譲渡制限の有無定款、登記事項証明書まず自社株式に譲渡制限があるか確認
譲渡承認の有無譲渡承認請求書、承認決議の議事録承認機関(株主総会/取締役会)を確認
承認通知会社からの承認通知承認の有無・日付を記録
名義書換請求名義書換請求書承認を前提に請求されているか

譲渡制限株式の承認決議と名義書換の順番の詳細は、第8話「譲渡制限株式と株主名簿|承認決議と名義書換の順番を整理」で扱います。本記事では概要にとどめます。

9. 名義書換請求は誰が行うのか

会社法133条は、株式を取得した者が、会社に対して株主名簿記載事項の記載・記録(名義書換)を請求できると定めています。重要なのは、会社が勝手に株主名簿を書き換えるのではなく、請求・根拠資料・社内確認を経て更新するという流れです。

名義書換は、原則として譲渡人と譲受人が共同で請求します(一定の場合は単独請求が認められます)。
実務では、添付書類、本人確認、譲渡承認資料の確認が問題になります。
株券発行会社では、株券を呈示して請求するなど、添付・呈示書類が異なります。

具体的な受付手順・添付書類は、第9話「株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務」で詳しく整理します。

10. 株券発行会社の場合の注意点

株券発行会社では、株式譲渡の効力や対抗要件について、株券の交付が問題になります。

会社法第128条第1項(株券発行会社の株式の譲渡)
株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。 ※ 正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。

つまり、株券発行会社では、株券の交付が株式譲渡の効力発生要件です。また、株券の占有者は適法な所持人と推定されます(会社法131条)。株券不発行会社とは論点が異なるため、混同しないようにしましょう。

表5:株券発行会社と株券不発行会社の違い
項目株券不発行会社株券発行会社注意点
譲渡の効力当事者の意思表示で譲渡できる(127条)株券の交付が効力発生要件(128条1項)自社の定款を確認
会社に対する対抗要件株主名簿の名義書換(130条1項)株主名簿の名義書換(130条2項の読み替え)いずれも会社へは名義書換
第三者に対する対抗要件株主名簿の名義書換(130条1項)株券の占有(131条の権利推定)株券発行会社は株券占有が鍵
名義書換請求の方法取得者が請求(共同請求が原則)株券を呈示して請求できる場合がある添付・呈示書類が異なる
まず「株券発行会社かどうか」を確認

自社が株券発行会社かどうかは、定款・登記・過去の株券発行状況で確認します。現在の非上場会社では株券不発行会社が多いものの、古い会社では株券発行会社のままになっている場合があります(定款に株券を発行する旨の定めが残っているケースなど)。詳細に踏み込む前に、まずこの点を確認してください。

11. 株式譲渡後に株主名簿を更新する実務手順

1. 株式譲渡契約 譲渡人・譲受人の間で株式譲渡を合意
2. 譲渡承認の確認 譲渡制限株式では会社の承認手続を確認
3. 名義書換請求 必要書類を確認して会社に請求
4. 株主名簿更新 新株主・株式数・取得日を記載し、履歴を保存
表6:株式譲渡後の株主名簿更新手順
手順確認資料管理上の注意点
① 株式譲渡契約書を確認株式譲渡契約書当事者・株式数・契約日
② 譲渡制限株式か確認定款、登記承認手続の要否を判断
③ 譲渡承認手続の有無を確認承認請求書、承認議事録承認機関・承認日
④ 名義書換請求書を受領名義書換請求書請求者・記載内容を確認
⑤ 添付書類・本人確認・印鑑等を確認本人確認資料、印鑑等株券発行会社は株券の呈示等
⑥ 株券発行会社か確認定款、登記、株券発行状況効力・対抗要件の扱いが異なる
⑦ 株主名簿を更新株主名簿新株主・株式数・取得日を記載
⑧ 更新履歴・根拠資料を保存変更ログ、根拠資料後から検証できる形で保存
⑨ 総会・配当・通知先・議決権数へ反映株主名簿、基準日関係する事務に反映

12. 株式譲渡後の名義書換でよくあるミス

表7:株式譲渡後の名義書換でよくあるミス
ミス起きやすい場面実務上のリスク防止策
株式譲渡契約だけで終わっている契約後の手続漏れ会社に対し株主と主張できない名義書換まで完了させる
譲渡承認手続を確認していない譲渡制限株式の譲渡承認なき譲渡の問題承認の有無を確認(第8話)
名義書換請求書がない口頭・契約のみで処理更新の根拠が残らない請求書を受領・保存
譲渡日・承認日・取得日・名義書換日を混同日付管理の甘さ取得日の記載を誤る場面ごとに根拠資料で特定
基準日後の譲渡を権利行使者に反映基準日の理解不足権利行使者を誤る基準日時点の名簿で確定
旧株主に招集通知・配当を送り続ける名簿の更新漏れ通知・配当先の誤り名義書換後に各事務へ反映
株券発行会社かどうかを確認していない機関設計の未確認効力・対抗要件の扱いを誤る定款・登記で確認
更新履歴を残していないその場限りの処理後から検証できない修正日・修正者・根拠を記録

13. 株主名簿更新前チェックリスト

表8:株主名簿更新前チェックリスト
確認項目完了欄注意点
株式譲渡契約書を確認したか当事者・株式数・契約日
譲渡制限株式かどうか確認したか定款・登記で確認
承認決議・承認通知を確認したか承認機関・承認日
名義書換請求書を受領したか請求者・記載内容
譲渡人・譲受人の本人確認をしたかなりすまし防止
株券発行会社かどうか確認したか株券の呈示・交付の要否
基準日との関係を確認したか権利行使者の確定
議決権数・配当・通知先への影響を確認したか関係事務へ反映
株主名簿の更新履歴を残したか修正日・修正者・理由
根拠資料を保存したか契約・承認・請求書類
個別案件では一次資料の確認を

結論は、会社の種類、定款や株式取扱規程、株券発行会社か、譲渡制限株式か、基準日の有無などで変わります。個別案件では、定款・株式取扱規程・過去の議事録・株主総会資料・株主名簿・株式譲渡契約書・譲渡承認資料・登記情報を確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。なお、株主名簿と登記申請時の「株主リスト」は別物です。本シリーズは主に非上場会社・子会社・中小企業の実務を想定し、相続対応は扱いません。

まとめ

株式譲渡契約を締結しても、株主名簿が自動的に書き換わるわけではありません。
名義書換をしないと、会社に対して新株主として扱われるかが問題になります(会社法130条の対抗要件)。
名義書換漏れは、議決権行使・招集通知・配当・記載事項証明書などに影響します。
譲渡制限株式では、名義書換の前に承認手続を確認する必要があります(会社法134条)。
株券発行会社では、株券の交付(効力発生要件・会社法128条)や会社法130条2項の確認が必要です。

次回(第8話)は、譲渡制限株式と株主名簿、承認決議と名義書換の順番を整理します。

このシリーズで扱うテーマ(全15話)

表9:株主名簿管理で忘れがちな会社法実務15選
話数記事タイトル主なテーマ
第1話株主名簿とは何か|登記簿を見ても株主が分からない理由株主名簿の基礎・登記簿との違い
第2話株主名簿の記載事項とは|氏名・住所・株式数・取得日をどう管理するか記載事項の管理実務
第3話株主名簿が古い会社はどう整備するか|過去の譲渡・増資・自己株式を確認する手順名簿の再整備
第4話株主名簿と役員選任|誰の議決権で取締役・監査役を選ぶのか役員選任と議決権
第5話株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係招集通知と基準日
第6話議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方議決権数の確認
第7話株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか(本記事)名義書換と対抗要件
第8話譲渡制限株式と株主名簿|承認決議と名義書換の順番を整理譲渡制限株式
第9話株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務書換請求への対応
第10話株主名簿記載事項証明書とは|株主から証明書を求められた場合の対応記載事項証明書
第11話借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か株式質権の基礎
第12話株式質権を設定したら議決権・配当はどうなるか|株主と質権者の関係質権と議決権・配当
第13話登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務質権者への通知・配当
第14話株主名簿の閲覧請求を受けたらどうするか|拒否できる場合と社内対応閲覧・謄写請求
第15話株主名簿管理チェックリスト|役員・法務・総務が毎年確認すべきこと年次チェックリスト

◀ 前回(第6話):株式譲渡後の議決権数への影響を確認したい方は、第6話「議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方」もあわせてご確認ください。

▶ 次回(第8話):次回は、譲渡制限株式と株主名簿、承認決議と名義書換の順番を整理します。
第8話:譲渡制限株式と株主名簿|承認決議と名義書換の順番を整理

株主総会・役員変更・取締役会議事録などの会社法実務については、Legal GPT のコーポレート法務関連記事もあわせてご確認ください。

参考情報・参照先

本記事は、以下の一次情報(公的機関の法令データベース)を確認したうえで作成しています。条文の正確な内容・最新の改正状況は、必ず以下のリンクからご確認ください。

e-Gov 法令検索「会社法」(参照条文:第121条 株主名簿/第122条 株主名簿記載事項を記載した書面の交付等/第124条 基準日/第125条 株主名簿の備置き及び閲覧等/第126条 株主に対する通知等/第127条 株式の譲渡/第128条 株券発行会社の株式の譲渡/第130条 株式の譲渡の対抗要件/第131条 権利の推定等/第132条 株主の請求によらない株主名簿記載事項の記載又は記録/第133条 株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録/第134条 株主名簿記載事項の記載又は記録の請求/第136条以下 譲渡制限株式の譲渡等/第308条 議決権の数/第309条 株主総会の決議)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
e-Gov 法令検索「会社法施行規則」(参照規定:第22条 株主名簿記載事項の記載等の請求 ほか、名義書換請求・株主総会・議決権行使等に関する規定)
https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応にあたっては、定款・株式取扱規程・過去の議事録・株主総会資料・株主名簿・株式譲渡契約書・譲渡承認資料・登記情報などを確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。

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